Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910322

特集Special Review

水晶体内クリスタリン中のアスパラギン酸残基の異性化The spontaneous isomerization of aspartate residues in lens crystallin

京都大学複合原子力科学研究所放射線生命科学研究部門基礎老化研究部門Kyoto University Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science ◇ 〒590–0494 大阪府泉南郡熊取町朝代西2丁目 ◇ 2 Asashiro-nishi, Kumatori, Osaka 590–0494, Japan

発行日:2019年6月25日Published: June 25, 2019
HTMLPDFEPUB3

加齢が進行すると眼の水晶体では,その内部構成タンパク質であるクリスタリンが異常凝集する.このクリスタリン異常凝集体が水晶体外部からの光に対して散乱を生じることで視機能が失われる.これは白内障と呼ばれる疾患であり,80歳以上の老人では誰もが発症する.これまで,我々はクリスタリン中の特定部位のアスパラギン酸残基が老化という長い年月の中で化学的にL体からD体へと変化し,それがクリスタリン異常凝集につながることを明らかにしてきた.本稿前半では,これらの分析に際して我々が独自に開発,改良した分析手法を紹介する.また本稿後半では,これら修飾がクリスタリンに及ぼす影響を調査するために,修飾がみられた部位を他のアミノ酸へと置換したクリスタリンを作製し,物性を通常クリスタリンと比較した結果を紹介する.

1. はじめに

生体を構成するタンパク質はアミノ酸がペプチド結合を介して数十~数百個連結した高分子化合物である.アミノ酸にはL体とD体が存在するにもかかわらず,最近までタンパク質を構成するアミノ酸はL-アミノ酸のみからなると考えられていた.しかし近年,加齢後のヒト組織内タンパク質中にD-アミノ酸[主としてD-アスパラギン酸(D-Asp)]が見いだされてきた1–9).L-アミノ酸のみから構成されるタンパク質中のアスパラギン酸残基(Asp)が加齢に応じてD-Aspへ変化していたという相次ぐ報告は,タンパク質がL-アミノ酸ホモキラリティーを生涯維持しているという概念を覆した.我々は,特にD-Aspがヒト眼内の水晶体主要構成タンパク質中において顕著に蓄積されていること,その部位特異的なD-Asp蓄積部位,および蓄積部位ではL-AspからD-Aspへの変化と同時に隣接残基との結合がα結合からβ結合に変化していることも明らかにしてきた2–5).つまり,加齢後のヒト水晶体を構成するタンパク質中のAspは通常のL-α-Aspに加え,異なる3種類の異性化Asp残基(L-β-Asp,D-α-Asp,D-β-Asp)として存在する.アミノ酸分子単体としては,L-アミノ酸とD-アミノ酸の間に物理的,化学的性質の違いはない.しかしながら,タンパク質を構成する結合型アミノ酸残基が異性化した場合は性質が異なる.一般的に生体内でタンパク質が機能を発揮するためには,生体内環境下においてタンパク質のフォールディングの形成・維持が必須である.それゆえ,L-アミノ酸のみから構成されるタンパク質中でD-アミノ酸が生成すると,側鎖の反転によるタンパク質立体構造が変化し,それに伴う安定性や機能の低下が予想される(図1).本来,生体を構成する細胞内にはそのようなタンパク質不良品の蓄積を防ぐ機能として分解機能が備わっているが,水晶体組織を構成する細胞内においては,水晶体分化の過程においてそれらの機能がほぼ消失している10).したがって,水晶体を構成するタンパク質内ではD-Aspがタンパク質結合型D-アミノ酸として永続的に蓄積される.この特性が水晶体内においてD-アミノ酸研究が進展した大きな理由の一つである.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)

図1 タンパク質中でのAsp異性体生成とその影響

2. 水晶体と水晶体を構成するクリスタリンタンパク質

水晶体は眼球前部に存在する厚さ4 mm,直径9 mmほどの楕円形状をした透明組織である(図2A).水晶体は外部の光を透過させつつ集光し,焦点を調整するレンズ機能を有する.それを可能とするのが水晶体構成タンパク質の大部分を占めるクリスタリンと呼ばれるタンパク質である.クリスタリンは,およそ500 mg/mLの高濃度でも水溶性であり,その透明性を維持することができる11).逆に,クリスタリンに異常が生じ凝集沈着物などが生じると,それらが眼内で外部からの光を散乱し,視力に不良が生じる.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)

図2 水晶体と各クリスタリンタンパク質

(C, D)の立体構造は文献14, 15から引用.

ヒト眼内水晶体中にクリスタリンファミリーは3種類存在し,会合体サイズに応じてα-,β-,γ-クリスタリンと分別されている.α-クリスタリンはαA-,αB-クリスタリンの2種類のサブユニットから構成される25~40量体もの巨大会合体である(図2B).α-クリスタリンは熱ショックタンパク質ファミリーに属しており,凝集抑制機能を分子単体で有している分子シャペロンである12).分子シャペロンであるα-クリスタリンは,他分子の部分変性が生じた際にタンパク質分子表面に露出する疎水性部位を認識し,結合することで疎水性に起因するタンパク質分子間の異常相互作用を抑制する.これが水晶体内において発揮されることで他クリスタリンファミリー(β-クリスタリンやγ-クリスタリン)の可溶性が長期にわたり保たれている.β-クリスタリンは二~六量体から構成され,γ-クリスタリンは単量体として存在する13).β-,γ-クリスタリンファミリーはともに機能を有してはいないが,タイトなβシート構造を元とする共通構造を有し,長期にわたり透明な高濃度可溶性タンパク質として存在する(図2C, 2D14, 15).しかしながら,加齢に応じてこれらクリスタリン中のアミノ酸残基にさまざまな修飾(翻訳後修飾)が生じる.これまでにAsp異性化も含めて酸化,ジスルフィド結合の形成,切断,脱アミド化などが報告されている16–21).このようなさまざまな化学修飾アミノ酸が加齢に応じて蓄積した結果,各種クリスタリンの局所構造が乱れ,安定性の低下につながり,その結果としてクリスタリン沈着物が形成,蓄積され,加齢性白内障の原因となると考えられている.

3. タンパク質中のアスパラギン酸残基の異性化機構

一般的にL-アミノ酸分子からD-アミノ酸分子へのエピメリゼーションは塩基性条件下において進行する.しかし,生体中では極端な塩基性条件下にタンパク質が置かれることはない上,仮にタンパク質中においても本反応が生じているならば,グリシンを除く19種類のアミノ酸残基すべてにD化が生じるはずである.しかしながら,タンパク質中において観察されるD-アミノ酸は大多数がAspである.その原因はAspが五員環スクシンイミド中間体を介して異性化することによる(図3).Aspの異性化反応は,AspのC末端側隣接残基のイミノ基の窒素原子上の孤立電子対がAsp側鎖のカルボニル炭素原子を求核攻撃することで始まる.次にAsp残基は五員環スクシンイミド中間体を形成し,この中間体に対してプロトンが付加する方向に依存してL-スクシンイミド,またはD-スクシンイミドを生じる.その後のスクシンイミドの開環反応により,L-スクシンイミドからL-α-Asp,L-β-Aspが生じ,D-スクシンイミドからD-α-Asp,D-β-Aspが生じる.同様にGluも六員環中間体を介して異性化反応が進行し,L-γ-Glu,D-α-Glu,D-γ-Gluが生成する.しかし,六員環中間体は五員環スクシンイミド中間体より安定であるため,Asp異性化反応よりも圧倒的に反応進行が遅い.したがって,同領域に存在するAspとGluから異性化が生じたとしても,実際に見いだされるのは,ほぼAsp異性体のみとなる.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)

図3 タンパク質中でのAsp残基の異性化機構

異性化反応は,Asp残基側鎖(図中矢印)と,Asp残基のC末端側ペプチド結合上に存在する窒素が有する不対電子対との反応が開始点である.生体内環境においてのみL体からD体への反転反応が顕著に観察される.反応前後で分子量は変化しない.同側鎖を有するGlu残基の異性化も同じ機構で生じる.Glu残基の場合,側鎖部分がAsp残基よりも1炭素分長いため,側鎖への求核攻撃がAspの場合に比べて生じにくい.

Asp異性化反応の律速段階はスクシンイミド中間体の形成速度,開環速度にあることから,この中間体形成および加水分解に有利な条件が異性化にとって有利な条件といえる.特に,本異性化反応はAsp C末端側の隣接残基のイミノ基上の窒素原子からAsp側鎖カルボニル基への求核攻撃が反応開始点であることから,AspのC末端側アミノ酸の立体障害が反応速度へ大きな作用を及ぼすと考えられている.たとえばAsp残基C末端側がアラニンやセリンなどの立体障害が小さいアミノ酸分子の際に,迅速なAsp残基異性化が報告されている5).また,興味深いことに同配列を有するペプチドとタンパク質中のAsp異性化を比較した場合,タンパク質中Aspの方がより迅速に異性化が進行するという報告がある22).これは,タンパク質中のAsp部位周囲の部分構造に関して,Asp異性化に有利な場が存在することを示唆している.

4. タンパク質中のアミノ酸異性体分析手法の開発

一般的にアミノ酸の化学修飾は修飾前後で質量が変化するため,それらの同定には質量分析装置が用いられる.しかしながら,他の一般的なアミノ酸に対する化学修飾とは異なり,異性化修飾は修飾前後の質量が同一であり,質量分析による修飾部位同定が不可能であった.そのため,従来からアミノ酸の鏡像異性体分析には加水分解後に各アミノ酸をキラルカラムで分析する方法や,ジアステレオマーに誘導体化し,ノンキラルな逆相カラムで分離する手法(ジアステレオマー法)など比較的複雑なプロセスと,大スケールでの分離分析手法がとられていた2, 3, 5).しかしながら,これらの手法では分析に際し多大な時間,サンプル量を必要とする上,キラルカラム,加水分解装置,アミノ酸シーケンサーなど複数の装置による分析が必要であった.具体的な実験手順を一覧として示す(図4).

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)

図4 種々の結合型Asp異性体の分析法

ジアステレオマー法は実験速度,操作の難易度,網羅性などに弱点があった.一方,LC-MS/MS法ではLC-MS/MS装置の使用により実験速度,網羅性などの弱点を克服することに成功した.さらにLC-MS/MS-酵素法では,主たる操作は酵素処理のみであり,容易にタンパク質内D-Asp一斉検索を行うことが可能となった.

我々は現在,これらの問題を克服することに成功しており,質量分析装置と微量液体クロマトグラフィーを組み合わせたliquid chromatography-mass spectrometry(LC-MS/MS)法により,タンパク質中の異性化部位とその量を決定できるようになった4).本手法では,通常のL-α-Asp含有ペプチドと,同配列中のAsp部位を異性体に置き換えたペプチド(L-α-Asp含有ペプチドに対するジアステレオマー)では逆相高速液体クロマトグラフィー(reverse-phase high-performance liquid chromatography:RP-HPLC)上での溶出時間が異なることに着目している.実際には,目的の加齢組織や目的タンパク質に対してトリプシンを加え,消化後タンパク質から生じたペプチド断片を分析する.クロマトグラム上では多種類のタンパク質消化後ペプチド断片ピークが生じるため,多数のピークが重なり合った状態で表示される(図5A).同時に,質量分析装置側ソフトウェアでは(我々の場合Proteome Discoverer;Thermo Fisher Scientific社),各ペプチドピークに含まれるアミノ酸配列が各々同定されている.このデータ中からAspを含み,同一質量を有し,溶出時間の異なるピーク群に着目し,マスクロマトグラムを表示させる.通常,質量および配列が同一であるペプチドのマスクロマトグラムでは1本のピークが表示されるはずである.しかし,Asp異性体を含むペプチドは複数のピークとして示される(図5B).これはα結合,β結合を含むペプチドでは鎖長が異なること,L-アミノ酸,D-アミノ酸の側鎖の方向の違いによりカラム担体との相互作用が異なるためである.本段階で,どのタンパク質中のどの部位のAsp残基に異性化が生じているかを判断することが可能である.しかし,このままでは,どのピークがどのAsp異性体に由来したピークであるかの判断は不可能である.我々は,かつて,それぞれの異性体アミノ酸含有ペプチド標品を化学合成し,分析試料と平行してLC-MS/MSで分析し,標品ペプチドの溶出時間との一致により各異性体由来のピークを同定していた.しかしながら,本手法ではペプチド合成技術,装置が必要となる.そこで,より迅速かつ手間をかけずにピーク同定を可能とするべく,現在では,それぞれの異性体を認識する酵素を用いて各ピーク内のAsp異性体を同定している(図623)

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)

図5 LC-MS/MS-酵素法によるタンパク質中のAsp異性体分析の概略

水晶体に対してトリプシンを作用させた際に生じるペプチド断片全クロマトグラムが1回の分析で得られる(A).この全クロマトグラムに対して目的部位のAspを含む理論分子量でピーク検索をかけると,異性化の有無にかかわらず単一のピークが得られる.この際に該当Aspが異性化していると,複数のピークが得られる(B).ピーク面積から異性化率を算定する.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 322-328 (2019)

図6 LC-MS/MS-酵素法によるタンパク質中のAsp異性体分析の概略

3種類のAsp異性体認識酵素を用い,LC-MS/MSで得られる結果から消失するピークに着目する.この際に用いる酵素は,切断酵素であっても,修飾酵素であっても問題はない.Asp-NはL-α-Aspを認識しC末端側を切断する.PIMTはタンパク質中のL-β-Aspを特異的に認識し,L-β-Aspをメチル化する.PaenidaseはD-α-Aspを認識し切断する.現在までD-β-Aspを認識する酵素は報告されていない.それゆえ,3種類の異性体が確認された場合において,いずれの酵素にも認識されなかったピークがD-β-Aspを含むペプチド由来であると定義している.

本手法では,組織やタンパク質のトリプシン消化後に生じたペプチド断片混合物に対して,さらに3種類の異性化Asp認識酵素を作用させ,それぞれ追加消化する.本3種類の消化物をトリプシン消化物と同じ分離プログラムを使用してLC-MS/MSへと用いる.それぞれのAsp異性体に準じた酵素の作用によりAsp含有ペプチドの分子量が変化し,質量で描くクロマトグラムからピークが消失または残存する.このようにして得られた三つのクロマトグラムと,トリプシン消化のみで作製したクロマトグラムと比較する.酵素消化前後のピーク消失の確認を行うことで,最終的に各Asp異性化部位の同定および各Asp異性体の区別を同時に行うことが可能となる.表1に白内障患者のαA-,αB-クリスタリン中のAsp異性体含有ペプチドを示す.それぞれのペプチドは,表中に示した各Aspの異性化に応じて複数のピークを示した.Aspが連続しているペプチドに関しては,ペプチド中,どちらのAspが異性化しているかは不明である.本法により,加齢後ヒト水晶体中α-クリスタリンタンパク質中から多数の異性化Asp部位とその各異性化率を一斉に同定することができた.しかしながら,現手法では,異性化Asp含有ピーク溶出時間が重複した場合に分析が不可能である点,Aspを複数有するペプチド中異性化率の決定が困難である点,短いペプチド断片を酵素が認識できない点など課題も残る.

表1 83歳白内障患者のαA-,αB-クリスタリン中のAsp残基の異性化部位
タンパク質位置ペプチド配列
αA-クリスタリン55~65TVLDSGISEVR
79~88HFSPEDLTVK
89~99VQDDFVEIHGK
104~112QDDHGYISR
146~157IQTGLDATHAER
αB-クリスタリン57~69APSWFDTGLSEMR
108~116QDEHGFISR

5. アミノ酸の異性化修飾がクリスタリンに及ぼす影響

AspやGluの異性化修飾が各種クリスタリンに及ぼす影響を調査するためには,上記の網羅的D/L分析により同定したクリスタリン内Asp部位に,それぞれの異性化Aspを導入し,その物性を野生型と比較すればよい.しかしながら,現在までタンパク質中に容易に異性化Aspを導入する手法は存在しない.それゆえ,Asp異性化がタンパク質に及ぼす影響を推測するため,我々は標的Asp部位を他アミノ酸残基に置換したクリスタリンを作製し,構造・機能解析を行っている24).具体的にはAsp残基が親水性アミノ酸残基であること,その側鎖が負電荷を有していることからAspを疎水性残基であるアラニンや,電荷の異なるリシン残基や,Aspの電荷を潰したアスパラギン残基に置換したリコンビナントクリスタリンを大腸菌にて作製して実験に用いる.これまでの実験から,加齢に応じて増加するAsp異性化部位である,αA-クリスタリン中のAsp58を種々のアミノ酸へと置換したものでは,疎水性残基へと置換することで巨大会合体を形成することが明らかになった24).一方,加齢に依存せず生後まもなく異性化している部位(Asp151)に関しては,どのアミノ酸に置換しても会合体形成能は増加しなかった25).またAsp151置換体は熱安定性が低下するが,151番目のアミノ酸の側鎖の負電荷さえ維持できれば(AspからGluの置換体)熱安定性の低下が生じないという結果を得ている25).L-AspからD-Aspへの異性化では側鎖の反転が生じるため,該当アミノ酸部位の側鎖負電荷が関わる静電的ネットワークに障害が生じると予想される.一方,β結合形成に際しては,ペプチド主鎖の伸長に応じて配置変化した側鎖が関与する静電的ネットワークの変化が予想される.これらの主鎖伸長やアミノ酸側鎖間のネットワーク変化が,タンパク質の高次構造を変化させ,クリスタリン機能へ悪影響を及ぼすものと考えられる.それらの結果,水晶体内で,各種クリスタリン会合体の可溶性低下,α-クリスタリンのシャペロン機能の低下が生じて,さまざまなクリスタリンで形成されるsuper structureに異常が生じ,巨大凝集体形成へと至る.これが加齢性白内障の発症原因の一つであると我々は考えている.

6. おわりに

加齢に伴いヒト水晶体中では各クリスタリンの部位特異的Asp残基の異性化が進行する.これらの異性化反応は,隣接残基の立体障害やAspの存在する部位におけるタンパク質二次構造や立体構造,他分子との相互作用に準じたAsp異性化反応場の形成に支配される.逆に,これら反応場形成を抑制する手法やAsp周囲の立体障害を増加させることで,異性化反応の抑制は可能であると考えている.現在,加齢性白内障の治療には眼内レンズの挿入による外科的治療が広く行われているが,途上国では技術的困難とともに経済的問題が存在し,先進国においてもコスト,術後リスクが伴う.これらの問題に対して,我々は水晶体が外部からアクセス可能な組織であり白内障発症が老齢期であることから,修飾予測部位を保護する分子を早期に点眼手法にて導入し,発症年齢を遅延させることで,外科的手法に依存せず日常生活に支障のないレベルの水晶体の透明性維持を可能にしたいと考えている.他方,水晶体以外の加齢組織内においても,異性化修飾は新しいタンパク質年齢,疾患指標としての可能性がある.我々は,D-アミノ酸分析手法のさらなる改良,これまでに発見されていない加齢組織中の異性化Aspの検出,タンパク質中へのD-アミノ酸導入手法の開発にも取り組んでいる.新しいD-アミノ酸分析に関する知見,新しい加齢分子マーカー,異性化Asp含有モデルタンパク質,そしてタンパク質中異性化Asp形成意義の解明などは,加齢研究分野への貢献のみならず,これまでタンパク質結合型D-アミノ酸に関し,まったくふれてこなかった医・薬・工学にわたる他分野へも波及すると予想している.「タンパク質中のL-アミノ酸ホモキラリティーの破綻」をキーワードに,生命科学の未知部分を明らかにするべく,他分野とも連携しながら引き続き本研究を発展させたいと考えている.

謝辞Acknowledgments

本研究にあたり,御懇切な助言をいただきました京都大学大学院理学研究科化学専攻放射線生命化学研究室の諸氏・卒業生の皆様方に厚く感謝致します.

引用文献References

1) Fisher, G.H., Garcia, N.M., Payan, I.L., Cadilla-Perezrios, R., Sheremata, W.A., & Man, E.H. (1986) D-aspartic acid in purified myelin and myelin basic protein. Biochem. Biophys. Res. Commun., 135, 683–687.

2) Fujii, N., Ishibashi, Y., Satoh, K., Fujino, M., & Harada, K. (1994) Simultaneous racemization and isomerization at specific aspartic acid residues in alpha B-crystallin from the aged human lens. Biochim. Biophys. Acta, 1204, 157–163.

3) Fujii, N., Kawaguchi, T., Sasaki, H., & Fujii, N. (2011) Simultaneous stereoinversion and isomerization at the Asp-4 residue in betaB2-crystallin from the aged human eye lenses. Biochemistry, 50, 8628–8635.

4) Fujii, N., Sakaue, H., Sasaki, H., & Fujii, N. (2012) A rapid, comprehensive liquid chromatography-mass spectrometry (LC-MS)-based survey of the Asp isomers in crystallins from human cataract lenses. J. Biol. Chem., 287, 39992–40002.

5) Fujii, N., Satoh, K., Harada, K., & Ishibashi, Y. (1994) Simultaneous stereoinversion and isomerization at specific aspartic acid residues in alpha A-crystallin from human lens. J. Biochem., 116, 663–669.

6) Fujii, N., Tajima, S., Tanaka, N., Fujimoto, N., Takata, T., & Shimo-Oka, T. (2002) The presence of D-beta-aspartic acid-containing peptides in elastic fibers of sun-damaged skin:a potent marker for ultraviolet-induced skin aging. Biochem. Biophys. Res. Commun., 294, 1047–1051.

7) Masters, P.M., Bada, J.L., & Zigler, J.S. Jr. (1977) Aspartic acid racemisation in the human lens during ageing and in cataract formation. Nature, 268, 71–73.

8) Powell, J.T., Vine, N., & Crossman, M. (1992) On the accumulation of D-aspartate in elastin and other proteins of the ageing aorta. Atherosclerosis, 97, 201–208.

9) Roher, A.E., Lowenson, J.D., Clarke, S., Wolkow, C., Wang, R., Cotter, R.J., Reardon, I.M., Zurcher-Neely, H.A., Heinrikson, R.L., Ball, M.J., et al. (1993) Structural alterations in the peptide backbone of beta-amyloid core protein may account for its deposition and stability in Alzheimer’s disease. J. Biol. Chem., 268, 3072–3083.

10) Augusteyn, R.C. (2010) On the growth and internal structure of the human lens. Exp. Eye Res., 90, 643–654.

11) Delaye, M. & Tardieu, A. (1983) Short-range order of crystallin proteins accounts for eye lens transparency. Nature, 302, 415–417.

12) Horwitz, J. (1992) Alpha-crystallin can function as a molecular chaperone. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 10449–10453.

13) Bloemendal, H., de Jong, W., Jaenicke, R., Lubsen, N.H., Slingsby, C., & Tardieu, A. (2004) Ageing and vision:structure, stability and function of lens crystallins. Prog. Biophys. Mol. Biol., 86, 407–485.

14) Basak, A., Bateman, O., Slingsby, C., Pande, A., Asherie, N., Ogun, O., Benedek, G.B., & Pande, J. (2003) High-resolution X-ray crystal structures of human gammaD crystallin (1.25 A) and the R58H mutant (1.15 A) associated with aculeiform cataract. J. Mol. Biol., 328, 1137–1147.

15) Van Montfort, R.L., Bateman, O.A., Lubsen, N.H., & Slingsby, C. (2003) Crystal structure of truncated human betaB1-crystallin. Protein Sci., 12, 2606–2612.

16) Hains, P.G. & Truscott, R.J. (2007) Post-translational modifications in the nuclear region of young, aged, and cataract human lenses. J. Proteome Res., 6, 3935–3943.

17) Hains, P.G. & Truscott, R.J. (2008) Proteomic analysis of the oxidation of cysteine residues in human age-related nuclear cataract lenses. Biochim. Biophys. Acta, 1784, 1959–1964.

18) Lampi, K.J., Ma, Z., Hanson, S.R., Azuma, M., Shih, M., Shearer, T.R., Smith, D.L., Smith, J.B., & David, L.L. (1998) Age-related changes in human lens crystallins identified by two-dimensional electrophoresis and mass spectrometry. Exp. Eye Res., 67, 31–43.

19) Ma, Z., Hanson, S.R., Lampi, K.J., David, L.L., Smith, D.L., & Smith, J.B. (1998) Age-related changes in human lens crystallins identified by HPLC and mass spectrometry. Exp. Eye Res., 67, 21–30.

20) Hanson, S.R., Hasan, A., Smith, D.L., & Smith, J.B. (2000) The major in vivo modifications of the human water-insoluble lens crystallins are disulfide bonds, deamidation, methionine oxidation and backbone cleavage. Exp. Eye Res., 71, 195–207.

21) Wilmarth, P.A., Tanner, S., Dasari, S., Nagalla, S.R., Riviere, M.A., Bafna, V., Pevzner, P.A., & David, L.L. (2006) Age-related changes in human crystallins determined from comparative analysis of post-translational modifications in young and aged lens:does deamidation contribute to crystallin insolubility? J. Proteome Res., 5, 2554–2566.

22) Fujii, N., Harada, K., Momose, Y., Ishii, N., & Akaboshi, M. (1999) D-amino acid formation induced by a chiral field within a human lens protein during aging. Biochem. Biophys. Res. Commun., 263, 322–326.

23) Maeda, H., Takata, T., Fujii, N., Sakaue, H., Nirasawa, S., Takahashi, S., Sasaki, H., & Fujii, N. (2015) Rapid survey of four Asp isomers in disease-related proteins by LC-MS combined with commercial enzymes. Anal. Chem., 87, 561–568.

24) Takata, T., Nakamura-Hirota, T., Inoue, R., Morishima, K., Sato, N., Sugiyama, M., & Fujii, N. (2018) Asp 58 modulates lens alphaA-crystallin oligomer formation and chaperone function. FEBS J., 285, 2263–2277.

25) Takata, T., Matsubara, T., Nakamura-Hirota, T., & Fujii, N. (2019) Negative charge at aspartate 151 is important for human lens αA-crystallin stability and chaperone function. Exp. Eye Res., 182, 10–18.

著者紹介Author Profile

高田 匠(たかた たくみ)

京都大学複合原子力科学研究所特定准教授.理学博士.

略歴

2001年立命館大学理工学部卒業.06年京都大学大学院理学研究科修了.同年より米国オレゴン健康科学大学,09年より米国マサチューセッツ工科大学の博士研究員を経て,13年帰国.15年東京薬科大学助教を経て17年より現職.

研究テーマと抱負

蛋白質結合型のD型アミノ酸を中心とした老化に関する研究を進めています.人々の健康生活に貢献できるような研究を進めてゆきたいと考えています.

ウェブサイト

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/bg/

趣味

スポーツ全般,お酒.

藤井 紀子(ふじい のりこ)

京都大学複合原子力科学研究所客員教授/名誉教授.医学博士.

略歴

1974年明治大学農学部農芸化学科卒業.76年東京水産大学大学院水産学研究科修了.80年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程単位取得満期退学.同年筑波大学化学系文部技官.87年筑波大学化学系助手.91年武田薬品工業株式会社開拓第1研究所研究員.94年科学技術振興事業団「さきがけ研究21-場と反応」領域・専任研究者.98年京都大学原子炉実験所放射線生命科学研究部門助教授.2002年同教授.17年より現職.

研究テーマと抱負

D-アミノ酸を指標とした老化,加齢性疾患の基礎研究,生体内での蛋白質中のアミノ酸異性化機構の解明,結合型D-アミノ酸の迅速分析法の開発

ウェブサイト

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/bg/

趣味

テニス.

This page was created on 2019-04-25T14:33:33.268+09:00
This page was last modified on 2019-06-04T10:49:24.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。