生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 424-427 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890424

みにれびゅうMini Review

小胞輸送・微小管安定性・Hippoシグナル経路に関わるハブタンパク質StripStrip, a hub protein in giant protein complex, regulates vesicle transport, microtubule stability and hippo signaling during neural development

1東京慈恵会医科大学熱帯医学講座Department of Tropical Medicine, The Jikei University School of Medicine ◇ 〒105–8461 東京都港区西新橋3–25–8 ◇ 3–25–8 Nishi-Shimbashi, Minato-ku, Tokyo, 105–8461, Japan

2広島大学大学院理学研究科生物科学専攻細胞生物学研究室Department of Biological Science, Graduate School of Science, Hiroshima University ◇ 〒739–8526 東広島市鏡山1–3–1 ◇ 1–3–1 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, Hiroshima 739–8526, Japan

発行日:2017年6月25日Published: June 25, 2017
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1. はじめに

プロテオミクス研究の進展により,タンパク質複合体の構成が見直されることがある.protein-phosphatase 2A(PP2A)複合体は真核生物の主要なセリン/トレオニン脱リン酸化酵素で,A(足場)サブユニット,C(触媒)サブユニット,B(調節)サブユニットからなるヘテロ三量体のホロ酵素と考えられてきた.BサブユニットにはB, B′, B″, B‴という四つのファミリーがあり,基質特異性はBサブユニットの使い分けで決定する.2009年,PP2A複合体のBサブユニットにB‴のStriatinが用いられる際,このPP2A複合体はA–Cサブユニットに加え,CCM3, Mob3, STRIP1/2等の複数のコア要素,さらには状況に応じてさまざまなタンパク質と結びつき,striatin-interacting phosphatase and kinase(STRIPAK)と名づけられた巨大なタンパク質複合体を形成することが発見された1).真菌からヒトまで保存されているSTRIPAK複合体は,細胞増殖,分化,細胞極性など非常に多岐にわたる細胞機能に関わることが近年徐々に明らかにされてきている2).ところがこのSTRIPAK複合体のコア要素の一つであるSTRIP1/2の研究は遅れており,筆者らが樹状突起の形態形成を制御する分子の探索でStrip(STRIP1/2のショウジョウバエ相同分子)を単離した当時,他のどの生物においても機能の報告がなかった.そこでStripの機能解析を生体内で進め,神経の軸索伸長や樹状突起の枝分かれを制御すること,さらには神経形態形成後期のシナプス形成にも関与することを発見した.これらの研究を通して,Stripはハブタンパク質として微小管やアクチン骨格と複合体を形成することで神経の形態形成の重要な足場となり,種々のシグナル経路の調節を行っていることを解明したので紹介したい.

2. Stripは軸索伸長,樹状突起の枝分かれを制御する

STRIP1/2は,N1221とDUF3402という二つの保存されたドメインをもつ.しかし,これらドメインの生物学的機能はいまだ解明されておらず,構造から機能を推測することはできない.STRIP1/2が細胞の形態,特に細胞骨格の制御に関わる可能性を初めて示唆したのは,ヒト前立腺がん由来のPC3細胞で遂行された研究である.STRIP1のノックダウンでは細胞の形態が扁平になり細胞皮層にアクチンが集積したのに対し,STRIP2のノックダウンでは細胞が細長くなり微小管を含む突起が観察された3).では,生体内でSTRIP1/2およびStripはどのような働きをしているのだろうか? 生体内での解析が進まなかった理由の一つとしてStripの機能抑制によって個体が発生初期で致死になることがあげられる.そこで筆者らはショウジョウバエmosaic analysis with a repressible cell marker(MARCM)法4)を用いて研究を行った.この手法により,生体内で特定の細胞だけを目的の遺伝子型ホモ接合体にし,さらにその細胞だけを可視化することが可能になる.筆者らは神経の形態形成におけるStripの機能を解析するため,遺伝学的に形態が細部まで規定されており,一細胞レベルで形態を定性・定量的に解析することに適したショウジョウバエ嗅覚系の投射神経をモデルとして用いた.Stripノックダウン投射神経では軸索が本来より短くなっているのに加え,樹状突起の枝分かれに異常が生じ,1か所に投射するべき樹状突起が2か所の標的に投射していた.以上より,Stripは軸索伸長・樹状突起の枝分かれを制御することが示された5)

3. Stripは初期エンドソーム形成の足場となることで軸索伸長を制御する

次に,酵母ツーハイブリッド法を用いてStrip相互作用分子を探索し,Glued, Sprintを得た.Gluedは哺乳類p150Gluedのショウジョウバエ相同分子でDynactin複合体の構成要素であり,微小管マイナス端への輸送に寄与する6, 7).またSprintはRIN1のショウジョウバエ相同分子で,初期エンドソームの成熟に関与するRab5の活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)である8).筆者らは,免疫共沈降実験および遺伝学的相互作用実験を行うことで,Strip, Glued, Sprintの3分子は同じ複合体に含まれ協調的に軸索伸長・樹状突起の枝分かれを制御することを見いだした.初期エンドソームは低分子量GTPaseのRab5の機能により,それどうしが融合してさらに成熟した初期エンドソームとなる.筆者らは,StripがRab5活性化因子Sprintと微小管上の輸送に関与するGluedの両方と結合するという事実に基づいて,「Strip複合体が初期エンドソームどうしの融合過程,特に微小管に沿った初期エンドソームどうしの近接化」に必要であると仮説を立て研究を進めた.ショウジョウバエ胚由来のS2細胞においてStripやGluedをノックダウンすると,成熟した大きな初期エンドソームの数が激減し,小さな初期エンドソームが細胞表面に多数散在していた.これらの結果からStripは,モータータンパク質Dynein-Dynactin複合体がRab5-初期エンドソーム複合体を積荷として運ぶ際のアダプタータンパク質として機能することが示唆された.事実,Rab5ノックダウン神経細胞はStripノックダウン神経細胞と同様の軸索伸長・樹状突起の枝分かれ異常を示し,さらにStripノックダウン神経細胞に恒常活性化型のRab5を強制発現したところ,軸索伸長異常が一部抑制された5).エンドサイトーシス経路は,膜表面上の接着因子や種々の受容体の数や局在を調節する.すなわち,Strip-Glued-Sprint-Rab5は軸索伸長に重要なシグナルの受容体や,軸索が伸長する際に調節する必要のある接着分子の量を時空間特異的に調節していると推察される(図1A).

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図1 Stripの神経形態形成における働き

(A) Stripタンパク質は,微小管上の小胞輸送に関わるGluedや小胞融合に関わるSprintと複合体を形成することにより,エンドサイトーシス経路における初期エンドソームの成熟を円滑に進める.この円滑な初期エンドソームの成熟により,伸長中の軸索は,軸索の先端において伸長に関与する分子群の量や活性を適切に調節し,正しい場所へと到達する.(B) Stripを運動神経でノックダウンすると神経筋接合部におけるサテライトブートンの数が野生型に比べ増加した.StripはHippoキナーゼ中心複合体の活性を抑制し,Enabledを活性化することによりサテライトブートンの形成を抑えている.

4. Stripは微小管を安定させることで軸索伸長を促進する

前述のとおりStripはGluedとともに微小管輸送に関与しているが,筆者らはさらに微小管自体のダイナミクスにも寄与していることを見いだした9).微小管は動的不安定性と呼ばれる特性をもっており,重合と脱重合を繰り返すことで細胞の形態変化を可能にしている.微小管伸長端に結合するタンパク質群+TIPsの多くは微小管の構造を安定化しており,p150Gluedもその一つとして報告されている10).StripノックダウンS2細胞では(A)微小管安定マーカーであるアセチル化α-tubulin量の減少,(B)微小管の形態異常,および(C)+TIPsの主要分子であるEB1の微小管伸長端での集積が観察された.

次に投射神経を用いてチューブリン折りたたみ補因子の一つであるTBCDとStripとの遺伝学的相互作用を解析した.以前,筆者らは細胞接着分子であるDscamの下流でTBCDが機能し,軸索伸長や樹状突起の枝分かれに重要であることを見いだしていた11).Stripノックダウン神経細胞においてTBCDの量を変化させたところ,軸索伸長・樹状突起の枝分かれ異常が顕著に増悪した.さらにStripはTBCDともタンパク質複合体を形成することを明らかにした.これらの結果から,StripはTBCDと協調的に微小管の安定性に関与していることが明らかになった.

5. Stripはアクチン骨格の制御を介してシナプス形成に関与する

神経突起の伸長や枝分かれに関与する分子は,神経突起が標的に到達した後には発現が減少する傾向にある.興味深いことにStripは,神経突起が標的に到達した後のシナプス形成時期でもなおシナプス部位に強く発現していた.そこでシナプス形成研究のモデルシステムとして確立している神経筋接合部(NMJ)においてStripの発現を観察したところ,運動神経軸索末端の前シナプス部位にパッチ状に局在していた12).ショウジョウバエのNMJはブートンと呼ばれるこぶ状の構造が連なった形状をしており,ブートン内にはシナプス小胞が充填されている.NMJの形成過程では成熟したブートンから新たなブートンが出芽することを繰り返すことで鎖状の形態となる.出芽したブートンの一部は小さいサイズのままシナプス小胞を充填しておりサテライトブートンと呼ばれる.運動神経でStripをノックダウンしたところ,このサテライトブートンの数が増加したため,Stripはブートン形成を抑える機能を担っていることが予測された.Stripを含むSTRIPAK複合体は,がん抑制因子Hippoを脱リン酸化することで不活性化する13).シナプス形成におけるHippoの関与を検討するために運動神経にHippoを強制発現した.その結果,Stripノックダウンと同様にサテライトブートンの数が増加し,Stripとも強い遺伝学的相互作用を示した.さらに研究を進めたところ,Hippo経路は直鎖状アクチンの重合や伸張を制御するEnabledをリン酸化することでその活性調節を行い,ブートン形成を制御していることが明らかになった.以上より,Stripが,Hippo,さらにその下流のEnabledの活性化状態を調節することで新たなブートンの出芽を制御していることが示唆された(図1B).

6. おわりに

筆者らの研究により,Stripは微小管・アクチンの両者と複合体を形成し,神経の形態形成を多岐にわたって制御していることが明らかとなった.微小管・アクチンの両方と複合体を形成する分子は多くなくspectraplakinと呼ばれる分子群が代表格として知られている.微小管・アクチンをつなげる新たな分子Stripが見いだされたことは細胞骨格の理解に新たな洞察をもたらすだろう.

Stripは種々のシグナルの調節において重要な役割を果たしていることが判明した.エンドサイトーシス経路に関与することに加え,Hippo経路も制御していることから,周りの環境に適切に応答するために重要な因子であると考えられる.この働きによりがんへの関与も示唆されており,がんゲノムにおける変異の種類と頻度からSTRIP2はがん遺伝子と分類もされている14).今後,Stripが具体的にどの文脈においてどのシグナル経路をどのように調節しているかさらなる解明が期待される.

最近StripおよびSTRIPAK複合体が概日リズム制御因子Clockの脱リン酸化に関与することで概日リズムの制御に関与することが発表された15).この報告は,Stripが神経発生のみならず成体の神経機能にも影響を与えていることを示唆しており,Stripの研究を進めることは多様な神経疾患の解明にもつながる可能性を秘めている.

謝辞Acknowledgments

本研究は,東京大学大学院薬学系研究科研究科遺伝学教室において行われたものです.この場を借りて御礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

佐久間 知佐子(さくま ちさこ)

東京慈恵会医科大学熱帯医学講座助教.博士(薬学).

略歴

福岡に生れ,鹿児島育ち.2008年東京大学薬学部卒業.同大学院薬学系研究科にて学位取得.東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室特別研究員を経て,15年より現職.

研究テーマと抱負

ショウジョウバエ神経研究において取得した技術を,同じ双翅目の蚊に応用し吸血行動の神経行動学的理解を目指している.蚊は吸血行動によって病原体を媒介するため,蚊をコントロールするための端緒を開きたい.

ウェブサイト

http://jikei-tropmed.jp/

趣味

城巡り.最近は専ら赤ちゃんの発生(成長)の観察.

千原 崇裕(ちはら たかひろ)

広島大学大学院理学研究科生物科学専攻教授.博士(理学).

略歴

1973年熊本に生る.熊本大学薬学部卒業,総合研究大学院大学にて学位取得.2002年からスタンフォード大学で研究員.06年に東京大学大学院薬学研究科に着任後,助教,講師,准教授を経て,16年より現職.

研究テーマと抱負

ショウジョウバエを用いた神経細胞生物学.環境,個体,神経回路,ニューロン,それぞれの階層間・階層内の相互作用解析に,発生から老化までの時間軸を入れることで,生き物の生存・適応戦略を理解したい.

ウェブサイト

http://chihara-lab.hiroshima-u.ac.jp

趣味

牡蠣とお好み焼きとカープ.ドラゴンズファンも兼任.息子とのキャッチボール.

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