生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 441-444 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890441

みにれびゅうMini Review

転写装置によるクロマチン構造制御Regulation of Chromatin structure by transcription machinery

北海道大学理学研究院化学部門Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University ◇ 〒060–0810 札幌市北区北10条西8丁目 ◇ N10 W8, Kitaku, Sapporo, Hokkaido 060–0810, Japan

発行日:2017年6月25日Published: June 25, 2017
HTMLPDFEPUB3

クロマチン構造はエピジェネティックな遺伝子機能の制御の基盤となる.最近,クロマチン構造を規定するヒストン修飾は転写装置を介して転写と共役して起こることが明らかになってきた.そこで,特にRNAポリメラーゼIIを中心にその分子機構を解説する.

1. はじめに

真核細胞の長大なDNAはクロマチン構造をとり核に収納されている.ヒストンH2A, H2B, H3, H4それぞれ2個ずつからなるオクタマーにDNAが巻きついたヌクレオソームがさらに折りたたまれてクロマチン構造を形成している.そして,折りたたみの凝集度や結合するタンパク質の構成が異なるさまざまなクロマチン構造が存在する.このクロマチン構造が,転写や複製などのDNA上で起こるさまざまな反応をエピジェネティックに制御している.

クロマチン構造の制御の基礎となるのはヒストンの化学修飾である.ヒストンは,DNAが巻きつくコア領域から飛び出すN末端領域を中心に,メチル化・アセチル化・リン酸化・ユビキチン化などの化学修飾を受けている.これらの修飾を特異的に認識・結合するタンパク質が,さまざまなクロマチン構造制御機能を持つ因子と相互作用することでクロマチン構造を制御する.つまり,クロマチン構造はヒストン修飾のパターンにより規定されていることになる.たとえば,活性化クロマチンであるユークロマチンは,高いヒストンアセチル化とヒストンH3の4番目のLys(H3K4)のメチル化により規定されている.一方,テロメア・セントロメア・反復配列上に形成される不活性なヘテロクロマチンは,低いヒストンアセチル化やヒストンH3の9番目のLys(H3K9)のメチル化により規定されている.

最近の解析技術の進歩により,発生・分化あるいは環境変化の過程でゲノム全体のヒストン修飾・DNAメチル化がダイナミックに変化することが明らかになっている.しかし,そのダイナミックな変化を引き起こす制御メカニズムについては,一部が明らかになったにすぎない.その中でRNAポリメラーゼII(RNAPII)が転写と共役したヒストン修飾に直接関わることが最近明らかになってきた.この機構の存在は転写が活発に起こるユークロマチン領域の解析からまず明らかになった1).ところが面白いことに,転写を抑制するはずのヘテロクロマチンにおいてもRNAPIIが転写と共役したヒストン修飾を行うことがわかってきた.本稿では,RNAPIIによるクロマチン構造制御について,出芽酵母と分裂酵母で最近明らかになった具体的な例をあげながら紹介する.

2. RNAポリメラーゼII CTDリン酸化と遺伝子内でのヒストン修飾

RNAPIIはタンパク質をコードする遺伝子の転写だけでなくnoncoding RNA(ncRNA)の転写も行う.転写の際にRNAPIIは,転写伸長制御やRNAのプロセシングに関わる因子と相互作用する.この相互作用に中心的役割を果たすのがRNAPIIの最大サブユニット(Rpb1)のC末端領域(C-terminal domain:CTD)である.Rpb1 CTDは,酵母からヒトまでよく保存されたYSPTSPSという7アミノ酸の繰り返し配列で,分裂酵母では26回,ヒトでは52回繰り返している.この配列のS, T, Yは転写に伴いリン酸化される(図1).そのリン酸化パターンの変化に伴う相互作用タンパク質の変化が,転写伸長やRNAプロセシングを制御する2).たとえば5番目のセリンのリン酸化(S5P)は転写開始直後に上昇し,mRNAの5′-キャップ付加酵素の呼び込みを行う.2番目のセリンのリン酸化(S2P)は転写の後半部で上昇し,転写されたRNAのポリ(A)付加などのプロセシングに関与する2).そして最近,これらのCTDリン酸化修飾が,転写される遺伝子内部のクロマチン修飾にも重要なことがわかってきた.

Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 441-444 (2017)

図1 RNAPIIのCTDリン酸化による転写と共役したヒストンH3K4およびK36のメチル化制御

CTDの反復配列のS5のリン酸化は転写初期に起こり,H3K4メチル化酵素Set1を含むCOMPASS複合体と結合しメチル化を行う.H3K36メチル化酵素Set2はSRIドメインを介して2番目と5番目がリン酸化されたCTDと結合し,転写後期にメチル化を行う.

たとえば,出芽酵母においてH3K4のジメチル化・トリメチル化(H3K4me2・me3)は,H3K4特異的メチル化転移酵素Set1を含むCOMPASS複合体がCTD-S5Pと相互作用することで転写ユニットの前半に多く集積する1, 3)図1).

一方,H3K36のジメチル化・トリメチル化(H3K36me2・me3)は転写領域の後半で観察されるが,特にトリメチル化の程度が高い.出芽酵母,分裂酵母ともにH3K36メチル化酵素はSet2のみである.Set2には,哺乳類のホモログにも保存されるRNAPIIと相互作用するSet2-Rpb1-interacting(SRI)ドメインが存在する.出芽酵母ではSRIドメインはS2とS5がリン酸化されたCTDと相互作用する(図1).そのためH3K36me3は転写の半ばから後半で高くなる4).一方,K36me2, me3を認識・結合するヒストン脱アセチル化酵素が存在し,転写ユニット内のヒストン脱アセチル化を行っている.そしてSet2のSRIドメインを欠失させるとゲノム全体のK36me2・me3の消失がみられると同時に,転写ユニット内部の潜在的プロモーターからの異常な転写産物が蓄積する.つまり,H3K36メチル化を認識・結合するヒストン脱アセチル化酵素は,転写ユニット内の潜在的プロモーターからの異常な転写の抑制を行う役割を担っているといえよう5)

我々は,分裂酵母のSet2もSRIを介してS2リン酸化型CTDと相互作用することを最近見いだした(S5リン酸化の必要性は未確認).分裂酵母のSRI欠失変異ではH3K36me3は消失するが,H3K36me2が転写ユニット全域にわたり観察される.このことは分裂酵母Set2がSRI-CTD相互作用以外に転写装置と共役してジメチル化を行い,その後CTD-S5のリン酸化に伴いCTDと結合し,トリメチル化を行うことを示唆している6).分裂酵母ではH3K36メチル化は,アンチセンス転写やサブテロメアでの転写の抑制に寄与する.面白いことに,SRIドメインの欠失変異はSet2欠失と同様にこれらの転写抑制が消失することから,H3K36メチル化による転写抑制はH3K36me3を特異的に認識・結合する因子により仲介されていることがわかる6).哺乳類ではSet2ホモログの他にH3K36me2までしか修飾活性がない酵素の存在が複数知られており,哺乳類でもH3K36me2とme3の使い分けが存在することが予想できる7)

3. 転写と共役したヘテロクロマチン形成

転写について不活性なヘテロクロマチンにおけるRNAPIIの関与はどうであろうか.

分裂酵母は,哺乳類をはじめとする真核生物と同様にH3K9メチル化とそれに結合するSwi6(HP1タンパク質の分裂酵母ホモログ)により規定される恒常的ヘテロクロマチンを持つ.そして,ヘテロクロマチン内で転写されるncRNAを基質にしてRNAi(RNA inhibitory)因子によって生成するsiRNA(small interference RNA)が,セントロメア周辺のヘテロクロマチン形成に必要なことが示されている8).この系で重要なのは,RNAi因子がクロマチン上に集合して機能することである(図2).この集合の中心となるのはヘテロクロマチン由来ncRNAとRITS(RNA induced transcriptional silencing)複合体である.RITSはAgo1, Chp1, Tas3からなるヘテロ三量体で,保存されたRNAi因子であるArgonauteファミリータンパク質Ago1は,ncRNA由来siRNAを取り込み,そのsiRNAと相補的配列を持つRNAに結合する.また,Chp1のもつクロモドメインはH3K9me2, 3を認識結合すると同時にRNAに結合する9).最終的にRITSはsiRNA産生に必要な因子群をncRNAに集合させるとともにH3K9メチル化酵素を含む複合体CLRC(Clr4 methyltransferase complex)を呼び込みヘテロクロマチン形成を促す(図210)

Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 441-444 (2017)

図2 RNAi依存性ヘテロクロマチン形成におけるRNAPIIのCTDリン酸化の機能

CTD-S7のリン酸化依存的にRITS複合体はRNAPIIと相互作用し,Chp1のクロモドメインを使って転写されたncRNAとH3K9me2, 3と結合する.その後RITSはつなぎとめたRNA上にRNAi因子を呼び込みsiRNAの産生が起こる.合成されたsiRNAはRITSのAgo1に取り込まれ,このsiRNAの相補性を使いncRNAと結合したRITSはH3K9メチル化酵素複合体を呼び込みヘテロクロマチンを形成する.

我々はRNAPIIの2番目のサブユニットのアミノ置換変異が,通常の転写にはほとんど影響を与えないにも関わらず,RNAi依存性ヘテロクロマチン形成を特異的に阻害することを示し,RNAPIIによる転写がヘテロクロマチン形成と共役していることを示した11).さらに,CTDの反復配列すべての2番目もしくは7番目のセリンをアラニンに置換した変異体(ctd-S2A, ctd-S7A)を作製し調べたところ,ctd-S2AではヘテロクロマチンのH3K9meやsiRNAに影響はないが,ctd-S7A株ではsiRNAが産生されず,RNAi依存性ヘテロクロマチンが崩壊することを発見した(Kajitaniら,投稿中).CTD-S7のリン酸化は最近発見され,snRNA(small nuclear RNA)の転写に関与することが示唆されているが,その機能の詳細は明らかではない.分裂酵母では転写ユニットの前半および後半で高くなる(Kajitaniら,投稿中).

さらに詳細な解析の結果,図2に示すモデルを考えている.RITSはCTD-S7P依存的に転写途中のRNAPIIと相互作用する.RNAPIIと相互作用したRITSのChp1はそのクロモドメインを使い,ヘテロクロマチンから転写されるRNAを捕捉すると同時にH3K9me2, 3に結合し,ncRNAをクロマチン上につなぎとめる(図2左).そして,RITS複合体はつなぎとめたncRNA上にタンパク質相互作用を介してRNAi因子を集合させ,効率よくsiRNAを生産する(図2中央).また,Ago1が結合するsiRNAを使ったRITS複合体のRNA結合活性は,siRNA増幅ではなくその後のH3K9メチル化反応に関与すると考えている(図2右).

4. おわりに

以上,RNAPII-CTDのリン酸化を介して,転写と共役してクロマチン構造制御を行うシステムを紹介した.CTDリン酸化以外にも,転写伸長に働くヒストンシャペロンSpt6や転写開始から伸長に働くメディエーターのRNAi依存性ヘテロクロマチン形成への関与など,転写装置によるクロマチン制御の例が報告されている12, 13).現在,ゲノムのほとんどがRNAPIIにより転写され,多くのncRNAが産生されていることが明らかになり,ncRNAの機能が注目されている.しかし,X染色体不活化に関わるxistRNAなどのクロマチン制御ncRNAが存在する一方で,RNAPII自体が転写と同時にその領域のクロマチン構造を制御することが重要で,転写されるncRNAには機能がないケースもあるかもしれない.その意味で,ゲノム全体のクロマチン構造制御を理解するために,RNAPIIによる転写と共役したメカニズムは今後重要な研究対象となると考えている.

謝辞Acknowledgments

実際に実験を行い興味深い結果を出し,さまざまな議論をしていただいた北海道大学理学研究院化学部門生物有機化学研究室のメンバーに感謝します.

引用文献References

1) Tanny, J.C. (2014) Transcription, 5, 988093.

2) Eick, D. & Geyer, M. (2013) Chem. Rev., 113, 8456–8490.

3) Krogan, N.J., Dover, J., Wood, A., Schneider, J., Heidt, J., Boateng, M.A., Dean, K., Ryan, O.W., Golshani, A., Johnston, M., Greenblatt, J.F., & Shilatifard, A. (2003) Mol. Cell, 11, 721–729.

4) Youdell, M.L., Kizer, K.O., Kisseleva-Romanova, E., Fuchs, S.M., Duro, E., Strahl, B.D., & Mellor, J. (2008) Mol. Cell. Biol., 28, 4915–4926.

5) Carrozza, M.J., Li, B., Florens, L., Suganuma, T., Swanson, S.K., Lee, K.K., Shia, W.-J., Anderson, S., Yates, J., Washburn, M.P., & Workman, J.L. (2005) Cell, 123, 581–592.

6) Suzuki, S., Kato, H., Suzuki, Y., Chikashige, Y., Hiraoka, Y., Kimura, H., Nagao, K., Obuse, C., Takahata, S., & Murakami, Y. (2016) Nucleic Acids Res., 44, 4147–4162.

7) Suzuki, S., Murakami, Y., & Takahata, S. (2017) Transcription, 8, 26–31.

8) Volpe, T.A., Kidner, C., Hall, I.M., Teng, G., Grewal, S.I.S., & Martienssen, R.A. (2002) Science, 297, 1833–1837.

9) Ishida, M., Shimojo, H., Hayashi, A., Kawaguchi, R., Ohtani, Y., Uegaki, K., Nishimura, Y., & Nakayama, J.-I. (2012) Mol. Cell, 47, 228–241.

10) Cam, H.P., Chen, E.S., & Grewal, S.I.S. (2009) Cell, 136, 610–614.

11) Kato, H., Goto, D.B., Martienssen, R.A., Urano, T., Furukawa, K., & Murakami, Y. (2005) Science, 309, 467–469.

12) Kato, H., Okazaki, K., Iida, T., Nakayama, J.-I., Murakami, Y., & Urano, T. (2013) Sci. Rep., 3, 2186.

13) Oya, E., Kato, H., Chikashige, Y., Tsutsumi, C., Hiraoka, Y., & Murakami, Y. (2013) PLoS Genet., 9, e1003677.

著者紹介Author Profile

村上 洋太(むらかみ ようた)

北海道大学大学院理学研究院化学部門生物有機化学研究室教授.理学博士.

略歴

1959年大阪府に生る.81年京都大学理学部卒業・同大学院理学研究科生物物理学専攻入学.87年同博士後期課程修了・理学博士取得.同年京都大学日本学術振興会特別研究員(がん)として京都大学ウイルス研究所がんウイルス部門勤務.90年米国スローンケタリング記念がんセンター博士研究員.93年京都大学ウイルス研究所がんウイルス部門助教授.2007年同准教授.09年より現職.

研究テーマと抱負

エピジェネティクス制御の分子機構の解明.エピジェネティクスが関与する幅広い生命現象に興味をもち基礎研究にこだわって研究をすすめて行きたい.

ウェブサイト

http://wwwchem.sci.hokudai.ac.jp/~bo/

趣味

ランニング・読書・将棋観戦・飲食.

This page was created on 2017-04-28T11:15:51.083+09:00
This page was last modified on 2017-06-19T11:59:38.419+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。