生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 90(1): 103-106 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900103

みにれびゅうMini Review

Nrf2によるグルコース代謝恒常性維持機構の解明Keap1-Nrf2 system in the maintenance of glucose metabolisms homeostasis

東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門Department of Integrative Genomics, Tohoku Medical Megabank Organization, Tohoku University ◇ 〒980–8573 宮城県仙台市青葉区星稜町2–1 ◇ 2–1 Seiryo-machi, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980–8573, Japan

発行日:2018年2月25日Published: February 25, 2018
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1. はじめに

Nrf2(NF-E2-related factor 2)は解毒代謝および抗酸化酵素群の遺伝子発現を誘導し,生体防御機構の中心となる転写因子である.非ストレス環境では,Nrf2はKeap1(Kelch-like ECH-associated protein 1)と結合し,Cul3ユビキチンリガーゼによるユビキチン化を受けることで,プロテアソーム系により分解され,その転写活性が低く保たれている.ところが,親電子性分子や活性酸素種などが存在するストレス環境ではKeap1のシステイン残基が修飾を受け,Nrf2のユビキチン化が抑制されるため,プロテアソーム系による分解が回避されることによりNrf2タンパク質が安定化し,Nrf2の転写活性が誘導される.このストレス応答性遺伝子発現制御機構はKeap1-Nrf2系と呼ばれている(図11).グルコース濃度の上昇は酸化ストレスを増加させることから,糖尿病の発症および進行に酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが知られている.Nrf2によるグルコース代謝恒常性維持機構に着目し解析を行った.

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図1 Keap1によるNrf2転写活性調節機構

Nrf2(NF-E2-related factor 2)は非ストレス環境では,細胞質でKeap1(Kelch-like ECH-associated protein 1)と結合し,Cul3ユビキチンリガーゼによるユビキチン(Ub)化を受け,プロテアソーム分解により転写活性が低く保たれている.ところが,親電子性分子や活性酸素種などが増加するストレス環境ではKeap1システイン残基が修飾を受けNrf2のUb化が低下し,プロテアソーム系による分解が回避されることにより,Nrf2は安定化する.Nrf2は核に移行して小Maf因子(sMaf)とヘテロダイマーを形成して,標的遺伝子の発現を誘導する.このストレス応答性遺伝子発現制御機構は,Keap1-Nrf2系と呼ばれている.

2. 全身性Nrf2誘導によるグルコース代謝恒常性維持作用

最初に,Nrf2が動物個体でグルコース代謝維持に果たす役割を同定するため,糖尿病モデルマウスにKeap1遺伝子改変による全身性Nrf2誘導を行った.糖尿病モデルとしてdb/dbマウスを,Nrf2誘導モデルとしてCreリコンビナーゼ非依存的にKeap1遺伝子発現が低下するKeap1flox/−変異マウスを利用した2).対照群のdb/db::Keap1flox/+マウスは著明な肥満と血糖値の上昇を認めたが,Nrf2誘導群であるdb/db::Keap1flox/−マウスでは,肥満は発症したものの血糖値は上昇しなかった.さらに肥満モデルとして,高脂肪食とスクロースによる高カロリー負荷モデルマウスを解析した.高カロリー負荷Keap1flox/+マウスは肥満と血糖値上昇を認めたが,高カロリー負荷Keap1flox/−マウスは肥満が発症せず,血糖値も上昇しなかった.レプチンシグナルが破綻したdb/dbマウスにおけるNrf2誘導は,肥満を発症したものの血糖値上昇を抑制したことから,肥満と独立したグルコース代謝恒常性維持機構が明らかとなった.一方,高カロリー負荷モデルにおけるNrf2による肥満発症抑制作用から,レプチンシグナルに関連した抗肥満作用が示唆され,Nrf2は幅広い作用により代謝恒常性維持に貢献していた3)

3. Nrf2による膵β細胞保護作用

インスリン分泌細胞である膵β細胞の機能維持はグルコース代謝恒常性に重要である.db/dbマウスは著明な膵β細胞障害を認めることから,db/dbマウス膵β細胞におけるNrf2の役割を解析した.対照群のdb/db::Keap1flox/+マウスでは,膵臓切片インスリン陽性領域は縮小し,グルコース負荷試験でグルコース応答性インスリン分泌反応が欠如していたが,Nrf2誘導群db/db::Keap1flox/マウスでは,両者とも保持されていた3).単離膵島をNrf2誘導剤oleanolic triterpenoid 1-[2-cyano-3,12-dioxooleane-1,9(11)-dien-28-oyl imidazole(CDDO-Im)で処理すると,Nrf2標的解毒代謝および抗酸化酵素遺伝子群の発現誘導を認めた.さらにNrf2-LacZノックインレポーターマウスにCDDO-Imを経口投与したところ,広範囲の膵島構成細胞でNrf2-LacZタンパク質の核蓄積を認めたことから,Nrf2誘導剤経口投与は膵β細胞でNrf2誘導能を発揮することが明らかとなった.db/dbマウスにCDDO-Imを長期間経口投与すると,膵β細胞障害が軽減した.引き続き,膵β細胞酸化ストレス障害モデルであるラットIns2プロモーターによる誘導型一酸化窒素合成酵素過剰発現トランスジェニック(iNOS-Tg)マウス4)の解析を行った.iNOS-Tgマウスの膵臓切片はインスリン陽性領域の低下を認めたが,Nrf2誘導モデルである膵β細胞条件つきKeap1欠失とiNOS-Tgマウスの複合変異マウスを作出した,膵臓切片にインスリン陽性領域の低下を認めず,Nrf2が酸化ストレスによる膵β細胞障害に対して強力な保護作用を発揮することが明らかとなった5)

4. Nrf2の肝臓における糖新生抑制作用とFGF21分泌促進作用

次にインスリン抵抗性に着目して解析を行ったところ,db/db::Keap1flox/−マウスでインスリン抵抗性改善を認めた.さらにピルビン酸負荷試験では,db/db::Keap1flox/−マウスではピルビン酸投与後の血糖値上昇が抑制されており,Nrf2による糖新生抑制作用が明らかとなった.肝臓における糖新生酵素遺伝子群の発現を調べたところ,db/db::Keap1flox/−マウスでは対照群と比較して糖新生酵素遺伝子の発現が50%程度に抑制されていた3).さらに糖新生酵素の中からグルコース-6-ホスファターゼ(G6pc)に着目して詳細な解析を行ったところ,マウス培養肝臓細胞株AML12細胞でG6pcの発現はcAMPアナログにより著明に誘導されたが,Nrf2誘導剤CDDO-Imはその発現誘導を強力に抑制した.また,AML12細胞におけるCREB (cAMP response element binding protein)の過剰発現はG6pc遺伝子のプロモーターのレポーター活性を増加させたが,Nrf2過剰発現はレポーター活性を抑制した.以上からNrf2はCREBに関連したG6pc発現誘導を抑制していると考えられた.

さらにdb/dbマウスの肝臓でマイクロアレイ解析を行ったところ,db/db::Keap1flox/−マウスで対照群と比較して線維芽細胞増殖因子21(Fgf21)遺伝子発現が上昇し,FGF21の血中濃度も増加を認めた6).FGF21は主に肝臓から分泌される液性因子であるが,これまでに脂質代謝異常の改善作用や,インスリン抵抗性改善による血糖降下作用などの代謝制御作用が報告されている7)db/dbマウスに対するNrf2誘導剤CDDO-Im経口投与でも,肝臓Fgf21遺伝子発現およびFGF21血中濃度の上昇を認めた.マウスへのFGF21投与は脂肪細胞でグルコーストランスポーターやヘキソキナーゼ発現を誘導したことから,Nrf2による肝臓FGF21分泌促進作用は,脂肪細胞を介してグルコース代謝維持に貢献していると考えられた.さらに,db/db::Keap1flox/−マウスは血漿トリグリセリド濃度上昇の抑制を認めたが,マウスへのFGF21の外来性投与は血漿トリグリセリド濃度を低下させたことから,Nrf2のFGF21を介した脂質代謝維持作用も示唆された.

5. Nrf2による視床下部におけるプロオピオメラノコルチン神経保護作用

引き続き,高カロリー食負荷モデルで認められたNrf2誘導による抗肥満作用に関する解析を行った.Nrf2による抗肥満作用がレプチン受容体欠損db/dbマウスで減弱したことから,特に視床下部におけるレプチンの作用に着目した.

抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシン還元酵素などは,タンパク質にセレンを含むことから含セレンタンパク質と呼ばれ,合成にはセレノシステイン(Sec)が必須であり,Sec転移RNAをコードするTrsp遺伝子欠失は強力に酸化ストレスを増加させる8).条件つきTrsp欠失を利用して,視床下部酸化ストレスモデルを作出した.Creリコンビナーゼについては,視床下部全域でCreを発現するラットIns2プロモーター(RIP)-Creマウスを利用した.RIP-Creマウスは視床下部に加え膵β細胞でもCreを発現することから,大腸菌人工染色体のマウスIns1領域でCreを発現させるトランスジェニックマウスであるIns1-Creマウス(膵β細胞でのみCreを発現する)を利用し,比較検討した.RIP-Cre::Trspflox/floxTrspRIPKO)マウスは高脂肪食負荷時に,対照群マウスと比較して血糖値上昇と体重増加を認め,血漿インスリンおよびレプチン濃度が上昇していたが,Ins1-Cre::Trspflox/floxTrspIns1KO)マウスでは,これらの変化は認めなかった9)TrspRIPKOマウスに各種負荷試験を行ったところ,インスリン抵抗性とレプチン抵抗性を認めた.TrspRIPKOマウスの視床下部では酸化ストレスが増加し,レプチン作用に重要なプロオピオメラノコルチン(POMC)神経数が減少し,レプチン刺激に対するSTAT3シグナルの低下を認めた.さらにTrspRIPKOと条件つきKeap1欠失の複合変異マウスを作出したところ,TrspRIPKOマウスで認められた視床下部の酸化ストレスは軽減し,レプチンおよびインスリン抵抗性は消失したことから,視床下部におけるNrf2誘導は酸化ストレスによる肥満および糖尿病発症を抑制することが明らかとなった.

6. Nrf2による骨格筋グリコーゲン代謝制御

骨格筋特異的Keap1欠失マウスを作出し,グルコース負荷試験を行ったところ,耐糖能改善を認めた.マイクロアレイおよびChIP-seq解析の結果,Nrf2が骨格筋でグリコーゲン代謝酵素であるグリコーゲン分枝鎖酵素(Gbe1)およびホスホリラーゼキナーゼα1(Phka1)遺伝子発現を制御していた10).生化学的解析から,骨格筋におけるNrf2誘導は絶食–再摂食時の骨格筋におけるグリコーゲン蓄積量を低下させ,同時に骨格筋におけるグルコース取り込みを増加させた.また,肝臓におけるNrf2誘導も肝臓Gbe1発現を増加させたが,絶食–再摂食時の肝臓グリコーゲン蓄積量を逆に増加させた.マウスにNrf2誘導剤CDDO-Imを経口投与すると,トレッドミルによる最大走行速度が増加した.以上から,Nrf2は骨格筋でグリコーゲン代謝酵素遺伝子発現を制御し,グルコース代謝と運動能を改善することが明らかとなった.

7. Nrf2によるグルコース代謝制御

Nrf2は膵ランゲルハンス島および視床下部で解毒代謝酵素や抗酸化酵素の発現誘導を介して,それぞれ膵β細胞および視床下部POMC神経保護作用を発揮することで,インスリン分泌およびレプチン作用の維持に貢献していた.さらにNrf2は肝臓や骨格筋では酸化ストレスとは独立して,糖新生酵素,グリコーゲン代謝酵素,FGF21といった代謝系遺伝子発現を制御して,グルコース代謝恒常性維持に貢献していることが明らかとなった(図2).これまでにNrf2はがん細胞を中心としてペントースリン酸経路代謝酵素遺伝子群の発現を誘導しNADPH産生や核酸代謝に貢献していることが報告されてきたが,本研究ではNrf2が肝細胞や骨格筋細胞などの代謝系臓器で代謝系遺伝子発現を制御していたことから,Nrf2は従来から知られている解毒代謝酵素や抗酸化酵素以外に,代謝制御に大きく貢献していることが明らかとなった11)

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図2 Nrf2によるグルコース代謝恒常性維持機構

Nrf2は膵ランゲルハンス島および視床下部で,解毒代謝酵素や抗酸化酵素の発現誘導を介して,それぞれβ細胞および視床下部POMC神経保護作用を発揮し,インスリン分泌およびレプチン作用を維持する.一方,Nrf2は肝臓や骨格筋では糖新生酵素,FGF21,グリコーゲン代謝酵素といった代謝系遺伝子発現を制御して,グルコース代謝恒常性維持に貢献している.

8. おわりに

本稿では,Nrf2誘導モデルマウスの解析結果から,Nrf2のグルコース代謝恒常性維持における役割を論じた.一方,これまでに,Nrf2欠失モデルマウスにおける解析では,血糖値が上昇するという報告や10, 12, 13),逆に血糖値が低下するという報告があり3, 14),Nrf2欠失とグルコース代謝について一定の知見が得られていない.各代謝系臓器でNrf2欠失がグルコース代謝に及ぼす影響が異なる可能性があることから,今後さらなる解明が必要である.

本研究では,肥満や糖尿病などの代謝異常モデルマウスの肝臓では,Nrf2誘導によりG6pcFgf21の遺伝子発現が大きく変動したものの,正常マウスではそれらの発現に大きな変動は認めなかった3, 6).Nrf2が代謝系臓器において,組織内の代謝環境の変化を受けて,複雑な遺伝子発現制御を関与している可能性があることから,代謝変化の影響を含めたNrf2による遺伝子発現制御機構について明らかにしていきたい.

謝辞Acknowledgments

本研究は東北大学大学院医学系研究科医化学分野で行われたものであり,多大なご指導をいただきました山本雅之教授に感謝いたします.

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著者紹介Author Profile

宇留野 晃(うるの あきら)

東北大学東北メディカル・メガバンク機構准教授.博士(医学).

略歴

1972年茨城県に生る.98年東北大学医学部医学科卒業.2004年東北大学大学院医学系研究科修了.日本学術振興会特別研究員(東北大学),東北大学大学院医学系研究科助教,講師を経て,17年より現職.

研究テーマと抱負

転写因子Nrf2による代謝制御機構の解明を研究テーマとして,臓器や病態による代謝系遺伝子発現制御の解明を目指しています.

ウェブサイト

http://www.dmbc.med.tohoku.ac.jp/official/index.html

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