生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(6): 907-910 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890907

みにれびゅうMini Review

脂肪酸代謝制御による炎症反応の収束Reprogramming of fatty acid metabolism is crucial for the inflammatory resolution

東京医科歯科大学難治疾患研究所細胞分子医学分野Department of Cellular and Molecular Medicine, Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University ◇ 〒113–8510 東京都文京区湯島1–5–45 ◇ 1–5–45 Yushima, Bunkyo, Tokyo 113–8510 Japan

発行日:2017年12月25日Published: December 25, 2017
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1. はじめに

肥満,糖尿病,動脈硬化症などの生活習慣病や,発がんに共通した基盤病態として,慢性炎症が注目されている.慢性炎症は,内外のストレスによって生じた炎症反応が適切に収束されることなく,くすぶった状態であり,さまざまな組織障害を引き起こす要因となる.慢性炎症の病態の形成には,多彩な機能を持つマクロファージが炎症の惹起と収束の両面で重要な役割を果たすが1),その分子機構は明らかにされていない.

生体の恒常性をつかさどる免疫系と代謝系とは個体・組織レベルで密接に連携している.たとえば,肥満の病態では脂肪組織や肝臓,骨格筋に浸潤する炎症性マクロファージの数が増加し,インスリンシグナルを抑制してインスリン抵抗性を引き起こす2, 3).また,肥満や糖尿病では全身の動脈硬化が進行する.興味深いことに,炎症応答と細胞代謝との連携は,細胞のレベルでも同様に観察されることが最近の研究からわかってきた.マクロファージが炎症を引き起こす刺激を受けて炎症促進型(M1)の形質を獲得すると,速やかにHIF-1αやNF-κBなどの転写因子を活性化して解糖系が亢進し,脂質合成は抑制される.これは,炎症が生じ,酸素レベルが低下した組織でも活動し,殺菌作用を示すためと考えられている.一方,組織修復やリモデリングをつかさどる,炎症収束型(M2)マクロファージは,エネルギー産生(ATP産生)系としてむしろ酸化的リン酸化や脂質代謝がメインとなる4)

また,マクロファージは種々の脂質を合成することが明らかとなっている5).炎症刺激を受けて活性化されたマクロファージは,一過性にエイコサノイド合成が増加するが,炎症応答の後期にはスフィンゴ脂質やステロール合成が増加する.また,エイコサペンタエン酸(EPA, 20:5, n-3),ドコサヘキサエン酸(DHA, 22:6, n-3)などの不飽和脂肪酸とその代謝産物はマクロファージにおいて抗炎症活性を示すことが知られている6, 7).このことから,M1型からM2型への機能変化が,マクロファージにおける脂肪酸合成の変化と連携して制御されているのではないかと考え,以下の研究を進めた.

2. マクロファージの細胞代謝は炎症応答の過程でダイナミックに変動する

まず,初代培養マクロファージのTLR4(Toll-like receptor 4)を活性化して,炎症応答を惹起した際の細胞代謝を観察した.その結果,炎症応答の初期(1~6時間後)には解糖系を亢進させて炎症促進形質を示したが,後期(12~24時間後)には脂肪酸代謝を増加させて炎症収束形質へと変化することを見いだした(図1).次に,炎症応答におけるマクロファージの細胞内脂肪酸量の変化を,網羅的に定量解析した.興味深いことに,炎症刺激を受けたマクロファージでは,細胞内脂肪酸量が一斉に低下したが,刺激後12~24時間を経過すると,不飽和脂肪酸(ω-3, 6, 7, 9)が増加に転じた.さらに,RNA-seqを用いた網羅的なトランスクリプトーム解析の結果,Scd2(stearoyl-CoA desaturase)やFads(fatty acid desaturase),Elovl(fatty acid elongase)など,脂肪酸の不飽和化や伸長に関わる遺伝子群の発現も,不飽和脂肪酸量と同様に炎症応答の初期に低下し,後期に増加することが明らかとなった.

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図1 炎症応答の過程においてマクロファージの細胞代謝はダイナミックに変化する

炎症刺激を受けたマクロファージは,初期には解糖系を亢進させて炎症促進型の形質(M1型)を示す.ところが,炎症応答の後期には,脂質代謝を亢進させて炎症収束型の形質(M2型)を示す.

3. 炎症応答初期には定常状態で脂肪酸合成を担うLXRの機能が一過性に低下し,脂肪酸の合成が抑制される

炎症応答における脂肪酸代謝制御に関わる分子機構を明らかにするために,クロマチン免疫沈降-シークエンス法(ChIP-seq)ならびにRNA-seqを用いて,炎症応答における転写とエピゲノムの変化を解析した.定常状態では,Scd2Fads, Elovlなど,脂肪酸の不飽和化に関連する遺伝子の発現調節領域には核内受容体LXR(liver X receptor)が結合し,発現を維持していた.ところが,炎症応答を受けて活性化されると,NF-κB依存的にLXRの機能が速やかに抑制され,脂肪酸の不飽和化や伸長をつかさどる酵素群の発現が低下した.このことから,炎症応答初期の脂肪酸合成の低下は,定常状態で脂肪酸合成を担うLXRの機能が一時的に抑制されるために生じると考えられた(図2).

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図2 マクロファージによる不飽和脂肪酸の合成が炎症応答の適切な収束に重要である

炎症応答の初期には,TLR4を介して活性化されたNF-κBによってLXRの機能が抑制され,不飽和脂肪酸の合成が低下する.ところが,刺激から12~24時間が経過した炎症応答の後期にはSREBP1(sterol responsive element binding protein 1)が活性化され,脂肪酸の不飽和化は増加に転じる.合成された不飽和脂肪酸が炎症抑制作用を発揮することによって,炎症応答は適切に収束する(文献11より改変).

4. 炎症応答後期には,SREBP1が活性化されて脂肪酸の不飽和が促進する

次に,炎症応答の後期に脂肪酸の不飽和化が増加に転じるメカニズムを明らかにしたいと考えた.炎症応答の後期における脂肪酸合成の増加がLXR依存的であるなら,LXRα/β欠損マクロファージ8)ではその増加がみられないはずである.ところが,予想に反して,LXRα/β欠損マクロファージにおいても,炎症応答の後期には脂肪酸不飽和化に関する遺伝子発現が増加した.そこで,炎症応答の初期に発現が低下し,後期に増加する遺伝子群のエンハンサー領域について,モチーフ解析を行った.その結果,マクロファージ特異的な転写制御に重要なPU.1, C/EBP, AP-1に引き続き,SREBP(sterol responsive element binding proteinの結合するSRE(sterol responsive element)が上位に検出された.この結果は,SREBP1が炎症応答後期における脂肪酸合成の増加を担う可能性を強く示唆する.なお,転写因子SREBPには主に脂肪酸合成に関わるSREBP1とコレステロール合成に関わるSREBP2が知られている.脂肪酸合成に関わるSREBP1に注目して検討を進めた.

これまでに,マクロファージにおいてSREBP1はLXRと協調してコレステロール代謝と脂肪酸代謝とを調節することが報告されている9).SREBP1は定常状態では小胞体膜タンパク質として存在するが,活性化刺激が加わるとゴルジ体に移送されて切断を受け,活性化されたSREBP1が核内に移行して脂質合成関連遺伝子群の発現を上昇させる.そこで,核内に存在する活性化型のSREBP1をみてみると,炎症刺激を与えたマクロファージでは,刺激から12~24時間を経過した炎症応答の後期に,小胞体膜からのプロセシングを経てSREBP1が活性化されることが明らかとなった.さらにChIP-seqによる転写とエピゲノムの解析の結果,活性化されたSREBP1は,Scd2Fads, Elovlなど脂肪酸の不飽和化に関連する遺伝子の転写調節領域にリクルートされ,転写活性化と相関するヒストンのアセチル化(H3K27Ac)を進めることによって脂肪酸不飽和化酵素の発現が増加することを明らかにした(図2).

5. マクロファージによる不飽和脂肪酸の合成は,炎症応答の適切な収束に必須である

さらに,SREBP1の重要性を明らかにするためにSrebp1欠損マウス10)を用いた検討を行った(筑波大学 島野仁先生,松坂賢先生との共同研究).Srebp1を欠損するマクロファージは,細胞内のEPAなど,不飽和脂肪酸量が低下し(図3),炎症応答が遷延した.興味深いことに,Srebp1欠損マウスは,敗血症モデルによる全身の炎症応答が遷延した.ところが,あらかじめ抗炎症作用を持つ不飽和脂肪酸EPAを多く含む食餌を摂取させると,炎症応答の遷延は回避された(図3).このことから,マクロファージにおいて,炎症の後期応答として作られる不飽和脂肪酸が,全身の炎症応答の適切な制御に必須であることが明らかになった11)

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図3 SREBP1依存的な脂肪酸の不飽和化は炎症の収束に必須である

(A)脂肪酸不飽和化の低下したSREBP1欠損(Srebf1−/−)細胞では,炎症応答後期における細胞内のEPA量が低値である.(B) SREBP1欠損(Srebf1−/−)マウスでは炎症応答が遷延する.SREBP1欠損(Srebf1−/−)および野生型マウスに敗血症を引き起こし,血清中の炎症性サイトカインIL-6の値を経時的にモニターした.マクロファージでの脂肪酸不飽和化が低下しているSREBP1欠損(Srebf1−/−)マウスでは,IL-6が高く遷延した.しかし,SREBP1欠損(Srebf1−/−)マウスにEPAを多く含む食餌をあらかじめ摂取させると,炎症の遷延が部分的に回避された(文献11より改変).

6. おわりに

このようにマクロファージの細胞内脂肪酸代謝は,細胞機能としての免疫応答と密接に連携している.今回は,脂肪酸の不飽和化や伸長酵素群が,炎症応答の過程で,転写とエピゲノムによって動的に制御されることに注目したが,不飽和化酵素の基質となる脂肪酸の切り出しや,脂肪酸の由来については,今後の検討課題である.

また,ω-3脂肪酸など不飽和脂肪酸が,マクロファージで炎症応答を抑制する機序についても,不明な点が残されている.

本研究の成果は,マクロファージにおける「細胞内脂質代謝–機能連携」が生活習慣病に対する新しい治療標的として有効である可能性を示すものである.たとえば,脂質異常症に対する治療法として臨床応用されている多価不飽和脂肪酸製剤は,プレイオトロピック作用として抗炎症効果を示すことが知られている.したがって,多価不飽和脂肪酸の補充は,生活習慣病をはじめとした慢性炎症の抑制効果も併せ持つ可能性が高い.また,脂肪酸の不飽和化に対する薬理学的な介入も有効かもしれない.

今後も引き続き,細胞代謝を標的とした生活習慣病治療・予防法の開発に向けた知識の蓄積が望まれる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

大石 由美子(おおいし ゆみこ)

東京医科歯科大学難治疾患研究所細胞分子医学分野准教授.医学博士.

略歴

1974年神奈川県生まれ.98年群馬大学医学部卒業.内科医として臨床研修の後,東京大学大学院博士課程に進学.学振特別研究員(PD),東京大学特任助教を経て,2009年カリフォルニア大学サンディエゴ校(Dr. Glass研究室)留学.13年3月より現職.

研究テーマと抱負

生活習慣病やサルコペニア(加齢に伴う筋量の低下)のメカニズムの解明.転写とエピゲノムの観点から,病態の発症・進展メカニズムを解明し,治療・予防法に結びつけたい.

ウェブサイト

http://www.tmd.ac.jp/dcmm/index.html

趣味

旅行,オペラ・クラシック音楽鑑賞,料理,食べ歩き?

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