生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(4): 489-497 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890489

総説Review

進化的に保存された中心体の複製と成熟過程の分子機構Conserved molecular mechanisms of centrosome duplication and maturation

国立遺伝学研究所分子遺伝研究系中心体生物学研究部門Division of Centrosome Biology, Department of Molecular Genetics, National Institute of Genetics ◇ 静岡県三島市谷田1111 ◇ 1111 Yata, Mishima, Shizuoka, Japan

発行日:2017年8月25日Published: August 25, 2017
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中心体は,動物細胞を含む多くの真核生物において進化的に保存された細胞小器官であり,微小管形成中心として機能する.中核的構造体である中心小体を中心体マトリックスが取り囲み,機能的な中心体が形成される.この特徴的なシリンダー型構造体は1細胞周期ごとに一度だけ,1コピー複製される.さらに,増殖を停止した細胞においては,中心小体は細胞膜にアンカーし,細胞外のシグナルを感知する繊毛の基底部としても機能する.すなわち,細胞分裂を含む多様な生命現象において中心小体は重要な役割を果たしている.近年,さまざまなモデルシステムを用いた網羅的アプローチにより,中心小体形成に必要な制御因子と構成因子,またそれら因子間の相互作用ネットワークの解析が精力的に進んでいる.細胞周期進行に応じて,複数の構成因子がどのようにコントロールされ,この複雑な構造体を構築するのか? 中心小体を1細胞周期中に1コピーだけ複製することを保証するメカニズムとは? 中心小体構造はどのように微小管形成中心としての機能を獲得するのか? 細胞がん化,遺伝病,男性不妊症を含むさまざまな疾患と密接に関連することで注目されている中心小体の複製機構,機能を獲得する成熟のメカニズムに関して,本稿では筆者らのこれまでの報告も交えて,最新の知見を紹介する.

1. はじめに

中心体は,動物細胞と一部の下等植物に存在する進化的に保存された細胞小器官であり,その核となる構造体である中心小体がその周辺にPCM(pericentriolar material)タンパク質群をリクルートすることで,形成される.中心体は,微小管形成中心として機能する.また,微小管の重合を促進し細胞骨格として重要な微小管ネットワークを構築することで,細胞形態や移動のみならず,細胞内輸送にも大事な役割を果たしている.分裂期には,PCMが拡大し中心小体周辺に階層的なマトリックスが形成され,細胞周期において相対的には短時間のうちに,二極化した分裂期紡錘体が形成され,効率的に染色体分配が行われる.連続的な細胞分裂において,染色体分配が正確に,かつ絶え間なく行われるためには,中心体もDNAと同様に細胞周期に従って一度だけ複製されることがきわめて重要である(図1).中心体の複製はその中核である中心小体構造の複製により規定されている.このシリンダー型構造体に関して,分裂前の細胞から持ち込まれる既存のものは母中心小体,新たに形成される方は娘中心小体と呼ばれている.娘中心小体はG1後期からS期にかけて複製され始め,1細胞周期に一度だけ,驚くべき精度で同じ形,同じスケールで高い再現性をもって構築される(図2).この精密な複製過程は,巧妙に仕組まれた構成因子群の段階的な自己組織化によるものだが,その詳細に関しては未知の部分が多い.また,母中心小体に対して,新たに形成される娘中心小体数は必ず一つに制限される“1対1ルール”が適用されている.すなわち,“1細胞周期に1回”と“1対1ルール”という二つの基本原則により,中心小体複製とそれに伴うゲノムの安定性が維持されている.実際,中心小体の過剰複製は染色体の不安定化を誘発し,細胞がん化の初期過程に関与することが示唆されており,多岐にわたるヒトがん細胞で中心小体の過剰複製が観察されている1)

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図1 中心小体複製サイクルと細胞周期

細胞周期進行と同調して,段階的に中心小体は構築される.1細胞周期に1回,母中心小体から娘中心小体が複製される.一対の母–娘中心小体は,分裂期において紡錘体極を形成し,染色体分配に関与する.

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図2 中心小体・カートホイール構造とその構築過程

中心小体の構築はカートホイール構造から開始される.カートホイール構造は基底部としての役割の他に,中心小体の9回対称性も規定する.北川大樹(2013)細胞工学,vol. 32, No. 3, 285–290から改変.

また,中心小体は微小管形成中心の役割の他に,間期において細胞膜にアンカーすることで,細胞外シグナルを受容する細胞小器官である繊毛の基底部として機能する.繊毛形成異常により,繊毛病(ciliopathy)と総称される臓器錯位,多指症,嚢胞腎などを含むさまざまな疾病が起きることが報告されている1).さらに,中心小体は精子鞭毛の基底部としても機能するため,近年,中心小体形成不全を原因とする男性不妊症の可能性も指摘されている.中心体と遺伝子疾患との関連では,遺伝性小頭症(autosomal recessive primary microcephaly:MCPH)の原因遺伝子の大部分が中心体局在因子として同定されており,胎児期の脳発生における中心体機能に注目が集まっている.この疾患では,脳の層構造自体に異常は伴わないが,発生時の皮質領域において神経前駆細胞数の減少が確認されており,その結果,脳全体のサイズが小さくなると推測されている.特筆すべきは,原因遺伝子群の中には,進化的に保存された中心小体形成に必須の因子が複数含まれており,中心小体構造の不備が脳発生に影響を及ぼしている点である.このように,中心小体は微小管ネットワークの中心部,形質膜とダイナミックに細胞内局在を変化させることで,多彩な生命現象に関与する多機能な細胞小器官であると考えられる.ここではその基礎となるべき中心小体形成,および成熟の分子機構に関する研究を中心に概説する.

2. 中心小体構造と複製サイクル

微小管が放射線状に伸長するその形成中心には,二つ一組のシリンダー型構造体である中心小体が互いにL字型に直行した形で存在している.中心小体の複製は細胞周期の進行に伴い,いくつかの段階を経て行われる2, 3)図2).まず,一組の娘–母中心小体が分裂期後期に物理的に解離し,各々の基底部が紐状のタンパク質複合体によるリンカーによりつながれた状態になる.娘中心小体は母中心小体から解離することにより,次の細胞周期において母中心小体として成長し,複製能を獲得する.この娘–母中心小体の解離はcentriole disengagementと呼ばれ,分裂期中にこの過程を経ることで,次の細胞周期において両者をテンプレートとした複製が保証される(ライセンス化)と考えられている.よって,G1期には,複製能を持った二つの母中心小体が細胞内に存在し,G1後期から母中心小体の基底部付近において,新たな娘中心小体の形成が開始される.娘中心小体は主にG1後期からS期にかけて構築されると考えられており,その基底部分であり中心小体の9回対称性を規定するカートホイールと呼ばれる特徴的な構造体の形成から開始される(図2).カートホイール構造がいくつかの層をなすことで基底部分が構築され,その周辺には三連微小管が九つ配置される.その後,中心小体前駆体はさらなる伸長を経て,先端部がキャッピングされ,娘中心小体構築の大枠が完了する.この娘中心小体は分裂期を経て母中心小体から解離し,次の細胞周期のG2期までにアペンデージ構造などが修飾されることで成熟した母中心小体となる.この一連の過程は進化的によく保存されていることから,それを制御する分子機構も保存されていることが推測される.

3. 中心小体形成に必要な進化的に保存された因子群とその相互作用

中心小体は極小の細胞小器官であるため,生化学的解析による構成因子の単離は非常に困難であり,その実態は長い間謎に包まれていた.しかし,近年の網羅的中心体プロテオミクス解析により,中心体局在タンパク質,また中心小体やPCMを構成する因子群の全貌は明らかになりつつある.また,先駆的な仕事としてあげられるのは,線虫初期胚をモデルとし,初期発生の細胞分裂に異常が認められる表現型を観察したゲノムワイドRNAiスクリーニングである4, 5).さらに,ほぼ同時期に行われた線虫変異体を利用した順遺伝学的解析と合わせて,中心小体複製に必須の因子としてSPD-2(spindle defective-2)/Cep1926),ZYG-1(zygote defective-1)/Plk47),そしてspindle assembly abnormal protein family(SAS family)に属すSAS-5/STIL8),SAS-6/HsSAS-69, 10),SAS-4/CPAPが同定された10, 11)(右表記はヒトオルソログ).SPD-2はこの中でも最初に中心小体近傍にリクルートされ,他因子が中心小体へ局在するためのプラットフォームを形成すると同時に,PCM形成にも重要であることが示されている12, 13).最近,SPD-2のさらに上流で機能する新規因子SAS-7が同定され,SPD-2との物理的な結合を介して,SPD-2を中心小体へリクルートすることが示され,このメカニズムの種間保存性に注目が集まっている14).プロテインキナーゼであるZYG-1はSPD-2に続いて中心小体に局在し,SAS-5/SAS-6複合体の中心小体への局在を制御している12, 13, 15).最近,新たな中心小体複製制御因子としてプロテインホスファターゼであるPP2Aが同定され,SAS-5を脱リン酸化することでSAS-5/SAS-6複合体が細胞質から母中心小体の近傍へと輸送され,娘中心小体の形成が開始されることが明らかになった16).その後,SAS-4が構築途中の中心小体前駆体に運ばれることで,その外側に微小管が修飾され,中心小体の伸長,成熟過程を経てその構築が完了する12, 13).これら因子群は進化上よく保存されており,ショウジョウバエ,ヒト培養細胞など他のモデル系を用いた同様のスクリーニングにおいても,これらのホモローグが中心小体複製に必須であることが示されている2, 3).また,線虫初期胚で先行して明らかにされた因子間の相互関係は他の生物種においても大概保存されていることが示されており,中心小体形成のコアパスウェイを構成していると考えられている2, 3)図3).

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図3 進化的に保存された中心小体複製パスウェイ

中心小体複製に必須のコアな因子群,およびそれら因子間の相互関係は種間を通じて保存されている.上が線虫,下がヒトにおける例.また,ヒト細胞においてPlk4–STIL–HsSAS-6(赤枠)は,いずれかの過剰発現により娘中心小体の過剰複製を誘導できる.

SAS-6は中心小体または,繊毛,鞭毛の基底小体(中心小体が膜に結合し,繊毛または鞭毛を形成する場合,この構造を基底小体と呼ぶ)を持つ生物種間を通じてその構造上よく保存されており,普遍的に中心小体複製の初期過程,特にカートホイール構造の中央部の構築に必須である9, 10, 17–22).また,がん抑制遺伝子であるPolo-like kinase 4(Plk4)はZYG-1の機能的ホモログであり,同様に中心小体複製に必須であることがショウジョウバエとヒト培養細胞において明らかにされている2).Plk4の中心小体局在はAsterless/Cep152とDSpd-2/Cep192が相補的に制御していることがショウジョウバエとヒト培養細胞で示されている.一方,SAS-5の他種ホモローグに関しては長い間不明であったが,遺伝性小頭症(MCPH)の原因遺伝子の一つであるSTIL(ショウジョウバエではAna-2)がタンパク質の構造上,SAS-5のホモローグであることが示唆されている.実際,RNAiを用いてSTILをヒト培養細胞中にて発現抑制すると,中心小体複製が著しく阻害される23).さらに,Plk4, HsSAS-6(human SAS-6)と同様に,STILの過剰発現により娘中心小体の過剰複製が誘発されることが報告されている24)図3).いずれの表現型もHsSAS-6依存的に起こることから,カートホイール構造の過剰形成が原因と考えられる.これらコアな因子群が普遍的に中心小体複製の制御に重要であることは間違いないが,高等生物においては中心小体構造もより複雑化され,これら因子群の他にも中心小体構築に必要な因子が存在し,現在その全容の解明が進められている.

4. 中心小体複製の基本原理

娘中心小体の複製を保証しながらも,コピー数を一つだけに制限し,過剰な複製を防ぐ抑制システムはいかにして実現されているのだろうか? という疑問に戻りたい.この娘中心小体1コピーの法則は進化的に保存されていることから,それを保証する分子機構も保存されていることが推測される.進化的に保存された中心小体形成に必須の因子の中で,Plk4, STIL, HsSAS-6の3因子はヒト培養細胞における過剰発現により中心小体が過剰に複製されることが示されている.よって,新たに複製される中心小体のコピー数を厳密に維持するためには,これら因子群の発現量,細胞内局在そして活性は細胞周期を通じて適切に制御される必要がある.さらには,これら3因子が密接に相互作用することで,娘中心小体のコピー数を制御している可能性が考えられる.筆者らはこれまでに,Plk4-STIL-HsSAS-6の物理的相互作用,発現制御における相互作用の解析を通して,中心小体形成開始と,余分な中心小体の形成を抑制する負のフィードバックシステムが連動していることを明らかにしてきた25)図4).

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図4 中心小体複製開始時におけるPlk4-STIL相互作用により,娘中心小体の複製が1コピーに限定される

中心小体の複製はその基底部にあたるカートホイール構造から始まる.また筆者らはこれまで,中心小体複製に必須のタンパク質であるSAS-6が自己会合することで,カートホイール構造の中心部が構築されるモデルを提唱してきた20).しかし,同様に,中心小体の初期過程に必須の役割を果たすPlk4, Cep152, STILなどがHsSAS-6の中心小体局在に必須であることから,より上流に位置する因子群が相互作用することでカートホイール構造が形成されやすい環境を整えている可能性が考えられた.この分子機構を明らかにするために,筆者らはPlk4, Cep152, STIL, HsSAS-6の物理的相互作用を検討し,以下の結論を得た.まず生化学的解析から,Plk4がSTILと直接結合し,STILのC末端領域に存在する種間保存性の高いSTANモチーフをリン酸化することで,STIL-HsSAS-6複合体形成を誘導し,細胞内で中心小体構築が開始される分子機構を明らかにした25).さらに各因子の精製リコンビナントタンパク質を用いることで,この過程をin vitroで再現することに成功している.この一連の分子機構に関しては,他のグループが行ったショウジョウバエ培養細胞を用いた研究からも同様の結果が得られていることから,種間で共通した普遍的な機構である可能性が高い26–29).加えて,超解像顕微鏡を用いた観察により,中心小体が形成し始める前のG1期には,Plk4は母中心小体を取り囲むリング様の局在を示すことを見いだした25).このステージは,Plk4が娘中心小体を形成する準備段階である可能性が考えられる.G1/S期に入り,母中心小体近傍へのSTILの流入量が増加すると,Plk4によりリン酸化されたSTILがHsSAS-6と結合し,カートホイール構造を構築し始める.それと同時に,Plk4の局在がリング様から,STIL-HsSAS-6複合体が局在する部位,すなわちカートホイール構造形成部位に限局化される.この現象は,娘中心小体が一つ形成され始めると,他の余分な娘中心小体の形成を排除するため,STILと結合していないPlk4を迅速に分解することを反映している.すなわち,中心小体が新たに形成されることを感知すると同時に,他の中心小体ができないように阻止するという負のフィードバック機構が働いている可能性が考えられる25).筆者らは,現在,超解像顕微鏡を使用した定量的な分子動態の観察,および数理モデルを融合した解析から,中心小体の複製を1コピーに保証する機構として,この新たなモデルを提唱し,その妥当性や発展性に関して検討を加えている.

5. 娘–母中心小体変換と微小管形成中心としての機能獲得

複製された娘中心小体は,母中心小体から物理的に解離することにより次の細胞周期において母中心小体となり,その周囲にPCMを形成し,微小管形成中心として機能すると同時に,新たな中心小体を複製することができる.娘中心小体は,主に細胞周期中S期に多くの構成因子を取り込むことでシリンダー型の構造体として伸長し,成熟した母中心小体としての機能を獲得する.この娘–母中心小体変換において鍵となる因子,重要なステップを担う分子機構はどのようなものであろうか? 筆者らは,中心体複製に関与することが示されていたショウジョウバエAna1の脊椎動物ホモローグであるCep295を見いだし,娘–母中心小体変換に重要な因子であることを明らかにした30).Cep295はN末端にDDC8-like(differential display clone 8),C末端にALMS(alstrom syndrome)ドメインを有しており,筆者らは脊椎動物ホモローグを含みAna1まで進化的によく保存された約40アミノ酸残基からなる配列,PICA(present in C-terminal of Ana-1)モチーフをBLAST検索による相同性比較により同定した.このモチーフの存在から,Ana1のヒトでのホモローグはCep295である可能性が強く示唆されため,Cep295の中心体形成における機能に注目し解析を行った.RNAi法を用いてCep295をヒト培養細胞内で発現抑制した結果,中心小体の数が著しく減少し,単極紡錘体の形成が顕著であった.これらの結果は,Cep295が何らかの形で中心小体形成に必須であることを示している.特徴的な表現型として観察されたのが,間期の細胞中二つある母中心小体のうち,古い母中心小体(old mother centriole, RNAiの効果を受けにくい)近傍では少なくともHsSAS-6などの娘中心小体マーカーの存在が確認できたのに対し,新しい母中心小体(new mother centriole, RNAiの効果を受けやすい)の近傍では娘中心小体の複製が完全に阻害されたことである(図5).この結果から,Cep295が母中心小体への成熟過程,すなわち娘–母中心小体変換に関与する可能性が疑われた.次に詳細な機能を解明するため,Cep295発現抑制によるCep192の中心小体局在への影響を検討した.Cep192はこれまで,母中心小体が複製すること,またPCM形成や微小管形成中心として機能するのに必須であることが広く認められていた.Cep295を発現抑制した細胞では,Cep192は娘中心小体の周囲に局在できず,中心小体の成熟過程が著しく阻害されるようすが観察された.実際に,筆者らおよび他グループは,これらの娘中心小体が通常よりも長さが短かったり,末端部の構成因子が欠損していたり,三連微小管安定化のためのチューブリン翻訳後修飾が欠落していたりすることを見いだした30–34).加えて,この未熟な中心小体には母中心小体としての性質,すなわち微小管形成中心としての機能や新しい中心小体を複製する能力が完全に失われていた.さらに,この原因を解明するため超解像顕微鏡を用いて中心小体の微細な構造を観察すると,Cep295は中心小体形成の比較的早い段階においてすでにCep192が局在するための足場のような構造体を形成しているようすが確認された.実際に,Cep295とCep192は物理的に相互作用し,この直接の結合がCep192の娘中心小体への局在に必要であることを示した.これら一連の結果は,Cep295がCep192の上流で作用し,娘–母中心小体変換に重要であることを強く示唆している.また,興味深いことに,Cep192のCep295結合部位を過剰発現させると,中心小体におけるCep295–Cep192複合体形成が顕著に阻害され,PCM形成が抑制された.シリンダー型構造である中心小体がどのようにPCMをリクルートし,微小管形成中心として機能するかは長年の謎であったが,今回筆者らは,進化的に保存された二因子Cep295–Cep192の複合体が中心小体とPCMのインターフェイスとして機能することで,微小管形成中心が構築されるというモデルを初めて確立した30)

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図5 進化的に保存された因子Cep295は娘–母中心小体変換に重要である

6. 中心小体9回対称性を規定するカートホイール構造の分子基盤

中心小体の最大の特徴である9回対称構造は,中心小体の基底部を構成するカートホイール構造により主に規定される.中心小体を持つ生物に必ず存在し,進化上保存された因子であるSAS-6は中心小体の基底部分に局在し,カートホイール構造の形成に関与することは知られていたが19),その分子機序の詳細に関しては不明であった.実際,クラミドモナスの順遺伝学的スクリーニングにより得られたBld12(CrSAS-6,クラミドモナスSAS-6)変異体ではカートホイール構造が欠失し,中心小体の9回対称性が崩れることが知られていた19).また,カートホイール構造に局在する他因子の存在も示唆されていたが,カートホイール構造を構成する具体的な構成因子や,その9回対称構造を形作る分子機序に関しては不明であった.筆者らは電子顕微鏡による高解像度のSAS-6複合体の観察や,その生物物理学的特性の解析を行った.また,X線結晶構造解析から得られたデータを駆使した構造シミュレーションにより,SAS-6高次複合体がカートホイール構造の中心部を形成し,その9回対称構造を規定していることを初めて証明した20)図6, 7).また,実際にCrSAS-6の精製リコンビナントタンパク質を用いてカートホイールの中心部に類似した構造体をin vitroで再構築することに成功した20)図6).

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図6 SAS-6高次複合体の構造シミュレーション

(A) CrSAS-6のN末端領域とコイルドコイルドメインの一部からなるホモ二量体(a)とCrSAS-6ホモ二量体どうしの結合インターフェイスを現すCrSAS-6のN末端領域間の結合(b)のX線結晶構造解析像.(B)二つのX線結晶構造解析像を用いた高次複合体のシミュレーションの模式図.(C) CrSAS-6高次複合体のモデル.CrSAS-6ホモ二量体が九つ自己会合してリング構造を形成している.(D)精製リコンビナントCrSAS-6を用いた複合体のin vitro再構成.SAS-6高次複合体の電子顕微鏡画像.スケールバー:50 nm. Kitagawa, D., et al. (2011) Cell, 144, 364–37520) より改変.

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図7 SAS-6はカートホイール構造の中央部を構成し,中心小体の9回対称構造を規定する

中心小体カートホイール構造の構築モデル.精製リコンビナントCrSAS-6ホモ二量体の電子顕微鏡画像.スケールバー:50 nm. Kitagawa, D., et al. (2011) Cell, 144, 364–37520)より改変.

SAS-6タンパク質は進化的保存性の高い二つの特徴的なドメイン構造,すなわちPISA(present in SAS-6)モチーフをN末端側に,中央に長いコイルドコイルドメイン(CC)を有している.この二つの特徴的なドメインに着目し,SAS-6がどのような形状や生物物理学的特性を有しているのか解析を行った.最初に,大腸菌から精製したSAS-6CCリコンビナントタンパク質の形状を電子顕微鏡を用いて観察し,多角度光散乱検出器(MALS)による解析から多量体形成の可能性を検討した.その結果,SAS-6CCが桿状のホモ二量体を形成することを確認した(図7).

次に,未知のドメイン構造であったPISAモチーフを含むN末端領域の超遠心分析およびX線結晶構造解析を行った.N末端領域はフォールディングしたドメインであることが配列上推定され,超遠心分析により,球状の二量体を組むことが明らかになった.X線結晶構造解析の結果,興味深いことにSAS-6のN末端領域はDNA修復に関与するXRCC4ファミリーと構造的類似性がみられた.また,SAS-6のN末端領域は結晶中でも二量体として観察されたことから,CCドメインを介して形成されたSAS-6ホモ二量体がN末端領域を介してさらに高次の複合体を形成することが推測された.さらに,この自己会合を担うN末端領域中の結合インターフェイス上に存在するアミノ酸は種間を通じて進化上非常によく保存されていた.実際にこのアミノ酸に変異を導入し,SAS-6のN末端領域どうしの結合を阻害すると,線虫初期胚およびヒト培養細胞において,この変異体は中心小体に局在できず,中心小体の複製も顕著に阻害された.この結果は,CCドメインを介するSAS-6ホモ二量体がN末端領域を介してさらに高次の複合体を形成することが,中心小体構築に必要であることを示している.

次に,電子顕微鏡を用いた詳細な解析により,カートホイールの微細構造が明らかにされているクラミドモナスSAS-6(CrSAS-6)を用いて解析を行った.CrSAS-6高次複合体のモデルを検証することを目的に,CrSAS-6ホモ二量体,およびN末端領域のX線結晶構造解析を行い,そのデータを融合することでCrSAS-6高次複合体の構造シミュレーションを行った.その結果,驚くべきことにCrSAS-6ホモ二量体がN末端領域を介して会合することで,9回対称のリング構造を構築する可能性を見いだした(図6).さらに,このような構造体が実在するかを検証するために,CrSAS-6リコンビナントタンパク質を用いたin vitro再構成実験を行い,複合体形成のようすを観察した.その結果,推察どおりCrSAS-6ホモ二量体は自己会合し9回対称のリング様構造を形作ることが観察された(図6).CrSAS-6のN末端領域が連結することで,中央に直径約23 nmのリング部分が形成され,外側に向かってCCドメインが突き出している.このin vitroで再構成された構造は,電子顕微鏡で観察されていたカートホイール構造中央部と形やスケールがよく一致している(図7).以上の結果は,SAS-6単一の因子で中心小体の9回対称性が制御される可能性を示すものであり,中心小体構築の開始点を可視的に捉えた最初の例と捉えることができる.このモデルに関しては,ゼブラフィッシュやトリパノソーマ科に属するリーシュマニアのSAS-6を用いた構造生物学的解析ともほぼ一致している21, 22).今後この系をベースに他構成因子などの追加により,SAS-6リングを核としたカートホイール構造のin vitro再構成が進み,その形成機構の理解がさらに加速することが期待される.

7. おわりに

中心体複製に関する研究は現在新たな局面を迎えていると考えられる.この10年ほどの画期的な研究の進展で,中心小体やPCMの構成因子の全貌はかなり明らかになりつつある.しかし,これらの因子群がどのように有機的なネットワークを形成し,各局面において柔軟に機能的な中心体の形成を制御しているのかは未解明の部分が多く,今後も大きな課題として残されている.がんの初期過程において染色体不安定化を誘発する中心体の過剰複製の原因の一つとして,中心体複製のライセンス化制御の破綻による可能性が指摘されている.しかし,中心体が1細胞周期において1コピーしか複製されないように厳密に制御する基本原理,それを駆動する分子メカニズムに関しては,端緒についたばかりである.また,最近,極低温電子顕微鏡法を用いた解析により,中心小体構造の全体像がこれまでにない高解像度で明らかにされつつある35).今後さらに,各構成因子のX線結晶構造解析,電子顕微鏡を利用した中心小体構成因子複合体の単粒子解析,超解像顕微鏡による中心小体内局在の解析が進めば,最終的な中心小体構築の設計図は明らかになっていくであろう.さらには,構成因子の段階的な複合体形成を定量的に解析し,構築過程を時間軸に沿ってモデル化することもその先の課題として考えられる.また,生体内における中心体–繊毛の動態,さまざまな局面における生理的意義の解明は,基礎研究的側面において重要であるばかりでなく,多種の疾患との関連を考慮した医学的観点からも今後の重要な研究課題である.

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著者紹介Author Profile

北川 大樹(きたがわ だいじゅ)

国立遺伝学研究所分子遺伝研究系中心体生物学研究部門教授.総合研究大学院大学生命科学研究科遺伝学専攻教授兼任.博士(薬学).

略歴

2005年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了(堅田利明研究室).06年スイス実験癌研究所・スイス連邦工科大学ポスドク(Pierre Gönczy研究室).その間,日本学術振興会海外特別研究員,EMBOフェロー.11年より国立遺伝学研究所新分野創造センター特任准教授.15年より現職.

研究テーマ

中心体複製の基本原理の解明.微小管形成中心を標的とした新しい抗がん剤の開発.現在,中心体研究に意欲的なポスドク,大学院生を募集中です.他大学院に所属する学生の受け入れも可能なので,興味のある方はご連絡ください.

趣味

サッカー,ランニング,ヨーロッパの史跡めぐり,料理.

本総説は2016年度奨励賞を受賞した.

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