骨リモデリングにおけるRANKLの役割Roles of RANKL in the bone remodeling process
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骨は内臓の保護や身体の支持,運動などを担う硬い組織であり,成長が終了した後では全体の形状が大きく変化しないため,一般に静的なイメージが強いかもしれない.実際は成体の骨組織もリモデリングによって量と質を維持されており,破損あるいは老朽化した骨組織を破骨細胞が吸収除去し,その後骨芽細胞が新生骨を形成して埋め戻すというサイクルが繰り返されている1).骨リモデリングが円滑に遂行される背景では,さまざまな分子機構が時空間的に精密な制御を受けて協調的に作動していると想定されており,近年急速に分子機構の解析が進められている.本稿では破骨細胞分化因子として同定されたreceptor activator of nuclear factor-kappa B(RANK)ligand(RANKL)が,骨リモデリングにどのように関与しているか,最新の知見を含めて概説したい.
骨リモデリングの起点となる成熟破骨細胞の形成に関しては,1990年代の後半に研究が大きく進展し,破骨前駆細胞に発現する受容体RANKとそのリガンド分子RANKL,およびRANKLに対する阻害因子であるOsteoprotegerin(OPG)の三つの分子が構成するシグナルシステムが中心的な役割を果たすことが明らかとなった2, 3).RANKLが破骨細胞の分化誘導因子として特定された経緯は,意外にもOPGの同定が先行した2).当時すでに,単離した破骨前駆細胞と骨芽細胞を共培養することで,骨吸収活性を示す成熟破骨細胞を誘導できることが明らかにされており3),共培養系に添加することで破骨細胞の分化を阻害する分泌タンパク質としてOPGが特定された.OPGはアミノ酸配列の解析から,tumor necrosis factor(TNF)受容体のファミリー分子であり,細胞膜貫通領域を持たない可溶性のデコイ受容体であると考えられた.そのため,OPGが結合する分子を探索することで逆に,破骨細胞の分化を誘導する分子が特定できると想定された.そこで,OPGが細胞表面に結合する細胞から発現クローニングが試みられ,RANKLがOPGに強い結合性を示す分子として同定された3).RANKLはTNFのファミリーに属する膜貫通型の分子であり,骨芽細胞系譜の細胞やリンパ球などに発現が認められた.Rankl遺伝子欠損マウスの作出と表現型解析も行われ4),骨髄腔の形成や歯牙の萌出が認めらない大理石骨病様の症状を呈し,成熟破骨細胞の形成も失われていた.すなわち,生体レベルでもRANKLが破骨細胞の分化成熟を中心的に制御する分子であると考えられた.一連の経緯もあり,骨芽細胞に発現するRANKLが破骨細胞の成熟を制御する中心的な役割を担っている,と長らく認識されてきた.ところが2010年代に入って,複数のグループから骨細胞に発現するRANKLに着目した解析が報告された5, 6).骨細胞は,一部の骨芽細胞が自身の分泌した骨基質中に侵入し,そこで最終分化することで形成される細胞であり,石灰化された骨基質全体に一定の密度で分散して存在しているが,骨芽細胞と比較しても高レベルのRANKLを発現している.骨細胞選択的な転写プロモータを用いてRankl遺伝子を除去したマウスでは,成熟破骨細胞の形成が大幅に抑制され,顕著な骨密度の上昇も認められた.若齢の変異マウスでは骨表現型への影響は比較的小さく,骨髄腔の形成や歯牙の萌出が維持されていることを踏まえると,骨細胞に発現するRANKLは骨組織の形態形成段階よりも,骨リモデリングの過程において成熟破骨細胞の形成制御を中心的に担っていると考えられた.
骨細胞は自身の存在する骨基質内の小腔から,骨細管と呼ばれる構造を通じて細長い細胞突起を伸張し,周囲の骨細胞とネットワークを形成している1).このような形態の細胞が,破骨前駆細胞表面にどのようにRANKLを送達しているのかはいまだ明確になっていない.RANKLの細胞外ドメインはmatrix metallopeptidase(MMP)14などによって酵素的に切断を受け,破骨細胞の分化誘導活性を有する可溶型分子種が生じることが知られており3),骨細胞から破骨前駆細胞表面へのRANKL送達に可溶型が関与する可能性も考えられた.しかしながら最近,RANKLの被切断部位に変異を導入することで,可溶型分子種の生成を抑制したRANKL変異マウスの表現型解析が報告され7),成熟破骨細胞の形成における可溶型RANKLの寄与は限定的であり,膜貫通型RANKLが中心的に関与することが示唆された.一方筆者らは,多孔性フィルターを間にはさんで骨細胞と破骨細胞の共培養を行った場合,成熟破骨細胞の形成が効率的に誘導されることを見いだしている8).またこの実験系においても,MMPに対する阻害タンパク質を添加して可溶型RANKL生成を抑制した場合に,成熟破骨細胞の形成効率に影響は生じなかった.フィルターを二重にする,あるいはフィルターのポア径をより小さいものに変更すると,成熟破骨細胞の形成は低下した.また共焦点顕微鏡を用いた観察では,骨細胞がフィルターのポアを通じて逆側の面まで細胞突起を伸張できることも確認された.これらを踏まえると,一つの可能性として,生体内でも骨細胞は骨細管を通じて伸張した細胞突起の先端で,直接的な細胞間接触によって膜貫通型RANKLを破骨前駆細胞の表面へと供給しているのかもしれない(図1).生体レベルの解析を通じて,細胞間接触が実際に破骨細胞の分化成熟に寄与しているのか,あるいは他の方法で膜貫通型のRANKLが破骨前駆細胞の表面へと送達されるのか,今後検証が必須と考えられる.
もし細胞間接触がRANKLの送達に主要な役割を果たしているのであれば,細胞表面に局在するRANKLの量がシグナル入力強度を調節する重要な因子となる.筆者らが骨芽細胞あるいは骨細胞など,骨芽細胞系譜の細胞におけるRANKLの細胞内局在を観察した結果,発現しているRANKLの大部分はリソソームに局在しており,細胞表面に局在する割合は細胞全体における発現量のごく一部であった8, 9).すなわち,骨芽細胞系譜にはRANKLの細胞表面への提示を強く制限する分子機構が存在すると想定された.OPGはN末端側にRANKLと相互作用するcysteine rich domainが位置し,その後death domain homologous regionが続き,最後にheparin binding domainがC末端側に位置する構造を有しており,膜貫通領域が含まれない9).そのため,細胞表面に提示されているRANKLを被覆することで,RANKと結合可能なRANKLを減少させるデコイ分子と考えられてきた2).しかし,RANKLとの相互作用ドメイン単独の組換えタンパク質を用いても,RANKLに対するデコイ受容体としての活性は認められるため,後半ドメインの機能は不明確であった.これらを踏まえて筆者らが,Opg遺伝子欠損マウス由来の骨芽細胞および骨細胞を用いてRANKLの細胞内局在を確認したところ,RANKLのリソソーム局在が失われており,主にゴルジ体に集積が観察されること,および細胞表面に局在するRANKLの量が大幅に増加していることも明らかとなった8, 9).OPG組換えタンパク質を培地に添加してもRANKL局在は影響されなかったが,Opg遺伝子を導入することでRANKLのリソソーム局在が回復し,細胞表面へのRANKL提示量も正常レベルに抑制された.すなわち,骨芽細胞系譜の細胞におけるRANKLの細胞内局在はOPGの共発現が必須であることが明らかとなった.OPGの各ドメインに関する欠失変異体を用いた解析から,新規に翻訳生合成されたRANKLは小胞体~ゴルジ体においてOPGと複合体を形成し,この複合体がリソソームへと選別輸送されることで,細胞表面のRANKL提示量が大きく制限されていることが明らかとなった9).複合体の選別輸送には後半のドメインが必須であり,細胞内のRANKL局在の制御活性を失ったOPG変異体では,成熟破骨細胞の形成に対する抑制活性も大部分失われていた.これらの結果を踏まえると,OPGはRANKLに対する単純なデコイ分子ではなく,共発現している細胞内でRANKLの細胞内トラフィックを制御する機能も有しており,むしろトラフィック制御が成熟破骨細胞の誘導を調節する際には重要であると考えられる.
骨芽細胞の細胞内オルガネラを密度勾配遠心で分画し,リソソーム画分を分析した場合RANKLの分解産物はほとんど検出されず,またクロロキンによってリソソーム機能を阻害しても細胞全体におけるRANKL発現量には変化が認められない10).そのため,RANKLはおそらく糖鎖修飾などによってリソソーム酵素による分解から保護されており,リソソームに貯蓄されているものと推測される.骨芽細胞や骨細胞に対して,RANKの細胞外ドメインを表面に固相化したポリスチレンビーズで細胞に刺激を加えた場合,ビーズとの接触部位周辺の細胞膜にリソソームが膜融合し,リソソーム膜上のRANKLが細胞膜上へと提示される現象が観察されている8, 10).TNFのファミリーに関しては,シグナル入力分子としてだけでなく,シグナル受容分子としても機能し,細胞内に逆シグナルを発生するケースが複数知られており11),骨芽細胞系譜の細胞膜に局在するRANKLに関しても,RANK固相化ビーズとの相互作用を通じて逆シグナルがトリガーされ,リソソームに蓄積するRANKLの放出が生じたと考えることができる.RANKL細胞外ドメインに結合する合成ペプチドであるWP9QYあるいはOP3-4で骨芽細胞を刺激した際にも,細胞表面に局在するRANKLの量が増大することが明らかとなっており12),やはりRANKL逆シグナル経路を活性化することでリソソームから細胞表面へのRANKLの移行が刺激されていると推測される.このようなリソソームから細胞表面へのRANKL移行がどのような生理的な役割を担っているのかは未解明であるが,骨細胞が細胞間接触を介して破骨細胞の分化を誘導しているのであれば,最初の接触形成の時点から追加のシグナルを入力することで,破骨細胞の分化をより強力に支持するのかもしれない.今後,刺激依存的なRANKL放出の生理的な役割や放出を制御する分子機構に関して検討が進められる必要がある.
骨リモデリング過程において,破骨前駆細胞に対するRANKLの主要な供給源が骨細胞であることを踏まえると,骨芽細胞に発現するRANKLに関しては,破骨前駆細胞に対するRANKL供給以外の異なる生理的役割を担っている可能性が想定された.前節でふれたRANKL結合性を示す合成ペプチドであるWP9QYおよびOP3-4は,高濃度で骨芽細胞に添加すると,骨芽細胞の分化と骨化を促進する作用を示す12, 13).RANKLが双方向性のシグナル分子として機能する点も踏まえて筆者らは,「骨芽細胞に発現するRANKLは骨芽細胞の分化を促進するシグナル受容体」である可能性を作業仮説として想定して検証を行った14).この仮説が正しいとすると,RANKLに対してリガンドとして作用する分子としては,RANKかOPGが候補となる.OPGは可溶性の分泌タンパク質であるものの,Opg遺伝子欠損マウスの骨芽細胞では,骨芽細胞の分化や骨化の抑制は認められない15).そのため,破骨細胞系譜に発現する膜貫通タンパク質であるRANKが,何らかの形で骨芽細胞に作用する可能性を検証した.破骨前駆細胞に分化刺激を加えて経時的に破骨細胞からの分泌物を分析したところ,多核化を開始した破骨細胞からRANKを含有した膜小胞が放出されることが明らかとなった.次いで,この多核化開始以降の破骨細胞に由来する膜小胞を用いて骨芽細胞を刺激したところ,骨芽細胞分化のマスター転写因子であるRunt-related transcription factor 2(Runx2)の核内移行が生じ,その下流転写産物の発現上昇が誘導されることが明らかとなった.RANKの発現を抑制した破骨前駆細胞から調製してRANKの含有量を下げた膜小胞や,過剰量の可溶型RANKLでRANKを被覆する前処理を行った膜小胞では,刺激作用が大幅に抑制された.また,Rankl遺伝子欠損マウス由来の骨芽細胞では,膜小胞の刺激による骨化促進作用は認められなかった.一連の結果は,膜小胞型のRANKが骨芽細胞表面のRANKLに結合し,RANKL逆シグナルを活性化することで骨芽細胞の分化を促進することを示唆している.そこで,RANKLの下流でRunx2の活性化を引き起こすシグナル伝達経路を探索した結果,RANKLとSrcファミリーキナーゼの相互作用を起点として,PI3K-Akt-mTORC1経路の活性化が生じ,Runx2の核内移行へとつながっていることが確認された.また,膜小胞型RANKの刺激による逆シグナル経路の活性化には,RANKLの細胞内ドメインに含まれるproline rich motif(PRM)が必須であり,このモチーフにPro29Ala変異を導入したRANKL変異体では,逆シグナルの活性化能が減弱していた.そこで,Rankl遺伝子にPro29Ala点変異を導入したマウスを作出し,RANKL逆シグナル経路の生理的役割の検証を試みた.変異マウス由来の骨芽細胞では,RANKLの発現および細胞表面への提示量などに影響は認められなかったが,膜小胞型RANKで刺激した際のRANKL逆シグナルの活性化は抑制されていた.そこで,このPro29Alaホモ変異マウスおよび野生型の同腹仔に対して,可溶型のRANKLを投与することで成熟破骨細胞の過剰形成を一過性に誘導し,その後の骨代謝回転の変化を解析した.一過性の成熟破骨細胞形成は両群で同程度に誘導されていたが,野生型マウスでは,この骨吸収の上昇に共役して骨形成も上昇するようすが観察された一方で,変異マウスにおいては骨形成の上昇はほとんど認められなかった.この結果は,生体内でのRANKL逆シグナルは,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が適切に共役できるように,カップリングシグナルを媒介する機構として機能していることを示唆している(図1).
現在までに得られている知見を総合すると,骨リモデリング過程においては,骨細胞が破骨前駆細胞に対して順方向のRANKLシグナルを入力し,成熟破骨細胞の形成を誘導して骨吸収フェーズが開始される.同時に,分化成熟を開始した破骨細胞からは膜小胞型のRANKが放出され,これが近傍に位置する骨芽細胞表面のRANKLに結合し,逆方向のRANKLシグナルが活性化されることで骨芽細胞の分化が刺激され,骨吸収フェーズが完了した後にスムーズに骨形成フェーズへと移行が行われるように準備が開始される,と考えることができる.今後は,骨細胞においてRANKLの放出を制御するRANKL逆シグナルの分子機構や,その生理的な役割の解明が期待される.
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