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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 89(6): 830-840 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890830

総説Review

上皮細胞間接着装置Cell-cell adhesion

大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科分子生体情報学Laboratory of Biological Science, Graduate School of Frontier Biosciences and Graduate School of Medicine, Osaka University ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘2–2 ◇ 2–2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565–0871, Japan

発行日:2017年12月25日Published: December 25, 2017
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生物は進化の過程において,大きな環境の変化が起ころうともそれにうまく適応し生き抜いてきた.進化の過程において一つの細胞であった原生生物から兆単位の細胞からなる脊椎動物まで細胞数を増やしたことは,環境に適応するための手段の一つであり,細胞間接着はその基盤となる重要な機能である.細胞間接着は環境に適応するためにシンプルな物理的接着機能だけを持っているのではなく,シグナル伝達や細胞極性の形成や維持など,多岐にわたる機能を有しているため,細胞間接着研究は非常に幅広い研究分野になっている.特に上皮細胞では,細胞間接着が特異的な配置と形状を保っており,個体発生の要として機能する.なかでも細胞間接着装置が細胞間バリア機能を獲得したことは特筆すべき事項である.本稿では上皮細胞間接着についてアドヘレンスジャンクションとタイトジャンクションを中心に最近の知見を紹介する.

1. はじめに

1)多細胞生物と細胞間接着

現在までに発見されている構成細胞数が最小の多細胞生物はシアワセモである.細胞数がわずか四つで,その形が四つ葉のクローバーのようにみえることからこのような素敵な名前がつけられ,その誕生は今から2億年前に遡る.この多細胞生物シアワセモ誕生から現在まで多細胞生物は2億年の年月を重ね,我々の体は60兆個を超える細胞から成り立つまでに細胞数が増加した.このような進化の過程で細胞と細胞をつなげる細胞間接着機能の獲得は非常に重要な事象の一つであるといえ,一つ一つの細胞が結合して脳,心臓,骨などの器官を作り上げ,生物の生命活動を成り立たせている.一つの受精卵から細胞分裂を繰り返し60兆個の細胞を作る中で細胞は約200種類のタイプに分けられる.そうすると,細胞と細胞の接着は“タイプの異なる細胞どうしをつなげる場合”と“タイプの同じ細胞をつなげる場合”の2種類が存在することになる.前者の例として,免疫系のリンパ球と血管内皮細胞の接着があげられる.リンパ球は血液中から組織へ移動する際に血管の表面を転がるローリング現象がみられる.これはリンパ球表面の糖鎖と血管内皮細胞表面に存在するセレクチンが相互作用することにより起こる現象であり,その後リンパ球の活性化されたインテグリンが血管内皮細胞のICAM-1やVCAM-1と結合する.後者の例として上皮細胞と上皮細胞をつなぐ細胞間接着があげられる.この接着はただ隣り合う細胞をつないでいるのではなく,積極的に同じ細胞どうしをつなぎ合わせる機能を持っている.その機能が示されたのは20世紀初頭の海綿を用いた実験であった.海綿を細胞が一つ一つになるまでバラバラにしたのち,バラバラになった細胞を混ぜると再集合し,さらに組織が再構築されることが観察され,海綿は多細胞系を再構築する能力を備えていることが示された.この発見に続いて,20世紀中ごろには,イモリの初期胚を用いた実験において,異なる部位由来の細胞をバラバラにしたのちに混ぜておくと,初めは混ざりあった細胞塊であったのが,細胞が移動しやがて同じ部位由来の細胞どうしが集まることが発見された.この現象は細胞選別と呼ばれ,同じタイプの細胞どうしの接着が積極的に行われていることを示しており,この同じタイプどうしの接着は器官形成を成り立たせ,個体形成の礎となっている.この細胞選別に必要不可欠な分子がカドヘリンである.クラシカルカドヘリンは同じ性質を持ったカドヘリンとしか結合しない性質を持っているので同じタイプの細胞どうしの接着において非常に有用である.

以上のように異なるタイプの細胞どうしの接着や同じタイプの細胞どうしの接着は生物の生命活動に非常に重要であるが,本稿では同じタイプの細胞どうしの接着,特に上皮組織を作り上げる上皮細胞どうしの接着に着目する.

2)上皮細胞間接着装置

組織中の上皮細胞の接着は当初形態学的に定義された.電子顕微鏡により観察された上皮細胞の接着部位は形態的な違いによりアピカル側からzonula occludens, zonula adherensと分けられ(図1),zonula occludensがタイトジャンクション(tight junction:TJ)であり,zonula adherensがアドヘレンスジャンクション(adherens junction:AJ)である1)[他,macula adherensと定義されたのがデスモソーム(desmosome)であるが本稿ではふれない].AJとTJは上皮細胞シートにおいて,特異的に発達した接着に特化した構造体であり,AJについては,上皮細胞シートになる以前にも存在し,また,神経細胞にも存在するなど上皮細胞以外にも存在する.このように,AJは一般的に多種の細胞に存在しており,広く細胞間接着を行うが,特に上皮細胞シートのアピカル側ではベルト状に発達する.TJもベルト状に配置する上皮に特異的な接着装置と考えられ,その接着では,隣どうしの細胞間の距離が極端に小さく保たれ,その部位での物質の流通が制限されている.上皮細胞間接着には直接的な接着剤として働く分子として膜貫通タンパク質が必要であり,AJにおける主な接着剤はカドヘリンであり,TJではクローディンであることが知られている.また,AJやTJの接着剤の効果を細胞内においてより強固にする補強剤として,細胞骨格に細胞間接着分子をつなぎ止める細胞骨格結合タンパク質が必要であり,補強剤としてカテニン,ビンキュリン,ZO-1,チンギュリンなどがあげられる.原生生物から後生動物へと進化し,細胞間接着構造を獲得していく過程で直接的な接着剤として働くカドヘリンやクローディンの起源を追うと,カドヘリン様遺伝子は後生動物に一番近いとされる単細胞生物である立襟鞭毛虫で見いだされるのに対し2),クローディン様遺伝子は単細胞生物である酵母やミドリムシにおいて見いだされており,その起源はより古い3, 4).このように細胞間接着分子の起源は単細胞生物に遡り,単細胞生物においても細胞間接着分子には,必ずしも細胞間接着に限らず,生物学的意味があると思われるがその詳細は不明な点が多く残されている.AJの補強材として働いているカテニンのホモログも,単細胞生物であるキイロタマホコリカビにおいて見つかっており,多細胞生物は進化の過程においてすでに単細胞生物に発現していた分子を細胞間接着構造に巧みに利用してきたことを示している.キイロタマホコリカビは細胞性粘菌の一種で,周りに餌が豊富にあるときは単細胞として捕食を行っているが,餌が周りにないときは移動体と呼ばれる多細胞集団になり,生命活動を維持する.この移動体と呼ばれる多細胞集団が多細胞生物の単純なモデルとされ,細胞間接着の研究が行われてきた.キイロタマホコリカビが移動体を形成する際にはDdCAD-1と呼ばれる24 kDaの糖タンパク質のカルシウム依存的な接着が存在することが知られており,接着している場所にβカテニンのホモログであるAdrdvarkも存在することが示されている5, 6).しかし,電子顕微鏡によって細胞間接着部位を観察すると,接着部位と細胞骨格との連結などがみられず6),多細胞生物の持つベルト状AJと呼べるような構造体になるにはもう少し進化が必要で,AJとTJのしっかりとした構造がみてとれるようになったのは後生動物の海綿からである.海綿を観察すると,棘皮動物や左右相称動物の上皮細胞にみられるベルト状のAJ構造が観察され,そこには脊椎動物と同じようにカドヘリンとカテニンも存在する7–9).また,海綿にはAJだけでなくTJと同様にバリア機能を持つセプテイトジャンクションの存在が分子とともに形態的に示されている8, 10)

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図1 マウス小腸の電子顕微鏡図

このように,AJもTJも原始的な後生動物から存在している構造である.その構造体は進化の過程において生命活動に重要な機能を果たし,さらに異なる環境への適応のためにAJやTJは構造的に外部からのストレスに応答する機能を獲得し,外部から個体への侵入を防ぐバリア機能を獲得し,さらには細胞間や外部からの力伝達や情報伝達を行う機能など,さまざまな機能を獲得したと考えられる.本稿では,AJやTJの最近の知見を概説するとともに,それらが生体高次機能と関連する一例として細胞間接着の細胞内代謝メカニズム制御機構を紹介したい.

2. AJの分子基盤構築

1)クラシックカドヘリン

AJには細胞間接着の主役である1回膜貫通タンパク質としてカドヘリンがある.カドヘリンは120種以上からなるカドヘリンファミリーを形成しており,その中でもクラシックカドヘリンサブファミリーと呼ばれるタンパク質群がある11).このサブファミリーにはE-カドヘリン,N-カドヘリン,P-カドヘリンなど約20種以上があり,その機能について最も詳細に解析が進んでいる.カドヘリンは細胞膜を1回だけ貫通する膜タンパク質でI型膜貫通タンパク質であり,細胞外領域に「細胞外カドヘリンドメイン(EC)」と呼ばれる繰り返し構造を五つ持ち,この細胞外領域が同種親和性の高い細胞間接着に寄与している.特にN末端側に位置するEC1ドメインはカルシウム結合領域を持ち,相手細胞側のカドヘリンと結合するのに重要なドメインである.

2)カテニン

細胞間接着分子が機能するために,細胞質領域でカドヘリンと結合することが必須である.カドヘリンの細胞質内領域にはアルマジロリピートを持つβカテニンとp120カテニンが結合する.βカテニンはタンパク質分子の中央部分のアルマジロリピートドメインでカドヘリンの細胞質内領域のC末端に近い部分と結合し,さらにβカテニンはN末端近くでαカテニンと結合し,カドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体を形成する.αカテニンは細胞骨格であるアクチン繊維と結合するので,AJのカドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体はアクチン繊維につなぎとめられていると考えられていた.しかし,10年以上前にαカテニンはβカテニンとアクチン繊維の両者とは同時に結合できないという実験結果が報告された12, 13).αカテニンはN末端部分でβカテニンと結合するが,このN末端部分にホモ二量体を形成するドメインを持っており,βカテニンと結合するか二量体を形成するかは競合的な関係にある.また,αカテニンがβカテニンと結合するとαカテニンのアクチン繊維との結合力が低下すること,αカテニンのホモ二量体はアクチン繊維と強く結合するが,カドヘリン-βカテニン二者複合体には結合しないことが示された(図2A).これらの報告により,カドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体とアクチン繊維の安定的な相互作用の存在が疑問視され,複合体の存在は謎であった.しかし,最近になってカドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体とアクチン繊維の相互作用には,力学的要素が重要であることが明らかとなった14).この報告によるとアクチン線維を光ピンセットで固定し,ビーズにカドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体を吸着させる.そしてビーズを置いたステージを動かしたときにだけビーズ上のカドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体がアクチン繊維に結合することが光ピンセットにつなげていたセンサーにより感知されたのである(図2B).これはカドヘリンに力学的エネルギーが加わったときにカドヘリン-βカテニン-αカテニン三者複合体がアクチン繊維と安定的に結合することを示しており,AJの強固な結合力がこのように発揮されていることを証明した(図2C).また,AJの力学的エネルギーへの反応はαカテニンの分子構造にも影響を与えることが報告されている15).αカテニンは力がかかっていないときは折れ曲がった構造をしているが,張力エネルギーがかかると分子が伸ばされる.伸ばされた分子はアクチン線維結合タンパク質であるビンキュリンとの結合ドメインが現れ,相互作用することができるようになる.このようにAJは細胞外や細胞内の力学的エネルギーを受けると,より強固な接着力を発揮できるようになる仕組みを備えている.

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図2 最近のアドヘレンスジャンクション研究

(A)カドヘリン複合体とアクチン.αカテニン(α-Cat)はβカテニン(β-Cat)に結合するとアクチンと結合できない.その逆にアクチンと結合するとβカテニンに結合できない.(B)ビーズにカドヘリン複合体を付着させる.ステージを動かすことでカドヘリン複合体がアクチンに結合するようなる.アクチンにつないだ光ピンセットにより,その張力を感知する.(C)カドヘリン複合体に張力を与えるとαカテニン分子が伸ばされ,ビンキュリン(Vin)との結合領域が現れる.(D)プロトカドヘリンがホモフィリックに結合すると神経細胞は複雑な形態をとることができるが,ヘテロフィリックに結合すると神経細胞はそのような形態をとることができない.(E)神経細胞の軸索におけるプロトカドヘリン17の分子メカニズム.Lpd:Lamellipodin.(F)小腸上皮細胞の微絨毛におけるプロトカドヘリン24とムチン様プロトカドヘリンの分子メカニズム.Harmonin:ハルモニン,Myo7b:ミオシン7b.

カドヘリンの細胞質内領域に結合するp120カテニンは低分子量Gタンパク質Racの活性を制御することでRhoの局所的な不活性経路に影響しており,また,カドヘリンのエンドサイトーシスに関わっていることが報告されている16, 17).そして,約10年前に微小管のマイナス端がAJとつながっていることが示された18).p120カテニンはPLEKHA7を介してNezha/CAMSAP3と相互作用している.このNezha/CAMSAP3は微小管のマイナス端に結合するタンパク質であり,AJへの微小管の配向はこのタンパク質が担っていることが示された.PLEKHA7やNezha/CAMSAP3をノックダウンした細胞ではE-カドヘリンのAJへの局在が減少する.これは微小管のマイナス端のAJへの配向ができずに本来KIFC3によってAJに運ばれるE-カドヘリンが運ばれなくなってしまうことにより生じていた.このように,AJに存在するカドヘリン-カテニン複合体は細胞骨格に結合し,AJの機能維持や構造維持に必須である.

3)プロトカドヘリンファミリー

プロトカドヘリンサブファミリーは,生体の形成に非常に重要な役割を果たしており,カドヘリンファミリーの中で一番大きなサブファミリーを形成している.特に脳に多く発現がみられ,中枢神経系システムの構築に重要であると考えられてきた19).クラスター型プロトカドヘリンの発現は免疫グロブリンの可変領域が多様性を持つシステムと同じような発現制御様式であり,多様化したエクソンから構成される可変領域と共通に用いられる定常領域からなっており,さまざまなタイプのプロトカドヘリンが産出される20).最近では,周囲の神経細胞が発現するγプロトカドヘリンと合致した際は神経の樹状分枝が増え複雑な神経ネットワークがみられたのに対し,合致しない場合は神経細胞の樹状分枝が減り,神経ネットワークが単純なものになってしまうことが報告された21).また,アストロサイトと神経細胞との関係も同様な結果であり,これらの結果は一つ一つの神経細胞どうしがプロトカドヘリンのホモフィリックな結合によりしっかりと結合することが神経ネットワーク全体の秩序だった形態形成に重要であることを示唆している(図2D).プロトカドヘリンもクラシックカドヘリンと同様にホモフィリックな結合が重要であるが,プロトカドヘリンはカテニン結合部位を持たないため,クラシカルカドヘリンのようなカテニンによる機能制御機構は考えにくい.その機能制御の分子メカニズムは不明であったが,近年,プロトカドヘリンの細胞内結合タンパク質が報告され機能制御メカニズムが明らかになりつつある.プロトカドヘリン17は神経細胞の軸索の伸長を支えうる役割を果たしていることが報告された22).プロトカドヘリン17は扁桃体の特定のニューロンに存在し,ホモフィリックな結合により軸索どうしが接する部位に局在する.そこにWAVE複合体,Lamellipodin, Ena/Vaspが集積することによりアクチン重合を制御し,軸索の接触部位の運動性が活性化されていた.この分子機構により,プロトカドヘリン17はあるニューロンの軸索が他のニューロンに接触し,それに沿うように伸長する運動を制御していることが示唆された(図2E).

また,プロトカドヘリンは細胞間接着だけでなく,上皮細胞の表面に存在する突起構造(内耳有毛細胞の不動毛の形成や腸管の上皮細胞の微絨毛)の形成においてもその役割が示されている.内耳細胞ではステレオシリアが規則的配置をとっている.ステレオシリアどうしはつながっており,音を感知した際にはステレオシリアが同一方向に倒れる.この時に力学ストレスが生じることでステレオシリアにあるチャネルが開き,内リンパ液に含まれるカリウムイオンが流入する仕組みになっている.このようなステレオシリアどうしをつなげるのに重要な役割を担っているプロトカドヘリンンがカドヘリン23とカドヘリン15である23).プロトカドヘリン15に変異が入るとステレオシリアどうしの結合が壊れることにより,チャネルからのイオンの流入が起きずに難聴になることが示された.また,プロトカドヘリン24は小腸上皮細胞の微絨毛部位に発現がみられており,このプロトカドヘリン24ノックアウトマウスでは微絨毛の形態が顕著に乱れていた24).さらに,プロトカドヘリン24がMLPCDHとヘテロフィリックな結合によって微絨毛どうしをつなげており,プロトカドヘリンが細胞内でハルモニンやミオシン7bと結合することで微絨毛の頭頂部に局在し,微絨毛の形態形成に重要な役割を果たしていることが示された(図2F).このようにプロトカドヘリンは神経ネットワーク形成や細胞の形態形成や維持などに重要な働きが報告されている.

4)7回膜貫通カドヘリン

7回膜貫通カドヘリンFlamingoがショウジョウバエで発見された.この分子は細胞外にECドメインを九つ,システインリッチ領域を三つ,ラミニン球状ドメインを二つ持った7回膜貫通タンパク質である.脊椎動物にもCelsrと呼ばれるFlamingoのホモログが見つかっており,細胞の平面内極性(planar cell polarity:PCP)の形成に必須であることが示唆されている.個体発生の神経板湾曲の際,Celsr1は腹側背側と直行する方向のAJに局在していることが確認されている.そのAJにおいてCelsr1はDishevelled, DAAM1, PDZ RhoGEFと協働してRhoキナーゼを制御し,Celsr1が局在するAJ側だけにアクトミオシンによる収縮力を生じさせていた25).この現象は7回膜貫通カドヘリンCelsr1がPCPシグナルによってアクトミオシンの収縮力の偏在を制御して,神経板湾曲のようにある細胞集団の収縮の方向性を制御していることを示している.このように7回膜貫通カドヘリンはPCPの形成に必要であり,また神経細胞の枝分かれ構造に必要であることが報告されている26)

5)ネクチン

AJにはもう一つ接着複合体が存在し,それがネクチン-アファディン複合体である.ネクチンは細胞外領域に三つの免疫グロブリン様ドメインを持つ1回膜貫通タンパク質であり,細胞間接着機能を持つ.ネクチンの細胞質内領域に結合するのがアファディンであり,アファディンはPDZドメインを介してネクチンに結合している.ネクチン-アファディン複合体はAJの形成や上皮細胞が極性を持つのに重要な役割を果たしていることが知られている27).また,5年ほど前にマウスの内耳においてネクチンの働きについて非常に興味深い報告がされた28).内耳の聴覚上皮細胞は有毛感覚細胞と支持細胞の異なる細胞が市松模様に並ぶことが知られていたが,その配置を制御するメカニズムは不明であった.有毛感覚細胞はネクチン-1を,支持細胞はネクチン-3をそれぞれ発現しており,これらネクチンのノックアウトマウスにおいて市松模様の配置の破綻が観察された.これにより聴覚上皮細胞の配置を制御しているのは異なるネクチンのヘテロフィリックな相互作用であることが示唆された.

以上示したとおり,AJのカドヘリンファミリーやネクチンなどの膜貫通タンパク質は隣り合う細胞と接着するだけではなく,細胞内で結合するタンパク質を介して細胞内全体に波及するシグナルを制御する重要な機能を有している.そのシグナルは細胞増殖,極性,力学応答など多岐にわたり,それらを正確に制御することでAJは個体形成の根幹となっている.

3. TJの分子基盤構築

1)クローディンファミリー

「上皮細胞間バリア」は,19世紀後半に高等生物の生体システムにおいて欠かせない機構であると提示された「生体バリア」研究から発した歴史ある概念である.生体システム全般に関係する統括的なテーマであるために,多面的な集積を必要とし,壮大な時間スケールでの進展状況となっている.19世紀にEhrlichによって,色素液中に胚を浸漬すると脳組織には浸透せず,白く保たれる機構の存在が示され,20世紀初期にその延長で血液脳関門の概念が確立した.この機能主体として,血管を覆う上皮性の内皮細胞シートのバリア機能が想定された.その後20世紀半ばに,FarquharとPaladeによって電子顕微鏡観察により小腸上皮細胞間接着装置の中で特に隣り合う細胞間隙が閉ざされているものがタイトジャンクション(TJ)として定義され,細胞間バリアを担うものとして特記された1).生体の臓器全般の上皮細胞でTJの存在が確認され,「上皮細胞間バリア」の本体がTJであることが広く認められ,「上皮細胞間バリア」の概念が明確になった.この概念は生理学の分野において広く受け入れられ,20世紀後半には上皮細胞シートの生理学が革新的に進んだ.一方で,TJに局在する膜タンパク質分子に関しては抗原性も低く,他の裏打ちタンパク質分子等と協働してTJストランドと呼ばれる不溶性の重合体を形成しているため,接着分子の実体を含む分子細胞生物学所見は長い間未開拓であった.そのような状況の中,肝臓から毛細胆管を生化学的手法にて単離する技術が開発された29).この単離された毛細胆管画分にはAJとTJが非常に豊富に含まれており,この画分を解析することによりTJの膜タンパク質オクルディンとクローディンが発見されTJ研究の道筋が大きく開いた30–32).クローディンはTJにおける細胞間接着を担う4回膜貫通タンパク質であり現在まで27種のクローディン分子が報告され,クローディンファミリーを形成している33, 34).これらは臓器特異的な発現パターンを示し,クローディン3はさまざまな臓器で発現しているのに対し,クローディン1は主に,皮膚,肝臓,肺に多く発現している.クローディン6は胎児のさまざまな臓器に発現するが成体では発現していないなど発現パターンはさまざまである(図3A34).さらに,クローディンは同じクローディン分子のみに結合するホモフィリックな結合もヘテロフィリックな結合もあり,各クローディンどうしの結合パターンによって多様な細胞間結合が考えられる35)

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図3 最近のタイトジャンクション研究

(A)各臓器におけるクローディンの発現パターン.数字の大きさが発現量を表す.(B)クローディン15の分子構造とCPEと結合したクローディン19の分子構造.(C)クローディンやオクルディンノックアウトマウスに現れる疾病.(D)クローディン15ノックアウトマウスにみられる腸肥大とクローディン1ノックダウンマウスにみられる皮膚肥厚.(E)マウス掛け合わせによりクローディン1の発現を6段階に細分化することに成功した.

2)ストランド構造と経上皮電気抵抗(TER)

クローディンで構成されるTJに共通する特徴は,フリーズフラクチャー法電子顕微鏡を用いた観察像で明瞭に示されるストランド構造である.現在の見解では,TJストランド構造はTJを形成する本体であり,確立した上皮細胞間バリアを持つ構造として唯一のもので,クローディンはその形成に必須であり十分でもあると考えられる.ただし,クローディンの重合に,細胞質の骨格性タンパク質が必須であることはここで重要な事項として特筆すべき点である.このことにより,細胞間バリアが細胞のシグナル系と連動することともなり,細胞の機能と組織機能,そして,個体機能において重要な役割を担うこととなる.

クローディン分子の27種類のサブタイプには特徴がある.クローディン1とクローディン4が発現しているMDCK I細胞にウエルシュ菌エンテロトキシン(CPE)を添加した実験では,添加した時間経過とともにクローディン4のTJにおける発現が低下していく.CPEがクローディン4に高い親和性を持ち,結合するとクローディン4をエンドサイトーシスさせてしまい,ストランド構造が減少していくためである36).また,いくつかのクローディンノックアウトマウスを用いた実験においても,野生型マウスと比較した場合ノックアウトマウスにおけるTJストランド構造が変化していることが示されている37–39).一方,すでにクローディンを発現している培養細胞を用いた実験ではクローディンを過剰に発現させてもストランド構造に大きな変化は認められず,また,細胞骨格に結合できないC末端を欠いたクローディン1を過剰発現するとストランド構造異常がみられた40).このようにストランド構造は細胞骨格に連関していると思われるが,この状況は,種々のシグナルで制御される可能性があり,バリア制御においての細胞内骨格シグナル系の重要性が認識される.

ストランドの形態とTJの機能について調べるためクローディンを発現していないマウスセルトリ細胞由来であるSF細胞にクローディン分子を1種類ずつ遺伝子導入し,強制発現してそれぞれのクローディンのストランド構造を観察したところ,クローディン7や14は網目構造のストランド構造を呈し,クローディン19は平行なストランド構造を呈し,さらにクローディン10ではストランド構造がみられなかったなど,クローディン分子の種類によってストランド構造が異なっていた41).この細胞ではTJのバリア機能評価の一つである経上皮電気抵抗(TER)を計測することができなかったのは,連続したTJを作る要素が欠けているためと思われる.クローディンの重合はTJストランド形成に必須であり,その連続性が細胞間バリアの形成に欠かせないことが示唆される.一方,イヌ腎臓細胞由来のMDCK I細胞はMDCK II細胞のストランド構造と非常に似た構造を持っているのもかかわらず,TERの値は30から60倍も高い42).これらの報告からクローディン分子1種類でのストランド構造はその分子特異的なものであるが,ストランド構造だけでTERを制御していることではないといえる.それではTERを制御しているものはどのような因子であるか.MDCK II細胞でTERの値が上がらないのは,MDCK IIに発現するクローディン2がイオンを通すチャネルを形成するためである43).27種類のサブタイプのほとんどは細胞間チャネルを形成しないバリア型クローディンであり,数種のものが細胞間チャネルを形成する細胞間チャネル型クローディンであると思われる.ここで注意したいのは,チャネル型クローディンといえどもバリア自体は形成している.チャネル型クローディンは選択的にイオンを通すという性質を備えているが,最近の構造解析結果からチャネル型とバリア型クローディンの分子骨格は共通しており,細胞外ドメインの電荷によってチャネル機能が生じるというモデルが提出された.このモデルを検証することは,上皮バリアの生体機能における受容性を考えると,将来的に非常に重要なことで,幅広い創薬も期待できる.

3)クローディンの構造解析

クローディンは,細胞間バリアを創成するというユニークな性質を示すが,どのように重合してそのような性質を獲得するか明らかでなく,また,ときに細胞間チャネルとして機能する様式が謎に包まれていたため,その分子構造の解析が嘱望された.クローディン分子の発見から約20年の間,その立体構造は不明であったが,2014年にチャネル型クローディンであるクローディン15の立体構造が明らかになった(図3B44).鈴木らは,クローディン15を脂質環境下で結晶化して,X線マイクロビームにより回析データを取得し,2.4 Åの分解能で構造を決定した.クローディン15は幅3 nmの大きさの分子で4回膜貫通タンパク質であり,同じ細胞内で構築するTJストランド構造では(シス結合),ECH領域と呼ばれる第二膜貫通領域近傍にある細胞外ヘリックス構造と,第三膜貫通領域のC末端側の疎水的相互作用が重要であることが示された.生体内では,シス結合と細胞間のトランス結合は互いに必須であると考えられているが,トランス結合を行うと考えられる二つの可変領域以外に,シス結合に関わるドメインとして細胞外にECHドメインが存在することは,クローディンの重合の特徴を示すものとして注目される.細胞質ドメインに結合するZO1による細胞骨格が重合に必須であることと細胞外ドメインにあるシス結合領域との協働機構に興味が持たれる.大きな第一細胞外領域ループと比較的小さな第二細胞外領域ループには四つの,第二細胞外ループには一つのβシート領域が存在していた.これら五つのβシート構造は,接着相手の五つの細胞外βシート構造と合わせてβバレルを形成すると考えられる.βシート構造はクローディンに高く保存されているW-L-W配列によって細胞膜の脂質二重層近傍に配置するような構造的特徴が明らかになった.五つのβシート領域によって細胞外に掌を向けた構造を手の5本指にたとえると,クローディンは隣り合う細胞間で掌を合わせるようにして細胞膜に密接して配置し,TJの細胞間バリアやチャネルを形成するようにみえる(トランス結合).細胞間のβバレル形成は誰しも想定していなかったが,βバレル内の電荷が疎水性なら水性のものをはね返し,親水性ならイオンチャネル様の役割を果たす,というモデルは大変に魅力的である.将来,2次元結晶などでのモデルの証明およびさらなる構築解析が期待される.上皮細胞間バリア構築の基盤として,最重要課題の一つである.

クローディン19の構造もCPEと結合した複合体構造として明らかとなっている45).この複合体構造は同じくX線マイクロビームにより回析データを得て3.7 Åの分解能で決定された.クローディン15はCPEと結合することはできないクローディンであるが,細胞外に五つのβシート領域からなるβシート構造があったのに対し,CPEと結合したクローディン19ではCPEと接触しているのは1, 2, 5番目のβシート領域であり,これまで毒素感受性であると予想されてきた5番目のβシート領域に加え,CPEとの結合が予想されていなかった1, 2番目のβシート領域も結合に重要であることが明らかになった(図3B).複合体構造では①ストランド形成に必要であるECH領域に乱れが生じる,②5番目のβシート領域が含まれる第二膜貫通領域の構造変化が起きる,③結合したCPEが次につながるクローディン分子の物理的な障害となる,といった三つの事象によりストランド構造から離脱し,エンドサイトーシスされていくことが示唆された.CPEがバリア機能の変調を促していく作用機序はバリア操作のヒントになることから注目される.バリアを下げることは,たとえば,血液脳関門を通して薬剤を通過させる方策に応用しうる特性であるが,通常の生体機能をよく保つためには,質的に機能状態のよいバリアをしっかり保つことが必須であろう.現在では,加齢により,クローディンの発現パターンも大きく変化することも知られており,上皮バリアの品質保持は健康な生体機能保持に重要であると思われる.

4)MARVELタンパク質ファミリー

クローディン以外のTJに局在する4回膜貫通タンパク質としてオクルディン,トリセルリン,MarvelD3が知られており,これらはMARVELタンパク質ファミリーとして分類されている.トリセルリンはその名のとおり三つの細胞が交差するポイント(トリセルラータイトジャンクション:tTJ)に局在し,tTJの形成および維持に重要であることが示されている46).また,ヒト結腸がん由来Caco2細胞においてMarvelD3をノックダウンすると細胞の移動や増殖の増加がみられ,MarvelD3を発現していないヒト膵臓がん由来MiaPaca-2細胞に発現させると細胞の移動や増殖を抑え,また,ヌードマウスにこの細胞を移植すると腫瘍化が抑えられた47).この現象を詳細に解析するとMarvelD3はMEKK1と結合することでMEKK1をTJに局在させ,JNKのリン酸化を抑制することでJNKが制御している転写メカニズムを阻害しており,細胞の挙動や生存にMarvelD3が重要であることが示唆された.

オクルディンについては初めて発見されたTJ膜タンパク質ということもあり,報告が多い.TJに局在するオクルディンはリン酸化されて安定化しているが,TJが崩壊した際には脱リン酸化が起きていることから,TJ機能の維持にオクルディンのリン酸化が必要であると考えられている.PP2AやPP1はオクルディンの脱リン酸化を促進することが知られており,PP2AやPP1をオカダ酸やFostriecinなどを使って活性を阻害した際や,PP2AやPP1をノックダウンするとTJの形成が促進されオクルディンの集積も促進されることが知られている48).また,オクルディンはカベオリン依存的にエンドサイトーシスされていることが知られており49),インターフェロンγやTNFαなどのサイトカインによるTERの値が上昇するなどのTJ機能の向上はサイトカインによるカベオリン依存的なエンドサイトーシスを阻害することによって起きている.このようにMARVELタンパク質ファミリーはTJの機能に重要であることがわかってきているが,これらの分子をノックダウンまたはノックアウトしてもTJストランドは消失しないこと,またオクルディンノックアウトマウスは全身に障害が認められることから50),MARVELタンパク質ファミリーはTJ機能の維持や調整を行っているものと考えられるが,クローディン分子との相互作用など不明な点が多く残されており,調節機構など理解するためにはより詳細な解析が必要である.

5)クローディンなどのノックアウトマウス解析

クローディンやオクルディン,トリセルリンのノックアウトマウスはさまざまな病変を呈すことが報告されている(図3C34).ここでは,細胞間バリアにチャネルを形成するクローディン2・15のノックアウトマウスと形成しないクローディン1のノックダウンマウスに注目する.クローディン15は腸管に特異的に発現するクローディンであり,クローディン2・15のダブルノックアウトマウスでは栄養が完全に吸収されなくなり,幼児期致死の表現型を示す51).クローディン2・15が細胞間でNaに対する細胞外チャネルを形成すると体内のNaが上皮細胞シートアピカル面を覆い,上皮細胞アピカル膜に埋め込まれた栄養トランスポーターを開き,栄養が上皮細胞に吸収されるようにする.クローディンの細胞間細胞外チャネルと上皮細胞膜チャネルの機能連携の妙である.続いて,クローディン1についてであるが,クローディン1ノックアウトマウスは出生1日で脱水により致死になるため52),成長過程におけるクローディン1の機能をみることができなかった.そこで遺伝子改変技術を用いてクローディン1の発現量を6段階に変化させたノックダウンマウスを作製した53).この6段階に発現量を変化させたノックダウンマウスそれぞれからケラチノサイトを単離し,mRNA量やタンパク質量が与えるバリア機能への影響を解析した結果,mRNA量とタンパク質量は発現量が野生型に比べて約半分になるまでバリア機能には影響を与えなかったが,半分以下になると急激に影響を及ぼすことが明らかになった.これによりクローディンの発現依存的に上皮バリアの質が異なることが示された.

さらに興味深いことに,クローディン1の発現量が低いノックダウンマウスの皮膚において皮膚の肥厚がみられ,基底細胞の異常な増殖が観察された53).このような細胞増殖異常がクローディン15ノックアウトマウスの腸管においても観察され37),臓器や組織のサイズコントロールに異常がみられることから(図3D),TJが細胞増殖をつかさどる細胞の動的不均一性に何らかの形で影響しているのではないかと予想できる.TJによる臓器・器官のサイズコントロールメカニズムの分子機構が今後の解析により明らかになるものと期待される.また,今日までヘテロマウスでは表現型が現れず,ノックアウトマウスが胎生致死,または,生まれてまもなく死んでしまうような遺伝子ノックアウトマウスにとって,クローディン1の解析に用いた掛け合わせによる6段階の発現量の細分化の手法は今後非常に有効な手段になりうるものであり,病変を引き起こす遺伝子の発現量の臨界点を見つけることが可能になる非常に有用なマウスストラテジーである(図3E).

このように,TJはクローディンファミリーによって隣り合う細胞と密着し,個体と外界を隔て生体内の恒常性の維持に寄与している.クローディン分子の細胞外ドメインの電荷の違いにより外界からの物質の流入を防ぐバリア機能だけでなく,イオンなどを選択的に透過させるチャネル機能を持つことで生体内の環境を適正に制御することが可能になる.生体機能基盤を明らかにして,その制御の方策を見いだしていく足がかりとして,クローディンを中心としたTJ研究は,将来を期待される.

これまで述べてきたようにAJとTJは生体において重要な多くの機能を獲得し,多細胞生物の生命活動の礎となっている.次節では細胞間接着が獲得した多くの機能の中で特に「細胞間接着の細胞内代謝メカニズム制御機構」に注目してご紹介したい.

4. 上皮細胞の栄養状態と細胞間接着装置

キイロタマホコリカビは周囲の栄養の有無によって単細胞や,細胞集団で行動する.これは細胞内のエネルギー状態によって他の個体と接着するかしないかを判断しているようにもみえる.この視点から上皮細胞間接着装置を考えると,細胞内のエネルギー状態とAJやTJとの間に何らかの関係性があるのではないかと推察される.まず,エネルギー依存性の反応として,細胞の力学的摂動に対する応答を考える.AJは力に対する応答性を有している構造であることが示されており,細胞外から力が加わった際には常にアクトミオシンによる応答がなされている14, 15).アクトミオシンの協働の代表例は筋収縮であるが,この筋収縮においてATPが消費されエネルギー低下ストレス状態になるとAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化し,ATPレベルの回復を促すことが知られ,この反応と似た反応が上皮細胞内で起きていると思われる.AMPKは上流の活性因子であるLKB1とともにAJに局在していることが知られており,その局在はE-カドヘリン依存的であり54),また,ショウジョウバエによる実験ではAMPKは細胞の頂底極性を制御しミオシンのリン酸化も制御しているという報告がある55).最近E-カドヘリンに外部から力が加わったときにLKB1/AMPK複合体がE-カドヘリンに結合し,AMPKがアクトミオシンの協働を制御することで細胞外から加わった力に対して応答することが示された56).以上の結果より,AJでの力学応答がAMPKの活性を制御していることが示された.AMPKの活性が上昇すると循環器疾患や糖尿病,がん化などを予防できることを考えると,AJの力学応答メカニズムがそういった疾病の抑制に重要な働きをしていると考えられる.

一方で,TJはAJのようなAMPKの活性を制御する働きはなく,AMPK活性の下流でTJが制御されている.TJにはAMPKの基質がいくつか存在することが予想されており,AMPKによる細胞骨格結合タンパク質チンギュリンの制御機構が報告されている57).それによると,チンギュリンはTJに局在する細胞骨格であるアクチンに結合するタンパク質として知られていたが,加えて微小管への結合が示された.上皮細胞のアピカル膜直下には微小管の網目状構造があり,その微小管構造は少なくともその一部がチンギュリンによってTJにつなぎ止められていると思われる.微小管とチンギュリンの結合にはAMPKによる制御がみられた.AMPKによってリン酸化されたチンギュリンは微小管への結合が強く,その結合が細胞塊の形成に重要であることが示唆されている.細胞間バリアへの影響についても,予備的ではあるがデータが得られており,今後,微小管を軸とした接着分子の輸送メカニズムや新陳代謝の機構に興味が持たれる.

このようにAMPKと上皮細胞間接着装置には密接な関係があり,がんや糖尿病の制御メカニズムや細胞集団の形態形成メカニズムに非常に深く関係している可能性があるが,今日までに多くの知見が得られているわけではない.細胞の代謝メカニズムは基礎研究から応用研究まで幅広い分野で興味が持たれるテーマであることを考えると,AMPKと上皮細胞間接着装置の関係性は今後の研究の発展により明らかになってくることが期待され,また細胞間接着装置と生体トータルシステムの関係を明らかにする切り口として有用である.

5. おわりに

AJ研究におけるクラシックカドヘリン研究は,常に新しい知見や概念を提供し細胞間接着研究をリードしてきた.ビーズやシャーレにカドヘリン分子をくっつけて行う高度なナノテク実験などが精密に行われるようになるなど,技術革新も目覚ましい.このような技術をプロトカドヘリンファミリーや7回膜貫通カドヘリンやネクチン,クローディンなどの研究に応用すれば,また新たな展開がみられるであろう.TJ研究では,さまざまなクローディンノックアウトマウス解析からわかるように,TJの変調は上皮バリア変調としてあらゆる病気につながっており,いかにTJが各臓器の恒常性維持に重要かを示している.臓器間の連携にも重要であると思われる.そのような状況の中クローディンの構造が解かれたのはクローディン分子発見以来の大きなブレークスルーである.クローディンのサブタイプによりいかにバリア型の細胞間バリアや細胞間バリア内チャネルが形成されるかというモデルは,将来的に実証の必要があるものの,TJを経由した新規ドラッグデリバリー法の開発など創薬を含めた幅広い分野において大きな影響を与える.本稿では細胞間接着と細胞内代謝メカニズム制御機構に注目して述べたが,細胞間接着装置は細胞増殖,移動,分化,さらには器官の形態形成に対して非常に重要な機能を獲得しており,その機能どうしが絶妙なバランスを保っている.一つの機能が不全に陥った場合や,機能どうしのバランスが崩れた場合に生体の生命活動が正常に行えなくなるなど,上皮細胞シートで得られた結果が個体レベルに影響する分野として,まだまだ課題が多く残されている.上皮細胞シートは,上皮バリアを考える上で,操作しやすいという特徴も示す.体外に面した部分について,外からの摂動もかけやすく,また投薬の対象ともなる.上皮バリア操作については高度な細胞生物学の推進が有用であり,そのことの積み重ねにより,上皮バリアを基盤とする生体制御という視点に新機軸が期待される.

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著者紹介Author Profile

矢野 智樹(やの ともき)

大阪大学医学系研究科助教.博士(医学).

略歴

1978年大分県に生る.東北大学農学部,同大学院農学研究科博士前課程修了,京都大学大学院医学研究科博士後期課程修了,大阪大学大学院医学研究科特別研究員を経て,2013年より現職.

研究テーマと抱負

多細胞生物の生命原理に上皮細胞間接着を中心とした視点で細胞生物学,発生生物学的手法を用いて迫って行きたい.

趣味

土曜晩酌,日曜大工.

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