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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 90(6): 839-841 (2018)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900839

テクニカルノートTechnical Note

次世代シーケンサーを用いたクロマチン相互作用解析法とその応用Recent development and application of Genome-wide chromatin interaction analysis using NGS

千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学Department of Molecular Oncology, Graduate School of Medicine, Chiba University ◇ 〒260–8670 千葉市中央区亥鼻1–8–1 ◇ 1–8–1 Inohana, Chuo-ku, Chiba 260–8670, Japan

発行日:2018年12月25日Published: December 25, 2018
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1. はじめに

近年のさまざまな研究によりDNAの核内における配置は転写制御や複製,DNA修復などに関わっており,細胞種特異的な制御に非常に重要な役割を果たしていることが知られている.クロマチン構造の解析手法としては顕微鏡を用いた手法が広く使われ,各ゲノム領域の核内における配置についての重要な知見が報告されている.しかし,顕微鏡を用いた手法では数百kbp程度の解像度での核内配置を検出することはできるが,数kbpレベルでの相互作用を検出することは難しく,一度に観察できる領域の数にも限りがある.Job Dekkerらによってchromosome conformation capture(3C)法が報告され1),この3C法の原理を応用し,次世代シーケンサーを用いてゲノムワイドにクロマチン相互作用を検出する手法が報告されてきた.現在までに,次世代シーケンス技術を用いてさまざまな細胞種において,エンハンサー領域が標的遺伝子とループ構造をとることで転写を制御していることや,さらに高次な構造であるドメイン構造として制御されることが報告されている2).本稿では,次世代シーケンス技術を用いたクロマチン構造解析手法について概説するとともに,我々が取り組んだ改良手法を記す.

2. クロマチン相互作用解析の原理

3C法の原理は以下のとおりである.ループ構造を構成しているDNAとタンパク質の複合体をホルマリンで固定し,制限酵素を用いて断片化する.断片化されたDNA末端どうしをリガーゼにより結合させ,脱架橋の後,環状化したDNAを精製し,異なる領域の配列が結合したゲノム断片を定量する(図1).三次元的に近くにある断片ほど結合する確率が高いため,より多くの結合断片が検出されることになる.既知の2領域間の制限酵素の認識配列の近傍にプライマーを設計することにより,DNA断片を定量する手法を3C法といい1),既知の1領域との相互作用領域を決定するために,既知領域の両端に外向きのプライマーを設計し,インバースPCRによって相互作用領域の配列を増幅,次世代シーケンサーで解析を行う手法を4C-seq法という3, 4)

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図1 クロマチン相互作用解析法の原理

3. ゲノムワイドなクロマチン相互作用解析法

3C法をベースとして次世代シーケンサーでのペアエンドシーケンスによりゲノムワイドにクロマチン相互作用を検出する手法がHi-C法である5).ホルマリン固定して断片化したクロマチンDNA複合体のDNA末端を,ビオチンを付加した塩基により修復,その後DNA末端どうしをリガーゼにより結合させる.環状化したDNAを精製し断片化した後,ビオチン化DNA断片のみ回収する.このDNA断片にシーケンス用アダプターを付加し,PCRによって増幅,シーケンサーによるペアエンドでのシーケンスを行う(図1).Hi-C法による最も新しい構造的な発見は,topological associating domain(TAD)と呼ばれる,染色体を分割する数百kbpから数Mbpスケールの構造的なまとまりである6).このTADというドメイン構造はヒストン修飾などや転写活性,DNA複製時期などの特性と相関を示している.さらに,多くのプロモーター–エンハンサー間の相互作用はTAD内で起きており,このドメイン構造が核内における反応において重要な役割を果たしていることがわかる.このように,Hi-C法により数百kbpから数Mbpの解像度でのクロマチン構造が明らかになったが,さらに高解像度な相互作用を解析するためには数十億リードという膨大なリード数が必要であり,わずかながら報告はあるがコスト的に現実的でない.そこで特定領域のみを濃縮することで,少ないリード数により高解像度での相互作用を検出する方法が開発された.

4. 特定領域からのループ構造解析手法

1)抗体を用いる方法

特定領域を濃縮するために,目的タンパク質に特異的な抗体を使用することで特定のタンパク質を介したクロマチン相互作用を検出する手法も複数報告されている.タンパク質とDNAの複合体をホルマリンや架橋剤で固定した後,断片化し,抗体を用いて標的タンパク質を含んだDNA-タンパク質複合体を濃縮する.DNA末端にビオチン化リンカーを付加し,リガーゼによる末端間の結合を行う.その後,制限酵素や超音波による断片化の後シーケンス用アダプターを付加してPCRによりライブラリの増幅を行い,ペアエンドでのシーケンスを行う7).この手法により転写因子estrogen receptor(ER)やRNAポリメラーゼIIを標的とすることによりプロモーター–エンハンサー間の相互作用が同定され7, 8),クロマチン構造タンパク質として知られるCCC TC-binding factor(CTCF)を標的とすることでインシュレーター領域間の相互作用が同定された9).また,Hi-Cの手法でクロマチンを調製した後にChIPを行うHiChIPという手法も報告されており,活性化マーカーであるヒストンH3K27acに対する抗体を用いることでエンハンサーからの相互作用の解析に成功している10).これらの手法の欠点として,抗体の品質に大きく依存する点と,大量の標的タンパク質–DNA複合体を濃縮するために比較的大量の細胞数が必要である点がある.

2)キャプチャーオリゴによる方法

次に,キャプチャーオリゴを用いることで標的配列を含む領域のみを濃縮させ,高解像度なクロマチン相互作用を検出するキャプチャーHi-C法が報告された.この手法はPCR増幅したHi-Cライブラリに対し,標的領域のゲノム配列に相補的なキャプチャーオリゴを用いて標的配列を含むライブラリを濃縮し,再度PCR増幅の後,ペアエンドでのシーケンスを行う.この方法により,大腸がん関連SNPや乳がん関連SNPを含むエンハンサー領域にキャプチャーオリゴを設計することで標的遺伝子が同定され11, 12),全プロモーター領域にキャプチャーオリゴを設計し制御プロモーター間,プロモーター–エンハンサー間の相互作用が同定された13).ChIA-PET法と異なり,抗体の品質などに依存せずに特定領域間の高解像度な相互作用を同定することができ,細胞特異的なエンハンサー領域の標的同定などを目的にさまざまな細胞系で解析が進められている.

5. 市販キャプチャーオリゴキットを用いた改良

全遺伝子のプロモーター領域にプローブをカスタムで設計することはコスト的にもまだまだ容易でない.そこで,我々はエクソーム解析用に設計されているオリゴプローブを用いればコストを低減しつつ,効率的に転写制御領域間の相互作用を検出できるのではないかと考えた.全遺伝子のエクソン領域とエンハンサー領域にプローブが設計されたAll exome V5+Regulatoryキットを用いてHi-Cライブラリをキャプチャーし,エクソン領域とエンハンサー領域のクロマチン相互作用を検出した.この手法を用いて大腸がん由来細胞株HCT116の制御領域間の相互作用を解析し,181,617(P<10−4)の統計的に有意な相互作用を同定した(図2A).同定した相互作用をヒストン修飾状態で分類すると,プロモーター/エンハンサー間の相互作用が全体の5%,エンハンサー間の相互作用が4%であった(図2B).エンハンサー間の相互作用は,従来よく行われているプロモーターキャプチャーHi-C法では検出できないことから,この改良手法によってより多くの種類の相互作用を検出することができる.このように,キャプチャー技術とHi-C法を組み合わせることで転写制御領域間の詳細なループ構造が明らかとなり,複雑な転写制御機構を解明することにつながり,非常に有用な実験手法であるといえる.

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図2 転写制御領域間のキャプチャーHi-C

(A)大腸がん由来細胞株HCT116を用いて,エクソン領域とエンハンサー領域に設計されたプローブによるキャプチャーHi-C法を行った.(B)ヒストン修飾パターンによって分類すると,検出された相互作用全体のうち,プロモーター間相互作用が全体の3%,プロモーター・エンハンサー間が5%,エンハンサー間が4%であった.

6. おわりに

次世代シーケンサーを用いたクロマチン相互作用解析手法について概説するとともに我々が取り組んでいる改良手法について概説した.これらの手法はコスト面でも情報解析面でもまだまだハードルが高い部分もあるが,核内の複雑な制御メカニズムを解明するためには非常に有用な手法であるといえる.今後の手法的改良や新技術の創出により,さらにクロマチン構造と核内での制御メカニズムが明らかになることを期待している.

引用文献References

1) Dekker, J., Rippe, K., Dekker, M., & Kleckner, N. (2012) Capturing chromosome conformation. Science, 295, 1306–1311.

2) Bonev, B. & Cavalli, G. (2016) Organization and function of the 3D genome. Nat. Rev. Genet., 17, 772–772.

3) Simonis, M., Klous, P., Splinter, E., Moshkin, Y., Willemsen, R., De Wit, E., Van Steensel, B., & De Laat, W. (2006) Nuclear organization of active and inactive chromatin domains uncovered by chromosome conformation capture-on-chip (4C). Nat. Genet., 38, 1348–1354.

4) Zhao, Z., Tavoosidana, G., Sjölinder, M., Göndör, A., Mariano, P., Wang, S., Kanduri, C., Lezcano, M., Sandhu, K.S., Singh, U., et al. (2006) Circular chromosome conformation capture (4C) uncovers extensive networks of epigenetically regulated intra- and interchromosomal interactions. Nat. Genet., 38, 1341–1347.

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7) Fullwood, M.J., Liu, M.H., Pan, Y.F., Liu, J., Xu, H., Mohamed, Y.B., Orlov, Y.L., Velkov, S., Ho, A., Mei, P.H., et al. (2009) An oestrogen-receptor-alpha-bound human chromatin interactome. Nature, 462, 58–64.

8) Li, G., Ruan, X., Auerbach, R.K., Sandhu, K.S., Zheng, M., Wang, P., Poh, H.M., Goh, Y., Lim, J., Zhang, J., et al. (2012) Extensive promoter-centered chromatin interactions provide a topological basis for transcription regulation. Cell, 148, 84–98.

9) Handoko, L., Xu, H., Li, G., Ngan, C.Y., Chew, E., Schnapp, M., Lee, C.W.H., Ye, C., Ping, J.L.H., Mulawadi, F., et al. (2011) CTCF-mediated functional chromatin interactome in pluripotent cells. Nat. Genet., 43, 630–638.

10) Mumbach, M.R., Satpathy, A.T., Boyle, E.A., Dai, C., Gowen, B.G., Cho, S.W., Nguyen, M.L., Rubin, A.J., Granja, J.M., Kazane, K.R., et al. (2017) Enhancer connectome in primary human cells identifies target genes of disease-associated DNA elements. Nat. Genet., 49, 1602–1612.

11) Dryden, N.H., Broome, L.R., Dudbridge, F., Johnson, N., Orr, N., Schoenfelder, S., Nagano, T., Andrews, S., Wingett, S., Kozarewa, I., et al. (2014) Unbiased analysis of potential targets of breast cancer susceptibility loci by Capture Hi-C. Genome Res., 24, 1854–1868.

12) Jäger, R., Migliorini, G., Henrion, M., Kandaswamy, R., Speedy, H.E., Heindl, A., Whiffin, N., Carnicer, M.J., Broome, L., Dryden, N., et al. (2015) Capture Hi-C identifies the chromatin interactome of colorectal cancer risk loci. Nat. Commun., 6, 6178.

13) Mifsud, B., Tavares-Cadete, F., Young, A.N., Sugar, R., Schoenfelder, S., Ferreira, L., Wingett, S.W., Andrews, S., Grey, W., Ewels, P., et al. (2015) Mapping long-range promoter contacts in human cells with high-resolution capture Hi-C. Nat. Genet., 47, 598–606.

著者紹介Author Profile

岡部 篤史(おかべ あつし)

千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学助教.博士(工学).

略歴

1981年東京都に生る.2004年国際基督教大学卒業.06年国際基督教大学大学院修士課程修了.12年東京大学工学系研究科博士過程修了.同年東京大学先端科学技術研究センター特任研究員.15年千葉大学大学院医学研究院特任助教.18年現職.

研究テーマと抱負

癌エピジェネティクス.

金田 篤志(かねだ あつし)

千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学教授.博士(医学).

略歴

1994年東京大学医学部卒業.99年東大病院分院外科助手.国立がんセンター(牛島研),ジョンズ・ホプキンス大学(Feinberg研),東京大学先端科学技術研究センター(油谷研)にて癌エピゲノム研究.2013年千葉大学教授(現職).

研究テーマと抱負

ゲノム・エピゲノムの異常で発症する癌に対し,癌リスク上昇などエピゲノム異常が果たす役割,病原体感染や炎症など細胞にエピゲノム異常を蓄積させる因子とその分子機構を同定し,予防・治療への応用を目指す.

ウェブサイト

http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/moloncol/index.html

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