生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 90(5): 711-714 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900711

みにれびゅうMini Review

プロスタグランジンD2代謝物に関する最近の話題Current topics in prostaglandin D2 metabolites

1名古屋大学大学院生命農学研究科応用生命科学専攻食品機能化学研究室Laboratory of Food and Biodynamics, Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University ◇ 464–8601 愛知県名古屋市千種区不老町 ◇ Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, Aichi 464–8601

2東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻食糧化学研究室Laboratory of Food Chemistry, Department of Applied Biological Chemistry, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒113–8657東京都文京区弥生1–1–1 ◇ 1–1–1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113–8657

発行日:2018年10月25日Published: October 25, 2018
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1. はじめに

シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用によりアラキドン酸から産生されるプロスタグランジンG2(PGG2)は,各種PG合成酵素の作用により,PGD2やPGE2などのプロスタノイドへと変換される.中でもPGD2は,血小板凝集や睡眠誘導などさまざまな生理作用を有するだけでなく,さらなる代謝を受けて,シクロペンテノン構造を有するJ2型PG類へと変換されることが知られている1).J2型PGの中でも特に15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2(15d-PGJ2)は,炎症後期に産生される抗炎症性メディエーターとして作用するということや2, 3),核内受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(peroxisome proliferator-activated receptor γ:PPARγ)のアゴニストとして作用することなど4, 5),ユニークな生理作用を有することが報告されており,多くの注目を集めてきた.こうした生理作用の多くは,J2型PG類の有する親電子性に起因することが明らかにされている.すなわち,親電子性分子である15d-PGJ2が,標的タンパク質中のシステインなどの求核性アミノ酸残基に対し共有結合修飾をすることにより,上記のような作用を引き起こすものと考えられている.本稿では,PGD2代謝物や類縁化合物の生成とその生理作用に関する最近の知見を紹介したい.

2. PGD2代謝機構の解明

PGD2の非酵素的変換経路に関しては古くから研究がなされており,9位および15位の水酸基における脱水反応と,血清アルブミンにより触媒される二重結合の転位が知られている(図11, 6).しかしながらその全容についてはいまだ十分な解析がなされていなかったことから,筆者らは質量分析装置を用いたPGD2代謝物の一斉検出を行った.PGD2代謝物は,化学構造が互いによく類似していることから,液体クロマトグラフィーによる分離において,逆相のC30カラムとキラルカラムを直列に接続することにより,分離できるよう工夫した.この方法を用いて,PGD2in vitroにおける変換産物を分析したころ,ヒト血清アルブミンとともにPGD2をインキュベーションしたときに生成される新たなピークを検出した.このピークを単離,精製し,高分解能質量分析およびNMRなど各種機器分析を行い,最終的にPGD2の13位の二重結合が12位に転位した異性体であるΔ12-PGD2であることを明らかにした.Δ12-PGD2については,これまでも血清中でのインキュベーション実験で検出されたとの記述がなされているが,実際のデータは掲載されておらず,その化学構造の詳細な解析はなされていなかった7)

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図1 PGD2代謝経路

ヒト血清アルブミン存在下では,PGD2は主にΔ12-PGD2へと変換される.

次に筆者らの研究グループは,Δ12-PGD2が実際にin vivoでも存在するのかを明らかにするために,質量分析装置を用いた安定同位体希釈法による検出・定量を行った.2,4-ジニトロフルオロベンゼン(2,4-dinitrofluorobenzene:DNFB)塗布による接触皮膚炎モデルマウスを作製し,その病変部位におけるPGD2およびPGD2代謝物の定量を行った.その結果,PGD2代謝物の中でもΔ12-PGD2が最も多く存在すること,さらにDNFB塗布において有意に増加することが明らかとなった.これらの結果は,Δ12-PGD2in vivoでも存在することを示すとともに,アレルギー性疾患などの病態において何らかの作用をしている可能性を示唆するものである.今後Δ12-PGD2の生体内における病理的あるいは生理的意義の解明が期待される.

3. 5-リポキシゲナーゼとCOXの協調的な作用により生成されるPGD2類縁体

プロスタグランジン類やロイコトリエン類は,COXまたは5-リポキシゲナーゼ(5-lipoxygenase:5-LOX)のいずれかによるアラキドン酸に対する酸素付加反応によって開始される二つの生合成経路を介して生成される(図2).しかしながら,5-LOX産物である5S-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(5S-hydroxyeicosatetraenoic acid:5S-HETE)はCOX-2の基質にもなりうることが報告されており,PGH2と類縁構造を有する二環式ジエンドペルオキシドを形成することが知られていた8).Schneiderらのグループは,LC-MS分析やNMR解析を用いて,ジエンドペルオキシドの非酵素的転位生成物として二つの環状ヘミケタールを同定し,それぞれヘミケタールD2(hemiketal D2:HKD2)およびHKE2と命名した9).また,このジエンドペルオキシドは,造血器型PGD合成酵素に対する基質となりうる分子であり,効率的にHKD2へと変換される.HKD2やHKE2は,リポ多糖およびカルシウムイオノフォアA23187で刺激したヒト白血球において生成されることが明らかになっているだけでなく10),血管新生促進作用を有していることも明らかにされている9).このような複数の脂質代謝酵素の協調的かつ段階的な触媒作用により,これまで知られてこなかった未知の脂質メディエーターが生体には存在している可能性がある.

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図2 5-LOXとCOXの協調的作用によるヘミケタールの生成経路

5-LOXの作用を受けてアラキドン酸より生成される5S-HETEがCOXの基質となり,二環式ジエンドペルオキシドへと変換される.これがさらに造血器型PGD合成酵素により触媒されて,ヘミケタールD2(HKD2)へと変換される.

4. PGD2代謝物による神経突起伸長促進活性

アレルギー条件下におけるマスト細胞の応答に関してはこれまでによく理解されている.アレルゲンによってマスト細胞の高親和性IgE受容体(FcεRI)が架橋されると,ヒスタミンなどの炎症促進性のメディエーターが分泌される.この初期応答に続いて,リンパ球や好酸球などの免疫細胞の遊走に関与するサイトカインやケモカインを産生・分泌し,炎症応答を誘導する11).マスト細胞が主に免疫応答に関与しているということは以前からよく知られているが12),神経細胞に対しても影響を与えるという報告もなされつつある.そこで筆者らの研究グループは,活性化したマスト細胞の分泌物による神経細胞への影響を解析した.

ラット好塩基球性白血病マスト細胞株であるRBL-2H3細胞を,抗2,4-ジニトロフェノール(2,4-dinitrophenol:DNP)IgE抗体およびDNP結合ウシ血清アルブミン(DNP-BSA)処理により活性化させた後,その培養上清をラット副腎髄質褐色細胞腫PC12細胞に投与したところ,単独では神経突起伸長活性を示さないごく低濃度の神経成長因子(nerve growth factor:NGF)の作用を増強することが明らかとなった.活性化マスト細胞の培養上清のみでは活性がみられないものの,低濃度のNGFと共投与することにより,神経細胞の分化が顕著に促進された.この活性は,マスト細胞にCOX阻害剤であるNS398を処理することにより有意に抑制されたことから,マスト細胞のCOX産物がその増強活性に関与していることが予想された.そこでこの活性成分の探索を行ったところ,J2型PGの一つである15d-PGJ2が同定された.実際に15d-PGJ2単独投与では活性を示さないものの,低濃度NGF存在下においては15d-PGJ2濃度依存的に神経突起伸長が促進されることが確認された.

このようなNGF依存的な神経突起伸長促進活性の分子メカニズムを明らかにするため,各種阻害剤等の検討を進めた結果,transient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)の関与が示唆された.実際,TRPV1のsiRNAによるノックダウン実験や,TRPV1発現ベクターによる一過的過剰発現実験からも,15d-PGJ2による増強作用がTRPV1依存的であることが確認された.また,親電子性の低い15d-PGJ2アナログである9,10-ジヒドロ-15d-PGJ2は,神経突起増強作用をまったく示さないことから,15d-PGJ2の親電子性が重要であることが示唆された.このことから,15d-PGJ2がTRPV1タンパク質に直接共有結合をすることにより,TRPV1を活性化している可能性を予想し,ビオチン標識15d-PGJ2を用いたラベル実験を行った.その結果,興味深いことに,PC12細胞にビオチン標識15d-PGJ2を投与してもTRPV1タンパク質にはビオチンラベルされないものの,NGF共投与時ではビオチンラベルされることがわかった.このことは,NGF存在下においてのみ15d-PGJ2が神経突起伸長作用を示す理由を説明するものであると考えられる.すなわち,それ自身では神経突起伸長作用を示さない1.5 ng/mLという低濃度のNGF刺激によりTrkA受容体を介してTRPV1が小胞体から細胞膜上へ移行し,次いで15d-PGJ2が細胞膜上のTRPV1に対し共有結合することにより活性化させ,細胞外からのカルシウムイオン流入を誘導し,結果として神経突起の伸長を促進するものと考えられる(図313)

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図3 15d-PGJ2による神経成長因子活性増強メカニズム

5. おわりに

15d-PGJ2などのPGD2代謝物の有するさまざまな生理活性に関する研究報告が多数なされているが,生体内での真の生理的意義についてはいまだ不明な点が多く,その解明が待たれる.また,これまで数多くの脂質メディエーターが同定されてきたが,まだまだ構造や機能未知の分子が生体内には数多く存在するものと考えられ,それらを一つずつ明らかにしていくことが,複雑な生命現象の一端を解明することにつながるものと期待される.

引用文献References

1) Shibata, T., Kondo, M., Osawa, T., Shibata, N., Kobayashi, M., & Uchida, K. (2002) 15-deoxy-delta 12,14-prostaglandin J2. A prostaglandin D2 metabolite generated during inflammatory processes. J. Biol. Chem., 277, 10459–10466.

2) Rossi, A., Kapahi, P., Natoli, G., Takahashi, T., Chen, Y., Karin, M., & Santoro, M.G. (2000) Anti-inflammatory cyclopentenone prostaglandins are direct inhibitors of IkappaB kinase. Nature, 403, 103–108.

3) Straus, D.S., Pascual, G., Li, M., Welch, J.S., Ricote, M., Hsiang, C.H., Sengchanthalangsy, L.L., Ghosh, G., & Glass, C.K. (2000) 15-deoxy-delta 12,14-prostaglandin J2 inhibits multiple steps in the NF-kappa B signaling pathway. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 4844–4849.

4) Kliewer, S.A., Lenhard, J.M., Willson, T.M., Patel, I., Morris, D.C., & Lehmann, J.M. (1995) A prostaglandin J2 metabolite binds peroxisome proliferator-activated receptor γ and promotes adipocyte differentiation. Cell, 83, 813–819.

5) Forman, B.M., Tontonoz, P., Chen, J., Brun, R.P., Spiegelman, B.M., & Evans, R.M. (1995) 15-Deoxy-Δ12,14-Prostaglandin J2 is a ligand for the adipocyte determination factor PPARγ. Cell, 83, 803–812.

6) Fitzpatrick, F. & Wynalda, M. (1983) Albumin-catalyzed metabolism of prostaglandin D2. Identification of products formed in vitro. J. Biol. Chem., 258, 11713–11718.

7) Atsmon, J., Sweetman, B.J., Baertschi, S.W., Harris, T.M., & Roberts, L.J. 2nd. (1990) Formation of thiol conjugates of 9-deoxy-Δ912(E)-prostaglandin D2 and Δ12(E)-prostaglandin D2. Biochemistry, 29, 3760–3765.

8) Schneider, C., Boeglin, W.E., Yin, H., Stec, D.F., & Voehler, M. (2006) Convergent oxygenation of arachidonic acid by 5-lipoxygenase and cyclooxygenase-2. J. Am. Chem. Soc., 128, 720–721.

9) Griesser, M., Suzuki, T., Tejera, N., Mont, S., Boeglin, W.E., Pozzi, A., & Schneider, C. (2011) Biosynthesis of hemiketal eicosanoids by cross-over of the 5-lipoxygenase and cyclooxygenase-2 pathways. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 6945–6950.

10) Giménez-Bastida, J.A., Shibata, T., Uchida, K., & Schneider, C. (2017) Roles of 5-lipoxygenase and cyclooxygenase-2 in the biosynthesis of hemiketals E2 and D2 by activated human leukocytes. FASEB J., 31, 1867–1878.

11) Kalesnikoff, J. & Galli, S.J. (2008) New developments in mast cell biology. Nat. Immunol., 9, 1215–1223.

12) Marshall, J.S. (2004) Mast-cell responses to pathogens. Nat. Rev. Immunol., 4, 787–799.

13) Shibata, T., Takahashi, K., Matsubara, Y., Inuzuka, E., Nakashima, F., Takahashi, N., Kozai, D., Mori, Y., & Uchida, K. (2016) Identification of a prostaglandin D2 metabolite as a neuritogenesis enhancer targeting the TRPV1 ion channel. Sci. Rep., 6, 21261.

著者紹介Author Profile

柴田 貴広(しばた たかひろ)

名古屋大学大学院生命農学研究科准教授.博士(農学).

略歴

1979年愛知県に生る.2001年名古屋大学農学部応用生物科学科卒業.06年同大学院生命農学研究科博士課程(後期課程)修了.同年同志社医工学研究センター大学特別研究員.07年名古屋大学大学院生命農学研究科助教.16年より現職.この間13~17年JSTさきがけ「疾患代謝」研究者(兼任).

研究テーマと抱負

内因性親電子化合物の生成とその生理作用に関する研究.また,食品成分の機能性に関する研究.

内田 浩二(うちだ こうじ)

東京大学大学院農学生命科学研究科教授.農学博士.

略歴

1959年静岡に生る.83年名古屋大学農学部食品工業化学科卒業.88年同大学院農学研究科博士課程(後期課程)修了.同年名古屋大学農学部助手,96年同助教授,98年同大学院生命農学研究科助教授,2007年同准教授,09年同教授.16年東京大学大学院農学生命科学研究科教授に着任し現在に至る.この間90~92年N.I.H.(米国)博士研究員,03~06年名古屋大学高等研究院助教授(兼任).

研究テーマと抱負

健康が損なわれるメカニズムとその防御.特に内因性の活性種生成反応(酸化や糖化反応など)によるタンパク質の化学修飾と修飾タンパク質の獲得した新たな機能性,また抗酸化剤などの植物性機能性成分の機能性などに興味があります.

趣味

読書(特に第二次世界大戦,幕末維新などに関するもの).

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