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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 403-407 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900403

みにれびゅうMini Review

ユビキチンリガーゼUBR5を介したがん細胞の薬剤抵抗性獲得機構Ubiquitin ligase UBR5 regulates chemotherapeutic resistance in cancer

Department of Pharmacology and Cancer Biology, Duke University Medical CenterDepartment of Pharmacology and Cancer Biology, Duke University Medical Center ◇ C364 LSRC, 308 Research Drive, Box 3813, Durham, North Carolina, 27710, USA ◇ C364 LSRC, 308 Research Drive, Box 3813, Durham, North Carolina, 27710, USA

発行日:2018年6月25日Published: June 25, 2018
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1. はじめに

タンパク質の量的・質的制御において,ユビキチン化修飾は多岐にわたる生命現象に関与している.E1, E2酵素によるユビキチンの活性化とE3リガーゼによる標的タンパク質へのユビキチンの付加という一連の反応において,E3リガーゼによる標的タンパク質の特異的認識は,ユビキチン化による分解・局在・活性などの厳密な制御のために特に重要な段階である.UBR5はC末端にHECT(homologous to E6-AP carboxyl terminus)ドメインを有する2799アミノ酸からなる巨大なユビキチンリガーゼであり,細胞周期,アポトーシス,遺伝子転写,栄養代謝など細胞の増殖や恒常性維持を制御している.本稿では,UBR5の機能とがんとの関連を中心に,著者らの最近の研究内容も含めて紹介したい.

2. UBR5のユビキチンリガーゼ活性制御と分子機構(図1参照)

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図1 UBR5標的タンパク質とその機能

UBR5標的タンパク質の主な機能についてはそれぞれに注記した.UBR5はDDB1, VprBP, Dyrk2とEDVP複合体を形成し,複合体型ユビキチンリガーゼとして機能する場合がある.RNF168のユビキチン化はUBR5とTRIP12が協調して働く.ATMINのユビキチン化は非分解型のユビキチン化,それ以外は分解型のユビキチン化である.また,UBR5の自己ユビキチン化は脱ユビキチン化酵素DUBAによって除去されるが,UBR5はDUBAをユビキチン化・分解するフィードバック機構が存在する.

1)複合体型ユビキチンリガーゼ-EDVP複合体

UBR5はDyrk2, VprBP, DDB1と複合体を形成し,EDVP複合体と呼ばれる新規の複合体型ユビキチンリガーゼとして機能することが報告されている1).これまでにEDVP複合体によるユビキチン化の標的タンパク質としてKatanin, CDK9, TERTなどが報告された1–3).一方で,UBR5は単独でも標的タンパク質のユビキチン化に十分な場合もあり,UBR5によるユビキチン化反応すべてにEDVP複合体が関与しているわけではない.

2)脱ユビキチン化酵素DUBAによるUBR5の安定化

UBR5は脱ユビキチン化酵素DUBAによる制御を受けることが最近報告された4).T細胞においては,DUBAは恒常的にUBR5を脱ユビキチン化し,UBR5の自己ユビキチン化による分解を抑制する.一方で,UBR5はDUBAをユビキチン化・分解するというフィードバック制御機構が働いている.この制御機構は卵巣がん細胞などでも機能していることが確認されており(著者ら未発表データ),後述するUBR5のがん細胞における役割や,がん細胞の薬剤抵抗性にDUBAが関与しているのか,興味深い点である.

3. がん組織におけるUBR5遺伝子の変異

これまでに,卵巣がん,乳がんなどにおいて,UBR5遺伝子の増幅による発現量の増加が報告されている5, 6).特に卵巣がんにおいては,UBR5発現量が多い場合には患者の予後は不良であり,がんの再発率とも相関がある5).乳がんでは,UBR5はがん細胞の増殖と転移に必須の役割を果たすことが最近明らかとなった6).一方で,悪性リンパ腫では,HECTドメインの配列変化によってユビキチンリガーゼ活性を欠失するような変異が多い7).このようなUBR5の発現量や変異の違いが,それぞれのがんにおいてどのような役割を担っているか理解することは非常に重要であると考えられる.

4. UBR5のユビキチン化標的タンパク質とがん細胞における役割(図1参照)

1)DNA損傷応答におけるUBR5の役割

DNA損傷応答とそれに続くDNA修復の破綻は,DNA配列の変異による遺伝子の発現異常やタンパク質の機能欠失・亢進を引き起こし,細胞のがん化の主な要因となる.これまでに,UBR5がDNA損傷応答に関与する例が複数報告されている8–10).UBR5はDNA損傷応答の主要因子であるATMとその下流のCHK2の活性化に関与しており,DNA損傷後の細胞周期停止などに必要である8).近年,ATMとの直接相互作用によって活性化を抑制しているATMINがUBR5により非分解型のユビキチン化を受け,ATMとの結合が減弱することでDNA損傷応答におけるATMの活性化を促進することが明らかとなった9).また,DNA損傷応答においては,ユビキチンリガーゼRNF168による損傷周辺のヒストンのユビキチン化が必須であるが,UBR5はTRIP12と協調してクロマチンにおけるRNF168の量を調節することが報告された10).UBR5はこれらの標的タンパク質のユビキチン化により,DNA損傷応答関連因子の適切なタイミングでの活性化を制御している.

2)糖新生経路代謝酵素PEPCK1のUBR5による分解

PEPCK1はミトコンドリアでの代謝経路,TCA回路の代謝物であるオキサロ酢酸を解糖系に戻す糖新生反応を担う代謝酵素である.細胞内グルコース量に応答したPEPCK1のアセチル化修飾は,UBR5によるユビキチン化・分解を誘導することが報告された11).多くのがん細胞においては,グルコースはTCA回路を介さずに主に解糖系によって代謝されるため,がん細胞でのUBR5遺伝子の変異はPEPCK1を介してこの現象に寄与している可能性が考えられる.また,UBR5とPEPCK1との結合がアセチル化修飾によって制御されるという,UBR5と標的タンパク質の新たな結合様式を明らかにした点でも興味深い報告である.

3)ヒトパピローマウイルスE6によるUBR5を介したTIP60の分解

ヒトパピローマウイルスの感染後,ウイルス性タンパク質E6は宿主のがん抑制因子TIP60の減少を誘導するが,これがUBR5によるユビキチン化・分解に依存していることが明らかにされた12).子宮頸がん細胞を用いたマウスへの皮下移植実験においては,UBR5の発現抑制により腫瘍形成能は著しく低下し,UBR5ががん細胞の増殖に不可欠であることが示された.また,TIP60のがん抑制作用は非常に強く,子宮頸がん以外のがん細胞においても同様の制御機構が存在しているか,さらなる研究の進展が望まれる.

5. UBR5によるアポトーシス促進因子MOAP-1の制御とがんの薬剤抵抗性(図2参照)

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図2 卵巣がんにおけるMOAP-1のUBR5依存的ユビキチン化・分解とシスプラチン抵抗性との関係

(a)シスプラチン感受性の卵巣がん細胞では,UBR5とDyrk2の発現量は低く,シスプラチンによりMOAP-1の蓄積とBaxの活性化が促進され,アポトーシスが生じる.(b)シスプラチン抵抗性の卵巣がん細胞では,UBR5とDyrk2の発現が亢進している.結果としてMOAP-1のユビキチン化・分解により,MOAP-1の発現量は低く保たれており,シスプラチンによるBaxの活性化とアポトーシスが抑制され,シスプラチンへの抵抗性が生じる.(c)シスプラチン抵抗性がん細胞においてUBR5をノックダウンすると,MOAP-1の蓄積によるBaxの活性化とアポトーシスによる細胞死により,シスプラチンへの感受性を増大させることができる.

これまでに述べたDNA損傷応答,糖代謝,がん抑制関連因子の機能異常の他,アポトーシスへの抵抗性はがん細胞でよくみられる性質であり,細胞増殖や化学療法剤抵抗性を促進する13).著者らはアポトーシス促進因子であるMOAP-1(modulator of apoptosis 1)がUBR5によるユビキチン化と分解を受けることを見いだした14).この制御機構は卵巣がん細胞におけるシスプラチン抵抗性にも関与しており,UBR5の発現量や活性をコントロールすることは効果的な治療に貢献できると考えられる.

1)MOAP-1を標的とするユビキチンリガーゼUBR5の同定

著者らは,内因性刺激によるアポトーシスに必須なBaxの活性化を促進するMOAP-1の制御因子を探索したところ,HEK293T細胞においてUBR5がMOAP-1と結合することを見いだした.UBR5のノックダウンはMOAP-1を増加させ,半減期の顕著な延長をもたらしたことから,UBR5がMOAP-1のユビキチンリガーゼである可能性が考えられた.この予想に一致して,UBR5のノックダウンはMOAP-1のユビキチン化を抑制し,試験管内においてもUBR5リコンビナントタンパク質がMOAP-1をユビキチン化したことから,UBR5がMOAP-1を標的とするユビキチンリガーゼであることが明らかとなった.

また,MOAP-1の免疫沈降複合体には,前述したEDVP複合体の構成因子であるDDB1, Dyrk2, VprBPが含まれていた.そこで,in vitroユビキチン化再構成反応において,これらのリコンビナントタンパク質を加えたところ,UBR5によるMOAP-1のユビキチン化反応が促進した.UBR5のノックダウンでみられたような著しい効果ではないが,Dyrk2のノックダウンによってもユビキチン化MOAP-1の減少,半減期の延長が確認された.これらの違いは,Dyrk2ノックダウン時には,UBR5がEDVP複合体非依存的にMOAP-1のユビキチン化に寄与しているためと考えられる.in vitroではUBR5リコンビナントタンパク質単独でMOAP-1をユビキチン化可能であることから,MOAP-1のユビキチン化においては,EDVP複合体としてのUBR5の機能は補助的であると推測される.

2)卵巣がんのシスプラチン抵抗性におけるUBR5とMOAP-1の関与

卵巣がん治療では,シスプラチンに抵抗性を持つがん細胞の出現がしばしば問題となる.そこで,卵巣がん由来細胞株を用い,UBR5によるMOAP-1の制御機構が細胞死に与える影響について検討した.卵巣がん由来のA2780細胞においてUBR5をノックダウンしたところ,シスプラチンによるBax活性化は促進し,アポトーシスは増加した.これらの変化はUBR5とMOAP-1をともにノックダウンした際にはみられなくなったことから,UBR5のMOAP-1制御機構が卵巣がん細胞においてMOAP-1によるBax活性化とアポトーシスに関与していることがわかった.

また,シスプラチン存在下での長期培養から得られたシスプラチン抵抗性株A2780CIS細胞を用いたところ,シスプラチン処理後にA2780細胞でみられるMOAP-1の蓄積はA2780CIS細胞では著しく抑制されていた.また,A2780細胞と同様にシスプラチン抵抗性株が利用可能なTyknu細胞においても同様の傾向がみられた.さらに,これらのシスプラチン抵抗性株においてUBR5をノックダウンしたところ,MOAP-1は増加し,シスプラチンによるアポトーシスは感受性株と同程度までに増加した.感受性細胞におけるシスプラチン処理後のMOAP-1の蓄積はUBR5の活性低下に起因すると考えられるが,がん細胞がシスプラチン抵抗性を獲得する段階で,この制御機構の破綻が生じたと推測される.

続いて,シスプラチン治療によってがんの縮小効果がみられたシスプラチン感受性の卵巣がん患者と,シスプラチン抵抗性の卵巣がん患者の各がん組織における両因子の量を比較したところ,シスプラチン抵抗性がん組織では,シスプラチン感受性がん組織と比べてUBR5が有意に増加しており,一方でMOAP-1は減少している傾向がみられた.また,シスプラチン抵抗性の卵巣がん組織ではDyrk2の増加もみられ,EDVP複合体としてのUBR5の活性亢進が生じていると考えられる.これらの結果から,培養細胞だけでなく患者のがん組織においても,UBR5によるMOAP-1の制御が卵巣がんのシスプラチン抵抗性に関与することが示唆された.

3)MOAP-1, UBR5の量的調節についての分子機構

複数のユビキチンリガーゼが同一のタンパク質を標的とする例は数多く報告されており,たとえばp53はMDM2やHUWE1, E6-AP, TRIM39など複数のユビキチンリガーゼの標的となっている.著者らはMOAP-1が細胞周期制御に関わるユビキチンリガーゼAPC/CCdh1複合体によってもユビキチン化・分解を受けることを以前に報告した15).APC/CCdh1は細胞周期のM期からG1期において,そしてUBR5はS期後期からG2期においてMOAP-1の分解に関わっており,これらの異なるユビキチンリガーゼの働きによって,MOAP-1の細胞内レベルが低く保たれ,正常細胞では不必要なアポトーシスを抑制していると考えられる.一方で,シスプラチン抵抗性の卵巣がん組織ではCdh1の増加も観察され,卵巣がん細胞においては,これらのユビキチンリガーゼの過剰な機能亢進がMOAP-1分解促進とシスプラチン抵抗性に寄与していることが著者らの解析によりわかった.また,シスプラチン抵抗性の卵巣がん細胞においてUBR5の発現を抑制することでシスプラチン感受性を再獲得できることもわかり,化学療法剤による治療において重要な知見であると考えられる.

6. まとめと展望

ユビキチン経路を標的とした抗がん剤が認可された例はまだ少なく,プロテアソーム阻害剤Bortezomibのようにユビキチン-分解系を広範に阻害する薬剤があるのみである.また,ユビキチン化に拮抗する脱ユビキチン化酵素も基質タンパク質の量的制御に不可欠であり,この酵素の阻害剤も近年開発が進んでいる.今回見いだしたUBR5のように,がん細胞特異的に機能変異を示すユビキチンリガーゼの阻害剤は,広範なプロテアソーム阻害剤よりもこれらのがんに特化したがん抑制効果や,薬剤抵抗性のがんへの増感効果が期待される.一方で,UBR5の欠失はマウスでは胎生致死であり,少なくとも発生段階ではUBR5は必須と考えられるため,正常細胞への影響は考慮すべき点である.本稿でふれたように,UBR5の標的因子は多岐にわたっており,今後卵巣がん以外のがん細胞においてもUBR5の薬剤感受性への関与をより詳細に解析する必要があるが,我々の基礎研究による知見が効果的ながん治療に貢献できれば幸いである.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

松浦 顕教(まつうら けんきょう)

Department of Pharmacology and Cancer Biology, Duke University Medical Center, Research Associate Senior. 博士(薬学).

略歴

2005年金沢大学薬学部卒業.10年金沢大学大学院自然科学研究科修了.同年よりDuke University Medical CenterにてPostdoctoral Associate. 16年より現職.

研究テーマと抱負

細胞死,DNA修復など生物に必須の現象のメカニズムを画期的な技術を駆使して解明したいと思っています.日々進歩する生物学分野にて遅れをとらないように勉強中です.

趣味

読書,ラーメン店探索,サイクリング,息子と遊ぶこと.

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