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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 268-271 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910268

みにれびゅうMini Review

OPA1とカルジオリピンによるミトコンドリア内膜融合の制御Regulation of mitochondrial inner-membrane fusion by OPA1 and cardiolipin

1大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻Department of Biological Science, Graduate School of Science, Osaka University ◇ 〒560–0043 大阪府豊中市待兼山町1–1 ◇ 1–1 Machikaneyama-cho, Toyonaka, Osaka 560–0043, Japan

2久留米大学分子生命科学研究所高分子化学研究部門Department of Protein Biochemistry, Institute of Life Science, Kurume University ◇ 〒830–0011 福岡県久留米市旭町67 ◇ 67 Asahi-machi, Kurume, Fukuoka 830–0011, Japan

発行日:2019年4月25日Published: April 25, 2019
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1. はじめに

ミトコンドリアは,酸化的リン酸化による生体エネルギー生産のみならず,さまざまな物質の合成と代謝や細胞応答・機能の制御にも重要な役割を果たす.ミトコンドリアを電子顕微鏡で観察すると,外膜と内膜,および内膜が内側に折りたたまれたクリステ構造からなる二重膜構造が観察される.ミトコンドリアは非常に動的な細胞小器官(オルガネラ)であり,その形態は融合と分裂のバランスにより調節されている1, 2).そのため,融合を抑制したときには小さく断片化し,逆に分裂を抑制すると細長くつながったネットワーク構造となる(図1A).融合と分裂を制御する因子として,三つのグループの高分子量GTPaseタンパク質群が同定されている3)図1B).近年の研究により,ミトコンドリアの融合と分裂がミトコンドリアの品質管理に関与することが明らかになり,大きく注目されている4, 5).そこで本稿では哺乳動物におけるミトコンドリアの融合と分裂の分子機構,特に融合の制御について我々の成果を踏まえて概説する6, 7)

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図1 融合と分裂によるミトコンドリアの形態制御

(A)ミトコンドリア形態は融合と分裂によって調節される.蛍光タンパク質RFPを発現するミトコンドリアを用いた.(B)ミトコンドリア融合と分裂の制御に関わるタンパク質.文献7)より改変.

2. ミトコンドリア分裂の制御因子

哺乳動物細胞では,ダイナミン様GTPaseタンパク質であるDrp1がミトコンドリア分裂に機能している(図1B左).Drp1遺伝子を欠損したノックアウトマウスは胎性致死となり,また神経特異的Drp1欠損マウスは神経変性死となることから,Drp1によるミトコンドリア分裂は初期発生・組織形成において重要な機能を持つと考えられる4).培養細胞を用いた解析により,ミトコンドリア分裂には,外膜表面に存在するMff, MiD49, MiD51が細胞質に存在するDrp1をミトコンドリア外膜へと局在化させること,そしてこの局在化したDrp1が多量体を形成することが必要だとわかった1).加えて,大腸菌で発現・精製されたDrp1は,リポソームの表面上で環状の多量体を形成し,GTPase活性に伴う立体構造変化により膜をチューブ状へと変形させる8)ため,この反応により膜分裂が起こる可能性について広く議論されている.しかし,ミトコンドリアへとDrp1を局在化させるMffやMiDがどのように集積し分裂点を決めるのか,またミトコンドリアが細くチューブ状になったのちどのように分裂するのか,など不明な点が多く残されている.

3. ミトコンドリア融合の制御因子

外膜の融合には外膜貫通型のGTPase, Mitofusin(Mfn)が,内膜の融合には膜間腔に局在するGTPaseであるOptic Atrophy 1(OPA1)が機能している(図1B右).細胞融合実験ではミトコンドリア外膜と内膜の融合はそれぞれ独立し起こりうると報告されているが,実際にOPA1の抑制を行うと,ミトコンドリアは融合そのものが停止し断片化する(外膜のみ融合したミトコンドリアはほとんどみられない).したがって生体内では外膜と内膜の融合が協調して引き起こっていると考えられるものの,その機構はわかってはいない.

また,MfnやOPA1を欠損したマウス胚線維芽細胞では,融合が停止しミトコンドリアが断片化するだけではなく,ミトコンドリアDNAの安定性が低下し呼吸鎖活性の低下がみられる.加えて,MfnとOPA1の遺伝子の変異はそれぞれ,Charcot-Marie-Tooth病と優性視神経萎縮症等の神経変性疾患を引き起こす4)ことも知られている.

外膜融合因子であるMfnは哺乳類細胞では二つのアイソフォーム(Mfn1, Mfn2)として発現している.Mfn1はミトコンドリア外膜のみに発現しており,Mfn2はミトコンドリアと小胞体の両方に局在が見られる.Mfnのミトコンドリア間での多量体形成はその外膜融合を起こし,また,ミトコンドリアと小胞体間での多量体形成はMAMと呼ばれるコンタクトサイトの形成に関与する.最近の研究により,MfnのMAM形成は,ミトコンドリア–小胞体間のカルシウム輸送に関与することが明らかとなっている.

4. OPA1の切断によるミトコンドリアの品質管理

OPA1は,細胞質で翻訳され,ミトコンドリアに輸送され成熟型となる.L-OPA1は疎水性の膜貫通ドメインを持ち内膜に結合するが,さらなるタンパク質分解を受けることにより,膜貫通ドメインを失ったS-OPA1が形成される(図1B).我々は以前,ミトコンドリアが膜電位を失うと融合活性を失うこと9)に加え,L-OPA1のS-OPA1への変換が融合活性を失わせることを明らかにしている10).L-OPA1が切断されS-OPA1に変換される反応は,膜電位消失を代表とするミトコンドリア機能低下により引き起こされ,Oma1などの内膜のプロテアーゼ群が関与する.L-OPA1が切断されS-OPA1に変換されると,OPA1が不活性化するためミトコンドリアは融合できず,細胞内のミトコンドリアネットワークから独立したままとなる.

機能低下によりネットワークから隔離されたミトコンドリアはオートファジーにより特異的に分解される,というミトコンドリアの品質管理モデルが広く信じられているが,障害ミトコンドリアの選別については不明な点が多く残されている.

5. L-OPA1タンパク質の精製と試験管内での膜融合反応の再構成

我々の研究グループでは,OPA1による膜融合反応の分子詳細を明らかにするため,膜結合型のL-OPA1を精製し,生化学的な詳細解析を行うことを目指した.しかしこれまでの方法では,L-OPA1の活性を保ったまま大量に精製することは困難であった.さまざまな発現系を検討した結果,我々はカイコ多角体病ウイルスを由来とするバクミドを用いたカイコ発現系(図2A)によりヒトOPA1を発現・精製する方法を確立し,この精製OPA1を用いた膜融合アッセイの再構成に成功した6, 7).カイコ発現系ではカイコの脂肪組織である脂肪体に目的のタンパク質を発現させるが,脂肪体にはリピッド様小体やミトコンドリアが含まれるため11),おそらくL-OPA1はこれらの細胞小器官に輸送され正しく折りたたまれたと考えられる.また脂肪体はカイコの全身に存在するためタンパク質の収量を多く得られたと考えている.

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図2 OPA1とCLによる膜融合・繋留の制御

(A)ヒトL-OPA1発現に用いたカイコ5齢幼虫.(B)蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いた膜融合反応の解析.膜融合に伴いFRETが解消されNBDの蛍光が見られる.(C)磁気ビーズを用いた膜繋留の解析.リポソームが結合した場合にNBDの蛍光が見られる.(D)L-OPA1による膜融合モデル.一方の膜にあるL-OPA1ともう片方の膜のCLとの結合が膜の繋留を促進し,GTP加水分解により膜融合が起こる.文献7)より改変.

界面活性剤中にて精製した組換え型ヒトL-OPA1を,カルジオリピン(CL)を含む,内膜の組成を模したリン脂質リポソームに再構成した.このL-OPA1プロテオリポソームを,蛍光共鳴エネルギー移動を用いた膜融合反応系にて解析したところ,GTPの加水分解に依存して膜融合を観察することができた.このことから,タンパク質としてはL-OPA1単独で十分な膜融合活性を持つといえる6).さらに,OPA1は一方の膜にさえあれば膜融合を促進できることも示された.

また,内膜脂質の18~25%を占める主要な酸性リン脂質であるCLを除去した場合,L-OPA1依存的な膜融合は観察されなくなった(図2B).また培養細胞でもCL合成酵素CLS1の発現抑制により融合活性が低下した(図3A).加えて,CLとL-OPA1をさまざまな組合わせで解析すると,一方の膜のL-OPA1と,もう一方の膜のCLが特異的に結合し膜繋留を起こすこと(図2C),その後のGTP加水分解により膜融合が進行することもわかった.このような一方向性の膜融合はこれまで知られた膜融合反応とはまったく異なっており,特徴的な膜融合反応が内膜で起きていると考えられる(図2D).

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図3 CLS1とTaz1の,ミトコンドリア融合における機能

HVJエンベローブを用いた生細胞内でのミトコンドリア融合の解析.蛍光タンパク質GFPとRFPを発現するミトコンドリアを用いた.文献7)より改変.

同様にN末端に膜貫通ドメインを持たないS-OPA1を発現精製し解析したところ,S-OPA1はL-OPA1とは異なり,CLを介した一方向性の膜融合を促進することはできなかった.このことから,L-OPA1の切断が膜融合に影響を及ぼすことを試験管内で再現することができた.

6. 内膜融合におけるカルジオリピン(CL)の要求性

CLの代わりに,ホスファチジルグリセロールを代表とする負に荷電したリン脂質を用いると,膜融合活性は大きく低下した.このことから,OPA1による膜融合にはCLが特異的に必要であるとわかった6).CLは四つのアシル鎖を有しているが,心機能不全となるBarth症候群ではアシル基が三つとなるモノリゾ体が蓄積することが報告されている.そこでモノリゾカルジオリピンを用い試験管内反応を行うと,膜融合活性の部分的な低下が観察された.一方,Barth症候群の原因遺伝子であるアシル基転移酵素Taz1の発現を抑制しても融合活性の大きな低下は観察されなかった7).細胞内でのCLの成熟化・変動と膜融合の関係に関してはさらなる詳細解析が必要である.

我々のグループではOPA1のC末端欠失により,CLとの結合能が低下することを見いだしている.しかし,OPA1とCLとの詳細な結合様式の解析は今後の課題として残されている.今回,我々は精製タンパク質と脂質を用い,試験管内でミトコンドリア内膜融合反応を再構成することに世界で初めて成功した.この反応系を用いて,タンパク質と脂質による膜変化の詳細の理解を進めていきたい.

謝辞Acknowledgments

本研究は主に,科学研究費補助金[基盤(B)17H03677, 基盤(C)18K06096],AMED-CRESTの助成を受けて行われた.

引用文献References

1) Wai, T. & Langer, T. (2016) Mitochondrial dynamics and metabolic regulation. Trends Endocrinol. Metab., 27, 105–117.

2) 伴 匡人,後藤雅史,石原直忠(2015)ミトコンドリアの融合と分裂:その意義と制御機構,化学と生物,53, 27–33.

3) McNew, J.A., Sondermann, H., Lee, T., Stern, M., & Brandizzi, F. (2013) GTP-dependent membrane fusion. Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 29, 529–550.

4) Nunnari, J. & Suomalainen, A. (2012) Mitochondria: In sickness and in healthm. Cell, 148, 1145–1159.

5) Pernas, L. & Scorrano, L. (2016) Mito-morphosis: Mitochondrial fusion, fission, and cristae remodeling as key mediators of cellular function. Annu. Rev. Physiol., 78, 505–531.

6) Ban, T., Ishihara, T., Kohno, H., Saita, S., Ichimura, A., Maenaka, K., Oka, T., Mihara, K., & Ishihara, N. (2017) Molecular basis of selective mitochondrial fusion by heterotypic action between OPA1 and cardiolipin. Nat. Cell Biol., 19, 856–863.

7) Ban, T., Kohno, H., Ishihara, T., & Ishihara, N. (2018) Relationship between OPA1 and cardiolipin in mitochondrial inner-membrane fusion. Biochim. Biophys. Acta Bioenerg., 1859, 951–957.

8) Fröhlich, C., Grabiger, S., Schwefel, D., Faelber, K., Rosenbaum, E., Mears, J., Rocks, O., & Daumke, O. (2013) Structural insights into oligomerization and mitochondrial remodelling of dynamin 1-like protein. EMBO J., 32, 1280–1292.

9) Ishihara, N., Jofuku, A., Eura, Y., & Mihara, K. (2003) Regulation of mitochondrial morphology by membrane potential, and DRP1-dependent division and FZO1-dependent fusion reaction in mammalian cells. Biochem. Biophys. Res. Commun., 304, 891–898.

10) Ishihara, N., Fujita, Y., Oka, T., & Mihara, K. (2006) Regulation of mitochondrial morphology through proteolytic cleavage of OPA1. EMBO J., 25, 2966–2977.

11) 森 精,赤井 弘,小林勝利(1970)発育に伴うカイコの脂肪体細胞の微細構造の変化,日本蚕糸学雑誌,39(1).

著者紹介Author Profile

植田 依里(うえだ えり)

大阪大学理学研究科非常勤研究員,久留米大学分子生命科学研究所研究員.博士(理学).

略歴

2012年静岡大学理学部卒業.14年名古屋大学大学院理学研究科博士前期課程修了.17年同博士後期課程単位取得退学.同年久留米大学分子生命科学研究所高分子研究部門研究補助員,18年同研究員を経て,19年より現職.

研究テーマと抱負

ミトコンドリア外膜融合因子の解析.

伴 匡人(ばん ただと)

久留米大学分子生命科学研究所高分子化学研究部門講師.博士(理学).

略歴

2005年大阪大学大学院理学研究科博士課程後期修了,06年日本学術振興会特別研究員,08年日本学術振興会海外特別研究員,10年福井大学特命助教,11年久留米大学分子生命科学研究所高分子化学研究部門助教を経て,14年より同講師.

研究テーマと抱負

ミトコンドリア膜融合蛋白質の動的挙動の解析.

石原 直忠(いしはら なおただ)

大阪大学大学院理学研究科教授,久留米大学分子生命科学研究所特命教授.博士(理学).

略歴

1993年九州大学理学部卒業.95年同大学院理学研究科修士課程修了,98年同医学系研究科博士課程修了.基礎生物学研究所非常勤研究員,九州大学助手,東京医科歯科大学講師等を経て,2010年より久留米大学分子生命科学研究所教授,18年より現職.

研究テーマと抱負

ミトコンドリアの融合と分裂,オルガネラ膜のダイナミクス.

ウェブサイト

http://mitochondria.jp/

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