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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(4): 444-451 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900444

総説Review

Mg2+トランスポーターCNNMの分子機能と医学生物学的重要性Molecular functions of CNNM Mg2+ transporters and their biomedical importance

大阪大学・微生物病研究所Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University ◇ 大阪府吹田市山田丘3–1 ◇ 3–1 Yamadaoka, Suita, Osaka

発行日:2018年8月25日Published: August 25, 2018
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CNNMファミリーは進化的に高度に保存されたMg2+トランスポーターであり,細胞外にMg2+を排出することで細胞内や個体レベルでのMg2+恒常性維持に機能している.細胞内で膜アンカー型のチロシンホスファターゼPRLと結合することで機能制御を受けており,ユニークな化学修飾Cysリン酸化でその複合体形成が動的に調節されている.CNNMファミリーの機能不全は遺伝性の低マグネシウム血症の原因になるだけでなく,がんや高血圧などさまざまな疾患の発症や悪性化に密接に関わることも遺伝子改変マウスの解析などから明らかになってきた.これらCNNMファミリーの分子機能解析をきっかけとして,生命体におけるMg2+の医学生物学的重要性が新たに認識されつつある.

1. はじめに

Mg2+は細胞内でKに次いで量の多い陽イオンであり,タンパク質や核酸などさまざまな生体物質に結合している.特に,エネルギー通貨とも呼ばれるATPの大半は細胞内でMg2+との複合体として存在しており,その合成や分解にも必須の役割を果たしている.NaやKなど,他の主要な金属イオンの細胞内への流入や細胞外への排出に関わるトランスポーターやチャネルが数多く同定され,その機能的重要性が詳細に解析されている一方で,Mg2+の流入や排出に関わる膜輸送分子に関しては大きく研究が遅れていた.このため,細胞内のMg2+量の調節や個体レベルでの恒常性維持の仕組み,さらにはその医学生物学的重要性についてもほぼ未解明の状態が長らく続いていた.本稿では,大腸がんの転移・悪性化に重要な分子の結合標的として見つけた膜タンパク質cyclin M(CNNM)ファミリーの基本的な分子機能,またその細胞や個体レベルでの機能解析から明らかになってきたMg2+量調節の重要性について紹介したい.

2. 原核生物から保存された膜タンパク質CNNMファミリー

CNNMファミリーは進化的に保存されたドメイン構造を持ち,原核生物にもその相同分子が存在している.その保存性に基づいて,最初の論文ではancient conserved domain proteinという名称がつけられた1).現在ではサイクリンと部分的に類似した配列(cyclin box)を持つことに由来するcyclin M(CNNM)という名称で呼ばれることが一般的になっているが,サイクリンのような細胞周期に応じたタンパク質量の変動は報告されていない.ヒトなどの哺乳動物ではCNNM1~CNNM4の四つのファミリー分子が存在する(図1).タンパク質のアミノ末端部にはシグナル配列が存在し(シグナルぺプチダーゼにより切断),分子のほぼ中央部に細胞膜を3回半貫通するDUF21ドメイン,またそれに続く細胞質部分にCBSドメインが並ぶ2).このDUF21ドメインとCBSドメインのセット構造を持ったタンパク質は線虫Caenorhabditis elegansやハエDrosophila melanogasterなどの多細胞生物に存在するだけでなく,ネズミチフス菌のCorBや黄色ブドウ球菌のMpfA,出芽酵母のMam3pなども知られており,進化的にきわめて高度に保存されていることがわかる3–5)

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図1 CNNMファミリーの構造模式図

哺乳動物CNNMファミリーCNNM1~CNNM4の構造を模式的に示す.ファミリー間で保存され,機能的に重要なDUF21ドメインとCBSドメインをボックスで表示している.矢印は家族性低マグネシウム血症(CNNM2)とJalili症候群(CNNM4)で報告されているミスセンス変異の起こっているアミノ酸の部位を示す.それぞれの主要な発現部位を右端に示す.

3. CNNMファミリーのNa/Mg2+交換体としての分子機能

DUF21ドメインのみを持つネズミチフス菌CorCの遺伝子変異体の解析結果などから,CNNMファミリーは金属イオンの膜輸送に関わっていることが示唆されていた6).さらに,2011年には優性遺伝型の家族性低マグネシウム血症でCNNM2の遺伝子変異が見つかり,Mg2+恒常性調節との関わりが示された7).その一方で,Mg2+輸送への直接的関与を示すデータはなく,その論文の著者らも否定的な見解を述べていた.我々はCNNMファミリー分子の機能を直接的に調べるため,培養細胞にCNNM4を発現させて細胞内の主要な金属元素量を測定した.その結果,CNNM4発現細胞ではナトリウムが増加し,マグネシウムが減少していることが見つかった8).さらに細胞内のMg2+動態を調べるため,蛍光Mg2+プローブを用いたイメージング解析を行った.比較対照実験では培地中のMg2+を除いても細胞内Mg2+量は大きく変動しないのに対し,CNNM4発現細胞では即座に細胞内Mg2+量が減少した.また,このMg2+量の減少は培地中にNaが存在しているときにだけ観察された.これらの実験結果より,CNNM4がNaの流入に共役してMg2+を排出するNa/Mg2+交換体として機能していると結論づけた(図2左).他のCNNMファミリー分子に関しても解析を進め,CNNM1とCNNM2ではCNNM4と同様のMg2+排出が起こることを確認している9).上で述べたヒト家族性低マグネシウム血症で報告されているCNNM2変異にはフレームシフトを伴う大きな異常を起こすものもあるが,1個のアミノ酸の置換(T568I変異)だけを起こすものもある(図17).この変異を人工的に挿入した変異型CNNM2を発現させたところ,Mg2+排出はまったく観察されなかった9).この結果は,培養細胞での強制発現実験で観察されるMg2+排出が,CNNMファミリーの分子機能として本質的に重要なものであることを強く支持している.

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図2 CNNMによるMg2+排出とPRLの結合による機能阻害

CNNMは細胞外からのNa流入に共役して細胞内のMg2+を外部に排出するNa/Mg2+交換体として機能する(左).PRLは分子C末端部での脂質付加により細胞膜にアンカーされ,CNNMに結合することでその分子機能を阻害する(右).

一方,CNNMの発現抑制や機能欠損による細胞内Mg2+量への効果もいくつか報告されている.HEK293細胞で内在性CNNM4の発現をRNA干渉法によって抑制したところ,細胞内Mg2+量が顕著に増加した10).同様のMg2+増加は後述するCNNM4遺伝子欠損マウスの腸ポリープでも観察されており,哺乳動物系でCNNMが細胞外へのMg2+排出に関わっていることを示唆している.また,Mg2+量の直接的な測定は行われていないが,黄色ブドウ球菌のMpfAの変異体では培地中のMg2+濃度上昇に対する耐性が失われることが報告されており,論文の著者らはMpfAが細胞外にMg2+を排出している可能性を示唆している4).このように過剰発現による機能亢進,発現抑制や遺伝子変異による機能欠損のいずれの実験結果もCNNMファミリーが種を超えたMg2+排出分子であることを支持している.

4. CNNMファミリー分子のマグネシウムの吸収,再吸収における役割

マグネシウムは必須ミネラルの一つであり,食物から腸で吸収されて血液によって全身に運ばれる.腎臓では血中のマグネシウムの大半はいったんこし出され原尿に移行するが,その多くが尿細管から再吸収されて体内に戻り,再吸収されなかったものが尿とともに体外に排出される.つまり,腸と腎臓はいずれもマグネシウムを体内に「取り込む」ことでマグネシウム恒常性を維持している.腸管や尿細管はいずれも互いに密着した上皮細胞から構成されている.細胞と細胞の間隙を通る経路による吸収・再吸収とともに,細胞内部を通過する経路も重要であり,特に吸収・再吸収量の能動的な調節を可能にしている.このとき,Mg2+は内腔に面した頂端部(アピカル)の細胞膜から細胞内に流入し,その反対の基側部(バソラテラル)の細胞膜で細胞外に排出される.アピカル膜でのMg2+流入にTRPM6/7などのMg2+透過性陽イオンチャネルが関わっていることがさまざまな研究から明らかになってきたのに対し11–14),バソラテラル膜でのMg2+排出に関わる分子実体は長らく不明だった.

CNNM2変異によって低マグネシウム血症が起こることを上に述べたが,この患者では腎臓におけるマグネシウム再吸収が不十分であることが示されている7).CNNM2の発現はほぼユビキタスであるが,腎臓で強く,特に遠位尿細管への局在がみられた.遠位尿細管はマグネシウム再吸収の最終ステップが起こる部分であり,再吸収量を調節する重要な部分でもある.CNNM2はこの遠位尿細管を構成する細胞のバソラテラル膜に密集して発現していた(図3A2, 7, 15).また,CNNM2ヘテロ欠損マウス(ホモ欠損は胎性致死)や腎臓特異的ホモ欠損マウスが作製されており,腸でのマグネシウム吸収に異常はなく,腎臓での再吸収に異常が生じていることも確認されている15).一方,マグネシウム吸収に重要な腸の上皮細胞ではCNNM4が強く発現しており,CNNM2と同様に細胞のバソラテラル膜に局在している(図3B8).さらに,CNNM4遺伝子をホモ欠損するマウスでは腸でのマグネシウム吸収量が約7割も減少していることが示されている8).このように,CNNMファミリーは細胞外にMg2+を排出することで,腸や腎臓でのマグネシウム吸収・再吸収に重要な役割を果たしていることが明らかとなった(図3C).

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図3 CNNM2, CNNM4の管腔組織での局在とマグネシウム吸収・再吸収

(A)マウス腎臓遠位尿細管部での蛍光染色画像を示す.図中,管腔の断面像が示されている.Na/Cl共輸送体(NCC)の局在するアピカル膜を取り巻くようにCNNM2のシグナルが観察され,バソラテラル膜に局在していることがわかる.(B)マウス腸粘膜層での蛍光染色画像を示す.図中,上側が腸管腔を示す.CNNM4はアクチンフィラメント(F-actin)の存在するアピカル膜には存在せず,そこから底部側に広がるバソラテラル膜に局在している.(C)細胞の内部を通る経路でのマグネシウムの吸収・再吸収を模式的に示す.アピカル膜に局在するTRPM6/7が管の内腔から細胞内にMg2+を流入させ,バソラテラル膜に局在するCNNM2/4が細胞外に排出することでMg2+を吸収・再吸収する.

CNNM2とCNNM4は互いに臓器分布は異なるものの,いずれも管腔組織を構成する細胞のバソラテラル膜に顕著に局在していた.これは内腔からMg2+を体内へ吸収・再吸収するのに基本的に重要な性質である.CNNM4ではCBSドメイン以降のC末端部の細胞質内部位にクラスリンアダプター分子AP-1との結合に重要なジロイシンモチーフ(ロイシンが二つ連続で連なったモチーフ)が複数存在しており,そのうちのいくつかに変異を入れるとバソラテラル膜への局在が消滅することが実験的に示されている16).CNNM2の相当する細胞質内部位にも複数のジロイシンモチーフがあり,CNNM4と同様のメカニズムでバソラテラル膜に局在していると考えられる.

5. がんの悪性化に関わるPRLとの直接結合による機能調節

CNNMファミリー分子は細胞内でphosphatase of regenerating liver(PRL)と強固な複合体を作って存在していることが,筆者らを含む二つのグループから独立して報告されている10, 17).PRLは部分肝切除後に起こる肝再生時に発現が上昇する分子として1994年に報告され18),PRL1~PRL3の三つのファミリー分子が存在している.がん研究との関わりで注目を集めるようになった契機は,2001年にヒト大腸がんの転移巣で特異的に高発現する遺伝子としてのPRL3の発見である19).PRLはチロシンホスファターゼドメインのみからなる約20 kDa程度の小さな分子で,そのC末端部に脂質付加を受けることで細胞膜にアンカーされる.しかし,人工基質を用いた酵素活性解析では,他のチロシンホスファターゼと比較して異常に活性が弱いことが示され20),その分子機能の本態は不明のままだった.

PRLとCNNMの結合は,CNNMのCBSドメインで起こっており,PRLとCNNMのどのファミリー分子(PRL1~PRL3およびCNNM1~CNNM4)どうしでも結合できる10, 17).全長のPRLとCNNMのCBSドメインの組換えタンパク質を用いた共結晶の立体構造解析も行われており,両分子の相互作用の詳細が明らかにされている21, 22).CNNMのCBSドメイン内には他のCBSドメインにはみられない余分なループ構造があり,それが分子表面から突き出してPRLの酵素活性ポケットに擬似基質的にはまり込んで結合していた(図4).このPRL/CNNMの分子複合体は内在性タンパク質での共免疫沈降実験でも容易に検出することができ10),強固な複合体を細胞内で作っていることを示している.

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図4 PRL/CNNM複合体の立体構造

PRL2とCNNM3のCBSドメインの複合体の立体構造を模式的に示す.CBSドメイン(CBS1とCBS2のペア)はホモ二量体を作り,そこに両側から2分子のPRL2が結合した2対2の複合体を形成している.それぞれのCBSドメインから両サイドに伸び出たループ構造(矢印)がPRL2の酵素活性ポケットにはまり込んで結合している.

PRL結合のCNNM分子機能への影響を調べるため,Mg2+イメージング解析を行ったところ,PRLの共発現によってMg2+排出がほぼ完全に阻害された10).さらに,PRLやCNNMに1アミノ酸置換を入れて結合不能変異体を作製したところ,PRLによるMg2+排出阻害がみられなくなった10, 21).これらの実験結果より,PRLがCNNMに結合してそのMg2+排出機能を阻害していることが明らかとなった(図2右).

6. PRLのCysリン酸化による結合の制御

一般にチロシンホスファターゼは活性中心にCysを持ち,そのチオール基(–SH)が基質のリン酸化チロシンから自身にリン酸を転移することで脱リン酸化反応を行っている.このリン酸化Cysは酵素反応サイクルの中の一過的な反応中間体であって,即座に加水分解を受けてチオール基に戻る.ところが,大腸菌で発現・精製したPRLタンパク質をチロシンホスファターゼ活性測定の人工基質とインキュベートすると,PRLの大半がリン酸化された状態で検出された21).つまりPRLのホスファターゼ活性が異常に弱いのは反応中間体のリン酸化Cysの状態でとどまっていることに起因していることが明らかになった.しかも,このPRLリン酸化は哺乳動物培養細胞に内在するPRLタンパク質でも起こっていた.

PRL/CNNM複合体の構造解析では,両分子の結合がPRLの酵素活性ポケットで起こっており,活性中心Cysは直接のコンタクトには関わっていないものの,その部位にきわめて近接して存在していた21).PRLリン酸化のPRL/CNNM複合体形成への影響を調べるため,in vitroでのプルダウンアッセイや細胞溶解物を用いた共免疫沈降実験などを行ったが,いずれもリン酸化型PRLはCNNMと結合しないことが示され,結合に対して阻害的に働くことが明らかとなった21).さらに培地中のMg2+を枯渇させたところ,内在性のPRLタンパク質の総量が増加する一方で,リン酸化型PRLは減少することがわかった(図5).これは細胞の置かれた環境に応答して,能動的にPRLタンパク質のリン酸化状態を変化させていることを意味しており,このPRLリン酸化・脱リン酸化がPRL/CNNM結合の生理的な制御メカニズムとして働いている可能性を示唆している.Cysがリン酸化されるという報告は黄色ブドウ球菌の転写調節因子SarA/MgrAタンパク質で報告があるのみで23),きわめてユニークな化学修飾といえる.その調節の仕組みなどは今後の重要な課題である.

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図5 PRLのCysリン酸化

培地から図中に示した時間Mg2+を除去して各細胞を回収し,その溶解物をPhos-tag入りのゲルもしくは通常のゲルでSDS-PAGEしてPRL抗体でウエスタン解析を行った.Phos-tag入りのゲルではリン酸化タンパク質の泳動が遅くなるので,リン酸化をバンドシフトとして検出できる.Mg2+除去によってPRLの総量は増加したのに対し,リン酸化型のPRL(P-PRL)は減少した.また,Mg2+除去前の通常培地での培養条件下でも,かなりの量のPRLがリン酸化されていることがわかる.

7. 細胞内Mg2+の過剰とがんの悪性化,エネルギー代謝調節

PRLの高発現は大腸がんの悪性化・転移と密接に関わっている.また,CNNMファミリーの中でもCNNM4は特に腸の上皮細胞で強く発現している.そこでCNNM4欠損マウスで腸のがんとの関わりについて調べた10)CNNM4欠損のみでは顕著な組織異常は観察されなかったので,腸粘膜にポリープを形成するAPCヘテロ欠損マウスとかけ合わせて解析した.APCヘテロ欠損マウスでは多数のポリープが形成されていたが,ほぼすべて粘膜内にとどまっていた.しかし,二重欠損マウスでは約半数のポリープで筋層への浸潤が観察された(図6).これらの結果から,CNNM4の機能不全ががん悪性化の原因になりうることが明確に示された.ヒト大腸がん患者から採取されたがん組織の解析からも,がんの悪性化に伴ってCNNM4の発現量が低下する傾向のあることが示されている.PRLの高発現はCNNMによるMg2+排出を阻害することでがんの悪性化を引き起こしている可能性が強く示唆された.

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図6 CNNM4欠損による腸ポリープの悪性化

(A) APCヘテロ欠損マウスと二重欠損(APCヘテロ欠損とCNNM4ホモ欠損)マウスの腸を切り開いたものを示す.ポリープの数や大きさに,特に顕著な差はみられなかった.(B)それぞれのマウスでのポリープの組織断面像を示す.点線は粘膜層と筋層の境界を示しており,筋層への浸潤がみられたポリープの割合をそれぞれ百分率で写真中に示す.APCヘテロ欠損マウスでは筋層への浸潤はほとんどみられないが,二重変異マウスでは約半数のポリープで筋層への浸潤が起こっていた(矢印).

CNNMの機能不全は細胞内Mg2+量の増加を招く.実際,CNNM4欠損マウスのポリープを採取して元素解析を行ったところ,マグネシウム量が顕著に増加していた10).細胞レベルで何が起こっているのか調べるため,培養細胞でPRLを高発現させたところ,予想どおりにMg2+量が増加するとともにATP量が顕著に増加していた.細胞内でATPはMg2+と1対1の複合体を作って存在しており,その合成や分解にも必須であることが知られる.PRLを発現させても細胞の基本的な増殖性などに顕著な違いはみられなかったものの,培地中の主要な栄養成分であるグルコース量を減少させたときの挙動に大きな違いがみられた.コントロール細胞ではグルコースを2 mMにするとほとんど増殖しなくなったが,PRL高発現細胞は依然として増殖能を保っていた.PRLノックダウンの実験などからmTORシグナル伝達系との関連も示唆されており,細胞のエネルギー代謝調節に大きな影響を与えることが示されている.

8. CNNMファミリー欠損マウスの解析からわかってきたMg2+調節の重要性

CNNM2CNNM4の欠損マウスの解析から,Mg2+恒常性維持やがん悪性化におけるCNNMの重要性が明らかになってきたことを上に述べた.これらのマウスの表現型解析から明らかになったMg2+調節の意外な役割についてまとめておきたい.

CNNM4欠損マウスは見かけ上正常に発達して顕著な異常を示さないが,雄性の不妊だった24).この原因を調べたところ,精子が活性化を受けて運動様式を変化させる「超活性化」が起こっていなかった(図7A).この超活性化にはイオンチャネルCatSperを通ってのCa2+流入が重要と知られていたので,CNNM4欠損マウスの精子でCa2+流入を調べたところ,大きく減弱していることがわかった.これがCNNM4欠損による精子内でのMg2+の影響によるものか調べるため,精子の培地からMg2+を枯渇させたところ,超活性化の部分的な回復が認められた.これらの結果は精子内でのMg2+調節異常がCa2+シグナリングに大きな影響を与えていることを示しており,その普遍性も含めて今後の研究の課題である.

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図7 CNNM欠損マウスのさまざまな表現型

(A)野生型(WT)およびCNNM4ホモ欠損マウス(CNNM4-KO)から採取した精子尾部の超活性化処理後の運動パターン.15ミリ秒間隔での尾部の位置を重ねて表示している.CNNM4ホモ欠損マウスの精子は超活性化処理をしても運動が小さいままにとどまっている.(B)野生型およびCNNM4ホモ欠損マウスの歯を示す.CNNM4ホモ欠損マウスではエナメル質形成ができないため色が異なっている.(C)野生型および腎臓特異的CNNM2ホモ欠損マウスでの収縮期血圧(上)と拡張期血圧(下)の24時間変動を示す.腎臓特異的CNNM2ホモ欠損マウスでは血圧が低い.

CNNM4遺伝子は,網膜の視細胞変性と歯のエナメル質形成不全を特徴とするヒトの遺伝病Jalili症候群の原因遺伝子としても知られる25, 26).実際,CNNM4欠損マウスで網膜の異常はみられなかったものの,エナメル質形成は明らかに異常を呈していた(図7B8).視細胞変性に関してヒトとマウスでの食い違いがなぜ生じるのかは不明だが,CNNM4によるMg2+調節がさまざまな医学生物学的機能を持っていることを明確に示している.

CNNM2遺伝子は家族性低マグネシウム血症の原因遺伝子であるだけでなく,高血圧患者で実施された複数のゲノムワイド関連解析で,きわめて強い相関を示す遺伝子としても報告されている27).上述のようにCNNM2をホモ欠損すると胎性致死であったのでヘテロ欠損マウスや腎臓特異的ホモ欠損マウスで血圧を調べたところ,コントロールマウスと比較して有意に血圧が低下していた(図7C15).マグネシウム摂取量や排出量と高血圧リスクは互いに負に相関していることが以前から知られており28),血圧調節におけるマグネシウムの役割を解き明かすカギとなるかもしれない.

9. 線虫での解析からわかったこと

最後に多細胞生物のモデルとして汎用されている線虫C. elegansでのCNNMファミリーの解析について述べたい.C. elegansのゲノムにはDUF21ドメインとCBSドメインのセット構造をコードする遺伝子が5個存在する.それぞれの機能欠損変異体を作製したが,単独遺伝子の変異体では特に顕著な異常は起こらなかった3).そこで二つの遺伝子の組合わせで二重変異体を作製したところ,cnnm-1cnnm-3の二重変異体で不稔になることがわかった.これらはいずれも腸細胞で強く発現しており,哺乳動物のCNNM4と同様に腸でのマグネシウム吸収に関わっていた.このため二重変異体では体内でのマグネシウムが不足し,それが生殖巣の発達を妨げて不稔となっていた(図8A).実際,線虫を飼育する培地にMg2+を添加することによって生殖巣が伸長するようになり,しかも不稔がキャンセルされた.マグネシウム吸収の分子機構が進化的に保存されたものであることを示すとともに,生体内にはMg2+不足にきわめて敏感に応答する組織があることが明らかとなった.生殖巣の細胞でエネルギー飢餓に応答して活性化するAMPキナーゼをノックダウンや遺伝子変異により機能抑制すると生殖巣の発達が回復し,Mg2+がエネルギー代謝に大きな影響を与えていることが線虫の実験系でも確認された.さらにこのcnnm-1/cnnm-3二重変異体は寿命が短く(図8B),興味深いことにこの表現型はMg2+添加でレスキューできなかった.この短寿命の原因は不明だが,CNNMファミリーの新たな機能を示唆している可能性もある.

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図8 線虫cnnm変異体の生殖巣発達不全と寿命短縮

(A)野生型(N2)およびcnnm二重変異体(cnnm-1; cnnm-3)での生殖巣の発達.lag-2プロモーターでGFPを発現させ,生殖巣伸長の先端部に位置する細胞を蛍光で視覚化している.cnnm二重変異体では生殖巣の伸長がほとんどみられない(矢印).(B)線虫の寿命の解析.daf-2変異体およびdaf-16変異体はそれぞれ長寿命,短寿命の比較対照として利用している.cnnm二重変異体で寿命が短縮し,cnnm-1cnnm-3を導入すると寿命が回復する.

10. 今後の課題・展望

CNNMファミリーの機能解析を通して,細胞内や生体レベルでのMg2+恒常性維持の基本的な仕組みや,さまざまな疾患との関わりなどその医学生物学的重要性が明らかになってきた.それぞれ未解明の課題が数多く残されているものの,ここ数年の間に飛躍的に理解が進んだことは間違いない.その一方で,「細胞外にMg2+を排出すること」の本質的な意義は依然としてほとんど何もわかっていないと筆者は感じている.ヒトなどの多細胞生物において,がんは細胞集団の秩序を崩す危険なものであり,その進展に寄与しうるMg2+過剰を避けることの重要性は考えるまでもない.しかし,CNNMファミリーは単細胞の真核生物や原核生物にもあまねく存在しており,個々の細胞レベルでCNNM機能が必要とされている.その見事な進化的保存性をみると,生命体はわずかなMg2+過剰も許容しない・できない何らかの根源的な理由があるのだと考えざるをえない.これまでCNNMファミリーは哺乳動物系を中心に解析が進み,今後もそれが研究のメインステージであり続けることは確かだと思うが,生命科学として本質的な発見は微生物での研究など(人からみて)周縁的な部分から訪れるのかもしれない.

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著者紹介Author Profile

三木 裕明(みき ひろあき)

大阪大学微生物病研究所教授.博士(理学).

略歴

1993年東京大学理学部卒業.98年同大学院修了,博士(理学).同年東京大学医科学研究所助手,2002年同助教授.07年大阪大学蛋白質研究所教授.11年大阪大学微生物病研究所教授.

研究テーマと抱負

細胞内や個体レベルでのMg2+調節の分子機構や,その医学生物学的重要性に関する研究を行っています.

ウェブサイト

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/cellreg/

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