生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 91(1): 101-104 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910101

みにれびゅうMini Review

サブプレートニューロンからのシナプス伝達が大脳新皮質における神経細胞移動を制御するSynaptic transmission from subplate neurons controls radial migration of neocortical neurons

公益財団法人東京都医学総合研究所・神経回路形成プロジェクトNeural Network Project, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science ◇ 〒156–8506 東京都世田谷区上北沢2–1–6 ◇ 2–1–6 Kamikitazawa, Setagaya-ku, Tokyo 156–8506, Japan

発行日:2019年2月25日Published: February 25, 2019
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1. はじめに

ヒトの脳は進化の最高傑作ともいわれており,思考や言語等の高次脳機能をつかさどる大脳新皮質が非常に発達している.大脳新皮質は哺乳類にのみ存在し,特徴的な6層構造を示す.各層内には,それぞれ異なる性質や形態を示すニューロンがびっしりと配置され,特定の標的ニューロンへ正確に軸索を伸ばし,複雑な神経回路を作り上げている.ではこの精巧な器官はどのようにしてできあがるのだろうか? 大脳新皮質の興奮性ニューロンは胎児期に皮質深部の脳室帯で誕生した後,脳表に向かって移動していく.このようなニューロンの新生と移動が繰り返されることによって,最終的に多数のニューロンが精緻に配置された6層構造が形成される(図11–3).この際,誕生直後のニューロンは多極性の形態をとり,方向性の定まらないゆっくりした「多極性移動」と呼ばれる移動様式を示す.その後,移動ニューロンは双極性の形態に変化し(多極性-双極性変換),「ロコモーション」という移動様式で脳表に向かって速やかに移動するようになる.この過程は「放射状神経細胞移動」と呼ばれ,その制御に関与する多数の遺伝子が自閉症や統合失調症等の精神・神経疾患と関連することがわかりつつある4, 5).したがって,放射状神経細胞移動のメカニズムを明らかにすることは,これらの疾患の病因を解明する上できわめて重要である.しかしながら,ニューロンの極性や移動モードが切り替わるタイミングや場所,さらに,その制御機構には不明な点が多かった.我々は,大脳新皮質で最も早く誕生し,脳ができ上がると消失する「サブプレートニューロン」6)に注目し,本細胞が放射状神経細胞移動の制御に重要な役割を果たしていることを見いだした7)

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図1 放射状神経細胞移動における新生ニューロンの振る舞い

(A)脳室帯で生まれた新生ニューロンは多極性移動した後,サブプレート層直下でいったん停止する.ここで,新生ニューロンは多極性から双極性に形態変化し,放射状グリア線維に沿って脳表に向かってより早いスピードで移動していく(ロコモーション).(B)移動ニューロンの軌跡を50分ごとにプロットした.ゆっくりした多極性移動の後,サブプレート層(SP)付近で一時的に停止する.その後,ロコモーションを開始し,すばやく脳表に向かって移動する様子がわかる.文献7より改変.

2. 移動に障害があるニューロンはしばしばサブプレート層直下で滞留する

近年,脳室帯に存在する神経前駆細胞に子宮内胎仔電気穿孔法を用いて遺伝子を導入し,その機能を明らかにする試みが盛んに行われるようになった.この手法を用いて転写抑制因子のRP58や糖鎖修飾酵素の一つであるGalNAc4S-6ST等の遺伝子のノックダウン(siRNA導入)あるいはノックアウト(floxedマウスにCre発現プラスミドを導入)実験を行うと,しばしば神経細胞移動の障害が観察される3).我々はその表現型を注意深く観察し,ニューロンが大脳新皮質の半ばで移動を止め,そこに滞留してしまう場合が多いことに気づいた.「この新皮質半ばの境界は一体何なのか?」という問いから,我々の研究はスタートした.さまざまな形態学的な解析から,この境界が「サブプレート層」と呼ばれる層であることを突き止めたが,「なぜ,異常ニューロンはここで移動を止めてしまうのだろう?」という疑問が残った.我々は培養スライス脳を用いてタイムラプス観察を行い,正常ニューロンも,多極性移動でサブプレート層直下に到達すると,そこでいったん停止し,その後,多極性から双極性へと形態を変え,さらに移動モードもロコモーションへと変換することを見いだした(図1).すなわち,サブプレート層は新生ニューロンが形態と移動モードを変換する場となっており,さまざまな遺伝子の異常によってこの変換が障害され,その結果,移動が停止することが示唆された.サブプレート層は,主として大脳新皮質で最も早く生まれ成熟するサブプレートニューロンと豊富な細胞外基質から構成される(図18, 9).我々は,サブプレートニューロンから移動ニューロンへ何らかのシグナルが送られて,移動モードの変換が起こるのではないかという仮説を立てた.

3. サブプレートニューロンと移動ニューロンはシナプスを介して相互作用している

我々は,移動モードの変換にCa2+シグナリングが関与する可能性を考え,新生ニューロンにCa2+プローブのGCaMPを導入し,タイムラプスイメージングで観察した.その結果,移動ニューロンはサブプレート層を越える際に一過的なCa2+上昇を示し,その後,移動モードを変換することがわかった.すなわち,多極性移動モードで移動していたニューロンは,サブプレート層に到達すると何らかのシグナルを受け取り,細胞内Ca2+濃度が上昇することが示唆された.これまで,サブプレートニューロンは皮質下にパイオニア軸索を伸ばし,視床–皮質投射軸索のガイド役を担っていることは知られていた6).しかし移動ニューロンとの関係はまったく調べられていなかった.そこで,サブプレートニューロンと移動ニューロンを異なる蛍光タンパク質でラベルし,その振る舞いを観察した.その結果,サブプレートニューロンは脳室帯に向かって軸索様の突起を盛んに伸ばし,移動ニューロンと密接に相互作用していることが明らかになった.そこで,この両者の接着部位を電子顕微鏡観察したところ,シナプス様の構造が見つかった.この構造には,移動ニューロン側にシナプス後肥厚部様の構造が,その対側のサブプレートニューロン側に,シナプス小胞と活性帯に類似した膜肥厚部が観察された.未熟な移動途中の新生ニューロンに,このようなシナプス様構造が存在することは驚きであった.

しかしながら,そもそも,このような新皮質の発生初期にサブプレートニューロンは神経活動をしているのだろうか.このことを確認するために,我々はサブプレートニューロン特異的にGCaMP遺伝子を導入し,カルシウムイメージングを行った.その結果,活発なCa2+スパイクが観察され,サブプレートニューロンは非常に早い時期から神経活動をしていることが示唆された.さらにその活動を詳細に解析するため,シナプトフィジン−フルオリン10)をサブプレートニューロンに発現させ,シナプス小胞の開口放出をイメージングした.すると,サブプレート層直下の移動ニューロン周囲にフルオリンシグナルが観察された.また,このシグナルは脱分極刺激(100 mM KCl)によって増強することから,サブプレートニューロンから移動ニューロンへのシナプス伝達に由来するものであると結論した.それでは,このシナプスを介した相互作用はニューロンの移動制御に関与しているのだろうか? この疑問に答えるため,サブプレートニューロンに内向き整流性KチャネルKir2.1あるいはテタヌス毒素を発現させて,その神経活動を抑制し,神経細胞移動への影響を解析した.その結果,どちらの実験においても,神経活動を抑制したサブプレートニューロンの周囲で移動が阻害されることが明らかになった.この結果は,サブプレートニューロンの神経活動が新生ニューロンの移動制御に寄与することを示した初めての発見となった.

4. 移動ニューロンはサブプレート層においてグルタミン酸シグナルを受け取って移動モードを変換する

我々は,移動ニューロン周囲に形成されるサブプレートニューロン由来の神経終末が,小胞性グルタミン酸トランスポーターVGLUT2陽性であることを見いだした.このことは,サブプレートニューロン–移動ニューロン間のシナプスがグルタミン酸作動性であることを示唆している.そこで次に,ケージドグルタミン酸を用いて,移動ニューロン周囲のグルタミン酸濃度を局所的に上昇させ,その効果を観察した.その結果,グルタミン酸濃度が上昇すると移動ニューロンはサブプレート層直下でいったん停止することなく,直ちにロコモーションを開始することが明らかになった.これは,サブプレートニューロンからのグルタミン酸作動性シナプス入力を待つ必要がないからであると考えられる.次に,移動ニューロンがどのようなグルタミン酸受容体を用いているのかを調べるために,DNAマイクロアレイ解析を行った.その結果,多くのグルタミン酸受容体サブユニットの発現が確認されたが,なかでもNMDA受容体サブユニットの発現量が移動に伴って顕著に増加することがわかった.そこで,NMDA受容体の必須サブユニットであるNR1を移動ニューロン特異的にノックアウトし,放射状神経細胞移動への影響を解析した.その結果,移動ニューロンの皮質板への進入が顕著に障害されたことからNMDA受容体の関与が示唆された.

以上の結果から,次のようなモデルが考えられた.移動を始めた新生ニューロンは,多極性移動でサブプレート層に近づき,サブプレートニューロンから一過的なシナプスを介してグルタミン酸シグナルを受ける.すると移動細胞内のCa2+濃度が上昇し,その下流のシグナルがオンになって,細胞骨格の再構成等が起こり,形態と移動モードが変換するというモデルである(図2).今後はこの下流シグナルの実態を明らかにすることが重要である.細胞骨格の再編成の他にも,移動ニューロンがサブプレート層を突破するためには豊富な細胞外基質を分解する必要もあるかもしれない.現在このような視点からも解析を進めている.

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図2 サブプレートニューロンは移動ニューロンにシナプスを介して信号を送り移動様式の変換を促す

多極性の移動ニューロンは,サブプレート層直下でサブプレートニューロンからのグルタミン酸シグナルを,一過的なシナプスを介して受け取る.これにより多極性ニューロン内のCa2+濃度が上昇し,双極性ニューロンへの形態変化とロコモーションへの変換が起こる.写真は文献7より.

5. おわりに

これまで,シナプスは成熟したニューロンどうしの情報伝達に使われるものであると考えられてきた.本研究はこのような概念を覆し,シナプスにおけるシグナル伝達が幼若ニューロンの発生制御の道具としても使われることを初めて示した.発達期の脳においては,ニューロンの新生や移動,軸索投射による神経回路網形成等の現象が,さまざまな領域で同時にかつ互いに同調して進行する必要があるが,その制御メカニズムは未解明のままである.本研究では,サブプレートニューロンの神経活動が,移動ニューロンの移動モード変換のタイミングを制御することが明らかになった.サブプレートニューロン自身の神経活動は,まず自発発火から始まり,その後,視床から皮質に投射してくる軸索などからのシナプス入力が本ニューロンをさらに強く興奮させている可能性が考えられる.これまでサブプレートニューロンは神経回路網形成において司令塔的な調節機能を果たすと考えられてきたが11),今回見いだされた一過性のシナプ形成は,刻々と複雑化していく大脳新皮質の発達過程において,ニューロンの移動と初期神経回路網形成という二つのプロセスを同調させる機能を果たしているのかもしれない.

最近,サブプレートニューロンの遺伝子発現プロファイリングが行われ,自閉症や統合失調症に関連する遺伝子が有意に発現していると報告されている8).今後,サブプレートニューロンの詳細な機能解析を進めることで,さまざまな神経・精神疾患の原因解明につながることが期待される.また,サブプレート層は哺乳類に独特なニューロン層であることから,大脳新皮質の進化を考える上でも重要である.すなわち,神経前駆細胞の分裂様式だけでなく,新生ニューロンの「新しい移動モード」の獲得も新皮質の出現に重要だったのではないか,そして,サブプレートニューロンがそこで大きな役割を果たしたのではないかと筆者らは考えている.

引用文献References

1) Rakic, P. (1974) Neurons in rhesus monkey visual cortex:systematic relation between time of origin and eventual disposition. Science, 183, 425–427.

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3) Ohtaka-Maruyama, C. & Okado, H. (2015) Molecular pathways underlying projection neuron production and migration during cerebral cortical development. Front. Neurosci., 9, 447.

4) Gleeson, J.G. & Walsh, C.A. (2000) Neuronal migration disorders: From genetic diseases to developmental mechanisms. Trends Neurosci., 23, 352–359.

5) La Fata, G., Gartner, A., Dominguez-Iturza, A., Dresselaers, T., Dawitz, J., Poorthuis, R.B., Averna, M., Himmelreich, U., Meredith, R.M., Achsel, T., et al. (2014) FMRP regulates multipolar to bipolar transition affecting neuronal migration and cortical circuitry. Nat. Neurosci., 17, 1693–1700.

6) Allendoerfer, K.L. & Shatz, C.J. (1994) The subplate, a transient neocortical structure: Its role in the development of connections between thalamus and cortex. Annu. Rev. Neurosci., 17, 185–218.

7) Ohtaka-Maruyama, C., Okamoto, M., Endo, K., Oshima, M., Kaneko, N., Yura, K., Okado, H., Miyata, T., & Maeda, N. (2018) Synaptic transmission from subplate neurons controls radial migration of neocortical neurons. Science, 360, 313–317.

8) Hoerder-Suabedissen, A., Oeschger, F.M., Krishnan, M.L., Belgard, T.G., Wang, W.Z., Lee, S., Webber, C., Petretto, E., Edwards, A.D., & Molnar, Z. (2013) Expression profiling of mouse subplate reveals a dynamic gene network and disease association with autism and schizophrenia. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 3555–3560.

9) Maeda, N. (2015) Proteoglycans and neuronal migration in the cerebral cortex during development and disease. Front. Neurosci., 9, 98.

10) Granseth, B., Odermatt, B., Royle, S.J., & Lagnado, L. (2006) Clathrin-mediated endocytosis is the dominant mechanism of vesicle retrieval at hippocampal synapses. Neuron, 51, 773–786.

11) Kanold, P.O. & Luhmann, H.J. (2010) The subplate and early cortical circuits. Annu. Rev. Neurosci., 33, 23–48.

著者紹介Author Profile

丸山 千秋(おおたか-まるやま ちあき)

公益財団法人東京都医学総合研究所副参事研究員.理学博士.

略歴

お茶の水女子大学理学部,東京大学大学院理学系研究科を経て1991年理学博士号取得.米国NIHでのポスドク後,理研,癌研を経て2005年より東京都神経研(現東京都医学研)にて脳発生の研究を開始.

研究テーマと抱負

胚発生の過程で複雑な脳が構築されるメカニズム.特に,哺乳類大脳新皮質はどのようにして6層構造を獲得したのか?という脳進化の謎に迫る研究をしていきたい.

ウェブサイト

http://www.igakuken.or.jp/regeneration/service.html

趣味

歌うこと,旅行.

前田 信明(まえだ のぶあき)

生化学第87巻第4号(2015)p. 470参照

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