生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(4): 559-563 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890559

みにれびゅうMini Review

YAP因子を介したメカニカルストレスによるミエリン形成制御機構YAP functions as a mechanotransducer in oligodendrocyte morphogenesis and maturation

自然科学研究機構生理学研究所分子神経生理National Institute for Physiological Sciences (NIPS) Division of Neurobiology and Bioinformatics ◇ 〒444–8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5–1 山手2号館7階 ◇ 5–1 Higashiyama-Azana, Myodaiji, Okazaki, Aichi 444–8787, Japan

発行日:2017年8月25日Published: August 25, 2017
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1. はじめに

地球上のすべての生物は重力の影響を受けている.また生物は日常生活の中で運動に伴う進展・圧縮刺激などの物理的な力の影響を常に受容している.この機械的刺激(メカニカルストレス)は,心臓や血管,呼吸器,骨,骨格筋および他の組織の機能にさまざまな影響を与えていると考えられている.また,一つの受精卵から成体が形成される発生期にも,細胞どうしの接着や細胞の伸展による力が細胞内で発生している.これらのことから,生体の恒常性の維持や個体発生に関わるファクターとして,メカニカルストレスは非常に重要な役割を果たしていると考えられる.

2. メカノトランスダクション

メカニカルストレスによって活性化される細胞内シグナル伝達は,メカノトランスダクションと呼ばれる.接着斑は細胞の接着部位に局在し,インテグリンなどの接着分子とその裏打ちタンパク質をはじめ,多くの分子が集積している部位である.アクチン細胞骨格が接着斑に収束していることから,アクチン–ミオシンによる細胞内の張力が接着斑に負荷される.接着斑で形成される裏打ちタンパク質の複合体は,細胞外マトリックス(ECM)に結合するインテグリン,インテグリンを細胞骨格に結合させるアダプタータンパク質,および細胞内シグナル伝達の下流エフェクターであるメカノトランスデューサーからなる1).メカニカルストレスは,インテグリン2),p130Cas3),talin4)などの接着斑連関メカノセンサータンパク質の立体構造変化を介して細胞内の生化学シグナルを活性化する.すなわち,細胞外から負荷されたメカニカルストレスが,メカノセンサーを刺激し5),paxillinまたはzyxin6)のような接着斑タンパク質複合体を活性化し,下流のメカノトランスデューサーへシグナルが伝達されるという一連のシグナル伝達(メカノトランスダクション)が誘導される.これまでに,メカノセンサーにはイオンチャネルタイプと,タンパク質の立体構造が変化するタイプが想定されている.イオンチャネルタイプは細胞膜の伸展によりチャネルのポアが開口し,陽イオンが流入することにより,細胞内シグナルが活性化される.一方,細胞の伸展により接着斑に結合するメカノセンサータンパク質の立体構造が変化し基質ドメインや結合ドメインが露出し,キナーゼによるリン酸化が亢進するタイプや共役体の結合が亢進するタイプが知られている.

3. メカノトランスデューサーYAP

YAP(Yes-associated protein)タンパク質は,がんの発症や個体発生で重要な機能を担うことが知られているが,それらについては別の総説を参照されたい7)

メカニカルストレスを負荷された細胞では,YAPが活性化して下流へシグナルを伝達することが知られてきている.この作用からYAPはメカノトランスデューサーと呼ばれている.細胞を低密度で培養し,個々の細胞が十分に伸長して接着できる条件では,YAPは核に局在するが,一方で,細胞を高密度で培養し,細胞どうしが密に接着して個々の占有面積が限定されている条件ではYAPは細胞質に局在することが知られている8).細胞を低密度で培養し,個々の細胞が十分に延展して接着する場合には,アクチンストレスファイバーが発達するが,細胞を高密度で培養した場合には,それが阻害される.このようなアクチンストレスファイバーの発達度合いの変化が,YAPの細胞内局在を変化させることが明らかにされた.細胞を低密度で培養した場合でも,アクチンストレスファイバーの発達を阻害する薬剤を添加すると,通常は核に局在するYAPが細胞質にとどまることが報告されている9).細胞にメカニカルストレスを加えるとアクチンストレスファイバーの発達が起こるため1),メカニカルストレスとYAPの局在変化は相互に連関している.実際に,ヒト乳腺上皮細胞に伸展刺激を加えるとYAPの細胞内局在の変化が起こることが報告されている10)

YAPの細胞内局在の変化は,YAP上流のHippo経路と呼ばれる一連のシグナル伝達により制御される.YAPの調節因子は,Hippo経路の二つのコアキナーゼ,MSTおよびLATSから構成される.F-アクチン(繊維状アクチン)を含むストレスファイバーは,YAPの上流,もしくはYAPに直接的に作用し,その細胞内局在を制御することが報告されている9).メカニカルストレスの影響が弱く,細胞内のアクチン–ミオシン収縮力が減弱されている機械的条件下では,YAPはLATSキナーゼによってリン酸化され,細胞質に局在する11).メカニカルストレスによってLATSキナーゼの作用が阻害された場合,リン酸化を免れたYAPは細胞核に入り,下流の標的遺伝子の発現を活性化する12).これらの報告から,YAPはアクチンストレスファイバーの発達度合いや,細胞骨格(アクチン–ミオシン系)の収縮により発生する細胞内の張力,および細胞の伸展刺激に応答して,結果として細胞質から核へのシャトリングが誘導されると考えられる.なお,YAPは核に移行した後に,ターゲット遺伝子の発現を亢進することが知られている7)

4. YAPを介したオリゴデンドロサイトのメカニカルストレス応答

脳内には,情報の伝達に関わる神経細胞の他に,神経細胞をサポートする働きを持つ「グリア細胞」が存在する.中でも「オリゴデンドロサイト(OL)」というグリア細胞の一種が,神経細胞の突起の周りに髄鞘という鞘状の絶縁膜を形成する.神経軸索が絶縁性の髄鞘に覆われることにより,活動電位の跳躍伝導が可能になり,神経情報が迅速に伝達される.この髄鞘の形成には,相方の神経細胞とのコミュニケーションが重要な役割を果たしていることが知られている.この制御は主に液性因子などの生化学的なものであると考えられてきた.一方,生後まもなく神経軸索は盛んに運動しながら神経回路網を構築するが,この時期に軸索と接しているOLは,神経軸索からメカニカルストレスを受けている可能性が考えられる.また,もともとOLは髄鞘の形成に伴って非常にダイナミックに形態を変化させ,さらにミエリン膜の圧縮による圧力を生じる.これらに伴い細胞内で牽引力が発生する可能性も考えられる.以上より,OLによる髄鞘形成過程には,メカニカルストレスが何らかの影響を与えていると考えられた.

今回我々は,細胞が受容したメカニカルストレスを細胞内の生化学的なシグナルへと変換,伝播するメカノトランスデューサーの一つ,YAPに着目した13).まず,生後のマウス視神経のOLにおいてYAPの発現が観察された.さらに,マウス視神経のミエリン形成が始まる時期と連動してYAPの発現量が変化することを見いだした.次にYAPがOLで果たす機能を調べるために,YAPをshRNAによってノックダウンし,培養OLの形態,およびOL–ニューロン共培養への影響を調べた.その結果,OLの一次突起の数,および一つのOLがニューロン軸索とコンタクトする数に変化が認められた.一方で,YAPのノックダウンは,OL初期の分化段階には影響を及ぼさなかったことから,YAPがOLの初期分化ではなく,形態形成に機能することが示唆された.

そこで次に,OLで発現しているYAPが,実際にメカニカルストレスに応答し,OLの機能を制御するかどうか検討を行った.まず,OL前駆細胞をシリコン製のチャンバーにまいて接着させた後にストレッチマシンを使って細胞に伸展刺激を加えると,YAPの核への移行と(図1A),接着斑の拡大が観察された.この結果から,OLがメカニカルストレスに応答し,YAPが活性化されることがわかった.次に,ある程度の期間にわたって持続的にメカニカルストレスを負荷し,OLの形態が変化するかどうか考察するために,OLの細胞表面に液体培地の流動によるシェアストレス(ずり応力)を負荷する実験を行った.シェアストレスをOLの細胞表面に負荷すると,OL突起の数の減少が認められた.この実験で,レトロウイルスを用いて,あらかじめドミナントネガティブ型のYAPを導入しておくと,シェアストレス負荷による突起の数の減少が抑制された.これらの結果から,OLに発現するYAPがメカニカルストレスに応答し,OLの形態を制御することがわかった.

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図1 メカニカルストレス負荷時のYAP動態と,YAP過剰発現マウスにおけるOLの変化

ストレッチマシンを用いて細胞に伸展刺激を加えたOL. 刺激によってYAP因子(緑色)が細胞核(青色)へ集積し(A),その後,標的遺伝子の発現が促進される.YAPを過剰発現させた遺伝子改変マウスでは,OL内のYAPタンパク質が核へ集積することから(B),生体内のOLにおいてYAPを介した機械刺激の活性化を再現することができるモデルマウスの作製に成功した.YAP過剰発現マウスの脳では,成熟OLの数が減少した(C).

5. OL特異的なYAP過剰発現マウスの解析

次にYAPがマウス生体内のミエリン形成に及ぼす影響を調べるため,慶応大学医学部の田中謙二博士が確立したFASTシステム(Flexible Accelerated STOP TetO Knockinシステム14))を使ってYAP-STOP-tetOノックインマウスを新たに樹立した.このシステムでは,YAP遺伝子の翻訳開始部位のすぐ上流にSTOPカセットとテトラサイクリンオペレーター配列であるtetOカセットが挿入されており,さまざまなアプリケーションが可能である.細胞系譜特異的にtTA(転写アクチベーター)およびtTS(転写サイレンサー)の発現を誘導できるマウスと交配させることにより,YAP遺伝子の過剰発現およびノックダウンが可能である(図2).また,このシステムでは,ドキシサイクリンの投与により,過剰発現,ノックダウンする時期を制御することが可能である.本稿では,PLP-tTAマウスとYAP-STOP-tetOマウスを交配し,OL特異的にYAPを過剰発現させたマウス(PLP-tTA;YAP-STOP-tetOマウス)の解析結果を紹介する.OLでYAPを過剰発現させると,発現量が増加するだけでなく,YAPタンパク質がOLの核に集積することがわかった(図1B).細胞にメカニカルストレスが加わると,YAPが核に移行した後,ターゲット遺伝子の発現を亢進することが知られている.YAP過剰発現マウスにおいても,いくつかのYAPのターゲット遺伝子の発現が亢進することがわかった.これらの結果から,本研究で用いたYAP過剰発現マウスは,マウス生体内のOLにおいて,YAPを介したメカノトランスダクションの効果を観察するためのよいモデルマウスであると考えられた.

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図2 FASTシステムの模式図

tetO配列へtTAタンパク質が結合すると,標的遺伝子の転写が活性化される.したがって,tTAを標的遺伝子と同じ発現領域または細胞系譜で誘導すると目的の遺伝子を過剰発現させることができる.一方,tTAを標的遺伝子とは異なる発現領域または細胞系譜で誘導すると目的の遺伝子を異所性に発現させることができる.tTSはKruppel関連ボックスを含むテトラサイクリン依存性の転写サイレンサーである.tTSがtetO配列に結合すると,目的の遺伝子のプロモーター活性は抑制され,mRNAおよびタンパク質の発現が減少する.

PLP-tTA;YAP-STOP-tetOマウスの凍結切片を作製してin situハイブリダイゼーションと免疫染色を行った結果,小脳,線状体,脳梁において,成熟OLマーカー陽性の細胞が減少することを見いだした(図1C).またウエスタンブロット法により,ミエリン構成タンパク質量を比較した結果,ミエリン塩基性タンパク質(myelin basic protein:MBP)量の減少が観察された.

我々は,これまでに不活性型の狂犬病ウイルスをマウス脳内にインジェクションすることにより,脳梁中のOLをまばらに蛍光標識することに成功している15).この方法を用いて,PLP-tTA;YAP-STOP-tetOマウス生体内の個々のOLの形態を解析した結果,野生型マウスと比較して,OLの突起の数が減少することを見いだした.一方,PDGFRα陽性のOL前駆細胞の数は,YAP過剰発現マウスで変化が認められなかった.培養したOL細胞においてYAPの発現をノックダウンしても,OL初期の分化段階には影響が認められなかった結果と合わせて,YAPはOL初期の分化段階ではなく,OLの形態形成と成熟に作用すると考えられた.以上の結果をまとめると,マウス生体内のOLがメカニカルストレスを受けてYAPが活性化すると,OLの形態形成と成熟,それに引き続くミエリン形成が抑制されることが示唆された13)

生後間もない発生段階では,神経軸索の動きなどによるメカニカルストレスを受け,OL内のYAPが活性化されると考えられる.その結果,髄鞘の形成が阻害される.その後,発生が進行し神経ネットワーク形成が完了したマウスでは,OLが受けるメカニカルストレスが少なくなることが考えられる.結果,YAPが不活性化され,髄鞘の形成が始まる.一方,YAPの過剰発現マウスでは,発生が進行し神経ネットワークが形成された後もYAPがOL細胞の核の中に集積され続ける.そのため,YAPの活性化が持続し,結果として髄鞘の形成が阻害される機構を想定した(図3).

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図3 YAPを介した髄鞘形成制御のモデル図

神経回路が形成される過程では,神経軸索と直接コンタクトしているOLは神経軸索の動きによるメカニカルストレスを受け,OL内のYAPが活性化される機構を想定した.その結果,髄鞘の形成が阻害される.いったん,神経ネットワークが形成されたマウスではOLが受けるメカニカルストレスの影響は少なくなると考えられる.その結果,YAPが不活性化され,髄鞘の形成が始まる.一方,YAPが過剰発現する遺伝子改変マウスでは,神経ネットワークが形成された後もYAPが細胞の核の中に集積され続けることからYAPの活性化が持続し,髄鞘の形成が阻害される機構が想定できる.

今後は,OLがミエリンを形成する過程で実際に発生する力を計測する系を確立したり,マウスの脳内で機械的な刺激が生まれる仕組みを詳細に調べたりする必要があるだろう.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

清水 健史(しみず たけし)

自然科学研究機構生理学研究所分子神経生理助教.博士(理学).

略歴

2000年大阪大学大学院基礎工学研究科システム人間系生物工学分野修了.03年総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻博士課程修了.同年熊本大学発生医学研究センターCOEリサーチアソシエイトと非常勤研究員.08年理研CDB研究員.10年シンガポール国立大学ポスドク.12年生理学研究所分子神経生理研究部門助教.

研究テーマ

分子神経発生生理.

抱負

ニューロンとグリア細胞の相互作用が神経発生,および神経生理に及ぼす作用を明らかにしたい.

趣味

旅行,スポーツ観戦.

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