アドへレンスジャンクションを介したタイトジャンクション形成の制御機構How adherens junction formation enables tight junction formation?
九州大学理学研究院Department of Biology, Faculty of Sciences, Kyushu University ◇ 〒819–0395 福岡市西区元岡744 ◇ 774 Moto-oka, Nishi-ku, Fukuoka 819–0395, Japan
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我々の体表面を覆う上皮は,上皮細胞どうしが密に結合し合うことによって,上皮細胞のシートを形成している.上皮細胞は,機能と構造の異なる複数の細胞間接着を担う細胞膜構造[アピカル膜側から順に,タイトジャンクション(TJ),アドへレンスジャンクション(AJ),デスモソーム(DS)]を有している(図1A).これらの細胞膜構造は,膜タンパク質である細胞接着分子,それらの組織化に関わる裏打ちタンパク質に加えて,細胞膜脂質や細胞骨格など,多彩な要素から構成される超分子複合体である.それぞれの細胞接着構造を構成する主要なタンパク質は同定されたものの,細胞膜のどこに(局在),どの程度(量),どれくらいの強度や機能を持った(質)細胞接着構造を形成するか,という細胞接着構造の形成制御のメカニズムはほとんど明らかになっていない.筆者らは,形質膜上に異なる形態を示す細胞膜構造が秩序だって形成されるメカニズムに興味を持ち,研究を行っている.
(A)上皮細胞の細胞間接着装置の模式図.タイトジャンクションには,クローディンを裏打ちするZO(zonula occludens)タンパク質が存在する.(B)上皮細胞の細胞間接着装置の形成過程の模式図.細胞外Ca2+イオンをキレートすることにより細胞間接着を破壊した後(i),再びCa2+イオンを加えることで細胞間接着装置の再形成が誘導される.細胞接着の初期段階では,点状にAJが形成される.アクチン細胞骨格は形質膜に垂直に配向して重合する(ii).その後,点状AJの数が増加するとともに,ミオシンIIの収縮によりアクチン細胞骨格が環状に再編成される(circumferential ring, iii).帯状AJが形成されると同時にTJが形成され,これらの細胞間接着装置を細胞質側からcircumferential ringが裏打ちする(iv).(C)細胞間接着装置に集積することが報告されているRhoファミリー低分子量Gタンパク質の活性化制御因子群.
細胞間接着装置の中で,TJは,体内外の物質の透過を制限するバリアとして機能する.たとえば,小腸上皮細胞においては体外のアレルゲンや病原菌の体内への侵入を防ぐとともに,体内からの水やイオン,グルコースが細胞の間隙を通り流出することを防いでいる.TJの主要な構成タンパク質としてクローディンが月田らによって同定された1).クローディンを欠損させたマウスにおいては,上皮細胞のバリア破綻に起因した表現型が観察されており,TJ形成にクローディンが必須であることが示された1).しかし,クローディンを発現する細胞が必ずしもTJを有するわけではない.たとえば,骨髄中に存在する樹状細胞においてもクローディン1が発現していることが報告されている2).また,クローディンを細胞にベクター等を用いて過剰発現させたからといって,TJが拡大することもない.したがって細胞膜構造の形成は,主要な構成タンパク質の発現量によって制御されているわけではない.上皮細胞においては,TJはアピカル膜直下の非常に限られた細胞膜の領域に形成されるが,TJの形成は,どのように制御されているのであろうか.上皮細胞の細胞接着を一度破壊し,その再形成過程を詳しく観察すると,TJの形成に先立って,まずE-カドヘリンを介したAJが形成される.この際に,E-カドヘリンの阻害抗体を細胞に処理すると,AJのみならずTJの形成も阻害される3).また,AJの必須の構成要素であるα-カテニンの発現が消失したPC-9細胞では,AJのみならずTJも形成されない4).このような観察事実から,TJ形成にはAJの形成が必要であることが明らかになった.その理由として,AJを形成することによって細胞膜どうしを物理的に近接させることによって,隣接細胞間のクローディンどうしの結合が可能となりTJの形成を可能にしているのではないかと考えられてきた.しかし近年になって,AJの形成は,細胞骨格の再組織化,低分子量Gタンパク質の活性化などのさまざまな変化を細胞内にもたらすことで,TJ形成に寄与することが示唆された.さらに,筆者らは最近,AJの形成が形質膜の脂質組成を変化させ,TJの形成を促進することを明らかにした5).本稿では,二つの細胞膜構造の形成がどのようにリンクしているかという問題について,最近の知見を概説する.
上皮細胞間の細胞接着の再形成過程を観察すると,最初にまず,E-カドヘリンを介した点状AJが形成される6).点状AJは集合し,帯状AJを形成する.それと同時にAJのアピカル側にTJが形成される.このとき,アクチン細胞骨格の再組織化が起こる(図1B).点状AJでは,アクチン細胞骨格は細胞膜に対して垂直に配向しているのに対して,帯状AJでは,細胞膜に並行なアクチン束が細胞の内周を取り囲むように形成されて,AJとTJを細胞質側から裏打ちするようになる6).このようなAJ形成に伴うアクチン細胞骨格の再編成は,Forminファミリータンパク質やMena/VASPといったアクチン細胞骨格の重合を促進するタンパク質が点状AJへ集積されることにより開始される.加えてAJを基点として伸びるアクチン線維に対して,ミオシンIIが相互作用することによって,細胞内周を取り囲む環状のアクチン束(circumferential ring)に変化する.このcircumferential ringは,帯状AJおよびTJを内側から裏打ちするアクチン細胞骨格の環状構造であり,TJの裏打ちタンパク質と相互作用することによって,TJの形成と安定化に必要であることがアクチン重合阻害剤を用いた研究から示されている.circumferential ringは,TJの裏打ちタンパク質を連続的に細胞内周にわたって配置することを可能にする.また,ミオシンIIによるcircumferential ringの収縮によって生じる細胞間接着部位にかかる張力がTJ形成に必要である7, 8).このように,AJ形成によって誘導されるアクチン細胞骨格の再編成が,TJ形成において重要な役割を果たす.
点状AJ形成によって誘導されるアクチン細胞骨格の重合と再編成は,低分子量Gタンパク質RhoAの活性化を必要とする.RhoAの活性化はForminファミリータンパク質などのアクチン重合促進因子を活性化するとともに,ミオシン軽鎖のリン酸化を介してcircumferential ringの形成に寄与する9).このようなRhoAの活性化は,AJならびにTJの形成過程において,時空間的に制御されている.点状AJの形成時にはRhoAの活性化が一時的に起こるが,やがて帯状AJが形成されるとRhoAの活性化は抑制される10).常時活性化型RhoAを発現した細胞では,ラテラル膜に異常に拡大したTJが形成される11).これらの先行研究からも,RhoAの活性化の厳密な制御がTJの形成に必要であることが明らかである.このようなRhoAの活性化の制御に関わる分子として,細胞間接着部位に集積するGEF(guanine nucleotide exchange factor)やGAP(GTPase activating protein)が近年,多数同定された.RhoAに対するGEFであるTEM4(tumor endothelial marker 4),Ect2(epithelial cell transforming gene 2),GEF-H1, p114 Rho-GEFはAJの構成要素と相互作用することが報告されている11).一方,AJに局在するRhoAに対するGAPとしてp190 RhoGAPが同定されている11).RhoA以外にも,アクチン細胞骨格の重合やアクチン細胞骨格の配向性の制御に関わる低分子量Gタンパク質としてCdc42とRacがあげられる.Cdc42のGEFであるFRG(FGD1-related Cdc42-guanine nucleotide exchange factor)やTubaもAJを構成するタンパク質と相互作用する11).またRac1のGEFであるTiam1も点状AJに局在する.これらの分子群については,図1Cにまとめた.これらの点状AJに局在するRhoA, Rac, Cdc42の活性化を制御する分子群は,点状AJを基点とするアクチン細胞骨格の再編成の制御に関与すると考えられるが,これらGEFやGAPの活性がどのように制御されているかはほとんど明らかになっていない.Cdc42はアクチン細胞骨格の再編成に加えて,細胞内小胞輸送の制御にも関与する12).このため点状AJにおけるCdc42の活性化は,クローディンの形質膜への輸送などを介してTJ形成を促進する可能性がある.TJの形成に必要なクローディンの形質膜への輸送機構は不明な点が多く残されており,今後の研究課題である.
筆者らのグループは最近,AJの形成が形質膜の脂質組成を変化させ,TJ形成を促進するという新たな分子機構を発見した5).筆者らは,AJ形成の喪失が上皮細胞にもたらす影響を詳細に調べるために,マウス乳腺由来培養上皮細胞のEpH4細胞において,AJ形成に必須である裏打ちタンパク質α-カテニンの発現を消失させた細胞株(α-カテニンKO EpH4細胞)を樹立した.この細胞では,AJおよびTJのいずれの細胞接着構造も消失しており,興味深いことにクローディンはリソソームに蓄積していた.このことから,AJを消失した細胞ではクローディンが恒常的に分解されていることが示唆された.AJを消失した細胞では,クローディンの細胞内の取り込みが亢進しているのではないかと考えて,さまざまな可能性について検討したところ,野生型のEpH4細胞とα-カテニンKO EpH4細胞の脂質組成を比較した際に,α-カテニンKO EpH4細胞では,極長鎖脂肪酸を脂肪酸鎖として持つスフィンゴミエリンが特異的に減少していることを見いだした.また,極長鎖脂肪酸スフィンゴミエリンと相互作用することが知られているコレステロールの分布を調べたところ,野生型のEpH4細胞では細胞接着領域にコレステロールが集積しているのに対して,α-カテニンKO EpH4細胞では形質膜のコレステロールが減少していることが明らかになった(図2A).α-カテニンの発現を消失させる以外の方法でAJの形成を障害した場合も,同様にコレステロールの細胞内分布に変化が生じるかについて検討した.培地中に含まれる細胞外Ca2+イオンを除去した場合やE-カドヘリンに対する阻害抗体を添加することによって,AJの形成を阻害した場合においても同様に,形質膜のコレステロールが減少するようすが観察された(図2B).このことから,AJの形成は,上皮細胞の形質膜のコレステロールの量を増加させることが明らかになった.
(A)野生型の上皮細胞では,クローディンは細胞間接着部位に集積し,コレステロールは形質膜に集積している.これに対し,α-カテニンの発現を消失させた上皮細胞(α-カテニンKO細胞)では,クローディンは細胞質の小胞に局在し,形質膜のコレステロール量は減少していた.スケールバー:20 µm. (B)野生型の上皮細胞を,カルシウムイオン濃度を低減させた培地で培養したり,あるいはE-カドヘリンに対する機能阻害抗体(ECCD1)存在下で培養することでAJを破壊すると,クローディンは細胞質に取り込まれ,また形質膜のコレステロール量も減少する.(C) α-カテニンKO細胞にGFPタグを付加したクローディンを発現し,タイムラプスイメージングを行った.時刻0で,75 mMのメチル-β-シクロデキストリンにコレステロールを包摂させた化合物を培地中に添加し,形質膜のコレステロール量を強制的に増加させると,GFP—クローディンが次第に細胞間接着部位に集積し,20分程度でTJが形成されるようすが観察された.スケールバー: 20 µm. (D) α-カテニンKO細胞の形質膜のコレステロール量を強制的に増加させると,TJが形成されることを凍結割断レプリカ法により確認した.スケールバー: 200 nm.
次に,このようなAJ形成に伴う形質膜コレステロールの増加がTJの形成に必要か否かを検討した.α-カテニンKO EpH4細胞に対して,メチル-β-シクロデキストリンにコレステロールを包摂させた化合物を作用させることで,強制的に形質膜のコレステロール量を増加させると,5分程度の間にクローディンが細胞接着領域に集積し,TJが形成されるようすが観察された(図2C, D).α-カテニンKO EpH4細胞は,AJの必須の構成タンパク質を欠いており,形質膜のコレステロール量を増加させてもAJは形成されない.しかしながら,AJが形成されていない状態においても,形質膜のコレステロール量を増加させると,α-カテニンKO EpH4細胞においてもTJが形成された.このことから,AJの形成は形質膜の脂質組成を変化させることによって,TJの形成を促進することがわかった.また逆に,細胞にメチル-β-シクロデキストリンを処理することでコレステロールを形質膜から除去すると,細胞間接着装置のうちTJのみが選択的に消失した.このことから,TJはコレステロールの減少に対して脆弱な細胞膜構造であることが明らかになった.この結果は,TJを構成する膜タンパク質を生化学的に分画すると,コレステロールに富む膜画分(detergent resistant membrane)に豊富に含まれるという先行研究とも合致する13).
それでは,AJの形成はどのようにして,形質膜のコレステロール量の制御に関与しているのだろうか? 現在のところ,その詳細な機構は不明であるが,いくつか関連する知見が報告されている.たとえば,インテグリンを介した細胞と細胞外マトリックスとの細胞–基質間接着の形成は,形質膜へのコレステロールの小胞輸送を促進することが知られている14).細胞–基質間接着の形成に伴う形質膜へのコレステロールの小胞輸送には,低分子量Gタンパク質Arf6の活性化と微小管が必要であることが近年報告された15).一方で,AJの形成においても,微小管の再配向が起こることが報告されている.また,筆者らは以前に点状AJにはArf6に対するGEFであるCytohesinが集積し,AJの形成によってArf6が活性化されることを報告した16).このため,細胞–基質間接着の場合と同様に,AJの形成に伴って形質膜へコレステロールを含む小胞を輸送する分子機構が存在する可能性がある.
コレステロールの細胞内輸送には小胞輸送を介する経路以外にも,LTP(lipid transfer protein)を介した小胞によらない輸送経路が知られている17).小胞体で合成されたコレステロールは,ERと他の細胞小器官や形質膜との接触部位(membrane contact site)に局在するLTPによって輸送される.たとえば,小胞体からトランスゴルジ網へのコレステロールの輸送に関しては,oxysterol-binding protein(OSBP)が小胞体とトランスゴルジ網の接触部位に局在しており,トランスゴルジ網から小胞体へホスファチジルイノシトール4-リン酸の輸送と共役して,小胞体からトランスゴルジ網へのコレステロールの輸送を行う17).同様に,AJ形成に伴って,LTPが細胞接着領域に集積し,小胞体から形質膜へのコレステロールの輸送を促進する可能性がある.実際に,OSBPと同様のLTPのファミリーの一つ,deleted in liver cancer3(DLC3)は上皮細胞においてAJに局在することが報告されている18).このような細胞間接着部位に局在するLTPの機能はほとんど明らかになっておらず,今後の解析が必要である.
上述のコレステロールの輸送メカニズムに加えて,AJを裏打ちするcircumferential ringがコレステロールの集積を制御する可能性がある.circumferential ringと同様に,細胞膜を全周にわたって裏打ちするアクチン細胞骨格のリング状構造として,細胞質分裂の際に形成される収縮環(contractile ring)があげられる.circumferential ringと収縮環を構成する分子群には,アクチン細胞骨格,ミオシンIIに加えて,Formin, RhoAやRhoAの活性化に関わるEct2など多くの共通性がある.そして,興味深いことに,収縮環が付着している分裂溝の形質膜にはコレステロールが集積することが報告されている19).したがって,形質膜におけるコレステロールの局所的な集積に,細胞膜とアクチン細胞骨格との結合や,環状アクチン構造の収縮による膜への張力が寄与している可能性もある.
本稿では,AJの形成がどのようにして異なる細胞膜構造であるTJの形成を可能にするのか,という点について,最近の知見を概説した.細胞膜構造の形成メカニズムを理解するためには,細胞膜脂質を形質膜の局所に集積させる仕組みなど,きわめて基本的な現象の分子機構の解明を今後行う必要がある.誌面の関係で扱うことはできなかったが,AJの形成は,Hippo経路やWnt-β-カテニンシグナル伝達経路の活性化に変化をもたらし,遺伝子発現を含めて細胞内にさまざまな変化をもたらすことが報告されている20).AJの形成によって惹起される細胞内のさまざまな要素(細胞骨格,裏打ちタンパク質,膜タンパク質,脂質)の変化がどのように組み合わさり,新たな超分子複合体の形成が可能になっているかという問題については,今後,従来の形態学的手法や細胞生物学的手法に加えて,合成生物学的手法などのさまざまな新しい技術を取り込んで研究を進める必要があると考える.TJの形成メカニズムを解明することによって,TJのバリア機能破綻によって引き起こされる慢性炎症などのさまざまな疾患の画期的な治療法の開発につなげたい.
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