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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(1): 120-124 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910120

テクニカルノートTechnical Note

ポリユビキチン鎖形成の可視化Visualization of polyubiquitin by fluorescence complementation in living cells

東京医科歯科大学医学部附属病院消化器内科Department of Gastroenterology and Hepatology, Medical Hospital,Tokyo Medical and Dental University (TMDU) ◇ 東京都文京区湯島1–5–45 ◇ 1–5–45 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113–8510, Japan

発行日:2019年2月25日Published: February 25, 2019
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1. はじめに

ユビキチン(ubiquitin:Ub)は76個のアミノ酸からなるタンパク質であり,真核生物で高度に保存されている.ヒトでは4種の遺伝子によりコードされている.直鎖状“head-to-tail”にユビキチン配列が3回連続したUBB遺伝子,9回連続したUBC遺伝子,ユビキチンとリボソームタンパク質とがハイブリッドしたUBA52遺伝子およびUBA80遺伝子の4種で,それぞれ異なる染色体上に存在している.これらの4種の遺伝子の使い分けなどはいまだ不明であるが,翻訳されたタンパク質は直ちに酵素により切断され,76個のアミノ酸のユビキチンとして細胞質にプールされ,必要時に供給されることでユビキチン不足を回避していると考えられている1)

ユビキチン修飾系はこのユビキチンを付加することでタンパク質の機能を制御する翻訳後修飾系である.ユビキチン内に7個存在するリシン(K6, K11, K27, K29, K33, K48, K63)およびN末端のメチオニン(M1)を介した8種のユビキチン間結合様式を用いてユビキチン鎖が形成される2).ユビキチンはE1(ユビキチン活性化酵素)/E2(ユビキチン結合酵素)/E3(ユビキチンリガーゼ)の3種の酵素群により付加される.E3は,ヒトでは約600種類存在し,状況に応じて選択的に標的タンパク質(基質)を識別し,必要なタイミングで必要なポリユビキチン鎖を形成する.一方で,ポリユビキチン鎖を切断する脱ユビキチン化酵素(DUB)も約100種類ある.DUBはユビキチンを切り離し,シグナル活性制御等を行うとともに,ユビキチンを再利用プールに供給する.

ユビキチン修飾系には,ユビキチンが1個結合するモノユビキチン化と,複数が数珠状に連なったポリユビキチン鎖の付加がある.後者のうち均一に連続したポリユビキチン鎖は機能解析が進んでいる.K48結合型ポリユビキチン鎖(K48鎖)によるプロテアソーム依存的タンパク質分解にとどまらず,K63結合型ポリユビキチン鎖(K63鎖)によるシグナル伝達やDNA修復など,直鎖状ポリユビキチン鎖によるNF-κBの活性化などが判明している.さらには,選択的オートファジー,膜タンパク質の輸送など多様な役割を果たすことが明確となってきている.現在,ユビキチン修飾系は抗がん剤をはじめとする治療薬の標的経路として世界的な注目を集め,ユビキチン関連創薬が進展している.しかしながら,K27・K29・K33結合型等とともに,分岐鎖や混合鎖などのユビキチン化によるタンパク質機能制御の詳細や生体における意義はいまだ不明な点が多い.

2. ユビキチン鎖可視化

ポリユビキチン化は経時的にダイナミックな変動を示すことが特徴であり,その動態を明らかにすることは,さまざまな細胞応答の理解に重要である.そこでオンセットを検出し,かつその動態をリアルタイムで追跡可能な手法が試みられてきたが,今までは不十分であった(表1).鎖特異的抗体を用いた解析では動的解析ができず,またすべての鎖型に対する特異的抗体が作製されていない.蛍光タンパク質や蛍光色素と結合したユビキチンタンパク質を用いた解析(Ub-GFP発現ベクターなど)は,ユビキチン配列に変異を入れることで鎖特異的解析が可能となる.しかし,鎖状になる前から蛍光標識されており,ユビキチン鎖を形成していないユビキチンやモノユビキチン・ポリユビキチン鎖との顕微鏡的判別は不可能である.近年,ポリユビキチン鎖結合タンパク質(センサータンパク質)を応用した解析法がDikicらにより開発された3).我々は,ABIN1(TNIP1)がNEMOと同様なユビキチン鎖センサー配列を持つことを報告したが4),Dikicらの可視化はこの配列を利用している.この方法では鎖特異的結合タンパク質を蛍光標識し細胞内動態を解析することになるが,常に細胞質内で蛍光を発し,ポリユビキチン鎖が形成された際の動的解析には不十分である.また,鎖特異的センサー配列がいまだ限られているため解析も限られる.そこで我々は異なる方法を用いたポリユビキチン鎖を検出する手法の開発を試みた.

表1 ポリユビキチン可視化システム
バックグラウンドリアルタイムポリユビキチン鎖可視化鎖特異的可視化
特異的抗体なし×
Ub-GFPあり×~△△~◯
センサータンパク質あり
PolyUb-FCなし△~◯

3. ユビキチン鎖可視化技術(PolyUb-FC)の樹立

我々はポリユビキチン鎖を可視化する手法として,蛍光タンパク質再構成法(bimolecular fluorescence complementation:BiFC)による分子間相互作用の検出原理を用いた5).あらかじめ二つに分割した蛍光タンパク質とユビキチンをそれぞれ融合し,ユビキチンが相互作用すると,分割した蛍光タンパク質の断片が近接により再構成され蛍光能を回復し,相互作用を蛍光シグナルとして検出することができる.GFP由来やmCherryなどの蛍光タンパク質が使われることが多い.我々は蛍光タンパク質としてmonomeric Kusabira-Green(mKG)を用いて6),ユビキチンN末端にmKGの断片を結合させた場合に蛍光強度が高いことを見いだした.BiFCの蛍光タンパク質断片どうしの会合は一度形成されると離れない不可逆性であり,一過的な相互作用や結合の弱い相互作用には有効である反面,長時間経過すると非特異的な自己会合により偽陽性蛍光を生じる.ユビキチンを介した特異的結合を検証するため,ユビキチン内のすべてのリシンを変異させたコンストラクト(K0)との比較,競合実験,ウエスタンブロットによるポリユビキチン鎖の形成の確認,既知の抗ユビキチン抗体を用いた免疫染色による比較検証も行い,BiFC法を用いたポリユビキチン鎖の可視化ができたと考えられた.この二つのベクターを一つのベクターで発現できるように組み込み,PolyUb-FCとした(図17).さらには,ドキシサイクリン(Dox)誘導性発現としてiPolyUb-FC(inducible PolyUb-FC)を樹立している.

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図1 PolyUb-FCシステム

(A) PolyUb-FCは,ユビキチンN末端にmKGの二つの断片をそれぞれ融合させ,IRESにてmKG(N)-UbとmKG(C)-Ubを同時に発現させる.(B)分割したmKGは近接により構成されmKGの蛍光能が回復する.(C) PolyUb(WT)-FCを遺伝子導入した細胞のウエスタンブロットにてポリユビキチン鎖形成が示唆されるスメアを認める(lane 3).

4. PolyUb-FCでの解析例

可視化解析例を図示する.PolyUb-FCは,ユビキチン内のリシンを変異させ,K63鎖のみ結合できる変異やK48鎖のみ結合できる変異を入れることで鎖特異的に観察が可能である.BiFCを用いたPolyUb-FCは不可逆性であり,発現後解析までの時間の検討が必要であることを強調しておく.

  • 1) DNAが二重鎖切断されるとK63鎖が作用することが報告されている8).neocarzinostatin(NCS)にてDNAを二重鎖切断させPolyUb-FCによる蛍光反応を検討した.293T細胞をNCS刺激後,K63鎖のみ認識する抗体で免疫染色すると核内にfociを認めた(図2A).PolyUb(K63)-FCを用いると同様に核内に誘導性のfociを認め,共局在することが判明した.PolyUb-FCは鎖特異的に生理反応を解析できた.
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図2 PolyUb-FCを用いた可視化

(A) NCSにてDNA二本鎖切断させK63鎖のfociを確認した.(B) LLOMeにてリソソーム損傷させユビキチン鎖の時間依存的変化を確認した.NCS: neocarzinostatin. LLOMe: L-leucyl-L-leucine methyl ester.

  • 2) L-leucyl-L-leucine methyl ester(LLOMe)を用いて人為的にリソソームを損傷すると傷ついたリソソームにユビキチンが結合し,選択的にオートファゴソームがそれを除去することが報告されている9).293T細胞をLLOMeを用いて刺激したところ(図2B),PolyUb(WT)-FCによるユビキチン鎖の時間依存的変化を可視化することが可能であった.

5. K33鎖の可視化に成功

我々は機能解析があまりされていないK33鎖を検討するためK33鎖の可視化を試みた.PolyUb(K63)-FCと同様の手法で,K33のみ結合できるユビキチン変異体を作製した.細胞に導入し共焦点顕微鏡にて検討すると,明らかなpunctaが細胞質に検出された7).ウエスタンブロットでは抗mKG抗体にて野生型ユビキチンと同様にポリユビキチン鎖の形成を検出することが可能であった.さらに特異的であることを検証するため競合実験を行い,KGが結合していないK33型ユビキチン濃度依存性に蛍光強度が減弱していくことを見いだした.以上よりPolyUb(K33)-FCはK33型ユビキチン鎖で特異的に結合していると考えられ,世界で初めてK33鎖の可視化に成功した.

p62分子はポリユビキチン化されたタンパク質やオルガネラをオートファゴソームに誘導することが知られている.p62のポリユビキチン鎖認識はK63鎖やK48鎖では知られていたがK33鎖については不明であった.そこでPolyUb-FCを用いてK33鎖について検討した(図3).PolyUb(WT)-FCはp62と恒常的に共局在することが確認され,驚いたことにPolyUb(K33)-FCもp62と共局在することが判明した(図3上段).この共局在が特異的であることを確認するため,ユビキチン結合ドメイン(UBAドメイン)を欠損させたp62を用いて検討した.UBAドメイン欠損p62では共局在が消失したことから(図3下段),PolyUb(K33)-FCはp62とUBAドメインを介して結合していると考えられた.また,PolyUb(K33)-FCがLC3と共局在することも見いだし,p62 siRNAにてこの共局在が減弱することも見いだした(図4).さらに,K33鎖特異的な脱ユビキチン化酵素であるTRABID(ZRANB1)を用いて検討した.TRABID siRNAを用いて発現を低下させるとp62とK33の結合が増強されることが判明した.以上より,p62はK63鎖やK48鎖のポリユビキチン鎖だけでなくK33鎖のポリユビキチン鎖にも結合し,オートファジーに関与していることが判明した.

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図3 K33鎖はUBAドメインを介してp62と共局在する

p62とPolyUb(K33)-FCの共局在を認め(上段),ユビキチン結合ドメイン(UBA)欠損p62とPolyUb(K33)-FCは共局在を認めない(下段).

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図4 K33鎖はp62を介してオートファジーに関与する

PolyUb(K33)-FCがLC3と共局在し,p62 siRNAにてこの共局在が減弱する(上段).p62はK63鎖やK48鎖のポリユビキチン鎖だけでなくK33鎖のポリユビキチン鎖にも結合し,オートファジーに関与している可能性がある(下段).

6. おわりに

蛍光タンパク質再構成法(BiFC)を用いて,世界で初めてK33鎖も可視化可能なPolyUb-FCを樹立した.この技術はポリユビキチン鎖の誘導因子・制御因子のスクリーニングなどに有用であるが,分岐鎖や混合鎖も可視化されている可能性もあり鎖特異的機能の解明には他の技術での検討も追加することが重要である.また,特定の分子のユビキチン化を可視化したい場合は,基質に片側の蛍光タンパク質断片を結合させることで,分子特異的ユビキチン鎖形成を可視化可能と考える.さらに,我々はmKGの断片が再構成した際に認識する抗体を作製済みであり,免疫沈降から基質検索の質量分析へ展開することが可能と考えている.このように,PolyUb-FCは,応用範囲が大きく,ユビキチンの理解にとどまらず,ユビキチンが関与する疾患病態理解と制御へ向けた技術基盤を提供するものである.

謝辞Acknowledgments

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学渡辺守教授研究室およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)Averil Ma教授研究室にて行った研究成果を含めた総説であり,両教授とともに共同研究者や大学院生に深く感謝申し上げます.

引用文献References

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2) Kulathu, Y. & Komander, D. (2012) Atypical ubiquitylation-the unexplored world of polyubiquitin beyond Lys48 and Lys63 linkages. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 508–523.

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4) Oshima, S., Turer, E.E., Callahan, J.A., Chai, S., Advincula, R., Barrera, J., Shifrin, N., Lee, B., Benedict Yen, T.S., Woo, T., et al. (2009) ABIN-1 is a ubiquitin sensor that restricts cell death and sustains embryonic development. Nature, 457, 906–909.

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7) Nibe, Y., Oshima, S., Kobayashi, M., Maeyashiki, C., Matsuzawa, Y., Otsubo, K., Matsuda, H., Aonuma, E., Nemoto, Y., Nagaishi, T., et al. (2018) Novel polyubiquitin imaging system, PolyUb-FC, reveals that K33-linked polyubiquitin is recruited by SQSTM1/p62. Autophagy, 14, 347–358.

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9) Maejima, I., Takahashi, A., Omori, H., Kimura, T., Takabatake, Y., Saitoh, T., Yamamoto, A., Hamasaki, M., Noda, T., Isaka, Y., et al. (2013) Autophagy sequesters damaged lysosomes to control lysosomal biogenesis and kidney injury. EMBO J., 32, 2336–2347.

著者紹介Author Profile

大島 茂(おおしま しげる)

東京医科歯科大学医学部附属病院消化器内科(講師).博士(医学).

略歴

1997年東京医科歯科大学医学部医学科卒業.2004年同大学院修了.06年University of California, San Francisco, Postdoctoral scholar. 09年同Assistant Adjunct Professor. 11年東京医科歯科大学消化器内科.18年より現職.

研究テーマと抱負

炎症性腸疾患.オートファジー・ユビキチンの観点から病態解明や治療法開発を目指す.

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