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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(1): 17-23 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910017

特集Special Review

分枝鎖アミノ酸による制御性T細胞の維持Branched-Chain Amino-Acid-Dependent Maintenance of Regulatory T Cells

1大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座免疫制御学Laboratory of Immune Regulation, Department of Microbiology and Immunology, Graduate School of Medicine, Osaka University ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘2–2 ◇ Yamada-oka, Suita, Osaka 565–0871, Japan

2東京大学大学院医学系研究科社会連携講座糖尿病・生活習慣病予防講座 ◇ 〒113–8655 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ Department of Prevention of Diabetes and Lifestyle-Related Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo

発行日:2019年2月25日Published: February 25, 2019
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Foxp3陽性の制御性T細胞(Treg)は過剰な免疫応答を抑制するT細胞のサブセットであり,さまざまな自己免疫疾患との関連が示されている.Tregは生体内で高い増殖能を示すが,その機序については不明な点が多い.Tregは周囲の栄養環境から強く影響を受けることが知られており,また,過去の研究でグルタミンやロイシンをはじめとするアミノ酸がmTOR(mammalian target of rapamycin)経路を介してT細胞の分化に関与していることが示されているが,分化した後のTregとの関わりは不明であった.今回筆者らは,アミノ酸トランスポーターSLC3A2を介して取り込まれた分枝鎖アミノ酸,特にイソロイシンがmTOR経路のシグナルを活性化させることにより,生体内でのTregの増殖能および免疫抑制能を制御していることを明らかにした.

1. はじめに

Foxp3を発現する制御性T細胞は,宿主にとって有害となる過剰な免疫反応を抑制するT細胞のサブセットであり,免疫寛容の維持に重要な役割を果たす1).制御性T細胞には,胸腺で発生するものと,特定の条件下において末梢組織でナイーブT細胞から誘導されるものがある.また,制御性T細胞は他のT細胞のサブセットに比べて生体内で高い代謝状態にあり,周囲の栄養環境をより鋭敏に感知して高い増殖能を示すことが知られている2).ヒト生体内において,ナイーブT細胞やメモリーT細胞が2倍に増殖するのに要する期間はそれぞれ199日間,24日間であるのに対し,制御性T細胞ではわずか8日間であると報告されている3).しかしながら,生体内で制御性T細胞が高い増殖能を示す詳細な機序は不明であった.

本稿では,アミノ酸トランスポーターSLC3A2(CD98hc)を介した分枝鎖アミノ酸,特にイソロイシンと制御性T細胞の増殖,免疫抑制能の維持について筆者らの研究を中心に述べる.

2. 分枝鎖アミノ酸

タンパク質を形成している20種類のアミノ酸のうち,体内で合成できないものを必須アミノ酸といい,ヒトではイソロイシン,ロイシン,バリン,メチオニン,リシン,ヒスチジン,フェニルアラニン,トリプトファン,トレオニンの9種類のアミノ酸が該当する(マウスではこれにアルギニンを加えた10種類が必須アミノ酸に該当する).このうち,ロイシン,イソロイシン,バリンの三つは,構造中に分枝のある脂肪族側鎖構造を持つため,分枝鎖アミノ酸(branched-chain amino acid:BCAA)と呼ばれる.

分枝鎖アミノ酸と免疫との関わりは古くから研究されており,たとえば動物実験において,分枝鎖アミノ酸はT細胞が活性化した状態を維持するのに必須であり,これが欠乏すると,抗体産生能および細胞障害性のT細胞反応が減弱することが報告されている4–6)

3. 分枝鎖アミノ酸トランスポーター

アミノ酸は側鎖の違いにより性質が大きく異なるため,それぞれ性質が類似したアミノ酸群を基質とする多数のアミノ酸トランスポーター分子が存在する.また,トランスポーターごとに,高く発現する臓器や細胞種が異なっている.これらアミノ酸トランスポーターのうち,分枝鎖アミノ酸の輸送に関わるものとして,system Lに属するSLC7A5(LAT1),SLC7A8(LAT2),SLC43A1(LAT3),SLC43A2(LAT4),ならびにsystem y+Lに属するSLC7A7(y+LAT1),SLC7A6(y+LAT2),さらにSLC6A14, SLC6A19などが知られている.このうちSLC7A5, SLC7A8, SLC7A7およびSLC7A6は,SLC3A2(CD98hc)とヘテロ二量体を形成することにより機能する7).SLC3A2はアミノ酸輸送に寄与するのみでなく,インテグリンと結合して細胞の接着,凝集や増殖,細胞死に関与している.さらに,免疫系との観点でいえば,SLC3A2はリンパ球を活性化させる抗原として最も早期に同定されたものの一つとして知られている8).SLC3A2遺伝子が欠失または変異を起こすと,早期の胎生致死となる9)ため,これまでコンディショナルノックアウトマウスを用いて多くの研究がなされてきた.たとえば,B細胞の増殖および,形質細胞への分化にはSLC3A2とインテグリンの結合が必須であることがわかっている10).また,SLC3A2を欠失させたマクロファージは抗原提示,貪食,癒合機能に異常を来す11).さらに,本遺伝子の欠損によりT細胞の増殖が抑制されるとともに,機能障害を呈することも報告されている12).一方,SLC7A5は近年がん研究の分野で注目されている.SLC7A5は大腸がん,肺がん,前立腺がんなど多くのがんで特異的に発現が上昇し,がん細胞におけるアミノ酸輸送に必須である.そして膵臓がんなどではSLC7A5の高発現が予後不良群のマーカーとして有用であることが報告された13).一方,非がん細胞ではSLC7A5が機能しなくても主にSLC7A8をはじめとする他のトランスポーターを介してアミノ酸輸送が行われる.実際にSLC7A5の特異的阻害薬を腫瘍モデルマウスに投与すると,腫瘍増大の抑制効果が認められたことから,ヒトにおいても新規のがん治療薬として期待されている14)

4. アミノ酸とmTOR

mTOR(mammalian target of rapamycin)は,細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼ(セリン・トレオニンキナーゼ)の一種であり,細胞の増殖,タンパク質合成などを制御している.当初,ラパマイシンの標的分子として同定された経緯からmTORと命名された.哺乳類において,mTORはmTORC1複合体およびmTORC2複合体の構成成分として存在する.このうち,mTORC1はアミノ酸や成長因子によって強力に活性化され,T細胞受容体(T cell receptor:TCR)やインターロイキン2(IL-2)もその活性化因子であることが知られている15)

5. mTORとT細胞の分化

mTORはT細胞の分化に大きく関わっており,一般的にはmTORC1が活性化するとTh1細胞,Th2細胞,Th17細胞への分化が促進される.mTORC1が活性化する過程にはアミノ酸トランスポーターを介したアミノ酸の取り込みが重要であると考えられている16)

たとえば,SLC7A5を欠失させたCD4陽性T細胞では,mTORC1活性が低下し,in vitroにおいてTh1細胞やTh17細胞への分化が抑制される.一方で,IL-2およびtransforming growth factor-β(TGF-β)に対する反応は正常であり,SLC7A5の欠失は制御性T細胞への分化には影響を与えない17).さらに,グルタミントランスポーターSLC1A5(ASCT2)もTh1細胞,Th17細胞への分化に必須であるが,末梢性の制御性T細胞の分化には必須でないとされている18).mTORの活性化と制御性T細胞への分化との関係は非常に複雑であり,一過性のmTOR活性の低下は,T細胞においてfoxp3の発現を誘導するが,mTORに持続的な刺激が入った場合は逆にFoxp3の発現を抑制する19).同様に,Aktにより持続的にmTORを活性化させた場合もT細胞におけるFoxp3の発現が抑制される20).さらに,mTOR活性が持続的に低下した際には,制御性T細胞の減少が起こることも示唆されている19).このように,mTORとT細胞の分化の関わりについては盛んに研究が行われており,mTORと制御性T細胞の関わりについても分化を中心に研究が進められた.しかし,ZengらはこのmTOR経路がナイーブT細胞から制御性T細胞への分化のみならず,制御性T細胞の免疫抑制能も調節していることを明らかにした21).彼らは,制御性T細胞特異的にRaptor(mTORC1の必須構成要素の一つ)を欠損させたマウスを作製し,制御性T細胞におけるmTORC1の役割について解析した.このマウスの制御性T細胞では,細胞障害性Tリンパ球抗原4(cytotoxic T lymphocyte antigen-4:CTLA-4)およびICOS(inducible T-cell co-stimulator)など,制御性T細胞の免疫抑制能に必須のマーカーの発現が抑制されており,免疫抑制能に異常を来していた.このマウスは,コントロールマウスと比べて体格が小さく,大腸をはじめとする種々の臓器にリンパ球浸潤が認められ,寿命も短かった21)

6. 分枝鎖アミノ酸欠乏が免疫に与える影響

アミノ酸の中でも特にロイシンがmTORの活性化に重要であることは広く知られている.しかし,ロイシン以外の分枝鎖アミノ酸や,これらのアミノ酸を輸送するトランスポーターが,T細胞におけるmTOR経路とどのように関連しているのか,また制御性T細胞の機能に影響を与えているのかについては不明な点が多かった.そこで,まず筆者らは,分枝鎖アミノ酸欠乏が免疫に与える影響を明らかにするため,コントロール食,ロイシン減量食,イソロイシン減量食,バリン減量食(それぞれ,コントロール食の10%になるように調整)の4種類の餌を調製し,6週齢のBALB/cマウスに2週間投与した.その後,フローサイトメトリーを用いて,脾臓中のリンパ球を解析したところ,いずれの減量群においてもTh1細胞(IFN-γ産生細胞)およびTh17細胞(IL-17産生細胞)に影響はなかったが,CD4陽性細胞に占める制御性T細胞の割合および実数は減少しており,特にイソロイシン減量群で制御性T細胞の著明な減少を認めた(図1A).イソロイシン減量食で飼育したマウスでは,脾臓のみならず小腸および大腸の粘膜固有層の制御性T細胞も減少していた(図1B22)

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図1 分枝鎖アミノ酸欠乏による制御性T細胞の減少

分枝鎖アミノ酸減量食で2週間飼育したマウスの脾臓の制御性T細胞(左:CD4陽性細胞中の割合,右:実数).(B)イソロイシン減量食で2週間飼育したマウスの小腸,大腸固有粘膜層のCD4陽性細胞中の制御性T細胞の割合.control:コントロール食,ΔVal:バリン減量食,ΔLeu:ロイシン減量食,ΔIle:イソロイシン減量食.*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.005, ****p<0.001. 文献22より一部改変.

制御性T細胞の減少の原因として,①ナイーブT細胞からの分化の抑制,②アポトーシスの亢進,③増殖能の異常の可能性が考えられた.まず,イソロイシン非存在下における制御性T細胞への分化について解析するため,TGF-βの存在下でナイーブT細胞をイソロイシン含有/非含有培地でそれぞれ培養したところ,イソロイシン非含有培地でも制御性T細胞への分化は正常に認められた.次に,制御性T細胞のアポトーシスについて検討した.2週間イソロイシン減量食で飼育したマウスの脾臓から分離した制御性T細胞におけるアポトーシス細胞の割合を,TUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick end labeling)染色を用いてフローサイトメトリーで解析した.その結果,イソロイシン減量食群とコントロール食群の間で差を認めず,イソロイシン欠乏が制御性T細胞のアポトーシスに影響を与えないことが示された.最後に,制御性T細胞の増殖能について解析した.in vivoにおいて,イソロイシン減量食群では,コントロール食群と比較して,脾臓中の制御性T細胞における増殖マーカーKi67の陽性率は著明に低下していたが,ナイーブT細胞(CD4CD44lowCD62Lhigh)やエフェクターT細胞(CD4CD44highCD62Llow)でのKi67の陽性率はコントロール群と差がみられなかった(図2A22).以上の結果から,イソロイシン欠乏により,制御性T細胞特異的に増殖が抑制されることが明らかとなった.

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図2 分枝鎖アミノ酸欠乏による制御性T細胞の減少および免疫抑制能の低下

(A)イソロイシン減量食で飼育したマウスの脾臓の各T細胞サブセットにおける増殖マーカーKi67の陽性率.(B)イソロイシン減量食で飼育した野生型マウスの脾臓の制御性T細胞におけるp70S6K(Thr389)のリン酸化.(C)Foxp3-GFPマウスの制御性T細胞,エフェクターT細胞を必須アミノ酸非含培地で培養し,full培地またはイソロイシン非含有培地または必須アミノ酸非含培地で20分刺激した後のS6のリン酸化.(D)コントロール食またはイソロイシン減量食で飼育したマウスの制御性T細胞と非制御性T細胞を樹状細胞の存在下に共培養し,[3H]-チミジンの取り込みを計測することにより制御性T細胞の免疫抑制能を評価した実験結果.ΔIle:イソロイシン減量食/非含有培地.full:full培地.ΔEAA:必須アミノ酸非含培地.CPM:counts per minute. ns:有意差なし.*p<0.05, **p<0.01. 文献22より改変.

7. イソロイシン欠乏状態下でのmTORシグナル

制御性T細胞は,非制御性T細胞と比較して,mTOR経路が強く活性化していることが知られている23).ロイシンをはじめとするアミノ酸はmTORC1を強く活性化させることから,イソロイシン,ロイシンによるmTOR経路の活性化について検討を行った.mTORC1の活性化の指標として,S6リボソームタンパク質(S6)とp70 S6キナーゼ(p70S6K)のリン酸化を用い,フローサイトメトリーにより解析した.その結果,コントロール食群と比べて,イソロイシン減量群のマウス脾臓中の制御性T細胞ではp70S6Kのリン酸化が抑制されていた(図2B).次に,in vitroで制御性T細胞とエフェクターT細胞をそれぞれアミノ酸非含有培地で培養した後,必須アミノ酸を含む培地(full)または,イソロイシン以外の必須アミノ酸を含む培地(ΔIle)を添加してアミノ酸刺激を加えた.その結果,full培地で刺激した場合は制御性T細胞とエフェクターT細胞の両方でS6のリン酸化が誘導されたが,ΔIle培地による刺激を加えたところ,エフェクターT細胞ではS6のリン酸化が誘導されたのに対して,制御性T細胞においては誘導されなかった(図2C).このことから,制御性T細胞においては,S6のリン酸化,つまりmTORC1の活性化にイソロイシンが必須であることが示唆された.先に述べたように,mTORC1は制御性T細胞の機能維持に重要な分子であるCTLA-4などの発現を制御している.そこで,イソロイシン減量食群のマウスの脾臓中の制御性T細胞において,CTLA-4およびグルココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体関連タンパク質(glucocorticoid-Induced TNFR-related protein:GITR)の発現を解析したところ,コントロール食群の制御性T細胞と比較して著明に発現が低下していた.次に,in vitroにおいて制御性T細胞と非制御性T細胞(CD25CD4)を樹状細胞および抗CD3抗体の存在下で共培養したところ,コントロール食群のマウスから単離した制御性T細胞が量依存的にCD25CD4細胞の増殖を抑制したのに対して,イソロイシン減量食群のマウスの制御性T細胞はCD25CD4細胞の増殖を抑制しなかった(図2D).これらのことから,イソロイシン欠乏状態における制御性T細胞の免疫抑制能は低下していることが明らかとなった.

8. 制御性T細胞における分枝鎖アミノ酸トランスポーターSLC3A2の重要性

先に述べたように,アミノ酸トランスポーターの発現レベルは臓器,細胞種により異なっている.そこで筆者らは,Foxp3遺伝子座にEGFP(enhanced green fluorescent protein)を相同組換えにより導入してFoxp3陽性T細胞(制御性T細胞)を同定,単離できるようにしたFoxp3-EGFPマウスを用いて,脾臓中の制御性T細胞(Foxp3CD4)および非制御性T細胞(Foxp3CD4)における分枝鎖アミノ酸トランスポーター遺伝子の発現について解析を行った.その結果,mRNAレベルではSLC3A2の発現が最も高く(図3A),タンパク質レベルでもナイーブT細胞,エフェクターT細胞と比べて制御性T細胞で最も高く発現がみられた.SLC7A5もmRNAレベルでは非制御性T細胞と比較して,制御性T細胞で発現が高く認められた.そこで筆者らは,まず,制御性T細胞特異的にSLC7A5を欠失させたマウス(Foxp3cre; Slc7a5flox/flox)を作製し,このマウスにおける脾臓中の制御性T細胞を解析したところ,CD4陽性T細胞における制御性T細胞の割合,実数ともにコントロールマウスとほぼ同様であった.さらに40週齢以降にこのマウスの組織学的検討を行ったが,コントロールマウスと比べて差を認めなかった(筆者ら,未発表データ).

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図3 制御性T細胞の増殖能におけるSLC3A2の重要性

(A)Foxp3-EGFPマウスの制御性T細胞/非制御性T細胞における分枝鎖アミノ酸トランスポーター遺伝子の発現.(B)Slc3a2flox/floxマウスと,Foxp3creSlc3a2flox/floxマウスの脾臓,大腸粘膜固有層における制御性T細胞の割合および実数.(C) Slc3a2flox/floxマウス/Foxp3creSlc3a2flox/floxマウスにそれぞれブロモデオキシウリジン(BrdU)を投与し,3日後にフローサイトメトリーにて脾臓の制御性T細胞における増殖能を解析した.**p<0.01, ***p<0.005. 文献22より一部改変.

次に,制御性T細胞におけるSLC3A2の機能を明らかにするため,制御性T細胞特異的にSLC3A2の機能を欠失させたマウス(Foxp3cre; Slc3a2flox/flox)を作製した.このマウスの脾臓中の制御性T細胞は,コントロールマウスと比較して著明に減少しており,その増殖能も抑制されていた.さらに大腸粘膜固有層の制御性T細胞も減少しており,イソロイシン減量食群のマウスと類似した表現型を呈した(図3B, C).

すでに述べたように,イソロイシン輸送に関わるトランスポーターは単一ではなく,複数存在している.そのため,SLC3A2のみを欠損させただけでは,イソロイシン輸送に影響を与えない可能性も考えられる.そこで筆者らは,SLC3A2を欠失させた制御性T細胞のイソロイシンの取り込みおよび,細胞内分枝鎖アミノ酸濃度について検討を行った.コントロールマウスでは,非制御性T細胞に比べて制御性T細胞においてイソロイシン濃度が高かった.ところが,SLC3A2を欠いた制御性T細胞ではロイシン,バリン濃度がコントロールマウスと変わらない一方,イソロイシン濃度のみが特異的に低下していた(図4A).次にイソロイシンの取り込みについて,放射性同位体で標識したイソロイシンを用いて検討したところ,正常な制御性T細胞と比較して,SLC3A2を欠く制御性T細胞ではイソロイシンの取り込みが阻害されていることがわかった(図4B).つまり,制御性T細胞において,イソロイシンの輸送にSLC3A2が非常に重要であるということが明らかとなった.次に,SLC3A2を欠く制御性T細胞のインテグリンを介した細胞接着能についてin vitroの系で評価したところ,コントロールマウスの制御性T細胞と比較して差を認めず,制御性T細胞においては,インテグリンを介した細胞接着にSLC3A2が必須でないことが示唆された.次に,in vitroにおいて,このマウスの制御性T細胞をイソロイシンまたはロイシンで刺激した後にフローサイトメトリーでS6のリン酸化を解析した.その結果,コントロールマウスの制御性T細胞と比較して,S6のリン酸化が誘導されず,mTORC1活性が低下していた.このマウスは,Zengらが解析した制御性T細胞特異的にmTORC1の機能を欠失させたマウス(Foxp3cre; Rptorflox/flox21)とは異なり,外見上は健康であり,コントロールマウスと比べて寿命も変わらなかったが,イソロイシン減量食で飼育したマウスと同様に,脾臓中の制御性T細胞は免疫抑制能に異常を来していた(図4C).さらに40週齢以上では,甲状腺,膵臓,胃,肝臓,唾液腺など複数の臓器において著明な炎症細胞浸潤および腺組織の破壊像が観察された(図4D).制御性T細胞の機能に異常を来すと腺組織を中心に炎症像がみられることが知られており,制御性T細胞特異的なCTLA-4ノックアウトマウスにおいても胃,唾液腺などの臓器における炎症性変化が報告されている24)

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図4 制御性T細胞の免疫抑制能におけるSLC3A2の重要性

(A)Slc3a2flox/floxマウスと,Foxp3creSlc3a2flox/floxマウス脾臓中の,制御性T細胞/非制御性T細胞中の分枝鎖アミノ酸濃度.(B)Slc3a2flox/floxマウスと,Foxp3creSlc3a2flox/floxマウス脾臓の制御性T細胞におけるL-[14C]イソロイシンの取り込みの比較.データは平均値±S.E.M.で示した.(C)Slc3a2flox/floxマウス/Foxp3creSlc3a2flox/floxマウス脾臓の制御性T細胞と非制御性T細胞を樹状細胞の存在下に共培養し,[3H]-チミジンの取り込みを計測することにより制御性T細胞の免疫抑制能を評価した実験結果.CPM:counts per minute.(D)40週齢以上で施行した各臓器のHE染色.スケールバー:200 µm. **p<0.01, ***p<0.005. 文献22より一部改変.

9. おわりに

今回筆者らは制御性T細胞においてSLC3A2を欠失させたマウス(Foxp3cre; Slc3a2flox/flox)の解析を行ったが,CD4陽性T細胞においてSLC3A2を欠失させたマウス(CD4cre; Slc3a2flox/flox)の検討では,Th1細胞への分化が抑制されることや制御性T細胞の免疫抑制能に異常を来す一方で,制御性T細胞の減少は認めなかったと報告されている25, 26).Creが発現するタイムポイントの違い(CD4cre; Slc3a2flox/floxマウスでは胸腺におけるT細胞の発生の時点でcreが発現しているが,Foxp3cre; Slc3a2flox/floxでは制御性T細胞への分化後に発現する)が,これら2種類のマウスの表現型の差につながったのではないかと考えられる.

もう一点,今回の検討では,ロイシン欠乏に比べてイソロイシン欠乏でより顕著な制御性T細胞の減少を認めた.ロイシンとイソロイシンのトランスポーターは共通であり,また一般的には分枝鎖アミノ酸の中でロイシンが最もmTORC1活性作用が強いとされている.ロイシン減量食に比べてイソロイシン減量食でより強い表現型が認められた理由を考察する.筆者らがロイシン減量食群およびバリン減量食群のマウスの血漿アミノ酸濃度を分析したところ,イソロイシン濃度がコントロール食群のマウスに比べて上昇していた.この理由は明らかではないが,過去にも血漿中のロイシン濃度が低下した際に,イソロイシンおよびバリンの濃度が相補的に上昇したとの報告が存在する27).本来ロイシン減量食やバリン減量食が制御性T細胞に与えたであろう影響を,イソロイシン濃度の上昇が補った可能性がある.さらに,制御性T細胞中のイソロイシン濃度はロイシンやバリンに比べて高く保たれており,またSLC3A2を欠く制御性T細胞ではロイシンおよびバリン濃度が不変であった一方で,イソロイシン濃度の明らかな低下が認められた(図4A)ことから,制御性T細胞が,分枝鎖アミノ酸の中でもイソロイシンを積極的に利用している可能性も考慮される.この点についての詳細な機序の解明には今後さらなる研究が必要であろう.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学の教室員の尽力により行われました.また,ご協力いただいた多数の共同研究者の先生方に感謝いたします.

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著者紹介Author Profile

池田 佳世(いけだ かよ)

東京大学大学院医学系研究科社会連携講座糖尿病・生活習慣病予防講座共同研究員.博士(医学).

略歴

三重県生まれ.2003年大阪大学医学部医学科卒業.大阪大学医学部附属病院,りんくう総合医療センター,大阪府立母子保健総合医療センターで小児消化器科医として勤務.12年より大阪大学免疫制御学に在籍.18年4月より現職.

研究テーマと抱負

興味のある分野は小児の栄養発育及び消化管運動異常症,炎症性腸疾患などの難治性腸疾患.免疫制御学講座では栄養,アミノ酸と免疫系の関わりについて研究しました.腸内細菌叢にも興味があります.

趣味

スターウォーズ鑑賞・ジャズ喫茶めぐり.

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