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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(6): 795-799 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910795

みにれびゅうMini Review

有機化学的視点からの標的タンパク質精製・機能解明ツールの開発Development of chemical tools for purification and functional elucidation of a protein of interest

徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域Institute of Health Biosciences and Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Tokushima University ◇ 〒770–8505 徳島県徳島市庄町1–78–1 ◇ 1–78–1 Shomachi, Tokushima 770–8505, Japan

発行日:2019年12月25日Published: December 25, 2019
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1. はじめに

医薬品の多くは,特定のタンパク質に作用することでその活性を発揮する.このため,医薬品の活性本体である生物活性化合物(以下,リガンド)が標的とするタンパク質(以下,標的タンパク質)の同定および機能解明は,医薬品の開発や疾患を理解する上で必須の工程といえる1).本稿では,これらの基盤技術となる二つのツール,すなわち標的タンパク質精製のためのリンカー分子,および標的タンパク質選択的ラベル化試薬について,著者らの研究成果を含めて解説する.なお,化学部分の詳細について興味のある読者は,ぜひ最近執筆した総説を併せてご覧いただきたい2)

2. 標的タンパク質の精製

1)従来の精製法

現在汎用されているクリーバブルリンカーを用いた標的タンパク質精製法の概略を図1Aに示した3).本手法では,まず標的未知のリガンドへ光親和性部位4)およびアルキン(炭素炭素三重結合)を導入した誘導体を合成する.これを細胞もしくは細胞溶解液へ加えたのち,紫外線を照射すると,光親和性部位がラジカルなどの高活性種を生成し,標的タンパク質と共有結合を形成する.すなわち,標的タンパク質とアルキンが共有結合を介して連結されることとなる.ここへ,一方にアジド(N3)を,他方にビオチンを有するリンカー分子を加えクリック反応と呼ばれる反応を行うと5),アルキンとアジドが結合し,標的タンパク質がビオチンを提示した状態となる.ビオチンはアビジンと高い親和性を有するため,標的タンパク質は選択的にアビジンビーズへ吸着される.その次の工程として,クリーバブルリンカーの登場以前は,界面活性剤を加えて加熱し,アビジンを変性させることで標的タンパク質を溶出させていた.この方法は溶出効率が必ずしも高くないことに加え,変性条件を用いるため容器などに吸着されていた非標的も溶出し混入する問題があった.そこで最近では,化学反応などで切断可能なクリーバブルリンカーが広く用いられている3).クリーバブルリンカーを用いることで温和な条件下での標的タンパク質溶出が可能となり,非標的の混入を大幅に抑制することができるようになった.本リンカー分子を用いる精製法は非常に実用性が高く,現在多くの研究で用いられている.しかし実際に使用してみると,やはり非標的の混入により真の標的が判別困難な場合がある.この点を解決することを目指し,近年新たなリンカー分子“トレーサブルリンカー”が開発された.

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図1 リンカー分子を用いた標的タンパク質の精製法

(A)クリーバブルリンカー.(B)トレーサブルリンカー.

2)新たなリンカー分子:トレーサブルリンカー

クリーバブルリンカーを用いる手法は,非標的の混入を大幅に抑制することに成功し,標的タンパク質精製の定法となった.しかし残念ながら,本手法を用いても非標的が混入する場合がある.この点を解決するため,溶出タンパク質のうち真の標的のみを可視化する機能を新たに加えたリンカー分子が近年報告された6–10).著者らは,これらリンカー分子が標的タンパク質の追跡を可能とすることから“トレーサブルリンカー”と呼んでいる6).その概略を図1Bに示す.本手法でもクリーバブルリンカー同様の方法に従い,標的タンパク質をアビジンビーズへ吸着させる.その後,リンカーを切断する際,ラベル化試薬との化学反応により,リンカーを切断するとともにラベルが導入された標的タンパク質を溶出させる.この場合,ラベルとして蛍光色素や放射性同位体などを用いることで標的のみの可視化が可能であることから,非標的が混入したとしても簡便に真の標的が区別できる.

具体的な例として,著者らが最近開発したトレーサブルリンカーを図2に示した7).本誌の読者の多くは生物系研究者であろうことから化学的詳細の説明は最小限にとどめるが,著者らの開発したSEAlide(N-sulfanylethylanilide)と呼ばれる分子骨格が酸塩基触媒を加えることで活性化され,生じる活性カルボニル基が求核剤と反応することを利用した(図2A).すなわちSEAlideを含むトレーサブルリンカーを用い,アビジンビーズへ吸着後に酸塩基触媒であるリン酸塩および求核性部位を含むラベル化試薬を加えることで,リンカー切断による標的溶出と標的選択的ラベル化が一気に進行する(図2B).現在,本トレーサブルリンカーを用いた標的未知リガンドの標的タンパク質同定研究が進行中である.

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図2 著者らが最近開発したトレーサブルリンカー

(A)酸塩基触媒によるSEAlideの活性化機構.(B)SEAlideを鍵骨格としたトレーサブルリンカー.

3. 標的タンパク質のラベル化

1)従来のラベル化法

リガンドが標的とするタンパク質の機能解明研究では,蛍光色素などでラベル化した標的タンパク質誘導体が汎用される.特に近年,試験管内ではなく細胞内での機能解明を目指し,細胞内で利用可能な標的タンパク質選択的ラベル化法の開発が盛んに行われている11).リガンドを介した標的タンパク質のラベル化手法として,浜地らにより確立されたトシル化学12)に代表されるリガンド指向型ラベル化法が広く用いられている(図3A).本手法では,まずリガンドへ求電子性部位を介してラベルを導入した誘導体を合成する.このラベル化試薬を標的タンパク質やその混合物,細胞などへ添加すると,リガンド部位を介して標的タンパク質上へ固定される.すると,近傍にあるタンパク質表面の求核性官能基がラベル化試薬と反応し,標的タンパク質が選択的にラベル化される設計である.本方法には,一つ課題がある.それは,求電子性部位が弱いながらも常に反応性を有するため,用いるラベル化条件によっては非標的との反応や加水分解など,副反応が起こる可能性を内包している点である13)

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図3 リガンド指向型標的タンパク質ラベル化法

(A)一般的な方法.(B)著者らの開発した方法.(C)hDAOのリガンド結合部位.破線内の黒塗:SEALによりラベル化されたアミノ酸.矢印:ドッキングシミュレーションにより予測されたリガンド結合部位.

そこで著者らはこの課題解決を目指し,標的タンパク質非存在下では安定であり,標的タンパク質上に固定されて初めて求電子性が向上し近傍の標的タンパク質と反応する,新たなラベル化試薬を開発した.

2)著者らの開発したラベル化試薬:SEAL

著者らは,図2で示したSEAlideを鍵骨格としたラベル化試薬を設計した(図3B14).以下,本ラベル化試薬試薬をSEAL(SEAlide-based labeling reagent)と呼ぶ.SEAlideは先に述べたとおり,酸塩基触媒を添加する前は安定である.これが標的タンパク質の表面に固定されると,タンパク質表面には親水性の酸性および塩基性官能基が多数存在することからタンパク質表面自体が酸塩基触媒として働き,SEAlide部分を活性化し求電子性を上昇させる.この結果,SEAL近傍にある求核性官能基と反応し,標的タンパク質が選択的にラベル化される.SEALは標的タンパク質非存在下では安定であり,標的タンパク質上に固定されて初めて反応可能になることから,従来法の課題を解決するものとなりうる.本稿では詳細についての説明は割愛するが,著者らはSEALを用いた細胞内での標的タンパク質選択的ラベル化に成功するとともに,加水分解や非標的求核剤との副反応を起こさないことをすでに実証している.

3)SEALを用いたタンパク質のリガンド結合部位解明

前項では,細胞内など夾雑物存在下での標的タンパク質選択的ラベル化について述べた.本項では話が変わり,リガンド志向型ラベル化試薬を利用したタンパク質のリガンド結合部位解明について,SEALを用いた実例を中心に紹介する.

リガンド志向型ラベル化ではその原理から推測できるとおり,ラベルはリガンド結合部位近傍に導入される11).事実,SEALによるラベル化でも同様の現象が確認された14).そこで著者らは,標的タンパク質上の未知リガンド結合部位解明にSEALを利用することとした15).本研究では,標的タンパク質として統合失調症に関わるヒトD-アミノ酸酸化酵素(hDAO)を,結合部位未知のリガンドとして原著論文共著者の福井らが見いだしたhDAO阻害剤である安息香酸誘導体を用いた.すなわち,リガンド部位に安息香酸誘導体を導入したSEALを開発し,これを用いたhDAOのラベル化を行った.この結果,2か所のリシンがラベル化された(図3C).一方は過去の類似化合物の知見から予測していたリガンド結合部位近傍であったが,他方はまったく予期しない位置であった.そこでドッキングシミュレーションを行ったところ,ラベル化されたリシン近傍の2か所ともにリガンドが結合しうることが示された.以上の結果から,SEALがリガンド結合部位解明に利用可能であることが示されるとともに,hDAOの新たなリガンド部位を明らかにすることに成功した.

4. おわりに

標的タンパク質精製およびラベル化試薬について,著者らの成果も含めて化学者の視点から概説した.化学者はさまざまな生命科学研究用ツールを開発することができるが,これらツールが生命科学者に使用されなければただの自己満足に終わる.また,使用した結果をフィードバックしていただくことは,さらに有用なツールの開発につながる.本稿が直接読者のお役に立つのみではなく,化学系研究者と共同研究をしてみたいと思うきっかけとなれば,望外の喜びである.

引用文献References

1) Cravatt, B.F., Wright, A.T., & Kozarich, J.W. (2008) Activity-Based Protein Profiling: From Enzyme Chemistry to Proteomic Chemistry. Annu. Rev. Biochem., 77, 383–414.

2) Shigenaga, A. (2019) Development of chemical biology tools focusing on peptide/amide bond cleavage reaction. Chem. Pharm. Bull., 67, 1171–1178.

3) Leriche, G., Chisholm, L., & Wagner, A. (2012) Cleavable linkers in chemical biology. Bioorg. Med. Chem., 20, 571–582.

4) Chen, Y. & Topp, E.M. (2019) Photolytic labeling and its applications in protein drug discovery and development. J. Pharm. Sci., 108, 791–797.

5) Hein, J.E. & Fokin, V.V. (2010) Copper-catalyzed azide-alkyne cycloaddition (CuAAC) and beyond: new reactivity of copper(I) acetylides. Chem. Soc. Rev., 39, 1302–1315.

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7) Morisaki, T., Denda, M., Yamamoto, J., Tsuji, D., Inokuma, T., Itoh, K., Shigenaga, A., & Otaka, A. (2016) An N-sulfanylethylanilide-based traceable linker for enrichment and selective labelling of target proteins. Chem. Commun. (Camb.), 52, 6911–6913.

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10) Lee, S., Wang, W., Lee, Y., & Sampson, N.S. (2015) Cyclic acetals as cleavable linkers for affinity capture. Org. Biomol. Chem., 13, 8445–8452.

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12) Tsukiji, S. & Hamachi, I. (2014) Ligand-directed tosyl chemistry for in situ native protein labeling and engineering in living systems: from basic properties to applications. Curr. Opin. Chem. Biol., 21, 136–143.

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14) Denda, M., Morisaki, T., Kohiki, T., Yamamoto, J., Sato, K., Sagawa, I., Inokuma, T., Sato, Y., Yamauchi, A., Shigenaga, A., et al. (2016) Labelling of endogenous target protein via N–S acyl transfer-mediated activation of N-sulfanylethylanilide. Org. Biomol. Chem., 14, 6244–6251.

15) Kohiki, T., Kato, Y., Nishikawa, Y., Yorita, K., Sagawa, I., Denda, M., Inokuma, T., Shigenaga, A., Fukui, K., & Otaka, A. (2017) Elucidation of inhibitor-binding pockets of D-amino acid oxidase using docking simulation and N-sulfanylethylanilide-based labeling technology. Org. Biomol. Chem., 15, 5289–5297.

著者紹介Author Profile

重永 章(しげなが あきら)

徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域講師.博士(薬学).

略歴

2004年徳島大学大学院薬学研究科修了.同年米国スクリプス研究所博士研究員,05年徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(薬学系)教務員,07年同助教,13年同講師を経て,15年より現職.この間,13~17年科学技術振興機構さきがけ研究者を兼任.

研究テーマ

化学を基盤とした生命科学研究用ツール分子の開発.人工アミノ酸を含むペプチド・タンパク質の合成と生命科学分野への展開.

抱負

化学者にとって面白く,生命科学者にとって意義のある研究をしたいです.

ウェブサイト

https://www.tokushima-u.ac.jp/ph/faculty/labo/otaka/

趣味

読書(特に広義のミステリ).

大高 章(おたか あきら)

徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域教授.薬学博士.

略歴

1984年京都大学薬学部卒業,89年同大学院薬学研究科博士後期課程修了,同年同薬学部助手,95年助教授を経て,2005年より現職.この間,13~17年徳島大学薬学部長,15~17年日本薬学会副会頭.

研究テーマ

ペプチド・タンパク質化学,医薬品科学.

抱負

化学の力で生命現象を解き明かすための研究,俗に言うケミカルバイロジー研究にタンパク質化学から取り組みたい.膜タンパク質の完全化学合成を達成したい.

ウェブサイト

https://www.tokushima-u.ac.jp/ph/faculty/labo/otaka/

趣味

読書,水泳.

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