生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 91(4): 572-576 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910572

テクニカルノートTechnical Note

好熱菌由来酸化還元酵素を電極用触媒としたバイオ電池の開発Development of biofuel cell using thermophilic oxidoreductase as an electrode catalysis

福井大学学術研究院工学系部門Faculty of Engineering, University of Fukui ◇ 〒910–8507 福井県福井市文京3–9–1 ◇ 3–9–1 Bunkyo, Fukui

発行日:2019年8月25日Published: August 25, 2019
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1. はじめに

バイオ電池は,燃料が有する化学エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスであり,電気エネルギー変換のための電極触媒として酸化還元酵素を用いる燃料電池の一種である.バイオ電池の燃料は糖類,アルコール類,水素など酵素の基質となりうるものはすべて利用できる.また,バイオ電池は電極触媒として酵素を利用しているため,作動環境が生体環境に近い穏やかな条件で利用可能である.これらのことから生体内で自己発電可能な生体内医療機器用電源や環境に優しいバイオマス発電装置などへの応用が期待されている.しかしながら,その実用化には電池の出力,耐久性の向上が課題となっている.本稿では,これまで研究が進められているバイオ電池の特徴と実際に想定されている機器への電源としての応用の可能性と課題について概説し,我々が取り組んでいる好熱菌由来酸化還元酵素を電極触媒としたバイオ電池の開発について紹介する.

2. バイオ電池とは

バイオ電池の一般的な発電の仕組みを表した概念図を示す(図1).バイオ電池は,アノードとカソードから構成されており,これらアノード,カソードの電極触媒として酸化還元酵素が用いられている.アノードでは酸化酵素や脱水素酵素のような酵素が用いられ基質を酸化する.この酵素による酸化反応によって生じた電子は電子伝達体(メディエーター)を介して,あるいは直接電極へ伝達され,外部回路へ移動する.この反応と同時にプロトンが発生する.このプロトンがナフィオンのようなプロトン交換膜を通じてカソードへ送られる.カソードではアノードの酵素反応によって生じた電子とプロトンがマルチ銅オキシダーゼの触媒反応によって酸素分子から水へと還元される.マルチ銅オキシダーゼは,酵素中に複数の銅イオンを補因子として含む酵素の総称である.このタイプの酵素は基質を酸化することによって分子状酸素を4電子還元し水を生成する反応を触媒することができるため,バイオ電池カソード用素子としてよく用いられている.このアノードとカソードで触媒される酵素による酸化還元反応によって電気エネルギーが取り出される.これまでにグルコースのような糖類をはじめ,アルコール,有機酸,アミノ酸といったさまざまな種類の生体物質を基質とする酸化還元酵素を修飾したアノードが開発されており,バイオ電池として利用する用途に適した燃料が選択できるようになっている1–4)

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図1 バイオ電池の概念図

3. バイオ電池の実用化に向けた研究開発

現在のバイオ電池の実用化において最も期待されているのが,生体埋め込み型医療機器用電源としての利用である.現在,生体埋め込み型医療機器としてはペースメーカー,人工眼,人工心臓といった機能補完型機器や,インスリンポンプなどの治療用医療機器の開発が進められている.これらの開発が進んでいる医療機器の多くは化学電池を電源として想定されている.しかし,一般的に汎用されているリチウム電池のような化学電池の使用は,安全性への不安から生体埋め込み型機器への使用用途を限定する要因となっている.一方,バイオ電池は,上述のように電極触媒として酵素を用いているため生体に対して安全性が高いだけでなく,小型化,軽量化も可能なことから,これらの埋め込み型医療電子機器への電源としては最適な電源であると考えられる.バイオ電池が生体埋め込み型電源として実際に生体内で発電可能かを検証するために,グルコースオキシダーゼをアノード用触媒,ポリフェノールオキシダーゼをカソード用触媒としたバイオ電池が構築された5).このバイオ電池は透析膜の袋(透析バッグ)の中で保護された状態でラット後腹膜腔に埋め込まれ,ラット生体中に存在するグルコースを燃料として発電量が測定された.その結果,この生体埋め込み型バイオ電池は2 µWの電力を数時間連続して発電することに成功している.また,この発電デバイスをラット体内に数か月埋め込んだままでも,炎症反応は認められなかった.それだけではなく,このデバイスを体内から取り出すと電池の透析バッグ周辺に新しい血管が形成されていた.また,グルコースオキシダーゼをアノード用素子,白金ナノ粒子をカソード用素子とした炭素繊維電極を修飾して構築したバイオ電池をラットの頸静脈内のポリエチレン製カテーテルの内側に留置し,生体内での発電実験が行われた.その結果,カテーテルに留置されたバイオ電池は電極1 cm2あたり95 µWの出力で24時間発電できることが示された6).このように生体内に埋め込んでも発電可能なバイオ電池が報告され始めているが,これまで報告されているバイオ電池は化学電池のように長期間安定的に発電を維持することが困難であり,実際に埋め込み型機器の電源としての利用に求められている長期間作動可能な電池寿命を実現するめどは立っておらず,電池の長寿命化が実用化への課題となっている.

4. 好熱菌酵素を電極触媒用素子としたバイオ電池の実用化へ向けたアプローチ

これまで述べてきたように酵素を電極用素子としたバイオ電池は生体内でも発電可能であり,高い生体適合性を示すことが明らかとなり,生体内で利用する機器用電源への応用が期待される.しかしながら,電池の耐久性が低いため,長期間連続使用できないことが実用化への最大の障害となっている.バイオ電池の性能は電極用触媒として用いられている酵素の特性が直接反映される.これまでに利用されているバイオ電池用電極触媒の多くは常温域で生育する常温性生物由来の酵素である.一般的に常温生物由来酵素は,バイオ電池の作動条件(室温,中性)で長期間連続的に触媒反応を継続させると酵素が失活してしまう.このバイオ電池作動条件における酵素の不安定性がバイオ電池の耐久性に大きな影響を与えてしまう.

このバイオ電池の耐久性の課題を克服する一つの手段として,我々は超好熱菌由来酸化還元酵素を素子としたバイオ電池の開発を進めている.超好熱菌とは,温泉や海底火山などの高温極限環境に生育する微生物の総称であり,超好熱菌が生産する酵素は高い耐熱性を示す.また,超好熱菌由来酵素は高い耐熱性を示すだけではなく,常温域においては長期間触媒活性を維持することができる.このことから,超好熱菌由来の酸化還元酵素を素子としたバイオ電池が構築できれば長期間連続稼働可能なバイオ電池となることが期待できる.我々は超好熱菌よりアミノ酸,糖類,有機酸を基質とする高い安定性を示す酸化還元酵素を見いだしている.これら超好熱菌由来酸化還元酵素を用いてバイオ電池用アノードを開発し長期稼働性を評価した.我々は,超好熱菌由来NAD依存性L-グルタミン酸脱水素酵素とNADH脱水素酵素の共役反応を利用したバイオ電池用アノードを構築した7).この超好熱菌酵素を素子とした電極は作製して2週間後でも作製直後に測定した初期電流密度の80%以上を維持し,高い耐久性を示すことが明らかとなった.また,超好熱菌由来FAD依存性L-プロリン脱水素酵素(Dye-LPDH)をアノード用素子として,カソード用素子として超好熱菌由来マルチ銅オキシダーゼを用いたバイオ電池では,14時間連続的に駆動させても初期出力の65%を維持し,長時間作動可能なことを明らかにした4)

このように我々が開発した超好熱菌酵素を用いたバイオ電池は,常温生物由来酵素を用いたバイオ電池に比べて高い耐久性を示し,長期間連続作動可能な実用化に適したバイオ電池を可能にした.しかしながら,超好熱菌由来酵素の酵素活性は,バイオ電池の作動条件である室温では常温生物由来酸化還元酵素に比べて低いため,電池の出力が常温性生物由来の酸化還元酵素を用いたバイオ電池より数倍から数百倍低いことが問題である.

この課題に対して我々は2通りのアプローチで解決を試みている.その一つが酵素を電極上に一定方向に向きをそろえて固定化する酵素配向固定である.バイオ電池の出力は,電極に固定化する酵素と電極間の電子伝達効率が大きな影響を与えていることが知られている.特に電極基盤上での酵素分子の配向性が酵素–電極間の電子授受効率や酵素分子内の電子の流れに対して大きな影響を与えることが知られている(図2A).我々は,超好熱菌由来PQQ依存性グルコース脱水素酵素(PQQ-GDH)を電極上に配向性をつけて固定化し,酵素–電極間の電子伝達効率の評価を行った8).その結果,PQQ-GDHのN末端に付加されているヒスチジンタグを介して配向的に固定化した電極の電流密度は,電極上にPQQ-GDHを無配向に固定化した電極の電流密度の90倍高い数値を示した.これは,酵素反応,および電子授受に適切な方向に酵素修飾を行うことで電極反応効率が大幅に向上したためであると考えられる.このように常温において酵素活性が低い超好熱菌酵素でも酵素–電極間の電子授受に最適な電極設計を行えば,室温でも高い出力を発揮できるバイオ電池の構築が可能であることを明らかにした.

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図2 電極反応向上のためのアプローチ

(A)酵素の電極上への配向固定による電子伝達効率の改善.酵素の酸化還元部位を一定方向にし,電極表面にできるだけ近づけることで酵素–電極間の電子伝達効率を向上することができる.(B)複数の酸化還元酵素を用いた基質の多段階酸化反応.4種類の酸化還元酵素を用いることによって1分子のL-プロリンから6電子を抽出する.

また,酵素電極間の配向性を整えるというアプローチとは異なるもう一つのアプローチとして,複数の酸化還元酵素の共役反応を利用した多段階酸化代謝経路を構築することによって電池出力の向上を試みている.上述のように単独の酸化還元酵素を用いて電極を構築した場合,1種類の酸化還元酵素の反応では基質1分子から2電子しか得ることができない.そこで複数の酸化還元酵素を組み合わせ,基質1分子から複数の電子を取り出すことで酵素触媒電流の向上を目指す試みである.

我々はアミノ酸の一つであるL-プロリンの多段階酸化反応を行うアノードの開発を行った9).これは,上述のDye-LPDHを用いたバイオ電池用アノードに,さらにNAD依存性Δ1-ピロリン-5-カルボン酸脱水素酵素,NAD依存性グルタミン酸脱水素酵素,FAD依存性NADH脱水素酵素の3種類の脱水素酵素を修飾したものである.この4種類の脱水素酵素を組み合わせた人工の多段階酸化代謝経路では,燃料であるL-プロリン1分子から理論上6電子を抽出できることになる(図2B).よって,Dye-LPDH単独で修飾した電極よりも理論上3倍の触媒電流が得られる.実際に,この多段階酸化経路を電極上で進行させると,Dye-LPDH単独で修飾した電極よりも約4倍高い電流応答を示した.

以上のように,室温での安定性は高いが,酵素活性が低いという課題を持つ超好熱菌由来酵素も,電極へ修飾する際の配向性の制御による酵素–電極間の電子伝達効率の向上や,多段階酸化反応を用いた燃料の電子抽出効率の向上などの工夫を行うことによって,室温でも実用可能な電池出力が得られる長期連続稼働が可能なバイオ電池の構築が期待される.

5. おわりに

これまで開発されているバイオ電池の応用利用への試みと,実用化への課題について概説してきた.バイオ電池の実用化には,電気化学だけではなく,電極触媒の素子となる酵素を取り扱う生化学,電極触媒と電極間の電子伝達の制御を行う材料化学といった多方面の研究アプローチが必要であり,異分野の研究者が参画することによって今後,実用化へ発展していくと考えられる.これら他分野の研究者の参画によって,酵素の新しい効率的な固定化法の開発や,電極へ修飾する際に用いる新規高伝導ナノ材料の使用などによって,さらにバイオ電池出力が向上すれば,ここで紹介した体内埋め込み型電源以外にも,モバイルバッテリー用電源やバイオマスを利用した環境に優しいバイオマス発電など多方面への応用が期待される.

引用文献References

1) Yahiro, A.T., Lee, S.M., & Kimble, D.O. (1964) Bioelectrochemistry: I. Enzyme utilizing bio-fuel cell studies. Biochim. Biophys. Acta, 88, 375–383.

2) Arechederra, R.L., Treu, B.L., & Minteer, S.D. (2007) Development of glycerol/O2 biofuel cell. J. Power Sources, 173, 156–161.

3) Palmore, G.T.R., Bertschy, H., Bergens, S.H., & Whitesides, G.M. (1998) A methanol/dioxygen biofuel cell that uses NAD+-dependent dehydrogenases as catalysts: application of an electro-enzymatic method to regenerate nicotinamide adenine dinucleotide at low overpotentials. J. Electroanal. Chem. (Lausanne Switz.), 443, 155–161.

4) Tonooka, A., Komatsu, T., Tanaka, S., Sakamoto, H., Satomura, T., & Suye, S. (2018) A L-proline/O2 biofuel cell using L-proline dehydrogenase (LPDH) from Aeropyrum pernix. Mol. Biol. Rep., 45, 1821–1825.

5) Cinquin, P., Gondran, C., Giroud, F., Mazabrard, S., Pellissier, A., Boucher, F., Alcaraz, J.P., Gorgy, K., Lenouvel, F., Mathé, S., et al. (2010) A glucose biofuel cell implanted in rats. PLoS One, 5, e10476.

6) Sales, F.C., Iost, R.M., Martins, M.V., Almeida, M.C., & Crespilho, F.N. (2013) An intravenous implantable glucose/dioxygen biofuel cell with modified flexible carbon fiber electrodes. Lab Chip, 13, 468–474.

7) Sakamoto, H., Komatsu, T., Yamasaki, K., Satomura, T., & Suye, S. (2017) Design of a multi-enzyme reaction on an electrode surface for an L-glutamate biofuel anode. Biotechnol. Lett., 39, 235–240.

8) Koto, A., Taniya, S., Sakamoto, H., Satomura, T., Sakuraba, H., Ohshima, T., & Suye, S. (2014) Efficient direct electron transfer for a highly oriented PQQ-GDH immobilized electrode for bioanode. J. Biosens. Bioelectron., 5, 1.

9) Satomura, T., Horinaga, K., Tanaka, S., Takamura, E.I., Sakamoto, H., Sakuraba, H., Ohshima, T., & Suye, S. (2019) Construction of a novel bioanode for amino acid powered fuel cells through an artificial enzyme cascade pathway. Biotechnol. Lett., 41, 605–611.

著者紹介Author Profile

里村 武範(さとむら たけのり)

福井大学学術研究院工学系部門生物応用化学講座准教授.博士(工学).

略歴

1998年徳島大学工学部卒業.2000年同大学院博士前期課程修了.03年同大学院博士後期課程修了.同年日本学術振興会特別研究員(福山大学藤田秦太郎名誉教授).06年米子工業高等専門学校物質工学助教.11年福井大学大学院工学研究科講師.15年より現職.

研究テーマと抱負

好熱菌酸化還元酵素の電子伝達機構の解析と応用利用.酸化還元酵素内に存在する電子伝達機構を明らかにし,その機構を基に新しい触媒を作り出したいと考えている.

ウェブサイト

http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/bioeng/suye/index.html

趣味

サイクリング.

坂元 博昭(さかもと ひろあき)

福井大学学術研究院工学系部門繊維先端工学講座准教授.博士(工学).

略歴

2009年九州工業大学大学院博士後期課程修了.09年より立命館大学総合理工学研究機構博士研究員.12年より福井大学大学院工学研究科特命助教,14年より福井大学テニュアトラック推進本部講師.18年より現職.

研究テーマ

生体機能分子とナノ材料を融合したナノバイオテクノロジー.

抱負

生体分子の優れた機能(分子認識,触媒)を工学応用し,新しい電池,素材,繊維の開発を行っています.

趣味

サッカー観戦.

末 信一朗(すえ しんいちろう)

福井大学理事・副学長(研究,産学・社会連携担当).博士(工学)(京都大学).

略歴

1981年東京農工大学農学部卒業.83年同大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了.同年宝酒造中央研究所研究員.91年福井大学工学部助手.92年博士(工学)(京都大学).95年カリフォルニア大学客員研究員.97年福井大学工学部助教授.2009年同大学院工学研究科教授.19年現職.

研究テーマと抱負

生物の持つ機能を工学に展開して新しい機能を付与したデバイスを創出し,バイオセンサやバイオ電池を構築する.研究を通じてエネルギーの多様化による持続社会の構築に貢献したい.

ウェブサイト

http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/bioeng/suye/index.html

趣味

歴史探訪,純文学.

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