病原細菌による宿主細胞外グリコサミノグリカンの断片化・輸送・分解・代謝に関わる分子機構
京都大学農学研究科 ◇ 〒611–0011 京都府宇治市五ヶ庄
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グリコサミノグリカン(GAG)は,動物の細胞外マトリックスの主要な構成成分として存在するヘテロ多糖である1).主にウロン酸[グルクロン酸(GlcUA)またはイズロン酸(IdoUA)]とアミノ糖[グルコサミン(GlcN),N-アセチルグルコサミン(GlcNAc),またはN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)]からなる二糖がGAGの構成単位となる(図1).構成糖,グリコシド結合様式,および硫酸化レベルに基づいてGAGは,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸,ヘパリン/ヘパラン硫酸などに分類される.GAGは,細胞の構造維持や細胞どうしの接着などの多彩な機能を示す.一方,ある種の常在細菌や病原細菌は,宿主細胞に共生・感染する際に,GAGを定着や分解の標的とする2).
グラム陽性の連鎖球菌(Streptococcus)は,ヒトの口腔,咽頭,消化管,泌尿生殖器に常在している.しかし,肺炎,髄膜炎や敗血症などの感染症を誘発することがある.その発症には,連鎖球菌によるGAGの認識と結合あるいは分解が関与する.たとえば,肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はGAG(コンドロイチン硫酸やヘパラン硫酸)を介して粘膜上皮細胞と接着し3),ヒアルロン酸を分解することにより,宿主細胞に定着・侵入すると考えられている4).本稿では,GAGを標的とする病原細菌に焦点を当て,GAGの断片化,輸送,分解,および代謝に関わる分子機構を概説する.
一般に,多糖リアーゼは多糖分子中のウロン酸残基を認識し,加水分解反応とは異なるβ-脱離反応でグリコシド結合を切断する.生じたオリゴ糖は,C4位とC5位との間に二重結合のあるウロン酸残基を持つ不飽和糖である(図2A).糖質関連酵素(CAZy)のデータベース(http://www.cazy.org)において,多糖リアーゼは一次構造に基づいて,27のファミリー(PL1-27)に分類される.GAGに作用するリアーゼは,PL6, 8, 12, 13, 15, 16, 21,および23の八つのファミリーに分布している.細菌の細胞外または細胞表層に局在するヒアルロン酸リアーゼ(HysA)は,PL8に分類されており,ヒアルロン酸を不飽和二糖にまで断片化する(図2A)5).HysAは,種々の病原細菌で,感染症発症のための侵入因子として働き,その生理作用や構造機能相関が明らかにされている.
病原細菌(連鎖球菌と連鎖桿菌)は,細胞表層の多糖リアーゼ(HysA)によりGAGを不飽和二糖にまで断片化し,生じた不飽和二糖を細胞質内に取り込む.不飽和二糖は細胞質に局在する不飽和グルクロニルヒドロラーゼ(UGL)により,不飽和ウロン酸とアミノ糖に分解される.不飽和ウロン酸は,イソメラーゼ(DhuIまたはKduI),NADH依存レダクターゼ(DhuDまたはKduD),キナーゼ(KdgK),およびアルドラーゼ(KdgA)の逐次反応により,ピルビン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸(G-3-P)に代謝される.これらの酵素や輸送体は,ゲノム上で一つの遺伝子クラスターにコードされる.なお,連鎖球菌は不飽和二糖をホスホエノールピルビン酸:糖リン酸転移系(PTS)によりリン酸化を介して細胞質内に輸送するのに対し,連鎖桿菌は不飽和二糖を修飾することなくABCトランスポーターにより取り込む.
HysA欠損により,肺炎球菌のマウス上気道への定着は顕著に減少する4).最近,断片化された不飽和二糖がToll様受容体2/4のシグナリングを阻害することにより,細菌が宿主の免疫を回避することが報告された6).連鎖球菌のHysAは,N末端側のα/α-バレルドメインとC末端側の逆平行β-シートドメインからなり,これらのドメインの境界に活性部位クレフトを持つ(図3A).
(A) HysA (PDB-ID:1C82), (B) UGL (PDB-ID:2ZZR), (C) DhuI (PDB-ID:4U8E), (D) DhuD (PDB-ID:4U8G), (E) Smon0123[左:open型(PDB-ID:5GX8),右:基質(赤・緑球)結合closed型(PDB-ID:5GX7)].
リアーゼ反応で生じた不飽和二糖は,細胞質酵素である不飽和グルクロニルヒドロラーゼ(UGL)により単糖にまで分解される(図2A)7).本酵素は,CAZyデータベースで,単一の加水分解酵素ファミリーGH88に分類される.これは,八つのファミリーに分類されるGAGリアーゼとは対照的である.その要因として,多様なGAGからリアーゼ反応により生じる不飽和二糖のほぼすべてが不飽和ウロン酸を非還元末端に持つことが考えられる.実際,連鎖球菌のUGLは,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,およびヘパリンから生じる不飽和二糖に作用する8).
UGLは,他の糖質加水分解酵素とは異なり,一つのアスパラギン酸残基を一般酸/塩基触媒として,グリコシド結合ではなく,不飽和ウロン酸の二重結合を水和することによって,触媒反応を開始する9).本酵素は分子中央に活性クレフトを持つα/α-バレル構造を示す(図3B).これらの知見に基づいて,HysAとUGLが宿主への侵入・伝播の第一関門である宿主細胞外マトリックスの破壊分子として機能する宿主細胞感染・侵入モデルが提唱されている10)
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現在,KEGGデータベース(http://www.genome.jp/kegg/catalog/org_list.html)には,病原細菌を中心に,4000以上の細菌ゲノムが登録されている.一方,PL8とGH88の各ファミリーにはそれぞれ1000を超えるエントリーがあるため,細菌ゲノムにGAG分解系遺伝子が高頻度でコードされていることになる.肺炎球菌のゲノムでは,HysAとUGLの各酵素遺伝子が糖質輸送に関わるホモログ遺伝子群やPL12リアーゼ(HepC)遺伝子などと一つのクラスターを形成している7)(図2B左).
B群溶血性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)を,ヒアルロン酸存在下で培養すると,この遺伝子クラスターの発現が誘導される7).糖質輸送系ホモログ遺伝子群は,ホスホエノールピルビン酸:糖リン酸転移系(PTS)における酵素IIの各構成ユニット(IIA, IIB, IIC,およびIID)をコードする.PTSは糖質のC6位水酸基をリン酸化し,リン酸化糖質を細胞内に輸送する(図2A左).連鎖球菌では,HysAは細胞表層に,UGLは細胞質に局在することから,これらのPTS構成ユニットは不飽和二糖の細胞内取り込みに機能すると考えられる.実際,肺炎球菌のPTS遺伝子破壊株はヒアルロン酸資化性を欠損する4).
齧歯類の口腔内に常在するグラム陰性連鎖桿菌(Streptobacillus moniliformis)は,ヒトに対して鼠咬症を引き起こす.連鎖桿菌のゲノムにも類似のGAG遺伝子クラスターが認められる(図2B右).しかし,輸送系において,連鎖球菌のPTSとは異なり,基質結合タンパク質依存ATP結合カセット(ABC)トランスポーターがコードされている(図2A).PTSは糖質のC6位水酸基をリン酸化するため,C6位水酸基に硫酸基を持つコンドロイチン-6-硫酸は基質に不向きである.なお,ヒアルロン酸は硫酸化されていないため,連鎖球菌PTSの基質になる.一方,ABCトランスポーターは輸送の前後で基質の構造を変化させることはない.
連鎖桿菌のGAG遺伝子クラスターにコードされる酵素・タンパク質のトポロジー解析から,連鎖桿菌によるGAG作用モデルを提唱した(図2A右)11).細胞表層のPL8リアーゼHysA(Smon0125)がGAGを断片化し,生じた不飽和二糖がペリプラズムに局在する基質結合タンパク質(Smon0123)に捕捉された後,細胞質膜のABCトランスポーターにより細胞質に取り込まれる.ABCトランスポーターは,ATPaseとして機能するABCタンパク質(ホモ二量体:Smon0120-Smon0120)と膜貫通タンパク質(ヘテロ二量体:Smon0121-Smon0122)から構成される.細胞質内に輸送された不飽和二糖はUGL(Smon0127)により単糖にまで分解される.また,基質の脱硫酸化は細胞質でスルファターゼ(Smon0126)により行われる.
実際,連鎖桿菌は,ヒアルロン酸に加えて,コンドロイチン-6-硫酸も分解し,その過程で基質結合タンパク質とUGLを菌体内に発現させる11).基質結合タンパク質は,ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸から生じる不飽和二糖と特異的に結合する.C6位水酸基が硫酸化されている不飽和コンドロイチン-6-硫酸二糖も基質とする.UGLも同等の基質特異性を示し,これらの不飽和二糖を分解する.基質結合タンパク質は,α/β構造からなる二つの大きなドメインより構成されており,不飽和二糖との結合に伴い,構造を変化させる(図3E).基質が結合していない状態では,二つのドメインが開いたopen型を示す.一方,基質が結合するとドメインが接近し,閉じた構造closed型に変化する.また,不飽和二糖存在下で,基質結合タンパク質がABCトランスポーターのATPase活性を昂進させる.以上の結果から,連鎖桿菌のABCトランスポーターは,非硫酸化と硫酸化GAGの両基質の取り込みに機能する輸送体として初めて同定された11).
GAGが分解されて生じた単糖(不飽和ウロン酸とアミノ糖)について,アミノ糖の代謝・利用経路やそれに関わる酵素/遺伝子群はすでに大腸菌などで明らかにされている.一方,不飽和ウロン酸について,非酵素的にピラノース環が開環し,4-デオキシ-L-トレオ-5-ヘキソスロース-ウロン酸(DHU)に変換されるが,その代謝機構は最近まで不明であった.なお,不飽和グルクロン酸と不飽和イズロン酸について,C4位の水酸基が脱離しているため,両者は同一のDHUとなる.
肺炎球菌のGAG遺伝子クラスターにコードされる二つの機能不明タンパク質(spr0289とspr0290)を解析し,DHUの代謝経路とそれに関わる酵素/遺伝子群を同定した(図2A)12).DHUはDhuI(spr0289)による異性化反応を受けて,2,5-ジケト-3-デオキシ-D-グルコン酸(DK-II)となる.生じたDK-IIは補酵素NADH存在下でDhuD(spr0290)の還元反応により,2-ケト-3-デオキシ-D-グルコン酸(KDG)に変換される.DhuIは,α/β-構造のサブユニットを持つホモ四量体酵素である(図3C).DhuDは,α/β/αの三層からなり,補酵素結合に関わるRossmannフォールドを形成するサブユニットより構成されるホモ四量体で機能する(図3D).さらに,GAG遺伝子クラスターにコードされるキナーゼKdgK(spr0288)とアルドラーゼKdgA(spr0287)の逐次反応により,KDGはピルビン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸(G-3-P)に代謝されると考えられる.したがって,GAGから生じる不飽和ウロン酸は,GAG遺伝子クラスターにコードされる酵素群の作用を受けて,最終的に解糖系産物に変換される.
これまでに,1,3-グリコシド結合を持つGAG(ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸)を標的とする連鎖球菌や連鎖桿菌を対象とした分子生物学と構造生物学の進展により,細菌によるGAGの断片化,輸送,分解,および代謝に関わる分子機構の全容が明らかにされつつある.GAGに作用する初発酵素であるリアーゼ,通常の加水分解とは異なる特異な反応機構を示すUGL, ABCトランスポーターと協働する基質結合タンパク質,ならびに不飽和ウロン酸に作用する代謝酵素群は,すべて細菌特異的である.最近,1,4-グリコシド結合のみからなるヘパリンが連鎖桿菌の増殖を顕著に阻害することが示された11).また,連鎖球菌はヘパリンを分解しない.一方,善玉菌である乳酸菌はヘパリンを分解することがわかってきた(論文投稿準備中).したがって,細菌の標的とするGAGの特異性の相違ならびにGAGに作用する酵素/タンパク質の立体構造に基づく阻害剤の分子設計は,GAG分解性病原細菌に対する効果的な薬剤の開発につながる可能性がある13).
近年,PL12ヘパリンリアーゼ(HepC)14)や不飽和ヘパリン二糖に作用するUGL15)の構造機能相関が明らかにされている.HepCをコードするGAG遺伝子クラスターが善玉菌である乳酸菌にも見いだされ,その機能解析が行われている(論文投稿準備中).また,糞便解析により腸内細菌から高頻度でUGL遺伝子が検出される.本稿で述べたとおり,GAGに作用する酵素やタンパク質は,多様な細菌のゲノムにコードされている.これらの知見は,GAGの分解を介しての常在細菌と宿主との相互作用を強く示唆する.GAGは宿主の細胞外に分泌されるため,常在細菌は宿主細胞に侵入することなく,足場や栄養分としてGAGを利用していることが考えられる.今後,生物間相互作用に関わる研究の進展が期待される.
本稿で紹介した筆者らの研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:15H04629, 23580112),文部科学省ターゲットタンパク研究プログラム(課題番号:07050217),水谷糖質科学振興財団,およびダノン健康栄養財団などの支援を受けて行われた.
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