生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
Journal of Japanese Biochemical Society 89(5): 744-747 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890744

みにれびゅうMini Review

プラス鎖RNAウイルスによって形成される複製オルガネラViral replication organelle induced by positive-stranded RNA viruses

弘前大学農学生命科学部分子生命科学科Department of Biochemistry and Molecular Biology, Hirosaki University ◇ 〒036–8561 青森県弘前市文京町3 ◇ 3 Bunkyo-cho, Hirosaki-shi, Aomori 036–8561, Japan

発行日:2017年10月25日Published: October 25, 2017
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

種々の細胞内寄生体は,感染後に宿主細胞内膜系を大規模に改変し,自己複製を有利に行うため「複製オルガネラ」と呼ばれる構造体を形成する.この複製オルガネラ形成は,原虫をはじめ,細菌類やRNAウイルス,DNAウイルスなど種を問わず多岐にわたる細胞内寄生体で確認されている.複製オルガネラは,寄生体側からみれば自然免疫応答,小胞体ストレス応答,オートファジーなどさまざまな宿主反応から逃れるシェルターとしての役割を持つ一方,細胞側からみれば寄生体を一定の領域に封じ込める排除機構としての役割があると考えられている1).このように,複製オルガネラは,宿主細胞–寄生体の共存・共生の関係を成り立たせるために必要なものとして進化してきたといえる.このような病原体によって形成されるオルガネラの存在はかなり古くから知られているが,これまでの解析のほとんどは透過型電子顕微鏡での形態観察によるものであり,病原体オルガネラの形成と維持の分子機構は多くの点において謎に包まれていた.しかしながら,近年,電子線トモグラフィーやプロテオーム解析などの解析技術の発達により,複製オルガネラの詳細な構造と形成・維持に関わる細胞側因子群が徐々に明らかになりつつある.

プラス鎖RNAウイルスは現存するウイルス種の大多数を占め,近年のゲノムの解析によって,これらに系統進化が認められ,そのほとんどはいくつかの共通の祖先から進化してきたと考えられている.現在では主に,ピコルナ様スーパーグループ,アルファ様スーパーグループ,フラビ様スーパーグループの三つに分けられており,またこの3グループも共通のRNA依存RNAポリメラーゼをコードしていた祖先に起因すると考えられている2).興味深いことに,感染細胞内に形成される構造体にも,宿主細胞の生物種を問わず異なったプラス鎖RNAウイルスどうしで似たような形態を示すケースが多数報告されており,複製オルガネラの構造はゲノムの複製様式と密接に関係していることがうかがえる.本稿では,フラビウイルス属に分類されるデングウイルス,日本脳炎ウイルスやC型肝炎ウイルス(HCV)などを中心にプラス鎖RNAウイルス複製オルガネラの構造と形成の分子機構について解説する.

2. 複製オルガネラの構造

ウイルスが感染した細胞内には,核近傍の小胞体(endoplasmic reticulum:ER)付近に,時には直径10 μmにも及ぶ巨大なウイルス抗原陽性の構造物が出現する(図1).この構造物は種々のERマーカーに対して陽性を示すことから,小胞体膜の一部が変形して出現したものであると考えられる.さらに電子顕微鏡により内部構造を詳細に観察すると,いくつかの特徴的な膜構造が確認される.

Journal of Japanese Biochemical Society 89(5): 744-747 (2017)

図1 フラビウイルス感染細胞内にみられる複製オルガネラ

日本脳炎ウイルスを感染させたVero細胞の透過型電子顕微鏡像(A, B)と,抗dsRNA抗体(緑)および抗日本脳炎ウイルスNS4B抗体(赤)を用いた免疫蛍光顕微鏡像(C–E).(F)には複製オルガネラ形成の分子機構モデルを示す.

最初に目につくのが直径100 nm程度の小胞のクラスターである.電子線トモグラフィーの解析によって,この小胞はER膜から解離しているわけではなく,蛸壺のように小孔を通じて細胞質とつながった小さな空間を形成していることがわかっている.このような小胞は一つの大きな膜構造の内部に多数観察され,大きな膜構造とともに小胞パケット(vesicle packet:VP)と呼ばれる.小胞パケットは,フラビウイルスだけではなく,多くのプラス鎖RNAウイルス感染細胞で確認されている3).また,免疫電子顕微鏡解析や,光–電子相関顕微鏡(CLEM)解析によって,ゲノム複製の中間産物である二本鎖RNAが検出されることから,この小胞内部にてゲノムRNAの合成が行われていると考えられている.二本鎖RNAは宿主細胞にない特殊な構造物であり,自然免疫活性化のきっかけとなるRIG-IファミリーやTLRファミリーなどRNAセンサーの恰好の標的となることから,ウイルスがこのような膜構造を形成しゲノム複製機構を細胞質から隔離する機構を身につけたとしても不思議ではない.

小胞パケットの横には高頻度で電子密度が高い巨大な膜が複雑に折りたたまれた構造が観察される.この構造はコンボリューティッド膜(convoluted membrane:CM)と呼ばれている1).コンボリューティッド膜には,ウイルス膜タンパク質やカルネキシンなどの膜貫通ERシャペロンが多く局在していることから,膜タンパク質合成の場であると考えられている.ERで複製するプラス鎖RNAウイルスは多くの膜貫通タンパク質をコードしており,この構造体はそれらを大量に合成する場として機能している可能性が高い.通常の細胞においても,小胞体膜タンパク質を過剰発現させるようなストレスを与えると,それに対応するためにクリスタロイド小胞体(crystalloid ER)と呼ばれる特殊な膜構造物が誘導されるが4),コンボリューティッド膜もこれと似たような機能を担っているのかもしれない.

複製オルガネラ内には小胞パケットとコンボリューティッド膜の他に,直径50 nm程度の小さな粒子がER内腔側に観察される.この構造がウイルス粒子であると考えられている.ER内腔に出芽した後の娘ウイルス粒子は,トランスゴルジネットワークを通過して分泌経路に乗って細胞外に放出されると考えられている.

3. 複製オルガネラが形成されるきっかけは?

プラス鎖RNAウイルスでは,ゲノムRNAはそのままメッセンジャーRNAとして機能するため,細胞質に放出され次第すぐにウイルスタンパク質が合成される.複製オルガネラ形成のきっかけがウイルスタンパク質の合成であることはほぼ間違いない.ではその後どのような過程を経て複製オルガネラが形成されるのだろうか?

HCVの感染成立を指標としたゲノムワイドのノックダウンスクリーニングによってPI4KIIIα(phosphatidylinositol-4 kinase III alpha)が宿主因子として同定された5).さらに,この分子はウイルスのNS5Aと相互作用し複製オルガネラにリクルートされることが示された.PI4KIIIαはPI4キナーゼの一種であり,ホスファチジルイノシトールを基質とし,イノシトール環の4位をリン酸化することでホスファチジルイノシトール4-リン酸(PtdIns4P)を生成する.生成産物のPtdIns4Pは細胞膜やゴルジ体に多く存在し,種々のエフェクタータンパク質をリクルートし膜動態を制御する役割を持つことが知られている.また,PI4Kキナーゼはピコルナウイルスの一種であるエンテロウイルスの増殖にも必要であることが報告されている6).その解析から,ウイルスタンパク質3AがARF1–GBF1複合体とともにPI4KIIIβをリクルートし,生体膜の一部をPtdIns4Pに修飾することが複製オルガネラの形成に必要であることが示された.おそらく,リクルートされたPI4キナーゼによって一部の生体膜の組成が変化し,そこに集積してくるエフェクター因子群が膜動態に作用しているためと考えられる.事実,PtdIns4Pのエフェクターとして知られるOSBPなどがHCVの増殖に必要であるとの報告がいくつか存在する7).しかしながら,これらのエフェクター因子が複製オルガネラ形成の複雑な膜動態をどのように制御しているのか,その機構についてはまだ不明な点が多い.

HCVのNS5Aや,エンテロウイルスの3A以外にも複製オルガネラの形成に重要な役割を持つウイルスタンパク質が存在する.HCVのNS4Bや,フラビウイルスのNS4A, NS4Bは単独で細胞に発現させるだけで感染細胞にみられるような膜構造物を形成することから,昔から複製オルガネラ形成に関与する因子であると考えられてきた8).しかしながら,これらのタンパク質はほとんどの領域が膜に埋もれている複数回膜貫通タンパク質であるため,構造はもちろん多くの機能はいまだに不明のままである.そのような中,最近,HCVのNS4Bに結合する宿主因子としてReticulon3(RTN3)が報告された9).RTNファミリーは2回膜貫通タンパク質であるが,それぞれの膜領域は膜を貫通しているわけではなく途中で折れ曲がった構造を持つ.これがくさびの役割を果たしER膜を細胞質側に突出するように湾曲させる作用があると考えられている.RTN3はエンテロウイルスの複製オルガネラ形成に関与する2Cタンパク質に結合し,ウイルスの増殖に必要な因子としても同定されている10).また,興味深いことに,RTNファミリーは酵母の遺伝学的スクリーニングによっても同定されている.ブロモモザイクウイルス(brome mosaic virus:BMV)は植物に感染するプラス鎖RNAウイルスであるが,酵母にも感染することから宿主因子解析のモデルウイルスとして用いられている.これまでにBMVの増殖に必要な遺伝子のゲノムワイドスクリーニングからRTNファミリーが同定されており,この遺伝子の欠損が小胞パケットの形成不全を引き起こすことが報告されている11).まだ詳細な機構は不明だが,RTNファミリーのようなERの形態を制御するくさび形膜タンパク質は,プラス鎖RNAウイルスに共通して複製オルガネラ形成の膜動態に作用している可能性が高い.

4. 小胞パケットとウイルス粒子の形成

我々はこれまでにフラビウイルス属の日本脳炎ウイルス,デングウイルスやHCVを用い,複製オルガネラの精製とプロテオーム解析による宿主因子の同定を行ってきた.そして,この解析において複数のESCRT(endosomal sorting complex required for transport)因子群を同定した12).ESCRT因子群はもともと酵母の遺伝学的スクリーニングによってMVB(multivesicular body)の形成に作用する因子として同定されたものである.この因子群はおよそ30種類からなり,五つの複合体(ESCRT-0,-I,-II,-III, VPS4複合体)を形成している.これらは主に生体膜を細胞質の内側から外側に向かって突出するように湾曲させ,小胞を細胞外へ出芽させる作用があることがわかっている13).また,ノックダウンによるスクリーニングを行ったところ,一部のESCRT-IIIサブユニットの発現抑制がウイルス増殖を著しく抑制させることがわかった.ESCRT因子群は,酵母に感染するプラス鎖RNAウイルスであるBMVやトマトブッシースタントウイルス(tomato bushy stunt virus:TBSV)を用いた遺伝学的スクリーニングによってもウイルス増殖に必要な宿主因子として同定されている14, 15).これらのウイルスを用いた解析では,ESCRTが小胞パケットの内腔小胞形成に必要な因子であることが報告されている.これはウイルスの小胞パケット形成が宿主のMVB形成と相同の現象であるという可能性を示している.ただし,小胞パケットの内腔小胞はER膜から完全に切り離されることはないので,エンドソーム膜から完全に切り離されるMVB内腔小胞形成とすべて同一の機構によって制御されているとは考えにくい.一方,フラビウイルスやHCVを用いた解析ではBMVやTBSVのケースとは異なった結果が得られている.ESCRT因子群をノックダウンした細胞にウイルスを感染させ,複製オルガネラのようすを詳しく調べてみると,小胞パケットやコンボリューティット膜の形成には影響はなく,むしろウイルス粒子の数が激減していることがわかった12).これを裏づける証拠として,ウイルスゲノムの複製はESCRT因子群のノックダウンの影響をさほど受けはしないが,ウイルス粒子のアセンブリーと放出の段階は著しく抑制されていることが示された.つまりこの結果は,フラビウイルス属の場合ESCRT因子群は小胞パケットの内腔小胞形成ではなく,むしろERの内腔に出芽し小胞を形成するウイルス粒子形成に関与していることを意味している.このように,プラス鎖RNAウイルスでも種によっては異なった機構によって制御されているケースもある(図1F).

5. おわりに

多くの細胞内病原体は自身の複製に有利になるように,さまざまな細胞機能を巧みに利用する.複製オルガネラはきわめて複雑な膜構造を有しており,どのような因子がその形成に関与しているのかに関してはまだ多くの不明な点が残されている.今後,このような病原体研究によって,今まで予想しえなかった細胞機能の根幹に関わる重要な分子機構が明らかになることが期待される.

引用文献References

1) Paul, D. & Bartenschlager, R. (2013) World J. Virol., 2, 32–48.

2) Koonin, E.V., Dolja, V.V., & Krupovic, M. (2015) Virology, 479–480, 2–25.

3) den Boon, J.A. & Ahlquist, P. (2010) Annu. Rev. Microbiol., 64, 241–256.

4) Fukuda, M., Yamamoto, A., & Mikoshiba, K. (2001) J. Biol. Chem., 276, 41112–41119.

5) Reiss, S., Rebhan, I., Backes, P., Romero-Brey, I., Erfle, H., Matula, P., Kaderali, L., Poenisch, M., Blankenburg, H., Hiet, M.S., Longerich, T., Diehl, S., Ramirez, F., Balla, T., Rohr, K., Kaul, A., Bühler, S., Pepperkok, R., Lengauer, T., Albrecht, M., Eils, R., Schirmacher, P., Lohmann, V., & Bartenschlager, R. (2011) Cell Host Microbe, 9, 32–45.

6) Hsu, N.-Y., Ilnytska, O., Belov, G., Santiana, M., Chen, Y.H., Takvorian, P.M., Pau, C., van der Schaar, H., Kaushik-Basu, N., Balla, T., Cameron, C.E., Ehrenfeld, E., van Kuppeveld, F.J., & Altan-Bonnet, N. (2010) Cell, 141, 799–811.

7) Amako, Y., Sarkeshik, A., Hotta, H., Yates, J. 3rd, & Siddiqui, A. (2009) J. Virol., 83, 9237–9246.

8) Romero-Brey, I. & Bartenschlager, R. (2014) Viruses, 6, 2826–2857.

9) Wu, M.-J., Ke, P.-Y., Hsu, J.T.-A., Yeh, C.-T., & Horng, J.-T. (2014) Cell. Microbiol., 16, 1603–1618.

10) Tang, W.-F., Yang, S.Y., Wu, B.W., Jheng, J.R., Chen, Y.L., Shih, C.H., Lin, K.H., Lai, H.C., Tang, P., & Horng, J.T. (2007) J. Biol. Chem., 282, 5888–5898.

11) Diaz, A., Wang, X., & Ahlquist, P. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 16291–16296.

12) Tabata, K., Arimoto, M., Arakawa, M., Nara, A., Saito, K., Omori, H., Arai, A., Ishikawa, T., Konishi, E., Suzuki, R., Matsuura, Y., & Morita, E. (2016) Cell Reports, 16, 2339–2347.

13) Morita, E. & Sundquist, W.I. (2004) Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 20, 395–425.

14) Barajas, D., Jiang, Y., & Nagy, P.D. (2009) PLoS Pathog., 5, e1000705.

15) Diaz, A., Zhang, J., Ollwerther, A., Wang, X., & Ahlquist, P. (2015) PLoS Pathog., 11, e1004742.

著者紹介Author Profile

森田 英嗣(もりた えいじ)

弘前大学農学生命科学部分子生命科学科准教授.医学博士.

略歴

1973年静岡県に生まれる.96年弘前大学理学部卒業.2002年東北大学にて学位取得後,09年まで米国ユタ大学にて博士研究員.大阪大学を経て14年より現職

研究テーマと抱負

ウイルスはどのように宿主細胞の機能を乗っ取り増殖しているのか,また細胞はそれにどう対応しているのか,病原体–宿主攻防の分子機構の解明から創薬につながる研究を目指しています.

ウェブサイト

http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/moritalab/index.html

趣味

フライフィッシング.

This page was created on 2017-08-30T17:12:53.42+09:00
This page was last modified on 2017-10-17T14:09:26.216+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。