生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 272-278 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900272

特集Special Review

過剰な鉄蓄積による神経変性症Neurodegeneration with brain iron accumulation

浜松医科大学内科学第一講座First Department of Medicine, Hamamatsu University School of Medicine ◇ 〒431–3192 浜松市東区半田山1丁目20–1 ◇ 1–20–1 Handayama, Higashi-ku, Hamamatsu 431–3192

発行日:2018年6月25日Published: June 25, 2018
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1980年代後半より,大脳基底核,大脳皮質などに過剰な鉄沈着を来し,運動障害(ジストニア,運動失調,無動など)や認知機能障害など多彩な神経症候を呈する鉄蓄積性神経変性症(neurodegeneration with brain iron accumulation:NBIA)の10疾患が発見された.この中の一つである無セルロプラスミン血症では,アストロサイトを中心に過剰な鉄沈着と封入体が認められる.著明な鉄沈着は肝臓,膵臓などの全身の組織にもみられ,糖尿病,貧血などを来す.また,アルツハイマー病やパーキンソン病などの一般的な神経変性症でも疾患特異的な異常タンパク質からなる封入体形成に鉄の関与が認められた.今回は,無セルロプラスミン血症を中心に過剰な鉄蓄積と関連した神経変性症について述べる.

1. はじめに

生体内の鉄は欠乏や過剰にならないように厳密に調節されている.成人の場合,体内の鉄欠乏あるいは鉄過剰の影響が脳内に及ぶことは少なく,代表的な鉄過剰症である遺伝性ヘモクロマトーシスでも体内の諸臓器への過剰な鉄蓄積はあるものの,脳への過剰な鉄沈着はほとんど認められない.このことから成人の脳では体内と独立した鉄代謝系が機能していると予想されている.1980年代後半に我々が脳内に過剰な鉄蓄積を来す神経変性症,無セルロプラスミン(ceruloplasmin:CP)血症1)を報告したころより,鉄代謝関連タンパク質が相次いで同定され,脳内の鉄代謝が少しずつ明らかになってきた2, 3).その後,類似の疾患が報告され,鉄蓄積性神経変性症(neurodegeneration with brain iron accumulation:NBIA)という独立した疾患群が確立してきた3, 4).また,一般的な神経変性症のアルツハイマー病やパーキンソン病などでも脳内の鉄蓄積が認められ,疾患特異的な異常タンパク質からなる封入体形成における鉄の関与が注目されている.

2. NBIAの臨床,原因タンパク質の細胞内局在と機能

NBIAの共通した神経症候は,進行性のジストニア,運動失調,パーキンソニズムなどで,歩行障害,構音障害,認知機能障害などが認められる.ただ神経症候が多彩なため症状から疾患を予想するのは難しく,頭部MRIにおいて鉄蓄積を反映した著明な低信号(T2強調画像あるいはT2*強調画像)が認められ,初めて発見されることが多い.

NBIAは大きく二つに分類される.一つは,細胞内から細胞外への鉄の排出,あるいは細胞内の鉄貯蔵に関連した次の2疾患3–6)で,脳だけでなく体内の組織にも過剰な鉄沈着を認める.

  • ・無セルロプラスミン(CP)血症(aceruloplasminemia)[原因はセルロプラスミン遺伝子CP],欧米の頻度ではNBIA全体の<1%
  • ・神経フェリチン症(neuroferritinopathy)[原因はフェリチン軽鎖遺伝子FTL,最近はフェリチン症とも称される],<1%

脳では主にアストロサイトでの鉄の排出,貯蔵が障害される.二つの疾患は,いずれも30~40歳以降に発症し,緩徐に進行する.いずれの疾患も世界で100名程度の報告があり,日本では無CP血症60名ほどと多く,神経フェリチン症は10名ほどの報告がある.

もう一つは,神経細胞内のミトコンドリア-リソソーム系における脂質代謝,エネルギー産生,オートファジーに関連した次の8疾患3–6)で,ほとんどの発症は小児期~遅くとも20代で症状の進行や程度も顕著である.これらの疾患については欧米からの報告は多いが,日本ではまれである.現在,NBIAの実態について全国調査中である.

  • ・Pantothenate kinase-associated neurodegeneration(PKAN)[PANK2],50%(NBIAの中では20世紀前半から報告がある古典的な疾患で,小児期から四肢のジストニアと痙性のため歩行困難となる常染色体劣性遺伝疾患である.診断は剖検で確定される.欧米からの報告が多く,頻度はNBIA全体の50%を占めるが,日本では少なく,数年間に1, 2例の報告がみられるのみである)
  • ・Phospholipase A2-associated neurodegeneration(PLAN/INAD/PARK14)[PLA2G6],20%(欧米では生後6か月~2歳で運動失調,痙性,視神経萎縮を来し歩行困難となることが多い.日本では成人発症のジストニア・パーキンソン症候群を来す亜型が数例報告されている)
  • ・Mitochondrial membrane protein-associated neurodegeneration(MPAN/SPG43)[C19orf12],10%(日本では数例)
  • ・Static encephalopathy of childhood with neurodegeneration in adulthood, Beta-propeller protein-associated neurodegeneration(SENDA/BPAN)[WDR45],7%(日本で原因遺伝子が同定されたが,国内の患者は10名に満たない)
  • ・Fatty acid hydroxylase-associated neurodegeneration(FAHN/SPG35)[FA2H],<2%(日本ではきわめてまれ)
  • ・Coenzyme A synthase protein-associated neurodegeneration(CoPAN)[COASY],<1%
  • ・Kufor–Rakeb syndrome(KRS/PARK9)[ATP13A2],<1%
  • ・Woodhouse–Sakati syndrome(WSS)[DCAF17],<1%

これらの疾患はなぜ脳に著明な鉄蓄積を来すのか十分に解明されていない.ただ図1に示すように,細胞内の鉄のほとんどはミトコンドリアとリソソームに存在しているので,細胞内の鉄動態はミトコンドリアとリソソームの機能(オートファゴソーム/リソソーム経路)と密接に関連していると考えられている3, 5)

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図1 NBIAの原因タンパク質(下線)の局在と予想される機能

FTLは細胞内の鉄貯蔵,CPは鉄の排出に関与し,それ以外のタンパク質はオートファゴソーム/リソソーム経路と関連していると考えられている.

鉄はトランスフェリンを介してエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,細胞質のフェリチン(FT)に一時的に貯蔵される.FTに貯蔵された鉄は一定の割合でFTから遊離して利用されている.細胞外へは鉄トランスポーターのフェロポルチンにより輸送され,CPによって酸化されてトランスフェリンに結合し運搬される.PANK2は二量体でミトコンドリアの外膜–内膜間に存在し,COASYとC19orf12はミトコンドリア内膜と外膜にそれぞれ存在する.PANK2とCOASYはパントテン酸のリン酸化,coenzyme Aの生合成に関与しており,リン脂質の生合成や代謝回転に重要である.C19orf12は脂肪酸の供給に関与している.これらのタンパク質の異常では細胞膜の維持,エネルギー産生系の障害によるミトコンドリアの機能障害が予想される.また,ミトコンドリアには鉄排出系が認められないので,異常なミトコンドリアには鉄沈着が生じやすい.これを細胞から取り除くためマイトファジー(mitophagy)が重要な役割を果たしていると考えられる.マイトファジーにはPANK2, COASY, C19orf12, PLA2G6が関与していると考えられている.PLA2G6は細胞質に四量体で存在し,活性化してミトコンドリアや小胞体の膜,核膜などの脂質代謝に関与しており,膜の再構成(remodeling)に重要である.マイトファジーとオートファジーは密接に関係しており,ミトコンドリアを含む小胞がエキソサイトーシスされて細胞外に排出される,あるいはリソソーム由来のエキソソームが細胞からの余剰な鉄の排出を行っている可能性がある.WDR45は小胞体膜に存在し,オートファジーの膜形成に関与している.ATP13A2はリソソーム,ミトコンドリアでイオン輸送を行っている.FA2Hは小胞体に存在し,脂肪酸・セラミド代謝と関連しており,膜の再構成,アポトーシスなどに関与していると考えられる.DCAF17は核に存在しているが,詳細な作用は明らかでない5, 6)

3. CPの機能

CPは132 kDaの糖タンパク質で,1分子中に6個の銅を抱合する.CPは単量体で一本鎖の前駆体タンパク質,アポCPとして生合成される.アポCPは,ゴルジ装置でATP7Bにより輸送された銅を抱合することでその立体構造が変化して,ホロCPとなり鉄酸化活性を持つ.CPはこの活性により図2に示すように,細胞膜のフェロポルチンを介して細胞外へ輸送された二価鉄Fe(II)を三価鉄Fe(III)へと酸化して,三価鉄を鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンに受け渡すと考えられている.CPは,主に肝臓で生合成され血液中に分泌される分泌型CPと,GPI(glycosylphosphatidylinositol)を介して細胞膜に結合するGPI結合型CPがある7).GPI結合型CPは,脳,肝臓,網膜,肺,心臓,膵臓,腎臓など全身の組織に広く発現する.脳での発現は他の臓器より多く,血管周囲のアストロサイトに主に発現している.血液中の分泌型CPは脳血液関門を通過できないので,中枢神経系での鉄代謝にはGPI型CPが重要な役割を果たしている8).分泌型CPおよびGPI型CPの共通する機能は,鉄酸化活性を介した細胞外への鉄輸送であるが,それぞれの機能も報告されている.分泌型CPは血液中のNOオキシダーゼとしてNOを酸化し亜硝酸NO2にすることで,虚血障害後の血管拡張作用や細胞防御機能を調整している9).また,GPI型CPはフェロポルチンの安定化作用があり,RNAiにより培養細胞中のGPI型CPをノックダウンするとフェロポルチンが細胞表面から細胞質へ移動し分解される10).また,CPはその鉄酸化活性により細胞外の二価鉄を減少させ,二価鉄自身がフェロポルチンの分解を引き起こすのを防ぐことで,フェロポルチンを安定化するポジティブな発現調節に関与している.

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図2 細胞からの鉄排出機構

フェロポルチンにより輸送された二価鉄はCP, hephaestinにより三価鉄に酸化され,トランスフェリンに結合して運搬される.

4. 無CP血症の臨床的特徴

無CP血症は,2018年1月現在までに世界で70家系ほどの報告がある.近親婚のない場合,日本ではホモ接合体はおよそ200万人に1人の遺伝子頻度で存在すると推定される11).主要な臨床症候は鉄が過剰に蓄積している部位を反映して,神経症状(不随意運動,小脳性運動失調,認知機能障害など),網膜変性症,糖尿病,鉄不応性貧血が認められる2).本疾患の典型的な症状経過は,10~20歳台に鉄不応性の貧血がみられ,20~40歳ごろより糖尿病を発症,さらに40~50歳台に神経症状を発症する.網膜変性症は自覚症状がほとんどない.神経症状では不随意運動(眼瞼痙攣,しかめ顔,口舌ジスキネジア,頸部ジストニア,舞踏病様運動,振戦),小脳性運動失調(構音障害,四肢体幹の運動失調)などがみられ,これらが単独または複数の組合わせで出現する.また50代以降でパーキンソニズム(筋強剛,寡動)を来すことがある.認知機能障害は一般的に50代後半から徐々に現れ,多くは失念,自発性の低下,会話量の減少から始まり,次第に周囲に対して無関心,無頓着になり抑うつ状態となる.これらの神経症候は患者の約70%で認められるが,なかには60歳を過ぎても糖尿病と貧血だけで神経症状を発症しないこともある.糖尿病が先行し,不随意運動,運動失調,パーキンソニズムのような臨床像をとる場合には本症の可能性を考慮すべきである2)

また,血液検査ではCPが欠損~著減し,このため血清銅は著減している.細胞外への鉄の動員がないため血清鉄は著減,体内の貯蔵鉄を反映する血清フェリチンの著増がみられる.無CP血症を臨床的に発見するきっかけは,図3に示すような頭部MRIでの脳内の鉄沈着である.鉄は脳全体に蓄積するが,もともと鉄濃度が比較的高い大脳基底核,小脳歯状核,中脳黒質および視床で,頭部MRI T2強調画像,あるいはT2*強調画像で著明な低信号を示すのが特徴である.

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図3 健常者と無CP血症患者の頭部横断面のMRI T2強調画像

鉄は脳全体に蓄積するが,もともと鉄濃度が比較的高い小脳歯状核,中脳黒質,大脳基底核(尾状核,被殻,淡蒼球),視床では低信号を来す.頭部の画像は左から,目と耳を含む横断面,その1 cmずつ上の横断面をそれぞれ示す.

5. CP遺伝子変異

本症で認められたCP遺伝子異常は,現在までに58変異である.エキソン全体にわたり変異のホットスポットはない.遺伝子変異の約6割は,ナンセンス変異,あるいは短縮化産物が生じるtruncation変異である.培養細胞での発現実験からは図4に示すように,ミスセンス変異遺伝子の多くは小胞体からゴルジ装置への細胞内輸送が障害され,変異CPが小胞体に蓄積する.また,わずかであるがゴルジ装置でATP7Bによって輸送された銅が変異CPに抱合されないため活性型であるホロCPの生合成が障害され分解されやすい変異アポCPができる,あるいは銅は抱合され細胞から分泌されるが鉄酸化活性が低下か欠損している遺伝子変異がある12, 13).小胞体蓄積型の特徴はCPタンパク質内に6回繰り返すG(F/L/I)(L/I)GPからなるアミノ酸モチーフに変異が存在することで,このモチーフの保持が小胞体からゴルジ装置への輸送に必要な立体構造をとる上で重要だと考えられる14).銅抱合障害型ではCPタンパク質内の3個のタイプ1銅の結合部位に変異があることが特徴である.6個の銅の結合部位のいずれか1個に人工的に変異を導入して培養細胞で発現させた変異タンパク質は,すべて銅抱合が障害されたアポタンパク質として生合成される15).これは,CPの立体構造上,銅結合が1か所でも障害されると残りの5個の銅も抱合されないことを示している16).また,truncation変異の機能障害も,ミスセンス変異と同様に変異タンパク質が小胞体に蓄積する変異と細胞外へ分泌される変異とに分類される.この差異に影響をあたえるのが,6番目のG(F/L/I)(L/I)GPモチーフの近傍にあるCys881である.Cys881はCys855とCys-Cys結合を形成しているが,Cys881よりN末端側のナンセンス変異は,すべて小胞体に蓄積する変異タンパク質を発現するが,Cys881よりC末端側のナンセンス変異による変異タンパク質は細胞外へ分泌される.これは,Cys881とCys855のCys-Cys結合がCPの小胞体からの細胞内輸送に重要であることを示している.これらの変異タンパク質の小胞体への蓄積は,小胞体ストレスを引き起こし細胞死が惹起される17).本症の病態は,CPの細胞外への鉄輸送の障害による機能喪失であるが,小胞体ストレスによる細胞死は,変異の種類によっては優性ネガティブ効果の可能性を示唆する.実際,本疾患は常染色体劣性遺伝をとるが,小胞体蓄積型のTrp858に変異を持つ症例で,ヘテロ接合体であるにもかかわらず小脳性運動失調を呈し,病理組織検査で肝臓・小脳・淡蒼球に鉄沈着を認めた患者が存在する18).さらに,小脳性運動失調と不随意運動で発症した16歳女性にArg701→Trpのヘテロ変異が同定された19).Arg701→Trp変異タンパク質は小胞体からゴルジ装置へ輸送されるが,ゴルジ装置でATP7Bの機能障害を引き起こす優性ネガティブ効果による細胞障害が報告されている20)

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図4 正常CP遺伝子の発現と変異CP遺伝子の発現

正常のGPI結合型CPと分泌型CPは,小胞体で生合成されたアポCPがトランスゴルジ網に移動し,そこでATP7Bにより輸送された銅を抱合して生合成され,ホロCPとして鉄酸化活性(白抜き矢印)を持つ.多くのCP変異タンパク質はトランスゴルジ網に移動せず小胞体にとどまる.一部には,銅を抱合できないないため鉄酸化活性を持たない変異アポCPだけが生合成されすぐに分解される遺伝子変異,あるいは銅は抱合するが鉄酸化活性がないか低下している変異タンパク質が生合成され,早期に分解される遺伝子変異がある.

6. 無CP血症の病態

無CP血症では全身諸臓器への鉄沈着がみられ,特に中枢神経系,肝臓,膵臓に顕著である.肝臓では,肝細胞のみならずKupffer細胞に鉄の沈着を認めるが,肝組織の基本構造は保たれており肝硬変に至るような著しい肝組織構築の変化はみられない21).膵臓では,内分泌細胞の鉄沈着は外分泌細胞に比較して軽度であるが,β細胞は著明に減少している.鉄濃度は,中枢神経系では基底核(尾状核,被殻,淡蒼球)で通常の約10倍,鉄蓄積は神経細胞よりもアストロサイトで顕著である.本疾患の特異的な病理学的変化は,細胞質が大きく分葉した核を持つ巨大なアストロサイト,基底核および大脳皮質に広く存在するspheroid body様の球状構造物(封入体)である22).これらの所見から,鉄沈着によりヒドロキシルラジカルなどのフリーラジカルが産生され,それに伴う脂質過酸化によって細胞障害を来すことが想定されている.実際に,患者脳組織では不飽和脂肪酸酸化物であるオキシステロール,脂質酸化物であるマロンジアルデヒド(MDA),4-ヒドロキシ-2-ノネナール(HNE),Nε-カルボキシメチルリシン(CML)の増加が確認されている23, 24).さらに,酸化ストレスを受けやすいミトコンドリア電子伝達系のI・IV複合体の活性の低下やミトコンドリア内の抗酸化酵素であるMn SODの発現亢進も認められる25).特にアストロサイトでは脂質過酸化物の蓄積が著明で,グリア細胞の骨格タンパク質であるglial fibrillary acidic protein(GFAP)が最も強く酸化反応を受ける26).脳内のCPはアストロサイトの細胞膜表面にGPI型CPとして局在しているので,本疾患ではアストロサイトの鉄沈着による酸化ストレス障害が病態の主な要因と考えられる.一方,アストロサイトのみならず神経細胞への鉄沈着と細胞脱落が認められる21)図5に示すように,アストロサイトから神経細胞への鉄輸送は,CPを介したトランスフェリンによる主輸送経路とアスコルビン酸やクエン酸に結合した非トランスフェリン鉄(non-transferrin binding iron:NTBI)による副経路で行われる.神経細胞には鉄貯蔵タンパク質のフェリチンがほとんどなく,利用されない鉄は速やかに排出される必要がある.尚,この排出にはフェロポルチンとCPのホモログタンパク質であるhephaestin,アミロイドβの前駆体タンパク質が関与している27).患者の剖検脳および無CP血症モデルマウスの病理学的所見から,無CP血症の早期では,アストロサイトからの主要な鉄輸送が低下するため神経細胞では鉄欠乏が生じて機能障害を来す.そして晩期になると副経路を介したNTBIの取り込みによる鉄過剰が神経細胞に生じ,アストロサイトには過剰鉄とCPの変異タンパク質などから構成される封入体が沈着すると予想されている2)

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図5 脳における鉄の取り込みと神経細胞への輸送:健常者と無セルロプラスミン血症患者の比較

健常者の脳における主な鉄輸送経路では上段のように,はじめに血液中のトランスフェリン結合鉄(TBI)が血液脳関門を越えて非トランスフェリン結合鉄(NTBI)のかたちでアストロサイトへ取り込まれる.その一部はフェリチン(FT)として貯蔵され,それ以外の鉄はフェロポルチン-セルロプラスミン(FPN-CP)系により再びTBIになり,神経細胞へ輸送される.そしてトランスフェリン受容体(Tf-R)へ結合して神経細胞へ取り込まれ利用され,その後フェロポルチンによって神経細胞から排出されて再利用されると考えられている.また,鉄の副輸送経路ではNTBIが直接神経細胞へ輸送され利用されている.無セルロプラスミン血症の早期では中段のように,アストロサイトに結合したCPが欠損しているためにFPNも不安定になり分解される.このため神経細胞への主な鉄輸送が減少して神経細胞は鉄欠乏状態になることが,CPノックアウトマウスの脳組織所見から予想されている.晩期には下段のように,副輸送経路から神経細胞へNTBIが供給されて鉄過剰を来し,アストロサイトに蓄積した鉄はCPの変異タンパク質と封入体を形成して沈着することが患者剖検脳の病理学的所見から予想されている.

7. 多くの神経変性症では封入体形成と鉄沈着をみる

中枢神経系への鉄沈着はNBIAだけではなく,アルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性症でも認められる.アルツハイマー病では,老人斑(主構成成分はアミロイドβタンパク質)や神経原線維変化(リン酸化タウ)に鉄沈着がみられ28),鉄沈着による細胞の酸化ストレスマーカーであるNADHオキシダーゼ,ヘムオキシゲナーゼの上昇がみられる.アミロイド前駆タンパク質(APP)は神経細胞からの鉄排出を促進する方向に作用している27).そのmRNAの5′非翻訳領域(5′UTR)には,細胞内の鉄濃度を感知して作用するIRP(iron regulatory protein)が結合するヘアピン構造の鉄応答要素IRE(iron responsive element:IRE)が存在する29).IRPは細胞内の鉄濃度が低い場合に活性化し,5′UTRのIREに結合して翻訳を抑制するので,APPが減少して細胞からの鉄排出が抑制される.アルツハイマー病では,APPの機能低下により神経細胞外への鉄排出が障害されるため鉄沈着を来すと予想される.パーキンソン病では,黒質の神経細胞にみられるレビー小体(α-シヌクレイン)への鉄沈着が認められ,鉄沈着による酸化ストレスがドパミン神経細胞の変性をもたらすと考えられる.また,α-シヌクレインは三価鉄を二価鉄に還元する活性を持っていることから,鉄がフェロポルチンにより細胞外へ輸送される場合に作用する30).このため,その機能が低下した場合には細胞内へ鉄が蓄積することになる.α-シヌクレインの5′UTRにはIREが存在するので,細胞内の鉄濃度が上昇するとIRPがIREへ結合しないためα-シヌクレインは増加し,凝集して神経変性を来す可能性がある31).筋萎縮性側索硬化症でも神経細胞内の封入体(TDP-43タンパク質)へ鉄沈着が認められる32).これらの異常タンパク質は正常タンパク質のコンホメーションが変化することで凝集し,病理学的には疾患特異的な沈着物,封入体として認められる.しかも時間経過とともにその分布が徐々に拡大するように見え,異常タンパク質を正常マウスの脳へ移植すると異常タンパク質が広く分布するようになることから,異常タンパク質はいわゆるプリオンに類似した性質を持つと考えられている33).以前はこの封入体自体が細胞障害を起こすと考えられていたが,現在は封入体形成の過程で生じる可溶性オリゴマーにより強い細胞毒性があり,封入体はどちらかというと細胞保護に働くと考えられている.いずれにしてもこれらの封入体には鉄などの微量金属が高濃度で沈着しており,その形成に密接に影響していると考えられる.今後,神経変性症における封入体の形成過程の調節が新たな治療ターゲットになる可能性もあり,鉄をはじめとした微量金属の代謝調節の解明が重要と考えられる.

8. おわりに

NBIAの中では古くからPKANが報告されてきたが,剖検により初めて診断されたため,その頻度はまれであった.1987年に我々が無CP血症を初めて報告したころより,頭部MRIが日常臨床で用いられるようになり,NBIAが外来で発見されるようになった.その結果,すでに10疾患の原因遺伝子が同定されたが,原因遺伝子が不明のNBIAも多く存在する.また,脳内鉄代謝に関与する多くのタンパク質が同定されたが,その詳細な機能や調節機構は十分に解明されていない.一方,アルツハイマー病やパーキンソン病などの一般的な神経変性症においても鉄の脳内蓄積が認められている.このため,NBIAの病態解析とともに脳内の鉄代謝とその調節機構を明らかにすることは,神経変性の予防や治療につながる端緒となる可能性がある.

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著者紹介Author Profile

宮嶋 裕明(みやじま ひろあき)

浜松医科大学内科学第一講座教授・副学長.博士(医学).

略歴

1981年浜松医科大学医学部卒業.89年同大学院医学研究科博士課程修了.99年浜松医科大学医学部第一内科助教授.2010年より現職.16年副学長(併任).

研究テーマと抱負

微量金属代謝異常に伴う神経変性症,なかでも無セルロプラスミン血症の臨床研究を行っています.

ウェブサイト

http://www2.hama-med.ac.jp/w1b/med1/1nai.htm

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