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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(3): 409-412 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910409

みにれびゅうMini Review

細胞外小胞の不均一性とその形成における膜ドメインの役割Roles of membrane domains in generating heterogeneity of extracellular vesicles

1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科システム血栓制御学講座Department of Systems Biology in Thromboregulation, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences ◇ 〒890–8544 鹿児島県鹿児島市桜ヶ丘8–35–1 ◇ 8–35–1 Sakuragaoka, Kagoshima 890–8544, Japan

2大阪国際がんセンター研究所糖鎖オンコロジー部Department of Glyco-Oncology and Medical Biochemistry, Osaka International Cancer Institute ◇ 〒541–8567 大阪府大阪市中央区大手前3–1–69 ◇ 3–1–69 Otemae, Chuo-ku, Osaka 541–8567, Japan

発行日:2019年6月25日Published: June 25, 2019
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1. はじめに

細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)は,エクソソームやマイクロベシクルなどのサイズや起源が異なる小胞の総称である.EVは核酸やタンパク質を含み,それらを他の細胞に伝播することによってさまざまな生命現象や疾患の進行に関与する1, 2).近年,特定のEVタイプにおいても,積荷タンパク質が異なるサブタイプが存在することがわかってきた3–6).しかし,この微小なEVの不均一性がどのようにして形成され,機能に影響するのか,という点については不明である.本稿では,EVサブタイプの形成機構について,EVの形成の足場となる膜ドメインに着目することによって明らかとなった最新の知見を紹介する.

2. EVの種類と形成機構

マイクロベシクルは,細胞膜が出芽し,その膜がちぎれることによって形成される(図1).一方,エクソソームは,エンドソーム膜が内側に貫入することによって形成されると考えられている(図17, 8).この多小胞エンドソームが細胞膜にリサイクルされると,内包されていた小胞がエクソソームとして分泌される.近年,exomereと呼ばれる新たなナノ粒子が同定されているが9),その起源や形成機構は明らかにされていない.

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図1 マイクロベシクルとエクソソームの形成過程のモデル

マイクロベシクルは,出芽した細胞膜がちぎれることによって形成される.この形成過程には,ESCRT複合体が関与することが知られている.一方,エクソソームはエンドソームの限定膜が内側に貫入することによって形成される.この小胞を含んだエンドソーム(多小胞エンドソーム)が細胞膜にリサイクルされるとエクソソームが分泌される.エクソソームの形成には,ESCRT依存的およびESCRT非依存的な経路が同定されている.ESCRT非依存的な経路では,nSMaseやテトラスパニンが小胞の形成とタンパク質の選別に関与する.

EVは,体液サンプルや培養上清を段階的に遠心することによって得られる.古典的に,サイズと沈降速度の違いによってマイクロベシクル(10,000×gで沈降;直径100~1000 nm)とエクソソーム(100,000×gで沈降;直径50~150 nm)に便宜上,分類されてきた.しかし,エクソソームとマイクロベシクルを明確に区別するマーカーは定まっていないことから,最近では2000×g画分をlarge EV, 10,000×g画分をintermediate-sized EV,そして100,000×g画分をsmall EV(sEV)と呼ぶことがある5)

EVは,核酸(メッセンジャーRNAやマイクロRNAなど)やタンパク質を含有しており,それらの質や量がEVの機能を規定する.これまでに,タンパク質のEVへの選別および小胞の形成に関与する経路として,endosomal sorting complexes required for transport(ESCRT)依存的およびESCRT非依存的な経路が同定されている.ESCRT依存的な経路は,ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の細胞膜からの出芽10)や免疫シナプスからのマイクロベシクルの分泌11),そしてエクソソームの形成に関与する12).また,ESCRTはヘパラン硫酸プロテオグリカンであるsyndecanおよびそのアダプタータンパク質syntenin-1と共同的に働き,syntenin-1含有エクソソームの形成を担う13).興味深いことに,この経路はヘパラン硫酸を分解するヘパラナーゼによって活性化されることから14),糖鎖修飾の変化がエクソソームの形成を制御する可能性が考えられる.ESCRT非依存的な経路には,テトラスパニンや中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase)が関与する15, 16).nSMaseは,スフィンゴミエリンをセラミドに変換する酵素で,エンドソームの限定膜において小胞の形成を誘導する15, 16).これらの選別装置の違いによって,小胞にパッケージングされるタンパク質が異なることが示されている.すなわち,細胞は複数の選別装置を使い分けることによって,異なるタンパク質組成を持つEVを形成すると予想される.

3. EVのミクロ不均一性

EVの生化学的な分類研究から,sEV画分には積荷タンパク質が異なる複数のサブタイプが存在することが証明された5).Théryらの研究グループは,ヒト樹状細胞が分泌するsEV画分を用い,EVマーカーであるテトラスパニン(CD9, CD63またはCD81)を発現する小胞を免疫沈降後,それらのプロテオミクス解析を行った.その結果,それぞれのマーカーで免疫沈降された小胞には共通するタンパク質が検出されるものの,明確に異なるタンパク質も存在していた.この結果は,特定の小胞に特定のタンパク質が選択的にパッケージングされることを示している.しかし,このようなタンパク質組成が異なるsEVサブタイプがどのようにして形成されるのか,その機構は不明であった.

4. sEVサブタイプの形成機構の仮説

これまでに,脂質ラフトに代表される膜ドメインが,エンドソームにおけるエクソソームの形成の足場として機能することが提唱されている17).一方,その膜ドメインに特定のタンパク質をリクルートする役割はESCRTなどの選別装置が担うと考えられている.しかし,このモデルでは膜ドメインへのタンパク質の濃縮が選別装置の特異性にのみ依存することから,多様なタンパク質組成を持つsEVサブタイプの形成機構を完全に説明するものではないと予想した.そこで我々は,sEVにパッケージングされるタンパク質は特定の膜ドメインと会合しており,それらが独立してESCRT依存的または非依存的にsEVにパッケージングされることによって,異なるタンパク質組成を持つsEVサブタイプが形成されるという仮説を立て,その検証を行った6)

5. sEV膜の生化学的な性質

EVの形成は膜を起点として起こるため,EV膜の性質はその形成の場の膜環境を反映すると考えられる.そこで,マウスメラノーマB16-F10細胞由来のsEV画分を調製し,Triton X-100に対する感受性を調べた.可溶化したsEVを界面活性剤不溶性膜(EV detergent-insoluble membrane:EV-DIM)および界面活性剤可溶性膜(EV detergent-soluble membrane:EV-DSM)に分離後,それぞれに含まれる膜タンパク質の解析を行った.その結果,EV-DIMには膜ドメインのマーカーflotillin-1に加え,Adam10(a disintegrin and metalloproteinase domain-containing protein 10),肝細胞増殖因子受容体(Met)およびそのシェディング産物(degraded Met:dMet)が濃縮されていた(図2).一方,EV-DSMにはエクソソームマーカーCD81やAdam10の分解産物(degraded Adam10:dAdam10)が濃縮されていた(図2).この結果は,sEV膜が特徴的な膜タンパク質組成を持つ膜ドメインから構成されることを示唆している.また,Adam10とdAdam10はそれぞれEV-DIMとEV-DSMに濃縮されていたことから,Adam10の分解によって会合する膜ドメインのスイッチが起こる可能性が考えられる.

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図2 マウスB16-F10メラノーマ細胞由来のsEVに発現する膜タンパク質とEV-DIM/EV-DSMにおける分布

dMet:Metのシェディング産物,dAdam10:Adam10の分解産物6)

Adam10の場合とは異なり,Metとその分解産物(dMet)はどちらもEV-DIMに濃縮されていた.一方,細胞に発現しているMetを解析してみると,その大部分はDSMに検出されたのに対し,dMetはもっぱらDIMに検出された.これらのことから,MetのシェディングがDIMへの会合を促進すること,そしてその会合がsEVによる分泌に関与する可能性が考えられた.以上のことから,Met周囲の膜環境は,sEVによる分泌過程で大きく変化する可能性が示された.

6. sEVサブタイプの生化学的な分類

次に,sEVサブタイプの形成におけるEV-DIMおよびEV-DSMの役割を明らかにするために,ショ糖密度勾配超遠心によってsEVサブタイプを分離した.その結果,sEVは密度が異なる二つのサブタイプに分離された.密度が小さいサブタイプにはAdam10が濃縮されていた.一方,密度が大きいサブタイプにはdAdam10が濃縮されていた.このことから,Adam10とdAdam10は,それぞれ密度が異なるsEVサブタイプにパッケージングされることが示された.

密度が大きいsEVサブタイプにはMetおよびdMetの両方が検出された.しかし,Metの細胞外ドメインに対する抗体を用いてMetを含む小胞を免疫沈降したところ,dMetは共沈されなかった.このことから,MetとdMetは,それぞれ異なるsEVサブタイプによって分泌されることが示された.

以上の結果を統合すると,膜タンパク質とその分解産物は膜ドメインのスイッチ機構によって分離され,その結果,異なるsEVサブタイプにパッケージングされると考えられる.

7. sEVサブタイプの形成に関わる選別装置

最後に,sEVサブタイプの形成に関わる選別装置の同定を,ESCRT複合体とnSMaseに焦点を当てて行った.これらの選別装置の働きを個別に抑制したところ,分泌されるsEVの数が減少した.このことから,B16-F10細胞ではESCRT複合体とnSMaseの両方がsEVの形成に関与することがわかった.ところが,sEVによるAdam10, dAdam10, MetおよびdMetの分泌は,ESCRT複合体の機能を抑制したときだけ阻害された.この結果は,ESCRT複合体とnSMaseがタンパク質組成の異なるsEVを形成することを示している.

では,ESCRT複合体はどのようにしてAdam10, dAdam10, MetまたはdMetを含むsEVサブタイプを形成するのだろうか.我々の研究結果から,これらの膜タンパク質は会合する膜ドメインが異なるか,特定の膜ドメインへの親和性が異なることがわかっている.このことから,膜タンパク質はそれぞれ固有の膜ドメインに会合することによって特定のsEV形成の場に集積し,ESCRT依存的に小胞にパッケージングされるため,タンパク質組成の異なるsEVサブタイプが形成されると考えられる(図3).

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図3 sEVサブタイプの形成における膜ドメインの役割の仮説

膜タンパク質とその分解産物は,膜ドメインのスイッチ機構によって分離される(1).その後,それぞれの膜ドメインからsEVがESCRT依存的に形成され,積荷タンパク質の異なるsEVサブタイプが形成される(2).

8. おわりに

EVの形成過程において,膜ドメインはその足場として機能するが,特定のタンパク質の濃縮には関与しないと考えられてきた.今回,我々は,膜タンパク質組成の異なるsEVサブタイプの形成における膜ドメインの役割を明らかにすることを目的とし,sEVを構成する膜の生化学的な特徴を解析するとともにsEVサブタイプの同定を行った.その結果,膜タンパク質とその分解産物では会合する膜タイプが異なること,そしてそれらは異なるsEVサブタイプによって分泌されることを明らかにした.また,これらのsEVサブタイプの形成は,ESCRT複合体が担うことも明らかにした.実験に用いた細胞では,nSMaseもsEVの形成に関与していた.しかし,その積荷タンパク質はESCRT複合体が形成するsEVのものとは異なっていた.以上のことから我々は,膜ドメインが膜タンパク質の選別機構として機能し,小胞の形成に関わるESCRT複合体やnSMaseと共同的に働くことによってタンパク質組成の異なるsEVサブタイプが形成されるというモデルを提唱した.しかし,細胞内ではどのような性質を持った膜ドメインがsEVサブタイプの形成過程に関与するのか,そしてその膜ドメインへの分子の選別を駆動する機構は何か,といった疑問が残されている.また,EVが不均一な小胞の集団であることの生物学的意義は未解明である.この問題を解決するためには,個々のEVタイプおよびそのサブタイプを定量し,それらを簡便に単離できる技術の開発が望まれる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

原田 陽一郎(はらだ よういちろう)

大阪国際がんセンター研究所糖鎖オンコロジー部主任研究員.博士(農学).

略歴

1979年徳島県に生る.2001年静岡大学農学部卒業.03年同大学院農学研究科修了.07年名古屋大学大学院生命農学研究科修了.07~10年ストーニーブルック大学(米国)博士研究員.10~15年理化学研究所特別研究員.15~19年鹿児島大学医歯学総合研究科特任准教授.19年より現職.

研究テーマと抱負

細胞外小胞の形成はどのように制御されているのか.膜ドメインや糖鎖修飾の観点から新概念を生み出したい.

趣味

フットサル,海釣り(堤防からの大物狙い).

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