生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(5): 735-738 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890735

みにれびゅうMini Review

トランスサイトーシスによるWinglessシグナルの活性化と膜型ユビキチンリガーゼGodzillaによる制御Regulation of apico–basal transcytosis of Wingless by Godzilla, an E3 ubiquitin ligase

国立循環器病研究センター分子病態部Department of Molecular Pathogenesis, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ 〒565–8565 大阪府吹田市藤白台5–7–1 ◇ 5–7–1 Fujishiro-dai, Suita, Osaka 565–8565, Japan

発行日:2017年10月25日Published: October 25, 2017
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1. はじめに

個体に前後軸・左右軸といった方向性があるように,生体内のすべての細胞にも方向性がある.その方向性を“極性”と呼ぶ1).細胞極性は生物の発生のみならず,発生後の個体や組織の維持にも必須である.消化管の粘膜上皮などに代表される上皮組織(単層円柱上皮と呼ばれる)は,極性化した上皮細胞が互いに密に結合することでシート状の細胞層を形成している(図1).管腔側(消化管においては消化物と接する面)をapical膜,基底膜側をbasolateral膜と呼ぶ.個々の細胞はapical膜近傍に形成される細胞接着(タイトジャンクションとアドヘレンスジャンクション)によって強固に結合しているので,タンパク質などの生体高分子はこの細胞層を通り抜けることができない1).すなわち両側の環境は,この細胞層によって“物理的に”隔てられている.

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図1 ショウジョウバエ翅原基におけるWinglessの細胞局在

翅原基は典型的な単層円柱上皮構造を有する.細胞内Winglessは,wingless mRNAと同様にapical膜近傍に局在することから,翅原基においてWinglessはapical膜近傍で生合成されると考えられる.一方,細胞外へ分泌(もしくは露出)したWinglessは主にbasolateral膜側に局在している.以上を踏まえると,Winglessはapical膜近傍で生合成されたのち,basolateral膜まで輸送され,そこから分泌されると考えられる.

ショウジョウバエWinglessは最も早くに同定されたWntファミリーの一つで,その機能・性質がよく解析されている.Winglessはショウジョウバエの翅原基と呼ばれる単層円柱上皮で生合成される.最近我々は,Winglessがショウジョウバエ翅原基においてbasolateral膜から極性的に分泌され,そのシグナルを活性化することを見いだした2).本稿ではそのメカニズムについて,必須な因子として同定された膜型のユビキチンリガーゼGodzillaに注目して紹介したい.

2. ショウジョウバエ翅原基におけるWinglessの局在

翅原基(成体で翅に変化する幼虫組織)に発現しているWinglessを2種の抗体染色法で視覚化すると,興味深い違いをみることができる3, 4).まず通常の抗体染色法によってWinglessを検出するとapical膜近傍に強い染色がみられる(図1).この方法では界面活性剤で膜の透過処理を行うので,翅原基中のすべてのWingless分子を視覚化していると考えられる.in situハイブリダイゼーションによってwingless mRNAを検出するとそのシグナルは主にapical膜近傍に検出されることから,この方法で検出されるWinglessは主に細胞内で生合成されているWinglessを反映しているものと考えられる.一方,界面活性剤の前処理を行わずに染色すると,すなわち細胞外に分泌(もしくは露出)されたWinglessのみを検出すると,その染色像は一転する.シグナルは主にbasolateral膜に検出され,apical膜近傍にはほとんど染色がみられない(図1).これらの結果から,翅原基においてWinglessはapical膜近傍で生合成されたのち,basolateral膜側に輸送され,そこから分泌されているのではないかと仮説を立てた.

3. 内在性Winglessを分泌に至るまで追跡する

この仮説を証明するために,内在性のWingless遺伝子を2種のタグ化Wingless(OLLASタグおよびHAタグ)をコードするcDNAに置き換えたショウジョウバエ系統を作製した(図2).この系統は,通常状態では内在性のプロモーター下でOLLASタグ化Winglessを発現しているが,HAタグ化Winglessは発現していない.そこにFlippaseを作用させるとOLLASタグ化Winglessをコードする配列は除去され,代わりにHAタグ化Winglessの転写が同一プロモーター下で開始する.Flippaseは任意のタイミングで作用させることができるので(方法の詳細は原著論文を参照2)),タグの切り替えによって新たに生合成されたWinglessのみを検出・追跡することができる.

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図2 タグ切り替えシステムの概略

内在性のwingless遺伝子を,2種の異なるタグ化WinglessをコードするcDNAで置換した.通常の状態ではOLLASタグ化Winglessが発現している.Flippaseを作用させるとOLLASタグ化WinglessをコードするcDNAは取り除かれ,代わりにHAタグ化Winglessの発現が開始する.

翅原基中において,最初のシグナルはFlippaseを作用させてから2時間後に現れる.このシグナルはapical膜近傍に現れることから,予想したとおりWinglessはapical膜近傍で生合成されると考えられた.実際にこの時点で観察されるWinglessのシグナルは大部分がゴルジ体マーカーと共局在することから(87%が共局在),生合成の過程にあるものと考えられる.この後Winglessのシグナルはapical膜近傍からbasolateral膜側に移行していく.Flippaseを作用させてから8時間後にはシグナルはbasolateral膜に達し,16時間後にはWinglessを発現していない周辺の細胞にドット状のシグナルが観察されるようになる.すなわちWinglessはbasolateral膜から分泌され,そこから周辺の細胞にシグナルを入力している可能性が示唆された(図3).さらに詳細にWinglessの細胞内局在を調べてみると,生合成開始後2時間のWinglessのシグナルは,そのほとんどがゴルジ体に局在していたのに対し,3時間後にはゴルジ体マーカーとは共局在しないシグナルが出現してくる(共局在は42%にまで低下).すなわちWinglessはゴルジ体に達したのち,何らかのルートを経てbasolateral膜側へ輸送される可能性が考えられた.

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図3 WinglessシグナルはGodzillaに依存的なトランスサイトーシスによって活性化される

4. apico–basalトランスサイトーシスとエンドサイトーシス

Winglessのシグナルがapical膜・basolateral膜のいずれから入力されるのか?という議論は以前からあった.それらのうち,Dynamin(ショウジョウバエではShibire)変異個体ではWinglessはapical膜上に蓄積され,そのシグナルが細胞に入力されないという報告に我々は注目した(この報告ではWinglessの分泌については言及されておらず,apical膜上に蓄積するWinglessは受容体に結合したものとして解釈されている)5).Dynaminはエンドサイトーシス始動時に細胞膜の切り出しを行うGTPaseである.すなわちDynaminが存在しないとエンドサイトーシスは起こらない.Winglessがapical膜をエンドサイトーシスへの乗り継ぎ点として使っていると仮定すると,エンドサイトーシスの有無によってWinglessのapico–basal軸に沿った輸送は影響されるはずである.筆者らは温度感受性のDynamin変異体を用いて,前述の染色方法で細胞外Winglessを観察した.その結果,Dynaminの機能を停止させると,通常の状態で観察されるbasolateral膜上のWinglessは消失し,代わりにapical膜上に蓄積がみられるようになった.一方,Dynaminの活性を元に戻すと,apical膜上に蓄積したWinglessは速やかに消失し,Winglessのシグナルは再びbasolateral膜上に観察されるようになる.すなわちエンドサイトーシスが存在しないとWinglessのapico–basal軸に沿った輸送(apico–basalトランスサイトーシスと呼ぶ)は発生しないと考えられた.

5. Winglessのトランスサイトーシスには膜型ユビキチンリガーゼGodzillaが必須である

エンドソームは,エンドサイトーシスによって細胞外もしくは細胞膜上から取り込まれた分子が最初に到達する細胞内小胞である6).多くの場合,取り込まれた分子はその後リソソームに運搬され分解されるか,細胞表面へとリサイクリングされる.Winglessがエンドサイトーシスを介してapical膜からbasolateral膜へとトランスサイトーシスされているとすると,いかなる分子がその役割を担っているのだろうか? 筆者らはエンドソーム膜上に局在する膜型ユビキチンリガーゼGodzillaに着目した.Godzillaを欠失させると翅原基の細胞内にエンドソームの蓄積が観察される7).一方,異所性発現させても同様の巨大なエンドソームが観察されることから,Godzillaはエンドソームを介した何らかの分子の細胞内輸送を担っていると考えられていた7, 8).筆者らはGodzillaがWinglessのapico–basalトランスサイトーシスを担う分子ではないかと予想し,その欠失変異体およびRNAiを用いて,翅原基中のWinglessを観察した.その結果,Godzillaが存在しないと細胞内には明瞭なWinglessの蓄積が観察された.さらにWinglessシグナルの標的遺伝子であるSenselessの発現も阻害されていた.すなわちGodzillaが存在しないとWinglessは分泌されず,そのシグナルは入力されないと考えられた.Godzillaのエンドソームを介した輸送は,その基質VAMP3のユビキチン化によって制御されている7).そこでVAMP3(ショウジョウバエではSyb)についても同様の実験を行ったところ,Godzillaの場合と同様に,Sybが存在しないと細胞内にWinglessが蓄積し,Senselessの発現は阻害された.すなわちGodzillaはそのユビキチンリガーゼ活性依存的にWinglessのapico–basalトランスサイトーシスを制御していると考えられた(図3).

さらに直接的にGodzillaのトランスサイトーシスへの関与を明らかにするため,1)RNAiにより内在性Godzillaを枯渇させた場合と,2)Godzillaのドミナントネガティブ変異体を異所性発現した場合とで,細胞外Winglessを観察した.Godzillaのドミナントネガティブ変異体は,RINGドメインに点変異を導入することでユビキチンリガーゼ活性を消失させたものを用いた.いずれの条件でも細胞外Winglessはbasolateral膜から消失し,apical膜上に蓄積した.すなわちDynaminの存在しない場合と同様の表現型を示すことから,Godzillaはそのユビキチンリガーゼ活性依存的にWinglessのapico–basalトランスサイトーシスを制御する分子であると結論した.

6. Winglessの受容体Frizzled2はbasolateral膜に局在し,basolateral膜からシグナルを入力する

では,なぜWinglessはbasolateral膜から分泌されるのだろうか? 我々はWinglessの受容体がbasolateral膜に局在しているからではないか?と考えた.内在性のWingless受容体Frizzled2を検出できる抗体が利用できなかったことから,我々は内在性のFrizzled2遺伝子にGFPタグを挿入したショウジョウバエ系統を作製した.その結果,予想どおりFrizzled2はbasolateral膜に局在していた.すなわち,ショウジョウバエの翅原基において生合成されたWinglessはbasolateral膜から分泌され,そこからシグナルが入力されていると考えられた(図3).そこで,実際にWinglessのシグナルがbasolateral膜から入力されていることを確認するために,Winglessの脱アシル化酵素Notumを翅原基のbasolateral膜側から作用させた(実験方法の詳細は原著論文を参照2, 9)).Notumは,Winglessの活性発現に必須なパルミトオレオイル基を加水分解することでWinglessを不活性化する9).その結果,内在性のSenselessの発現はbasolateral膜側から作用させたNotumによって阻害されたことから,ショウジョウバエの翅原基においてWinglessのシグナルはbasolateral膜から入力されていると考えられた.

Winglessはapical膜からは分泌されないのであろうか? 前述のとおり,エンドサイトーシスもしくはGodzillaを阻害することでWinglessはapical膜上に蓄積されるが,この状態においてもWinglessの標的遺伝子Senselessは発現してこない.すなわち,少なくともSenselessの発現を誘導できるようなWinglessのシグナルはapical膜から入力されない,と解釈できる.これらの事実を考慮すると,Winglessはapical膜からは分泌されない,もしくはapical膜上にはWinglessのシグナルを入力できる受容体が存在しない,という二つの可能性が考えられる.

7. おわりに

今回我々がショウジョウバエの翅原基に見いだしたWinglessのapico–basalトランスサイトーシスは,ヒトなどの哺乳動物のWntファミリー分子でもみられるのだろうか? 現時点でapico–basalトランスサイトーシスについて検討された例は他にはないが,いくつかの興味深い報告がある.大阪大学の菊池らのグループは三次元培養したイヌ上皮細胞株MDCKを用いて,ヒトWntのうちいくつかはbasolateral膜からのみ選択的に分泌されることを報告している10).さらに最近,マウスの腸管上皮においてWnt3がbasolateral膜から分泌されることを示唆した報告もある11).これらの報告を踏まえると,Wnt分子のapico–basalトランスサイトーシスは普遍的な現象なのかもしれない.その可能性については今後の研究の進展に期待したいが,しかしなぜWinglessはトランスサイトーシスされる必要があるのだろうか? Wingless/Wntの活性化には酸性pHへの曝露が必要であるという報告がある12, 13).エンドソームが酸性オルガネラの一つであることを考えると,トランスサイトーシスはWingless/Wntの活性化に必要なのかもしれない.またWingless/Wntはエキソソームとして分泌されるとの報告もある14, 15).エキソソームはエンドソーム膜に由来する超微小な細胞外小胞であることから,トランスサイトーシスはエキソソームへのWingless/Wntのパッケージングに必要な可能性もある.これらの仮説については今後検討すべきであろう.筆者がおもしろいと感じていることは,分泌におけるエンドソームの役割についてである.先に述べたとおり,エンドソームは細胞外・細胞膜上からの分子の取り込みを担う細胞内小胞である.エンドサイトーシスの主な役割は,細胞外からの種々の分子の取り込み,および細胞膜上の活性化受容体の取り込みによるシグナル伝達制御であると考えられてきた6).今回の研究結果は,エンドソームが新たに生合成されたタンパク質の分泌に寄与するという,その新たな役割を示唆していて大変興味深いと考えている.

引用文献References

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15) McGough, I.J. & Vincent, J.P. (2016) Development, 143, 2482–2493.

著者紹介Author Profile

山崎 泰男(やまざき やすお)

国立循環器病研究センター分子病態部血栓止血研究室室長.博士(薬学).

略歴

2003年明治薬科大学大学院薬学研究科博士課程修了,04年明治薬科大学薬学部助手,09年スウェーデンUmeå大学博士研究員,14年スウェーデンGöteborg大学博士研究員を経て,16年より現職.

研究テーマと抱負

細胞内輸送,特に極性的な輸送に興味を持っている.細胞・組織レベルの現象を分子レベルで理解したい.

ウェブサイト

http://www.ncvc.go.jp/res/divisions/etiology/yamazaki.html

趣味

読書(司馬遼太郎,隆慶一郎,東野圭吾,道尾秀介など),音楽(主にハードロック),散策,白ビール,スマートフォンの位置情報サービスを利用したアレ.

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