生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 445-448 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890445

みにれびゅうMini Review

ゼブラフィッシュにおけるプロスタグランジンシステムProstaglandins in Zebrafish

熊本大学生命科学研究部薬学生化学分野Department of Pharmaceutical Biochemistry, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kumamoto University ◇ 〒862–0973 熊本県熊本市中央区大江本町5番1号 ◇ 5–1 Oe-honmachi, Chuo-ku, Kumamoto 862–0973, Japan

発行日:2017年6月25日Published: June 25, 2017
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1. はじめに

プロスタグランジン(prostaglandin:PG)はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)を律速酵素として産生される一群の生理活性脂質である.主要なものとしてPGE2, PGF, PGD2, PGI2とトロンボキサン(thromboxane:TX)A2などがあり,さまざまな生理・病理に関与する1–4).これまでPGに関する研究は主にヒトやマウスといった哺乳類において進められてきたが,近年,第三のモデル生物とされるゼブラフィッシュなど,魚類を用いた解析からも新たな成果がでてきている.ゼブラフィッシュはその名のとおり,成魚の体に縞模様を有するコイ目コイ科の小型熱帯魚である.1)脊椎動物,2)多産(1個体から一度に100個ほど),3)母体外で受精・初期発生が速やかに進行する,4)胚が透明で視認性が高い,5)ゲノム配列がヒトと約70%一致するなどの特徴から,発生や創薬研究などのモデル生物として大きな注目を集めている.そこで,本稿ではゼブラフィッシュにおけるPGとその受容体に焦点をあてて,我々の研究成果を中心に概説する.

2. 生合成と受容体

1)哺乳類

哺乳類のCOXには恒常発現型のCOX1と発現誘導型のCOX2の2種が存在し,これらによりアラキドン酸がPGH2に代謝されると,それぞれの最終合成酵素を介して各PGが産生される1–3)図1).合成されたPGは細胞外に放出されるが,その半減期は短く,オータコイドとして近傍の細胞膜表面に存在する受容体に作用する.ヒトやマウスでは9種類のGタンパク質共役型受容体が見いだされており,PGE2はEP1, EP2, EP3, EP4受容体の4種,PGFはFP受容体,PGD2はDP(DP1), CRTH2(DP2)受容体の2種,PGI2はIP受容体,TXA2はTP受容体に特異的に作用する(図1).DP2受容体を除く8種の受容体は一次構造上の相同性が高く,共通の遺伝子から進化したと考えられる2, 3).一方,DP2受容体の構造はケモカイン受容体に近く,進化の過程で独立にPGD2をリガンドとするようになったと考えられている.EP2, EP4, DP1, IP受容体はGsに共役しアデニル酸シクラーゼの活性化(cAMPの産生)を,EP1, FP, TP受容体はGqに共役しCa2+動員系を,EP3, DP2受容体はGiに共役しアデニル酸シクラーゼの抑制およびCa2+動員系を主に伝達する.こうした受容体とその下流シグナルの多様性がPGの多彩な生理・病理作用の一因と考えられている.

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図1 哺乳類におけるPGの生合成経路と受容体

2)ゼブラフィッシュ

ゼブラフィッシュにおいては3種類のシクロオキシゲナーゼ(COX1, COX2a, COX2b)が見いだされている5, 6).さらに,ゼブラフィッシュ胚ホモジネートにCOXの産物であるPGH2を添加する実験より,PGH2よりPGE2, PGF, PGD2, PGI2, TXA2といった主要なPGもしくはその安定代謝物が生成されることが確認されており,哺乳類と同様にPGの各最終合成酵素が存在し,さまざまなPGが産生されることがわかっている7).また,3種のCOXおよび各最終合成酵素は組織・細胞,時期特異的に発現しており,PG産生経路の使い分けが示唆されている5–9).実際,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)は哺乳類におけるCOXの特異的阻害剤であるが,ゼブラフィッシュにおいてもインドメタシンなどのNSAIDsによってPG産生が抑制されることが明らかとなっている5).一方,ゼブラフィッシュのPG受容体に関しては断片的な報告・情報しかなく,その詳細は不明であった.そこで,我々はゼブラフィッシュPG受容体を同定し,その薬理学的特性を決定することとした.

3. ゼブラフィッシュPG受容体の同定

PG受容体はリガンドの種類よりも共役するシグナル伝達系によって一次構造上の類似性が高い2, 3).すなわち,4種類のEP受容体サブタイプ(EP1~EP4)間よりも,たとえば,Gs共役のcAMP産生系に働くDP1, EP2, EP4, IP受容体間の方が相同性が高い.そこでまずcAMP産生系Gs共役PG受容体の同定を10),次にCa2+動員系PG受容体の同定を試みた11)

1)cAMP産生系Gs共役PG受容体の同定

我々はヒトcAMP産生系Gs共役PG受容体の塩基配列をもとに各受容体のホモロジースクリーニングを行い,41.8~68.1%のアミノ酸の相同性を示す合計6候補を取得した.これらの翻訳領域全長を単離し,それぞれ培養細胞に発現させて,放射性標識PG関連化合物を用いた結合および結合競合実験を行うとともに,PG関連化合物の刺激によるcAMP産生量を調べた.その結果,ゼブラフィッシュEP2受容体を2種(EP2a, EP2b),EP4受容体を3種(EP4a, EP4b, EP4c),IP受容体を1種(IP)同定した(表1).EP2とEP4受容体はともに内因性リガンドとしてはPGE2と結合することから,いずれのオルソログであるかはヒト受容体のアミノ酸配列に対する相同性の高さと,ヒトやマウスのEP2, EP4受容体で開発された各選択的アゴニスト,アンタゴニストとの反応性から判断した.ヒトEP2受容体により高い相同性を示した2候補はEP2受容体のアゴニスト,アンタゴニストにより高い応答性を示し,ヒトEP4受容体により高い相同性を示した3候補はEP4受容体のアゴニスト,アンタゴニストにより高い応答性を示した.DP1受容体のオルソログは見いだせなかった.

表1 ゼブラフィッシュPG受容体
受容体アミノ酸数アミノ酸相同性Kd (nM) リガンド結合特異性35S]GTPγS 結合亢進応答百日咳毒素感受性アゴニスト応答性
EP1a39046.2%(ヒトEP1)4.8
3H]PGE2
PGE2>carbacyclin>PGFn.p.Ca2+NoPGE2=sulprostone>ONO-DI-004
PGE2=sulprostone≫ONO-DI-004
EP1b37343.0%(ヒトEP1)1.8
3H]PGE2
PGE2>carbacyclin=PGFn.p.Ca2+↑ (weak)NoPGE2=sulprostone
PGE2=sulprostone≫ONO-DI-004
EP2a36841.8%(ヒトEP2)6.9
3H]PGE2
PGE2≫carbacyclinn.p.cAMP↑n.p.PGE2>ONO-AE1-259=butaprost
PGE2≫ONO-AE1-259
EP2b34145.8%(ヒトEP2)6.0
3H]PGE2
PGE2>carbacyclinn.p.cAMP↑n.p.PGE2>ONO-AE1-259>butaprost
PGE2>ONO-AE1-259>butaprost
EP338263.5%(ヒトEP3)13.6
3H]PGE2
PGE2≫carbacyclin>PGFn.p.Ca2+Yes(両応答)PGE2=sulprostone>ONO-AE-248(両応答)
PGE2=sulprostone≫ONO-AE-248cAMP↓
EP4a40368.1%(ヒトEP4)1.4
3H]PGE2
PGE2>carbacyclin>PGFn.p.cAMP↑n.p.PGE2=ONO-AE1-329
PGE2=ONO-AE1-329
EP4b49757.4%(ヒトEP4)3.3
3H]PGE2
PGE2≫carbacyclinn.p.cAMP↑n.p.PGE2=ONO-AE1-329
PGE2=ONO-AE1-329
EP4c48650.5%(ヒトEP4)1.2
3H]PGE2
PGE2>carbacyclinn.p.cAMP↑n.p.PGE2>ONO-AE1-329
PGE2>ONO-AE1-329
FP139051.7%(ヒトFP)6.5
3H]PGF
PGF>carbacyclin=PGD2n.p.Ca2+NoPGF=fluprostenol
PGF=fluprostenol
FP237637.9%(ヒトFP)1.6
3H]PGF
PGF>PGD2>carbacyclin, PGE2, U-46619n.p.Ca2+NoPGF>fluprostenol
PGF>fluprostenol
IP36448.3%(ヒトIP)42.2
3H]iloprost
iloprost=carbacyclin>cicaprostn.p.cAMP↑n.p.iloprost=carbacyclin>cicaprost
TP37153.9%(ヒトTP)no datano dataU-46619Ca2+NoU-46619
n.p.: not performed.

2)Ca2+動員系PG受容体の同定

こちらもヒトCa2+動員系PG受容体の塩基配列をもとにしたホモロジースクリーニングを行い,37.9~63.5%のアミノ酸の相同性を示す合計6候補を取得した.同様に放射性標識PG関連化合物を用いた結合および結合競合実験を行うとともに,PG関連化合物刺激によるCa2+動員量とCa2+動員に対する百日咳毒素(Gi特異的阻害剤)の感受性を調べた.既存の放射性標識PG関連化合物のいずれも結合しなかった1候補に関しては,PG関連化合物刺激によるGTPγS結合実験を追加して行った.その結果,ゼブラフィッシュにおけるEP1受容体を2種(EP1a, EP1b),EP3受容体を1種(EP3),FP受容体を2種(FP1, FP2),TP受容体を1種(TP)同定した(表1).EP1とEP3受容体のいずれのオルソログであるかは,EP1受容体がGqと,EP3受容体がGiと共役することから,百日咳毒素に対する感受性で判断した.同定したゼブラフィッシュEP3受容体はcAMP産生抑制活性を有し,この活性も百日咳毒素感受性であった.DP2受容体のオルソログは見いだせなかった.

我々は合計12種類のゼブラフィッシュPG受容体を同定し,その薬理学的特性を明らかにした(表1).両DP受容体を除いたPG受容体は種を超えてよく保存されていることが明らかとなった(図2).ヒト,マウス,ゼブラフィッシュ間のアライメント解析(アミノ酸配列)の結果,どのPG受容体も膜貫通領域において保存性が高かった10, 11).一方で,EP4受容体は第1および第2細胞内ループの保存性が高いなど,受容体ごとの特徴もみられ,保存性の高い領域と受容体の機能面との関連が示唆された.また,ヒトやマウスPG受容体のアゴニストとアンタゴニストとゼブラフィッシュへのPG受容体の反応性を検討した結果,アゴニストの方がゼブラフィッシュで使用可能なものが多かった.個々の化合物の構造を比較すると,一般にアンタゴニストによりアゴニストの方が内因性リガンドに近い構造をしており3, 4),このことがアゴニストの方がゼブラフィッシュへの応用性が高かった一因かもしれない.

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図2 ゼブラフィッシュとヒトPG受容体の系統樹

各PG受容体は,ゼブラフィッシュを黒色,ヒト(human:h)を灰色で示した.

4. 嗅覚受容体

我々との共同研究においてYabukiらは,上述のFP1, FP2受容体ではなく,嗅覚受容体を介してPGFがオスゼブラフィッシュの誘引および求愛行動を促進することを見いだした12).排卵時などに漏れでるPGFがキンギョなどの魚類においてオスの性行動を促進させることが知られていたが,その詳細は不明であった.まず,YabukiらはゼブラフィッシュにおいてPGFがオス成魚を強力に誘引することを見いだした.この誘引は嗅上皮の外科的除去によって消失したことから,PGFは嗅覚を介してオスゼブラフィッシュを誘引することが示唆された.嗅上皮の各嗅細胞はそれぞれ1種類の嗅覚受容体を選択的に発現することから,c-fosを神経興奮の指標として,PGFにより神経興奮した嗅細胞に発現する嗅覚受容体をin situハイブリダイゼーション法を用いて探索した結果,OE-114-1受容体を見いだした.アミノ酸の相同性を比較した結果,OE-114-1受容体は嗅覚受容体βグループに属し,上述のPG受容体グループとは関連のないものであった.このOE-114-1受容体はPGFとその代謝産物である15-keto-PGFによって活性化され,構造が類似しているPGE2やPGD2によっては活性化されなかったことから,PGFに対する高い特異性が示された.TALENゲノム編集技術を用いて作製したOE-114-1受容体欠損オスゼブラフィッシュでは,PGFによる誘引行動が消失し,野生型メスゼブラフィッシュに対する求愛行動(追尾,接触,回り込みなど)の頻度・時間が顕著に減弱した.したがって,PGFは嗅覚受容体OE-114-1を介して性フェロモンとして作用し,オスゼブラフィッシュの求愛行動を促進することが明らかとなった.本研究は新たなPG受容体の発見に加え,オータコイドと考えられてきたPGが個体間コミュニケーションに関与することを見いだしたものであり,まさにPG研究の新たな局面を切り拓く成果となった.

5. おわりに

妊婦のNSAIDsの服用はさまざまな胎児毒性を誘発することから13),発生においてPGが重要な役割を担うことが示唆されているが,その詳細は不明なままである.ゼブラフィッシュは上述のように発生研究に有用なモデル生物であり,その活用により初期発生におけるPGの役割,作用機序の解明にブレイクスルーが期待される.さらに,創薬研究の一例として,ゼブラフィッシュにおいて見いだされたPGE2による造血幹細胞の増加作用が哺乳類でも確認され14),臍帯血移植前の調整薬として開発が進められている事例もあり15),我々が確立したゼブラフィッシュPG受容体の研究基盤が発生や創薬分野などにおけるPG研究の発展に貢献することを期待したい.

謝辞Acknowledgments

本稿の執筆にあたり理化学研究所脳科学総合研究センターシナプス分子機構研究チームの吉原良浩チームリーダー,山梨大学大学院総合研究部医学教育センター発生生物学分野の川原敦雄教授に厚く御礼申し上げます.

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著者紹介Author Profile

土屋 創健(つちや そうけん)

熊本大学大学院生命科学研究部薬学生化学分野講師.博士(薬学).

略歴

1999年京都大学薬学部卒業.2004年同大学院薬学研究科博士課程修了.同年同大学院薬学研究科ポスドク.07年同大学院薬学研究科助教.12年熊本大学大学院生命科学研究部助教.14年より現職.

研究テーマと抱負

プロスタグランジンの生理的役割の解明と創薬への応用.シングルセルトランスクリプトーム解析手法などを駆使し,様々な方から関心を持ってもらえる研究成果を出していきたい.

ウェブサイト

http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/seika/

趣味

映画鑑賞.

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