生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 297-305 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900297

特集Special Review

ヘムを生体内シグナル伝達分子として利用する制御タンパク質の構造と機能Functional and Structural Characterization Regulator Protein Using Heme as a Signaling Molecule in vivo

北海道大学大学院理学研究院化学部門Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University ◇ 札幌市北区北10条西8丁目 ◇ Kita 10, Nishi 8, Kita-ku, Sapporo 060–0810, Hokkaido, Japan

発行日:2018年6月25日Published: June 25, 2018
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生体内において重要な微量元素である鉄は,その多くが鉄−ポルフィリン錯体であるヘムとしてタンパク質と結合し,酸素運搬,化学反応触媒,電子伝達などの多岐にわたる活性中心として機能している.近年の網羅的な研究から,このようなヘムを結合する多くのタンパク質が新たに同定され,ヘムの生理学的な機能は予想以上に多様であることが示されているが,その中でもヘムを活性中心としてではなく,ヘムを結合することでその機能が制御される「ヘム制御タンパク質」が生体内に広く存在することが示唆されている.本稿ではこのような「ヘム制御タンパク質」の中から,いくつかの例をあげてその特徴的なヘム配位様式や機能制御機構を種々の分光学的および生化学的な手法で検討した結果を紹介することで,生体内における新しいヘムの機能についての議論を深める.

1. はじめに

大腸菌からヒトまですべての生物はその生体内に微量元素と呼ばれる多種類の遷移金属,つまり生体内金属,を含んでおり,それらはさまざまな形で生命維持に貢献している.このような生体内金属の中で最もその存在量が多い元素が鉄であり,ヒトでは体内に数グラムの鉄を有していると考えられているが,その多くは環状化合物であるポルフィリンと錯体を形成し,ヘムという形で存在している(図1).このヘムは,タンパク質と結合することでその活性中心としてさまざまな機能を発揮することがよく知られており,ヘムグロビンやミオグロビンに代表される酸素運搬,貯蔵機能,P450やペルオキシダーゼのような化学反応を触媒する機能,さらにはシトクロム類のような電子伝達反応を媒介する機能をはじめ,近年では一酸化窒素や酸素,一酸化炭素などの特定の気体を感知してその応答反応を開始させるセンサータンパク質としての機能など,生体内の多岐にわたる生物学的,生理学的に重要な過程において,中心的な役割を果たしていることが明らかとなってきた.

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図1 ヘム

ピロールが4個重合して形成されるポルフィリン環の鉄錯体.側鎖の種類によって数種類のヘムが存在する.この図のヘムはヘムb

近年のタンパク質に関する網羅的な研究の中で,このようなヘムを結合するタンパク質は新たに数多く見いだされてきており,生体内におけるヘムの多様な機能が裏づけられている.結合したヘムの機能がこれまでのヘム結合タンパク質とはまったく異なるタンパク質や,これまで報告されてきたヘム結合タンパク質のように立体構造的に明瞭なヘム結合部位を有していないにもかかわらず,ヘムを結合するタンパク質,機能的に考えてヘムが結合するとは想定されていなかったタンパク質などにもヘムの結合が報告されてきており,生体内におけるヘムの機能はこれまで想定されていたよりも,はるかに広範で多様であることが示されつつある.

このようなヘムの新たな機能の中で,特に近年注目されるのは,ヘムをそのタンパク質の機能を制御するための一種のエフェクターとして結合する「ヘム制御タンパク質」と呼ばれる一群のタンパク質である.このようなエフェクターの多くは生体内における種々の情報伝達分子として機能する場合が多く,生体内の環境変化等に対応して特定の条件下で特定のタンパク質に結合する「生体内シグナル伝達分子」としての機能を有している.つまり,気体分子や金属イオンなどのような小分子だけではなく,ヘムのような金属錯体が「生体内シグナル伝達分子」として「ヘム制御タンパク質」の機能を制御することが示唆されている.このようなヘムをシグナル伝達分子として結合するタンパク質は,その新規性とともに生理的重要性からもその構造化学的研究が進められ,まだ断片的ではあるものの,その特異なヘム結合環境も少しずつ明らかになってきた1).しかし,ヘムは図1に示すように鉄と錯形成した大きな環状化合物であり,しかも疎水性の高いこのような分子が「生体内シグナル伝達分子」として細胞内に遊離して存在するとは考えにくく,生体内でどのようにシグナル伝達分子として機能し,標的タンパク質と結合するのか,さらに標的タンパク質と結合することでどのような構造変化を引き起こし,その機能を制御するのかなど,その制御機構には不明な点が多い.さらに,これらのヘムを結合するタンパク質は,天然変性領域を有しているもの,あるいはタンパク質としての構造安定性が低いものが多く,分子論的な構造や機能解析も困難で,その詳細についてはこれまで十分に検討されてはいない.

本稿ではこのように生理的にも,タンパク質科学としても重要な「ヘム制御タンパク質」について,比較的研究の進んでいるいくつかの例をあげて,その分子構造に基づく機能制御機構からヘムの新たな機能である「生体内シグナル伝達分子」としての意義と,関連研究の今後の展開について概観を試みる.

2. ヘムによる活性制御機構

一般的にヘムによる活性制御機構は,大きく転写過程,翻訳過程,翻訳後過程の三段階に分けて考えることができる(図2).転写段階(図2a)においては,ヘム結合依存的に活性が制御される転写因子によって,ヘム生合成系酵素のmRNAの生成が制御されることから,転写因子がシグナル伝達分子としてのヘムを結合する部位を有している.その結合部位としては,Cys-Proの2残基を保存配列とするヘム制御モチーフ(heme regulatory motif:HRM),あるいはCPモチーフと呼ばれるアミノ酸配列部位が想定されている場合が多く,ヘム結合によって概日性制御タンパク質の転写を制御するRev-erbβや,窒素固定細菌においてヘム生合成を制御するiron responsive regulator(Irr)などは1個のHRM配列を有する.好気呼吸における電子伝達タンパク質の転写を制御する転写因子Hap1や,グロビン遺伝子やヘム分解酵素ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)遺伝子といったヘムと密接に関連するタンパク質の遺伝子を抑制する転写因子であるBach1などは,いずれも複数個のHRMをそのアミノ酸配列中に含んでいる.これらのタンパク質は,それぞれが有するHRM配列のCys残基へのヘムの結合が想定されているものの,分光学的にそのヘムへの配位が確認されたのは数例しかなく,その生理的機能との相関が構造化学的に検討された例2)はごく少ない.

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図2 真核生物の細胞内におけるヘムの制御機構

さまざまなタンパク質に対してヘムは,転写(a),翻訳(b),翻訳後(c)の過程で種々の制御を行っている.ALA:5-アミノレブリン酸.

一方,ヘムによる翻訳過程の制御(図2b)としては,その例として細胞内鉄濃度制御タンパク質であるiron regulatory protein 2(IRP2)をあげることができる.このIRPの場合,翻訳制御の対象となる鉄代謝関連のmRNAが,特徴的なバルジ部分を含むステム構造の配列,鉄応答要素(iron responsive element:IRE)(図3)を有しており,この部分とIRPの結合をヘムが制御すると想定されている.IRP2はヘムを結合することでIRE結合能が失われ,その結果,mRNAからの翻訳が制御されるが,IRPによる翻訳制御の場合,図4に示すようにIREがmRNAの3′末端側か,5′末端側か,どちらに位置するかでその翻訳制御の結果が異なる.細胞内に鉄を取り込むトランスフェリン受容体(transferrin receptor:TfR)の場合のように3′末端側にIREが存在する場合,細胞内鉄濃度が低いときにはIRPのIREへの結合により,3′末端側からのRNA分解酵素による分解反応が阻害され,mRNAが安定化することでTfRの翻訳が促進される(図4左上).一方,細胞内鉄濃度が高くなるとヘム結合によってIRPがその結合能を失うことで,mRNAの分解が促進され,TfRの翻訳は抑制される(図4右上).鉄貯蔵タンパク質であるフェリチン(ferritin:Ft)のmRNAの場合には,5′末端側にIREが結合しているため,IRPのIREへの結合によりmRNAのリボソームへの結合が阻害されることで,Ftの翻訳は阻害される(図4左下)が,ヘムの結合によりIRPがIRE結合を喪失すると,今度はリボソーム結合への立体的阻害が消失するので,Ftの翻訳が開始される(図4右下).

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図3 鉄応答要素(iron responsive element:IRE)

フェリチンのmRNAの3′末端に位置するIREの配列とそのバルジ構造を含むステムループ構造.

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図4 IRPによる翻訳制御機構

細胞内の鉄濃度が低い状態(左)では,IRPはIREに結合し,トランスフェリン受容体(TfR)の場合にはこのIREが3′側に位置しているので,RNAエンドヌクレアーゼによる分解が阻害されるためmRNAが安定化し,その翻訳が促進される.一方,フェリチン(Ft)の場合にはIREが5′側に位置するため,リボソームの結合が阻害され,その翻訳が抑制される.細胞内鉄濃度が高い場合(右)にはIREからIRP2が解離し,その結果,TfRの翻訳阻害とFtの翻訳促進が誘起される.

さらに,ヘムは以上のような転写,翻訳過程以外においても翻訳後のタンパク質に結合することでその細胞内輸送,成熟化や活性化,あるいは分解を制御することが示されている(図2c).その制御機構は,転写,翻訳過程と同様に,ヘムがその結合によって引き起こすタンパク質の構造変化に起因している.ヘムの結合によって制御される過程は多岐にわたっており,その制御系としてはこれまで,ヘムによるタンパク質輸送の阻害3),ヘム結合が誘導する多量体化による酵素活性制御4),ヘムの結合によるキナーゼ活性の制御5),ヘム結合によって誘導されるタンパク質分解6),ヘム結合によるイオンチャネル制御7),ヘム結合による抗腫瘍活性阻害8)などが報告されてきており,近年になっても広範な生物学的過程において次々と新たなヘムによる制御系が明らかとなっている.さらに,以下の節で示すように,一つの酵素,タンパク質でもヘムによる複数の過程で制御されている場合も報告されており,生体内でのヘムのシグナル伝達分子としての重要性がより明確となりつつある.

3. ヘム生合成における制御機構

これまでの多くの研究でも繰り返し示されてきたように,ヘムは,生理的に重要な分子である一方で,タンパク質に結合していないヘムは,そのポルフィリン環の高い疎水性によって,生体膜等の生体内における疎水性の高い部分に非特異的に結合する.細胞内のような還元雰囲気下では錯形成している鉄イオンによる分子状酸素からの活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の産生が引き起こされることから,ヘム生合成は細胞内で必要とされるヘム量に応じて過剰量の遊離のヘムが生成しないようにその生合成を制御する必要がある.さらに,このヘム生合成反応においては,アミノ酸などの生体内に豊富に存在する化合物から生成されるポルフィリン環に比べ,利用可能な細胞内鉄イオン量は制限されていることから,ポルフィリン環の生合成量も利用できる細胞内鉄濃度に合わせて制御されている.このような制御機構が喪失すると細胞内にポルフィリンが蓄積し,光照射によりポルフィリンが励起し,その光励起エネルギーにより分子状酸素がROSの一種である一重項酸素に活性化することで,種々の細胞内組織に損傷を与えることになり,ヒトの場合では重篤な光過敏症などの発症につながる.つまり,ヘム生合成においては,細胞内でのヘム量と鉄量の両者による厳密な制御機構が必須であると考えられている.

このようなヘム生合成におけるヘム量による制御は,生成物による反応制御となるため,ネガティブフィードバックによる生成物阻害反応となると想定されており,ヘム生合成系のいくつかの酵素におけるヘムによる活性阻害機構が提唱されている.これまで,ヘム生合成反応(図5)の第一段階である5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:ALA)の合成を触媒する5-アミノレブリン酸合成酵素(5-aminolevulinate synthase:ALAS)のうち,赤血球前駆細胞以外の細胞で発現するALAS1は,細胞内のヘムの増大によって,そのmRNA量の低下9)やミトコンドリア移行の阻害3)など,転写や翻訳後といった複数の段階で制御されることが示されている.

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図5 ヘム生合成経路

スクシニルCoAを出発物質として,5-アミノレブリン酸(ALA),ポルホビリノーゲン(PBG),数種のポルフィリン前駆体を経由して鉄イオンが挿入され,ヘム(ヘムb)が生合成される.

ヒトのALAS1は,N末端に56残基のミトコンドリア移行シグナル配列を有した前駆体として生合成され,このシグナル配列が切除された状態で成熟タンパク質として機能するが,ヘムを添加することにより,この前駆体のミトコンドリアへの移行が阻害10)されることが報告されている.これは細胞内のヘム濃度が上昇したことに伴い,細胞質で産生されるALAS1のミトコンドリアへの移行を抑え,ミトコンドリアでのヘム生合成を抑制する生成物ネガティブフィードバックとして解釈できる.ALAS1は,このシグナル配列中に2個のHRMを有しており,これらのHRMのCys残基をSerに変異することにより,ヘムによるALAS1のミトコンドリアへの移行阻害が抑制されることから,HRMへのヘム結合によってALAS1に構造変化が誘起され,その結果,ミトコンドリアへの移行が阻害されると考えられている.しかし,ヘム結合によってこのシグナルペプチド部分にどのような構造変化が誘起され,なぜそれがミトコンドリアの移行阻害につながるのか,その詳細は明らかではない.

さらに,近年,このシグナル配列が切断された成熟型のALAS1に対しても,そのN末端側に位置しているHRMにヘムが特異的に結合すること,それによってALAS1とミトコンドリアに存在するATP依存性タンパク質分解機能を有する分子シャペロンであるClpXPとの複合体形成が促進され,複合体形成したALAS1が分解されること10)が報告された.さらに,このALAS1にヘムが結合するだけでも,そのタンパク質部分の酸化修飾が誘起され,その酸化修飾はClpXPと同様なミトコンドリア内のATP依存的タンパク質分解酵素であるLon peptidase 1(LONP1)に認識され,この場合もタンパク質分解へと帰結することが報告6)されている.このようなミトコンドリアにおけるヘムに依存した分解も,細胞内ヘム濃度の上昇に伴う生成物ネガティブフィードバックと考えられ,ALAS1の活性はヘムによる複数の経路により制御されていることを示しているとともに,酸化活性のようなヘムの多様な特性を生かしたシグナル伝達として特徴的な制御機構としても捉えることができる.

ヘムによるヘム生合成制御は,このALASによるALAの合成制御だけではなく,他の過程でも報告されている.窒素固定菌のBradyrhizobium japonicumは,高等生物と同様,スクシニルCoAを出発物質とするヘム生合成経路を有しているが,その遺伝子欠損株の解析から,細胞内の鉄欠乏条件下でもヘム生合成系が抑制されず,ポルフィリンを蓄積する欠損体が見いだされ,その原因遺伝子として転写因子Irrが同定された11).このIrrはヘム生合成においてALA合成の次の過程,つまり,ALAの重合化によるポルホビリノーゲン(porphobilinogen:PBG)の合成反応を触媒するALA脱水酵素(ALAD)をコードするhemB遺伝子の転写を抑制的に制御する転写因子である.Irrは細胞内の鉄濃度に反応して転写活性が制御されるが,鉄イオンが直接Irrに結合するのではなく,ヘムの結合によってIrrの転写活性が制御されると考えられている12).このIrrへのヘム結合による転写活性制御機構については,種々の分光的手法を用いて詳細に検討が行われ,図6のようなスキームが提案されている13–15).まず,Irr配列中に唯一存在するHRMのCys残基と,数個のHis残基が集中して位置しているヒスチジンクラスタ領域のHis残基の2か所にヘムが結合する(図6A, B).これらのヘムのうち,HRMのCysに配位したヘムは,細胞内の還元雰囲気下ではヘム鉄が還元されることで,分子状酸素と反応して過酸化水素を産生する(図6C).その結果,ヒスチジンクラスタ領域に結合したヘムの分解が引き起こされ(図6D),ヘムから遊離した鉄イオンがヒスチジンクラスタ領域に結合し,非ヘム鉄中心を形成する(図6E).さらにこの非ヘム鉄中心はフェントン反応の活性中心となって機能し,過酸化水素よりもはるかに酸化力が高く,アミノ酸側鎖を酸化修飾可能なヒドロキシラジカル(·OH)を産生する(図6F).その結果,非ヘム鉄近傍のアミノ酸残基(His63)が酸化修飾され(図6G),非ヘム鉄が遊離することでIrrのタンパク質構造が大きく変化し,転写因子としてのDNA結合能の喪失によってその抑制的制御が失われ,ADADの転写が活性化すると考えられる.以上のようなヘムによる酸化修飾によるタンパク質の分解を利用してタンパク質の機能を制御する機構はALAS1の場合でも提案されており,これらのタンパク質の制御系においては,酸化特性を有するヘムをシグナル伝達分子として巧妙に用いていることを示している.

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図6 iron responsive regulator(Irr)におけるヘム結合による転写活性化機構

結合したヘムによる過酸化水素産生過程(上)と産生した過酸化水素を利用したアミノ酸酸化修飾と転写活性化(下)

さらに最近,ヘム生合成においてPBG合成の次の段階で,PBGが4個重合してポルフィリン骨格を形成する最初の反応を触媒するポルホビリノーゲン脱アミノ酵素(porphobilinogen deaminase:PBGD)においても,ヘムによる活性制御が報告された16).この場合のヘム結合部位はHRM配列ではないものの,これまでのヘムによってその機能が制御されるタンパク質と同様にCys残基がヘムに配位していることが示されており,ヘム結合によって空間的に離れたCys残基とHis残基がヘム鉄の二つの配位子となることでタンパク質構造が大きく変化し,その脱アミノ活性が抑制されると想定されている.ヘムの生合成反応においては,さらに他の反応過程においてもヘムによって制御されていることが示唆されており,このようなヘム生合成におけるいろいろな反応過程での生成物ネガティブフィードバックは,ヘムが生理的に重要な分子であるばかりではなく,その過剰産生は細胞や組織にとって致命的な損傷につながることから,種々の要因によって厳密に制御する必要があることを示していると考えられる.

4. 細胞内鉄濃度制御機構におけるシグナル伝達分子としてのヘムの機能

ヘムの生合成反応において,ヘム自身がその活性を制御することは,ヘムという生成物を常に需要に合わせて供給するという点で合理的な制御機構であり,ヘムの原料の一つである鉄イオンも同様にその細胞内恒常性を維持する制御機構が存在する.この細胞内鉄の恒常性は,細胞内への鉄イオンの取り込みや,取り込んだ鉄イオンの貯蔵に関与するタンパク質を翻訳レベルで制御することで維持されるが,その制御タンパク質であるIRPにおいては,鉄ではなくヘムがその細胞内鉄量のシグナル伝達分子となっていることが提案されている17)

細胞内への鉄の取り込みと貯蔵は,図718)に示すように血液中の鉄イオンを結合したトランスフェリン(Transferrin:Tf)がTfRと結合し,エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,行われる.酸性化したエンドソームから取り出された鉄は,ヘムや鉄硫黄クラスタなどの補酵素として利用されるとともに,過剰の鉄はFtに貯蔵される.多くの生物は個体として鉄を排出する機能を有しておらず,鉄はタンパク質分解等においてもそのほとんどが回収されるが,組織の損傷や出血など種々の要因により失う鉄量は一定ではなく,また過剰量の鉄イオンは酸化能を有することからヘム同様,鉄イオンが遊離状態で細胞内に存在することも生物にとっては避ける必要がある.そこで,細胞内鉄量の恒常性を維持するため,TfRやFtの発現を翻訳レベルで制御するのがIRPである(図4).IRPはこれまで二つのホモログとして,IRP1とIRP2が報告されており,いずれも細胞質のアコニターゼと同様に四つのドメインからなる単一ポリペプチド鎖からなるRNA結合タンパク質である.細胞内鉄濃度が高い場合,これらの二つのIRPのうち,IRP1はドメイン3と4の間の陥凹部に鉄硫黄クラスタが形成され,mRNAへの結合能を失うのに対し,IRP2は酸化修飾が誘起され,ユビキチン化されることでプロテアソーム分解を受けることが知られている.このプロテアソーム分解は,IRP2には存在し,IRP1には存在しないドメイン1と2の間の73残基のアミノ酸配列を欠損させることで阻害される19)ことから,この挿入配列はiron-dependent degradation domain(IDDドメイン)と呼ばれている.

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図7 細胞内における鉄イオンの代謝経路

トランスフェリン(Tf)にキレートされた鉄イオンはトランスフェリン受容体(TfR)と結合し,エンドサイトーシスを経由する他,いくつかの経路によって細胞内に取り込まれる.取り込まれた鉄イオンは鉄イオンを含むタンパク質の合成に用いられ,過剰の鉄イオンはフェリチン(Ft)に貯蔵,あるいは細胞外に排出される.細胞内へ鉄イオンを取り込むTfRや鉄イオンを貯蔵するFtはIRPによって翻訳段階で制御されている.

これまでの研究から,このIRP2のIDDドメインはヘムを結合することで酸化修飾が誘起され,その酸化修飾をユビキチン化認識酵素が認識してユビキチン化IRP2が生成し,最終的にプロテアソーム分解を受ける20)ことが明らかとなり,さらにこのIDDドメインのヘム結合部位は,HRM配列のCys残基であることが同定された17).ヘム依存性転写因子であるBach1やHap1においても同様なHRM配列中のCys残基へのヘムの配位が観測されているが,酸化修飾は誘起されず,ヘム結合による酸化修飾が誘起されるIrrのヘム結合部位のアミノ酸配列との相同性から,ヘムによる酸化修飾はヘムに配位したCys残基からC末端側3残基目にHis残基が位置する(CPXH配列)ことによると考えられており,わずかなアミノ酸配列の違いによってヘムの反応性が大きく変化することは興味深い17).さらに最近,IRP2はIDDドメイン以外の2か所のHRMにもヘムが特異的に結合することが明らかになり21),その生理学的意義も注目されている.

一方,IRP2のIDDドメイン以外のHRMはIRP1にも保存されていることから,IRP1についてもヘムの結合が検討され,HRMの数と同じ2当量のヘムが結合することが明らかとなった21).これらのヘムの配位様式はIRP2のIDDドメインにおけるヘム結合と非常によく似ているものの,アミノ酸残基の酸化修飾に必要なヘム鉄が還元される過程においてはその還元中間体の構造が異なり(図821),酸化修飾も引き起こさないことから,IRP1におけるヘム結合の生理的意義はIRP2のIDDドメインへのヘム結合とは異なることが示されている.同じHRMのCys残基への配位であるにもかかわらず,このような機能的な相違が生じる構造化学的要因についてはまだ十分明らかではなく,その詳細な検討は今後の課題である.

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図8 IRPのHRMに結合したヘムの反応経路

各図の下の波長は,それぞれの状態でのSoret帯の極大波長を示す.IDDドメイン内もIDDドメイン外のHRMもどちらもそのCysが配位し,類似した分光学特性を示すが,IDD内のHRMに結合したヘムは435 nmに吸収極大を示す中間体(枠内)を形成し,この中間体の形成がIDDドメインにおけるヘムによるアミノ酸の酸化修飾と関連していると想定されている.

以上のように,ヘムの結合はIRP2において,そのmRNA結合制御における酸化修飾機構の中心的な役割を果たすとともに,IRP2におけるIDDドメイン以外のHRMやIRP1のHRMにおいても,酸化修飾を引き起こさないものの特異的なヘム結合も確認されたことから,IRPにおけるヘム結合による新たな制御機構の存在が示唆される.

5. ヘム生合成や細胞内鉄濃度制御以外の機構におけるシグナル伝達分子としてのヘムの機能

ヘムの生合成や細胞内鉄濃度制御のようなヘム自身と直接関連のある過程以外にも,ヘムによる制御機構は次々と確認されており,生体内におけるシグナル伝達分子としての重要性は広がっている.そのすべてを本稿で取り上げることはできないが,最後に医学的にも注目されているヘムによるがん抑制因子の活性制御について簡単にふれておきたい.代表的ながん抑制因子であるp53は,細胞増殖サイクルを抑制することで,細胞ががん化したときアポトーシスを誘起させる機能を有し,このp53の活性低下は細胞のがん化を促進させると考えられている.このp53に対してヘムが特異的に結合し,その結果,p53の標的DNAへの結合が阻害されることが報告されている8).以前から,細胞内鉄濃度が高い状態ではp53のがん抑制効果は減弱することが知られており,細胞内鉄濃度の低下は細胞レベルでがん化を抑制し,臨床的にもがん抑制に効果があると報告されている22)ことから,ヘムの生合成や鉄の代謝とがん抑制は関連しているとは想定されている.p53はその配列中に3か所のHRM配列を有しており,DNA結合ドメインのC末端側で,標的DNAとの相互作用部位に近いHRMのCys残基(Cys277)とそのN末端側2残基目のCys(Cys275)を変異させると,ヘム結合によるp53の標的DNAへの結合阻害が抑制されたことから,この部位にヘムが結合し,立体的な障害が誘起されることで,p53とその標的DNAとの相互作用が阻害されると推定できる.しかし,精製タンパク質を用いた実験ではp53に対するヘムの結合は吸収スペクトルで確認されているのみであり,また,p53に対して過剰量のヘムを添加しないと明瞭な阻害効果が現れないこと,細胞内の遊離のヘム濃度はきわめて低いことからp53にヘムを結合させる何らかのヘム結合タンパク質(ヘムシャペロン)の存在が必要なことなど,分子論的な制御機構解明には今後さらに詳細な検討が必要であると考えられる.

6. おわりに

ここまで紹介したように,ヘムはタンパク質の活性中心としてだけではなく,細胞内のヘム量や鉄量の状態を,それぞれの「ヘム制御タンパク質」に伝達し,その恒常性を維持する生体内シグナル分子として機能していることが,分子レベルの機能発現機構の検討を通して次第に明らかになってきた.これらのヘムによる活性制御機構は,単にその結合によりタンパク質の構造変化を誘起して活性を制御するだけではなく,ヘム特有の酸化活性を利用したタンパク質分解による制御など,他のシグナル伝達分子では例をみないユニークな制御機構を示す場合も多い.さらに,近年はヘムや鉄イオンといったヘム自身の生合成に直接かかわる生成物フィードバック的な制御だけではなく,がん抑制因子の活性制御など,ヘムそれ自身とは直接は関連しない生物学的過程に対しても,そのシグナル伝達分子として機能していることが示されている.今後もこのようなヘムのシグナル伝達分子としての守備範囲はより広範になることが期待され,これまでの細胞内のシグナル伝達およびその制御機構の概念を変えるパラダイムシフトにつながることも予想される.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

石森 浩一郎(いしもり こういちろう)

北海道大学大学院理学研究院教授.工学博士.

略歴

1984年京都大学工学部石油化学科卒業.89年同大学院工学研究科分子工学専攻博士後期課程修了.同年京都大学工学部助手,95年京都大学大学院工学研究科助教授,2005年北海道大学大学院理学研究科教授,06年より現職.

研究テーマと抱負

構造化学的アプローチによる金属タンパク質の機能解析とその制御.金属イオンの特性を熟知して巧妙に利用する生物の知恵にはいつも驚かされ,少しでもその秘密が明らかにできればと思いますが….

ウェブサイト

http://wwwchem.sci.hokudai.ac.jp/~stchem/

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