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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(5): 706-710 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910706

みにれびゅうMini Review

脂質修飾依存的なSTING活性化を中心とした自然免疫の分子機構The molecular mechanism underlying the activation of STING, a central signaling molecule in the innate immune response to cytosolic nucleic acids

東北大学大学院生命科学研究科細胞小器官疾患学分野Laboratory of Organelle Pathophysiology, Department of Integrative Life Sciences, Graduate School of Life Sciences, Tohoku University ◇ 〒980–8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6–3 ◇ Aobayama, Aoba-ku, Sendai, Miyagi, 980–8578, Japan

発行日:2019年10月25日Published: October 25, 2019
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1. はじめに

自然免疫は,微生物などが有する固有の分子パターンを異物として認識し,速やかに発動する特徴を持つ先天的に備わった免疫システムである.従来,獲得免疫の補助的な役割を果たすにすぎないと考えられていたが,異物の感染に際して,初めに発動する自然免疫がなくしては獲得免疫が発動しないことが明らかになり,自然免疫の重要性が再認識されている.細菌やウイルスから放出された核酸,すなわち宿主の細胞外環境にある核酸はToll様受容体などの核酸センサータンパク質により認識され,自然免疫応答を引き起こす.一方,細菌やウイルスの感染により宿主の細胞質中に放出された核酸も自然免疫応答を引き起こす.近年になり,これら細胞質中の核酸についてもセンサータンパク質が複数同定され,研究が飛躍的に進展している.

本稿では,DNAウイルス感染などによって細胞質に出現するDNAに応答して自然免疫応答を引き起こすのに重要な機能を担っているSTING(stimulator of interferon genes)タンパク質1)の活性化分子機構について,筆者らの最新の知見を含めて紹介する.病原体の感染に対する自然免疫応答というコンテキストで理解されてきたSTINGであるが,ごく最近,損傷ミトコンドリアや老化した核などから細胞質へと漏出してくる自己DNAに対しても応答して炎症応答を引き起こすことが明らかになり,これら損傷オルガネラが原因となる疾病・病態の治療の標的分子としても注目を浴びている2, 3)

2. 細胞質DNAにより活性化するcGAS/STING経路

DNAウイルスなどの感染により宿主細胞の細胞質に放出されたDNAは,細胞質に存在するcGAS(cyclic GMP-AMP synthase)タンパク質に結合し,cGASを活性化する4).活性化したcGASは,ATP(adenosine 5′-triphosphate)とGTP(guanosine 5′-triphosphate)を基質にして,cGAMP(cyclic GMP-AMP)を産生する5).cGAMPはセカンドメッセンジャーとして細胞質内を伝播し,小胞体に局在する4回膜貫通タンパク質STINGに結合する.cGAMPに結合したSTINGは,TBK1(TANK-binding kinase 1)キナーゼを活性化し,活性化したTBK1は転写因子IRF3(interferon regulatory factor 3)をリン酸化する.リン酸化されたIRF3は二量体化して核へ移行し,ゲノムDNAのインターフェロン応答配列に結合し,I型IFN(interferon)の産生を誘導する.I型IFN(複数のIFNαと1種類のIFNβ)は,抗ウイルス応答に関与する多彩なエフェクタータンパク質の産生を標的細胞内で誘導する.STINGは,IRF3に加えて,転写因子NF-κB(nuclear factor-κB)も活性化し,IL6(interleukin-6)やTNFα(tumor necrosis factor-α)などの炎症性サイトカインの発現誘導も行う(図1).cGASおよびSTINGのノックアウトマウスが,DNAウイルスである単純ヘルペスウイルスなどの感染に非常に脆弱になることから,個体におけるcGAS/STING経路の重要性が明らかにされている6)

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図1 cGAS/STING経路

cGAMPが結合したSTINGは,TBK1/IRF3などの活性化を通じて,I型インターフェロン応答および炎症応答を引き起こす.

3. STINGの細胞内オルガネラ局在変化と活性化

興味深いことに,cGAMPが結合したSTINGは,その細胞内オルガネラ局在を小胞体から核近縁部へと大きく変化させることが知られていた6, 7).しかしながら,その細胞内局在変化の意義は長らく不明であった.我々は,EGFP(enhanced green fluorescent protein)をN末端に付与したマウスSTINGを安定発現するCOS-1細胞を樹立し,この細胞を,膜透過性のマウスSTING特異的アゴニストDMXAA(5,6-dimethylxanthenone-4-acetic acid)で刺激する実験系を開発した.DNAウイルス感染やDNAトランスフェクションではcGAMPが産生されるタイミングが細胞間でばらついてしまうが,膜透過性のアゴニストを用いることでSTINGに刺激が入るタイミングがすべての細胞でそろい,生化学的な解析を行うことが初めて可能になった.また,COS-1細胞は,オルガネラが空間的に秩序立って分布しており,オルガネラ間の物質移動の追跡が容易であり採用することにした.この実験系で解析を行ったところ,(1)STINGはDMXAA刺激後に速やかに小胞体を脱出し,ゴルジ体,リサイクリングエンドソーム,p62陽性構造体/リソソームへと逐次的に移動すること(図2),(2)TBK1のリン酸化(TBK1の活性化)は,STINGがゴルジ体に局在する時間で起きること,などが明らかになった8).さらに,リン酸化TBK1の細胞内局在を詳細に解析すると,ゴルジ体のcis側の領域には存在せず,trans側の一部の領域にのみ存在していた.

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図2 STINGの細胞内移動

小胞体局在性膜タンパク質STINGは,cGAMPに結合すると,「小胞体→ゴルジ体→リサイクリングエンドソーム→p62陽性コンパートメント/リソソーム」と輸送されていく.STINGはゴルジ体でパルミトイル化を受けて活性化する.その後,リソソームに運搬されて分解を受け,STINGのシグナルは収束する.細胞内物質輸送がSTINGシグナルの活性化・不活性化を制御している.

これらの結果は,STINGが小胞体でなく,ゴルジ体でTBK1を活性化していることを示唆している.さらに,小胞体からの物質輸送を止めるブレフェルジンAによる処理でDMXAA刺激時のTBK1のリン酸化が完全に抑制され,一方,ゴルジ体からの物質輸送を止める20°C培養条件ではTBK1のリン酸化は抑制されなかった結果から,STINGによるTBK1の活性化にはゴルジ体への移動が必要十分であることが示唆された8)

4. STINGのゴルジ体における活性化機構

ゴルジ体はその内腔側でタンパク質や脂質の糖鎖修飾反応を行うオルガネラであることはよく知られているが,近年,ゴルジ体の細胞質側ではタンパク質のパルミトイル化反応が行われることが明らかになっている9).STINGがTBK1を活性化する反応はゴルジ体の細胞質側で起きることから,パルミトイル化反応に着目して解析をすすめたところ,(1)STINGがゴルジ体に局在している時間においてパルミトイル化を受けること,(2)パルミトイル化阻害剤である2-ブロモパルミチン酸の細胞添加により,DMXAA刺激時のTBK1のリン酸化が顕著に抑制されること,などが明らかになった.タンパク質のパルミトイル修飾は,細胞質側のシステイン残基に起こる反応である.そこで,進化的に保存されているSTINGの細胞質側のシステイン残基に着目して解析を行ったところ,88/91番目の二つのシステイン残基をセリン残基に変異させたCys88/91Ser変異STINGは,ゴルジ体への局在変化には影響がない一方で,パルミトイル化が顕著に抑制され,かつI型IFN応答をほとんど引き起こすことができないことが明らかになった.さらに,STING欠損細胞に野生型またはCys88/91Ser変異STINGを再構成し,これらの細胞に対してヘルペスウイルスの感染実験を行った.野生型STINGと比較してCys88/91Ser変異STINGを発現させた細胞では,ヘルペスウイルス依存的なI型IFN産生が顕著に減弱しており,ヘルペスウイルスの複製を抑制できなかった.これらの結果より,STINGのCys88/91に起きるパルミトイル化が,STINGを介したI型IFN産生による抗ウイルス応答に必要であることが示唆された8)

パルミトイル化を受けたタンパク質は,コレステロールとスフィンゴミエリンで構成される脂質ラフトと呼ばれる特殊な脂質マイクロドメインと親和性を有し,脂質ラフト内でクラスター化する可能性が報告されている10).ゴルジ体の中でも特にTGN(trans-Golgi network)領域でスフィンゴミエリンが合成されることなどから,パルミトイル化を受けたSTINGが,ゴルジ体TGNの脂質ラフト領域においてクラスター化し,TBK1の自己リン酸化のための足場タンパク質として機能できるようになっているモデルを考えている8)

5. STINGのパルミトイル化を阻害する低分子化合物

ごく最近,STINGのパルミトイル修飾を抑制することでSTINGの活性を阻害する分子が二つのグループより報告された.スイスのAblasserらのグループは,STINGの活性を阻害する低分子化合物スクリーニングを培養細胞ベースで行い,ニトロ化されたフラン環構造を持つ化合物(C-176, C-178)を同定した11).これらの化合物は,91番目のシステイン残基にフラン環を介して共有結合しており(図3),そのことによって,DNA刺激後に起こるSTINGのパルミトイル化修飾を阻害していた.デンマークのHolmらのグループは,ヘルペスウイルスが感染したマクロファージの上清に,ニトロ化された不飽和脂肪酸が放出されることを見いだし,この脂肪酸がSTINGの活性を抑制する能力を有していることを明らかにした12).ニトロ化不飽和脂肪酸は,STINGの88/91番目の二つのシステイン残基に共有結合しており(図3),そのことによってSTINGのパルミトイル化修飾を阻害していた.後述するように,老化や放射線照射などで核膜やミトコンドリア膜が傷害を受けると,これらオルガネラから細胞質にDNAが漏出し,cGAS/STINGはこの自己由来の細胞質DNAに応答して炎症を引き起こす.両研究により開発・同定されたSTINGのパルミトイル化阻害剤は,これら自己DNAが引き起こす疾患や病的状態の緩和に効果があることが期待される.

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図3 STING抑制剤の作用機序

2018年に報告された二つのSTING抑制剤は,STINGの88番目または91番目のシステイン残基と共有結合することで,STINGのパルミトイル化を阻害していた.

Ablasserらが開発した化合物は,STINGの91番目のシステイン残基に高い選択性を有していた.この高い選択性が生じるメカニズムを解明することで,たとえば,Rasタンパク質の活性化に重要なパルミトイル化を選択的に阻害する低分子化合物の開発などが可能になるかもしれない.

6. STINGの恒常的活性化によって引き起こされる自己炎症疾患

2014年にSTINGの点変異に起因する自己炎症性疾患SAVI(STING-associated vasculopathy with onset in infancy)が報告された13).この疾患はSTINGのV147L, N154S, V155M, C206Y, R281Q, R284G/Sなどの点変異により発症し,肺の線維化や皮膚の炎症を伴う常染色体優性の遺伝病で,SAVI患者由来の細胞はcGAMP非依存的にI型IFNを産生することが報告されている.SAVI変異型のSTINGのオルガネラ局在を解析したところ,SAVI-STINGは小胞体局在を失っており,刺激非依存的にゴルジ体を含む核近傍のオルガネラに局在していた8).さらに,2-ブロモパルミチン酸処理や,Cys88/91Ser変異の導入により,SAVI-STINGによる恒常的なI型IFN応答を抑制できることが明らかになった.SAVI変異によって,STINGがcGAMP非依存的に小胞体から脱出する能力を獲得し,そのことによってSTINGが恒常的にゴルジ体で活性化していることが示唆された.

7. STINGと抗腫瘍免疫

がん細胞は,体内の正常な細胞の遺伝子が変化してできた異常な細胞である.我々の体が持つ免疫の働きによって,がん細胞は「自分ではない」異物と判断されて体から常に排除されている.このがんを監視する免疫の具体的なメカニズムとして,最近,「がん免疫サイクル(cancer immunity cycle)」14)が提唱され,広く受け入れられている.がん免疫サイクルは,次の七つのステップからなる.(i)がん組織(細胞死を起こしたがん細胞)からがん抗原が放出され,(ii)がん抗原を樹状細胞などの抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)が取り込み,細胞表面へ主要組織適合遺伝子複合体分子と結合した形で提示し,リンパ節へ遊走する.(iii)リンパ節に到達したAPCはT細胞へ抗原を提示し,がん抗原特異的なT細胞が活性化する.(iv)活性化T細胞ががん組織へと遊走,(v)浸潤する.(vi)がん抗原を発現するがん細胞をT細胞が認識し,攻撃する.(vii)T細胞に攻撃され細胞死を起こしたがん細胞は新たながん抗原を放出し,(i)に戻る.この一連のサイクルのどのステップが障害されても効果的ながん免疫応答の誘導が困難となり,がんは免疫監視機構から逃避する.たとえば,活性化T細胞に発現されるPD-1(programmed cell death-1)は,がん細胞に発現したPD-L1(programmed cell death-1 ligand-1)と結合することで,T細胞に抑制性のシグナルを伝達する.抗PD-1・抗PD-L1抗体によるがん治療が奏功しているが,この治療はステップ(vi)~(vii)に働きかけて,抑制シグナルの伝達をブロックしてT細胞の活性化状態を維持し,がん免疫サイクルを適切に回転させることを狙ったものである.

最近になり,(1)がん細胞由来のDNAがAPCのcGAS-STING経路を活性化することが,がん細胞を攻撃するT細胞の活性化に必要であること,(2)STINGアゴニストであるcGAMPの膜透過性アナログをマウスに投与すると,がん細胞の排除が亢進すること,など,ステップ(ii)~(iii)におけるSTINGの重要性が明らかになってきた3, 15).現在,多くのメガファーマで,STINGの活性化を狙いとする創薬研究が進行中である.

8. 解決すべき課題と今後の展望

これまでSTINGはリガンド(cGAMP)を受容する小胞体でTBK1を活性化するものと考えられていたが,筆者らの研究により,STINGがTBK1を活性化するためにはリガンドの結合だけでは十分でなく,STINGが小胞体を脱出してゴルジ体へ移行・パルミトイル化修飾を受ける必要があることが明らかになった.パルミトイル化がSTINGにどのような変化を生じさせているか理解することは,非常に重要な課題である.STINGはゴルジ体でTBK1を活性化したのち,リサイクリングエンドソーム,p62陽性構造体とその局在を変え,最終的に分解されてシグナルが収束する.このSTINGの分解に至る輸送経路を制御する分子機構はほとんど不明のままであり,今後の解明が期待される.

病原体の感染に対する自然免疫応答というコンテキストで理解されてきたSTINGであるが,自己DNAが起因となる多様な炎症病態・疾患の中心分子であることが,近年急速に明らかになってきている.また,STINGの活性化ががん免疫において必要であることも明らかになってきた.STING活性化を制御する分子メカニズムのさらなる理解が,炎症病態・疾患に対する創薬やがん免疫治療につながることを願い,本稿を終えたい.

引用文献References

1) Ishikawa, H. & Barber, G.N. (2008) STING is an endoplasmic reticulum adaptor that facilitates innate immune signalling. Nature, 455, 674–678.

2) Barber, G.N. (2015) STING: infection, inflammation and cancer. Nat. Rev. Immunol., 15, 760–770.

3) Chen, Q., Sun, L., & Chen, Z.J. (2016) Regulation and function of the cGAS-STING pathway of cytosolic DNA sensing. Nat. Immunol., 17, 1142–1149.

4) Sun, L., Wu, J., Du, F., Chen, X., & Chen, Z.J. (2013) Cyclic GMP-AMP synthase is a cytosolic DNA sensor that activates the type I interferon pathway. Science, 339, 786–791.

5) Wu, J., Sun, L., Chen, X., Du, F., Shi, H., Chen, C., & Chen, Z.J. (2013) Cyclic GMP-AMP is an endogenous second messenger in innate immune signaling by cytosolic DNA. Science, 339, 826–830.

6) Ishikawa, H., Ma, Z., & Barber, G.N. (2009) STING regulates intracellular DNA-mediated, type I interferon-dependent innate immunity. Nature, 461, 788–792.

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著者紹介Author Profile

向井 康治朗(むかい こうじろう)

東北大学大学院生命科学研究科助教.博士(薬科学).

略歴

2006年栄光学園高等学校卒業,10年東京大学薬学部卒業,15年同大学院薬学系研究科博士後期課程修了,15~18年東京大学大学院薬学系研究科助教,18年8月より現職.

研究テーマと抱負

現在の研究テーマは,細胞内でのSTINGの活性化制御機構の解明.細胞内膜輸送と脂質が制御する細胞応答,特に自然免疫応答の分子機構を明らかにしていきたい.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/k_mukai/

趣味

サッカー,バスケットボール.

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