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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 388-398 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910388

総説Review

活性硫黄研究の新展開Recent advance in reactive sulfur research

1大阪府立大学大学院理学系研究科生物科学専攻Department of Biological Science, Graduate School of Science, Osaka Prefecture University ◇ 〒599–8231 大阪府堺市中区学園町1–1 ◇ 1–1 Gakuen-cho, Nakaku, Sakai, Osaka 599–8231, Japan

2東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野Department of Gene Expression Regulation, Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University ◇ 〒980–8575 宮城県仙台市青葉区星陵町4–1 ◇ 4–1 Seiryocho, Aobaku, Sendai, Miyagi 980–8575, Japan

3東北大学大学院医学系研究科環境医学分野Department of Environmental Health Science and Molecular Toxicology, Tohoku University Graduate School of Medicine ◇ 〒980–8575 宮城県仙台市青葉区星陵町2–1 ◇ 2–1 Seiryo-machi, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980–8575, Japan

発行日:2019年6月25日Published: June 25, 2019
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システインのチオール(SH)基に過剰な硫黄原子が付加されたシステインパースルフィドなどの「活性硫黄分子」は,生体内に多量に存在し,強い抗酸化能,レドックスシグナル制御能を有することが知られている.最近,活性硫黄分子の持つユニークな化学特性が明らかになり,それに伴い分析技術が進歩し,生体内における活性硫黄の存在様式がより詳細に明らかになってきている.セントラルドグマを成立させる上で重要な働きをするアミノアシルtRNA合成酵素の一つであるシステイニルtRNA合成酵素(CARS)が,生体内におけるシステインパースルフィドの主要な産生酵素であること,タンパク質のポリスルフィド化は,翻訳“時”に起こること,哺乳動物のミトコンドリアにおいて,システインパースルフィドとその関連代謝物が酸素分子の代わりにエネルギー産生に利用されていることなど,従来の生物学の概念を覆すような知見も得られている.さらに,疾患との関連,硫黄供給源である食品中の活性硫黄に関する知見も蓄積しつつある.

1. はじめに

これまでに活性酸素種(ROS)や活性酸化窒素種(RNS)は,生体分子に非特異的損傷をもたらし,さまざまな疾患に関与している有害物質であると考えられてきた.しかし近年,ROS/RNSがシグナル分子として機能しているという新たな概念「ROS/RNSレドックスシグナル説」が提唱されるようになってきた.不安定で強い親電子性のROS/RNSがより安定な生体内親電子物質(8-ニトロ-cGMP,ニトロ化脂肪酸など)へ変換されることによって特異的で安定なレドックスシグナルが伝達される1–6).筆者らは,レドックスシグナルのセカンドメッセンジャーである8-ニトロ-cGMPの代謝機構を解析する中で,システインのチオール(SH)基に過剰な硫黄原子が付加されたシステインパースルフィドなどの活性硫黄分子種が,8-ニトロ-cGMPを8-メルカプト-cGMPに代謝し,そのシグナル機能を制御していることを明らかにした7, 8).パースルフィドは,隣接する硫黄原子の不対電子の作用により,通常のSH基と比べてより抗酸化能や求核性が高まり(α効果),活性化された状態にある.また過剰に付加した活性な硫黄のユニークな特徴として,SH基の間で容易に硫黄原子が移動できることが知られている(硫黄転移反応).そのため,活性硫黄分子種は,グルタチオンパースルフィド,タンパク質ポリスルフィドなど多様な存在様式を示し,多彩な生理機能を発揮する8, 9).また,ごく最近,活性硫黄分子がミトコンドリアにおける品質管理やエネルギー代謝(哺乳動物における硫黄呼吸)を制御していること,翻訳時にタンパク質に取り込まれることなどの新たな知見も得られてきている10).本稿では,活性硫黄分子の解析方法,タンパク質翻訳時における活性硫黄の取り込み,活性硫黄の産生酵素,活性硫黄によるミトコンドリア制御,疾患との関連,食品と活性硫黄など,筆者らの最近の知見を紹介する.

2. 活性硫黄分子解析法

1)質量分析法による低分子活性硫黄の検出,定量

筆者らは,2014年に質量分析装置を用いて活性硫黄分子種の網羅的解析(ポリスルフィドメタボローム解析)法を確立している(図1A8).すなわち,システインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドなどの還元型低分子活性硫黄分子を,親電子性アルキル化剤であるモノブロモビマン(MBB)で標識したあと,高速液体クロマトグラフィー-三連四重極型質量分析装置(LC-MS/MS)を用い,多重反応モニタリング(MRM)法で,活性硫黄分子種を選択的に検出する.酸化型活性硫黄分子(酸化型システインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドなど)は,安定なので生体内から抽出し,そのままLC-MS/MSで検出する.安定同位体の標準物質を内部標準として用いれば定量解析が可能となる(安定同位体希釈法).

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図1 ポリスルフィドメタボローム解析法の概要(A)と親電子性アルキル化剤と活性硫黄分子との反応(B)

ポリスルフィドメタボローム解析をする上で,特に重要なのは,親電子性アルキル化剤の選択である8, 10, 11).還元型活性硫黄分子は,不安定であるため直接検出は困難なので,親電子性アルキル化剤を用いて末端のSH基をアルキル化し,安定な誘導体にする必要がある.親電子性アルキル化剤は,SH基標識試薬として利用されていているN-エチルマレイミド(NEM),ヨードアセトアミド(IAM),MBBなどが知られている.これらの親電子性アルキル化剤は,ポリスルフィド構造末端のSH基をアルキル化し,安定な誘導体を形成するが,一方で,同時にポリスルフィド構造を分解し,S-二量体やさまざまな分解産物が生成される(図1B).ポリスルフィド分解の度合いは,親電子性アルキル化剤の種類(親電子性が高いほど増大),温度(温度が高いほど増大),pH(アルカリ性ほど増大),還元剤の有無などによって変動する8, 10, 11).また,親電子性アルキル化剤は,硫化水素とも反応しS-二量体を形成するため,硫化水素の検出試薬としても利用されている12, 13).親電子性アルキル化剤を硫化水素の解析に用いる場合,試験管内で硫化水素と親電子性アルキル化剤を反応させる場合は,反応産物であるS-二量体が定量的に形成される(図1B).しかし,生体試料のような硫化水素と活性硫黄分子が混在する場合に検出されるS-二量体は,硫化水素に由来するのか,活性硫黄分子の分解物であるのかは区別できない.したがって,親電子性アルキル化剤を用いて生体試料を解析する際は,以下の2点に注意しなければならない.①活性硫黄分子は,親電子性アルキル化剤により分解されるため,検出される量は実際の量よりも少ない.②硫化水素由来のS-二量体と,活性硫黄分子の分解に由来するS-二量体が混在する.

これらの問題点は,親電子性アルキル化剤による活性硫黄分子の分解に起因しているので,親電子性アルキル化剤が活性硫黄分子の安定性に及ぼす影響を検討する必要がある.親電子性アルキル化剤が活性硫黄分子の安定性に及ぼす影響を,モデル化合物として酸化型グルタチオンテトラスルフィド(GSSSSG)を用いて解析したところ,pH 7でGSSSSG(10 µM)は単独で分解が認められた11).この分解は,アルカリ条件で顕著になるので,ポリスルフィド構造を水酸化物イオン(OH)が攻撃しているためと考えられている.この反応液に親電子性アルキル化剤(1 mM)を共存させると,親電子性の高いMBB, NEMは,GSSSSGを速やかに分解する一方で,親電子性の低いIAMは,比較的穏やかに分解している11).興味深いことに,IAMの誘導体であるβ-(4-hydroxyphenyl)ethyl iodoacetamide(HPE-IAM)は,GSSSSGの分解を抑制し,ポリスルフィドを安定化する(図2A11).この安定化効果は,ポリスルフィドおよびHPE-IAMの濃度,pH,温度などに影響を受けるが,HPE-IAMがポリスルフィドメタボローム解析に適した親電子性アルキル化剤であることを示している.

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図2 活性硫黄の安定化機構

(A)活性硫黄の安定化に及ぼす親電子性アルキル化剤の影響,(B)チロシンによる活性硫黄の安定化,(C)活性硫黄の安定化機構モデル.

2)タンパク質中の活性硫黄分子の検出

筆者らはこれまでに活性硫黄(ポリスルフィド)化タンパク質の検出方法として,活性硫黄分子のユニークな化学的反応性に基づいた“タグ-スイッチ法”を報告している(図3A8).この方法では,ワシントン州立大学のXian博士によって開発された2種類の標識試薬(タグ化試薬)を用いる.一つは,メチルスルホニルベンゾチアゾール(MSBT)で,タンパク質中のポリスルフィドの末端を含むSH基を選択的に“タグ化”し,その後,もう一つのタグ化試薬であるシアノ(CN)-ビオチンを用いる.この試薬は,シアン化物がポリスルフィド中のサルフェン硫黄と選択的に反応(シアノライシス反応)する性質を利用している.この試薬を用いることで,ポリスルフィド化されたシステインにビオチンを導入(タグ-スイッチ化)することができる(図3A).生体試料中のタンパク質ポリスルフィドをタグ-スイッチ法で検出した例を図3Aに示す.生体試料をMSBT含有の緩衝液中で溶解し,遊離のSH基をMSBTで標識したあと,CN-ビオチンを加え,ポリスルフィド化されたシステインにビオチンを導入する.電気泳動後,膜に転写し,ペルオキシダーゼ標識したアビジンを用いることで,多くのポリスルフィド化タンパク質が検出されている.

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図3 活性硫黄化タンパク質解析法

(A)タグ-スイッチ法による活性硫黄化タンパク質の検出原理(左)と二次元電気泳動,アビジンブロットによる解析例(右),(B) PMSAの原理(左)と組換えGAPDHを用いた解析例(右).8NcG:8-ニトロ-cGMP, ASBT:2-アミノスルホニルベンゾチアゾール,MMTS:メチルメタンチオスルホネート,DTP:4,4′-ヂチオピリジン,DTNB:5,5′-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸),PCMB:p-クロロ水銀安息香酸,2-ME:2-メルカプトエタノール.

また最近,筆者らは親電子性ビオチン標識試薬を用いたポリスルフィド化タンパク質の検出法について報告している(図3B10).この方法では,まず親電子性ビオチン標識試薬ビオチン-ポリエチレングリコール-マレイミド(biotin-PEG-MAL:BPM)でタンパク質中の還元型ポリスルフィドを含むSH基をビオチン化する.次に還元剤またはより強い親電子性アルキル化剤[p-クロロ水銀安息香酸(PCMB)など]で処理すると,ポリスルフィドが分解され,結合していたBPMは遊離される.高分子量のPEGを用いると,結合しているBPMの数(ポリスルフィド化されているシステインの数)に依存する分子量変化を,SDS-PAGEで移動度の変化として確認することができる(図3B;biotin-PEG-MAL labeling gel shift assay:PMSA).生体試料中のタンパク質ポリスルフィドをPMSAで検出した例を図3Bに示す.組換えグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH;37 kDa)をBPMとインキュベートした後,親電子性アルキル化剤または2-メルカプトエタノールと反応させる.電気泳動後,クマシーブリリアントブルー染色でタンパク質を検出する.GAPDHには,三つのシステインが存在するので,親電子性アルキル化剤で処理しない場合,BPMが3分子結合し高分子量側にシフトする.親電子性の強いアルキル化剤(MBB, NEM, PCMBなど)や還元剤で処理すると,ポリスルフィド構造が分解されBPMが切り離されるので,ポリスルフィド化されている分だけ低分子側に移動度がシフトする.特異的抗体を用いれば,ウェスタンブロット法により生体試料中の特定のタンパク質のポリスルフィド化が解析できる10)

また,BPM化したタンパク質を固定化アビジンに吸着させ,還元剤で処理することでポリスルフィドを分解し,ポリスルフィド化タンパク質を溶出することができる10).最近,ヨードアセチル-ポリエチレングリコール-ビオチン(iodoacetyl-PEG-biotin:IAB)を用い,同様の原理によるポリスルフィド化タンパク質検出法が,ハンガリー国立腫瘍学研究所のNagy博士らのグループにより報告されている14)

3. チロシンによる活性硫黄の安定化

上で述べたように,HPE-IAMは活性硫黄(ポリスルフィド)を安定化するが,IAMはポリスルフィドを分解する.HPE-IAMは,IAMにヒドロキシフェニル-エチル基が付加した構造をしているため,ヒドロキシフェニル基がポリスルフィドの安定化に関与している可能性が示唆された.生体内では,ヒドロキシフェニル基を持つ化合物としてアミノ酸の一種であるチロシンが多量に存在するので,チロシンによるポリスルフィドの安定化効果を,モデル化合物としてGSSSSGを用いて検討した11).チロシンによるGSSSSGの安定化効果は,チロシン濃度に依存して高まり,10 mMでほぼ完全に分解を抑制している(図2B).また,前述の親電子性アルキル化剤による活性硫黄の分解もチロシンによって抑制される11).これらの結果は,チロシンが,親電子性アルキル化剤を用いたポリスルフィドメタボロミクス解析をする際の安定化剤として有用であることを示している.ポリスルフィドの分解は,アルカリ性の水酸化物イオン(OH)がポリスルフィド構造を攻撃することにより起こると考えられている.したがってヒドロキシフェニル基は,OHのポリスルフィド構造への攻撃と競合することによって安定化効果を示していると考えられる(図2C).生体内には,さまざまなヒドロキシ基を含む化合物が存在しているので,それらが,活性硫黄の機能を調節している可能性が考えられる.

4. タンパク質翻訳時における活性硫黄の取り込み

タンパク質の活性硫黄(ポリスルフィド)化は,リン酸化,グリコシル化,S-ニトロシル化,S-グアニル化などと同様に翻訳“後”修飾であると考えられていた.しかし,筆者らが2-2)項の方法で,動物培養細胞や大腸菌内組換えタンパク質などのタンパク質ポリスルフィド化を解析してみると,解析したタンパク質のほぼすべてがポリスルフィド化されていることがわかった(図3A).これらの結果から,「タンパク質ポリスルフィド化は,翻訳“時”にすでに起こっている」という仮説の着想に至った.mRNAを鋳型とするタンパク質の生合成(翻訳)では,tRNAに特定のアミノ酸が結合したアミノアシルtRNAが,リボソーム上でmRNAのコドンに対応して結合し,新生鎖ペプチドが合成される.翻訳“時”にタンパク質ポリスルフィド化が起こっているのであれば,アミノアシルtRNA合成の段階ですでにシステインがポリスルフィド化されていなければならない.このことを検証するため,まず,システイニルtRNAにシステインポリスルフィドが付加するかどうかを解析した10).化学的に合成したシステインポリスルフィド,大腸菌システイニルtRNA合成酵素(EcCARS),システイニルtRNA, ATPをインキュベートし,アミノアシル化反応を行い,システイニルtRNAに付加しているシステイン,システインポリスルフィドを上述のHPE-IAMで標識し,質量分析装置で解析すると,システイニルtRNAに結合しているシステイン,システインパースルフィド,システイントリスルフィドが検出される10).興味深いことに,対照実験として基質にシステインを用いた場合でも,システイニルtRNAに結合しているシステインポリスルフィドが検出された(図4A10).これらの結果は,タンパク質ポリスルフィド化が翻訳“時”に起こっているという仮説を支持している.

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図4 タンパク質翻訳時における活性硫黄の取り込み

(A) CARSによるシステインパースルフィド-tRNAの産生.CysSSH:システインパースルフィド,CysSSSH:システイントリスルフィド.(B) PUNCH-PsPの原理(左)と新生鎖ペプチド中の活性硫黄の検出(右).

翻訳“時”にポリスルフィド化が起こっているのであれば,翻訳直後の新生鎖ペプチドは,すでにポリスルフィド化されていることになる.翻訳直後の新生鎖ペプチドは,ピューロマイシン結合新生鎖プロテオミクス法(puromycin-associated nascent chain proteomics:PUNCH-P法)で調製することができる15).ピューロマイシンは,Streptomyces albonigerが産生するアミノヌクレオシド系抗生物質である.アミノアシルtRNA様の構造を持つため,リボソームのP部位に結合している翻訳途中のペプチジルtRNAと反応する.反応産物は,C末端にピューロマイシンが付加したペプチジルピューロマイシンとしてリボソームから遊離し,タンパク質合成が阻害される.ビオチン化ピューロマイシンを用いるとC末端がビオチン化された翻訳途中の新生鎖ペプチドが遊離し,固定化アビジンで回収される.新生鎖ペプチドをトリプシンで限定分解し,質量分析装置で解析すれば,新生鎖プロテオミクス解析ができる15).筆者らは,ポリスルフィド化ペプチドを解析するためにPUNCH-P法を改良した(図4B;PUNCH-P for Polysulfide Proteomics:PUNCH-PsP)10).この方法では,ポリスルフィド化ペプチドを解析するために親電子性アルキル化剤としてIAMを添加する.モデルタンパク質としてヒトのGAPDHを発現している大腸菌を用いて解析を行ったところ,新生鎖ペプチド内にシステインパースルフィド,トリスルフィドが70%以上含まれていることが明らかとなった(図4B).これらの結果は,タンパク質ポリスルフィド化が,翻訳“時”にすでに起こっていることを示している.

5. システイニルtRNA合成酵素(CARS)によるシステインパースルフィドの合成

筆者らは,以前にパースルフィド合成酵素として,システイン代謝酵素であるシスタチオニンβ合成酵素(cystathionine β-synthase:CBS),シスタチオニンγリアーゼ(cystathionine γ-lyase:CSE)を同定している8).CBS, CSEは,シスチンを基質としてシステインパースルフィドを産生する.しかし,両酵素をほとんど産生していない細胞や臓器,両酵素をノックダウンした細胞や臓器においてもパースルフィドの産生は認められる.これらの結果からパースルフィドの産生に別の酵素・経路が存在していることが示唆されていた.筆者らは,上述のようにシステイニルtRNAへのシステインパースルフィド取り込みを解析する際に,システインを基質にしても,tRNAにシステインパースルフィドが結合していることを見いだした(図4B10).この結果は,CARSが,システインからシステインパースルフィドを合成していることを示唆している.さらに驚くべきことに,アミノアシル化反応に必要なATP, tRNAを含まない酵素とシステインのみを含む反応液を解析しても,システインパースルフィドの産生が確認され,CARSがシステインパースルフィドの産生酵素であることが明らかとなった(図5A).安定同位体硫黄を含むシステイン(34S-Cys)を基質として解析したところ,システインから硫黄原子が切り出され,他のシステインのSH基に転移していることがわかった10).システインパースルフィドの産生は,ピリドキサールリン酸(PLP)に部分的に依存する.PLPが結合するリシン残基は種間でよく保存されており,パースルフィド産生に重要である.一方で,アミノアシル化反応の触媒に重要であるシステイン残基も種間でよく保存されているが,パースルフィド産生には影響を及ぼさない.これらの結果から,CARSが,アミノアシル化反応とパースルフィド産生を触媒する“Moonlighting Enzyme”であることが明らかとなった(図5B10)

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図5 CARSによるシステインパースルフィドの産生(A)とCARSのドメイン構造(B)

EcCARSは,シスチンを基質にはせず,システインを基質とする.酵素反応速度論的解析の結果,システインに対するミカエリス定数(Km)は7.3 µMであり,パースルフィド産生のkcat/Kmは1.4×103 M−1 s−1であった10).また,ヒトCSEは,システインを基質にはせず,シスチンを基質とし,シスチンに対するミカエリス定数(Km)は354.6 µMであり,パースルフィド産生のkcat/Kmは1.9×103 M−1 s−1であった10).細胞内のシステイン濃度は数百µMであり,EcCARSのKm値をはるかに上回る.一方で,細胞内シスチン濃度は数µMであり,CSEのKm値の数百分の1である.両酵素は同等の分子活性を示すが,細胞内の基質濃度を考慮すると,生体内における主要なシステインパースルフィド産生酵素はCARSであることが強く示唆される.

哺乳動物には,細胞質に局在するCARS1とミトコンドリアに局在するCARS2の2種類のCARSが存在する.CARS1, CARS2によるシステインパースルフィドの産生機構を,組換えタンパク質,培養細胞,遺伝子改変マウスを用いて解析した10).組換えタンパク質を用いた解析から,両CARSともPLPに依存したシステインパースルフィド産生活性を持つことが明らかになっている.CRISPR/Cas9システムを用いてCARS2ノックアウトHEK293T細胞を作製し,細胞内のパースルフィドを解析したところ,野生型細胞と比較してシステイン,グルタチオン量は変化せずに,システインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドが減少していた(図6A).この細胞に,野生型CARS2やアミノアシル化反応を欠失しパースルフィド産生活性を持つシステイン変異CARS2を発現させると,細胞内パースルフィド量は回復するが,パースルフィド産生活性を欠失しアミノアシル化反応を持つリシン変異CARS2を発現させても細胞内パースルフィド量は回復しない(図6A).さらに,RNA干渉で残存するCARS2をノックダウンすると,システインパースルフィドは約30%にまで減少するが,このCARS2ノックアウト細胞のCARS1をRNA干渉でノックダウンしても,パースルフィドのさらなる減少は認められない10).また,CBS, CSEとCARS2の関係を調べるために,CARS2ノックアウトHEK293T細胞のCBS, CSEをノックダウンし,細胞内のパースルフィドを定量したところ,システインパースルフィドは変化しない10).これらの結果は,哺乳類細胞において,CARS2が主要なパースルフィド産生酵素であることを示している.

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図6 CARSによるパースルフィドの産生

(A) CARS2欠損細胞におけるシステインパースルフィドの産生.WT:野生型.(B) CARS2ヘテロ欠損マウスの肝臓中のパースルフィド.GSH:グルタチオン,GSSH:グルタチオンパースルフィド.(C) CARSによるパースルフィド産生メカニズムの概要.

実際に動物個体におけるCARS2のパースルフィド産生を解析するために,CARS2欠損マウスを作製した10).ホモ欠損マウスは胎生致死であったが,ヘテロ欠損マウスは,形態,生育ともに野生型と差は認められなかった.ヘテロ欠損マウスの肝臓におけるパースルフィド産生を解析し野生型と比較したところ,システインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドの減少が認められている(図6B).ヘテロ欠損マウスでは,CARS2の発現量が野生型の半分になっているが,CARS1, CSE, CBSの発現量は変化がない10)ことから,マウス個体においてCARS2がパースルフィドの主要な酵素反応速度論産生酵素であることを示している.

CARS2ノックアウトHEK293T細胞,CARS2ヘテロ欠損マウスでは,全タンパク質中のポリスルフィドレベルが低下している10)ことから,ミトコンドリア内でCARS2により産生されるシステインパースルフィドは,細胞質に移動し,翻訳時にタンパク質に取り込まれるか,硫黄転移反応により翻訳後に取り込まれていると考えられる.また,取り込まれたパースルフィドは,親電子性物質,チオレドキシン(Trx)/チオレドキシン還元酵素(TrxR)システムにより分解される(図6C).

6. CARSによるミトコンドリアの機能制御

興味深いことにCARS2ノックアウトHEK293細胞のミトコンドリアは,短小化などの形態異常が認められる10).この形態異常は,野生型CARS2,システイン変異CARS2を発現させることにより認められなくなるが,リシン変異CARS2を発現させても認められることから,CARS2により産生されるパースルフィドが,ミトコンドリアの融合・分裂の制御に関与していることが示唆された.ミトコンドリアの融合・分裂は,ダイナミン様GTP結合タンパク質(dynamin-related protein 1:Drp1)のシステイン(ヒト,マウス644番目,ラット624番目)のレドックス修飾によって制御されていることが知られている16)図7A)が,最近,ラットDrp1の624番目のシステインがパースルフィド化されること,CARS2ノックアウト細胞では,Drp1のポリスルフィド化が減少することを明らかにされている(図7B10).このDrp1のポリスルフィド化の減少は,野生型CARS2,システイン変異CARS2を発現させることにより回復し,リシン変異CARS2を発現させても回復しない(図7B).これらの結果は,Drp1がポリスルフィドにより活性制御され,ミトコンドリアの融合・分裂を制御していることを示している(図7C10)

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図7 CARS2によるミトコンドリア機能制御

(A) Drp1による分裂・融合の調節,(B) CARS2に依存したDrp1のポリスルフィド化,(C)ポリスルフィド化/脱ポリスルフィド化によるDrp1の調節機構,(D) JC-1を用いた膜電位の解析.WT:野生型.

さらに,CARS2ノックアウト細胞では,ミトコンドリアDNAの減少が認められ,この減少は野生型CARS2,システイン変異CARS2を発現させることにより回復し,リシン変異CARS2を発現させても回復しないことから,CARS2由来のパースルフィドがミトコンドリアの生合成を促進していることが示唆されている10).また,CARS2ノックアウト細胞では,ミトコンドリア膜電位の低下が認められ,これらは,野生型CARS2,システイン変異CARS2を発現させることにより回復し,リシン変異CARS2を発現させても回復しない(図7D).これらの結果は,CARS2由来のパースルフィドがミトコンドリア膜電位形成を制御していることを示し,パースルフィドがミトコンドリアにおける電子伝達系の調節に関与していることを示唆している.

7. 活性硫黄を利用したエネルギー産生:硫黄呼吸

CARS2由来のパースルフィド産生を解析してみると,精製した組換え体CARS2の試験管内反応液と,CARS2発現細胞抽出液とではプロファイルが異なっていた(図8A10).すなわち,組換え体CARS2反応液中では,システインパースルフィドとトリスルフィドが大部分を占め,硫化水素,チオ硫酸はほとんど検出されない.一方CARS2発現細胞抽出液中には,硫化水素,チオ硫酸が大部分であり,システインパースルフィドはわずかにしか検出されず,トリスルフィドは検出されない(図8A).この結果は,細胞内ミトコンドリアにおいて,システインパースルフィドが硫化水素,チオ硫酸に代謝されていることを示唆している.上述のCARS2ノックアウト細胞を用いた解析では,CARS2由来のパースルフィドが,ミトコンドリア電子伝達系の制御に関与していることが示唆されている.ミトコンドリアにおけるシステインパースルフィドの代謝は,電子伝達系複合体IIIの阻害剤であるアンチマイシンAで処理すると,システインパースルフィドの増加と,同量の硫化水素の減少が認められる10).また,臭化エチジウム処理によりミトコンドリアDNAを欠失させ,電子伝達系を抑制した細胞においても,同様にシステインパースルフィドの増加と硫化水素の減少が認められる10)ことから,システインパースルフィドから硫化水素への変換が,電子伝達系の活性に依存していることがわかった.電子伝達系から供給された電子をパースルフィド(SSH)が電子受容体として受け取り,還元されシステイン(SH)と硫化水素(H2S)を生成していると考えられる.生成したシステインはCARS2に利用され,再びシステインパースルフィドが生成される.一方,硫化水素は,スルフィドキノンレダクターゼ(sulfide-quinone reductase:SQR)と下流の酸化酵素によりチオ硫酸にまで酸化される.このとき,酸化による電子は再びユビキノンに渡され,電子伝達系を構成していると考えられる(図8B10).これまでに,ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝は,酸素分子が電子受容体となり,ATPが産生される(酸素呼吸)と考えられていたが,上述のようにシステインパースルフィドとその関連代謝物が酸素分子の代わりにエネルギー産生に利用されている可能性が示された.これは,エネルギー代謝の定説を覆す画期的な発見であり,この新しいエネルギー産生経路を「硫黄呼吸」と呼んでいる.実際,CRISPR/Cas9システムによりSQRをノックアウトすることで硫黄の酸化代謝系が損なわれたマウスを作製したところ,野生型マウスに比べ,成長が著しく遅延し,短寿命であることがわかった(未発表データ).このことから,硫黄呼吸は,哺乳動物のエネルギー代謝においてきわめて重要な役割を果たしていると考えられる.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 388-398 (2019)

図8 活性硫黄を利用したエネルギー産生:硫黄呼吸

(A)精製組換えCARS2の試験管内反応液とCARS2発現細胞抽出液のポリスルフィドメタボロミクス解析,(B)哺乳動物ミトコンドリアにおける活性硫黄関連物質の代謝.

8. 活性硫黄と疾患

活性硫黄の実体が明らかになるにつれ,疾患との関連性も報告されてきている.最近,筆者らは,水俣病の原因物質であるメチル水銀を用いた神経変性疾患モデルで,活性硫黄が,8-ニトロ-cGMPを介したNO/ROSレドックスシグナルを制御していることを報告した17).メチル水銀は,環境由来の親電子性分子であり,神経変性を誘発することが知られている.メチル水銀を神経細胞に曝露すると,細胞内で神経型一酸化窒素合成酵素に依存した8-ニトロ-cGMPレベルの上昇が認められ,低分子GTPタンパク質の一つであるH-RasがS-グアニル化,活性化される.活性化されたH-Rasは,下流のMEK, ERKなどのMAPキナーゼの活性化を介し,細胞死を誘導する.このとき,細胞内の活性硫黄レベルの減少が確認され,8-ニトロ-cGMPと活性硫黄との反応産物である8-メルカプト-cGMPレベルも減少している.また,細胞を活性硫黄ドナーである四硫化ナトリウムで前処理すると,メチル水銀による活性硫黄の減少は回復し,MAPキナーゼの活性化,細胞毒性も軽減される.このように,活性硫黄が,8-ニトロ-cGMPを8-メルカプト-cGMPに変換することによって,NO/ROSレドックスシグナルを介した細胞障害を抑制している17)

細菌感染症における活性硫黄の役割に関する研究成果も報告されている18, 19).食中毒やチフス症,敗血症などの重症感染症の主要な病原菌であるサルモネラは,感染時に,哺乳類に存在しない特殊な経路で活性硫黄を産生することで宿主の防御機構の一つであるオートファジーを抑制し,生体防御異常を引き起こしている.活性硫黄の合成経路を欠損させたサルモネラは,感染時にオートファジーを抑制できず,速やかに殺菌,排除される19).これらの結果は,サルモネラの活性硫黄合成経路が,選択的な新規抗菌薬の標的になることを示唆している.また最近,新規の活性硫黄ドナーであるN-アセチルシステインパースルフィド(NACパースルフィド)が開発され,細菌感染症モデル実験に用いられている18).NACパースルフィドでマクロファージ様RAW264.7細胞を処理すると,硫黄転移反応により細胞内システインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドのレベルが上昇し,リポ多糖誘導性の炎症反応が抑制される.さらにNACパースルフィドによる炎症抑制効果は,マウスを用いた動物実験でも認められることから,NACパースルフィドが炎症性疾患に効果的であることが期待されている18)

ヒトの臨床サンプルを用いた結果も報告されている.進行性の閉塞性換気障害を特徴とする呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)では,窒素酸化ストレスが発症および進行にきわめて重要な因子であることが明らかになっている.健常人とCOPD患者由来の気道上皮細胞,肺線維芽細胞,気道被膜液中の活性硫黄をLC-MS/MSを用いて測定したところ,ヒト肺細胞中にもシステインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドが検出され,COPD患者では,システインパースルフィド,グルタチオンパースルフィドともに有意に減少していた.また,気道被膜液中には,グルタチオンパースルフィドだけでなくグルタチオントリスルフィドが検出され,COPD患者由来の気道被膜液中ではこれらのポリスルフィドは有意に減少していた20).活性硫黄は,非常に高い抗酸化能を示すので,肺細胞,気道被膜液中で活性硫黄量が減少しているのは,過度の酸化ストレスにより,活性硫黄が消費された可能性がある.

糖尿病が原因で網膜が障害を受け,視力が低下する糖尿病網膜症は,その進行に酸化ストレスが関与することが知られている.健常人と糖尿病患者(糖尿病網膜症患者を含む)の血漿,眼球前房水と硝子体液中の活性硫黄をLC-MS/MSを用いて測定したところ,ヒト眼球前房水と硝子体液中にもパースルフィドが検出され,糖尿病患者の前房水では,システインパースルフィド,酸化型グルタチオントリスルフィド,シスチンの上昇が,硝子体液中では,システインパースルフィド,システイン,シスチンが認められている.一方で,血漿中のパースルフィドには変化がなかった21).これらの結果は,活性硫黄が糖尿病網膜症の新たな治療ターゲットになる可能性を示唆している.

このように,酸化ストレスに関連した疾患の発症,進展と活性硫黄の関連性が明らかになりつつある.今後さらにがんやアルツハイマー病などのさまざまな疾患と活性硫黄との関連性,詳細な分子機構が解明され,活性硫黄を基軸とした新規予防法,治療法が確立されることが期待されている.

9. 食品中の硫黄/活性硫黄の評価

上述のように,活性硫黄分子は,抗酸化,レドックスシグナル,タンパク質の構造・機能,ミトコンドリアの融合・分裂,エネルギー代謝など多彩な生理機能に関与していること,一方で,生体内活性硫黄の恒常性の破綻は,さまざまな疾患の発症,進展につながることが明らかになってきている.生体内活性硫黄の恒常性は,さまざまなメカニズムで調節されていると考えられるが,硫黄の供給源は食品である.したがって,食品中の硫黄または活性硫黄の含量,存在形態を科学的に評価することが健康増進,疾病予防に重要である.食品中の硫黄化合物は,動物体内でシステインまたはシスチンに代謝され,CARS, CSE, CBSなどの基質となり,システインパースルフィドに変換され,さらにタンパク質翻訳時取り込み,硫黄転移反応によりタンパク質パースルフィド,グルタチオンパースルフィドなどのさまざまな活性硫黄へと変換される.また,食品中の活性硫黄は,硫黄転移反応により,動物体内のSH基に活性な硫黄を転移することによって,動物体内でシステインパースルフィド,グルタチオンパースルフィド,タンパク質パースルフィドに変換されると考えられる(図9).

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図9 食品由来の硫黄/活性硫黄代謝の概要

食品,特に植物由来の食品中には,未同定の化合物も含めさまざまな硫黄含有化合物が存在し,活性硫黄を含む化合物も多数存在すると予測される.しかしながら,食品中に含まれるすべての硫黄/活性硫黄含有化合物を同定,定量することは困難であり,現実的には不可能である.そのため,硫黄または活性硫黄の総量として食品を評価する方法が必要である.ここでは,筆者らが行っている活性硫黄のユニークな化学特性を利用した食品中の活性硫黄を評価する方法を紹介する.

1)食品中の全硫黄量

全硫黄量は,食品を湿式灰化法で酸化分解して硫黄を硫酸イオンに変換して評価する.食品を,濃硝酸中で加熱し,激しく泡立つ反応がおさまったら,冷却後,過塩素酸を加えさらに加熱する.循環式あるいは密閉式の前処理装置を用いると,硫黄の空気中への流失を抑えることができる.硫酸イオンは誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)や誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で定量できる.

2)食品中の全活性硫黄量

上述のように,パースルフィドに付加している活性な硫黄は,還元剤存在下やアルカリ条件下で不安定であり,水溶液中に硫化物イオンとして遊離される.一方,炭素と結合した硫黄やジスルフィド結合を形成している硫黄は遊離されない.したがって,アルカリ条件,還元剤存在下で食品をホモジナイズし,遊離する硫化物イオンを親電子性SH標識試薬と反応させ,安定なS-二量体に変換し,LC-MS/MSで解析すれば,食品中の“活性な”硫黄を定量することが可能である.

10. おわりに

2014年に活性硫黄であるパースルフィドの生体内動態が明らかになり,わずか数年の間に,活性硫黄のタンパク質への翻訳時組込み,哺乳動物における活性硫黄を利用した硫黄呼吸など,従来の生物学的概念を覆す大発見がなされている.これらの発見は,今後,タンパク質科学,ケミカルバイオロジー,レドックスバイオロジー,エネルギー代謝,分子生物学,細胞生物学,各種疾病の分子病態論,食品科学など,基礎生物学から医学・臨床科学など多彩な分野へ革新的な波及効果をもたらすであろう.

謝辞Acknowledgments

これらの研究は東北大学大学院医学系研究科の松永哲郎博士,井田智章博士,自然科学研究機構生理学研究所の西田基宏教授,熊本大学大学院生命科学研究部の澤智裕教授らをはじめ,多くの方々の御協力のもとに行われました.この場を借りて厚く御礼申し上げます.

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著者紹介Author Profile

居原 秀(いはら ひでし)

大阪府立大学大学院理学系研究科教授.博士(農学).

略歴

1988年大阪府立大学農学部卒業.93年同大学院修了.同年より大阪府立大学総合科学部助手.米国国立保健研究所客員研究員,大阪府立大学准教授を経て,2018年より現職.

研究テーマと抱負

活性硫黄分子の多様な生理機能の解明に興味を持ち研究を進めている.

ウェブサイト

http://www.b.s.osakafu-u.ac.jp

趣味

釣り,ツーリング.

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