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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 333-339 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900333

特集Special Review

エクト型亜鉛酵素の亜鉛獲得による活性化機構Activation mechanism of zinc-requiring ectoenzymes by zinc acquisition

京都大学大学院生命科学研究科Graduate School of Biostudies, Kyoto University ◇ 〒606–8502 京都市左京区北白川追分町 ◇ Kitashirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8502, Japan

発行日:2018年6月25日Published: June 25, 2018
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in silicoプロテオーム解析から,全タンパク質の10%程度に相当する約3000種類のタンパク質は亜鉛結合モチーフを持つと試算されている.その中には活性中心として亜鉛を有する酵素が数多く存在しており,亜鉛の多様な生理機能はこれら酵素の活性と密接に関わると考えられる.このような亜鉛を活性中心に持つ亜鉛酵素には,小胞体で生合成され,ゴルジ体において修飾を受けた後,細胞表面や細胞外で機能を発揮するエクト型亜鉛酵素が多数存在しており,疾患の発症や生命活動に関わる重要な酵素がいくつも含まれている.これらの事実から,筆者らは生体内におけるエクト型亜鉛酵素の活性調節機構を理解することが重要であると考え,研究を進めてきた.本稿では,特にエクト型亜鉛酵素の亜鉛トランスポーターによる活性化機構に焦点を当て,最新の研究成果とともに紹介する.

1. はじめに

亜鉛は体内に約2 g存在し,必須微量元素としてさまざまな働きを持つことが知られる1).特に近年,亜鉛の生理機能に関する研究が精力的に実施されており,亜鉛が密接に関与する新しい領域が次々と明らかにされている.

生体内の亜鉛の機能は便宜的に,①ZnフィンガーやRINGフィンガーなどのドメインを形成する構造因子,②酵素の活性中心としての触媒因子,③カルシウムのような濃度勾配の変化によるシグナル因子,という三つに大別されるが,歴史的にそれぞれ独立した研究として進められてきたため,これらの機能が生理的・病理的にどのように関連しているのかについては十分に明らかにされていない.たとえば重度の亜鉛欠乏に陥った患者は,①~③の機能破綻に起因するさまざまな要因が複合的に働くため,代表的な亜鉛欠乏の症状として知られる皮膚炎や味覚障害にとどまらず,下痢や免疫機能低下など非常に多岐にわたる症状を呈するが,その詳細なメカニズムについては不明な点も多い2).したがって,今後は亜鉛と健康状態との関連について,さらに広い視野から研究を進める必要がある.

近年,亜鉛が多数のタンパク質の機能を制御することを示す知見が蓄積されるとともに,生体内の亜鉛代謝の制御メカニズムについての理解も深まっている.以前は亜鉛代謝に関わる分子と聞けば,メタロチオネインの名前が浮かぶのみであったが,現在では,後述するZNTやZIPファミリーに代表される亜鉛トランスポーターが同定され,これら亜鉛トランスポーターを対象とした研究が盛んに進められるようになってきた.亜鉛トランスポーターの機能解析の結果から,亜鉛の新しい機能が発見される例も多く,亜鉛を取り巻く状況が一変している.

2. 亜鉛トランスポーター: ZNTとZIP

亜鉛と同じく必須微量元素として機能する鉄や銅においては,酸化還元反応がその代謝と密接に関わっている.すなわち,Fe2+⇄Fe3+,Cu⇄Cu2+というようにイオンの価数の変化が,トランスポーターや貯蔵タンパク質との親和性の調節と密接に関わっており,鉄や銅の細胞内外での代謝の鍵となる3).しかし二価陽イオンとして安定に存在する亜鉛の代謝においては,このような酸化還元反応を伴う調節機構は存在しない.多くの真核生物では,局在や発現量の異なる多様な亜鉛トランスポーターが直接,亜鉛代謝の制御を行っている.また特に哺乳類においては,亜鉛輸送を統括する亜鉛トランスポーターとして,ZNT/SLC30Aファミリー,およびZIP/SLC39Aファミリーが機能している.

ZNTファミリーは主に亜鉛の細胞外への排出,すなわち細胞質から細胞外または細胞内小器官内へと亜鉛を輸送するのに対して,ZIPファミリーはその逆向きとなる細胞質へと亜鉛を取り込む輸送活性を持つ1).両ファミリーの詳細な立体構造は不明であるが,いずれも原核生物のホモログタンパク質の結晶構造が決定されており,ZNTファミリーは6回膜貫通型,ZIPファミリーは8回膜貫通型のトランスポーターであることが明らかとなっている4, 5).また両ファミリーとも,亜鉛結合部位をその膜貫通領域内部に有しており,ZNTファミリーはプロトン(H)との交換によるアンチポーターとして,ZIPファミリーは重炭酸イオンとのシンポーターとして亜鉛イオンの輸送を行うと考えられている6, 7).ただし,ZIPファミリーの亜鉛輸送の様式については十分な情報が得られておらず,さらなる解析が必要な状況となっている8)

哺乳類では,9種のZNT(ZNT1~8,およびZNT10)と14種のZIP(ZIP1~14)が機能しており,それぞれ組織や発生段階,刺激に応じた発現制御が異なり,また細胞内での局在も大きく異なっている(図19).たとえばZNTファミリーでは,ZNT3は神経細胞のシナプス小胞膜に,ZNT8は膵島β細胞のインスリン顆粒膜に局在し,正常な神経伝達やインスリンの作用にそれぞれ機能することが知られる10, 11).またZIPファミリーにおいては,ZIP4が腸管上皮細胞におけるアピカル膜に局在し,食物からの亜鉛吸収をつかさどっており,亜鉛欠乏時に発現が強まることによって体内亜鉛量の調節に機能するなど,きわめて特徴的な役割を果たすことが知られている12, 13).また,これまでに樹立されたノックアウトマウスやラットにおける解析に加え,亜鉛トランスポーター遺伝子の変異が原因となる多数の先天性疾患の発見から,アミノ酸配列上類似したZNTやZIPファミリーにおいても,多くの場合その機能は重複することなく,それぞれが生体内でまったく異なる生理機能を果たすことがわかる1, 8).これら各々の亜鉛トランスポーターの詳細な生理機能については,現在,国内外で活発に研究が進められており,情報が刷新され続けている.これまでに多数の総説が存在するため,詳しくはそちらをご参照願いたい1, 8, 14, 15).以下の節では,亜鉛とタンパク質の相互作用という観点から,筆者らの研究グループが実施してきた,分泌経路に局在するZNTファミリーが介するエクト型亜鉛酵素の活性化機構に焦点を当て概説したい.

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図1 各亜鉛トランスポーターの細胞内での局在

各亜鉛トランスポーターの主たる細胞内局在部位を示した.実際には,多くの亜鉛トランスポーターが亜鉛濃度等の刺激に応じて発現量や局在部位を変化させることが知られる.矢印は亜鉛輸送の方向性を表す.シナプス小胞やインスリン顆粒には,特異的に局在するZNTの働きによって多量の亜鉛が蓄積される.

3. 金属酵素のメタレーション

潜在的に亜鉛と結合しうるタンパク質は非常に多く,全タンパク質の約10%が亜鉛との結合モチーフを有するという試算がなされている16, 17).その約3割は,およそ1000種類に上る酵素が占めており,さらにその約半数が活性中心に亜鉛を配位し,亜鉛依存的な活性を示す亜鉛酵素であり,Oxidoreductase(Class I),Transferase(Class II),Hydrolase(Class III),Lyase(Class IV),Isomerase(Class V),Ligase(Class VI)の6種いずれの分類にも存在する16, 17).この知見からも,亜鉛は酵素活性の制御という点できわめて重要な役割を果たすことが示唆される.

これまで亜鉛酵素に限らずすべての金属酵素では,翻訳後受動的に金属イオンを獲得し,活性化すると考えられていた.すなわち補因子に結合していないアポ酵素が安定に存在し,補因子の結合によってホロ酵素に変換され,活性化するというモデルである.しかし近年,鉄硫黄クラスターを持つ酵素を活性化するフラタキシン18, 19),細胞質に存在する鉄酵素に鉄を供給することで活性化に関わるとされるPCBP1/PCBP220, 21),エクト型銅酵素の活性化に必須となるATOX122, 23),細胞質のスーパーオキシドの解毒に機能するSOD1に銅を供給するCCS24),細胞質からミトコンドリア内膜にあるシトクロムc酸化酵素(CCO)へと銅を運搬するCOX1725, 26)図2)など,金属酵素の活性化に関わる介在分子(金属シャペロン)が次々と見いだされており,金属酵素における金属獲得様式がこれまでの理解よりも複雑で厳密であることが示唆されている.その一方で,鉄や銅と異なり,亜鉛酵素においては,いまだそのような分子は発見されていない.亜鉛酵素の数があまりにも多いことから,これまで亜鉛酵素の活性化過程においては,このような金属シャペロンは存在しないと考えられてきたが,最近,受動的な亜鉛の授受のみでは説明できない現象が多数見つかっており,この説には再考が必要となるかもしれない.

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図2 銅トランスポーターと銅シャペロンを介したエクト型銅酵素の活性化機構

細胞膜に局在する銅トランスポーターCTR1によって取り込まれた銅は,細胞内で主に3種類の銅シャペロンに受け渡される.細胞質の銅酵素SOD1に銅を受け渡すCCS, ミトコンドリア内膜のシトクロムc酸化酵素(CCO)に銅を供給するCOX17, エクト型銅酵素に銅を分配するために機能するATOX1である.ATOX1は,細胞質の銅を二つの銅トランスポーター,ATP7AおよびATP7Bに受け渡すが,エクト型銅酵素は,ATP7A, ATP7Bによってトランスゴルジネットワーク(TGN)内腔へと輸送された銅を獲得して,活性を示すホロ酵素へと変換される.

4. エクト型金属酵素の活性化に関わる輸送体

細胞外で機能する金属要求性のエクト型酵素は,生合成の過程で金属を獲得すると予想されている.すなわち,初期分泌経路での生合成過程で正しく金属を獲得した酵素だけが,正常に目的地へと運搬され機能的に働く.これらエクト型金属酵素には,疾患や生命活動に関わる重要な酵素がいくつも含まれる.エクト型金属酵素の活性化過程の詳細は,チロシナーゼやセルロプラスミンのような臨床でもよく知られる酵素が多数含まれる銅酵素において先行して明らかにされている(図227).エクト型銅酵素の活性化には,トランスゴルジネットワーク(TGN)に局在する銅トランスポーターATP7AとATP7Bの二つが重要な役割を果たしており,これらの銅トランスポーターの機能不全によって,エクト型銅酵素の活性は低下する28, 29).また筆者らの成果として次節に記すように,エクト型亜鉛酵素においては,骨代謝に重要な組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNAP)の活性化などに三つのZNT亜鉛トランスポーターZNT5, ZNT6, ZNT7が必須となる.これらの解析結果から,細胞質の金属イオンを初期分泌経路に送り込む金属輸送体は,エクト型金属酵素の活性化に必須の役割を果たすと考えられる.

また,エクト型酵素と同様に初期分泌経路で活性化される酵素として,主にゴルジ体で機能する多数のグリコシルトランスフェラーゼが知られる.これらはマンガン要求性のマンガン酵素であり,その活性化には,初期分泌経路にマンガンを送り込むとされるマンガン輸送体SPCA1やTMEM165が重要であることが示唆されているが,その詳細については今後さらなる検討が必要な状況にある30, 31).このように,初期分泌経路で活性化される金属酵素の成熟に不可欠となる金属輸送体は,さまざまな生体機能と関連することが予想され,今後の研究の進展が期待される.

5. ZNTトランスポーターを介したTNAPの活性化

TNAPの活性化に関わるZNT5, ZNT6, ZNT7のうち,ZNT7は他のZNTトランスポーター同様ホモ二量体(ZNT7複合体)で機能するが,ZNT5とZNT6はヘテロ二量体(ZNT5-ZNT6複合体)を形成することで,初めて機能的な亜鉛輸送体となる32, 33).これら二つのZNT複合体はユビキタスに発現し,ゴルジ体や小胞体などの初期分泌経路に局在している1).ニワトリBリンパ球由来DT40細胞において,これら三つのZNTを欠損させる(znt5znt6−/−znt7−/−細胞)と,TNAPの活性は完全に消失する(図3A32, 34, 35).また興味深いことに,znt5znt6−/−znt7−/−細胞株においては,TNAPは活性を失うだけでなく,タンパク質自体が不安定化しており,翻訳後速やかに分解される.このTNAPタンパク質の不安定化は,亜鉛輸送能を消失させたZNT複合体の発現によっても回避されることから,ZNT複合体には亜鉛を小胞内へと輸送する働きだけでなく,TNAPなどのエクト型亜鉛酵素の安定化にも関与していることが示唆される35).すなわち,これらのZNT複合体は単に初期分泌経路内の亜鉛濃度を上昇させることでTNAPに亜鉛を供給し活性化しているのではなく,まずTNAPを構造的に安定化し,その後に亜鉛を配位(メタレーション)させるという二段階の機構によってTNAPを活性化していると予想された(2-step活性化機構)(図4).また,どちらかのZNT複合体があればTNAPの活性化は可能であることから,ZNT5-ZNT6複合体とZNT7複合体のTNAP活性化の機能は相補的であると考えられる.このような金属トランスポーターによるアポ型の金属酵素の安定化機構の存在は,上述した金属シャペロンを介した金属酵素の活性制御機構に加えて,さらに巧妙な制御機構が備わっていることを示唆している.このような現象はこれまでに解析が進展している亜鉛以外の他のエクト型金属酵素においては見いだされておらず,まったく新しいモデルとして興味深い(図4).

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図3 DT40細胞各遺伝子欠損株におけるTNAP活性の変化

ZNT5, ZNT6, ZNT7を欠損させた細胞(znt5znt6−/−znt7−/−細胞)では,TNAP活性は完全に消失し,ヒトZNT5とZNT6, あるいはZNT7の再発現により活性が回復する(A).ZNT1, メタロチオネイン(MT),ZNT4をすべて欠損(znt1−/−mt−/−znt4−/−細胞)させるとTNAP活性は著しく低下し(B),この株に各遺伝子を再発現させると活性は回復する(C).各欠損株の培養時に過剰な亜鉛を添加すると,znt5znt6−/−znt7−/−細胞ではTNAP活性は回復しないが,znt1−/−mt−/−znt4−/−細胞では回復が認められる(D).文献33, 35, 43を改変.

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図4 エクト型亜鉛酵素の活性化に関与する分子群

TNAPなどのエクト型亜鉛酵素は,ZNT5-ZNT6複合体およびZNT7複合体によって細胞質から初期分泌経路内腔に輸送された亜鉛により活性化される.この活性化過程は,安定化とメタレーションの2段階に区別でき,ZNT5とZNT7に存在するPPモチーフが重要な役割を果たすと考えられる.なお,ZNT6は亜鉛輸送活性を持たず,ZNT5の輸送活性を補助する役割を担う.また細胞質からZNT5-ZNT6複合体およびZNT7複合体への亜鉛の分配機構については未解明であるが,ZNT1, MT, ZNT4による細胞質内の亜鉛代謝が破綻すると,この受け渡しが滞ることがわかっている.このような事実から,亜鉛代謝と両ZNT複合体による亜鉛輸送を結ぶ,未同定の亜鉛シャペロン分子が存在するのかもしれない.

TNAPの活性化は二つのZNT複合体のいずれかの発現が不可欠であり,それ以外のZNTトランスポーターでは決して活性化されない.では,二つのZNT複合体はどのようにしてTNAPを特異的に活性化しているのであろうか? この理由についてはまだ明らかとなっていないが,ZNT5およびZNT7において保存された二つのプロリン(P)が連続したモチーフ(PPモチーフ)の関与が示唆される36).このPPモチーフをアラニン変異(PP→AA)させると,ZNTの亜鉛輸送能には影響を与えないにも関わらず,エクト型亜鉛酵素の活性化は阻害される.さらにこの配列はZNT5およびZNT7の初期分泌経路内腔側,すなわちエクト型亜鉛酵素の活性化が起こる側に位置する(図4).このことから,PPモチーフがそれぞれのZNT複合体とエクト型亜鉛酵素との直接の相互作用に関与する可能性も示唆されるが,具体的な役割はまだ明らかにされておらず,今後の詳細な解析による活性化機構の解明が待たれる.

6. TNAP以外のエクト型亜鉛酵素の活性化

エクト型亜鉛酵素には,前述の骨代謝等に関与するTNAPをはじめ,血圧調節に機能するアンジオテンシン変換酵素(ACE)など,さまざまな疾患に関与する酵素が数多く含まれる37, 38).これらの酵素群が一様にZNT5-ZNT6複合体とZNT7複合体を介した活性化を受けるとすれば,両ZNT複合体はエクト型亜鉛酵素を介して多様な生理作用を発揮していることになる.実際,腫瘍の悪性化に関わる三つのエクト型亜鉛酵素,オートタキシン(ATX),カルボニックアンヒドラーゼIX(CAIX),マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の活性化は,部分的または完全に両ZNT複合体に依存する39).この結果は,両ZNT複合体が,これら三つの酵素の活性調節を介して腫瘍の悪性化に寄与していることを示唆している.これまで抗悪性腫瘍薬の標的分子としてATX, CAIX, MMP9に焦点が当てられてきたが40–42),活性中心に配位する亜鉛をキレートするという観点からみると,両ZNT複合体も新たな標的分子としての有用性を秘めていると考えられる.

また興味深いことに,CAIXの活性化には,両複合体に加え,TGNやエンドソームなどに局在するZNT4複合体も関与しており,TNAPとは異なるエクト型亜鉛酵素の活性制御機構も存在することが明らかとなっている39).今後,この新規活性化機構についても詳細を明らかにしたい.

7. エクト型亜鉛酵素の活性化に関わる分子群

初期分泌経路内へと亜鉛を輸送するためには,(1)細胞外から細胞質への輸送,(2)細胞質から分泌経路内への輸送,という二段階の亜鉛の膜輸送が必要である.このことから,TNAPなどのエクト型亜鉛酵素の活性化において必須となる分子は,初期分泌経路に局在するZNT5-ZNT6複合体およびZNT7複合体だけではなく,細胞質へと亜鉛を取り込むZIPトランスポーターや,細胞質で適切に亜鉛を運搬・分配する分子ネットワークが,きわめて重要な機能を果たすと考えられる37).筆者らは,多数の亜鉛代謝関連分子欠損株を解析する過程で,細胞膜に局在し亜鉛の排出に関わるZNT1,細胞質での亜鉛の貯蔵に機能するメタロチオネイン(MT),さらにTGNやエンドソームへ亜鉛を封入することで亜鉛毒性の解毒に関与するZNT4(上述)(図4),という三つの亜鉛代謝分子を欠損した細胞株(znt1−/−mt−/−znt4−/−)では,細胞質内の亜鉛レベルが増加し,かつ両ZNT複合体が機能的であるにも関わらず,TNAPの活性が劇的に低下することを明らかにしている(図3B, C43).さらに,znt1−/−mt−/−znt4−/−細胞に過剰な亜鉛を添加することにより,低下したTNAP活性は回復する(図3D)ことから,この細胞では,細胞質の亜鉛が二つのZNT複合体に適切に受け渡されていない可能性が考えられた.この結果は,エクト型亜鉛酵素の活性化には初期分泌経路のみでなく,細胞質での正常な亜鉛ホメオスタシスの維持が肝要であることを示唆している.エクト型金属酵素の活性化において,このような細胞質の金属ホメオスタシスが重要となる例はすでに銅において明らかにされている.細胞質の銅シャペロンATOX1は,細胞質の銅をTGNに局在するATP7AとATP7Bに適切に受け渡す機能を果たしており(図2),ATOX1欠損株においては,細胞質内の銅レベルが上昇しているにも関わらず,ATP7AとATP7Bに銅が円滑に受け渡されず,エクト型銅酵素の活性は低下する22, 23).また,ATOX1欠損株に過剰な銅を添加することにより,低下したエクト型銅酵素の活性は回復する.このATOX1欠損で認められる表現型は,ZNT1, MT, ZNT4の欠損で引き起こされる表現型と類似していることから,znt1−/−mt−/−znt4−/−細胞においては,細胞質の亜鉛を二つのZNT複合体に受け渡す分子,すなわち亜鉛シャペロンと想定される分子の機能低下が起こっているのかもしれない(図4).

8. おわりに

本稿では,ZNT複合体によるエクト型亜鉛酵素の活性化に焦点を当て,今後の展望や仮説を含めて概説した.エクト型亜鉛酵素が関わる生体内の代謝においては,ZNT複合体による巧妙な制御が非常に重要であるため,破綻すると多数の酵素の不活性化による広範な影響が現れることが予想される.今後は,このようなZNTトランスポーターを介した包括的な代謝制御,すなわち“ZNT-ome(ジントーム)”や,さらには広く亜鉛の支配する“Zinc-ome(ジンクオーム)”と呼称できる新しい研究が発展していくと思われる.亜鉛の機能が複雑多岐にわたるため,その生理的意義を解明するにはさらに膨大な時間を要するのは間違いないが,近年の亜鉛研究の発展は目覚ましく,今後も他分野との融合を経てさらに進展することが大いに期待される.

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著者紹介Author Profile

武田 貴成(たけだ たかあき)

京都大学大学院生命科学研究科博士課程学生,日本学術振興会特別研究員(DC1).修士(生命科学).

略歴

1992年京都府に生る.2015年京都工芸繊維大学卒業(農学).17年京都大学大学院生命科学研究科修士課程修了(生命科学).現在,同博士課程に在学中.

研究テーマと抱負

現在は亜鉛酵素と生体機能との関連について研究を進めている.何事にも胆力を持って臨みたい.

趣味

テニス,ランニング,読書,旅行.

神戸 大朋(かんべ たいほ)

京都大学大学院生命科学研究科准教授.博士(農学).

略歴

1971年神奈川県に生る.95年京都大学農学部卒業.98年京都大学大学院農学研究科助手.99年京都大学大学院生命科学研究科助手.2006年ミズーリ大学博士研究員.07年カンザス大学博士研究員.08年より現職.

研究テーマと抱負

亜鉛トランスポーターが司る生理機能の解明や,病態との関わりとその分子機序について研究している.亜鉛を始めとした必須微量金属の生体調節機能を分子レベルで明らかにしていきたいと考えている.

ウェブサイト

http://www.seitaijoho.lif.kyoto-u.ac.jp

趣味

スポーツ観戦,御朱印収集.

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