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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 399-402 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900399

みにれびゅうMini Review

グルコセレブロシダーゼによるステリルグルコシドの代謝制御機構Regulatory mechanism of sterylglucoside metabolism by glucocerebrosidase

理化学研究所・脳神経科学研究センター・神経細胞動態研究チーム,理化学研究所・佐甲細胞情報研究室Laboratory for Neural Cell Dynamics, Center for Brain Science, RIKEN, Cellular Informatics Laboratory, RIKEN ◇ 〒351–0198 埼玉県和光市広沢2–1 ◇ 2–1, Hirosawa, Wako, Saitama 351–0198, Japan

発行日:2018年6月25日Published: June 25, 2018
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1. はじめに

脊椎動物の脳内には,グルコシルセラミド(GlcCer)以外に,ホスファチジン酸,ステロールがグルコース修飾された糖脂質,ホスファチジルグルコシドとステリルグルコシド(SG)が微量成分として存在する.これら三つのグルコース化脂質は進化的に保存されており,普遍的に重要な生物機能に関わることが想像される.脂質のグルコース化は,元の脂質の物性に大きな変化を与えるとともに,多様な生理機能の獲得に貢献している.

筆者らは,脊椎動物におけるSG合成経路について研究を進め,GlcCer分解酵素であるグルコセレブロシダーゼによってSGが合成されることを明らかにしてきた.最近筆者らは,脊椎動物の脳では複数のSGが一群をなして存在し,ステロール骨格に多様性があることを見いだした.本稿では,SGの代謝経路や疾患との関わり,脊椎動物の脳での存在について紹介する.

2. SGとその合成経路

SGはステロールにグルコースが結合した糖化ステロールであり,細菌,菌類,藻類,植物,脊椎動物で報告されている1).脊椎動物ではコレステロールが主要なステロール成分であるためコレステリルグルコシド(GlcChol,図1)が存在する.

Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 399-402 (2018)

図1 脊椎動物におけるグルコセレブロシダーゼを介したステリルグルコシド代謝

グルコースを介したステロールとスフィンゴ脂質の代謝クロストークによってコレステリルグルコシドが合成される.

植物や菌類,細菌では,UDP-グルコースからステロールへグルコースを転移する酵素がSG合成酵素として同定されている.脊椎動物においても同様の酵素がGlcChol合成を担うと考えられたが,脊椎動物においてこの酵素に相同性の高い配列を持つ遺伝子は存在しなかった.最近筆者らは,脊椎動物ではUDP-グルコースではなくGlcCerのグルコースがコレステロールに転移されてGlcCholが合成されることを見いだし,in vitroではその反応が酸性グルコセレブロシダーゼ(GBA1)の糖転移活性によって触媒されるという意外な発見をした2).さらに最近,Marquesらによって中性グルコセレブロシダーゼ(GBA2)もin vitroでGlcCholを合成することが報告された.また,GBA1とGBA2はin vitroでGlcCholの合成活性だけでなく分解活性も有することが明らかになった.GBA1またはGBA2機能不全マウスを用いた解析より,生体内ではGBA2が主にGlcChol合成を担い,GBA1はGlcChol分解を担うことが明らかになった3)図1).

グルコセレブロシダーゼによる糖転移は,水の豊富な細胞内ではきわめて起こりにくい反応であると考えられ,in vivoで証明された例はない.In vitroでは,疎水的かつグルコースのアクセプターが多量に存在する環境下において,グルコセレブロシダーゼによる糖転移が起こることが明らかになっている.我々は,GlcCerとコレステロールに富んだ脂質ラフトと呼ばれる疎水性のマイクロドメイン画分でGlcChol合成活性を検出しており,in vivoでは脂質ラフトなどの特殊な膜環境下でGlcChol合成が起こるのではないかと予想している.

3. SG代謝を担うグルコセレブロシダーゼ

GlcCerは,セラミドとグルコース間のβ-グリコシド結合がグルコセレブロシダーゼによって切断されて分解される.哺乳類では,GBA1とGBA2に加えて,細胞質に局在するGBA3と小腸の細胞膜に局在するラクターゼフロリジンヒドラーゼ(LPH)の4種類が同定されており,GBA1とGBA2がSG代謝に関与する(表1).

表1 哺乳類で同定された4種類のグルコセレブロシダーゼ
GBA1GBA2GBA3LPH
至適pH5.0~6.05.5~6.56.0~7.05.0~6.0
局在リソソーム,細胞膜小胞体・ゴルジ体の細胞質側表面細胞質小腸の細胞膜
阻害剤AMP-DGJ, AMP-DNJ, CBE, NB-DGJ, NB-DNJAMP-DGJ, AMP-DNJ, CBE, NB-DGJ, NB-DNJanDIX, CBE非感受性CBE, DGJ, DNJ
糖脂質基質特異性GlcCer, GlcCholGlcCer, GlcCholGlcCer, GalCer, GlcSph, GalSphGlcCer, GalCer, GlcSph, GalSph, LacCer
関連疾患ゴーシェ病,パーキンソン病常染色体劣性小脳失調,遺伝性痙性対麻痺,マリネスコ・シェーグレン症候群不明乳糖不耐症
AMP-DGJ:N-(5-adamantane-1-yl-methoxy-pentyl)-deoxygalactonojirimycin, AMP-DNJ (AMP-DNM) : N-(5-adamantane-1-yl-methoxy-pentyl)-deoxynojirimycin, anDIX:α-1-C-nonyl-DIX, CBE:conduritol B epoxide, DGJ:deoxygalactonojirimycin, DNJ:deoxynojirimycin, NB-DGJ:N-butyldeoxygalactonojirimycin, NB-DNJ:N-butyldeoxynojirimycin, GlcCer:グルコシルセラミド,GalCer:ガラクトシルセラミド,GlcChol:コレステリルグルコシド,GlcSph:グルコシルスフィンゴシン,GalSph:ガラクトシルスフィンゴシン,LacCer:ラクトシルセラミド.

哺乳類では,GlcCerの分解は主にGBA1によってリソソームで行われる.GBA1遺伝子のホモ接合体変異は,リソソーム病を代表するゴーシェ病を引き起こす.ゴーシェ病は,GlcCerが主にマクロファージのリソソームに蓄積し,肝臓・脾臓の肥大,貧血,骨脆弱,神経障害などが引き起こされる.最近,日本を含めた大規模な国際共同研究により,GBA1遺伝子のヘテロ接合体変異がオッズ比5.4の強力なパーキンソン病リスク因子であることが明らかになった4).GBA1遺伝子のヘテロ接合体変異がパーキンソン病を引き起こすメカニズムについては,この10年間で数百もの論文が発表されており,変異型GBA1が毒性を発揮するgain-of-function説とGBA1の酵素活性の低下によるloss-of-function説が提唱されているが,双方の仮説においていまだ明確な証拠は得られておらず一定の結論に至っていない.

GBA2は,小胞体やゴルジ体の細胞質側の膜に局在する中性グルコセレブロシダーゼである.GBA2ノックアウトマウスでは,精巣,脳,肝臓にGlcCerが蓄積し,雄性生殖能力障害および肝臓再生の遅延を引き起こす.GBA2ノックアウトマウスは神経症状や運動失調を示さないが,それらの症状を呈する常染色体劣性小脳失調や遺伝性痙性対麻痺,マリネスコ・シェーグレン症候群の患者がGBA2遺伝子変異を持つことが最近報告された5).また,メラノーマ細胞でGBA2活性を誘導すると,GlcCer分解によってセラミドが増加し,小胞体ストレスを介したアポトーシスが誘導されることが報告されている6)

GBA1とGBA2の相互作用についてはほとんどわかっていない.最近,ゴーシェ病モデルマウスでGBA2を欠損させると,GlcCer蓄積は増加するにもかかわらず臨床症状が改善するという興味深い報告がなされた7).また,ゴーシェ病患者由来細胞ではスフィンゴシンが蓄積し,スフィンゴシンがGBA2に結合してGBA2の活性を抑制することが報告されている8).GBA1とGBA2の間にはGlcCerのみでは説明できない相互作用があることが予想され,今後も詳細な解析が必要である.

4. 新規脳内SG群の発見

GlcCholの代謝を担うGBA1およびGBA2は神経変性疾患に関与するが,脳でのGlcCholの存在は未報告であったため,筆者らは脳由来GlcCholの精製および構造決定を試みた.ニワトリ胎仔の脳を出発材料とし,多段階のクロマトグラフィーを駆使してGlcCholの精製を行った.今日に至るまで,脊椎動物のSGのステロール成分はコレステロールのみで構成され,GlcCholしか存在しないと考えられてきたが,GlcCholの精製過程において意外にもGlcCholの他に二つのSGが単離された.構造解析の結果,単離された二つのSGは植物ステロールであるカンペステロールに類似したステロール成分を持つSG,ならびにシトステロールを持つシトステリルグルコシド(GlcSito)であることが明らかになり,脳内にはGlcCholと構造が類似した一群のSGが存在することが判明した.また,一群のSGはニワトリにおいて胎生期を通して脳で発現していることが明らかになった9).ステロール代謝経路はすでに調べつくされた感があるが,脳内では報告例のない中間経路,もしくは新規の代謝経路が存在する可能性が浮上した.

5. SGと疾患

グルコセレブロシダーゼによるSG代謝と疾患との関連はほとんど明らかになっていない.最近Marquesらは,GlcCholがゴーシェ病モデルマウスの肝臓,脾臓,骨髄で増加し,レンチウイルス遺伝子治療によるGBA1欠損の改善によって,増加したGlcCholが減少することを報告した.GlcCholはゴーシェ病の患者およびモデルマウスの血漿においても増加し,疾患治療に用いられているGlcCer合成酵素阻害剤の投与によってGlcChol増加が抑制された.また同グループは,コレステロールがリソソームに蓄積するリソソーム病であるニーマン・ピック病C型(NPC)のモデルマウスでは,肝臓においてGlcCholが野生型の25倍増加することや,NPC患者の血漿でGlcCholが増加することを報告した.リソソームでのコレステロール蓄積を引き起こす薬剤U18666Aで処理した細胞においてGlcCholが増加し,GlcChol増加はGBA1阻害剤共存在下では観察されなかったことから,NPCなどのリソソームのコレステロール濃度が高い条件では,GBA1はGlcCholの分解よりも合成を担うと考えられる3)

植物由来SGであるGlcSitoは神経毒性を示し,筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合を含む神経変性疾患の発症に関与する可能性が報告されている10).筆者らは,ニワトリ胎仔脳で見いだしたGlcSitoがマウスやラット,ヒトの脳でも発現していることを確認している(未発表).脳に存在する神経毒性を有するGlcSitoが食餌由来であるか,あるいは体内でde novo合成されたものであるかを今後検証する必要がある.

6. おわりに

ステロールとスフィンゴ脂質はともに生体膜機能に必須であり,代謝調節機構が詳細に研究されてきたにもかかわらず,両者がどのように相互作用しているかは不明であった.SG代謝経路はステロール代謝とスフィンゴ脂質代謝を結びつけるものであり,複雑な脂質代謝を理解するための新しい分子基盤が創出されると期待している.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した筆者ら研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:26860199, 16K14687),小野医学研究財団などの支援を受けて行われた.

引用文献References

1) Grille, S., Zaslawski, A., Thiele, S., Plat, J., & Warnecke, D. (2010) The functions of steryl glycosides come to those who wait:Recent advances in plants, fungi, bacteria and animals Prog. Lipid Res., 49, 262–288.

2) Akiyama, H., Kobayashi, S., Hirabayashi, Y., & Murakami-Murofushi, K. (2013) Cholesterol glucosylation is catalyzed by transglucosylation reaction of β-glucosidase 1 Biochem. Biophys. Res. Commun., 441, 838–843.

3) Marques, A.R., Mirzaian, M., Akiyama, H., Wisse, P., Ferraz, M.J., Gaspar, P., Ghauharali-van der Vlugt, K., Meijer, R., Giraldo, P., Alfonso, P., et al. (2016) Glucosylated cholesterol in mammalian cells and tissues:formation and degradation by multiple cellular beta-glucosidases J. Lipid Res., 57, 451–463.

4) Sidransky, E., Nalls, M.A., Aasly, J.O., Aharon-Peretz, J., Annesi, G., Barbosa, E.R., Bar-Shira, A., Berg, D., Bras, J., Brice, A., et al. (2009) Multicenter analysis of glucocerebrosidase mutations in Parkinson’s disease N. Engl. J. Med., 361, 1651–1661.

5) Woeste, M.A. & Wachten, D. (2017) The Enigmatic Role of GBA2 in Controlling Locomotor Function Front. Mol. Neurosci., 10, 386.

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7) Mistry, P.K., Liu, J., Sun, L., Chuang, W.L., Yuen, T., Yang, R., Lu, P., Zhang, K., Li, J., Keutzer, J., et al. (2014) Glucocerebrosidase 2 gene deletion rescues type 1 Gaucher disease Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 4934–4939.

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9) Akiyama, H., Nakajima, K., Itoh, Y., Sayano, T., Ohashi, Y., Yamaguchi, Y., Greimel, P., & Hirabayashi, Y. (2016) Aglycon diversity of brain sterylglucosides:structure determination of cholesteryl- and sitosterylglucoside J. Lipid Res., 57, 2061–2072.

10) Van Kampen, J.M. & Robertson, H.A. (2017) The BSSG rat model of Parkinson’s disease:progressing towards a valid, predictive model of disease EPMA J., 8, 261–271.

著者紹介Author Profile

秋山 央子(あきやま ひさこ)

理化学研究所脳神経科学研究センター神経細胞動態研究チーム研究員.博士(理学).

略歴

2006年お茶の水女子大学理学部卒業.11年同大学院人間文化創成科学研究科博士課程修了.11~13年お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科リサーチフェロー.13~16年理化学研究所脳科学総合研究センター神経膜機能研究チーム基礎科学特別研究員.16~18年理化学研究所脳科学総合研究センター神経膜機能研究チーム研究員.18年より現職.

研究テーマと抱負

グルコセレブロシダーゼによるステリルグリコシド代謝に注目し,グルコセレブロシダーゼの遺伝子変異や機能低下が危険因子となる疾患の発症制御メカニズムを明らかにしていきたい.

趣味

合唱.

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