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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(6): 801-803 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900801

みにれびゅうMini Review

cGASを介した自然免疫応答の制御機序cGAS-mediated innate immunity

1徳島大学先端酵素学研究所炎症生物学分野Division of Inflammation Biology, Institute for Enzyme Research, Tokushima University ◇ 徳島市蔵本町3–18–15 ◇ 3–18–15 Kuramoto-cho, Tokushima

2University of Chicago, Institute for Molecular EngineeringUniversity of Chicago, Institute for Molecular Engineering ◇ 900 East 57th Street, Chicago, IL ◇ 900 East 57th Street, Chicago, IL

発行日:2018年12月25日Published: December 25, 2018
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1. はじめに

自然免疫応答は,ウイルス,細菌,寄生虫といった感染病原体の認識,炎症反応の惹起,獲得免疫の誘導に重要な役割を果たす生体防御機構である1).マクロファージや樹状細胞などの細胞は,病原体特有の構造である病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)を認識するパターン認識受容体(pattern-recognition receptor:PRR)を発現しており,この受容体を介してその下流にあるシグナル伝達分子を活性化する.これまでの研究により,Toll様受容体(Toll-like receptor:TLR)ファミリー,RIG-I様受容体(RIG-I-like receptor:RLR)ファミリー,NOD様受容体(NOD-like receptor:NLR)ファミリー,C型レクチン受容体などさまざまな種類のパターン認識受容体が存在することが明らかとなっている.

cyclic GMP-AMP synthase(cGAS)は,細胞質内において二本鎖DNAを認識するパターン認識受容体であり,DNAウイルスに対するI型インターフェロン(Interferon:IFN)を介した生体防御応答を誘導する2).cGASを介した自然免疫応答は生体防御機構において重要な役割を果たす一方で,複数の自己免疫疾患との関与も報告されている3–6).本稿では,このcGASを介した自然免疫応答の制御機序について,我々の知見も含めて紹介する.

2. cGASを介した自然免疫応答の制御機序

DNAウイルスなどの病原体が感染した細胞では,細胞質に病原体由来の二本鎖DNAが出現する.パターン認識受容体であるcGASは,細胞質内において二本鎖DNAを認識すると,環状GMP-AMP(cyclic GMP-AMP:cGAMP)を合成する7, 8).このcGAMPがセカンドメッセンジャーとして働き,小胞体に局在する膜貫通型タンパク質stimulator of interferon gene(STING)に結合する.その結果,STINGの構造が変化し,STINGはその局在を小胞体からゴルジ体へと移行させる9–11).この際,STINGはC末端側でリン酸化酵素TANK binding kinase 1(TBK1)と結合し,TBK1を活性化する.さらに活性化したTBK1はSTINGおよび転写因子interferon regulatory factor 3(IRF3)をリン酸化することで,IRF3の核内移行を促進する12).また,同時にSTINGはリン酸化酵素inhibitor of kappa B kinase(IKK)を活性化することで,転写因子nuclear factor-kappa B(NF-κB)の核内移行を促進する13).これらの核に移行した転写因子により,抗ウイルス活性を有するI型IFNや炎症性サイトカインであるinterleukin-6やtumor necrosis factor(TNF)の産生が誘導される.

3. Rab2B -GARIL5によるcGAS-STING経路の制御

我々はcGAS-STING経路の新規制御因子を同定するため,膜輸送制御因子であるRab GTPaseファミリーに着目し,それらに対するsiRNAスクリーニングをI型IFNの産生量を指標として行った.その結果,合成二本鎖DNAに応じて活性化するcGAS-STING経路の新たな制御因子としてRab2Bを同定した14).Rab GTPaseファミリーは,GTPと結合した活性型とGDPと結合した不活性型をサイクルさせることにより分子スイッチとして機能する.そこで,活性型のRab2B,不活性型のRab2BのどちらがcGAS-STING経路の制御に関与しているかを調べたところ,活性型のRab2Bが当該経路の制御に関わっていた.次に,活性型のRab2Bや不活性型のRab2Bの局在を観察したところ,細胞質内の合成二本鎖DNAによる刺激の有無にかかわらず,活性型のRab2Bはゴルジ体に局在することが明らかとなった.一方で,不活性型のRab2Bはゴルジ体に局在しないことが明らかとなった.続いて,STINGと活性型のRab2Bもしくは不活性型のRab2Bの局在を同時に観察した.合成二本鎖DNAの刺激に応じてSTINGが小胞体からゴルジ体へと局在変化するため,刺激後にゴルジ体においてSTINGと活性型のRab2Bは共局在することが明らかとなった.一方で,STINGと不活性型のRab2Bは共局在しないことも明らかになった.

活性型のRabタンパク質は特定のオルガネラや小胞に局在し,特異的なエフェクタータンパク質と結合することで,膜の出芽,輸送,融合といったメンブレントラフィックの多様なステップを制御していることが知られている.そのため,cGAS-STING経路の制御に関わるRab2Bのエフェクタータンパク質の探索を行った.RAB2Bに結合するドメインを有するGolgi-associated Rab2B interactor(GARI), GARI-like 1(GARIL1), GARIL2, GARIL3, GARIL4, GARIL5に着目し,これらの中からcGAS-STING経路の制御に関わるRab2Bのエフェクタータンパク質としてGARIL5を同定した.GARIL5をノックダウンすると,Rab2Bをノックダウンした場合と同様に,cGAS-STING経路を介したI型IFNの産生が抑制された.次に,GARIL5と活性型のRab2Bもしくは不活性型のRab2Bとの結合を確認したところ,GARIL5と活性型のRab2Bは結合すること,GARIL5と不活性型のRab2Bは結合しないことが明らかとなった.さらに,活性型と不活性型とをサイクルすることができる野生型のRab2BとGARIL5との結合を確認したところ,細胞質内の合成二本鎖DNAによる刺激にかかわらず,野生型のRab2BはGARIL5と結合することが明らかとなった.次に,GARIL5の局在を観察したところ,活性型のRab2Bがゴルジ体に局在するとGARIL5もゴルジ体に局在することが明らかとなった.さらに,GARIL5, Rab2BとSTINGの局在を同時に観察したところ,細胞質内の合成二本鎖DNA刺激により小胞体からゴルジ体に移行したSTINGは,ゴルジ体においてGARIL5やRab2Bと共局在することが明らかとなった.

Rab2BおよびGARIL5をノックダウンした細胞では,合成二本鎖DNA刺激によるIFN応答の誘導だけでなく,ワクシニアウイルス感染によるIFN応答も抑制された.この結果と一致するように,Rab2BおよびGARIL5をノックダウンした細胞では,ワクシニアウイルスの増殖が亢進した.よって,Rab2BとそのエフェクターであるGARIL5は,DNAウイルスに対する防御応答の誘導に関わることが明らかになった.

次に,Rab2BおよびGARIL5がcGAS-STING経路のシグナル伝達を制御する機序の解明に取り組んだ.その結果,Rab2BおよびGARIL5はSTINGのゴルジ体への移行,TBK1によるSTINGのリン酸化,STINGとIRF3との結合,RLR-IFN-β promoter stimulator 1(IPS-1)経路を介して誘導されるTBK1によるIRF3のリン酸化には関与しないことが明らかとなった.一方で,Rab2BおよびGARIL5は,cGAS-STING経路を介して誘導されるTBK1によるIRF3のリン酸化を促進することが明らかとなった(図1).Rab2BおよびGARIL5が,どのようにしてTBK1によるIRF3のリン酸化を制御するのか,なぜ特異的な制御が可能になるのか,その詳しい機序は不明である.STINGがゴルジ体においてパルミトイル化を受けることがシグナル伝達において重要な役割を果たすとの報告もあり,ゴルジ体におけるcGAS-STING経路の制御機構に関する今後の研究の進展が待たれる15)

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図1 Rab2B-GARIL5によるcGAS-STING経路の制御

cGASは,細胞質内において二本鎖DNAを感知してcGAMPを産生し,STINGを活性化する.Rab2B-GARIL5複合体は,cGAS-STING経路を介して誘導されるTBK1によるIRF3のリン酸化を促進する.一方で,Rab2B-GARIL5複合体は,STINGの小胞体からゴルジ体への移行,TBK1によるSTINGのリン酸化やSTINGとIRF3との結合には関与しない.

4. おわりに

本稿では,細胞質内において二本鎖DNAを認識してI型インターフェロンを介した防御応答を誘導するcGAS-STING経路についてこれまでの知見をまとめ,我々の知見についても紹介した.近年の研究により,cGAS-STINGを介した自然免疫応答は,感染症や自己免疫疾患に止まらず,老化やがんなどの生理現象や病変に関わることが次々と明らかになってきた.今後この自然免疫応答への理解が深まり,これらの疾患に対する効果的かつ特異的な治療法が開発されることに期待したい.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究においては,東北大学福田光則博士,筑波大学大林典彦博士,大阪大学松浦善治博士,岡本徹博士,三澤拓馬博士,児崎達哉博士,審良静男博士をはじめ多くの研究者にご協力いただきました.深く感謝いたします.

引用文献References

1) Takeuchi, O. & Akira, S. (2010) Pattern recognition receptors and inflammation. Cell, 140, 805–820.

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著者紹介Author Profile

髙濵 充寛(たかはま みちひろ)

University of Chicago, Institute for Molecular Engineering. Postdoctoral Scholar. 博士(理学).

略歴

2014年大阪大学生命機能研究科博士課程修了.15~18年徳島大学先端酵素学研究所助教.18年より現職.

研究テーマと抱負

免疫制御機構の解明.

趣味

スポーツ.

齊藤 達哉(さいとう たつや)

徳島大学先端酵素学研究所教授.博士(医学).

略歴

2005年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了.05~07年日本学術振興会特別研究員(PD).07~15年大阪大学微生物病研究所助教,特任准教授,准教授.15年より現職.

研究テーマと抱負

炎症応答の理解と制御.

趣味

スポーツ観戦.

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