生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(6): 885-888 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890885

みにれびゅうMini Review

プロテアソーム発現制御転写因子Nrf1の活性化機構Activation Mechanism of Nrf1 for proteasome gene transcription

東京大学大学院薬学系研究科蛋白質代謝学教室Laboratory of Protein Metabolism, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, the University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2017年12月25日Published: December 25, 2017
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1. はじめに

細胞内のタンパク質は恒常的な生成・分解により,その量および質が緻密に制御されている.なかでもユビキチン・プロテアソーム系(ubiquitin-proteasome system:UPS)は多数の細胞内タンパク質の選択的・特異的な分解に関与している.UPSにおいて分解の基質となるタンパク質は,低分子量タンパク質であるユビキチンの共有結合による付加を受けたのち,タンパク質分解酵素複合体26Sプロテアソームによって特異的に認識され,ペプチド断片へと分解される.UPSによるタンパク質分解は,細胞周期,DNA修復,シグナル伝達,タンパク質品質管理,免疫応答などさまざまな生命現象の調節を担う.したがって,UPSによるタンパク質分解機能は,細胞および個体の恒常性維持に必須である.実際,UPSの機能異常は数々の疾患との関わりが示唆されており,異常タンパク質の分解不全がアルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患をもたらすと考えられている他,多くのがん細胞ではプロテアソームの高発現が観察されている1–3)

UPSにおけるタンパク質分解の実行因子である26Sプロテアソームの機能制御機構については,これまで特に詳細な解析が進められてきた.その結果,特異的なシャペロン群を介した形成制御機構の存在や,ユビキチン化基質の運搬やユビキチン鎖の切断を担う多数のプロテアソーム相互作用因子(proteasome-interacting proteins:PIPs)の存在が明らかとなっている4).筆者らは最近,哺乳類におけるプロテアソーム遺伝子群の転写調節機構について解析を進め,プロテアソーム遺伝子群の転写因子として知られるNrf1の活性化機構について新たな知見を得た.本稿ではNrf1に着目し,プロテアソームの発現制御機構について紹介する.

2. プロテアソームの機能と転写制御

26Sプロテアソームは,20Sコア粒子(core particle:CP)の片側または両側に,19S制御粒子(regulatory particle:RP)が会合した複雑な構造をとっている.20S CPはα1~α7の7サブユニットから構成されるαリングと,β1~β7の7サブユニットから構成されるβリングがαββαの順に積み重なった筒状の構造であり,β1, β2, β5の三つのサブユニットが持つプロテアーゼ活性中心が筒の内面に存在している.また,19S RPはRpt1~Rpt6, Rpn1~Rpn3, Rpn5~Rpn13, Rpn15の19サブユニットから構成されており,分解基質であるユビキチン化タンパク質の認識,脱ユビキチン化,および解きほぐしといった機能を担っている4)

上記のように,26Sプロテアソームは特異的な機能を持ったサブユニットの集合体である.それゆえ,機能的な集合体を形成するために,各サブユニットをコードする遺伝子は協調的に発現調節されている.哺乳類細胞においては,プロテアソームの活性が低下すると,26Sプロテアソームを構成する33サブユニットをコードする各遺伝子の転写量が増大することが示されていた.また同条件下においては,26Sプロテアソームの量が増加することから,26Sプロテアソームの新生が促進されていると考えられる5).このことは,プロテアソームの機能低下に応答して,新しいプロテアソームを作り出すことで,適切な細胞内プロテアソーム活性を維持する機能が備わっていることを意味する.近年,この26Sプロテアソーム量のフィードバック制御が,転写因子nuclear factor erythroid-derived 2-related factor 1(Nrf1)依存的に生じることが明らかとなった.Nrf1ノックアウト細胞およびノックダウン処理をした細胞においては,プロテアソーム阻害剤時のプロテアソーム遺伝子群転写量の亢進が抑制されるとともに,プロテアソーム阻害剤への感受性が増大した6, 7).このことから,Nrf1依存的な26Sプロテアソーム転写調節機構は,プロテアソーム活性低下時における細胞の恒常性維持に必須の役割を果たすといえる.

3. 転写因子Nrf1の細胞内局在制御

Nrf1はUPS基質の一つであり,半減期30分以下と通常は速やかに分解されている7, 8).しかしプロテアソーム活性が低下すると,Nrf1が分解遅延により蓄積し,プロテアソーム遺伝子群の転写量が上昇する.このNrf1の量的制御がプロテアソームの活性に応答した転写量調節を可能にする鍵といえる.しかしながらその後の研究の進展の結果,Nrf1は細胞内の局在制御により,その転写活性化機能がさらに緻密に制御されていることが明らかとなってきた.

Nrf1は小胞体への局在を示すタンパク質であるが,転写因子としての機能を発揮するためには核に移行する必要がある.近年,Nrf1の核移行およびプロテアソーム遺伝子群の転写亢進にAAA-ATPaseであるp97が必要であることが示された(図1A9).p97は小胞体上におけるNrf1の分解に必要であるため,p97阻害剤処理時には細胞内にNrf1が蓄積する.その一方で,プロテアソーム遺伝子の転写量はp97阻害剤処理時には亢進しない.p97は一般的に小胞体タンパク質の小胞体膜外への引き出しに関与することが知られており,Nrf1の場合もp97依存的に小胞体内腔から細胞質側へと移行することが示された9).しかし,Nrf1はN末端付近に膜貫通ドメインを有しており10, 11),p97依存的な小胞体膜外への引き出しに加え,膜貫通ドメインの切断が小胞体膜からの遊離に必要であると推測されていた.実際,核移行することのできるNrf1を精製し,エドマン分解により,その配列を解析したところ,103番目のトリプトファン残基と104番目のロイシン残基の間で切断を受けていることが明らかとなった(図1B9).この結果は,Nrf1の小胞体膜からの遊離に何らかのプロテアーゼが介在することを示唆する.しかし過去の報告では上記のNrf1の切断が,site 1 protease(S1P),site 2 protease(S2P),ロンボイド型プロテアーゼなど,既知の膜局在プロテアーゼ依存的に実行されるものではないことが指摘されており,p97の関与以外のNrf1の局在制御機構の実態はまったく不明であった.

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図1 Nrf1は小胞体に局在する膜タンパク質で,p97により膜外に引き出される

(A)翻訳されたNrf1は小胞体に局在し,大部分が小胞体内腔側に存在する.Nrf1がp97依存的に細胞質側へと引き出されると,26Sプロテアソーム依存的に分解を受ける.しかし,プロテアソーム活性が低下した際には核へと移行する.(B)Nrf1の分子構造の模式図.N末端近傍には膜貫通領域(TM)が存在し,C末端側に転写活性化ドメイン(TAD)およびDNA結合ドメイン(DBD)が存在する.TMとTADの間の領域で図示したアミノ酸配列が切断を受けることで,TADおよびDBDを持ったC末端側のNrf1は小胞体膜から遊離する.

4. Nrf1核移行制御因子の同定

最近,我々はNrf1活性化因子の同定を可能とする解析系の構築を試みた.前節でも述べたとおり,Nrf1は小胞体から核へと局在変化することで活性化する転写因子である.実際に,ヒト胎児腎由来細胞であるHEK293A細胞をプロテアソーム阻害剤bortezomibで処理し,免疫染色を実施するとNrf1は主に核に局在していた.その一方で,p97をノックダウンした細胞においては,Nrf1のシグナルは小胞体膜上と推測される核外に観察された(図2A).この結果から,Nrf1の核局在を指標としたゲノムワイドsiRNAスクリーニングにより,Nrf1の活性化因子の網羅的同定が可能であると考えられた.そこで,ヒト約18,000遺伝子に対するsiRNAライブラリーを用いて,ハイコンテントイメージアナライザーによる画像解析を実施したところ,127遺伝子がNrf1の核移行制御候補遺伝子として同定された.この候補遺伝子のなかには,既知のNrf1活性制御因子であるp97も含まれており,当スクリーニングの妥当性が確認された.さらに,p97以外の遺伝子に対して各siRNA処理の再現性および特異性を確認した後,Nrf1依存的なプロテアソーム転写への寄与を定量RT-PCR法により確認し,最終候補遺伝子として14遺伝子を得た(図2B12)

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図2 Nrf1の細胞内局在を指標としたスクリーニング

(A)HEK293A細胞を抗Nrf1抗体で免疫染色した像.プロテアソーム阻害剤処理した細胞ではNrf1は主に核に局在するが,p97をノックダウンすると核外に局在する.(B)ゲノムワイドsiRNAスクリーニングの結果同定された最終候補因子.

5. プロテアーゼDDI2によるNrf1活性化

最終候補遺伝子のうち,唯一プロテアーゼ活性を持つと予測されるDDI2がNrf1の切断酵素であるとの仮説のもと,我々は解析を進めることとした.DDI2はユビキチン様(UBL:ubiquitin-like)ドメイン,およびアスパラギン酸プロテアーゼ活性中心を有するretroviral-like protease(RVP)ドメインを持った約45 kDaのタンパク質である.DDI2のノックダウン下においてウェスタンブロットを行ったところ,確かに全長型のNrf1が蓄積しており,核移行が可能な切断型のNrf1は減少していた.また,Nrf1の切断は野生型DDI2の入れ戻しにより回復したものの,プロテアーゼ活性部位である252番目のアスパラギン酸残基の変異体(D252N)の入れ戻しでは回復しなかった.このことから,DDI2の持つプロテアーゼ活性がNrf1の切断に必要であることが明らかとなった.また興味深いことに,UBLドメインを欠損したDDI2は野生型DDI2に比べ弱い切断回復効率を示した.このことから,UBLドメインもまた,Nrf1の切断時に何らかの機能を有していることが示唆される12).DDI2の持つUBLドメインはユビキチン結合能を持つという特徴的な機能を持つことが示されており13),DDI2によるユビキチンの認識がNrf1切断に重要な役割を果たしている可能性が推測される.

続いて我々は,CRISPR-Cas9法によりDDI2変異細胞株を樹立しDDI2のプロテアソーム転写量制御への関与を検討した.DDI2欠損細胞およびD252N変異体細胞においては,プロテアソーム阻害剤処理に応答したプロテアソーム遺伝子の転写上昇が抑制された.また,これらの細胞株においては,26Sプロテアソーム活性も減弱していることが明らかとなった12).これらの結果から,DDI2の有するプロテアーゼ活性がNrf1の切断を介してプロテアソーム転写量の調節に寄与するという新しい制御機構の存在が明らかとなった(図3).

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図3 DDI2はNrf1を切断し,プロテアソーム遺伝子の転写を活性化する

小胞体膜上の全長型Nrf1は,DDI2による切断を受けて切断型Nrf1となり,核に移行する.核内に入ったNrf1はプロテアソーム遺伝子をはじめとした標的遺伝子の転写を亢進する.

6. おわりに

26Sプロテアソームの発見・命名から約30年を経た現在,ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)による生体制御機能は実に多岐にわたることが明らかとなっている.特に,プロテアソーム特異的阻害剤の発見以後,その解析は飛躍的に進行し,UPSの生理的重要性はいっそう疑いようのないものとなっている.しかし現在もなお,生体内でプロテアソーム自体の活性がいかにして調節されているのかについては,十分な知見が得られているとは言いがたい.今回我々が同定した新規分子DDI2がNrf1を切断するより詳細な分子機構の解明,そしてDDI2自体の活性制御機構の解明は,今後プロテアソーム活性制御機構のより深い理解のために重要と考えられる.また,我々がゲノムワイドスクリーニングで同定した,他の13の最終候補遺伝子のNrf1活性化への寄与の解明も急務である.ごく最近,本候補因子の一つとしても同定されていたO型糖転移酵素OGTが,Nrf1の安定化を介してプロテアソーム遺伝子群の転写量を上昇させるとの報告がなされた14).このことからも,依然未知のNrf1制御機構が存在する可能性は十分推測される.

近年,bortezomib(Vercade®)をはじめとするプロテアソーム阻害剤は多発性骨髄腫等の治療薬として承認・臨床応用されるに至っており,プロテアソームを標的としたさらなる治療法の確立が期待されている.その一方で,現状ではプロテアソーム阻害剤による治療は一部の血液がんに限定されており,固形がんへの適応は達成されていない.従来のプロテアソーム活性阻害剤は,プロテアソームの活性部位を直接阻害するものであるが,本稿で述べたNrf1依存的な代償経路がプロテアソーム阻害剤への耐性機構として作用している可能性が指摘されている.その点,DDI2をはじめとしたNrf1依存的なプロテアソーム転写亢進経路を標的とする薬剤の開発は,新しい作用機序を持ったプロテアソーム活性調節剤としての観点から興味深い.今後も継続してプロテアソームの活性調節機構に関する研究の進展させることで,UPSを標的とした新しい治療戦略の確立に貢献できれば幸いである.

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著者紹介Author Profile

小泉 峻(こいずみ しゅん)

東京大学大学院薬学系研究科薬科学蛋白質代謝学教室博士3年.

略歴

1990年千葉県に生る.2013年東京大学薬学部薬科学科卒業.15年同大学院薬学系研究科修士課程修了.同年より現課程に所属.

研究テーマと抱負

プロテアソーム遺伝子の転写を制御する新しい機構の解明を目指したい.

ウェブサイト

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~tanpaku/

趣味

ランニング.

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