生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
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Journal of Japanese Biochemical Society 90(5): 706-710 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900706

みにれびゅうMini Review

トランスポーターを標的としたプリン作動性化学伝達の特異的遮断薬の同定Identification of a specific inhibitor of purinergic chemical transmission with a focus on transporter

岡山大学自然生命科学研究支援センターAdvanced Science Research Center, Okayama University ◇ 〒700–8530 岡山県岡山市北区津島中1–1–1 ◇ 1–1–1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700–8530

発行日:2018年10月25日Published: October 25, 2018
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1. はじめに

神経・内分泌細胞は分泌小胞に充填したアデノシン5´-三リン酸(adenosine 5´-triphosphate:ATP)を開口放出し,ATPやその代謝物がプリン受容体に結合することで情報を伝達する(図1).これがプリン作動性化学伝達であり,痛覚等の感覚受容,学習・記憶等の高次精神活動,血糖や血圧等の代謝調節,炎症応答や血液凝固等といった多彩な生理機能を制御する1).プリン受容体とそれ以後のシグナル伝達カスケードの研究成果より,プリン作動性化学伝達の異常は疼痛をはじめとするさまざまな疾患を引き起こすことが明らかになってきた1).しかし,トランスポーターのよい輸送活性評価法がなかったため,ATPの小胞内充填とその放出機構はほとんどわかっていなかった.

筆者らは,真核生物のトランスポーターを機能解析できる普遍的な方法を構築し,小胞内にATPを充填する分子実体,小胞型ヌクレオチドトランスポーター(vesicular nucleotide transporter:VNUT/SLC17A9)を同定した(図12).VNUTは,ATPを分泌するといわれていた神経・内分泌細胞に発現していた.VNUTノックアウト(VNUT−/−)マウスでは,ATPの小胞内充填とその放出がなくなり,その結果,健康であり,かつ,疼痛や高血糖,インスリン感受性等が大幅に改善した3–5).これはVNUTの特異的阻害剤が薬になりえることを示唆している.本稿では,VNUT特異的阻害剤の同定とその有効性について述べる5)

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図1 プリン作動性化学伝達

(A)神経・内分泌細胞はさまざまな伝達物質を放出する.プリン作動性化学伝達はヌクレオチドを伝達物質とするものを指す.(B)VNUTにより分泌小胞に濃縮されたATPは開口放出され,さまざまなプリン受容体に結合することで,多彩な生理作用を発揮する.

2. プリン作動性化学伝達は疼痛の発症に関与する

慢性疼痛は軽微なものを含めると人口の約20%もの罹患者がいる.その医療費は年に600億ドルにものぼり,毎年100億ドルずつ増加すると試算されている6).このうち,神経障害性疼痛はがん,糖尿病,帯状疱疹,ヒト免疫不全ウイルス等による神経の障害,また,炎症性疼痛はがん,痛風,リウマチ等による末梢の炎症等が原因となる耐えがたい慢性疼痛である.慢性疼痛にはそれぞれの原因に応じた治療が必要であるが,発症メカニズムに不明な点が多いため,副作用の少ない,効果的な鎮痛薬がこれまでなかった.

脊髄でのプリン作動性化学伝達の異常は神経障害性疼痛や炎症性疼痛等の幅広い慢性疼痛の発症を引き起こす4, 7, 8).神経に損傷が生じると,脊髄後角のシナプス間隙にATPが放出され,放出されたATPはミクログリアのP2X4やP2Y12受容体に結合する.その結果,ミクログリアが活性化され,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)が放出され,脊髄後角の二次ニューロンが興奮することで,神経障害性疼痛を引き起こしてしまう.一方,末梢組織において炎症により侵害受容器が活性化されると,一次求心性ニューロンからグルタミン酸やATPが放出される.ATPはプレシナプスのP2X2/3受容体に結合すると,細胞内カルシウム濃度を上昇させ,グルタミン酸放出を上昇させる.その結果,脊髄後角のポストシナプスのグルタミン酸受容体の活性化を引き起こし,炎症性疼痛を発症する.以上のように,プリン受容体は疼痛に対するよい創薬標的といえるが,複数のサブタイプがあるため,慢性疼痛を幅広く抑制できる特異的阻害剤の同定は困難であった.

VNUTは分泌小胞へATPを濃縮する分子装置であり,新規の膜分子であった.VNUTは,液胞型(V型)ATPaseが形成するH勾配による膜電位差を駆動力として,Cl依存的にATPを含むヌクレオチドを輸送する2, 9).この機能が破綻すると,ATPが小胞内に蓄積されないことにより開口放出されず,プリン作動性化学伝達が遮断される.最近,脊髄後角の神経細胞のVNUTを特異的に遺伝子破壊すると,神経障害性疼痛が発症しにくいことも明らかにされた4).したがって,VNUTは複数の疼痛を制御できる新しい分子標的であると考えられ,その特異的阻害剤を同定することができれば,プリン作動性化学伝達を標的とした新しい鎮痛薬の開発が期待できるだろう.

3. VNUT特異的阻害剤クロドロン酸の同定

これまでに複数のタイプの疼痛に対する鎮痛効果が臨床報告されているものの,その分子標的が不明な化合物があった.その代表格の一つが骨粗鬆症治療薬のビスホスホネート製剤である.ビスホスホネート製剤は第一世代から第三世代まで開発されており,骨を溶かす破骨細胞をアポトーシスさせることで骨吸収抑制作用を発揮する.第二,第三世代は骨吸収抑制作用も強力な一方で,顎骨壊死等の副作用が臨床的に問題視されていた.第一世代のビスホスホネート製剤は,骨吸収抑制作用と副作用が低いにも関わらず,鎮痛効果が報告されていたため,新たな鎮痛薬になると期待されていた10–12)

我々は,精製・再構成による輸送活性評価法を用いて,ビスホスホネート製剤によるVNUTの阻害効果を評価した(図2A13).すなわち,可溶性αヘリックスタンパク質とHisタグをN末端とC末端に連結したVNUTを大腸菌に大量発現させ,膜画分を界面活性剤で可溶化,nickel-nitrilotriacetic acid(Ni-NTA)アフィニティーカラムで精製した.可溶性αヘリックスタンパク質の連結により,大腸菌でも封入体を形成することなく真核生物トランスポーターを発現できるようになる.これを人工膜小胞(リポソーム)に再構成し,放射性標識したATPの輸送活性を測定した.その結果,第一世代のビスホスホネート製剤のうちクロドロン酸がIC50値=15.6 nMというきわめて低濃度でVNUTを阻害することを明らかにした5).その他のすべてのビスホスホネート製剤を評価したが,クロドロン酸ほどVNUTを阻害したものはなかった.さらに,クロドロン酸はVNUT以外の小胞型神経伝達物質トランスポーター活性を阻害せず,破骨細胞のアポトーシスを起こす濃度よりも低濃度で作用した.

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図2 VNUT特異的阻害剤の同定とその作用メカニズム

(A)VNUTの精製・再構成によるATP輸送活性評価法.(B)クロドロン酸はVNUTのCl依存性に競合することで作用するアロステリック薬剤である.

続いて,この作用メカニズムを詳細に検討した.VNUTはCl非存在下ではまったく輸送活性を示さず,数mMのClで活性化され,10 mMでプラトーに達する.この活性化のヒル係数は3であり,きわめて高い正の協同性(アロステリック効果)を示した.飢餓や高脂質・低炭水化物食では体内のケトン体が上昇することが知られているが,ケトン体のアセト酢酸はVNUTを含むsolute carrier(SLC)17型トランスポーター群のClによる活性化を競合的に阻害する14).このメカニズムは生体の代謝状態を感知する代謝スイッチといえる.クロドロン酸はまさにVNUTの代謝スイッチを選択的にオフする化合物であることを明らかにした(図2B).また,クロドロン酸のVNUT阻害効果は完全に可逆的であった.以上より,VNUTの選択的かつ可逆的なアロステリック阻害剤としてクロドロン酸を同定することができた.

4. VNUT阻害剤によるATP開口放出の遮断

疼痛に関与するATP開口放出のモデル細胞として神経細胞,グリア細胞,免疫細胞を用いて,クロドロン酸の効果を検証した.その結果,クロドロン酸は神経細胞,ミクログリア,THP-1細胞(ヒト単球の株化細胞)等に取り込まれ,ATPの開口放出を完全に阻害した5).この阻害効果は完全に可逆的であった.クロドロン酸は神経細胞由来の鎮痛効果だけでなく,免疫細胞由来の抗炎症効果もあることが示唆された.また,脊髄後角神経細胞のVNUTが神経障害性疼痛の発症に必須であるため4),クロドロン酸に神経障害性疼痛への強力な鎮痛効果があることを期待させた.

5. プリン作動性化学伝達の遮断による慢性疼痛の新たな治療戦略

坐骨神経の部分結紮(Seltzer法)による神経障害性疼痛,カラゲニンあるいは完全フロイントアジュバンド(complete Freund’s adjuvant:CFA)誘導性の炎症性疼痛モデルマウスを作製し,機械と熱痛覚過敏に対するクロドロン酸の鎮痛効果を評価した.期待どおり,クロドロン酸投与群は生理食塩水投与群と比較して,すべての疾患モデルにおいて強力な鎮痛効果を発揮した(図3A).一方で,非病態部位ではまったく効果はなく,既存薬効のアポトーシスも誘導されなかった.既存医薬品と鎮痛効果を比較すると,臨床で汎用されているプレガバリンやガバペンチン(カルシウムチャネルα2δ阻害薬),トラマドール(非麻薬性オピオイド)と同等,あるいは,それ以上の薬効を示した.また,既存薬では眠気やふらつき等の重い副作用が知られているが,クロドロン酸投与群では,そのような副作用は観察されなかった5).さらに,クロドロン酸は既存薬よりも即効性と持続性があることがわかった(図3B).クロドロン酸はオルガネラの生体膜(分泌小胞)にあるVNUTに作用するため,速やかに細胞内に取り込まれた後,細胞外への排出速度が遅いこと等が持続性に関与していると推察している.興味深いことに,VNUT−/−マウスは痛みを感じにくくなっていたが,クロドロン酸投与による鎮痛効果はまったくなかった(図3A).この結果から,クロドロン酸のin vivoでの分子標的もVNUTであると結論した.

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図3 VNUT特異的阻害剤による神経障害性疼痛の鎮痛効果

(A)低用量のクロドロン酸はVNUTを標的として強力な鎮痛効果を発揮した.Clo:クロドロン酸.(B)クロドロン酸は既存医薬品より強力な鎮痛効果を発揮し,その効果は即効性があり,持続的であった.クロドロン酸(赤),Pre:プレガバリン(青),Gab:ガバペンチン(黒).(C)クロドロン酸によるプリン作動性化学伝達の遮断メカニズム.

VNUT−/−マウスはカラゲニンやCFA投与(慢性炎症惹起マウス)による足の浮腫が低減していた5).野生型の慢性炎症惹起マウスにクロドロン酸を投与すると,VNUT−/−マウスと同等の抗炎症効果を発揮した.既存薬と比較すると,ステロイド製剤であるプレドニゾロンと同程度の効果であった.ステロイド製剤はさまざまな副作用が問題視されているため,クロドロン酸は抗炎症薬としても期待できるといえるだろう.プリン作動性化学伝達は炎症応答に関与するサイトカイン分泌を制御する報告があったため15),血中のサイトカインを定量した.その結果,カラゲニン投与により,血中のインターロイキン6(interleukin-6:IL-6)と腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor:TNF-α)が上昇していたが,クロドロン酸投与群ではこれらの炎症性サイトカインが著しく低減していた5).以上より,クロドロン酸は免疫細胞のATP開口放出を阻害することで炎症性サイトカインの分泌を抑制し,抗炎症効果を発揮すると結論した.

6. おわりに

以上のように,VNUTを阻害することで,プリン作動性化学伝達の出力が遮断され,鎮痛効果や抗炎症効果を発揮することを実証し,その有望な候補医薬品の一つとしてクロドロン酸を同定することができた(図3C).医薬品開発されれば,鎮痛薬や抗炎症薬として世界で初めてのトランスポーター創薬となる.また,クロドロン酸はケミカルバイオロジーにより化学伝達を選択的かつ安全に制御できる新たな研究ツールとしても期待できる.

これまでにVNUT−/−マウスは高血糖になりにくく,インスリン感受性が改善されること等を報告している3).これまでに明らかにされたVNUT−/−マウスの表現型はいずれも生活習慣病の原因を改善できるものであったため,生活習慣病等への応用も期待される.今後,本研究が契機となり,プリン作動性化学伝達が関与する疾患へのVNUT阻害剤の有効性が明らかにされていくものと期待している.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究成果を発表するにあたり,大変お世話になりました多くの先生方に,この場を借りて深くお礼申し上げます.また,本研究成果は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構革新的研究開発支援事業(AMED-PRIME),文部科学省科学研究費補助金,公益財団法人アステラス病態代謝研究会等の研究助成を受けました.

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著者紹介Author Profile

宮地 孝明(みやじ たかあき)

岡山大学自然生命科学研究支援センターゲノム・プロテオーム解析部門准教授,同大学大学院医歯薬学総合研究科膜輸送分子生物学研究室.博士(薬学).

略歴

2004年岡山大学薬学部卒業.06年同大学院自然科学研究科薬品科学専攻博士前期課程修了.09年同大学院医歯薬学総合研究科創薬生命科学専攻博士後期課程修了.同年岡山大学自然生命科学研究支援センターゲノム・プロテオーム解析部門助教(同大学院医歯薬学総合研究科兼担).12年より現職.

研究テーマと抱負

創薬を目指した真核生物トランスポーターの機能と構造に関する研究.トランスポーターは創薬標的として有望であるが,生理機能の大半は不明なままである.この機能を同定し,その分子メカニズムに基づくFirst-in-Classの創薬を目指したい.

ウェブサイト

http://www.okayama-u.ac.jp/user/grcweb/dgpweb/dgp/tp/staff/st02.html

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