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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 255-259 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910255

みにれびゅうMini Review

人工タンパク質ナノブロック複合体の設計開発Design of artificial protein complexes of protein nano-building blocks

1信州大学繊維学部応用生物科学科Department of Applied Biology, Faculty of Textile Science and Technology, Shinshu University ◇ 〒386–8567 長野県上田市常田3–15–1 ◇ 3–15–1 Tokida, Ueda, Nagano 386–8567, Japan

2自然科学研究機構生命創成探究センターProtein Design Group, Exploratory Research Center on Life and Living Systems, National Institutes of Natural Sciences ◇ 〒444–8585 愛知県岡崎市明大寺町西郷中38 ◇ 38 Nishigonaka, Myodaiji, Okazaki, Aichi 444–8585, Japan

3慶應義塾大学理工学部生命情報学科Department of Bioscience and Informatics, Faculty of Science and, Technology, Keio University ◇ 〒223–8522 神奈川県横浜市港北日吉3–14–1 ◇ 3–14–1 Hiyoshi, Kohoku-Ku, Yokohama, Kanagawa 223–8522

4信州大学菌類・微生物ダイナミズム創発研究センターDepartment of Supramolecular Complexes, Research Center for Fungal and Microbial Dynamism, Shinshu University ◇ 〒399–4598 長野県上伊那郡南箕輪村8304 ◇ 8304 Minamiminowa, Kamiina, Nagano 399–4598

5信州大学先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所Institute for Biomedical Sciences, Interdisciplinary Cluster for Cutting Edge Research, Shinshu University ◇ 〒390–8621 長野県松本市旭3–1–1 ◇ 3–1–1 Asahi, Matsumoto, Nagano 390–8621

発行日:2019年4月25日Published: April 25, 2019
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1. はじめに

生命活動は,タンパク質や核酸,糖,脂質などのさまざまな自己組織化能力を持つ生体分子によって営まれている.タンパク質は生体分子の中で最も高度な機能を有するものであるが,それらがナノスケールの超分子複合体を形成することで,単量体よりさらに複雑で多彩な機能を発揮することができるようになる.このようなタンパク質複合体を人工的にデザインし,望みの構造や機能を創出することができるようになれば,生化学や合成生物学分野の研究の進展および医薬品開発やナノテクノロジーの発展等に大きく貢献できると考えられる.

人工タンパク質複合体のデザインは,複合体構造形成に多くの相互作用が関与するために非常に複雑で,現在においても大変困難な課題である.これまでに,人工的にタンパク質複合体を設計開発する研究は2000年ごろからいくつか行われてきたが,近年飛躍的に研究が進展してきており,世界的にも非常にホットな研究領域である1, 2)

タンパク質をナノスケールのブロックとして利用し,人工的にタンパク質複合体を設計構築するための生化学およびバイオテクノロジー研究の主な戦略については,たとえば以下のようなものがあげられる(図11)

  • ①対称的多量体化ドメイン融合タンパク質の自己組織化3)
  • ②ドメインスワップによるタンパク質の多量体化4)
  • ③コイルドコイルペプチドによる自己組織化5)
  • ④金属イオン配位部位導入によるタンパク質の会合6)
  • ⑤計算機によるタンパク質間相互作用面のデザイン7)

特に最近では,計算科学による人工タンパク質デザインの目覚ましい発展により,新たなタンパク質複合体を高精度にデザインできるようになってきていることは特筆すべきことである7)

その他にも化学修飾法を利用した方法等もさまざま報告されているが8),本稿では,主に①の戦略の自己組織化融合タンパク質の設計開発について,筆者らの取り組みを中心に紹介させていただきたい.

2. 人工タンパク質WA20を用いたタンパク質ナノブロックによる多様な複合体構造の設計構築

近年,筆者(小林,新井)らは,バイナリーパターン法(親水性と疎水性の2種類のアミノ酸残基の繰り返し配列パターンの設計により人工タンパク質をデザインする方法)9)により創出された新規人工タンパク質(de novo protein)WA20が,分子間フォールディング4本ヘリックス2量体構造(PDB:3VJF)を形成することを解明し(図2A10),この特徴的構造を活かしたタンパク質ナノブロック(protein nanobuilding block:PN-Block)を設計開発してきた.研究のコンセプトは,おもちゃのブロック遊びのように,単純かつ少種類の基本ブロックを開発し,それらを組み合わせることで,多様なナノ構造複合体を創出することを基本戦略としている.

まず,人工タンパク質WA20を利用したタンパク質ナノブロック(PN-Block)として,WA20を辺のパーツに,T4ファージfibritinの3量体形成ドメインfoldonを頂点のパーツに用いて,両者を遺伝子工学的につなげた融合タンパク質WA20-foldonを設計開発した(図2B11).タンパク質ナノブロックWA20-foldonを大腸菌で発現,精製し,native PAGE等により分析したところ,多量体化により4種類ほどの複合体構造を形成していた.これらを分離精製し,サイズ排除クロマトグラフィー–多角度光散乱(SEC-MALS),超遠心分析(AUC),小角X線散乱(SAXS)等により分子量を測定して会合数を求めたところ,各複合体は,それぞれ6量体,12量体,18量体,24量体であり,WA20-foldonがデザインどおりに,2量体の辺(WA20)と3量体の頂点(foldon)が互いに過不足なく幾何学的に組み合わさることで,2と3の公倍数である6の倍数量体の複合体を安定的に形成することが示された(図2B).また,SAXSによるモデリング解析により,6量体と12量体のナノ構造複合体の概形構造は,それぞれ樽型(ラグビーボール型)構造,正四面体型(テトラポッド型)構造であることが示唆された.

さらに最近,新たなタンパク質ナノブロックとして,2個の新規人工タンパク質WA20をペプチドリンカーで直列につないだタンデムWA20(extender PN-Block:ePN-Block)を開発し,鎖状伸長多量体構造を構築した(図2C12).ePN-Blockを大腸菌により発現,精製し,SAXSやSEC-MALS,電子顕微鏡観察等,さまざまな実験解析を行ったところ,ePN-Blockが自己組織的に高次構造を作り,環鎖状とみられる多量体(2~5量体等)を形成していた.次に,WA20単体(stopper PN-Block:sPN-Block)と混合して,変性・リフォールディングすることにより,2種類のタンパク質ナノブロックePN-BlockとsPN-Blockを組み合わせる再構成を行った.その結果,異種複合体(esPN-Block)の構築に成功し,環鎖状から直鎖状フォームへと構造が大きく変化することが示唆された(図2C).さらに,この直鎖状複合体(esPN-Block)に金属イオン(Ni2+)を添加したところ,基盤上で自己組織的に集合して超分子ナノ構造複合体を形成し,ナノスケール構造を原子間力顕微鏡で観察することができた.

3. サッカーボール型タンパク質複合体ナノ粒子TIP60の設計開発

また最近,筆者(川上)らによって,海洋メタゲノム由来のLSm類似5量体タンパク質(PDB:3BY7)と,ヒト由来myosin Xの逆平行コイルドコイル2量体化ドメインMyoX-coil(PDB:2LW9)とを連結した人工融合タンパク質から自己組織化される切頂二十面体型(サッカーボール型)のタンパク質複合体ナノ粒子TIP60(truncated icosahedral protein composed of 60-mer fusion proteins)が設計開発された13).SAXSやSEC-MALS,電子顕微鏡観察等,さまざまな実験解析を行ったところ,TIP60は設計どおりに60量体の均一性の高い中空球状タンパク質複合体ナノ粒子を形成していることが明らかとなった(図3).さらに,Cys残基を導入した変異体を利用して,ナノ粒子の内部または外部表面を蛍光色素などの低分子化合物で特異的に修飾することが可能であり,将来的には新たなナノ分子材料やドラッグデリバリーシステムなどさまざまな応用開発も期待される.

4. おわりに

今後,特徴的構造や機能を持つタンパク質ナノブロックを設計開発し,それらを自在に組み合わせていくことによって,天然タンパク質では実現できないような多様な超分子構造や機能性を持つ人工タンパク質複合体を創出し,基礎研究のみならず,新しいナノバイオ医薬や人工ワクチンの開発等の応用研究への貢献も期待される.特に最近,タンパク質複合体中にそれ自身のmRNAを内包するように改変,分子進化させて人工ウイルス殻を創製した注目すべき研究例も報告されてきている14, 15).さらに,複合体の構造のみならず機能性をより重視したデザインを目指して,たとえば,このタンパク質ナノブロック戦略をレクチン工学と融合し,高度な多量体形成能を有する高機能なレクチンナノブロック複合体等の開発への取り組みも期待される16)

Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 255-259 (2019)

図1 タンパク質をナノスケールのブロックとして利用した人工タンパク質複合体設計構築の研究戦略概念図

[Elsevierより許諾を得て,文献1)より図を改変して転載.©2017 Elsevier.]

Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 255-259 (2019)

図2 人工タンパク質WA20を用いたタンパク質ナノブロック複合体の設計構築

(A)新規人工タンパク質WA20の立体構造.分子間フォールディング4本ヘリックス2量体構造(PDB:3VJF).(B)タンパク質ナノブロックWA20-foldon(2量体形成人工タンパク質WA20とバクテリオファージT4 fibritinの3量体形成foldonドメインとの融合タンパク質)の設計開発および多面体型ナノ構造複合体の自己組織化による形成.(C)タンパク質ナノブロックePN-Block(タンデムWA20)の環鎖状多量体形成およびsPN-Block(WA20)も組み合わせた変性・再構成による直鎖状異種複合体esPN-Blockの形成.[米国化学会より許諾を得て,文献11, 12)より図を改変して転載.©2015, 2018 American Chemical Society.]

Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 255-259 (2019)

図3 サッカーボール型タンパク質複合体ナノ粒子TIP60の設計開発

(A)海洋メタゲノム由来のLSm類似5量体タンパク質(LSm)とヒト由来myosin Xの2量体化ドメイン(MyoX-coil)との融合タンパク質の設計.それぞれ四角形で囲まれた領域がパーツの構成単位で,この部分を連結して融合タンパク質を構築した.(B)自己組織化によるタンパク質複合体ナノ粒子TIP60の構造形成の模式図.[Wileyより許諾を得て,文献13) より図を改変して転載.©2018 Wiley.]

謝辞Acknowledgments

これらの研究はPrinceton UniversityのMichael H. Hecht教授,信州大学の佐藤高彰准教授,分子科学研究所の古賀信康准教授,金沢大学の福間剛士教授,生理学研究所の村田和義准教授,慶應義塾大学の宮本憲二教授らをはじめ,学生やスタッフの皆さんなど,多くの方々の御協力のもとに行われました.放射光X線実験は共同利用実験としてKEK Photon Factoryで行われました.本研究はJSPS科研費(JP16H00761, JP16K05841, JP16H06837, JP14J10185)や分子研協力研究等の助成や御支援を受けたものです.この場を借りて厚く御礼申し上げます.

引用文献References

1) Kobayashi, N. & Arai, R. (2017) Design and construction of self-assembling supramolecular protein complexes using artificial and fusion proteins as nanoscale building blocks. Curr. Opin. Biotechnol., 46, 57–65.

2) Arai, R. (2018) Hierarchical design of artificial proteins and complexes toward synthetic structural biology. Biophys. Rev., 10, 391–410.

3) Yeates, T.O., Liu, Y., & Laniado, J. (2016) The design of symmetric protein nanomaterials comes of age in theory and practice. Curr. Opin. Struct. Biol., 39, 134–143.

4) Oda, A., Nagao, S., Yamanaka, M., Ueda, I., Watanabe, H., Uchihashi, T., Shibata, N., Higuchi, Y., & Hirota, S. (2018) Construction of a triangle-shaped trimer and a tetrahedron using an α-helix-inserted circular permutant of cytochrome c555. Chem. Asian J., 13, 964–967.

5) Fletcher, J.M., Harniman, R.L., Barnes, F.R., Boyle, A.L., Collins, A., Mantell, J., Sharp, T.H., Antognozzi, M., Booth, P.J., Linden, N., et al. (2013) Self-assembling cages from coiled-coil peptide modules. Science, 340, 595–599.

6) Bailey, J.B., Subramanian, R.H., Churchfield, L.A., & Tezcan, F.A. (2016) Metal-directed design of supramolecular protein assemblies. Methods Enzymol., 580, 223–250.

7) Huang, P.S., Boyken, S.E., & Baker, D. (2016) The coming of age of de novo protein design. Nature, 537, 320–327.

8) Luo, Q., Hou, C., Bai, Y., Wang, R., & Liu, J. (2016) Protein assembly: Versatile approaches to construct highly ordered nanostructures. Chem. Rev., 116, 13571–13632.

9) Hecht, M.H., Das, A., Go, A., Bradley, L.H., & Wei, Y. (2004) De novo proteins from designed combinatorial libraries. Protein Sci., 13, 1711–1723.

10) Arai, R., Kobayashi, N., Kimura, A., Sato, T., Matsuo, K., Wang, A.F., Platt, J.M., Bradley, L.H., & Hecht, M.H. (2012) Domain-swapped dimeric structure of a stable and functional de novo four-helix bundle protein, WA20. J. Phys. Chem. B, 116, 6789–6797.

11) Kobayashi, N., Yanase, K., Sato, T., Unzai, S., Hecht, M.H., & Arai, R. (2015) Self-assembling nano-architectures created from a protein nano-building block using an intermolecularly folded dimeric de novo protein. J. Am. Chem. Soc., 137, 11285–11293.

12) Kobayashi, N., Inano, K., Sasahara, K., Sato, T., Miyazawa, K., Fukuma, T., Hecht, M.H., Song, C., Murata, K., & Arai, R. (2018) Self-assembling supramolecular nanostructures constructed from de novo extender protein nanobuilding blocks. ACS Synth. Biol., 7, 1381–1394.

13) Kawakami, N., Kondo, H., Matsuzawa, Y., Hayasaka, K., Nasu, E., Sasahara, K., Arai, R., & Miyamoto, K. (2018) Design of Hollow Protein Nanoparticles with Modifiable Interior and Exterior Surfaces. Angew. Chem. Int. Ed., 57, 12400–12404.

14) Butterfield, G.L., Lajoie, M.J., Gustafson, H.H., Sellers, D.L., Nattermann, U., Ellis, D., Bale, J.B., Ke, S., Lenz, G.H., Yehdego, A., et al. (2017) Evolution of a designed protein assembly encapsulating its own RNA genome. Nature, 552, 415–420.

15) Terasaka, N., Azuma, Y., & Hilvert, D. (2018) Laboratory evolution of virus-like nucleocapsids from nonviral protein cages. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, 5432–5437.

16) Hirabayashi, J. & Arai, R. (2019) Lectin engineering: the possible and the actual. Interface Focus, 9, 20180068.

著者紹介Author Profile

川上 了史(かわかみ のりふみ)

慶應義塾大学理工学部生命情報学科専任講師.博士(理学).

略歴

2004年宇部工業高等専門学校専攻科修了.06年広島大学大学院理学研究科博士課程前期修了.09年同博士課程後期博士(理学)取得.~13年名古屋大学博士研究員.~17年慶應義塾大学理工学部助教.17年~現職.

研究テーマと抱負

人工タンパク質の設計,酵素工学,金属イオンの生理学などに興味を持って研究しています.

趣味

3DCGの作成.

新井 亮一(あらい りょういち)

信州大学繊維学部応用生物科学科准教授.博士(工学).

略歴

1996年東京大学工学部化学生命工学科卒業.2001年同大学院工学系研究科化学生命工学専攻博士課程修了.01~06年理化学研究所ゲノム科学総合研究センターリサーチアソシエイト・研究員.06~07年学術振興会海外特別研究員(Princeton University).07~12年信州大学ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点助教.12~16年信州大学繊維学部助教.16年~現職.

研究テーマと抱負

タンパク質工学及び構造生物学分野の研究を展開しています.特に人工タンパク質ナノブロックの設計開発及び構造解析により,将来,役に立つタンパク質複合体を創出し,学術及び社会に貢献していきたいと思っています.

ウェブサイト

http://fiber.shinshu-u.ac.jp/arai/index.html

趣味

へぼ将棋.

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