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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(1): 7-13 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920007

特集Special Review

ユビキチン鎖の鎖長に依存した物性と分解Chain-length dependent physical properties and degradation of ubiquitin chains

1京都大学大学院工学研究科分子工学専攻Department of Molecular Engineering, Graduate School of Engineering, Kyoto University ◇ 〒615–8510 京都府京都市西京区京都大学桂 ◇ Kyoto University Katsura, Nishikyo-ku, Kyoto, 615–8510, Japan

2量子科学技術研究開発機構量子生命科学領域領域研究統括Scientific Director General, Institute for Quantum Life Science, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology ◇ 〒263–8555 千葉県稲毛区穴川4–9–1 ◇ 4–9–1 Anagawa, Inage-ku, Chiba, 263–8555, Japan

発行日:2020年2月25日Published: February 25, 2020
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ユビキチン修飾の最大の特徴は鎖を形成することである.細胞内ではさまざまな種類,さまざまな長さの鎖が存在するが,長い鎖の生物学的意義はよくわかっていない.鎖の長さの謎に迫るべく,本研究は長さの異なるポリユビキチン鎖の物性を調べたところ,ポリユビキチン鎖は鎖長依存的に構造不安定化し,アミロイド線維形成能を獲得することがわかった.また,細胞内においても鎖長依存的な凝集体形成を観察でき,形成される凝集体は蓄積し続けるのではなく,選択的オートファジーにより分解されることがわかった.したがって,長いポリユビキチン鎖は単なるユビキチン合成酵素の過剰反応物ではなく,凝集体形成能を獲得した分解誘導因子である可能性がある.

1. はじめに

ユビキチンは,他のタンパク質に共有結合し,タンパク質分解をはじめ,免疫応答やDNA修復といった幅広い生命現象に関わる1).最も特徴的な点はユビキチンがいくつも重合し,ポリユビキチン鎖を形成することである.現在,8種類のポリユビキチン鎖(M1, K6, K11, K27, K29, K33, K48, K63結合型)が同定されている1).細胞内では,各結合型のポリユビキチン鎖を合成するE1–E2–E3ユビキチン化酵素群が大量に存在しており,細胞内各所で起こるユビキチン化反応に迅速に対応できる.一方,細胞内には脱ユビキチン化酵素(deubiquitinating enzyme:DUB)も豊富に存在しており,合成されたユビキチン鎖はモノユビキチンまで即座に切断される2).このように細胞内ではユビキチン鎖の合成反応と切断反応が拮抗することにより,細胞内タンパク質上に形成されるユビキチン鎖はさまざまな長さを持ち,4鎖長以上の長鎖のポリユビキチン鎖も存在する.近年,分岐鎖や混合鎖といった,一つの結合型ではなく複数の結合型から構成されるユビキチン鎖が発見されており3–8),より鎖長が長く複雑なポリユビキチン鎖の生物学的機能に注目が集まっている.

では,細胞内では長いポリユビキチン鎖は機能上の役割があるのであろうか.Throwerらは,試験管内の実験でK48結合型のポリユビキチン鎖は4鎖長以上がプロテアソームとより強く相互作用することを見いだしている9).一方,X線結晶構造解析や核磁気共鳴法(NMR)で決定された複合体構造からわかることは,各結合型のポリユビキチン鎖の認識は2鎖長で十分であり,必ずしも長い鎖が必要でないことである1).では,長い鎖の存在意義はプロテアソームとの相互作用を高める機能だけなのだろうか.もしくは単なる細胞内の酵素反応の過剰反応の産物なのだろうか.しかし,どのユビキチン鎖の合成にも細胞内のエネルギー源であるATPが大量に消費される.単なる過剰反応物であれば,細胞はむだなエネルギーを消費してしまっていることになる.

2. 鎖長依存的な構造不安定化

そこで筆者らははじめ,長鎖のポリユビキチン鎖に構造学的な特徴があるのではないかと考え,M1結合型ポリユビキチン鎖の2鎖長から6鎖長までを大腸菌大量発現系で調製することを試みた.しかし,想定外にすべてのポリユビキチン鎖の調製に失敗してしまった.その原因は後にわかることになるのだが,筆者らはモノユビキチンのタンパク質調製方法をそのままポリユビキチン鎖に踏襲してしまっており,pH 4.5の酸性緩衝液中,85°Cで15分間インキュベートし夾雑タンパク質を選択的に沈殿させる精製ステップがポリユビキチン鎖の精製には問題であった.この失敗から,筆者らはポリユビキチン鎖にはモノユビキチンとは明らかに異なる物性があると考え,構造学的な特徴のみではなく,他の物理化学的な特徴も調べることにした.

まず,熱的なタンパク質の構造安定性が変化していることが示唆されたため,タンパク質の熱安定性を定量的に評価できる示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry:DSC)により,3種類のポリユビキチン(M1, K48, K63結合型)の2鎖長から6鎖長の熱力学的安定性を調べた10).興味深いことに,ポリユビキチン鎖は鎖長に依存して,熱力学的に構造不安定化することがわかった(図1a).ただし,結合型には大きく依存せず,3種類すべてのユビキチン鎖で鎖長依存的な熱的不安定化が観察された(図1b).一般的には,独立した立体構造を有するタンパク質のポリマーは,その重合度が増えるに従い,分子内で新たな静電相互作用や疎水性相互作用が生じるため,熱変性点が上昇することが知られている11).したがって,この鎖長依存的な構造不安定化はユビキチンのポリマー,ポリユビキチン鎖に特有の現象だと考えられる.

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図1 鎖長依存的な熱力学的構造不安定化

(a)M1結合型ポリユビキチン鎖の熱変性曲線.(b)熱変性曲線における転移温度とポリユビキチン鎖の鎖長の相関.四角:K48結合型,三角:K63結合型,白丸:M1結合型ポリユビキチン鎖.黒丸:モノユビキチン.文献10により一部改変.

3. ユビキチン化による基質タンパク質の構造不安定化

なぜ,ポリユビキチン鎖はモノユビキチンに比べ構造安定性が低下したのだろうか.この原因の一つに,ユビキチンどうしが共有結合で連結し,それぞれの運動性を制限し,分子形状や分子運動などの物理化学的性質に影響を与えることが考えられる.では,ユビキチン化タンパク質ではどうだろうか.細胞内では,ユビキチンはユビキチンどうしだけではなく,他のタンパク質に共有結合しているため,基質となるタンパク質も構造不安定化するのではないだろうか.事実,ユビキチン(8.6 kDa)は,リン酸基(97 Da)やアセチル基(43 Da)などの他の翻訳後修飾因子に比べ,分子量がきわめて大きく,基質タンパク質の構造安定性に影響を与えかねない.近年の分子動力学(molecular dynamics:MD)シミュレーションの研究で,ユビキチン化は基質タンパク質の構造安定性を低下させる可能性があると報告されている12).そこで筆者らは,実験的にユビキチン化の構造安定性への影響を検証した.基質タンパク質として,FK506-binding protein(FKBP12)とfatty acid binding protein 4(FABP4)を選び,トリプトファン蛍光測定により熱力学的な構造安定性を調べた13)

予想どおり,モノユビキチン化によりFKBP12もFABP4も構造不安定化することがわかった(図2a).興味深いことに,ポリユビキチン化(ヘキサユビキチン結合)により基質タンパク質の構造安定性は,モノユビキチン化に比べ,より低下していた(図2a).また,構造不安定化の程度は,ユビキチン化サイトの二次構造に依存性があり,β構造を形成している部位のユビキチン化は比較的大きい構造不安定化を引き起こすが,αヘリックスを形成している部位のユビキチン化は構造安定性にほとんど影響がなかった(図2b).

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図2 ユビキチン化による基質タンパク質の構造不安定化

(a)ユビキチン化タンパク質の熱変性転移温度の比較.(b)ジスルフィド結合を利用して作製したユビキチン化タンパク質の熱変性転移温度の比較.***p<0.001, **p<0.01, *p<0.05, NSは有意差なし.FKBP12のK36, K48はβシート,K53はループ内にある.FABP4のK32はαヘリックス,K80はβシート,K121はループ内にある.(c)C53でモノユビキチン化させたFKBP12の15N緩和分散プロファイル.黒がFKBP12のみで,赤がユビキチン化FKBP12. Ub:ユビキチン.下図にユビキチン化部位(C53)ならびに15N緩和分散が観察されたアミノ酸をFKBP12の構造上に示した.文献13により一部改変.

次に,ユビキチン化による構造不安定化のメカニズムを解明すべく,溶液NMR法により,立体構造ならびにダイナミクスを調べた.1H–15N相関スペクトルを測定したところ,ユビキチン化によって基質タンパク質の主鎖の化学シフト変化に顕著な差異は観察されず,立体構造は大きく変化していないことが示された.一方,マイクロ秒からミリ秒における主鎖の構造揺らぎを観測できる15N緩和分散実験を行った結果,ユビキチン化によって基質タンパク質はマイクロ秒からミリ秒において構造的に揺らいでいることがわかった(図2c).これらの結果より,ユビキチン化は基質タンパク質の静的構造に大きな影響を及ぼさない一方,マイクロ秒からミリ秒の範囲のダイナミクスを変化させ,熱力学的不安化をもたらすと考えられる.

4. ポリユビキチン鎖のアミロイド線維化

ユビキチンは連結することにより,鎖長依存的に構造安定性を低下させた.さらに,ポリユビキチン鎖は単量体とは異なる物性を獲得していた.それがタンパク質線維形成能である.熱変性により,ポリユビキチン鎖は100 nm程度のタンパク質線維を形成することがわかった(図3a).また,撹拌などの微弱な流体力学的刺激を与えても同様のタンパク質線維を形成し,鎖長ならびに種類に依存して異なる線維形成速度が観察された(図3b).熱変性温度が低くなるに従って,線維形成速度が増加しており,この結果は過去の報告にある,熱力学的安定性の低下は線維形成能が上昇するという実験結果に合致する14, 15).注目すべき点は,モノユビキチンはこれらの熱や流体力学的な刺激により線維を形成しない点である.

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図3 ポリユビキチン鎖のアミロイド線維形成

(a)熱変性M1結合型ヘキサユビキチンの透過型電子顕微鏡像.(b)撹拌によるポリユビキチン鎖のアミロイド線維形成のプロファイル.(c)熱変性前後のヘキサユビキチンならびにアミロイドβ(1–40)線維の円二色性スペクトル.(d)熱変性モノユビキチンならびに熱変性ヘキサユビキチンのチオフラビン-T蛍光スペクトル.文献10により一部改変.

さらに,円二色性解析とチオフラビン-T蛍光解析によって,ポリユビキチン鎖が形成する線維はβ構造が連続した規則的な構造を有するアミロイド線維であることがわかった(図3cと3d).アミロイド線維はアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患やアミロイドーシス患者の病変部位に沈着しており,疾患発症や病状進行に関与している16).元来,ユビキチンは神経変性疾患で見つかる異常タンパク質凝集体(封入体)中に含まれていることがユビキチン抗体による免疫染色の実験によって示されている17).モノユビキチンは物理的・化学的に安定で可溶性が高いタンパク質であるため,ユビキチンが凝集体に含まれていることは長年の謎であった.ポリユビキチン鎖の鎖長依存的な構造不安定化とアミロイド線維形成能はユビキチン陽性のタンパク質凝集体形成を説明する一つの要因になるのではないかと考えられる.

5. ポリユビキチン線維の形成機序

どのようにしてポリユビキチン鎖は線維を形成するのか知るために,撹拌でポリユビキチン鎖が線維を形成することに着目し,筆者らは撹拌しながら原子分解能の構造情報を取得できるバイオレオロジーNMR法を新たに開発した18).バイオレオロジーNMR法は,NMR管(外管)の中心にガラス棒(内管)を挿入し,外管を回転させることで,静止した内管にはさまれた空間の溶液を撹拌するものである.この手法により,M1結合型のヘキサユビキチン(6鎖長のポリユビキチン鎖)を35 Hz(平均剪断速度680 s−1)の回転数で撹拌したところ,白色沈殿ができ,透過型電子顕微鏡(TEM)で観察するとタンパク質線維が形成されていることがわかった(図4a).さらに,チオフラビン-T蛍光解析によりアミロイド線維であることがわかった(図4b).線維形成中にタンパク質の側鎖の化学的環境の変化を調べることのできる1H–13C相関スペクトルを連続的に測定したところ,多くの部分では変化が観察されず,ポリユビキチン鎖が線維を形成する際,大きな構造変化が起こっていないことが示された.ポリユビキチン線維や,神経変性疾患で見つかる細胞内ユビキチン陽性タンパク質凝集体は,一般的なユビキチン抗体で染色できることから17),ポリユビキチン鎖が形成する凝集体内のユビキチンは天然状態の静的構造から大きく変化していないことが示唆される.一方,プロリン側鎖やリシン側鎖などの二次構造要素をつなぐ比較的柔軟な領域で化学シフト変化が検出された(図4c).この結果は,線維形成に伴って構造的に柔軟な領域にあるアミノ酸側鎖が互いに相互作用し,β構造が連続した規則的な構造を形成することを示唆する.特に,プロリン残基のシス–トランス異性化がアミロイド線維形成において重要な役割を担っていることが報告されているため19),ポリユビキチン鎖のアミロイド線維形成においても,プロリン残基のシス–トランス異性化が深く関わっていることが考えられる.

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図4 バイオレオロジーNMR法によるポリユビキチン線維形成過程の構造解析

(a)撹拌後のM1結合型ヘキサユビキチン凝集体の透過型電子顕微鏡像.(b)撹拌前後のヘキサユビキチンのチオフラビン-T蛍光スペクトル変化.(c)撹拌前後での1H–13C相関スペクトル変化(上).変化のあったアミノ酸をモノユビキチンの構造上にマッピングした(下).文献18により一部改変.

6. 細胞内におけるポリユビキチン鎖の凝集体形成と分解

さらに,筆者らは試験管で観察したポリユビキチン鎖の鎖長依存的な凝集体形成が細胞内でも観測できるのか検証した.蛍光タンパク質EGFPをC末端に結合させたモノユビキチンあるいはポリユビキチン鎖(ヘキサユビキチン)をマウス胎仔線維芽細胞(MEF)内で過剰発現させ,凝集体を形成するか調べた.モノユビキチンを発現させた細胞では顕著な凝集体は確認できず,細胞質にほぼ一様に分布していることがわかった(図5a).一方,ポリユビキチン鎖を発現させた細胞では,細胞質内で2 µm程度の凝集体の形成が観察された10).これらの結果は,試験管内で観察したポリユビキチン鎖の熱力学的な構造不安定化が,細胞内でも引き起こされていることを示唆する.加えて,ポリユビキチン凝集体には選択的オートファジー(アグリファジー)に関連するタンパク質p62(およびリン酸化p62)とLC3が共局在していることがわかった(図5a).したがって,細胞質内で形成されたポリユビキチン凝集体は選択的オートファジーによって分解される可能性がある.

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図5 細胞内ポリユビキチン凝集体の選択的オートファジーによる分解

(a)C末端にEGFPを結合させたモノユビキチン(上段)とヘキサユビキチン(下段)を過剰発現させたマウス胎仔線維芽細胞(MEF).上部に免疫染色で用いた抗体を示す.(b)ドキシサイクリン存在下で24時間ヘキサユビキチンを過剰発現させたMEF細胞と,その後24時間ドキシサイクリン非存在下で培養したMEF細胞の細胞抽出液のウェスタンブロッティング.左に用いた抗体を示す.MEF細胞は野生型(Atg7+/+)とオートファジー不全MEF細胞(Atg7−/−)を用いた.(c)オートファジー不全MEF細胞内に野生型Atg7または不活性変異体Atg7 C567Sを発現させた条件下でヘキサユビキチンを一過的に過剰発現させた細胞の細胞抽出液のウェスタンブロッティング.(b)と同様にドキシサイクリン存在下でヘキサユビキチンを発現させ,その後ドキシサイクリン非存在下で培養した.左に用いた抗体を示す.文献10により一部改変.

そこで,その可能性を検証するため,まず,野生型MEF細胞内で一過的に(ドキシサイクリン依存的に)ポリユビキチン鎖(ヘキサユビキチンEGFP)を発現させ,細胞質内に凝集体を形成させた.その後,細胞をドキシサイクリン非存在下で培養することで,ポリユビキチン鎖の発現を抑制した条件にし,ポリユビキチン鎖凝集体の存在量を追跡した.すると,24時間ほどでほぼすべてのポリユビキチン凝集体は分解されることがわかった(図5b).また,アグリファジーで観察されるp62ならびにリン酸化p62の分解も観察できた20)図5b).一方,オートファジー機能を不全にしたMEF細胞内(Atg7−/−)で同様の実験を行うと,野生型とは対照的にポリユビキチン凝集体はほとんど分解されず,p62ならびにリン酸化p62の分解もみられなかった(図5b).また,オートファジー機能不全細胞内でAtg7野生型を発現した場合,ポリユビキチン凝集体は野生型MEF細胞内と同様に分解されるが,不活性変異体Atg7 C567S21)を発現した場合は,凝集体は細胞内に蓄積したままであった(図5c).これらの結果は,細胞内ポリユビキチン凝集体がオートファジーにより特異的に分解されることを示す.これはオートファジー関連タンパク質がこれらの凝集体(固体もしくは相分離体)を識別している可能性を示唆し,構造生物学的観点からも興味深い結果である.

7. おわりに

ユビキチンは1978年にエネルギー依存的タンパク質分解への関与が報告されて以来,広範で多様な生物学的役割が明らかにされてきた.一つのタンパク質がここまで多様な機能をつかさどることは稀有であろう.そこで重要になるユビキチンの特徴が,その形態をさまざまに変えることである.多種類のポリマー形成,リン酸化22–24),アセチル化25)といった,本来モノユビキチンでは発揮されない機能を形態変化によって獲得することができる.

そして,本研究で示したように,ユビキチンは鎖を長くすることによって線維形成能を獲得し,分解すべき基質を凝集体として隔離し(細胞毒性の低い固相に落とし),選択的オートファジーによって一括に分解するという機能があるのかもしれない.老化やストレスに伴い,オートファジー活性が低下することが報告されており26, 27),その場合,凝集体は分解されず細胞内に蓄積し始めてしまう.特に,神経細胞においては,この凝集体蓄積は細胞の機能不全や細胞死に直結してしまうのかもしれない.本研究で明らかにしたポリユビキチン鎖の鎖長依存的な物性は,神経変性疾患におけるユビキチン陽性封入体の形成を理解する上で重要な証拠であり,今後,ポリユビキチン凝集体の形成機構,凝集体と疾患との関係の解明が期待される.

謝辞Acknowledgments

本研究を遂行するにあたり,研究助成を賜りました日本学術振興会,公益財団法人上原記念生命科学財団,公益財団法人島津科学技術振興財団,公益財団法人みずほ学術振興財団,公益財団法人服部報公会,公益財団法人豊田理化学研究所,そして京都大学ジョン万プログラムに心より感謝申し上げます.また,ご協力いただきました数多くの共同研究者の先生方に深く感謝いたします.

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著者紹介Author Profile

森本 大智(もりもと だいち)

京都大学大学院工学研究科助教.博士(工学).

略歴

2009年京都大学工学部卒業.14年同大学院工学研究科分子工学専攻博士後期課程認定退学.同年京都大学大学院工学研究科助教.15年京都大学大学院工学研究科分子工学専攻博士(工学)取得.

研究テーマと抱負

タンパク質の物性や構造的特徴からユビキチンが関わるバイオロジーを研究しています.特に神経変性疾患に関わる異常なタンパク質凝集体形成に関わるバイオロジーに興味があります.

ウェブサイト

http://www.moleng.kyoto-u.ac.jp/~moleng_01/

趣味

ランニング,ガーデニング.

白川 昌宏(しらかわ まさひろ)

京都大学大学院工学研究科教授.量子科学技術研究開発機構量子生命科学領域領域研究統括.博士(理学).

略歴

1983年大阪大学理学部化学科卒業.88年同大学院理学研究科後期課程生物化学専攻修了.89年大阪大学蛋白質研究所助手.95年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科助教授.2001年横浜市立大学大学院総合理学研究科教授.05年より現職.

研究テーマと抱負

核磁気共鳴法やX線結晶解析法等を用い,遺伝子の転写調節,遺伝子修復,エピジェネティックス制御を担うタンパク質・核酸等を対象に構造生物学・分子生物学や,手法の開発研究に従事してきた.現在は光検出磁気共鳴法を用いた量子センシングによる単粒子計測法を開発している.

ウェブサイト

http://www.moleng.kyoto-u.ac.jp/~moleng_01/

趣味

読書,音楽鑑賞

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