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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 265-267 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910265

みにれびゅうMini Review

ネクロプトーシス誘導分子RIPK3による細胞死と炎症の制御RIPK3: The crucial kinase for cell death and inflammation

大阪大学大学院医学系研究科細胞生物学Department of Cell Biology, Osaka University Graduate School of Medicine ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘2–2 バイオ棟5階 E51-07 ◇ E51-07, 2–2, Yamadaoka, Suita, Osaka 565–0871

発行日:2019年4月25日Published: April 25, 2019
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1. はじめに

receptor interacting protein kinase 3(RIPK3)はN末端側にRIPKファミリー間で保存されたRIPキナーゼドメインを有する細胞質セリン・トレオニンキナーゼである.新規炎症性細胞死ネクロプトーシスに必須の分子であることが発見されて以来,その分子機能と疾患との関わりについて研究が進められてきた.その結果,さまざまな炎症性疾患モデルにおいてRIPK3ノックアウトマウスでは炎症反応が抑制されていることが明らかとなり,RIPK3は炎症性疾患に対する新規治療標的として注目を浴びている.一方で,RIPK3はネクロプトーシスだけでなくアポトーシスにも関わること,また細胞死非依存的に炎症性サイトカイン産生を制御することなどが近年明らかとなってきており,RIPK3が生体内でどのようにして炎症反応を促進しているかにはいまだ謎が多い.本稿では,我々の研究を通して得られた知見を中心に,RIPK3の分子機能と炎症性疾患との関わりについて概説したい.

2. RIPK3によるネクロプトーシスの制御

細胞質・細胞内小器官の膨張ならびに細胞膜の破裂を形態的特徴とするネクローシスは外傷や血流の遮断などによって引き起こされる細胞死であり,特定の分子によって制御されるものではないと長らく認識されてきた.しかしながら,近年における細胞死研究の発展に伴い,遺伝的にコードされた巧妙な分子機構によって制御されているネクローシスの存在が明らかになってきた.ネクロプトーシスは,そのような制御型ネクローシスの一種であり,RIPK3とその下流分子であるmixed lineage kinase domain-like(MLKL)に依存したネクローシスと定義される.

ネクロプトーシスは主にtumor necrosis factor(TNF)受容体やToll様受容体(TLR)などの免疫関連受容体を介して誘導される(図11).これらの受容体からのシグナルはRIPK3に集約されるが,その橋渡しをする分子としてRIPK1, TRIFが知られている.RIPK3はC末端側にRIP homotypic interaction motif(RHIM)と呼ばれるタンパク質-タンパク質結合モチーフを有する.RIPK1とTRIFもRHIMを有しており,TNF受容体の下流でRIPK1が,TLRの下流でTRIFがRHIMを介してRIPK3と結合する.また,同じくRHIMを有するZBP-1は核酸受容体としてウイルス由来もしくは自己のRNAを直接認識し,RIPK3と結合する.シグナルを受け取ったRHIM含有タンパク質とRIPK3はアミロイド様の高次複合体を形成し,そこでRIPK3は自己リン酸化を介して活性化され,下流分子であるMLKLをリン酸化する.リン酸化されたMLKLは,ホモオリゴマーを形成し,細胞膜を貫通する孔を形成する.この孔の形成により細胞死が起こると理解されている.

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図1 RIPK3による細胞死とサイトカイン産生の制御

RIPK3はTNF受容体1(TNFR1)の下流でRIPK1と,TLR4の下流でTRIFと結合することにより活性化され,MLKLをリン酸化する.リン酸化MLKLはオリゴマー化して細胞膜に孔を形成し,ネクロプトーシスを実行する.TLR4の下流でRIPK3はTRIFと結合し,RIPK3-RIPK1-FADD-カスパーゼ8複合体を形成する.RIPK3はRelB-p50の核内移行,インフラマゾームの活性化,カスパーゼ8の活性化を促進することによりサイトカイン産生を促す.抗アポトーシス分子の発現を阻害すると活性化したカスパーゼ8はアポトーシスを誘導する.

ネクロプトーシスを起こした細胞は細胞膜の破裂に伴い,DAMPs(damage-associated molecular patterns)と呼ばれる細胞内免疫刺激物質を放出し,周囲に炎症反応を誘発する.そのため生理的条件下で不必要な炎症反応が起きてしまわないように(と推察されるが),ネクロプトーシスは多くの分子によって負に制御されている.最も強い負の制御分子はカスパーゼ8であり,ネクロプトーシスの正の制御因子であるRIPK1, RIPK3, CYLDを切断することによりネクロプトーシスを抑制していると考えられている.

3. RIPK3によるアポトーシスの制御

RIPK3のキナーゼ活性はネクロプトーシスに必須であり,変異導入や阻害剤によってキナーゼ活性を阻害するとネクロプトーシスは起こらなくなる.一方で,RIPK3 D161Nキナーゼ活性欠損マウスは過度のアポトーシスを引き起こし,胎生10.5日で致死となる2).このアポトーシスはRIPK3のRHIMに依存しており,RHIMを介してRIPK1と結合し,さらにFADD,カスパーゼ8と複合体を形成することによりカスパーゼ8の活性化を引き起こす.一方でRIPK3 K51Aキナーゼ活性欠損マウスではそのような現象はみられない3).しかし,RIPK3 K51A変異体を発現させた細胞をプロテアソーム阻害剤で処理すると,K48ユビキチン化されたRIPK3が観察されるのとともに,D161N変異体でみられるようなRIPK3 RHIM依存的なアポトーシスが誘導される4).そのため,キナーゼ活性を欠損するだけでは十分でなく,さらに何らかの構造変化が起こることによりRHIMが露出され,複合体形成,さらにはアポトーシスを引き起こすと考えられている.またマウス骨髄由来樹状細胞では,リポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)刺激によりRIPK3 RHIM依存的なカスパーゼ8の活性化がみられ,さらにシクロヘキシミドで抗アポトーシス分子の発現を抑制しておくとRIPK3 RHIM依存的なアポトーシスを起こす5)

4. RIPK3によるサイトカイン産生の制御

上記のような細胞死における役割に加えて,近年RIPK3が炎症性サイトカインの産生に関わることもわかってきた5–9).野生型マウス骨髄由来樹状細胞をLPSで刺激するとNF-κB経路を介してTNFやIL-23などの産生が誘導され,またインフラマゾームによるカスパーゼ1の活性化,さらにカスパーゼ8の活性化を介してIL-1βやIL-18の成熟化・分泌が誘導される.RIPK3欠損もしくはRIPK3 RHIM欠損マウス骨髄由来樹状細胞ではこれらの炎症性サイトカインの産生・分泌が抑制されていた5–7).樹状細胞においてTLRによるTNFやIL-23などの産生はRelB-p50ヘテロ二量体により制御されていることが知られているが10),RIPK3のRHIMを欠損するとその核内移行が抑制されていた.また,LPS誘導性のカスパーゼ1, 8の活性化もRIPK3のRHIMを欠損すると抑制されていた.LPS単独刺激で細胞死はみられないこと,またこれらのサイトカイン産生はRIPK3のキナーゼ活性阻害剤で抑制されないことから,RIPK3はキナーゼ活性非依存的に細胞死とは関係なくサイトカイン産生を制御していると考えられる(図1).

5. RIPK3による炎症の制御

ウイルスなどによる感染性疾患や虚血性脳・心・腎疾患,神経疾患,膵炎,肝炎,関節炎などの多くの非感染性炎症性疾患動物モデルの研究において,RIPK3ノックアウトマウスで炎症が抑制されていることが報告されている1).そのためRIPK3はこれらの炎症性疾患における新たな創薬の標的として非常に注目を浴びている.これらマウスモデルの結果は当初,RIPK3がネクロプトーシスを起こし,その結果DAMPsを放出して炎症を誘発するためと解釈されてきた.これらの病的条件下ではカスパーゼ8の発現減少,もしくは病原体由来分子やcFLIPといった内在性分子によるカスパーゼ8の活性抑制により,カスパーゼ8を介した負の制御機構が解除され,ネクロプトーシスが起きている可能性が考えられる.しかしながら,上記のようなネクロプトーシス非依存的なRIPK3の機能が明らかとなってきた今,より慎重な検討が必要であろう.我々は以前にデキストラン硫酸(dextran sulfate sodium:DSS)を用いた実験的腸炎モデルにおいて,RIPK3がネクロプトーシス非依存的に樹状細胞からのサイトカイン産生を促すことにより腸上皮の修復を促すことを明らかにしてきた.RIPK3ノックアウトマウスではDSS腸炎後の組織修復が抑制されており,炎症が遷延し,最終的に野生型のマウスに比べ強い腸炎を起こした.さらにDSSと発がん剤azoxymethane(AOM)とを組み合わせたAOM-DSS大腸がんモデルにおいて,RIPK3ノックアウトマウスでは大腸がんの発生が亢進しており,組織修復不全による慢性炎症が原因の一つと考えられる11).炎症反応は生体の恒常性を維持するための生体防御反応であるが,その反応が弱すぎても強すぎても恒常性の維持が破綻し,組織傷害を引き起こす.RIPK3は,ネクロプトーシス依存的,非依存的経路を介して炎症反応を誘発し,生体の恒常性維持,またその破綻に関わっていると考えられる.

6. おわりに

上記のようにそれぞれの炎症性疾患の病態でRIPK3がどのようにして炎症を促進しているのかはまだよくわかっていないが,RIPK3が病態に関与している点には疑う余地がない.グラクソ・スミスクライン社は世界に先駆けてRIPK3のキナーゼ活性阻害剤を作成したが,予想外にRIPK3 RHIM依存的アポトーシスを誘導してしまうという副作用があることがわかり3, 7),臨床応用へとは進んでいない.今後RIPK3を標的とした治療薬開発を進めていくためには,RIPK3キナーゼ活性もしくはRHIMがどのような病態で治療標的となりうるのかを明らかにし,またRIPK3の全長の立体構造の解明を通じてRIPK3の活性化メカニズムを解き明かしていくことが必要であると考えられる.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した我々の研究は,University of Massachusetts Medical SchoolにてFrancis Chan博士とともに行ったものである.本研究に関わったすべての方々に感謝申し上げます.

引用文献References

1) Moriwaki, K. & Chan, F.K. (2017) The inflammatory signal adaptor RIPK3: Functions beyond necroptosis. Int. Rev. Cell Mol. Biol., 328, 253–275.

2) Newton, K., Dugger, D.L., Wickliffe, K.E., Kapoor, N., de Almagro, M.C., Vucic, D., Komuves, L., Ferrando, R.E., French, D.M., Webster, J., et al. (2014) Activity of protein kinase RIPK3 determines whether cells die by necroptosis or apoptosis. Science, 343, 1357–1360.

3) Mandal, P., Berger, S.B., Pillay, S., Moriwaki, K., Huang, C., Guo, H., Lich, J.D., Finger, J., Kasparcova, V., Votta, B., et al. (2014) RIP3 induces apoptosis independent of pronecrotic kinase activity. Mol. Cell, 56, 481–495.

4) Moriwaki, K. & Chan, F.K. (2016) Regulation of RIPK3- and RHIM-dependent Necroptosis by the Proteasome. J. Biol. Chem., 291, 5948–5959.

5) Moriwaki, K., Balaji, S., Bertin, J., Gough, P.J., & Chan, F.K. (2017) Distinct kinase-independent role of RIPK3 in CD11c(+) mononuclear phagocytes in cytokine-induced tissue repair. Cell Rep., 18, 2441–2451.

6) Moriwaki, K., Balaji, S., McQuade, T., Malhotra, N., Kang, J., & Chan, F.K. (2014) The necroptosis adaptor RIPK3 promotes injury-induced cytokine expression and tissue repair. Immunity, 41, 567–578.

7) Moriwaki, K., Bertin, J., Gough, P.J., & Chan, F.K. (2015) A RIPK3-caspase 8 complex mediates atypical pro-IL-1beta processing. J. Immunol., 194, 1938–1944.

8) Najjar, M., Saleh, D., Zelic, M., Nogusa, S., Shah, S., Tai, A., Finger, J.N., Polykratis, A., Gough, P.J., Bertin, J., et al. (2016) RIPK1 and RIPK3 kinases promote cell-death-independent inflammation by Toll-like receptor 4. Immunity, 45, 46–59.

9) Wang, Q., Liu, Z., Ren, J., Morgan, S., Assa, C., & Liu, B. (2015) Receptor-interacting protein kinase 3 contributes to abdominal aortic aneurysms via smooth muscle cell necrosis and inflammation. Circ. Res., 116, 600–611.

10) Shih, V.F., Davis-Turak, J., Macal, M., Huang, J.Q., Ponomarenko, J., Kearns, J.D., Yu, T., Fagerlund, R., Asagiri, M., Zuniga, E.I., et al. (2012) Control of RelB during dendritic cell activation integrates canonical and noncanonical NF-kappaB pathways. Nat. Immunol., 13, 1162–1170.

11) Moriwaki, K., Balaji, S., & Chan, F.K. (2016) Border Security: The role of RIPK3 in epithelium homeostasis. Front. Cell Dev. Biol., 4, 70.

著者紹介Author Profile

森脇 健太(もりわき けんた)

大阪大学大学院医学系研究科細胞生物学助教.博士(医学).

略歴

1981年大阪府に生る.2010年大阪大学大学院医学系研究科博士後期課程修了.11年マサチューセッツ州立大学研究員.16年現職.

研究テーマと抱負

細胞死と炎症のクロストークを分子レベルで明らかにすることを目的に研究しています.

趣味

野球,キャンプ.

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