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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(4): 519-523 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900519

みにれびゅうMini Review

O-グルコース糖鎖修飾によるタンパク質の安定性の制御とその生物化学的意義Biochemical significance of regulation of protein stability by O-glucose glycans

名古屋大学大学院医学系研究科機能分子制御学Nagoya University School of Medicine, Department of Molecular Biochemistry ◇ 〒466–8550 名古屋市昭和区鶴舞町65 ◇ 65 Tsurumai, Showa, Nagoya 466–8550, Japan

発行日:2018年8月25日Published: August 25, 2018
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1. はじめに

小胞体におけるN結合型糖鎖修飾はタンパク質のフォールディングの制御に重要な役割を果たす(図1A1).正しく折りたたまれたタンパク質は,分泌経路を進行するのに対し,フォールディングの不全なタンパク質は,UDP-グルコース:糖タンパク質グルコース転移酵素(UDP-glucose:glycoprotein glucosyltransferase:UGGT)によって認識され,N型糖鎖上にグルコース付加を受け,新たなフォールディングサイクルに乗る.一方,最近になって,トロンボスポンジンType-Iリピート(thrombospondin Type-I repeat:TSRs)を含む一群のタンパク質には,新たなタンパク質の品質管理機構が存在することが提唱された(図1A2).TSRsには,六つのシステイン残基が保存されており,これらが3本のジスルフィド結合を形成し,その立体構造を保持している.多くのTSRsは,小胞体に局在するタンパク質フコース転移酵素2(protein O-fucosyltransferase 2:POFUT2)によってO-フコース修飾を受ける(図1B).TSRsは,約60アミノ酸からなる比較的小さなタンパク質モチーフで,細胞外マトリックス中で機能するADAM-TS(A disintegrin and metalloproteinase with thorombospondin motifs)プロテアーゼやCCNファミリータンパク質などが有する(図1C).CCNファミリーの名は,CYR61(cysteine-rich angiogenic protein 61),CTGF(connective tissue growth factor),そして,NOV(nephroblastoma overexpressed)に由来する.哺乳類の細胞で,POFUT2をノックダウンすると,POFUT2によって修飾される糖タンパク質の細胞外への分泌が阻害される.POFUT2依存性のO-フコース糖鎖修飾は,TSRsの構造を安定化することによって,タンパク質のフォールディングと細胞外への分泌を促進する2).このように,古典的なN型糖鎖によるタンパク質の品質管理機構において,UGGTが折りたたみ不全のタンパク質を認識して機能するのとは異なり,POFUT2は正しく折りたたまれたTSRsのみを認識し,糖鎖修飾することによって,小胞体におけるタンパク質の品質管理に貢献している.

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図1 タンパク質のフォールディングとO結合型糖鎖修飾

(A)O結合型糖鎖修飾によるタンパク質品質管理の新たなメカニズムの模式図.小胞体において,N結合型糖鎖は,新生の,折りたたまれていないタンパク質に付加され,そのフォールディングを制御する(図上段).EGFリピートやTSRsなどのタンパク質モチーフを持つタンパク質の場合,折りたたまれた後のO結合型糖鎖修飾が,切手のように,正常な輸送の目印となる(図下段四角内).(B)TSRsおよびEGFリピートのO結合型糖鎖修飾の種類とそれをつかさどる糖転移酵素.点線で囲んだ糖鎖修飾は小胞体内腔で起こることが示唆されている.C末端にKDEL様小胞体繋留シグナルを有する糖転移酵素を太字で示した.(C)TSRまたはEGFリピートを有する代表的なタンパク質.

2. O-グルコースおよびO-フコース糖鎖によるNotch1のトラフィッキングの制御

上皮増殖因子様リピート(以下原著に倣いEGFリピートと略記)は,TSRsと同様に小胞体においてO結合型糖鎖修飾を受ける(図1B).EGFリピートは,約40アミノ酸からなり,保存された六つのシステイン残基が3本のジスルフィド結合を形成する.3種類のO結合型糖鎖が,EGFリピートに付加される(図1B).O-グルコース,O-フコース,およびO結合型N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)を付加する糖転移酵素は,それぞれ,protein O-glucosyltransferase 1(POGLUT1),POFUT1,および,EGF domain-specific O-GlcNAc transferase(EOGT)と呼ばれる.これらの酵素による糖鎖修飾は,Notch受容体などのEGFリピートに起こり,タンパク質の正常な機能発揮にきわめて重要な役割を果たしている(図1C3)

POGLUT1, POFUT1, EOGTはいずれも小胞体に局在すること,そして,正しく折りたたまれたEGFリピートのみを基質とすることから,POFUT2とTSRsの場合と同じように,これらの糖鎖修飾はEGFリピートを含むタンパク質の品質管理とトラフィッキングに重要な役割を果たすという仮説を立て,我々は研究を行った4)

O-グルコースおよびO-フコース糖鎖の消失のNotch1の機能への影響を調べるために,POGLUT1およびPOFUT1をHEK293T細胞においてCRISPR/Cas9技術を用いてノックアウトした.HEK293T細胞の表面には内因性のNotch1が発現し,O-グルコースおよびO-フコース糖鎖で修飾されている5).細胞表面Notch1の発現レベルが,POGLUT1あるいはPOFUT1のノックアウト細胞では,野生型に比べおよそ50%減少し,両者のノックアウト細胞では,ほぼ消失した.Notch1の細胞内ドメインを認識する抗体を用いて,細胞抽出物のウェスタンブロット解析を行うと,ゴルジ体局在性のフーリンプロテアーゼによる切断を受けていない全長型のNotch1が,野生型に比べて,ダブルノックアウト細胞で顕著に増加していた.これらの結果を表1にまとめた.以上のことは,HEK293T細胞においてはO-グルコースおよびO-フコース糖鎖の両方がNotch1の正常なトラフィッキングに必要であり,両者が相加的に作用していることを強く示唆している.

表1 HEK293T細胞でみられたO型糖鎖改変の表現型
野生型POGLUT1ノックアウトPOFUT1ノックアウトダブルノックアウト
細胞表面NOTCH1++
全長型NOTCH1細胞内蓄積++

3. O-グルコースおよびO-フコース糖鎖によるEGFリピートの構造安定化作用

O-フコース糖鎖により,TSRsは安定化されるので2)O-グルコースおよびO-フコース糖鎖も,同様にEGFリピートを安定化するか,ヒト血液凝固因子IXのEGFリピート(hFA9 EGF)をモデルタンパク質として調べた.正しく折りたたまれたEGFリピートと変性させたEGFリピートは,その疎水性の違いを利用して,逆相HPLCで分離,定量した.Notch1に由来する複数のEGFリピートを大腸菌にて作製し,ジチオトレイトール(DTT)感受性を調べると,単位時間に還元される量の割合はEGFリピートごとに異なり,各EGFリピートは安定性が異なること,また,DTTを用いた変性実験によってEGFリピートの安定性が評価できることが示された.

次に,我々はhFA9 EGFにin vitroで糖鎖を付加し,生成産物を逆相HPLCにて精製した.それらを用いて変性実験を行った結果,O-グルコース単糖を付加したhFA9 EGFは,糖を付加していないものに比べて,変性速度が遅くなった.このことから,O-グルコース単糖がhFA9 EGFを安定化することが示唆された.O-グルコースにキシロースを付加したもので同様のアッセイを行うと,意外にも,最初のキシロースの付加により,O-グルコース単糖による安定化作用が消失し,二つ目のキシロースを付加し,直鎖三糖構造にすると,hFA9 EGFの構造を安定化させることが観察された.O-フコース単糖を付加したhFA9 EGFは,糖を付加していないものに比べて,変性速度が遅くなった.O-フコース単糖に加えて,O-グルコース単糖を付加させると,hFA9 EGFをさらに安定化させることが観察された.

4. O結合型糖鎖を含むEGFリピートの構造解析

糖鎖によるEGFリピートの構造安定化作用に関する理解を深めるために,我々は,O-グルコース三糖を付加したhFA9 EGFのX線結晶構造解析を行った.hFA9 EGFのセリン53に結合したO-グルコース三糖は,EGFリピートの持つ間隙にはまる形で存在し,糖鎖はEGFポリペプチド中の複数のアミノ酸と分子内相互作用をしていた(解像度2.2 Å)(図2A).プロリン55とチロシン69で形成される疎水性領域は,生合成時に,POGLUT1によって認識される6).本研究で,同じ疎水性領域がO-グルコース糖鎖とファンデルワールス結合していることが判明した.マウスNotch1のO-グルコース付加のコンセンサス配列を有する17のEGFリピートの配列を比較すると,この疎水性領域を形成するアミノ酸が15のEGFリピートで保存されていた.ゆえに,それらのEGFリピートも,O-グルコース三糖構造によって安定化される可能性が高い.

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図2 O-グルコース糖鎖は分子内相互作用によりEGFリピートを安定化する

(A)O-グルコース三糖構造を付加したhFA9 EGFリピートの立体構造(PDB code:5VYG,解像度2.2 Å).O-グルコース三糖と相互作用するアミノ酸を図示した.詳細は文献4を参照.(B)Notch活性化の模式図.Notchがリガンドに結合すると,Notchとリガンドとの複合体は,リガンド発現細胞側(図中上)にエンドサイトーシスされる.ADAMとガンマセクレターゼ(GS)によってNotchはプロセシングされる.生じたNotchの細胞内ドメインが核へと移行し,標的遺伝子の転写を活性化する.黒丸:グルコース.白星:キシロース.

これまでに,O-グルコースあるいはO-フコース糖鎖を含む,いくつかのEGFリピートの構造が報告されている.我々の明らかにした構造は,O-グルコース単糖あるいは二糖で修飾されたヒトNotch1のEGF12と,よく重ね合わせることができた.また,O-フコース糖鎖を含むヒトNotch1のEGF12と構造を比較すると,O-フコース糖鎖は,O-グルコース糖鎖とは反対側に位置していた.このことは,O-グルコースとO-フコース糖鎖のNotch1のトラフィッキングやEGFリピートの安定化に対する作用が相加的であったことと矛盾しない.

5. 細胞表面におけるNotch活性化におけるO結合型糖鎖の役割

POGLUT1のノックアウトにより,HEK293T細胞において,内因性Notch1の細胞表面における発現量が減少することは,実は予想外の発見であった.なぜなら,ショウジョウバエやマウスの細胞株における解析では,Notchの細胞表面発現量に変化はみられなかったからである7, 8)O-グルコース糖鎖の欠損により,シグナル伝達に必要なNotchの切断が阻害され,Notchは不活化することから7)O-グルコース糖鎖は,細胞表面においても何らかの機能を担っているはずである.本研究で,O-グルコース三糖の付加によるEGFリピートの構造変化は観察されなかった.我々がヒトNotch1のEGF12にO-フコース糖鎖を付加し,その構造を解析したときにも同様で,O-フコース糖鎖はEGFリピートの構造に変化を及ぼさず,分子内の複数のアミノ酸と相互作用することにより,安定に存在していた9).分子表面に糖鎖が安定に存在していることは,生体内における分子認識に重要である可能性がある.たとえば,Notch1のEGF8とEGF12に付加しているO-フコース糖鎖はバックボーンとなるポリペプチド鎖と相互作用し,リガンド結合表面の一部を構成している.O-グルコース糖鎖はNotchとリガンドとの結合に必須ではないようである10, 11)O-グルコース糖鎖は,EGFリピートに保存されている疎水性領域を隠し,非特異的タンパク質間相互作用を抑えるような働きをしているのかもしれない.

リガンドがNotchの細胞外ドメインに結合すると,リガンド発現細胞側へのエンドサイトーシスにより,Notch分子は力学的な力により引っぱられ,Notchの膜近傍領域の構造が変化し,プロテアーゼによる切断が促進される(図2B12).また,Notchとリガンドの相互作用には,キャッチボンド(Catch Bond)メカニズムが作動していることも示唆されている11).個々のEGFリピートの“固さ”の違いは,Notchの活性化に必要な力学的な素過程に影響するかもしれない.ゆえに,EGFリピートのO結合型糖鎖は,EGFリピートの安定性と可塑性を制御する分子メカニズムとして重要な役割を果たしている可能性がある.

6. おわりに

O-グルコースとO-フコース糖鎖は,HEK293T細胞において,Notch1の正常な細胞表面における発現に必要で,相加的に寄与することがわかった.また,O-グルコースとO-フコース単糖の付加により,EGFリピートは安定化することが強く示唆された.POGLUT1とPOFUT1は,ちょうどPOFUT2のTSRsに対する機能と同じように,EGFリピートのフォールディングと安定性制御のための新たな小胞体における品質管理機構に関与していると考えられる.O-グルコース糖鎖は,小胞体に存在するキシロース転移酵素の作用により,伸長を受ける.興味深いことに,ショウジョウバエでは,このキシロースによる糖鎖の伸長はNotchの活性化を抑制する13, 14)O結合型糖鎖が織りなすNotchの活性化制御の十重二十重の分子メカニズムは,生物の持つ神秘性の一端を示すもので,興味はつきない.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,ジョージア大学のHaltiwanger博士の元で行われました.糖タンパク質の構造解析は,Van Andel Research InstituteのLi博士とYu博士との共同研究です.本研究に関わったすべての方に心より感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

竹内 英之(たけうち ひでゆき)

名古屋大学大学院医学系研究科機能分子制御学准教授.博士(薬学).

略歴

1972年埼玉県に生る.96年東京大学薬学部卒業.2001年同大学院薬学系研究科博士過程修了.同助手を経て,08年ストーニーブルック大学研究教員,15年ジョージア大学教員,17年より現職.

研究テーマと抱負

糖鎖による生体機能の調節機構の解明.特に,癌などの病態におけるO結合型糖鎖によるNotch受容体の機能制御の分子メカニズムを明らかにしたい.

ウェブサイト

http://www.med.nagoya-u.ac.jp/seika2/home.html

趣味

スポーツ観戦.

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