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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(4): 533-538 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900533

みにれびゅうMini Review

生殖細胞を体外培養で作るin vitro gametogenesisCurrent advance of in vitro gametogenesis

九州大学大学院医学研究院ヒトゲノム幹細胞医学分野Department of Stem Cell Biology of Medicine, Faculty of Medical Sciences, Kyushu University ◇ 〒812–8582 福岡市東区馬出3–1–1 ◇ Maidashi 3–1–1, Higashi-ku, Fukuoka 812–8582, Japan

発行日:2018年8月25日Published: August 25, 2018
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1. はじめに

生殖細胞は次世代の個体を作る唯一の細胞系列である.世代をつなぎ,常に新しい個体を生み出す能力を持つ配偶子(卵子や精子)になるために,生殖細胞系列はさまざまな特殊な分化過程を経る.生殖細胞系列の分化過程の異常は配偶子欠失など不妊症の原因となるほか,次世代の個体の発生・発育障害の原因ともなる.生殖細胞の分化過程をひも解くことは,生物学的・医学的に重要な意義があるが,そのための研究戦略の一つとして,生殖細胞系列の分化過程を体外培養で再現しようという試みがある.それらは,単に学究的な目的ばかりでなく,作られた配偶子を利用するという応用的な側面を含む.本稿では,近年進展めざましい,生殖細胞を体外培養で作る「in vitro gametogenesis」について,最近の知見とともにそれらが持つ課題について紹介する.

2. 生殖細胞系列の分化過程

生殖細胞系列の分化過程は時系列的に大きく二つの段階に分けることができる(図1).最初の段階は,卵子や精子のもとになる始原生殖細胞(primordial germ cells:PGCs)が生まれ,増殖しながら将来の卵巣や精巣になる生殖巣にたどりつく段階である(PGCsは生殖巣の外に生じ,その後生殖巣に遊走する).この段階におけるPGCsは雌雄間の形態的または遺伝子発現的な差異が小さく,もっぱら細胞のプールを増やすことに注力する.それと同時にゲノムワイドなDNAのメチル化の消去やヒストンの修飾の変化を起こす1).これは生殖細胞が両親から受け継いだエピゲノムの情報(主にクロマチンが持つ化学的修飾)を消去し,個体発生能を獲得するための準備期間といえる.

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図1 マウスにおける生殖細胞系列の分化

全能性を持つ受精卵から卵割を経て形成された胚盤胞は将来胎仔になる多能性細胞を含む内部細胞塊(inner cell mass:ICM)を持つ.ICM内の多能性細胞は着床後にエピブラストとなり周囲の組織からのシグナルに応じて原腸陷入を引き起こす.始原生殖細胞(PGCs)は胚体外外胚葉からのシグナルに応じて分化する.PGCsはその後,将来の卵巣もしくは精巣である生殖巣に移動したのちに,性に応じて卵子または精子に分化する.

第二の段階として,生殖巣に移動したPGCsは,周囲の体細胞から性特異的なシグナルを受けることにより,雌雄それぞれの分化過程に入る.これは将来的に卵子または精子になるための準備期間であり,将来的な雌雄における配偶子の生産性の違いを生む起点となる.すなわち雌のPGCsは減数分裂に入り卵母細胞となるため,それ以上に生殖細胞の数が増えることはなく,生涯において作られる卵子は少数に限られる(図1).これに比べ,雄のPGCsはしばらく増殖した後にG1期で細胞分裂を停止して前精原細胞になる.これらの細胞が出生後に増殖を再開した後に,その一部は精子幹細胞となり,多量の精子を長期間作り出す細胞として精巣内にとどまる(図1).雌雄ともに個体の性成熟に伴い配偶子の分化・成熟を開始するが,卵母細胞は閉鎖的な卵胞構造の中で一つの卵母細胞が成熟するのに対し,精子形成は精細管の中で多数の精子の形成が進行する.雌雄の配偶子ができる過程の詳細は他の著書を参考にされたい.

3. in vitro gametogenesisの定義と流れ

in vitro gametogenesisの定義はそれぞれの総説により異なるニュアンスがあるが,本稿では,生体内の生殖細胞系列の分化過程を(過程の長さや,使用する材料にかかわらず)体外培養系で再現することとする.歴史的な背景を考察するとin vitro gametogenesisは,おおよそ次のような順序で発展する.❶生殖器官(精巣や卵巣)の器官培養による配偶子の形成,❷生殖系幹細胞[ES細胞,iPS細胞,GS細胞(精原幹細胞)]の体外培養と生殖器官への移植による配偶子の形成,❸生殖系幹細胞からの体外分化培養による配偶子の形成.これらの進行に従って,これまでin vitro gametogenesisがどのように発展してきたかを以下に概説する.

4. PGCsの分化過程の再現

1)生体内エピブラストからのPGCsの分化誘導

上述したようにすべての配偶子はPGCsから生じる.すなわちin vitro gametogenesisの起点はPGCsの分化過程を再現するところから始まる.胚発生の過程において,マウスのPGCsは着床後の多能性細胞集団であるエピブラストが,隣接する胚体外外胚葉から分泌されるBMP4の作用により生まれる(図1).この過程を体外培養で再現するために,まずエピブラストの培養が試みられた2).この研究では,胚齢5~6日の胚から取り出したエピブラストの培養系を用いて,PGCsの分化に十分な成長因子の組合わせを決定した.興味深いことに,この培養法によりエピブラストから分化誘導したPGCsは胎仔精巣組織との凝集培養(再構成精巣)と,それら再構成精巣の成体への移植により機能的な精子となった点である.このことはエピブラストから分化誘導したPGCsが機能的であることを証明している.

2)ES/iPS細胞からのPGCsの分化誘導

エピブラストからのPGCsの誘導法の確立を受けて,ES/iPS細胞からPGCsを分化誘導する方法が確立された.この方法ではES/iPS細胞をアクチビンAとbFGFで培養することによりエピブラストに近い細胞へと分化誘導し,その後に上述と同じ方法でPGCsに分化誘導した.この方法により,生体内のPGCsと遺伝子発現が酷似したPGC様細胞(PGC-like cells:PGCLCs)へ分化誘導できる3).PGCLCsは精巣に移植すると機能的な精子となり,卵巣に支持細胞とともに移植すると,機能的な卵子となる.このことはES/iPS細胞から作られたPGCLCsが機能的であることを証明している(図2).

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図2 in vitro gametogenesisの現状

雌雄ともに,50年以上前の初期の試みと健常な産仔が得られる培養方法に限って掲載する.雌(上)では,器官培養によりEppigらが新生仔卵巣から,Morohakuらが胎仔卵巣から卵子を成熟させ,産仔を得ている.ES/iPS細胞を用いた分化誘導ではHayashiらがPGCLCsの分化誘導とそれらの移植,またHikabeらは長期培養により機能的な卵子を得ている.雄(下)では,Satoらが新生仔精巣の器官培養により機能的な精子を得ている.Kanatsu-ShinoharaらはGS細胞の樹立に成功し,それらの機能性を移植により証明した.ES/iPS細胞を用いた分化誘導ではHayashiらがPGCLCsの分化誘導とそれらの移植,IshikuraらはPGCLCsからのGS細胞の樹立に成功している.Zhouらは長期培養による円形精子細胞の分化誘導を報告している.

3)ヒトES/iPS細胞からのPGCLCsの誘導

マウスES/iPS細胞からのPGCLCsの誘導方法を参考に,ヒトES/iPS細胞からのPGCLCsの分化誘導方法が確立されている.Cambridge大学のSuraniらはヒトES/iPS細胞を「4i」と呼ばれる培養液で培養した後に,マウスとほぼ同じ分化誘導条件下で培養することによりヒトのPGCLCsを得た4).これとほぼ同時に斎藤らのグループはヒトiPS細胞をiMeL細胞と呼ばれる特殊な細胞に分化させた後に,PGCLCsを分化誘導した5).体外培養で分化誘導したヒトPGCLCsはヒト胚のPGCsとよく似た遺伝子発現を呈した.このようにヒトES/iPS細胞からのPGCLCsの分化誘導系を用いれば,使用の不可能なヒト胚での発生現象を体外で再現することが可能となり,その分化メカニズムの解明や不妊の原因究明にも大きく貢献すると考えられる.

5. 卵子の分化過程の再現

1)器官培養系による卵子の分化誘導

卵巣においては卵母細胞の数は増えることなく,未成熟な卵母細胞が第一減数分裂前期で停止した状態にいる.これらを体外培養によって受精可能な卵子にまで成熟させることはin vitro gametogenesisの重要なテーマである.未成熟な卵母細胞の体外培養における成熟は古くから試みられている6).その中でのマイルストーンは,Eppigらがマウスの新生仔の卵巣から成熟させた卵子を用いて産仔を得たことであろう7).この方法では卵巣の器官培養を8日間行った後に,二次卵胞を単離して培養することにより卵子へと成熟させた(図2).これらの卵子は体外受精により個体にまで発生した.この方法をもとに,Morohakuらは胎仔の卵巣を器官培養することにより,PGCsから機能的な卵子を作ることに成功した8).この方法では胚齢12日目の胎仔の卵巣を培養膜上で保持し,17日間培養後,Epiggらの方法と同様に二次卵胞を単離して卵子にまで成熟させた(図2).従来の胎仔卵巣の培養では,複数の卵母細胞を持つ卵胞(multi-oocyte follicle:MOF)が形成されることが問題であったが,Morohakuらは遺伝子発現解析からこの原因がエストロゲンシグナルの亢進であることを見いだした.実際に胎仔卵巣の培養期間中にエストロゲン阻害剤を加えると,MOFの形成は抑制され,卵胞内には一つの卵母細胞が形成された.in vitro gametogenesisにおけるMorohakuらのブレークスルーのポイントは,雌性生殖細胞系列で初めて減数分裂の開始から完了までを再現したことである(胚齢12日目の卵原細胞は体細胞分裂を行っている).

2)ES/iPS細胞からの卵子の分化誘導

筆者らは尾畑らの培養系を参考に,ES/iPS細胞から機能的な卵子を作ることに成功した9)図2).この方法ではES/iPS細胞から分化誘導したPGCLCsを胎仔卵巣の体細胞と凝集させて疑似卵巣を作製した.疑似卵巣を尾畑らの方法に従って培養することにより,二次卵胞を作製し,それらを単離して培養することにより卵子にまで成熟させた.ES/iPS細胞を用いた卵母細胞の分化過程は形態的変化や遺伝子発現などにおいて,体内の卵母細胞系列の分化過程をおおよそ踏襲していた.これらの卵子は,生体内の卵子よりも効率は低いものの,受精により個体にまで発生した.得られた個体は生殖機能を持つ成体にまで成長した.この研究でのiPS細胞は十分に成熟した成体(10週齢)の雌マウスの尻尾の細胞から樹立されており,理論上どこの細胞からも卵子を作れる可能性を示した点で意義深いと思われる.

3)ES/iPS細胞から作られる卵子の課題

これまで述べたように,ES/iPS細胞から卵子を体外培養下で分化誘導することが可能となってきた.しかしながら,これらは技術的に多くの課題を残している.最も大きい問題は,in vitro gametogenesisで作られる卵子の品質が低いことである.たとえば,ES細胞由来の2細胞期胚のうち,偽妊娠雌マウスへの移植後に,個体まで発生するのはわずか3.5%である(通常の体外受精した2細胞期胚は60~70%).またiPS細胞由来の2細胞期胚のうち個体まで発生するのは,さらに低く,0.3~0.9%である.これらの発生率の低さを裏づけるようにin vitro gametogenesisで作られる卵子には,減数分裂前期における相同染色体の不対合,遺伝子発現の変化,成熟遅延と減数分裂の早期再開,成熟卵子における染色体の異数性,胚発生の遅延などさまざまな異常が認められる.これらの原因は不明であるが,それぞれの相違点を指標にして培養条件の改良が必要であると思われる.これと同時に多数の卵母細胞/卵子の中から良質のものを選別する技術の開発も重要となると考えられる.また近年では体外受精に伴う短期間の培養も胚のエピゲノムに影響するという報告もあることから,5週間にわたる長期培養の末に作られる卵子のエピゲノムについても詳細に解析する必要がある.

4)ヒト卵子の成熟培養

ヒトの卵巣内の未成熟な卵母細胞を成熟させる培養方法の開発が進んでいる.Woodruffらは卵巣中の二次卵胞をアルギン酸ゲルに包埋して培養し,未成熟な卵母細胞を卵子まで成熟させることに成功している.この方法では,卵胞の成長に従い,アルギン酸ゲルの包埋から卵胞を取り出す方法を採用している.これは,卵胞が成長するに従い,組織的に柔らかい卵巣の髄質に移動する状態を再現しているものと考えられる.最近になってTelferらのグループは4段階の培養方法を用いて,二次卵胞よりも未熟な卵胞から成熟した卵子を得ることに成功した.これらの報告で得られた成熟卵子は受精等の機能性を検証していないが,ヒトの卵母細胞の成熟培養方法の開発に多くの知見を与えている.

6. 精子の分化過程の再現

1)器官培養系による精子の分化誘導

精巣の器官培養は古く,約100年間にわたりさまざまな試みがなされている6, 10, 11).しかしながら,これらの器官培養では減数分裂に移行している細胞は認められるものの,一倍体の精子細胞や精子を認めることはなかった.Satoらは新生仔マウスの精巣をアガロースゲル上で器官培養することにより,機能的な精子を分化させることに成功した12)図2).この研究では減数分裂と一倍体の細胞にそれぞれ特異的に発現するレポーターを用いて培養液の検討を行い,血清を代替するKSR(knockout serum replacement)が精子の分化に有効であることを見いだした.得られた精子は卵子と受精させることにより個体にまで発生した.しかしながら,この方法での精子形成は4週間目をピークに下がり始めることから,彼らはさらに長期培養が可能なマイクロデバイスシステムを開発した.この方法では,24週以上の継続的な精子形成が観察される.これらの方法は凍結した精巣組織からも精子を作ることができ,将来的に小児がん患者の妊孕性の維持や動物の種の保存などへの応用が期待されている.

2)精子幹細胞の培養

生体内に存在する生殖細胞系列における唯一の幹細胞は精子幹細胞であろう.精子幹細胞は精巣の基底側に存在し,自己複製をすることによって,長期にわたり精子を産生する.精子幹細胞の維持に重要な因子としてセルトリ細胞に発現するグリア細胞株神経栄養因子(glial-cell derived neurotrophic factor:GDNF)が同定されている.GDNFやその受容体であるGFRα1, Retを欠損したマウスでは,出生後に精原細胞が減少し,逆にGDNFを過剰発現させると精原細胞の蓄積が観察される.篠原らは,これらの知見をもとに,マウス新生仔の精巣の細胞をGDNF存在下で体外培養することにより精子幹細胞を増殖させることに成功した13)図2).この精子幹細胞株(GS細胞)は体外培養条件下でほぼ無限に増殖する.GS細胞は幹細胞活性を維持しており,精巣に移植すると精子形成を行う.この発見はきわめて大きく,精子幹細胞の性質を解析するための材料ばかりでなく,遺伝子改変動物の作製のための新しい技術の基盤を提供している.今後は他の動物のGS細胞を樹立する培養技術の開発と,移植を介さずに精子にまで分化誘導できるin vitro gametogenesisの開発が重要となるであろう.

3)ES/iPS細胞からの精子の分化誘導

ES/iPS細胞から精子を直接分化誘導する試みは,2000年以降に活発に行われている.DaleyやSchattenらのグループはES細胞をレチノイン酸などにより分化誘導し,半数体を得たことを報告している14, 15).これらの半数体細胞の機能性は不明であるが,半数体細胞の分化過程は生体内の分化過程と比較してきわめて短いことから,正確に精子形成の過程を再現している可能性は低い.Nayerniaらは形態的には野生型の精子とは異なる半数体の細胞をES細胞から分化誘導し,それらの細胞から産仔を得たことを報告した16).しかしながら得られた新生仔マウスの成長過程には異常が認められ,ほとんどが成長せずに死んだとされている.最近になりZhouらのグループは,ES細胞から分化誘導したPGCsを胎仔精巣の体細胞と凝集培養し,円形精子細胞を作製したことを報告した17).これらの円形精子細胞からは産仔が得られている(図2).しかしながらこの方法においても,体外培養下における円形精子細胞への分化に要する時間は,生体内の精子の分化過程と比較して短い(生体が精子幹細胞から22~26日かかるのに対し,体外培養系ではPGCsからわずか14日で円形精子細胞に達する).筆者の私見では,正常な機能を持つ配偶子を作り出すためには,生体内と同様の時間経過が必要と考えている.逆の見方をすれば,生体内と同じ時間経過で分化するか否かが,体外培養系を評価する上で重要であると思われる.したがって,これらの報告については,再現性と得られる細胞の配偶子としての機能性を慎重に検証する必要がある.

ES/iPS細胞から精子への分化過程を検証する一つの指標として,精子幹細胞がある.上述したように精子幹細胞は体外培養で増殖が可能であることから,この細胞への分化は容易に検証できる.最近マウスのES細胞からGS細胞を誘導する培養方法がIshikuraらにより報告された18)図2).この方法ではES細胞から分化誘導したPGCLCsを胎仔精巣の体細胞と凝集培養することによりGS細胞を樹立している.ES細胞由来のGS細胞は精巣への移植により機能的な精子となるが,多くのGS細胞株においてエピゲノムの異常が認められる.胎仔期にある前精原細胞では,ダイナミックなエピゲノムの変化が起こることから,この時期の細胞の培養にはエピゲノムの変化について注意することが重要であると思われる.

7. ヒトへの応用の可能性と障壁

上述したようにin vitro gametogenesisに関する技術開発はマウスにおいて格段に進んだ.一部の過程についてはヒトでも試されているが,全面的にヒトに適用するには何が必要であろうか? マウスの細胞を用いたin vitro gametogenesisでは成熟した卵子や精子を得るために,卵巣や精巣の支持細胞と共培養することが必須である.具体的には卵巣では顆粒膜細胞や莢膜細胞,精巣ではセルトリ細胞やライデッヒ細胞が,配偶子の分化に必須な役割を担う.特にPGCLCsからの分化系では,胎仔の卵巣または精巣の細胞が必要であり,これらの細胞の調製はヒトでは困難である.この問題を解決する方法として,組換えタンパク質等でこれらの細胞の機能を代替するか,ES/iPS細胞からこれらの細胞を分化誘導することが考えられる.前者に関してはすべての細胞機能を組換えタンパク質や小分子で補完することは難しいと予想される.特にセルトリ細胞は精子形成のすべての過程において密接に関わり,その最終分化段階では精子細胞の細胞質を貪食作用によって吸収するなど,物理的な作用も要求される.一方後者の可能性については,いくつかの予備的な報告がある.これらの報告では,分化誘導した細胞の機能性は十分に証明されていないものの,遺伝子発現等はよく似ている.今後の研究においてこれらの分化誘導技術の進展が期待される.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

林 克彦(はやし かつひこ)

九州大学大学院医学研究院ヒトゲノム幹細胞医学分野教授.理学博士.

略歴

1996年明治大学農学研究科修士課程修了後,東京理科大学生命科学研究所助手,2002年より大阪府立母子保健総合医療センター研究所研究員,この間に理学博士を取得(東京理科大学),05年よりケンブリッジ大学ガードン研究所博士研究員,09年より京都大学大学院医学研究科講師および准教授,14年から九州大学医学研究院教授.

研究テーマと抱負

哺乳類の卵母細胞系列の分化機構を明らかにし,それらがどのように種の永続性を保証しているかについて考察したい.

ウェブサイト

https://hgs.wp.med.kyushu-u.ac.jp/

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