生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 377-383 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890377

特集Special Review

胎生期の血管リンパ管分離と成体の血管統合性維持を担う血小板活性化受容体,CLEC-2Platelets regulate blood/lymphatic vessel separation during development and vascular integrity in adults through the platelet activation receptor CLEC-2

山梨大学大学院総合研究部医学域臨床検査医学Department of Clinical and Laboratory Medicine, Faculty of Medicine, University of Yamanashi ◇ 山梨県中央市下河東1110 ◇ 1110 Shimokato, Chuo, Yamanashi, 409–3898 Japan

発行日:2017年6月25日Published: June 25, 2017
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血小板は血栓止血だけでなく,血小板活性化受容体C-type lectin-like receptor(CLEC-2)を介して膜タンパク質ポドプラニンと結合し,リンパ管の発生や血管統合性維持などの多彩な役割を担う.リンパ管は胎生期に静脈の一部がリンパ管内皮に分化し,血管から分離して発生する.このときリンパ管内皮のポドプラニンと血小板のCLEC-2の結合により,血小板が活性化することがリンパ管血管の分離を促進する.また,神経上皮のポドプラニンとの結合は,周皮細胞の脳血管被覆を促進するなど,正常な脳血管発生に必要である.成体では,リンパ節内の高内皮静脈周囲の細網細胞のポドプラニンと結合することでその統合性を保ち,出血のないリンパ球の遊出が可能となる.さらに,炎症時の透過性が亢進した毛細血管からの出血も防ぐ.

1. はじめに

1)C-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)

CLEC-2は,血小板凝集を強力に惹起する蛇毒ロドサイチン(アグレチン)の受容体として同定された1–4).これまで血小板凝集を惹起する受容体としては,コラーゲン受容体glycoproteinVI(GPVI)/Fc receptor γ-chain(FcRγ-chain)が属する免疫グロブリンファミリーや,トロンビンやADP受容体が属するGタンパク質結合型7回膜貫通型受容体が知られているが,CLEC-2が属するC型レクチン受容体を介して血小板凝集が惹起されるという知見はこれまでなかった.CLEC-2はチロシンキナーゼに依存する信号伝達系を介して血小板凝集を惹起するが,この経路はコラーゲン受容体GPVIに非常に似ている.CLEC-2は細胞内ドメインに一つのYXXLモチーフを持つ.このシグナルモチーフは,ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif, YxxL-(X)10-12-YxxL)という,二つのYXXLを持つモチーフと類似することから,hemi-ITAMと呼ばれる.ITAMはT細胞受容体などの免疫受容体や血小板上コラーゲン受容体GPVI/FcRγ-chain等に認められる.CLEC-2やGPVI/FcRγ-chainにリガンドが結合しクロスリンクされると,CLEC-2のhemi-ITAMあるいはGPVI/FcRγ-chainのITAMがチロシンキナーゼのSrcファミリーキナーゼでリン酸化される1, 5).ITAM/hemi-ITAMのリン酸化チロシンに,チロシンキナーゼSykのSH2ドメインが結合する.この結合により活性化されたSykが,LATやSLP-76などのアダプタータンパク質をリン酸化し,チロシンキナーゼBtkやphospholipaseCγ2(PLCγ2)が活性化することで,血小板凝集が生じる1, 2, 5–7).CLEC-2とGPVI/FcRγ-chainの信号伝達系は最も上流のモチーフがhemi-ITAMかITAMかの違いがあるのみで,下流では同じシグナル分子を使用している(図1).

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図1 CLEC-2とGPVI信号伝達系

(A) CLEC-2信号伝達系:ポドプラニンやロドサイチンといった血小板活性化惹起物質がCLEC-2に結合すると,チロシンキナーゼのSrcファミリーキナーゼとSykがCLEC-2細胞内ドメインのhemi-ITAM(一つのYXXLモチーフ)のチロシン残基をリン酸化(図中のYP)する.Sykは二つのSH2ドメインでリン酸化チロシンに結合し,さらに活性化される.Sykはその後,LATやSLP-76といったアダプタータンパク質,Vav1, Vav3(Vav1/3)といったグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor:GEF)をチロシンリン酸化(YP)する.最終的にはphospholipase Cγ2(PLCγ2)が活性化され,血小板凝集が惹起される.(B) GPVI信号伝達系:コラーゲンや,蛇毒コンバルキシンなどのGPVI活性化物質がGPVIに結合すると,FynやLynといったSrcファミリーキナーゼが,FcRγ-chainのITAM(二つのYXXLモチーフ)のチロシン残基をリン酸化し(YP),同部位にSykが結合する.以下はCLEC-2と同様である.文献45)より引用・改変.

CLEC-2はもともとC型レクチン様受容体のバイオインフォマティクス的検索により同定された.reverse transcriptase-PCRやノザンブロットでは,CLEC-2の発現は肝臓と単球,樹状細胞,NK細胞,顆粒球などの血球細胞に認められた8).しかし,巨核球・血小板は検討されていなかった.後に,CLEC-2のタンパク質レベルでの発現解析が行われ,ヒトにおいては巨核球・血小板にかなり特異的に高発現し,肝臓のKupffer細胞にも発現している9–12).肝類洞内皮細胞に発現するとしている論文もある9).マウスでは好中球13),樹状細胞14–16),マクロファージ17, 18)にも発現している.

2)ポドプラニン

タイプIシアロムチン様膜タンパク質のポドプラニンは,ある種のがん細胞の他,リンパ管内皮,I型肺胞上皮,腎足細胞などに発現するが,血管内皮細胞には発現しないため,リンパ管内皮のマーカーとして使用されてきた.がん細胞のポドプラニンは,血中に入ると血小板を活性化してがん細胞周囲に粘着させ,その血行性転移を促進する19, 20).ポドプラニンとその血小板上の受容体の結合を抑制すれば血行性転移が抑制できる可能性があるため,その血小板上の受容体が長年検索されてきた.我々はポドプラニン惹起凝集とロドサイチン惹起血小板凝集の特徴が類似していることに着目し,ポドプラニンの血小板上受容体がCLEC-2であることを報告した21).通常,正常組織に発現するポドプラニンは血液と接触する機会がないが,胎生期や病的状態では接触し,血小板CLEC-2と結合してさまざまな病態生理学的役割を演じることがわかってきた7)

2. 胎生期のリンパ管血管分離と脳血管成熟の促進

1)胎生期の血管リンパ管分離:血小板CLEC-2とリンパ管内皮のポドプラニンの結合

リンパ管は,胎生期に主静脈と呼ばれる静脈の一部がリンパ管内皮の性質を持つようになり,出芽する.出芽した部分が血管部分より分離して,初期リンパ嚢が形成される.初期リンパ嚢が伸長することで末梢のリンパ管が形成される22).上述したように,通常リンパ管内皮のポドプラニンは血小板のCLEC-2と結合することはないが,発生の段階では接触可能である.CLEC-2欠損マウスの研究より,CLEC-2は胎生期のリンパ管と血管の分離に必須の分子であることが証明された.CLEC-2全身欠損マウスは胎生期あるいは新生仔期にほとんどの個体が死亡する.このマウスは,リンパ管と血管の分離不全により,リンパ管に血液が流入した赤色の網状影と,浮腫が認められる23–25)図2A).ポドプラニン欠損マウスでも同様の血管リンパ管分離不全表現型を示すことから26),CLEC-2とポドプラニンの結合が血管とリンパ管の分離を促進することが示されたが,その機序については,以下に述べるように議論が分かれるところである.

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図2 CLEC-2の胎生期リンパ管血管分離と脳血管成熟における役割

(A)ともに胎生12.5日(E12.5)のCLEC-2−/−胎仔(上)とCLEC-2+/+胎仔(下)の外観.(B)胎生期のリンパ管と血管の分離促進機序に関する三つの仮説.(i)血小板内顆粒放出仮説.胎生期に主静脈と呼ばれる静脈の一部がリンパ管内皮の性質を示して出芽する.出芽した部分が血管部分より分離して,初期リンパ嚢が形成される.リンパ管と血管の分岐部で血小板のCLEC-2がリンパ管内皮のポドプラニンと結合して血小板が活性化され,放出されたTGF-βファミリーがリンパ管内皮の遊走や増殖を抑制するが,血管内皮の遊走や増殖は抑制しないため,リンパ管と血管の分離が促進される.(ii) CLEC-2によるポドプラニンクラスタリング仮説.CLEC-2とポドプラニンが結合すると,CLEC-2下流のシグナル分子でSrcやSyk依存性にCLEC-2がクラスタリングされる.逆にCLEC-2のクラスタリングにより,ポドプラニンのクラスタリングが生じる.ポドプラニンのクラスタリングは,ポドプラニンの細胞内ドメインに結合しているezrin/radixin/moesin(ERM)ファミリータンパク質を介して細胞骨格を制御し,リンパ管内皮の遊走抑制が生じてリンパ管と血管の分離が促進される.(iii)リンパ管静脈吻合部逆流仮説.胸管は左鎖骨下静脈に流入し,右リンパ本幹は右静脈角に流入する.リンパ管と静脈の吻合部では,リンパ静脈弁の他,同部位で形成された血栓が血液のリンパ管への逆流を防いでいる.リンパ管に血液が逆流すると,血小板CLEC-2とリンパ静脈弁のポドプラニンの結合が血小板を活性化して血栓が形成される.この機序は,発生途中でも成体においても機能していると考えられる.(C) CLEC-2による発生時の脳血管成熟における役割.脳血管周囲の神経上皮のポドプラニンとわずかに血管から漏出した血小板のCLEC-2が結合して血小板が活性化される.放出された何らかの顆粒内容が血管周囲細胞ペリサイトを血管周囲に呼び寄せ,細胞外マトリックスの産生と血管の成熟が促進される.CLEC-2あるいはポドプラニンが欠損すると血小板の活性化と,続くペリサイトによる血管の被覆と細胞外マトリックスの産生が生じず,異常な走行の漏れやすい血管となる.

a.血小板内顆粒放出仮説(図2B, i)

Syk, SLP-76, PLCγ2などのCLEC-2下流のシグナル分子の欠損マウスもリンパ管血管の不分離表現型を示す27).このことはCLEC-2とポドプラニンの結合により血小板が活性化されることが,血管とリンパ管の分離に必要であることを示している.血小板の活性化は血小板凝集と血小板内顆粒内容の放出を引き起こす.血小板内顆粒は多くの血管新生因子や成長因子,細胞外物質を含み,これらが血管リンパ管分離を惹起することが想定される.あるいは血小板凝集塊が血管とリンパ管の分岐部で形成され,物理的に血管とリンパ管の交通が阻害されるために分離が促進されるのかもしれない.実際,UhrinらとBertozziらは,発生途上のマウス胎仔のリンパ管と血管の分岐部に血小板凝集塊が存在するが,ポドプラニン欠損マウスやSLP-76欠損マウス胎仔では存在しないことを報告している25, 26).しかし,血小板凝集には必要だが,血小板顆粒放出には必要でないインテグリンαIIbβ3を欠損したマウスではリンパ管血管不分離表現型が認められないことから25),血小板凝集塊が分岐部を塞栓するために分離が促進するという仮説は否定的である.我々は活性化血小板から放出される血小板顆粒内容,あるいは血小板顆粒内容の主な成分であるTGF-β(transforming growth factor β)がリンパ管内皮の遊走と増殖を抑制するが,血管内皮の遊走や増殖は抑制されないことを報告した24).我々は胎生期にリンパ管と血管の分岐部で血小板のCLEC-2がリンパ管内皮のポドプラニンと結合して血小板が活性化され,放出されたTGF-βファミリーがリンパ管内皮の遊走や増殖を抑制するが,血管内皮の遊走や増殖は抑制しないため,リンパ管と血管の分離が促進されるという機序を提唱した.しかし,α顆粒を欠く灰色血小板症候群(gray platelet syndrome)の患者ではリンパ管と血管の分離不全の報告はないことから28),血小板顆粒内容だけでは説明できないと考えられる.

b.CLEC-2によるポドプラニンクラスタリング仮説(図2B, ii)

PollittらはCLEC-2とポドプラニンが結合すると,CLEC-2下流のシグナル分子であるチロシンキナーゼSrcやSyk依存性にCLEC-2がクラスタリングされることを報告した29).また,CLEC-2のクラスタリングにより,ポドプラニンのクラスタリングが生じることを,可動性のリコンビナントポドプラニンを含んだ細胞膜を模した脂質二重層を用いて示した29).Srcキナーゼの阻害剤処理血小板やSyk欠損血小板ではこのクラスタリングが抑制された.以上の結果をもとに,Pollitらは以下の仮説を提唱した.CLEC-2にポドプラニンが結合してSrcやSykが活性化されると,さらなるCLEC-2のクラスタリングとポドプラニンのクラスタリングが生じる.ポドプラニンのクラスタリングは,ポドプラニンの細胞内ドメインに結合しているezrin/radixin/moesinファミリータンパク質を介して細胞骨格を制御し,リンパ管内皮の遊走抑制が生じてリンパ管と血管の分離が促進される.我々も,リコンビナントCLEC-2をリンパ管内皮細胞に添加するとリンパ管内皮の遊走が有意に抑制されたと報告していることから24),血小板顆粒内容だけでなく,ポドプラニンから生じる遊走抑制シグナルも血管リンパ管分離促進に寄与しているのだろうと報告している.しかし,ポドプラニンの細胞内ドメインを欠損したマウスでも血管リンパ管分離不全が生じるという報告はなく,ポドプラニンのクラスタリングで生じるシグナルだけでは説明できない.

c.リンパ管静脈吻合部逆流仮説(図2B, iii)

リンパ系と血管系が直接連結するのは胸管が左鎖骨下静脈に流入する部分と,右リンパ本幹が右静脈角に流入する部分のみである.静脈角は内頸静脈と鎖骨下静脈が合流して形成される.右半身のリンパ液は右リンパ本幹に流入し,それ以外の部分からのリンパ液は胸管に流入する.リンパ管と静脈の吻合部では,リンパ静脈弁が血液のリンパ管への逆流を防いでいる.Hessらは,CLEC-2欠損状態では胎生期においても成体においても,たとえリンパ静脈弁が機能していても血液が胸管に逆流すると報告した30).血小板CLEC-2とリンパ静脈弁のポドプラニンの結合が血小板を活性化すると血栓が形成される.野生型マウスでは,血小板活性化が凝固系を活性化して形成されたと思われる,フィブリンを含んだ血小板血栓がリンパ静脈弁と胸管の末端部分に認められるが,CLEC-2欠損マウスでは認められない.以上より,発生途中でも成体においても,CLEC-2を介してリンパ静脈弁付近に形成される血栓が,リンパ系を血液の流入から守っていると考えられる.CLEC-2が欠損するとリンパ静脈弁付近の血小板血栓が形成されず,血液がリンパ管に逆流し,末梢リンパ管に至るまで,血液が充満するのではないかという説である.しかし,リンパ静脈弁付近に形成されたフィブリンを含む血小板血栓は,血液の逆流だけでなく,リンパ液の血管への流入をも抑制してしまうのではないかとも考えられる.また,Abtahianらは,CLEC-2欠損胎仔と同様の表現型を示すSLP-76欠損胎仔やSyk欠損胎仔において,Lyve-1陽性のリンパ管とLyve-1陰性の血管キメラ血管が存在することを報告している31).この所見はCLEC-2信号伝達系の非存在下では,主静脈からリンパ管が分離する部分で異常が生じることを示唆する所見である.

CLEC-2が血管リンパ管分離を促進する機序についてはさらなる研究が必要であるが,これまでに述べた機序は一つだけが正しいのではなく,程度の差こそあれ,三つの機序がすべて機能しているのかもしれない.

2)発生時の脳血管の成熟:血小板CLEC-2と神経上皮のポドプラニン(図2C)

血小板CLEC-2を欠損したマウスでは,発生中期に脳実質や脳室内に出血が認められことから,CLEC-2は発生時の脳血管の成熟にも必要な分子であることがわかった.Loweらは,胎生10.5日(E10.5)のポドプラニンあるいはCLEC-2欠損胎仔では,脳血管が蛇行するなど走行が異常で,脳出血が認められることを報告した32).彼らは,その機序について以下のような仮説を提唱している.脳血管周囲の神経上皮のポドプラニンとわずかに血管から漏出した血小板のCLEC-2が結合して血小板が活性化される.放出された何らかの顆粒内容が血管周囲細胞ペリサイトを血管周囲に呼び寄せ,細胞外マトリックスの産生と血管の成熟が促進される.CLEC-2あるいはポドプラニンが欠損すると血小板の活性化と,続くペリサイトによる血管の被覆と細胞外マトリックスの産生が生じず,異常な走行の漏出しやすい血管となる.血小板減少は,未熟児の脳内出血のリスクファクターであり,高リスクの未熟児に血小板輸血を行うことで脳出血が減ることが報告された33).血小板CLEC-2と神経上皮のポドプラニンの結合により脳血管の成熟が促進されるため,脳出血が減少する可能性が考えられる.

3. 成体における血管統合性維持

1)リンパ節の高内皮静脈の統合性維持:血小板CLEC-2と細網細胞のポドプラニン(図3A

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図3 成体における血管統合性の保持

(A)リンパ節の高内皮静脈の統合性維持.リンパ節では,持続的にリンパ球が高内皮静脈の内皮の間隙をぬって静脈外に遊出し,免疫監視を行っている.この過程は特に免疫反応が惹起される際に盛んとなる.高内皮静脈からわずかに遊出した血小板が,細網細胞のポドプラニンと結合して活性化され,血小板内に豊富に存在するスフィンゴシン1-リン酸(S1P)が放出される.S1Pは高内皮静脈細胞のVE-cadherinの発現を促進して,内皮細胞間隙を密にすることで,高内皮静脈の出血を防いでいる.CLEC-2欠損マウスに,免疫反応を惹起するとリンパ節内の出血が生じる.(B)炎症時の毛細血管の統合性維持.炎症時には産生される炎症性サイトカインが血管の透過性を亢進させる.透過性の亢進した血管から漏出した血小板のGPVIがコラーゲンあるいはラミニンに結合して,CLEC-2が何らかの未知のCLEC-2リガンド等と結合して血小板を活性化する.この血小板活性化が血管の統合性を維持する.GPVI, CLEC-2欠損では血小板が活性化されず,出血が生じる.

先に述べたように,CLEC-2全身欠損マウスは胎仔期・新生仔にほとんど死亡するが,血小板・巨核球特異的CLEC-2欠損マウスは生存可能である23–25).本マウス,あるいは放射線照射をした成獣マウスに,CLEC-2欠損あるいは野生型胎仔肝臓細胞を投与した骨髄キメラマウスを使用して,成体でのCLEC-2の機能が明らかにされた.

リンパ節では,特殊な構造を持つ高内皮静脈(high endothelial venule)が存在し,持続的にリンパ球が高内皮静脈の内皮の間隙をぬって静脈外に遊出し,免疫監視を行っている.この過程は特に免疫反応が惹起される際に盛んとなる.しかしこの間,高内皮静脈から出血することはない.Herzogらは,高内皮静脈からリンパ球の遊出は起こるが出血は起こらない機序について検討し,以下の仮説を提唱した34).ポドプラニンは高内皮静脈を取り囲み,リンパ節の骨格を形成する細網細胞(fibroblastic reticular cell)はポドプラニンを発現している.高内皮静脈からわずかに遊出した血小板が,細網細胞のポドプラニンと結合して活性化され,血小板内に豊富に存在するスフィンゴシン1-リン酸が放出される(sphingosine 1-phosphate:S1P).S1Pは高内皮静脈細胞のVE-cadherinの発現を促進して,内皮細胞間隙を密にすることで,高内皮静脈の出血を防いでいる.CLEC-2,ポドプラニン,S1Pを欠損したマウスに免疫反応を惹起するとリンパ節内の出血が生じる.このように,特に免疫反応が生じている際,血小板CLEC-2は細網細胞のポドプラニンと結合して高内皮静脈の統合性を保っている.

2)炎症時の毛細血管の統合性維持:血小板CLEC-2と血管周囲の未知のリガンド(図3B)

血小板減少時,特に炎症を伴う際,毛細血管からの点状出血が認められるため,血小板は長いこと血管の統合性を保つと認識されてきた.血小板減少時の出血は炎症時に著しいが,これは炎症時に産生される炎症性サイトカインが血管の透過性を亢進させるためである.Goergeらは,血小板減少時の出血は炎症が存在する部位でのみ起こり,血小板凝集に必要なインテグリンαIIbβ3やGPIb-V-IXは血管統合性の維持には必要ないことを示した35).この結果より,透過性亢進した血管より漏出した血小板が凝集することにより,物理的に血管の“漏れ”を防いで血管統合性が維持されるという機序は否定的に考えられた.

Boulaftaliらは,血小板のITAM依存性信号伝達が炎症による出血を防ぐが,Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)依存性信号伝達は必要でないことを報告した36).彼らは,ヒトインターロイキン-4(IL-4)受容体の細胞外ドメインと血小板GPIbαの細胞内ドメインを持つキメラタンパク質を血小板に発現させたマウスを用いた.このマウスに抗ヒトIL-4抗体を投与して血小板減少を惹起したところに,野生型血小板,さまざまな受容体を欠損した血小板,あるいは薬剤で処理した血小板を輸血して,血管透過性亢進に対する抑制効果を検討した.野生型血小板では血管透過性亢進がほぼ完全に抑制されたが,CLEC-2, GPVI, SLP-76(CLEC-2とGPVI下流のシグナル分子)を欠損した血小板には抑制効果はなかった.しかし,トロンビン受容体欠損血小板,thromboxane A2(TXA2)の産生を阻害するアスピリンやADP受容体P2Y12阻害剤のクロピドグレルで処理した血小板は,野生型血小板と変わらぬ抑制効果を認めた.CLEC-2やGPVIは前述のようにチロシンキナーゼとITAMモチーフに依存した信号伝達系を持ち,TXA2, ADP,トロンビンはGPCRに結合して活性化シグナルを惹起する.以上より,炎症時の血管統合性の維持は,GPCR依存性信号伝達ではなく,ITAM依存性信号伝達が必要と結論づけた.血小板GPCRを欠損すると出血傾向が生じるが37–40),ITAM受容体は欠損しても出血傾向の有意な増強は認められない23, 41, 42).しかし,炎症時の血管統合性の維持には,むしろITAM受容体の方が重要であった.その機序についてBoulaftaliらは,透過性の亢進した血管から漏出した血小板のGPVIが,GPVIリガンドであるコラーゲンあるいはラミニン43)に結合して活性化されると考えている.ただ,CLEC-2リガンドであるポドプラニンは通常血管周囲には発現しておらず,どのように活性化されるのか説明が困難である.Boulaftaliらは,血管周囲の何らかの未知のCLEC-2リガンド,あるいは血管周囲に集まってきたマクロファージに発現するポドプラニンが関与するのではないかと推測している.最近Glosらは,炎症時の血管透過性の亢進は好中球が原因であることを報告したが44),血小板活性化で生じる何が血管透過性を抑制するのか,その機序は不明のままであり,さらなる研究が必要である.

4. おわりに

血小板の役割といえば「かさぶたを作るだけ」というイメージが定着しているが,リンパ管や血管の発生,成体においても血管統合性の維持など,実に多様な役割を果たしている.血小板顆粒内あるいは顆粒膜上の何らかのタンパク質,S1PやTXA2のように細胞質内で活性化に伴って合成される成分がこれらの機能を果たす可能性は大いにあるが,詳細は不明のままである.今後の研究の進捗に期待したい.

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45) 井上克枝(2016)日本血栓止血学会誌,26, 29–34.

著者紹介Author Profile

井上 克枝(すずき-いのうえ かつえ)

山梨大学大学院総合研究部医学域臨床検査医学講座教授.博士(医学).

略歴

1968年東京都に生る.95年山梨医科大学医学部卒業.東京厚生年金病院内科研修医終了後,山梨医科大学大学院に入学し,臨床検査医学講座にて血小板の研究を始める.2016年より現職.

研究テーマと抱負

血小板活性化受容体CLEC-2を同定してから,血小板の血栓止血以外の役割について研究しています.小さくて核もないのに,多彩な役割を持つ血小板に魅せられています.

ウェブサイト

http://www.med.yamanashi.ac.jp/clinical/clin0lab/

趣味

家族でサイクリング.

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