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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(5): 711-714 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910711

みにれびゅうMini Review

神経系による2型自然リンパ球と2型炎症応答の制御Neuronal regulation of group 2 innate lymphoid cells and type 2 inflammation

Jill Roberts Institute for Research in Inflammatory Bowel Disease, Joan and Sanford I. Weill Department of Medicine, Department of Microbiology and Immunology, Weill Cornell Medicine, Cornell UniversityJill Roberts Institute for Research in Inflammatory Bowel Disease, Joan and Sanford I. Weill Department of Medicine, Department of Microbiology and Immunology, Weill Cornell Medicine, Cornell University ◇ アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市413 East 69th Street ◇ 413 East 69th Street, New York, NY 10021, USA

*1

現所属:国立感染症研究所免疫部,〒162–8640 東京都新宿区戸山1–23–1

Current address: Department of Immunology, National Institute of Infectious Diseases, Toyama 1–23–1, Shinjuku, Tokyo, 162–8640, Japan

発行日:2019年10月25日Published: October 25, 2019
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1. はじめに

病原体の一つである寄生虫が感染すると,免疫細胞の働きによってホストの体内では2型炎症応答が誘導される.この炎症応答は寄生虫の排除において重要である一方で,花粉・食品などのアレルゲンや毒素による刺激に対しても誘導されて喘息や食物アレルギー,皮膚炎といったアレルギー性疾患を引き起こすことが知られており,生体内で適切に制御される必要がある.2型自然リンパ球(group 2 innate lymphoid cell:ILC2)はインターロイキン(IL)−5, 13などの2型サイトカインを産生して2型炎症応答の制御に関わる自然免疫細胞であり,2型炎症応答の制御機構をさらに明らかにするためにILC2の制御機構の研究が進められている.免疫細胞は免疫系のさまざまな細胞との相互作用や生理活性物質により体内で厳密に制御されているが,免疫系以外のシステム,たとえば神経系からも制御を受けていることがわかりつつある.本稿では神経系によるILC2と2型炎症応答の制御について解説する.

2. 2型炎症応答とILC2

2型炎症応答は寄生虫の感染や,アレルゲン,毒素,アジュバントなどの刺激により生体内で引き起こされる炎症応答である1, 2).刺激物質の侵入に応じて免疫細胞からIL-4, 5, 13などの2型サイトカインや免疫グロブリンE(IgE)が産生され,好酸球をはじめとしたエフェクター細胞の働きと粘膜分泌や平滑筋収縮によって,原因となった刺激物質が体内から排除される.2型炎症応答は寄生虫の感染に対しては生体防御機構として働くが,アレルゲンなどに対して起こるとアレルギー症状をもたらし生体に有害な反応となる.したがって,2型炎症応答がどのように制御されるかを知ることが,生体にとって有益な反応と有害な反応のバランスを調節するために重要である.

2型サイトカインの産生は2型炎症応答の主体であり,獲得免疫細胞の一つである2型ヘルパーT細胞から多く分泌されることが知られている.2型ヘルパーT細胞に加え,自然免疫細胞の一つであるILC2も2型サイトカインを多く産生し2型炎症応答に関わることが,複数のグループから2010年に報告された3–5).マウスを用いた実験では,腸管寄生線虫であるNippostrongylus brasiliensis(N. brasiliensis)の感染や,アラーミン(障害を受けた細胞から炎症初期に放出されるサイトカイン)の投与により引き起こされた急性の2型炎症応答の初期においてILC2が2型サイトカインの主要産生細胞であることがわかっている.

3. ILC2の機能制御

ILC2は自然免疫細胞であるが,獲得免疫細胞であるT細胞やB細胞と同じくリンパ系共通造血前駆細胞から分化する.現在のところヒトとマウスで研究が進んでいるが,より下等な脊椎動物にも存在するようである6).ILC2は肺組織や腸管粘膜固有層,脂肪組織,リンパ組織や皮膚などさまざまな組織に存在している.異なる組織に存在するILC2は主要な転写因子や2型サイトカインの発現は共通しているものの,ケモカイン受容体の発現パターンなど異なる遺伝子発現プロファイルを持つ7).多くのILC2はそれぞれの組織にとどまって存在しているが,炎症時には組織間を移動するような移動性の高いILC2もみられる8).ILC2はT細胞やB細胞の活性化において最重要な抗原特異的受容体や,樹状細胞などの活性化において重要な役割を持つToll様受容体に代表されるパターン認識受容体を持たず,炎症性サイトカインをはじめとしたさまざまな生理活性物質を感知することで活性化が制御される.たとえば細胞障害時に放出されるアラーミンであるIL-33はILC2の反応を促進し,インターフェロンは抑制する.サイトカイン産生機能を獲得するまでに時間のかかる2型ヘルパーT細胞と異なり,ILC2は刺激物質の侵入に応じてすばやく反応して活性化するため,特に2型炎症応答の初期に大きな役割を持つと考えられている.

4. 神経系によるILC2や2型炎症応答の制御

さまざまな免疫細胞が免疫系だけでなく神経系によっても制御されているが,ILC2も同様に神経伝達物質や神経ペプチドに対する受容体を発現し,これらを介して制御を受けることが明らかになりつつある.これまでに促進性の制御として,ニューロメジンU受容体NMUR1や血管作動性腸管ペプチド受容体VPAC2,カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体CARCRLを介した2型サイトカインの産生や細胞増殖の制御が報告されている9)表1).

表1 神経伝達物質や神経ペプチドによるILC2の制御
神経伝達物質,神経ペプチド受容体ILC2の制御
ニューロメジンUNMUR1細胞分裂および2型サイトカイン産生促進
血管作動性腸管ペプチド(VIP)VPAC22型サイトカイン産生促進
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)CALCRL2型サイトカイン産生促進
不明α7ニ2型サイトカイン産生抑制
カテコールアミンβ2アドレナリン受容体細胞分裂および2型サイトカイン産生抑制

抑制性の制御としてはα7ニコチン受容体(α7nAChR)の働きが報告されていたが10),これに加えて著者らはカテコールアミン受容体であるβ2アドレナリン受容体もILC2の働きと2型炎症応答を抑制的に制御することを報告した11).以下でその詳細を解説する.

5. β2アドレナリン受容体(β2AR)によるILC2の制御

1)ヒトやマウスのILC2はβ2ARを発現している

我々はILC2を制御する因子の候補として,網羅的遺伝子発現解析と組織由来のILCを使った定量PCR法解析の結果から,β2アドレナリン受容体(β2AR)に注目した.カテコールアミンの受容体は2種類のαアドレナリン受容体と3種類のβアドレナリン受容体が存在しているが,ILC2は特にβ2ARを発現していた.マウスの腸管や肺,リンパ組織由来のILC2で高いβ2AR発現がみられ,ヒト肺検体や末梢血に含まれるILC2でもβ2AR発現がみられた.

組織内でのILC2の局在を確認するためにマウスの腸管とリンパ節を蛍光免疫組織化学染色したところ,ILC2は腸管を構成する上皮,粘膜固有層と筋層の中でも,特に粘膜固有層に観察された.カテコールアミンを作るアドレナリン作動性神経細胞も粘膜固有層と筋層にみられ,ILC2のごく近傍に存在していた.また,リンパ節においてILC2はB細胞領域である濾胞の近傍やT細胞領域の近傍,髄質部分にみられた.これらの場所はアドレナリン作動性の交感神経細胞により神経支配されていることが報告されている12, 13)

2)β2ARは2型炎症応答を抑制的に制御する

続いて,2型炎症応答におけるβ2ARの生体内での働きを明らかにするためにβ2AR欠損マウスを用いて解析を行った.腸管と肺で強い2型炎症応答を引き起こす腸管寄生線虫N. brasiliensisをマウスに感染させて免疫応答を解析したところ,β2AR欠損マウスではILC2反応の亢進がみられ,好酸球の集積や粘膜分泌細胞の反応など2型炎症応答が亢進されて寄生虫の排除が促進されていた.一方,β2AR作動薬を投与したC57BL/6マウスにN. brasiliensisを感染させたところ,作動薬投与マウスではILC2反応と2型炎症応答が抑制され,寄生虫の排除が抑制されていた.また,N. brasiliensis感染やIL-33やカビ抽出物の経鼻投与により誘導された肺での2型炎症応答においても,β2AR欠損マウスではILC2反応の亢進がみられ,β2AR作動薬投与マウスでは抑制されていた.これらの結果から,β2AR刺激によってILC2の反応や2型免疫応答が抑制されると考えられた.

3)ILC2に発現したβ2ARは2型炎症応答を抑制的に制御する

これらのβ2ARによる変化がILC2のもつβ2ARによるものであるかを明らかにするため,IL−7受容体発現下でβ2ARが欠損するマウス(Il7rCreAdrb2flox/flox)にN. brasiliensisを感染させた.ILC2は定常状態からIL-7受容体を発現しており,Il7rCreAdrb2flox/floxのILC2はβ2ARを持たない.T細胞の影響を避けるために抗体によりT細胞を枯渇させた状態で寄生虫感染後の応答を解析したところ,Il7rCreAdrb2flox/floxマウスではIl7rCreマウスに比べてILC2の増加および寄生虫体数の減少がみられた.また,T細胞やB細胞に加えILCも欠損するIl2rg Rag2欠損マウスに野生型あるいはβ2AR欠損型マウス由来のILC2前駆細胞を移植し,ILC2へ分化するのを待ってからN. brasiliensisを感染させたところ,β2AR欠損型ILC2を持つマウスでは野生型のILC2を持つマウスに比べてILC2と好酸球の増加がみられた.これらのことから,ILC2に発現するβ2ARがILC2反応を抑制し,2型免疫応答を抑制すると考えられた.

4)ILC2に発現したβ2ARは炎症時の細胞増殖を抑制する

β2AR作動薬投与マウスから単離されたILC2を用いてRNAシークエンス法による網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ,細胞増殖の制御を示唆するデータが得られた.2型炎症応答を起こしたβ2AR欠損マウスやβ2AR作動薬投与マウスのILC2を解析すると,β2AR欠損マウスでは細胞増殖マーカーであるKi67を発現する細胞が増え,β2AR作動薬投与マウスでは減少していた.また,C57BL/6マウスから単離したILC2をin vitroで培養したところ,β2AR作動薬存在下では細胞増殖が抑制された.さらに,野生型マウスとβ2AR欠損マウスの骨髄細胞を用いてミックス骨髄キメラマウスを作製し解析したところ,定常状態では野生型とβ2AR欠損型のILC2が同程度検出されるが,寄生虫感染後はβ2AR欠損ILC2の方が多くみられた.したがって,ILC2に発現するβ2ARは2型炎症応答時にILC2の細胞増殖を抑制すると考えられた.

6. まとめと今後の展望

以上のことから,ILC2に発現するβ2ARは2型炎症応答発生時にILC2の増殖を抑え,2型炎症応答を抑制的に抑制すると考えられる(図1).これにより2型炎症応答初期の過剰な免疫応答が調節されていることが予想される.β2ARのリガンドであるカテコールアミンはアドレナリン作動性の交感神経から放出され,ストレスの検知を中枢神経系から末端に伝達している.またその血中濃度は日内変動することが知られており,この日内変動やストレスに応じて放出されたカテコールアミンがβ2ARを介してILC2や2型炎症応答を制御しているのであろう.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(5): 711-714 (2019)

図1 β2ARによる過剰なILC2反応と2型免疫応答抑制の模式図

肺での2型炎症応答やILC2の反応にもβ2ARによる抑制的な制御がみられている.β2ARは2型炎症応答である喘息の治療薬のターゲットの一つであり,ILC2の制御はβ2刺激薬のこれまで知られていなかった作用機序の一つである可能性がある.

また,今回は急性の2型炎症応答とILC2の反応に注目したが,慢性の2型炎症応答におけるILC2も同様の制御を受けるかどうかも今後の重要な研究課題である.これを明らかにするためには新たなILC2研究のためのツールの開発が必要である.ILC2の主な機能である2型サイトカインの産生は2型ヘルパーT細胞からも行われている.急性炎症の初期はILC2がメインの産生細胞であるが,その後は分化・増殖した2型ヘルパーT細胞からの産生も大きな役割を占めると考えられる.慢性炎症におけるILC2の制御機構を明らかにするためにはILC2特異的な遺伝子操作マウスを使用することなどが必要であるが,ILC2と2型ヘルパーT細胞は転写因子や表面分子マーカーを共通して持っており,ILC2のみに特異的なCreマウスは現在までに報告されていない.したがって通常のCre/Floxマウスのみを使った操作ではILC2特異的な遺伝子操作をすることは困難となっている.さまざまな組織におけるILC2や他の免疫細胞の遺伝子発現解析結果を用いるなどして,ILC2のみに特異的に遺伝子操作をできる仕組みを作ることが今後のILC2研究の発展に向けて重要な課題の一つである.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介したβ2ARによるILC2と2型炎症応答の研究は米国コーネル大学David Artis研究室で行われました.研究室メンバーおよび共同研究者と,研究留学をサポートしてくださった日本学術振興会と内藤記念科学振興財団に深く感謝します.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

森山 彩野(もりやま さや)

国立感染症研究所免疫部主任研究官.理学博士.

略歴

2007年東京大学薬学部卒業.09年同大学院薬学系研究科修士課程修了.12年大阪大学大学院生命機能研究科博士課程終了.理化学研究所基礎科学特別研究員,日本学術振興会海外特別研究員・博士研究員(米国コーネル大学David Artis研究室)を経て19年より現職.

研究テーマと抱負

感染免疫応答に興味をもって研究を行っています.

趣味

読書,夏フェス参加.

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