生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
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Journal of Japanese Biochemical Society 89(6): 791 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890791

アトモスフィアAtmosphere

投稿論文審査システム改善への新しい試み

奈良先端科学技術大学院大学研究推進機構河野特任研究プロジェクト

発行日:2017年12月25日Published: December 25, 2017
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研究結果をまとめ,その成果を各分野の専門誌に投稿し発表することは,研究者として重要な仕事の1つである.結果として自身の研究を広く知ってもらい,かつ適切に評価してもらうことにつながるわけで,良い論文を書くための教則本なども数多く出版されている.一方,論文を世に送り出すためには,査読(peer review)を受けねばならない.通常,この査読は専門誌のエディターからの依頼で,その研究領域の研究者がボランティアとしてやっている.研究者にとっては,論文を出すことが主要な仕事の1つであるから,できれば査読のために時間を使いたくないというのが本音であるが,そこは相身互いということで,論文を発表している人はそれに応じて査読を頼まれたらやるという暗黙の了解がある.審査依頼が来た最初の頃は「自分もその領域である程度認められてきたのだな」という感慨に浸ったものであるが,実際に審査するとなると,これがまた結構大変な労力と時間を要する.自分の領域に近いといっても知らないことは多々あるので,必要ならば関連の論文や投稿グループの以前の研究にも目を通さなければならない.また,査読は英語で書かねばならないのもうっとうしい.しかも査読のやり方というのも教えてもらう機会がないので,自分が投稿した論文に対してのレビューを読み,良いと思うレビューを参考に腕をみがいていくことになる.ジャーナルにより査読のための日数も指定されており,また個々のジャーナルに相応した審査をしなければならない.一度依頼を引き受けると,エディターの覚えが良くなるようで頻繁に依頼が来るようになる.トップジャーナルから依頼が来れば名誉でもあり忙しくても断りにくい.ましてや,知合いの(著名な)研究者からの依頼であれば,なおさらである.一方,依頼された他人の論文の審査ばかりしていて,自分達の論文を出すのが遅れてしまったら本末転倒である.悩むところである.特に最近新しいジャーナルが次々と発刊され,投稿数も増加していることから,査読依頼が急増しているが断られる場合も多く,エディターが査読者を決めるのに時間がかかるだけでなく,ジャーナルによっては査読者レベルの低下も生じているようである.これらの問題点の多くは,査読システムが研究者のボランティアで成り立っていることに起因しており,査読したことを評価するシステムがないことが大きな要因の1つと考えられる.近年この問題に対処するために,査読者の貢献をすべて記録し評価するPublonsという評価システムが非営利団体により立ち上げられた.Publonsに登録すれば,査読やエディターとしての記録がレビュー内容も含めてすべて保存され,この記録を研究者としての評価にも使用できるようにするというシステムである.今後の課題として,Publonsへの登録が簡便であること,また多くの研究者がこのシステムを利用すること,があげられる.PublonsはORCIDという研究者個々人の記録を登録した研究者のシステムと連動しており,うまく機能すれば大変有用なシステムとなろう.私自身もまだ登録を始めたところであり,これらのシステムがどのように機能していくか経過を見守りたい.もう1つ注目したいのは,ノーベル賞受賞者Randy Schekman博士が中心となって発刊されたeLife(open journal)である.eLifeは,その運営や査読をすべて研究者自身で行い,真に良い研究論文を迅速かつフェアに査読し,より早く出版することを目的に創設されたものである.いろいろな新しい工夫をしているがその1つに査読システムがある.この雑誌の査読は,エディターの中で分野の近い研究者がまとめ役(Reviewing Editor)をやり,査読結果はエディター及び査読者全員が共有し,ネット上で協議をしたのちエディターがその結果をまとめて報告するという手法をとっている.協議の時点で査読者の名前は明かされるので,査読者同士も知り合うことができ,よりオープンでフェアな審査ができるなど,この手法は従来に比べ多くの点で優れている.一方エディターの負担は増え大変であるが,財団のサポートもあり順調に発展しているのは喜ばしい.若手の研究者の査読のための教育としては,研究室の助教やポスドクなどを論文査読のco-reviewerとして加えることを許容し,最終的には研究室のボスが責任をもって査読結果をまとめるようなシステムを導入していくのも一つの方法であろう.いずれにしても,健全な査読システムを動かすためには,やはり研究者自身のたゆまぬ努力と貢献が重要になる.

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