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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(4): 478-481 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900478

みにれびゅうMini Review

ヒトRabファミリー低分子量GTPaseが駆動する細胞内膜テザリング反応の再構成Reconstituted membrane tethering driven by human Rab-family small GTPases

大阪大学蛋白質研究所Institute for Protein Research, Osaka University ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘3–2 ◇ 3–2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565–0871, Japan

発行日:2018年8月25日Published: August 25, 2018
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1. 膜テザリングは選択的な細胞内膜交通・小胞輸送をつかさどる重要な素過程である

真核細胞は,種々の細胞小器官オルガネラや輸送小胞などを含む多数の細胞内膜コンパートメントから構成されている.各細胞内膜コンパートメントは,その重要かつ特異的な機能を細胞内で遂行するために,それぞれが特徴を持ったサイズ,形状,そして生化学的な物質組成(タンパク質や脂質など)を有する必要がある.つまり本稿のテーマである,「細胞内膜交通・小胞輸送(メンブレントラフィック)」と総称される,細胞内膜コンパートメント間における生体分子(タンパク質や脂質など)の精確な物質輸送が,すべての真核細胞において,その生命機能を維持するために必要不可欠であるといえる1).一般的に,この細胞内膜交通・小胞輸送では,出発地となる膜コンパートメントから,積荷分子を内包する脂質二重膜で囲われた輸送キャリア(輸送小胞・分泌小胞など)が出芽・形成され,それに続き,①輸送キャリアは,モータータンパク質の働きを介してアクチン繊維・微小管などの細胞骨格上を移動し,②次に到着地となる標的の膜コンパートメントの脂質二重膜表面に選択的かつ可逆的に繋留される(膜テザリング),③さらに輸送キャリアと標的の膜コンパートメントは安定的かつ不可逆的にドッキングし(膜ドッキング),④最終的に,両者の脂質二重膜どうしが膜融合を引き起こし,輸送キャリアの積荷分子は標的の膜コンパートメントへと輸送される1)図1).細胞内膜交通・小胞輸送におけるこれら四つの連続する素過程・素反応は,これまでの遺伝学・生化学・細胞生物学研究の膨大な蓄積によって同定されたさまざまなタンパク質因子群の働きにより,時空間的に厳密に調節および駆動されている1)図1).そのなかで主要なタンパク質因子群としては,以下のようなタンパク質ファミリーがあげられる.

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図1 「細胞骨格上の輸送」~「膜テザリング」~「膜ドッキング」~「膜融合」に至る細胞内膜交通・小胞輸送の四つの連続した素過程

各素過程に必須のタンパク質因子群である,モータータンパク質(細胞骨格上の輸送),Rab GTPase(細胞骨格上の輸送・膜テザリング),Rabエフェクター(細胞骨格上の輸送・膜テザリング),テザリングタンパク質(膜テザリング),SNAREタンパク質(膜ドッキング・膜融合),そしてSNAREシャペロン(膜ドッキング・膜融合)を示している.本稿のトピックである「膜テザリング」は,膜交通において二つの異なる細胞内コンパートメント(たとえば,輸送キャリアである分泌小胞と標的膜である細胞質膜)が,最初に互いを認識して物理的に接触する可逆的な過程である.その後,SNAREタンパク質依存性で不可逆的な最終過程である膜ドッキング・膜融合へと続く.

  • ・ SNARE(soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor)ファミリータンパク質は,膜融合反応に最も重要なコアマシナリーであり,融合する二つの膜を橋渡しするトランスQaQbQcR-SNARE四量体タンパク質複合体を形成する2)
  • ・ SNARE結合性シャペロンタンパク質であるSM(Sec1/Munc18)ファミリータンパク質は,トランスQaQbQcR-SNARE複合体形成の促進に必須の因子である3)
  • ・ Rab(Ras related in brain)ファミリー低分子量GTPaseは,膜ドッキング・膜融合の前段階である膜テザリングと,さらに上流の細胞骨格上での輸送キャリアの移動,これら二つの素過程で必須の役割を果たす4, 5)
  • ・ Rabエフェクターは,Rab GTPaseとヌクレオチド依存的に結合するタンパク質群の総称で,脂質二重膜上でのRabとの特異的な相互作用を介して細胞内膜交通・小胞輸送のさまざまな素過程に関与する4, 5).そして,モータータンパク質(クラスVミオシン,キネシン,ダイニンなど)は,その多くがRabエフェクターであるとも解釈できるが,輸送キャリアを細胞骨格に沿って標的の膜コンパートメント近傍へと移動させる役割を持つ6)図1).

2. 膜テザリングにおけるRabファミリー低分子量GTPaseの役割

膜テザリング反応は,SNARE依存性である膜ドッキング・膜融合反応とは独立した段階で,その直前に起こる膜交通の素過程であるが,このとき輸送キャリアは標的となる細胞内膜コンパートメントを最初に認識しそれと接触する7)図1).現在のところ,Rabファミリー低分子量GTPaseとRabエフェクターの一種であるテザリングタンパク質群(コイルドコイルテザリングタンパク質,マルチサブユニットテザリング複合体を含む)が,この膜テザリング過程に関与する主たるタンパク質因子とされている7, 8)図1).そして,Rabタンパク質とテザリングタンパク質群の働きを介して駆動される膜テザリング反応は,細胞内膜交通・小胞輸送の場所特異性・選択性を制御・決定する上で,SNARE依存性膜融合反応と並ぶ,あるいは(輸送キャリアと標的膜が最初に互いを認識・接触する過程であることを考えると)それ以上に重要な過程である.しかしながら,「膜テザリング」を,「二つの異なる独立した脂質二重膜を物理的に,しかも特異的かつ可逆的に,つなぎ合わせること」と厳密に定義すると,これまでのほとんどの報告においては,Rabタンパク質やテザリングタンパク質群の膜テザリング活性(あるいは膜テザーとしての機能)を直接的に立証する実験的証拠・データが欠落しているのが現状であるといえる9, 10).そのなか,近年,精製・純化したタンパク質試料と人工脂質二重膜リポソームのみから構成される化学的に純粋な再構成プロテオリポソーム実験系を用いて,Rabファミリー低分子量GTPaseに膜テザリング活性が内在し,Rabタンパク質自身が単独で膜テザリング反応を直接的かつ効率的に駆動しうることが実験的に証明された11–13).この新たな発見により,現在教科書や総説等で広く記載されている「Rabはテザリングタンパク質群を膜上にリクルートするのを補助するだけで,実際に膜と膜を物理的につなぐ膜テザーはテザリングタンパク質群である」とする現行モデルはあくまでも“モデル”であり,膜交通の選択性をつかさどる膜テザリング反応の真の仕組みはこのモデルだけでは説明できないことが明確となった8–13)

3. 再構成アプローチから迫るヒトRab GTPaseが駆動する膜テザリング反応

Rabファミリー低分子量GTPaseは,ヒト細胞で60種類以上のアイソフォームが存在し,Ras(rat sarcoma)GTPaseスーパーファミリー(Ras, Rho, Rab, Arf,およびRanファミリーGTPaseを含む)の中では最大のタンパク質ファミリーを構成している4, 5).このRabファミリータンパク質は,その構造的特徴として,N末端に5~30残基程度の保存性の低い天然変性領域,中間にRasスーパーファミリーで高度に保存される球状のGTPaseドメイン(Gドメイン;160~170残基),そしてC末端側にHVR(hypervariable region)と総称される20~50残基程度の保存性の低い天然変性領域を持ち,これら三つの領域・ドメインから構成される比較的小さな単量体タンパク質である4, 5, 10)図2A).さらに,Rabの機能とも深く関わる特徴として,HVRドメインのC末端システイン残基は,イソプレニル(ゲラニルゲラニル)脂質基により翻訳後修飾される(図2).このC末端のイソプレニル脂質アンカーがオルガネラ膜などの脂質二重膜に挿入されることにより,Rabタンパク質は安定的に膜表面にアンカーされる4, 5, 10)図2A).

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図2 ヒトRab再構成プロテオリポソーム系による膜テザリング反応の解析

(A)細胞内のオルガネラ膜/輸送小胞膜/細胞質膜および試験管内の合成リポソーム膜へのRabファミリー低分子量GTPaseの膜結合様式.代表的なRabファミリータンパク質としてヒトRab5aを例にその膜結合様式を示している.ヒトRab5aは,N末端天然変性領域(アミノ酸残基1~19),RasスーパーファミリーGTPaseドメイン(アミノ酸残基20~181),およびC末端HVRドメイン(アミノ酸残基182~215)を含む215アミノ酸残基からなる単量体タンパク質である.細胞内では,Rab5aはC末端に翻訳後修飾されたイソプレニル脂質アンカーの膜挿入を介してオルガネラ等の膜表面に安定的に結合する.再構成系では,組換えRab5a-His12タンパク質はC末端に人工的に付加されたポリヒスチジンタグ(His12)のDOGS-NTA-Ni2+脂質への特異的な結合を介して合成リポソームの膜表面に安定的に結合する.(B)リポソーム濁度アッセイ.Rab5a-His12タンパク質(0.5~4 µM)を,リポソーム懸濁液(脂質濃度0.5 mM;リポソーム粒子径400 nm)と混合し,このRab依存性膜テザリング反応試料の濁度変化を波長400 nmにおける光学密度の変化(ΔOD400)で測定した.(C)蛍光顕微鏡観察.ヒトRab5a依存性リポソーム膜テザリング反応により形成したリポソーム膜凝集体のローダミン蛍光画像.Rab5a-His12タンパク質(4 µM)を,リポソーム懸濁液(脂質濃度0.5 mM;リポソーム粒子径1000 nm;蛍光脂質Rhodamine-PE)と混合,30°Cで1時間インキュベートした後(つまり,テザリング反応により形成されるリポソーム膜凝集体のサイズ変化が平衡に達した後),このRab依存性膜テザリング反応試料を蛍光顕微鏡で観察した.スケールバー:20 µm.

著者らのグループが構築したヒトRab再構成プロテオリポソーム実験系では,C末端に付加されたイソプレニル脂質アンカーと両端の二つの天然変性領域を含めた全長Rabタンパク質の細胞内での膜結合状態を人工的に模倣するため,合成リポソーム膜をNi2+イオンがキレートされた脂質であるDOGS-NTA-Ni2+を添加して調製し,一方,ヒトRabタンパク質を,そのDOGS-NTA-Ni2+脂質と特異的に高い親和性を示すポリヒスチジンタグ(His12)がC末端に人工的に付加された組換えタンパク質(Rab-His12)として精製した12, 13)図2A).また,リポソーム膜の脂質組成には,生体膜を構成する五つの主要な脂質であるホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミン,ホスファチジルイノシトール,ホスファチジルセリン,コレステロールのすべてを含め,さらにリポソームの粒子径を規定することで(典型例では直径100~1000 nm),哺乳動物細胞のオルガネラ膜など生理的な細胞内膜コンパートメントに近い脂質二重膜の環境を再現した12, 13).このように精製Rab-His12タンパク質とDOGS-NTA含有リポソームを用いて調製したRab GTPaseアンカー型再構成リポソーム膜を実験モデルとし,ヒトRabファミリータンパク質群の内在性膜テザリング活性を,リポソーム濁度アッセイ(liposome turbidity assay)により定量的に評価した12, 13)図2B).このリポソーム濁度アッセイは,シンプルで原始的な生化学アッセイであるが,本稿で焦点を当てるRab GTPaseファミリーだけでなく,シナプトタグミン,LC3(Atg8ホモログ),アトラスチンGTPaseなどの他のタンパク質ファミリーの膜テザリング・膜ドッキング活性評価にもこれまで用いられてきた信頼できる確立した方法である10).加えて,蛍光脂質でラベルしたリポソーム膜を用いて,膜テザリング反応後に形成されるリポソーム膜凝集体を蛍光顕微鏡で観察することにより,リポソーム濁度アッセイから得られた結果を補完した(図2C).ヒトRabファミリータンパク質では最初に,初期エンドソームや細胞質膜に局在しエンドサイトーシス経路に関与するRab5aと,後期エンドソームやリソソームに局在しエンドサイトーシス経路・リソソーム分解経路(オートファジー経路を含む)に関与するRab7a,これら2種類のRabタンパク質が単独で(つまりはテザリングタンパク質・Rabエフェクター等の他のタンパク質因子の非存在下で),非常に効率的に膜テザリング反応を駆動することが見いだされた12)図2).その後,Rab/脂質モル比の検討を含め,再構成系の実験条件の改善・最適化により,前出のRab5aやRab7aと比較すれば低い活性ではあるが,エンドサイトーシス経路および分泌経路に関与する他の数多くのヒトRabファミリータンパク質群も同様に固有の膜テザリング活性を保持することが明らかとなった13).現在,細胞内膜交通・小胞輸送分野全体に広く受け入れられているモデルでは,テザリングタンパク質群(コイルドコイルテザリングタンパク質,マルチサブユニットテザリング複合体)が膜テザーとしての役割を果たすとされているが1, 4, 5, 8),再構成アプローチから得られたこれらの実験的証拠によって,「Rabファミリータンパク質自身が膜と膜を物理的につなぐコアマシナリーであり,細胞内膜テザリング反応における真の膜テザーである」,という新たな概念が提唱されている10).今後,「なぜ溶液中で単量体として存在するRabタンパク質が脂質二重膜上では膜と膜を橋渡しするトランス複合体を形成するのか」といったRab依存性膜テザリング反応の分子レベルの仕組みに対する問い,そして「Rabタンパク質とテザリングタンパク質の共存下では膜テザリング反応はどのように駆動・制御されるのか」といったRab依存性膜テザリング反応の生理的環境下での意義・重要性に対する問いなど,数多く残る重要な疑問を解き明かしていくことが求められるが,再構成プロテオリポソーム技術を駆使した研究アプローチはよりいっそう大きな貢献を果たすと期待できる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

三間 穣治(みま じょうじ)

大阪大学蛋白質研究所独立准教授.博士(農学).

略歴

1973年広島県に生る.96年京都大学農学部卒業.2000年京都大学農学部助手.03年博士(農学).06年米国ダートマス大学医学部ポスドク.09年大阪大学蛋白質研究所テニュアトラック准教授.13年より現職.

研究テーマと抱負

再構成アプローチから迫る細胞内膜交通・小胞輸送(メンブレントラフィック)の分子基盤の解明.最近は,膜交通の分子マシナリーを標的とする創薬研究開発にも興味がある.

趣味

サッカー,体幹を鍛える,NBA観戦,スキー,ハイキング.

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