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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(4): 561-564 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910561

みにれびゅうMini Review

疾患特異的マクロファージの機能的多様性Functional diversity for disorder-specific macrophage subtype

1大阪大学免疫学フロンティア研究センター自然免疫学Laboratory of Host Defense, Immunology Frontier Research Center, Osaka University ◇ 〒565–0871大阪府吹田市山田丘3–1 ◇ 3–1 Yamada-oka, Suita, Osaka, 565–0871

2大阪大学微生物病研究所自然免疫学Laboratory of Host Defense, Research institute for Microbial diseases, Osaka University ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘3–1 ◇ 3–1 Yamada-oka, Suita, Osaka 565–0871, Japan

発行日:2019年8月25日Published: August 25, 2019
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1. はじめに

100年以上前に発見されたマクロファージは,T細胞や樹状細胞とは異なり,最近まで体内にはそのサブタイプはほとんどないと考えられてきた.しかし近年のさまざまな研究から,マクロファージは疾患の発症に関わるさまざまなサブタイプが存在する可能性が考えられてきている.これまで我々は,体内に存在する疾患ごとのマクロファージについて研究を行ってきた.今回,我々は標的として線維化をとりあげ,線維化の発症時期に患部に集積するマクロファージに着目し,免疫学の解析手法に加え,バイオインフォマティックスの技術,およびMRIや3次元電子顕微鏡トモグラフィー等のイメージング技術を用いて解析したところ,線維症の発症に関わるマクロファージの新しいサブタイプを同定した.その分化メカニズムや発見したマクロファージと線維症との関係性の研究を行ったので,今回報告する.

2. 背景

今から1世紀以上前にロシアの研究者のメチニコフによって,マクロファージは異物を食べる免疫細胞として発見された1).その発見以来マクロファージはサブタイプがなく,体の中で死細胞や病原体など異物処理を行うだけの細胞と考えられてきた.しかし,近年の免疫研究からこの細胞は1種類ではあるが,M1マクロファージ(急性炎症に関与)とM2マクロファージ(慢性炎症に関与)という二つの状態に分けられ,それらの状態を行き来することが考えられている2)

しかし我々は,①他の免疫細胞にはサブタイプがあるのであれば,マクロファージにもサブタイプがあるであろうこと,②M1マクロファージ,M2マクロファージという二つの状態の変化ではすべての免疫応答と疾患との関係は説明がつかないことを考え,マクロファージにも複数のサブタイプがあると仮定して研究を行った.その結果,Jmjd3*1とその分子によってエピジェネティックな制御を受けるIrf4の作用によって,アレルギーに関わるマクロファージサブタイプが分化すること3),また,Trib1*2がCOP1と複合体を形成し,その複合体がC/EBPαの量を正しく調整することにより脂肪組織の中のマクロファージが分化し,これらが脂肪組織の中に常在して,その組織の恒常性維持を担っていることを突き止め,そのマクロファージが著しく減ったマウスに高脂肪食を与えるとメタボリックシンドロームが増悪することを証明した4).これらの研究から,上記の二つのアレルギー型マクロファージおよびメタボリックシンドローム型マクロファージの二つのマクロファージは異なる遺伝子によって制御を受ける異なる細胞であることを示した.本来マクロファージはその発見以来,1種類しかないと考えられてきたが,我々は病気ごとの疾患特異的マクロファージが複数種存在している可能性を考えている.

3. 線維症に関わる新規マクロファージ

第三の疾患特異的マクロファージを探索するために,線維症に着目した.線維症とは,肺,心臓,腎臓,肝臓,皮膚など体の重要な臓器が硬くなって機能しなくなる疾患であり,免疫細胞が線維化の発症に関与していると考えられていたが,線維化の発症に関わるマクロファージの詳細な研究は実際に行われていなかった.そこで我々はブレオマイシン誘導性肺線維化モデルを用いて,線維化の発症とともに患部で増えるマクロファージについて解析を行ったところ,炎症期が終わった後の線維化期では,Ly6C+炎症性単球は減少し,Ly6CMac1+の画分が線維化の発症とともに著しく増加することを突き止めた.これまでLy6C画分は1種類の細胞からなると思われていた5)が,さまざまな抗体を用いて解析した結果,さらにこの画分はMsr1とCeacam1とを用いることにより,3種に分かれることが明らかとなり,それがバイオインフォマティックスを用いた解析により証明された(図1).そこで,ブレオマイシンを投与した野生型のマウスに,Ly6C画分中のこれらの3種の細胞を別々に移植したところ,Ly6CMac1+F4/80Msr1+Ceacam1+単球を移植したときのみ線維症が増悪したことから,この細胞が線維化の発症に関与していることが考えられた.

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図1 Ly6CMac1+F4/80の画分はMsr1とCeacam1によってさらに複数のサブタイプに分かれる

(a)Msr1とCeacam1(CC1)を用いたLy6CMac1+F4/80のFACS展開図.(b)各サブポピュレーションのscatter plot図.(c)各サブポピュレーションの主成分解析.

次に,この細胞の制御因子を同定するために遺伝子発現パターンの網羅的解析を行ったところ,Nfil6が高発現していることがわかった.骨髄移植を行って,免疫系細胞でNfil6を欠損させたキメラマウスでは,Ly6C画分中のMsr1+Ceacam1+単球が欠損しており,さらに線維症に対して非常に強い耐性を示した.また,MRIを用いたin vivoイメージング解析から,Nfil6欠損キメラマウスでは炎症が野生型と同程度に起こるが,線維化のみが抑えられていることが明らかとなった.線維化を起こすブレオマイシンを与えたNfil6欠損キメラマウスに,野生型から回収したこの細胞を移植すると線維症が再発したことから,この細胞が線維症の発症に必須であることが明らかとなった.

次に,この線維化に関わる細胞の形態の解析を行った.通常のマクロファージ・単球は円形の一つの核であるが,ディフ・クイック(Diff-Quick™)染色・電子顕微鏡解析の結果から,この線維症に関わる細胞は非常に興味深いことに二核様の形態をとっていた(図2).さらに,好中球や好酸球などの顆粒球が持っている顆粒のような形態が細胞質内にみられた.さらに,バイオインフォマティックスを用いてこの細胞における顆粒球の発現マーカーを比較したところ,マクロファージのマーカーの高発現が確認されたことに加え,好中球や好酸球が発現している顆粒球のマーカーも一部発現していることが明らかとなった.また,プロテオミクス解析や免疫染色の結果からも,この細胞はミエロペルオキシダーゼや好中球エラスターゼを所持していることが確認された.以上のことより,(i)Ly6CMac1+Msr1+Ceacam1+F4/80で定義され,その分化にはNfil6が必須であること(分離マーカー・分化必須因子の同定),(ii)単球でありながら,二核様の核型および顆粒球が所持している顆粒を細胞質に所持していること(形態の特定),(iii)線維化の発症に重要であること(関連疾患の特定)の三条件が明らかとなった.これらの結果から,この細胞はこれまでにない新しいマクロファージ・単球だと判断し,segregated nucleus atypical monocyte(SatM)と名づけた.

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図2 線維化に関わるSatMの形態

(上段)SatMのディフ・クイック(Diff-Quick™)染色図および電子顕微鏡を用いた解析.(下段)炎症性単球のディフ・クイック解析,および電子顕微鏡を用いた解析.

4. SatMの分化機構の解明

次にNfil6の作用点について検討した.末梢ではSatMは完全に消失しているので,その作用点はその前駆体にあると推測した.すべてのマクロファージ・単球,樹状細胞はmacrophage dendritic cell progenitor(MDP)から発生することが報告されている6).しかし,MDPを移植しても末梢に分化したSatMは出現しなかった.そこで,MDPのさらに一段階前の前駆体であるgranulocyte macrophage progenitor(GMP)をマウスに移植しfate mappingを行ったところ,末梢に成熟したSatMが出現した.この結果から,SatMはマクロファージ・単球でありながら,GMPの下流にあるMDP以外の前駆体から分化することが明らかとなった.GMPの下流に存在するSatM前駆体を同定するために,再度,骨髄中のSatMが発現しているマーカーを検討した結果,これまでのマーカーに加えて,新しくC5a受容体(C5aR)やIgE受容体(FcεRI)が発現していることがわかった.そこでこれらのマーカーにSatMを分離するための既存のマーカーであるM-CSFR, Ly6Cを使用して,lineageckitの画分を分けたところ,さらに複数に分けることができた.それぞれの画分に含まれる細胞の形態をディフ・クイック染色にて調べたところ,lineageckitのC5aR+M-CSFR+Ly6CFcεRI+の画分に存在している細胞集団の形態が,末梢のSatMと似ていることがわかった.さらに,電子顕微鏡や電子顕微鏡トモグラフィーを用いた解析からも,二核様の形を所持していることがわかった.そこでlineageckitC5aR+M-CSFR+Ly6CFcεRI+前駆体を移植し,再度fate mappingの実験を行ったところ,末梢に分化したSatMを確認することができた.以上のことから,この細胞がSatMの前駆体であることがわかり,SatM progenitor(SMP)と定義した.

Nfil6の作用点を見つけるために,マイクロアレイを用いて網羅的に遺伝子発現パターンの検討を行ったところ,遺伝子発現パターンはGMPおよびMDPでは野生型とNfil6−/−との間でほとんど変化はなかった.しかし,Nfil6−/−SMPの遺伝子発現パターンは,野生型と著しく異なっていることが明らかとなった.さらにバイオインフォマティックス解析を行ったところ,Nfil6−/−SMPでは細胞死に関わるパスウェイがおかしくなっていることが明らかとなった.そこで,培養したSMPをFACSにて確認したところ,Nfil6−/−SMPでは死細胞が野生型よりも増えていることが確認され,さらに,分化能を調べるためにコロニーアッセイを行ったところ,野生型SMPと異なりNfil6−/−SMPでは増殖したコロニーの形成が起こらなかった.これらの結果から,SMPはNfil6が作用することによりSatMが分化し,分化した細胞が線維化発症に必須であることがわかった7)

5. 今後の展望

我々はこれまでに,エピジェネティックな制御を行うJmjd3の作用により,アレルギー反応と深く関与しているマクロファージサブタイプが分化することを報告した.しかしながら,このタイプのマクロファージは脂肪組織等のメンテナンスには関与していないこともわかった.一方で,Trib1に制御されるマクロファージサブタイプは,アレルギー応答には関与していないことを明らかにした.非常に興味深いことに,これらの2種類の遺伝子欠損マウスは,線維症が野生型と同程度発症することが本研究の中で明らかとなった.以上の研究結果から,100年以上1種類しかないと考えられてきたマクロファージであるが,実際には我々の体内には疾患ごとに対応したさまざまなタイプのマクロファージ“疾患特異的マクロファージ”が存在していることが考えられる(図3).その疾患特異性の高さから,これらの疾患特異的な細胞を標的とした創薬は,副作用の少ない創薬応用につながることも期待される.

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図3 疾患特異的マクロファージという概念

引用文献References

1) Metchnikoff, E. (1892) Leçon sur la pathologie comparée de l’inflammation, Libraire de L’Académie de Médicine, G. Masson, Paris.

2) Gordon, S. (2003) Alternative activation of macrophages. Nat. Rev. Immunol., 3, 23–35.

3) Satoh, T., Takeuchi, O., Vandenbon, A., Yasuda, K., Tanaka, Y., Kumagai, Y., Miyake, T., Matsushita, K., Okazaki, T., Saitoh, T., et al. (2010) The Jmjd3-Irf4 axis regulates M2 macrophage polarization and host responses against helminth infection. Nat. Immunol., 11, 879.

4) Satoh, T., Kidoya, H., Naito, H., Yamamoto, M., Takemura, N., Nakagawa, K., Yoshioka, Y., Morii, E., Takakura, N., Takeuchi, O., et al. (2013) Critical role of Trib1 in differentiation of tissue-resident M2-like macrophages. Nature, 495, 524–528.

5) Carlin, L.M., Stamatiades, E.G., Auffray, C., Hanna, R.N., Glover, L., Vizcay-Barrena, G., Hedrick, C.C., Cook, H.T., Diebold, S., & Geissmann, F. (2013) Nr4a1-dependent Ly6C(low) monocytes monitor endothelial cells and orchestrate their disposal. Cell, 153, 362–375.

6) Auffray, C., Fogg, D.K., Narni-Mancinelli, E., Senechal, B., Trouillet, C., Saederup, N., Leemput, J., Bigot, K., Campisi, L., Abitbol, M., et al. (2009) CX3CR1+ CD115+ CD135+ common macrophage/DC precursors and the role of CX3CR1 in their response to inflammation. J. Exp. Med., 206, 595–606.

7) Satoh, T., Nakagawa, K., Sugihara, F., Kuwahara, R., Ashihara, M., Yamane, F., Minowa, Y., Fukushima, K., Ebina, I., Yoshioka, Y., et al. (2017) Identification of an atypical monocyte and committed progenitor involved in fibrosis. Nature, 541, 96–101.

著者紹介Author Profile

佐藤 荘(さとう たかし)

大阪大学免疫学フロンティア研究センター自然免疫学准教授.大阪大学微生物病研究所自然免疫学准教授.博士(医学).

略歴

2010年3月大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了,博士(医学)取得.同年4月大阪大学微生物病研究所自然免疫学研究分野特任研究員.11年6月大阪大学免疫学フロンティア研究センター自然免疫学研究分野特任研究員.12年4月同特任助教.13年5月大阪大学微生物病研究所自然免疫学研究分野助教.(兼免疫学フロンティア研究センター助教).18年4月大阪大学免疫学フロンティア研究センター准教授.(兼微生物病研究所准教授).

研究テーマと抱負

現在,マクロファージの多様性について研究しています.これらの個々のサブタイプと疾患特異性との関係が明らかになれば,そこを標的とした新しい形の創薬につながると思い,日々研究に励んでいます.

ウェブサイト

http://hostdefense.ifrec.osaka-u.ac.jp/ja/members/satoh.html

趣味

ジョギング,眼鏡収集.

1 エピジェネティックな遺伝子制御に関わる分子.H3K27me3の脱メチル化を行い,遺伝子の発現をonにする役割を果たす.

2 ユビキチンリガーゼであるCOP1と結合し,タンパク質の分解に関わるアダプタータンパク質である.GWASの研究結果から,この分子への変異がある場合,脂質代謝の異常がみられることが明らかとなっている.

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