生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 90(6): 825-828 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900825

みにれびゅうMini Review

Foxp3変異体の機能解析から明らかになった,制御性T細胞における転写因子BATFの重要な役割Analyses of a Foxp3 mutant reveal a critical role of the transcription factor BATF in regulatory T cell function

東京大学大学院薬学系研究科免疫・微生物学教室Laboratory of Immunology and Microbiology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2018年12月25日Published: December 25, 2018
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1. はじめに

免疫系には免疫応答を抑制する機能を持った制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)と呼ばれるT細胞サブセットが存在し,自己免疫,炎症,アレルギーといった病的な免疫応答を負に制御して免疫寛容と免疫恒常性の維持に必須の役割を担っている1).2001年にscurfy変異マウスおよびヒトIPEX(immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked)症候群患者に発症する致死的な自己免疫疾患の原因遺伝子Foxp3が同定され,フォークヘッドファミリーに属する転写因子Foxp3をコードすることが報告された2, 3).そして,Foxp3がTreg選択的に発現してその発生・分化と機能を制御する“マスター転写因子”として機能すること,scurfyマウスに発症する致死的な自己免疫疾患は機能的なTregの欠損に起因することが報告され4, 5),永年不明であったTreg分化と機能の分子基盤とともに,自己免疫寛容と免疫恒常性の維持におけるTregの中心的な役割が明らかにされた.

Foxp3の発見を契機としてTreg分化と機能の分子機構に関する研究が飛躍的に進んできた.そして,Foxp3はTregの遺伝子発現制御ネットワークにおけるハブであり,数千に及ぶゲノム領域に結合し6),300を超えるパートナータンパク質と複合体を形成することが明らかにされた7).しかしながら,Foxp3の標的遺伝子は多数あるために,どの標的遺伝子がTregのどのような性質を制御しているのかという問題については十分に理解されてこなかった.そこで筆者らは,IPEX症候群において同定されているFoxp3変異のなかに特定の標的遺伝子の発現に影響を与えてTregの分化・機能を障害する変異があるのではないかと考え,DNAとの相互作用に影響を与えると考えられる変異に着目し,それらがTregの分化・機能に与える影響を個体レベルで解析した.本稿では,一つのユニークな変異体の解析から明らかにされた,Tregにおける転写因子BATFの重要な役割について解説する8)

2. Foxp3変異体の機能解析

これまでにIPEX症候群において70以上のFoxp3変異体が同定され,なかでもDNAと転写因子NFATとの相互作用を担うフォークヘッドドメインに多くのミスセンス変異が見つかっている3).筆者らはこれらのうちDNAとの相互作用に影響を与え得る三つの変異(Ile363がValに置換したFoxp3I363V変異,Ala384がThrに置換したFoxp3A384T変異,Arg397がTrpに置換したFoxp3R397W変異)に着目して機能解析を進めた.Foxp3–NFAT–DNA複合体の結晶構造解析からArg397とIle363はDNA骨格との相互作用に関与すると考えられており9),実際筆者らはFoxp3I363V変異とFoxp3R397W変異によりFoxp3のDNA結合活性が塩基配列非依存的に障害されることを見いだした8).一方,Ala384はDNAの主溝にドッキングして塩基認識に関わるαヘリックス上に位置することから,Foxp3のDNA結合特異性に関わると予想された.筆者らは,Foxp3A384T変異によりFoxp3が認識する塩基配列が変化して特定の標的遺伝子との相互作用が選択的に影響を受けるのではないかと考えた.

この仮説を検証するために,まず野生型(WT)または変異型Foxp3をマウスナイーブT細胞に強制発現させ,マイクロアレイ解析により遺伝子発現プロファイルを調べた.その結果,Foxp3R397W変異体を導入した細胞は対照細胞と同一の遺伝子発現パターンを示したのに対し,Foxp3A384T変異体を導入した細胞はWT Foxp3を導入した細胞と近い遺伝子発現を示した.しかしながら,Foxp3A384T変異により一部のFoxp3依存的遺伝子の発現が変化していたことから,この変異はFoxp3と特定の標的遺伝子の相互作用を変化させると考えられた.

これらの変異がTreg分化と機能に与える影響を個体レベルで明らかにするために,変異をFoxp3遺伝子座に導入したノックインマウスを作製した.Foxp3I363V変異およびFoxp3R397W変異により,Tregに特徴的な遺伝子発現パターンが全体的に影響を受けて,試験管内における抑制活性やサイトカイン産生抑制などTregのさまざまな性質が障害された.一方,Foxp3A384T変異はこれらTregの基本的な性質を障害せず遺伝子発現にも大きな影響を与えないものの,一部の遺伝子の発現を変化させることがわかった.以上の結果から,Foxp3I363V変異とFoxp3R397W変異がFoxp3の機能を全体的に障害する機能欠失型変異である一方,Foxp3A384T変異は一部のFoxp3依存的遺伝子の発現を選択的に障害するユニークな変異であることがわかった.

3. Foxp3A384T変異マウスにおける組織局在型Treg障害

これら3種のFoxp3変異のノックインマウスは自己免疫疾患を発症したが,Foxp3A384T変異マウスは他の機能欠失型変異を持つマウスとは異なる病態を示した.機能欠失型Foxp3変異マウスは,皮膚,肺,肝臓などのさまざまな組織にTh1型およびTh2型の炎症を呈したのに対し,Foxp3A384T変異マウスは皮膚,肺,大腸などの特定の組織にTh2型およびTh17型の炎症を呈し,肝炎は起こさなかった.

Foxp3A384T変異はTregのどのような性質を障害することでこのような特徴的な病態を惹起するのであろうか? Tregは通常のT細胞と同様,リンパ組織を巡回するナイーブ型と,主に非リンパ組織に局在するエフェクター型(effector Treg:eTreg)の2種類に大別され,前者が抗原刺激を受けて活性化されて後者に機能分化し,免疫応答の場である非リンパ組織に移行する10).これら非リンパ組織に局在するeTregは組織Tregとも呼ばれ,局所における免疫制御と組織恒常性の維持に重要である11).さまざまな組織でナイーブ型およびエフェクター型CD4 T細胞におけるTregの割合を比較したところ,Foxp3A384T変異によってナイーブ型T細胞におけるTregの割合は影響を受けないものの,エフェクター型T細胞においては皮膚,肺,大腸といった炎症を起こす組織においてのみTregの割合が減少し,逆に炎症を起こすエフェクター型Foxp3 T細胞,すなわちヘルパーT(Th)細胞の割合が増加していた.一方,炎症が起こらない肝臓においてはこのようなeTregとTh細胞のアンバランスはみられなかった.以上の結果から,Foxp3A384T変異は組織Tregの分化・集積を組織選択的に障害し,このために特定の組織において炎症を惹起すると考えられた(図1).

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図1 Foxp3A384T変異による自己免疫疾患発症機構

野生型Foxp3(Foxp3WT)はGTAAACAなどのフォークヘッド転写因子結合配列に結合するが,Foxp3A384T変異体はそれらに加えて野生型が結合できないフォークヘッド転写因子結合配列(GTCAACAなど)にも結合できるようになった機能獲得型変異である.このためにFoxp3A384T変異体はBatfなどの特定の標的遺伝子に野生型よりも強く結合し,発現制御異常を引き起こす.Foxp3A384T変異マウスでは,Tregにおける転写因子BATFの発現抑制により,非リンパ組織に局在する組織Tregの分化・集積が組織選択的に障害され,自己免疫疾患が発症する.

ではなぜFoxp3A384T変異マウスは特定の組織にTh2型とTh17型に偏った炎症を発症するのであろうか? 近年,eTregはTh細胞と同様に不均一な集団であり,Tbet, GAT A3, RORγtといったTh細胞サブセットの分化を制御する転写因子や,それぞれの機能に重要なサイトカイン受容体やケモカイン受容体の発現によって多様なサブセットに分けられることが明らかになってきた.そして,それらの分子を利用してTh細胞サブセットと同じ環境に集積してTh細胞の機能を抑制すると提唱されている12).Foxp3A384T変異マウスのTregにおいては,Th2細胞(GAT A3, IL-33受容体,CCR4)またはTh17細胞(CCR4)選択的に発現する分子の発現が低下する一方で,Th1細胞選択的に発現するTbet, CXCR3といった分子の発現は低下していなかった.このことから,Foxp3A384T変異マウスではeTregがTh2細胞とTh17細胞が働く環境に十分集積することができず,Th2型炎症とTh17型炎症の制御が選択的に破綻すると考えられた.さらに,肝臓においてはこれらTh2型またはTh17型のeTregは多臓器よりもマイナーなサブセットであり,逆にTh1型のeTregが主要なサブセットであった.したがって,肝臓ではFoxp3A384T変異によるeTreg障害の影響が多臓器と比べて小さく,eTregが集積できるために炎症がほとんど起こらないと考えられた.

4. BATFによる組織Treg分化・集積制御

Foxp3A384T変異によりどのような標的遺伝子の発現が障害されることで組織Tregの異常が引き起こされるのであろうか? マイクロアレイ解析およびFoxp3のChIP-seq解析を行い,Foxp3A384T変異によって発現とゲノムへの結合が変化する標的遺伝子を探索した結果,変異型Tregにおいて発現が低下してFoxp3の結合が強まる遺伝子としてBatfが同定された.BATFはAP-1ファミリーに属する転写因子であり,さまざまなエフェクターT細胞分化と機能を制御する13)ことから,筆者らはTregにおいてもBATFがエフェクター型サブセットの分化と機能も制御するのではないかと仮説を立てた.

この仮説を検証するために,まずBATF欠損マウスを解析したところ,BATF欠損TregはFoxp3A384T変異型Tregと類似した遺伝子発現パターンを示すとともに,eTregの数が選択的に減少していた.さらに,大腸炎の系を用いて生体内における免疫抑制機能を評価したところ,BATF欠損TregはFoxp3A384T変異型Treg同様に腸炎抑制活性を示さなかった.逆に,レトロウイルスベクターを用いてFoxp3A384T変異型TregにBATFを強制発現させたところ,大腸におけるeTregの割合が増加して大腸炎を抑制する機能を回復した.以上の結果から,Foxp3A384T変異マウスにおけるTreg異常の一因はBATFの発現低下であることが明らかになった(図1).

5. Foxp3A384T変異はDNA結合特異性を拡げる機能獲得型変異である

最後に,Foxp3A384T変異によりBatf発現が選択的に障害されるメカニズムを調べた.その結果,Foxp3A384T変異体はWT Foxp3が結合するフォークヘッド転写因子結合配列のみならず,WT Fopx3が結合できないフォークヘッド転写因子結合配列に対しても結合することを見いだした.すなわちFoxp3A384T変異はFoxp3のDNA結合特異性を拡げる機能獲得型変異であることがわかった.そして,BatfプロモーターにはWT Fopx3も結合できる配列に加え,Foxp3A384T変異体のみが結合できる配列が存在し,このためにFoxp3A384T変異体はWT Foxp3よりもBatfプロモーターに強く結合してプロモーター活性を抑制することが明らかになった(図1).

6. おわりに

本研究により,Foxp3A384T変異がFoxp3のDNA結合特異性を拡げることによりBatfなど特定の標的遺伝子の発現を乱し,その結果特定の非リンパ組織に局在する組織Tregの分化・集積を障害して組織選択的な自己免疫疾患を惹起することが明らかになった8)図1).このことはFoxp3による遺伝子発現制御におけるDNA結合特異性の重要性を明らかにするとともに,Foxp3とDNAの相互作用を変化させるような遺伝子多型がさまざまな自己免疫疾患への疾患感受性あるいは疾患抵抗性を賦与する可能性を示唆している.

さらに本研究から,BATFが組織Tregの分化と集積を制御する重要な役割を担っていることが明らかになった.このことは,TregにおいてBATFの発現または機能を強化することで組織における過剰な免疫応答を抑制でき,逆にその発現・機能を阻害することで組織における免疫応答を強化できる可能性を示唆している.さまざまな自己免疫疾患,炎症性疾患,アレルギー疾患,さらにはがんの治療につながることが期待される.

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著者紹介Author Profile

堀 昌平(ほり しょうへい)

東京大学大学院薬学系研究科教授.博士(薬学).

略歴

1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了.ポルトガル留学等を経て2004年理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターユニットリーダー,13年同統合生命医科学研究センターチームリーダー.16年より現職.

研究テーマと抱負

「自己」とは何か,免疫系をモデルとして考えて行きたい.

ウェブサイト

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~bisei/index.html

趣味

音楽鑑賞(主にクラシック),コーヒー,山歩き,温泉.

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