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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(2): 207-210 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900207

みにれびゅうMini Review

複数のDNA結合ドメインを介したシス配列依存的GATA1機能修飾Multiple DNA-binding domains modify GATA1-DNA interaction on the specific configuration of cis-acting elements

東北大学大学院医学系研究科分子血液学分野Department of Molecular Hematology, Tohoku university school of medicine ◇ 宮城県仙台市青葉区星陵町2–1 ◇ 2–1 Seiryo-machi, Aoba-ku, Sendai 980–8575, Japan

発行日:2018年4月25日Published: April 25, 2018
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1. はじめに

多種多様な遺伝子を必要な時期に必要な場所で発現させるためには,転写因子による適切な発現制御が重要であるが,多くの場合,共通の転写因子により制御される標的遺伝子間であっても,各々の発現パターンは一様ではない.その違いを生み出す分子機構は転写因子によってさまざまであり,転写共役因子,翻訳後修飾,シス配列の構造等が複雑に関与しているが,その全貌は明らかでなく,転写因子研究における大きな課題である.

血球分化過程における時・空間特異的な遺伝子発現を制御するGATA転写因子群の中で,特にGATA1は赤血球・巨核球分化に不可欠である1, 2).GATA1はアミノ末端側・カルボキシ末端側の二つの転写活性化ドメインの間に二つの亜鉛フィンガー(アミノ末端側・カルボキシ末端側を,それぞれN-フィンガー・C-フィンガーと呼ぶ)を持ち,各々が協調的に働くことでGATA1の機能を支えている3–5).亜鉛フィンガーは特に,標的遺伝子の選択性に関わる重要な性質を持つ.C-フィンガーはDNA結合に必須であり,C-フィンガーを欠失したGATA1は転写因子としての機能を完全に喪失する.一方でN-フィンガーは,FOG1やLMO2等の共役因子との相互作用やDNAとの相互作用といった多機能性を有する.N-フィンガー全体を欠くGATA1変異体を発現するマウスでは胎仔肝臓での成体型造血不全を回避できずに胎生致死となることから6),N-フィンガーは血球分化において不可欠であることが示唆されている.そのため,N-フィンガーの個別の機能がそれぞれ担う生理的役割を明らかにすることが,GATA1研究における積年の課題となっている.本稿では,N-フィンガーとDNAとの相互作用により制御されるGATA1のDNA結合様式修飾機構に着目し,筆者らの研究内容を中心とした最新の知見を紹介する.

2. シス配列パターンに依存したGATA1の多様なDNA結合様式

GATA1が転写因子としての機能を発揮するためには,標的遺伝子発現制御領域への結合が必須であり,結合の強弱および様式が,GATA1の転写制御活性を左右すると考えられている.これまでにさまざまな生物化学的・生物物理学的手法によりGATA1とDNAとの相互作用様式が解析されてきたが,特にTrainorらの成果より,二つのGATA結合配列が回文状に並列したDNA配列において,C-フィンガーによる主要な結合をN-フィンガーが補助し安定化するという特異的な結合様式が提唱された4, 5).さらに近年では,N-フィンガー内部でDNAとの相互作用を担うアルギニン216において,赤血球異形成貧血,巨大血小板性血小板減少症,血小板α顆粒減少症を発症する家系からグルタミン置換変異(G1R216Q)が7, 8),また先天性赤血球性ポルフィリン症,高胎児型ヘモグロビン血症を発症する家系からトリプトファン置換変異(G1R216W)が相次いで見つかり9),N-フィンガーを介したDNA結合様式修飾機構の重要性が明るみに出つつある.しかしながら,N-フィンガーによるC-フィンガーの補助,また変異による結合異常について,分子レベルでは依然不明な点が多い.

筆者らは,結合速度論に基づいて分子間相互作用動態を解析することで,GATA1のDNA結合の実態を明らかにできると考えた.複数のGATA結合配列の組合わせからなるシス配列パターンに依存した,GATA1の結合様式の差異,および各結合様式におけるN-フィンガーの貢献の差異を,表面プラズモン共鳴(SPR)解析を用いて検討した10).最も単純な単一GATA配列には,C-フィンガーのみによる一価結合が形成され,N-フィンガー変異による影響を受けないことが示された(図1上).一方で回文GATA配列には,N-フィンガーとC-フィンガーによる二価結合が形成され,単一GATA配列と比較してより強固に結合することが示された(図1中央).特筆すべき点として,ヒト疾患患者由来N-フィンガー変異GATA1(G1R216Q,G1R216W)およびN-フィンガー欠失変異GATA1のいずれにおいても,回文GATA配列への結合親和性が著減し,結合モデルシミュレーションから単一GATA配列と同様のC-フィンガーのみによる一価結合の形成が示唆された.本解析より,N-フィンガーが回文GATA配列に対する結合親和性を単純に高めているだけでなく,GATA1の結合様式そのものを変化させていると推察される.

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図1 シス配列パターンに依存したGATA1のDNA結合様式

結合速度論解析解析より明らかとなった,各シス配列に対するGATA1の結合モデル.

また,二つのGATA結合配列が同方向に並んだ直列GATA配列には,2分子のGATA1がホモ二量体を形成して結合することがわかった(図1下).GATA1がホモ二量体を形成することは知られていたが11),DNA結合における役割は明らかでなかった.本解析より,ホモ二量体形成と,特定のシス配列への結合との関連を初めて見いだすことができた.GATA1のホモ二量体形成に必要なアミノ酸残基の一部はN-フィンガーにも含まれるが,DNAあるいはFOG1との相互作用を担う部位とは異なる11).このことから,N-フィンガー内部の構造的・機能的多様性が,シス配列に依存したDNA結合様式の選択に強く関与していることが示される.

3. N-フィンガーを介した回文GATA配列特異的結合修飾の細胞内機能

N-フィンガーを介した回文GATA配列への特異的な結合修飾が,クロマチン構造をとっている細胞内DNA上でも機能しているかは長らく不明であった.筆者らは,野生型GATA1(G1WT),N-フィンガー変異GATA1(G1R216Q)をそれぞれ安定的に発現する2種類のマウス赤白血病由来細胞株(MEL)を用い,各細胞株での網羅的クロマチンプルダウン(ChPD-Seq)解析の結果を比較することで,N-フィンガー変異の影響を受ける結合配列を全ゲノム規模で検索した(図210).回文GATA配列のみを有する領域では,他の領域と比較して,G1WTよりもG1R216Qの結合が有意に弱いことが示された.しかしながら単一GATA配列と回文GATA配列が共存する領域では,G1WTおよびG1R216Qの結合の強弱分布が単一GATA配列のみを有する領域と同等であった.以上の結果より,単一GATA配列よりも回文GATA配列を有する領域において,N-フィンガー変異による結合能低化が惹起されやすいこと,両者が混在する領域ではそれぞれの配列に対する結合能が合算された結果として,N-フィンガー変異による回文GATA配列への結合能低下がみえなくなっていることが示唆される.一般にGATA1標的遺伝子の制御領域上には複数のGATA結合配列が存在する.その中でも真に貢献度の高い回文GATA配列を有する領域が,GATA1による発現制御における特異性を付与していると推察される.

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図2 哺乳類細胞ゲノムレベルでのN-フィンガーを介した回文GATA配列への結合修飾

G1WTまたはG1R216Q安定発現MEL細胞株を用いた網羅的ChPD-Seq解析により検出された,G1WTまたはG1R216Q結合領域において,GATA結合配列を検索した.各シス配列を有する領域の中で,G1WTの方がG1R216Qよりも強い結合ピーク,両者で同等の強度の結合ピーク,G1R216Qの方がG1WTよりも強い結合ピークの割合(%)を示す.

筆者らはさらに,単一GATA配列へのGATA1の一価結合と回文GATA配列への二価結合との間で,GATA1の転写制御活性の差異をルシフェラーゼレポーター解析により検証した10).単一GATA配列に対する転写制御にはN-フィンガーの貢献が認められなかった.一方で回文GATA配列においては,N-フィンガーを介した二価結合が,GATA1低発現時期における転写制御活性の増大に強く寄与していること,また,GATA1発現量が比較的少ない局面での標的遺伝子の効果的な転写活性化に重要であることがわかった.

4. GATA1 N-フィンガーの機能欠失がもたらす赤血球病態

先に紹介したように,特定の家族性ヒト血液疾患患者におけるGATA1のアミノ酸置換変異は,回文GATA配列への結合を担うアルギニン216に集約されている.これらの疾患発症機序を理解するために,変異に起因するGATA1の機能欠損が生体に及ぼす影響の解明が求められている.

これまでに,G1R216QおよびG1R216W変異体をGata1ノックアウト細胞に導入して樹立した細胞において,成体型β-globin遺伝子およびヘム合成系遺伝子群の発現が低下することが示され7, 12),培養細胞レベルでは同変異がGATA1の標的遺伝子制御を撹乱することがわかっている.

筆者らはさらに,GATA1ノックダウンマウスにおいて,G1R216Q変異体を外来性トランスジーンとして発現させた相補的レスキューマウス(以下,G1R216Qレスキューマウスと呼ぶ)を樹立し,N-フィンガー変異による回文GATA配列への特異的二価結合の破綻が,血球分化に与える影響を個体レベルで解析した10).G1R216Qレスキューマウスは重度の貧血を呈し,受精後16.5日までに全個体が胎生致死となった.特に,胎仔肝臓での成体型造血が活発に行われるようになる時期において,c-kit陽性Ter119陰性を示す未熟な赤血球系前駆細胞の蓄積が認められ,赤血球分化が強く障害されていることがわかった(図3A).

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図3 回文GATA配列への結合能低下が引き起こす赤血球造血異常

(A) G1R216Qレスキューマウスにおける血液学的表現型.Tg:トランスジーン.(B)胎生12.5日の胎仔肝臓を用いたChIP-qPCR解析.各ドットは単一GATA配列または回文GATA配列を有する個別の遺伝子領域におけるChIPシグナル比を,黒色バーはそれぞれの配列パターンごとの平均値を示す.

赤血球分化に関連する複数の遺伝子において,野生型マウスとG1R216Qレスキューマウス間で,発現制御領域上へのGATA1結合能に差異があるかを,同時期の胎仔肝臓を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)解析により検証した10)UrosZfpm1等の回文GATA配列が含まれる領域では,Aqp1Klf1等の単一GATA配列が含まれる領域と比較して,G1R216QレスキューマウスにおけるGATA1結合能の有意な低下が認められた(図3B).これらの遺伝子の発現は複数の制御領域により複合的に制御されるものであるが,シス配列特異的な結合親和性の違いが,その制御の一端を担っている可能性がある.

ところで筆者らは別の報告で,DNAではなくFOG1との相互作用が損なわれるN-フィンガー変異体(G1V205G)レスキューマウスにおいて,赤血球膜タンパク質の発現異常に起因する赤血球形態異常と溶血性貧血が惹起されることを明らかにしている13).このマウスでは,成熟赤血球の質的異常が認められるものの,赤血球分化そのものは保たれていた.この点で,G1R216Qレスキューマウスの表現型とは明らかな差異があることから,多様なN-フィンガーの機能がそれぞれ特異的な役割を担っていること,それらを適切に使い分けることが赤血球分化の制御に重要であることが理解できる.

5. おわりに

一連の研究より,シス配列特異的なGATA1のDNA結合様式を規定するN-フィンガーの結合修飾機構と,その機構により調節される標的遺伝子の転写制御活性および赤血球分化制御が明らかになってきた.他の研究から実証されてきた共役因子との相互作用やホモ二量体形成に関わる知見とあわせると,GATA1の大きな発現量変動を伴う赤血球分化の過程で,従来から知られていたGATA1自身の発現量に依存する制御に相乗効果をもたらし,標的遺伝子の発現を細やかに調節する機構が,N-フィンガーに備わっていることがわかる.今後,N-フィンガー機能をより詳細に解析していくことで,GATA1の多様かつ複雑な機能を中核とした血球分化の分子機構が解明されると期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,東北大学大学院医学系研究科分子血液学分野・清水律子教授ならびに医化学分野・山本雅之教授のご指導の元で行いました.両教授,および研究室構成員の方々に心より感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

長谷川 敦史(はせがわ あつし)

東北大学大学院医学系研究科分子血液学分野助教.博士(医学).

略歴

1985年静岡県に生る.2008年筑波大学第二学群生物学類卒業.10年東北大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程修了.14年同博士課程修了.17年まで日本学術振興会特別研究員PD. 17年10月より現職.

研究テーマと抱負

造血幹細胞の機能維持,および血球分化におけるGATA転写因子の役割の解明に取り組んでいます.遺伝子改変マウスを中心とした解析により,転写因子により制御される血球の分化・恒常性維持機構と疾患発症機序を明らかにしたいと考えています.

ウェブサイト

http://www.med.tohoku.ac.jp/about/laboratory/080.html

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