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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(4): 519-522 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910519

みにれびゅうMini Review

病態特異的なミトコンドリア–細胞骨格間相互作用を介した心筋の早期老化制御Regulation of cardiac early senescence via pathology-specific interaction between mitochondria and cytoskeleton

1九州大学大学院薬学研究院創薬育薬研究施設統括室Department of Translational Pharmaceutical Sciences, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University ◇ 〒812–8582 福岡県福岡市東区馬出3–1–1 ◇ 3–1–1 Maidashi, Higashi–ku, Fukuoka, Fukuoka 812–8582, Japan

2自然科学研究機構生理学研究所(生命創成探究センター)心循環シグナル研究部門Division of Cardiocirculatory Signaling, National Institute for Physiological Sciences and Exploratory Research Center on Life and Living Systems, National Institutes of Natural Sciences ◇ 〒444–8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5–1 ◇ 5–1 Higashiyama, Myodaiji-cho, Okazaki, Aichi 444–8787, Japan

発行日:2019年8月25日Published: August 25, 2019
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1. はじめに

ミトコンドリアとアクチン細胞骨格との異常な相互作用によるミトコンドリア動態異常が心筋梗塞後の心臓の脆弱化を規定する要因となる可能性が指摘されている.ミトコンドリア分裂促進Gタンパク質dynamin-related protein 1(Drp1)は,ミトコンドリア分裂面においてアクチンと相互作用することで局所的に活性化する.我々は,アクチン架橋タンパク質filamin-AがDrp1のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)として働き,心筋梗塞後のマウス心臓でミトコンドリア過剰分裂を介して心筋早期老化を誘導することを見いだした1).低酸素ストレスに曝露されたラット心筋細胞では,filamin-AがRod-2セグメントを介してDrp1のGTPaseドメインと相互作用し,ミトコンドリア分裂表面上でアクチン依存的に共局在した.アクチン凝集を促進するfilamin-A変異体(A1545T)を発現させた筋細胞株では,通常酸素濃度下においてミトコンドリアの過剰分裂が観察された.

さらに,既承認薬ライブラリーの中からDrp1-filamin相互作用を抑制する薬(シルニジピン)を同定し,シルニジピンが心筋梗塞後のミトコンドリア過剰分裂を伴う心筋早期老化や慢性心不全を軽減させることをマウスで実証した.以上の知見は,低酸素ストレス環境におけるDrp1-filamin-actin複合体形成が心筋梗塞後の心筋脆弱性に強く関与すること,ならびにこの複合体形成を阻害するシルニジピンがミトコンドリア品質異常を伴うさまざまな疾患に適応拡大できる可能性を強く示している.

2. ミトコンドリア過剰分裂と心筋早期老化

ミトコンドリアは分裂・融合を繰り返すことで自身の形態・構造を変化させるダイナミックなオルガネラである2).健常な成熟心筋細胞のミトコンドリアは静的であり,ほとんど分裂・融合しない.しかし,いったん病的な状態になると激しく分裂または融合を引き起こす.神経変性疾患と同様に,ミトコンドリアダイナミクスの機能異常は,心血管疾患の発症・進展の原因になると考えられている3).遺伝的操作による病態時のミトコンドリア分裂・融合抑制が心血管病の改善につながることが報告されているものの,生理的に重要なミトコンドリア分裂・融合を直接抑制することは最終的にミトコンドリアの品質低下につながるのではと懸念されている4)

心筋細胞の早期老化は,心機能低下やストレスに対する抵抗性減弱を招き,心不全の予後悪化の主たる原因となる5).ミトコンドリア品質低下が心筋細胞老化と関連することが以前から示唆されているものの,心筋早期老化の前段階においてミトコンドリアダイナミクスが異常を来す機序についてはよくわかっていなかった.ミトコンドリア分裂は細胞質にあるDrp1がミトコンドリア外膜切断面に移行し,Drp1受容体と考えられているfission protein-1(Fis1)やmitochondrial fission factor(Mff),mitochondrial dynamics proteins of 49 and 51 kDa(MiD49とMiD51)に結合することで誘発される6).ミトコンドリア外膜に移行したDrp1はミトコンドリアをくくるように多量体リングを形成し,dynamin-2が膜切断の引き金となる.Drp1のミトコンドリア膜移行には,リン酸化やSUMO化,ユビキチン化,S-ニトロソ化,糖化など,さまざまな翻訳後修飾が関与している.我々は,Cysポリ硫黄鎖の脱硫黄化がDrp1活性化の引き金となることを見いだしている7).こうしたDrp1の成熟化には,ミトコンドリアと小胞体やリソソーム,細胞骨格といった他オルガネラとの相互作用が必要だと考えられている.細胞骨格タンパク質であるミオシンIIやアクチン線維がミトコンドリア切断面へのDrp1凝集を促進することが報告されている8, 9).しかし,アクチンやミオシンIIだけでDrp1を活性化することはできず,実際どのような分子機構でDrp1を活性化し,ミトコンドリア分裂を促進させているかはわかっていなかった.

3. ミトコンドリア過剰分裂を阻害する既承認薬シルニジピンの同定

心筋梗塞後のマウス心臓において,どの領域で早期老化が起こっているかsenescence-associated β-galactosidase(SA-β-gal)法を用いて調べた結果,主に梗塞周辺領域の心筋細胞が多く染色されることがわかった.梗塞周辺領域の心筋組織を電子顕微鏡で詳しく観察した結果,心筋梗塞1週間後においてミトコンドリアが顕著に分裂していることが観察された.梗塞周辺領域では低酸素誘導タンパク質の発現量が増えていた.そこで,ラット新生仔初代培養心筋細胞に低酸素ストレスを曝露しこれを模倣させる系を構築し,ミトコンドリア過剰分裂を抑制する既承認薬のスクリーニングを実施した.その結果,ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル阻害薬であるシルニジピンだけがヒットしてきた.驚くべきことに,同じジヒドロピリジン構造を有する他のCa2+チャネル阻害薬類ではミトコンドリア分裂阻害効果が得られなかった.市販のDrp1阻害薬Mdivi-1を長時間心筋細胞に処置すると,ミトコンドリアの顕著な融合が観察されたが,シルニジピン長時間処置では同じ効果は観察されなかった.そのため,シルニジピンはDrp1に直接作用するのではなく,Drp1のGEFとの相互作用を阻害するのではないかと考え,病態特異的に働くDrp1-GEFの同定を試みた.flag-Drp1発現HeLa細胞株を低酸素ストレスに曝露し,プロテオーム解析によりflag-Drp1と共沈するタンパク質を調べた結果,アクチンとfilamin-Aが同定された.実際,低酸素により形成されるDrp1-filamin-A複合体はシルニジピン処置によって完全に抑制され,Mdivi-1では抑制されなかった.

4. Drp1-GEFとしてのfilamin

filaminは1分子中に一つのアクチン結合ドメインとβシートからなるスペーサーならびに二量体を形成するドメインを持ち,二量体を形成することで,交差した2本のアクチンフィラメントを結合させ,粘度の高いゲル状の網目構造を形成させる10).filaminにはRhoGEF活性に必要なDbl homology(DH)ドメインやpleckstrin homology(PH)ドメインに相同する配列はない.そこで,大腸菌から精製した組換えDrp1タンパク質と細胞溶解液から精製したMyc-filamin-Aを試験管内で反応させたところ,確かにDrp1のGEF活性が増加し,結果的にDrp1のGTP加水分解が促進されることが明らかとなった.ドメイン欠損変異体を用いた解析の結果,Drp1はGTPaseドメインを介して,filaminのimmunoglobulin(Ig)ドメイン16~23のRod-2セグメントと相互作用することがわかった(図1).しかしながら,filaminのアクチン結合ドメインを欠失させた変異体では,Drp1と結合はするものの,低酸素誘発性のDrp1活性化は起こさなかった.これらの結果は,filaminとアクチンとの相互作用がDrp1-GEF活性に必要であることを強く示唆している.

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図1 Drp1とfilamin-Aのドメイン構造と相互作用部位

Drp1はGTPase, MID (Middle), Var (Variable), GED(GTPase effector domain)の四つのドメインを持つ.一方,filamin-AはABD(actin binding domain)と24個のIg(immunoglobulin)ドメインから構成される.このうち,Igドメイン16~23からなるRod-2セグメントがDrp1のGTPaseドメインと相互作用する.

心筋梗塞後のマウス心臓では,梗塞周辺領域の心筋組織において,確かにDrp1とfilaminが共局在することが免疫染色により確認された.Drp1とfilaminの共局在に伴って,Drp1活性の増加とミトコンドリアの過剰分裂も観察された.

5. シルニジピンによる心不全抑制効果

さらに,Drp1-filamin相互作用の抑制が心不全の改善につながるかどうかマウスを用いて検証した.臨床現場では心不全と診断されてから治療薬が処方されることを考慮し,心筋梗塞後1週間たち,心機能が十分低下した状態からシルニジピンを投与した.対照群として,同じジヒドロピリジン系Ca2+チャネル阻害薬であるアムロジピンを用いた.臨床血中濃度を反映するシルニジピン(20 mg/kg/day)を含んだ浸透圧ポンプをマウス腹腔内に埋め込み,その後の経過観察を行ったところ,2~3週間かけて心拍出量が徐々に回復していくことがわかった.一方,同等のCa2+チャネル阻害作用を示す用量のアムロジピン(2.5 mg/kg/day)を投与したマウスでは心機能の回復は認められなかった.シルニジピン投与マウスでは,梗塞周辺領域におけるDrp1活性増加,ミトコンドリア過剰分裂および心筋早期老化が有意に減少し,左心室全体のリモデリング(心肥大関連遺伝子や線維化関連遺伝子の発現増加,心筋細胞面積の増加および間質の線維化)も抑制されていた.以上より,シルニジピンがDrp1-filamin相互作用を抑制することで心筋梗塞後の心筋早期老化誘導を抑制し,慢性期における心臓リモデリングや心機能低下を改善させることがマウスで実証された.

6. Drp1-filamin複合体の病態特異的形成の分子メカニズム

心筋梗塞後のマウス心臓ではfilamin発現量が増加し,これがDrp1との相互作用を増加させる要因と考えられた.しかし細胞株にDrp1とfilaminを過剰発現させた場合に観察されるDrp1-filamin相互作用は,低酸素ストレス下でのそれに比べると非常に弱く,両者の親和性を高める別の機序の関与が示唆された.我々は,Drp1タンパク質がレドックス感受性を持つことに着目し,そのレドックス活性の中心となるシステイン(Cys624)残基に着目した.Cys624のSH基はポリ硫黄鎖を形成することでDrp1活性を負に制御しており,この硫黄が活性酸素や親電子物質によって奪われることによりDrp1活性が増加することを新たに見いだした.Cysポリ硫黄鎖の生成酵素であるcysteinyl tRNA synthethase(CARS)2を欠損させたHEK293T細胞株においてDrp1の活性は3倍に増加しており,それに伴ってDrp1のポリ硫黄量も有意に減少していた7).求核性の高いポリ硫黄鎖と特によく反応する環境親電子物質(MeHg)を心筋細胞に曝露したところ,細胞障害を起こさない低濃度においてDrp1ポリ硫黄鎖の硫黄枯渇とそれに伴うDrp1活性化,ミトコンドリア過剰分裂が起こることを見いだした11).この際,やはりDrp1-filamin相互作用が増加しており,シルニジピン処置によってMeHg心毒性が軽減されることも確認している.以上の結果は,Drp1のCys624ポリ硫黄鎖がfilaminとの相互作用を負に制御する役割を担っており,Drp1ポリ硫黄鎖の硫黄枯渇がDrp1とfilaminとの親和性を高めることでミトコンドリア過剰分裂を誘導する引き金となる可能性を示している(図2).

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図2 Drp1-filamin-actin複合体によるミトコンドリア分裂機構

レドックス感受性の高いDrp1の624番目のCys(Cys624)は,ポリ硫黄鎖を形成することで自身の活性を負に制御している.この硫黄が親電子物質などにより奪われる(脱硫黄化する)ことによりfilamin(Drp1-GEF)との相互作用が増強して活性化される.ミトコンドリア分裂面でDrp1-filamin-actin複合体が形成されると,ミトコンドリア過剰分裂が起こる.シルニジピンはDrp1-filamin相互作用を阻害することでミトコンドリア過剰分裂を抑制する.

7. 今後の展望

ミトコンドリア過剰分裂に起因する疾患は心不全だけでなく,糖尿病合併症や筋萎縮性側索硬化症,神経変性疾患,炎症性腸疾患などさまざまな難治性疾患にも共通している.また最近,シルニジピンのCa2+チャネル阻害作用を100倍減弱し,かつミトコンドリア分裂阻害作用を3倍強くしたシルニジピン誘導体の合成にも成功している.今後は,難治性疾患モデルマウスを用いてシルニジピンやその誘導体の効果を検証し,その有効性を実証することで,新しいミトコンドリア創薬を実現させたい.

引用文献References

1) Nishimura, A., Shimauchi, T., Tanaka, T., Shimoda, K., Toyama, T., Kitajima, N., Ishikawa, T., Shindo, N., Numaga-Tomita, T., Yasuda, S., et al. (2018) Hypoxia-induced interaction of filamin with Drp1 causes mitochondrial hyperfission-associated myocardial senescence. Sci. Signal., 11, eaat5185.

2) Song, M. & Dorn, G.W. 2nd. (2015) Mitoconfusion: Noncanonical functioning of dynamism factors in static mitochondria of the heart. Cell Metab., 21, 195–205.

3) Dorn, G.W. 2nd. (2016) Mitochondrial fission/fusion and cardiomyopathy. Curr. Opin. Genet. Dev., 38, 38–44.

4) Ong, S.-B., Kalkhoran, S.B., Cabrera-Fuentes, H.A., & Hausenloy, D.J. (2015) Mitochondrial fusion and fission proteins as novel therapeutic targets for treating cardiovascular disease. Eur. J. Pharmacol., 763(Pt A), 104–114.

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6) Hoppins, S., Lackner, L., & Nunnari, J. (2007) The machines that divide and fuse mitochondria. Annu. Rev. Biochem., 76, 751–780.

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10) Nakamura, F., Stossel, T.P., & Hartwig, J.H. (2011) The filamins: Organizers of cell structure and function. Cell Adh. Migr., 5, 160–169.

11) Nishimura, A., Shimoda, K., Tanaka, T., Toyama, T., Nishiyama, K., Shinkai, Y., Numaga-Tomita, T., Yamazaki, D., Kanda, Y., Akaike, T., et al. (2019) Depolysulfidation of Drp1 induced by low-dose methylmercury exposure increases cardiac vulnerability to hemodynamic overload. Sci. Signal., 12, eaaw1920.

著者紹介Author Profile

西村 明幸(にしむら あきゆき)

九州大学大学院薬学研究院講師.博士(バイオサイエンス).

略歴

1979年兵庫県に生る.2007年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科博士課程修了.奈良先端科学技術大学院大学ポスドク,コーネル大学ポスドク,生理学研究所・特任助教を経て18年9月より現職.

研究テーマと抱負

ミトコンドリア品質を中心とした心血管組織の環境ストレス適応機構の解明.

ウェブサイト

http://www.nips.ac.jp/circulation/

趣味

ドライブ.

西田 基宏(にしだ もとひろ)

自然科学研究機構(生命創成探究センター)生理学研究所教授.九州大学大学院薬学研究院教授(クロスアポイントメント兼任).博士(薬学).

略歴

1973年兵庫県に生る.2001年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了.学振PD, 生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)助手,九州大学大学院薬学研究院講師,准教授を経て13年8月より現職.

研究テーマと抱負

心臓の頑健性破綻を制御するシグナル伝達機構の解明.

ウェブサイト

http://www.nips.ac.jp/circulation/

趣味

水泳,飲みニケーション.

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