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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(6): 810-814 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910810

みにれびゅうMini Review

アミノアシル転移RNAを標的とするトキシンの活性制御メカニズムRegulatory mechanism of the toxin targeting aminoacyl tRNA

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻RNA生物学分野Department of Computational Biology and Medical Sciences, Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒227–8562 千葉県柏市柏の葉5–1–5 生命棟702 ◇ Bldg. FSB-702, 5–1–5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba Prefecture 277–8562, Japan

発行日:2019年12月25日Published: December 25, 2019
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1. はじめに

細菌の保有するトキシン・アンチトキシン(toxin–antitoxin:TA)システムは,細菌が多種多様な環境下において生育・増殖するために必要なシステムである.通常,TAシステムはDNA上に近接してコードされたトキシンとアンチトキシン遺伝子対から構成される.タンパク質であるトキシンは,細菌の生存・増殖において重要な過程であるDNA複製,タンパク質合成,細胞壁合成などを阻害することにより,細菌自身の増殖を抑制・制御する.アンチトキシンはタンパク質またはRNAであり,トキシンの発現を抑制したり,トキシンの活性を阻害することによりトキシンの毒性を中和する1, 2)

TAシステムはアンチトキシンの特性により6種類(Type I~VI)に分類され,その中でType IIに分類されるTAシステムは,タンパク質であるアンチトキシンが,タンパク質-タンパク質間相互作用を通してトキシンの活性を抑制する.通常の環境下にある細菌では,トキシンはアンチトキシンとの結合によりその活性が抑制されている.細菌が栄養飢餓,抗生物質曝露などの環境ストレスに遭遇すると,細菌内においてアンチトキシンがタンパク質分解酵素による分解を受ける.結果,トキシンはアンチトキシンによる活性抑制から解除されて活性化され,細菌は自身の増殖を抑制する.

近年,GNAT(Gcn5-related N-acetyltransferase)ファミリーに属するアセチル基転移酵素が,新規のType IIトキシンとして報告された.これらのトキシンは,アセチルCoA(acetyl-CoA)をアセチル基供与体とし,アミノアシルtRNAのアミノアシル部位のα位のアミノ基をアセチル化する(図1).ヒトに対して感染性食中毒を引き起こすサルモネラ菌(Salmonella Typhimurium)において見つかったGNATファミリーに属するTacTは,グリシンやロイシン,セリンなどのアミノアシルtRNAをアセチル化することにより翻訳の伸長過程を抑制し,マクロファージ内部でのサルモネラ菌の生存に関与する3, 4).また,大腸菌HS株において見いだされたGNATファミリーに属するItaTは,イソロイシルtRNAIleを標的とする5).一方で,腸管出血性大腸菌O157:H7株のトキシン,AtaTは開始メチオニルtRNAfMetをアセチル化して,IF2(Initiation Factor 2)との相互作用を阻害することで翻訳の開始過程を阻害する6).また,赤痢菌(Shigella sonnei)や肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)においても,GNATファミリーに属する同様なトキシンが同定されている7, 8).興味深いことに,これらのトキシンは共通の化学反応を触媒するが,アミノアシルtRNAに対する特異性が多様である.これらのトキシンがアミノアシルtRNAを特異的に認識する分子機構や,アンチトキシンがトキシンの活性,毒性を抑制・制御する分子機構はこれまで明らかにされていない.

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図1 Type II GNATファミリーに属するトキシンの作用機序

このトキシンはアセチルCoAをアセチル基供与体として,アミノアシルtRNAのアミノアシル部位のα位のアミノ基をアセチル化する反応を触媒する.その結果,翻訳過程が阻害される.

筆者らは,最近,腸管出血性大腸菌O157:H7のAtaT(トキシン)とAtaR(アンチトキシン)からなるAtaT–AtaR複合体のX線結晶構造解析を行い,AtaRがAtaTの活性を阻害・制御する分子機構やAtaT, AtaRの発現を転写レベルで制御する分子機構を明らかにした9)

2. AtaT–AtaR複合体はヘテロ六量体AtaT–(AtaR)4–AtaTを形成

筆者らは,AtaT(トキシン)–AtaR(アンチトキシン)複合体のX線結晶構造解析を行い,その構造を2.8 Åの分解能で決定した.構造解析の結果,AtaT–AtaR複合体は,2分子のAtaTと4分子のAtaRからなるヘテロ六量体AtaT–(AtaR)4–AtaTであることが明らかになった(図2A).複合体中の四つのAtaR分子は,2分子ずつが対になって,V字形の二量体を二つ形成しており,V字の先端であるC末端領域はAtaT分子に巻きつくように結合していた.AtaT分子は,ゲルろ過により測定した分子量やX線結晶構造解析から,ホモ二量体を形成することが示されていたが,AtaT–(AtaR)4–AtaT中の二つのAtaT分子は,空間的に離れて存在していた.このことから,AtaRがAtaTと複合体を形成することによりAtaTの二量体形成が阻害されていることが推測された.

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図2 AtaT–AtaR複合体の構造

(A) AtaT–(AtaR)4–AtaTの全体構造(PDBID:6AJM, 6AJN).AtaT(緑,水色)とAtaR(オレンジ,白,青,黄色)は2分子のAtaTと4分子のAtaRからなるヘテロ六量体を形成する.2分子のアセチルCoA(黒,スティック表示)がそれぞれAtaTと結合している.(B) AtaT–(AtaR)4–AtaT中のAtaRの構造.N末端領域が二量体を形成することにより,RHH DNA結合ドメイン構造をとっている.(C) AtaT–(AtaR)4–AtaT中のAtaTの構造と,AtaT単体(PDBID:6GTP)およびサルモネラ菌のTacT(PDBID:5FVJ)の構造との比較.アセチルCoAがスティック表示で示されている.

一般にType IIのアンチトキシンはN末端領域にDNA結合ドメインを持ち,C末端領域はトキシンと結合して,トキシンの活性および毒性を抑制する機能を担っていることが知られている10).このことは,AtaT–(AtaR)4–AtaT中のAtaRアンチトキシン分子においても同様に観察された.AtaRのN末端領域は,N末端のβシート(β1)とそれに続く二つのαヘリックス(α1とα2)が結び合って二量体を形成することにより,RHH(ribbon helix helix)と呼ばれるDNA結合ドメイン構造を形成していた(図2B).一方で,AtaRのC末端領域の二つのαヘックス(α3とα4)はAtaTの活性阻害に必須であり,AtaT–(AtaR)4–AtaT中においてAtaTと結合をしていた.なお,AtaTとAtaRの分子間相互作用は,そのほとんどが疎水的相互作用であった.AtaT–(AtaR)4–AtaT中の二つのAtaT分子は,サルモネラ菌のTacTや,他のGNATトキシンと同様に,一般的なGNATフォールドをとっていた(図2C).また,二量体を形成しているAtaT単体の構造11)と比較すると,α3とα4の間の領域の構造に変化がみられた.この領域はAtaTの二量体形成に関与する部分であるとともに,塩基性残基を複数含んでおり,基質tRNAとの結合にも関与すると推測される部分である.

また,AtaT–(AtaR)4–AtaTとアセチルCoAとの複合体構造では,複合体中の二つのAtaT分子がそれぞれアセチルCoA分子と相互作用しているようすが観察された(図2A).α2のN末端部分では,GNATファミリーにおいて高度に保存されたモチーフ,Gln/Arg-X-X-Gly-X-Gly/Alaが,アセチルCoAの二リン酸およびパントテン酸部分との相互作用を担っていた.また,複合体中のAtaTと単体のAtaTの結晶構造を比較すると,アセチルCoAのアデノシン塩基部分においては向きに違いがみられたが,反応に関与するアセチル基部分を含めた残りの部分は,同様の配向で配置されていた(図2C).これらのことから,AtaT–(AtaR)4–AtaT複合体においては,AtaTとアセチルCoAの相互作用がAtaRにより阻害されていないことが明らかになった.

3. AtaTの基質tRNA認識にはAtaT二量体形成が必須

AtaTは溶液中や結晶中で二量体として観察されたことから,その酵素活性に二量体形成が必須であることが推測された.AtaT二量体の結晶構造において,表面静電ポテンシャルを観察すると,アセチルCoA結合部位へ向かって,正電荷表面が二量体の境界をまたがって分布していた(図3A).これに基づき,筆者らはAtaT二量体へのtRNAの結合モデルを作成した.このモデルでは,AtaT二量体に二つのtRNAが結合し,それぞれのtRNAはアクセプターステムの先端を介してAtaTと相互作用している(図3B).また,一つのtRNA分子はAtaT二量体中の双方の分子とも相互作用し,AtaTの二量体形成がtRNA結合に必要であることが示唆された.ごく最近,筆者らはAtaTとアセチル化された開始メチオニルtRNAfMet(acMet–tRNAfMet)との複合体のX線結晶構造解析に成功し,図3Bで示したように二量体AtaTにtRNA分子が2分子結合していることを明らかしている.さらに,AtaTの二量体会合面に変異を導入し,二量体を形成できないAtaT変異体を作製すると,この変異体ではメチオニルtRNAfMetに対するアセチル化活性が失われること,かつ,この変異体は大腸菌の生育阻害活性をも失っていることを明らかにしている.これらの結果から,AtaTの二量体化は基質のメチオニルtRNAfMetの結合および,基質のアセチル化に必須であること,そして,AtaR(アンチトキシン)はAtaT(トキシン)と結合してAtaTの二量体形成を阻害することにより,AtaTの活性を制御していることが明らかになった.

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図3 AtaTの二量体形成はAtaTの酵素活性に必須

(A)左:AtaT二量体の構造(PDBID:6GTP),アセチルCoAがスティック表示で示されている.右:AtaT二量体の表面静電ポテンシャル.アセチルCoA結合部位へ向かって,正電荷表面が二量体の境界をまたいで分布している.(B) AtaTのtRNA結合モデル.(C) AtaRによるAtaT不活性化のメカニズムと,AtaT–AtaR複合体による,TAオペロンの転写制御機構.AtaT–(AtaR)4–AtaT構造はTAオペロンの転写を抑制する.

4. AtaT–AtaR複合体によるTAオペロン転写制御

筆者らが今回報告した,AtaT–(AtaR)4–AtaT複合体結晶構造は,AtaR(アンチトキシン)が二量体で活性を持つAtaT(トキシン)の二量体化を阻害することにより,AtaTの活性を抑制するといったユニークな分子機構を示した.これまでに報告されてきたType IIアンチトキシンの作用機構は,アンチトキシンがトキシンの活性部位や基質の結合部位を覆ったり,トキシンの構造を不活性型に固定したりするものであった.今回,AtaT–AtaRのシステムにみられた,トキシンの二量体形成阻害による不活性化は,Type IIアンチトキシンにおける新規のメカニズムであるといえる.

今回のAtaT–(AtaR)4–AtaT複合体の立体構造は,TA複合体がTAオペロンの転写を抑制する際のDNA結合型構造を示していると考えられる(図3C).Type II TAシステムのTA複合体は,アンチトキシンのDNA結合部位を介して,TAオペロンの上流に結合し,TA自身の転写を自己調節することが知られている.AtaT–(AtaR)4–AtaTにおいて,AtaR二量体により形成されたRHH DNA結合ドメインは,さらに2分子のAtaTを介することにより,二つの二量体からなる四量体を形成している.この四量体構造は,RHH DNA結合ドメインを持つタンパク質が二つの二量体で協調的にDNAと結合する際の構造とよく一致している9, 12).実際に,AtaT–(AtaR)4–AtaTがAtaR–AtaTオペロンの上流に存在するパリンドローム配列に結合し,TAオペロンの転写を制御することが最近明らかにされている11)

一般的に,Type II TAオペロンは,翻訳段階において過剰量のアンチトキシンを発現するため,通常状態では,AtaT:AtaR=1:2の複合体AtaT–(AtaR)4–AtaTが形成され,オペロンの転写が抑制される.また,アンチトキシンは不安定なタンパク質であり,AtaRがプロテアーゼによる分解を受けて不足すると,AtaT–(AtaR)4–AtaTの形成ができず,再びオペロンの転写が開始する.このように,細菌内のトキシンとアンチトキシンの発現分子数比に応じた,協調的なTAオペロン転写制御をAtaR–AtaT複合体が行っていることが示唆される.

5. おわりに

Type II TAシステムは細菌において広く見いだされ,ストレス環境下において細菌が生存し続けるために獲得したシステムであり,ストレス環境下ではアンチトキシンの分解によりトキシンが活性化され,結果として細菌の休眠・活動休止(dormancy)や,抗生物質曝露時の細菌の抗生物質耐性獲得(persister/drug tolerance)などが生じる.病原性細菌のこれらの性質は,生体内においてマクロファージ等による殺菌を回避し,これらの細菌による感染症に対する薬剤が効かなくなるなどの社会的問題が生じている.したがって,腸管出血性大腸菌,サルモネラ菌,赤痢菌などの病原性細菌にみられるアミノアシルtRNAを標的とするGNATトキシンが,どのような分子機構によりアミノアシルtRNAを特異的に認識し,多様な翻訳制御の戦略を実現してきたかを明らかにすることは,病原性細菌の休止状態や薬剤耐性獲得を阻害する新たな薬剤の開発への技術的基盤を提供すると期待できる.

引用文献References

1) Harms, A., Brodersen, D.E., Mitarai, N., & Gerdes, K. (2018) Toxins, targets, and triggers: An overview of toxin–antitoxin biology. Mol. Cell, 70, 768–784.

2) Page, R. & Peti, W. (2016) Toxin–antitoxin systems in bacterial growth arrest and persistence. Nat. Chem. Biol., 12, 208–214.

3) Cheverton, A.M., Gollan, B., Przydacz, M., Wong, C.T., Mylona, A., Hare, S.A., & Helaine, S. (2016) A salmonella toxin promotes persister formation through acetylation of tRNA. Mol. Cell, 63, 86–96.

4) Rycroft, J.A., Gollan, B., Grabe, G.J., Hall, A., Cheverton, A.M., Larrouy-Maumus, G., Hare, S.A., & Helaine, S. (2018) Activity of acetyltransferase toxins involved in Salmonella persister formation during macrophage infection. Nat. Commun., 9, 11.

5) Wilcox, B., Osterman, I., Serebryakova, M., Lukyanov, D., Komarova, E., Gollan, B., Morozova, N., Wolf, Y.I., Makarova, K.S., Helaine, S., et al. (2018) Escherichia coli ItaT is a type II toxin that inhibits translation by acetylating isoleucyl-tRNAIle. Nucleic Acids Res., 46, 7873–7885.

6) Jurenas, D., Chatterjee, S., Konijnenberg, A., Sobott, F., Droogmans, L., Garcia-Pino, A., & Van Melderen, L. (2017) AtaT blocks translation initiation by N-acetylation of the initiator tRNA (fMet). Nat. Chem. Biol., 13, 640–646.

7) McVicker, G. & Tang, C.M. (2017) Deletion of toxin–antitoxin systems in the evolution of Shigella sonnei as a host-adapted pathogen. Nat. Microbiol., 2, 8.

8) Qian, H.L., Yao, Q.Q., Tai, C., Deng, Z.X., Gan, J.H., & Ou, H.Y. (2018) Identification and characterization of acetyltransferase-type toxin–antitoxin locus in Klebsiella pneumoniae. Mol. Microbiol., 108, 336–349.

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10) Chan, W.T., Espinosa, M., & Yeo, C.C. (2016) Keeping the wolves at bay: Antitoxins of prokaryotic type II toxin–antitoxin systems. Front. Mol. Biosci., 3, 9.

11) Jurenas, D., Van Melderen, L., & Garcia-Pino, A. (2019) Mechanism of regulation and neutralization of the AtaR–AtaT toxin–antitoxin system. Nat. Chem. Biol., 15, 285–294.

12) Raumann, B.E., Rould, M.A., Pabo, C.O., & Sauer, R.T. (1994) DNA recognition by beta-sheets in the arc repressor–operator crystal-structure. Nature, 367, 754–757.

著者紹介Author Profile

八代 悠歌(やしろ ゆうか)

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻特任研究員.修士(工学).

略歴

2012年東京大学工学部卒業,17年同大学院工学系研究科博士課程単位取得満期退学,同年より現職.

研究テーマと抱負

アミノアシルtRNAを標的とするトキシンの分子機構の解明に取り組んでいる.RNAの配列や高次構造によるRNAの運命制御,またその過程におけるタンパク質分子の作用機構に興味がある.

ウェブサイト

http://www.park.itc.u-tokyo.ac.jp/rnabiology/

富田 耕造(とみた こうぞう)

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻教授.博士(工学).

略歴

1993年東京大学工学部卒業,98年同大学院工学系研究科博士修了,IBMP du CNRS(ストラスブール,仏),Yale大学(ニューヘーブン,米),Washington大学(シアトル,米),産業技術総合研究所などを経て2016年から現職.

研究テーマと抱負

RNAの関わる生命現象を分子レベルで理解することに興味があります.具体的にはヒトにおける機能性RNAの合成や代謝,分解の分子基盤やRNAを標的とするバクテリアのトキシンなどの作用機序の分子基盤解明.

ウェブサイト

http://www.park.itc.u-tokyo.ac.jp/rnabiology/

趣味

研究室での観葉植物栽培,(最近は)カブトムシ飼育.

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