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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(5): 724-727 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900724

みにれびゅうMini Review

心筋梗塞時における死細胞貪食Engulfment of dead cells in myocardial infarction

九州大学大学院薬学研究院薬効安全性学分野Department of Pharmacology and Toxicology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University ◇ 〒812–8582 福岡県福岡市東区馬出3–1–1 ◇ 3–1–1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812–8582, Japan

発行日:2018年10月25日Published: October 25, 2018
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1. はじめに

心筋梗塞は,心臓に栄養や酸素を供給する冠動脈が詰まり,その先に血流が流れず,心臓の一部の筋肉が壊死してしまう病気である1).心筋梗塞を含めた虚血性心疾患は,欧米では死因の第一位を占め,わが国でも,がんに次ぎ死因の第二位を占めている.さらに高齢化社会の到来に伴い,今後はますます患者数が増加するものと考えられる.このような事情から心筋梗塞に対する画期的,効果的な治療法の確立が早急に望まれている.

心筋梗塞時には,梗塞領域周辺において多くの壊死細胞が生じる.これら死細胞はマクロファージなどの貪食細胞によって速やかに除去される.この速やかな貪食は,死細胞からの内容物の流出による炎症反応を抑制するなど心筋梗塞時の病態形成にきわめて重要な役割を果たしている2).しかしながら意外なことに,心筋梗塞時における死細胞貪食の分子メカニズムは,近年になるまでほとんどわかっていなかった.本稿では,近年明らかにされつつある心筋梗塞時における死細胞貪食の分子メカニズムについて,筆者らの報告も交えて紹介する.

2. MFG-E8を介した筋線維芽細胞による心筋梗塞時の死細胞貪食

我々は,心筋梗塞時における死細胞貪食の分子メカニズムを明らかにするため,心筋梗塞モデル処置(左冠状動脈前下後枝の結紮)前後のマウス心臓を用いたマイクロアレイ解析により,処置後に発現が増加する貪食関連分子を探索した.その結果,milk fat globule-EGF-factor 8(MFG-E8)という分子の発現量が処置後4日目をピークに顕著に上昇することを見いだした3).MFG-E8とは生体内のいくつかの組織マクロファージに発現し,細胞がアポトーシスを起こすと,その表面上に露出されるホスファチジルセリン(phosphatidylserine)と貪食細胞表面上のインテグリン(integrin)αvβ3あるいはαvβ5との橋渡しをして,貪食を促進する分子である4)図1).我々は次に,心筋梗塞後の心臓においてMFG-E8を産生する細胞を調べた.心筋梗塞後の梗塞部位においては,壊死した細胞によって炎症が引き起こされ,好中球やマクロファージなどがリクルートされてくる.一方で,壊死した細胞部は筋線維芽細胞という細胞によってコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質が産生され,線維化されて補填される2).この筋線維芽細胞は組織が正常なときにはほとんど存在せず,炎症が起こると初めて種々の細胞が分化することにより生じる5).筋線維芽細胞は組織の線維化を担うことが知られているが,貪食能を持つことはこれまで報告されていなかった.意外にも,梗塞後の心臓においてMFG-E8を産生するのは,好中球やマクロファージなどではなく,この筋線維芽細胞の一部であった.そして,マウスのみならず,心筋梗塞患者の心臓においてもMFG-E8は,筋線維芽細胞に発現しており,ヒトの心筋梗塞病態とも密接に関連していると考えられた.

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図1 MFG-E8/インテグリンαvβ3/5, Gas6/MerTKを介した貪食促進経路

細胞は,アポトーシスを起こすと,その細胞表面上にホスファチジルセリンを露出する.MFG-E8とGas6はともにこのホスファチジルセリンと結合する.その一方で,MFG-E8は貪食細胞表面のインテグリンαvβ3/5と,Gas6は貪食細胞表面のMerTKと結合する.その結果,MFG-E8とGas6は,アポトーシス細胞と貪食細胞の橋渡しをする形で貪食を促進する.

MFG-E8は貪食促進分子であることから,このMFG-E8を発現する筋線維芽細胞がアポトーシス細胞を貪食するかについて検討した.心筋梗塞処置後のマウス心臓から筋線維芽細胞を単離して調べた結果,筋線維芽細胞がMFG-E8を介してアポトーシス細胞を効率よく貪食することを初めて見いだした.実際,筋線維芽細胞には,MFG-E8が発現するのみならず,その受容体であるインテグリンαvβ5も発現していた.筋線維芽細胞による死細胞の貪食は,心筋梗塞後のマウス心臓切片を用いた電子顕微鏡観察によっても確認することができた.

心筋梗塞時のMFG-E8の生理的役割を明らかにするため,野生型マウスおよびMFG-E8ノックアウト(KO)マウスに心筋梗塞処置を施し,その病態を比較した.その結果,MFG-E8 KOマウスでは,梗塞処置後の心臓において,貪食されない死細胞の数が,野生型マウスの場合に比して有意に増加していた(図2A).貪食されない死細胞が増加すると,その内容物が流出することなどにより,炎症が引き起こされる6).そこで,心筋梗塞後のMFG-E8 KOマウス心臓における炎症の程度を調べたところ,野生型マウスの場合に比べ,炎症が増悪していることが明らかとなった.これらの結果に対応し,心筋梗塞処置後のMFG-E8 KOマウスの心臓は,野生型マウスの場合に比べ,線維化(梗塞)領域が増加する(図2B)と同時に肥大が進み,その機能が有意に低下していた.

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図2 MFG-E8欠損あるいはMFG-E8の心臓への直接投与が心筋梗塞病態へ与える影響

(A)心筋梗塞後3日目のMFG-E8 KOマウス(KO)心臓の梗塞部位では,アポトーシス細胞の数が,野生型マウス(WT)の場合に比べ,増加している.スケールバー:100 µm. (B)心筋梗塞後4週間目のMFG-E8 KOマウス心臓では,線維化領域(点線部)が,野生型マウスの場合に比べ,増加している.スケールバー:1 mm. (C)心筋梗塞後3日目のMFG-E8投与マウス心臓の梗塞部位では,アポトーシス細胞の数が,非投与マウスの場合に比べ,減少している.Sh(Sham):偽処置群,MI:心筋梗塞処置群,PBS:PBS投与マウス,MFG-E8:MFG-E8投与マウス.(D)心筋梗塞後10週間目のMFG-E8投与マウス心臓では,線維化領域が,非投与マウスの場合に比べ,減少している.#: P<0.05, ***: P<0.001, *: P<0.05. 文献3より一部を改変し,転載した.

以上の結果から,MFG-E8が心筋梗塞時の心臓に対して保護的に働く分子であることが明らかとなった.MFG-E8は分泌タンパク質であることから,生体内への投与が可能である.そこで,MFG-E8を心筋梗塞処置後の心臓に投与し,その病態への影響を調べた.その結果,精製したMFG-E8タンパク質を心筋梗塞処置直後のマウス心臓に直接投与することにより,心筋梗塞後の心臓に存在する死細胞の数が有意に減少することを見いだした(図2C).MFG-E8の投与により,死細胞の除去が効率よく行われるようになったためだと考えられる.そして,MFG-E8を投与した心臓においては,心筋梗塞後の心臓における炎症の程度が軽減していた.これらの結果に対応し,MFG-E8が投与された心臓においては,心筋梗塞後の機能低下が軽減し,線維化領域が有意に減少していた(図2D).以上の結果から,心筋梗塞直後の心臓へのMFG-E8の直接投与が,心筋梗塞時の死細胞の貪食を促進することにより,病態を改善させることが明らかとなった.

なお,心筋梗塞時における筋線維芽細胞による死細胞の貪食の貢献度を調べたところ,professionalな貪食細胞である,マクロファージによる死細胞貪食の貢献度の約40%程度であり,心筋梗塞時全体の死細胞貪食の約30%を担うと考えられた3).すなわち,心筋梗塞時における死細胞の貪食は,マクロファージと筋線維芽細胞が協調的に行っていることが明らかとなった(図3).

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図3 心筋梗塞時のマクロファージと筋線維芽細胞による死細胞の貪食

心筋梗塞時には,Gas6/MerTKの経路を介してマクロファージが,MFG-E8/インテグリンαvβ5を介して筋線維芽細胞が死細胞を貪食している.

3. MerTKを介したマクロファージによる心筋梗塞時の死細胞貪食

心筋梗塞時の死細胞がマクロファージによって貪食される分子メカニズムも近年明らかにされた7, 8).Thorp博士らのグループは,アポトーシス細胞の貪食に関与すると報告されている3種類の受容体,CD36, LRP, MerTKのKOマウスに心筋梗塞処置を施し,それらマウスの心臓からマクロファージを単離し,貪食能を評価した.その結果,MerTKKOマウス由来の心臓マクロファージのみ,貪食能が野生型マウス由来のそれに比べ,有意に減少していることを見いだした7).MerTKは,ホスファチジルセリンと結合する分泌タンパク質,growth-arrest specific gene 6(Gas6)を介してアポトーシス細胞と結合し,貪食を促進することが知られている受容体である9–11)図1).心筋梗塞モデル処置を施されたMerTKKOマウス心臓においては,死細胞の数が増加し,炎症の程度が悪化していた.そして,心筋梗塞後の心機能の悪化が認められた7).MerTKは,その細胞外ドメインがシェディングされ,可溶性のMerTKが生成されることが知られている12).興味深いことに,可溶性のMerTKは,心筋梗塞を罹患した患者および心筋梗塞モデル処置後のマウスの血清中に多く存在する13).このMerTKのシェディングは,MerTKの絶対量を減らすのみならず,可溶性のMerTKがMerTKと競合的にGas6と結合することにより,貪食が大きく阻害されると考えられる.したがって,このシェディングを阻害することができれば,心筋梗塞後の予後が改善すると予想される.一方で,MerTKによる死細胞貪食に必要な,Gas6の心筋梗塞後の発現量変化,さらにはその発現細胞はこれまで明らかにされていない.これらの解明は,今後の課題である.

4. おわりに

近年の研究から心筋梗塞時に生じる死細胞の貪食の分子メカニズムは,次第に明らかになってきた.今後のさらなる解析によって,MFG-E8/インテグリンαvβ3/5, Gas6/MerTK以外の新たな経路の関与が明らかにされていくものと思われる.一方で,MFG-E8の投与が,心筋梗塞後の病態を改善したことから,死細胞の貪食を標的とした新たな心筋梗塞治療法開発への展開が期待される.

本研究では,心筋梗塞時に生じる死細胞として,特にアポトーシス細胞に焦点を当てて研究を行った.心筋梗塞時に生じる死細胞の多くはネクローシス細胞であるが,現在,ネクローシス細胞の貪食をin vitro, in vivoにおいて評価する方法は確立されていない.新たな評価法が確立されれば,心筋梗塞時の死細胞貪食の正確な理解につながるだろう.しかしながら,ネクローシス細胞もその表面にホスファチジルセリンを露出する14)ことからアポトーシス細胞の貪食と同様のメカニズムで貪食が行われていると考えられる.

心筋梗塞に加え,高血圧等による心臓の肥大も心疾患の代表的なものの一つである.肥大した心臓においては,慢性的な炎症が生じていることが知られており,多くの死細胞が産生されている.しかしながら,この心肥大時の死細胞除去メカニズムについては,現在においても不明なままである.慢性炎症時の心臓においては,急性炎症時に出現するマクロファージサブセットが異なるといわれている15)ことから,心筋梗塞時とは異なる細胞群,分子群を使って貪食が行われている可能性も考えられる.今後の解析が待たれる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

仲矢 道雄(なかや みちお)

九州大学大学院薬学研究院薬効安全性学分野准教授.博士(医学).

略歴

1977年大阪府に生る.2000年東京大学理学部卒業.06年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了.07年九州大学大学院薬学研究院薬効安全性分野助教を経て,12年より同分野准教授.

研究テーマと抱負

線維化および筋線維芽細胞に関する研究.

ウェブサイト

http://chudoku.phar.kyushu-u.ac.jp

趣味

子供と色々な公園で遊ぶ事.

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