生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(6): 881-884 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890881

みにれびゅうMini Review

母乳栄養と亜鉛:亜鉛トランスポーターの変異により引き起こされる乳児亜鉛欠乏症Breast-feeding and zinc: Transient neonatal zinc deficiency caused by mutations in the zinc transporter ZNT2

京都大学大学院生命科学研究科Graduate School of Biostudies, Kyoto University ◇ 〒606–8502 京都市左京区北白川追分町 ◇ Kitashirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8502, Japan

発行日:2017年12月25日Published: December 25, 2017
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1. はじめに

亜鉛は,生体機能に欠くことのできない金属元素である.成人体内には2~3 gしか存在しないが,タンパク質の構造因子や酵素の補因子,細胞内外のシグナル因子として重要な役割を果たす1).そのため亜鉛が不足すると味覚障害が起こることはよく知られるが,その他にも皮膚炎・下痢・脱毛といった三大兆候や免疫・神経機能の低下などさまざまな症状が現れる.近年発表された論文では日本人の10~30%が亜鉛欠乏のリスクがあるとされており2),特に高齢者と乳幼児に高くなっている.日本での亜鉛の摂取推奨量は,成人女性で8 mg/日,成人男性で10 mg/日,乳児で2~3 mg/日となっている.乳児の推奨量は,体重あたりに換算すると,成人の約3倍にもなるが,これは乳幼児の著しい成長に必要となる亜鉛量に見合った値となっている.また,同等の亜鉛を母乳中に分泌するために授乳婦に対しても,+3 mg/日の付加が推奨量として定められている.実際,母乳中の亜鉛濃度は,乳児期の亜鉛の高い要求性に合わせるように,分娩後の1か月間は母親の血清の3~5倍となっており,その後2か月間は血清亜鉛値より高い値を示す.この授乳初期における母乳中に分泌される多量の亜鉛は,乳児の発育に必要となる亜鉛を不足なく供給するための優れた生体応答と考えられるが,その制御機構に関しては,いまだ明らかにされていない.また,このように多量の亜鉛を必要とする乳幼児は,ちょっとした摂取不足により容易に亜鉛欠乏に陥るため,成人に比べ十分な注意が必要となる.

2. 亜鉛トランスポーター

我々の体内には,インポーターであるZrt, Irt-like protein(ZIP)とエクスポーターであるZn transporter(ZNT)の二つの亜鉛トランスポーターファミリーが発現しており(図1),その数は合わせて23種類にのぼる1).これら多数のトランスポーターが,組織特異的に発現し,またさまざまな刺激に応じて発現変動することで,生体レベル・細胞レベルでの亜鉛ホメオスタシスの維持に機能する.ほとんどのZIPトランスポーターは細胞膜に局在しており,細胞外の亜鉛を細胞内に取り込む.一方,ほとんどのZNTトランスポーターは,細胞内小器官に局在しており,細胞質の亜鉛を小器官内腔に輸送する.亜鉛を多量に蓄積する小器官には,特異的ZNTトランスポーターが局在しており,亜鉛の多様な生理機能を生み出している.

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図1 ZNTとZIPトランスポーターの細胞内局在と亜鉛輸送の方向性

3. 乳児の亜鉛欠乏症:AEとTNZD

亜鉛欠乏に陥った乳児は,重篤な皮膚炎とともに,下痢や脱毛を発症し,成長が阻害される.乳児の亜鉛欠乏症には,古くから知られている先天性のものと,最近明らかになってきた亜鉛の摂取量不足による後天的なものの2種類が存在する.前者は,乳児自身が消化管から母乳中亜鉛を吸収できないため,重篤な亜鉛欠乏に陥る腸性肢端皮膚炎(acrodermatitis enteropathica:AE)である.AE患児は,患児自身に十分な亜鉛補充をすることによって改善する.その原因は消化管特異的に発現して食事由来の亜鉛の吸収を担う亜鉛トランスポーターZIP4の変異であることが明らかになっており,これまでに30種類以上の変異が同定されている3).一方,後者は,乳児期には亜鉛欠乏症状を呈するが,離乳するとその症状が改善する一過性亜鉛欠乏症(transient neonatal zinc deficiency:TNZD)である.この欠乏症は,TNZD患児に亜鉛を補充することで改善するが,母親に亜鉛を投与しても改善しないことなどから,その原因は消化管からの亜鉛吸収障害ではなく,母乳中亜鉛含量に問題があると長年考えられていた.近年になり,ようやく,母乳中への亜鉛分泌を担う亜鉛トランスポーターがZNT2であり,その変異がTNZD発症に密接に関わっていることが明らかになった(図2).

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図2 低亜鉛母乳分泌を引き起こす乳腺上皮細胞におけるZNT2の機能不全

ZNT2は乳腺上皮細胞の分泌小胞へ亜鉛を輸送する(左図).乳児の成長にはきわめて多量の亜鉛が必要となるため,一方のアリルにコードされた正常なZNT2のみでは十分量の亜鉛を供給できず(ハプロ不全),低亜鉛母乳分泌となる(右図).血液中から乳腺上皮細胞に亜鉛が取り込まれる経路については,明らかにされていない.

4. 母乳中の亜鉛輸送に関わる亜鉛トランスポーターZNT2

1)低亜鉛母乳と亜鉛トランスポーター

マウスにおいては,70年代にlethal milkと名づけられた変異マウスが発見され,この母マウスにより哺育された仔マウスは,亜鉛欠乏で死に至ることが知られていた.97年にこのlethal milkの原因が亜鉛トランスポーターZnt4の変異であることが報告され4),ヒトにおいても低亜鉛母乳を分泌する母親はZNT4遺伝子に変異を有すると目されていたが,変異を見いだすことができていなかった.このような状況の中,2006年にアメリカのグループがZNT2遺伝子にヘテロ変異が見いだされることを報告し5),ZNT2の機能不全が低亜鉛母乳分泌の原因である可能性が提示されたが,その後,同様の報告がなく,その真偽は不明であった.我々は,母乳哺育により重篤な亜鉛欠乏症状を呈した患児の母親の遺伝子解析を行い,この母親にZNT2遺伝子の複合へテロ接合性変異を見いだした6).同時期にイスラエルのグループがZNT2のドミナント変異による低亜鉛母乳を分泌する母親に哺育された乳児がTNZDに陥った例を見いだし7),これらの結果から,ヒトにおいては,ZNT4ではなく,ZNT2が母乳中に亜鉛を輸送する役割を果たすことが明示された.その後,我々は,さらに他のTNZD患児の母親からも,異なる四つのヘテロ変異を見いだしており8),現在では,ZNT2遺伝子の変異により低亜鉛母乳が引き起こされることが周知の事実となっている.

2)低亜鉛母乳分泌の遺伝様式

ZNT2遺伝子に変異が見いだされた母親は,ヘテロ接合体であることが多い.そこで,我々は,それぞれのミスセンス変異がZNT2の機能にどのような影響を与えるのかについて解析を行った.この解析には,相同組換え効率の高いニワトリDT40細胞を用いて作製した高濃度亜鉛感受性細胞株を使用し,ZNT2の亜鉛輸送活性を,高濃度亜鉛培養液における生存率と細胞内小胞への亜鉛輸送活性の二点から評価した.本細胞に亜鉛輸送活性を有するZNT2を発現させると,ZNT2により細胞内小胞に亜鉛が輸送されるため,高亜鉛存在下でも生育可能となる.さらに蛍光亜鉛指示薬を用いた解析により,細胞内小胞に蓄積した亜鉛量を相対的に評価できるようになる.本評価系を用いて,日本人母親から見いだしたZNT2変異体を評価したところ,同定したすべての変異体が亜鉛輸送活性を消失していることが明らかとなった8).また,これら変異体においては,ZNT2タンパク質の安定性が大きく減少しており,細胞内で速やかに分解されることも見いだした8)

ZNT2はホモ二量体を形成して亜鉛輸送能を獲得するため,ヘテロ接合体で見いだされたミスセンス変異は,ドミナントネガティブの様式とハプロ不全の様式で低亜鉛母乳分泌を引き起こした可能性が考えられた.そこで,これまでに同定されていたドミナントネガティブ変異体との比較解析を行った結果,今回同定したヘテロ変異がハプロ不全の様式で低亜鉛母乳の分泌を引き起こし,それにより母乳哺育児がTNZDを発症したことが明らかとなった9).すなわち,一方のアリルにコードされた正常なZNT2のみでは,乳児期の著しい成長に必要となる亜鉛量を十分に母乳中に分泌できないことが考えられた.

3)ZNT2遺伝子SNPとTNZD発症のリスク

TNZDに関わる低亜鉛母乳の分泌に関する情報を蓄積する目的で,これまでに報告されているZNT2遺伝子の一塩基多型(SNP)がZNT2の機能に及ぼす影響を,2)と同様の手法で解析した.ミスセンス変異を引き起こす36個のSNPをランダムに選択して解析した結果,四つのSNPが亜鉛輸送活性を消失させ,タンパク質の安定性を著しく減少させることを明らかにした8).我々のSNPの評価が,実際にどの程度有用な情報を提供しているのかに関しては未知であったが,本年初めにシンガポールで見いだされたTNZD患児の母親が,我々が見いだした四つのSNPのうちの一つを持つことが報告されるなど,その有用性が証明されてきた10).このことからも,ZNT2遺伝子のSNPに関する情報を蓄積することによって,低亜鉛母乳を発症するリスクを前もって予測できる基盤を確立できると考えている.

5. 母乳中亜鉛の重要性

乳児期の亜鉛摂取は,乳児の健康な発育に不可欠であるが,この時期の亜鉛不足は将来の健康にどのような影響を及ぼすのであろうか? この問いに答えるため,分娩直後から離乳までの間のみ,母ラットに亜鉛欠乏食を給餌することで亜鉛欠乏母乳を分泌させ,その母乳で哺育された仔ラットにみとめられる影響について解析を行った.離乳後1週間で,成長遅延などの影響や亜鉛欠乏に応答して変化する指標は完全に回復し,通常食を給餌した母ラットで哺育された仔ラット(コントロールラット)と遜色なくなるが,その後,血漿中糖濃度がコントロールラットに比べ高くなることがみとめられた11).同様の結果は,他のグループからも報告されており,また,血中糖濃度の他にも骨代謝の低下がみとめられることが報告されている.この結果は,乳児期の亜鉛状態が,健康な発育はもちろんのこと,将来の健康にまで影響を及ぼすことを示唆している.日本人毛髪中の亜鉛濃度を調査した結果からは,乳児期の亜鉛欠乏が自閉症スペクトラム障害発症リスクと相関性があることも報告されるなど,乳幼児の亜鉛栄養には,これまで以上に注意を払う必要があると思われる12)

6. おわりに

TNZDを引き起こすZNT2遺伝子変異として,現在,世界で12例の変異が見いだされているが,その中の7例が日本人から同定されている.これまで見いだしている低亜鉛母乳分泌に関わるZNT2遺伝子の変異は,数と種類の両面で従来の理解よりもはるかに多いものであった.この結果は,低亜鉛母乳を原因とするTNZDが,日本人においては,これまでの予想よりも数多く発生している可能性を強く示唆している.また,近年,高齢出産の増加や医療の進歩に伴い,早産が主な原因となる低出生体重児の出現率が上昇(日本では,全出生の約9.6%)している13).早産児は肝臓の亜鉛プールが十分に形成される前に出生されるため,母乳中亜鉛量の影響を受けやすく,TNZDに陥るリスクが高くなる.現在,乳児への母乳哺育はWHOにより世界的に推進されており,2025年までに完全母乳育児率を50%以上に高めることが目標として定められている.日本では,生後6か月まで完全母乳栄養を続ける母親が全体の50%を超えており,すでにこの目標を達成しているが,WHOの推進を受けて,母乳哺育の流れがさらに加速する可能性も考えられる.したがって,乳児が亜鉛欠乏に陥ることなく健やかに成長するための一助となるよう,ZNT2遺伝子の変異に関する解析を進め,母乳中亜鉛量に万全の注意を払うことが肝要となる.

謝辞Acknowledgments

本研究にご協力くださいました患者さんとご家族の皆様,ならびに共同研究者の皆様に厚くお礼申し上げます.

引用文献References

1) Kambe, T., Tsuji, T., Hashimoto, A., & Itsumura, N. (2015) Physiol. Rev., 95, 749–784.

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著者紹介Author Profile

神戸 大朋(かんべ たいほう)

京都大学大学院生命科学研究科准教授.博士(農学).

略歴

1971年神奈川県に生る.95年京都大学農学部卒業.98年京都大学大学院農学研究科助手.99年京都大学大学院生命科学研究科助手.2006年ミズーリ大学博士研究員.07年カンザス大学博士研究員.08年より現職.

研究テーマと抱負

亜鉛トランスポーターが司る生理機能の解明や,病態との関わりとその分子機序について研究している.亜鉛を始めとした必須微量金属の生体調節機能を分子レベルで明らかにしていきたいと考えている.

ウェブサイト

http://www.seitaijoho.lif.kyoto-u.ac.jp

趣味

スポーツ観戦,御朱印収集.

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